メインフェイズ第三サイクル第三シーン

シーンプレイヤー:静寂ヶ原志筑

GM
黄昏時よりも少し前。
GM
まだ太陽が沈むには早く、世界は明るいまま。
GM
「ふーこ、またねー」
GM
「また明日!」
GM
自転車に乗った韴子のクラスメイトが韴子を追い抜きながら、
天之 韴子
「うん、また明日っ」
GM
ひらひらと手のひらを振って帰り道をゆく。
天之 韴子
世界へと手を振る。
GM
彼女らは去っていく。
GM
自らの帰るべき場所へと。
静寂ヶ原 志筑
そして、校門を過ぎていく人の中から。
静寂ヶ原 志筑
「ん」
静寂ヶ原 志筑
韴子の少しだけ後ろから。
静寂ヶ原 志筑
「おつかれ」
天之 韴子
「ん、おつかれ」
静寂ヶ原 志筑
いつも一緒というわけではないし、忍務に直行するとき以外、待ち合わせることもほとんどない。
静寂ヶ原 志筑
そうして忍務に直行するときには、大概、黙雷かいよかが目付に来る。
静寂ヶ原 志筑
だから、二人でゆく帰路は、久しぶりだ。
静寂ヶ原 志筑
「お前のとこ、実力テスト戻ってきた?」
天之 韴子
それでもどちらが言い出すでもなく、自然と歩む速度が合わさって、二人で路を共にする。
天之 韴子
「戻ってきた」
天之 韴子
「明日には全クラス揃うらしいよ。同じ日に成績上位は名前出されちゃうって」
静寂ヶ原 志筑
「明日か。今回何位かな……」
天之 韴子
「楽しみにしてるね」
静寂ヶ原 志筑
「点数見る限りだと、まあまあいけたと思うけど」
天之 韴子
「今回はかなり手応えあったよね」
静寂ヶ原 志筑
「そうだな。出そうだなって言ってた引っ掛け、そのまま出たし」
静寂ヶ原 志筑
「応用多かったから、平均ちょっと下がってたしな」
天之 韴子
テストに備えて勉強するのも、テストに挑むのも、その結果を見るのも。
天之 韴子
全部が楽しくて、かけがえのない一瞬のように思える。
天之 韴子
期末のテストが終われば、皆の雰囲気も少し緩む。
天之 韴子
もうすぐ長期の休みだとか、休む暇がないだとか、アルバイトだとか、塾だとか、受験だとか、就職活動だとか。
天之 韴子
季節が変わって、時が過ぎてゆくのを感じる。
天之 韴子
楽しい。
天之 韴子
心の奥は、それだけではないかもしれないが。
天之 韴子
気付かないふりをする。
静寂ヶ原 志筑
夏の休みには、いないかもしれない。誰かが。
静寂ヶ原 志筑
それをわかっている。
静寂ヶ原 志筑
けれど。
静寂ヶ原 志筑
「進路指導の用紙も回ってきたな」
静寂ヶ原 志筑
先の話。
静寂ヶ原 志筑
なんでもないことのように。
天之 韴子
「ああ……」
天之 韴子
そういえば、後回しにしていた。
天之 韴子
「どうしようかな」
天之 韴子
どう誤魔化そうかな。
天之 韴子
学校の名前を書くべきか。
天之 韴子
受けるつもりもないのに?
静寂ヶ原 志筑
「なあ」
天之 韴子
「んー?」
静寂ヶ原 志筑
「また、おれには内緒って言う?」
天之 韴子
「……」
天之 韴子
「ねえ志筑」
静寂ヶ原 志筑
「うん」
天之 韴子
「勝負、しよっか」
天之 韴子
自分の胸に手を当てる。
静寂ヶ原 志筑
「なんの?」
天之 韴子
「志筑が……」
天之 韴子
「私の考えてる事、当てられるかどうか」
静寂ヶ原 志筑
「……お前」
静寂ヶ原 志筑
「本当に言いたいこと言わずに、おれにそうやって当てさせるの」
静寂ヶ原 志筑
「よくやるよな」
天之 韴子
「……自分の口からは、言えない事なんだよ」
静寂ヶ原 志筑
「そっか。でもさ」
静寂ヶ原 志筑
「そうやって毎回聞くってことは」
静寂ヶ原 志筑
「お前が毎回聞くの嫌にならないくらいには、ちゃんとわかってやれてるって思っていい?」
天之 韴子
「……私、けっこー単純だよ」
天之 韴子
「たぶん、そんなに難しくないよ。志筑なら」
静寂ヶ原 志筑
「……そう?」
静寂ヶ原 志筑
「おれはさ」
天之 韴子
「うん」
静寂ヶ原 志筑
「お前のことちゃんと見て、ちゃんと考えて、それでできることがあったらいいなって思ってるだけだよ」
静寂ヶ原 志筑
「大切な人にはそうしたいだけ」
天之 韴子
「できてたよ。今まで、ずっと」
天之 韴子
「ずっと隠し事してきた。でももうこれで最後」
静寂ヶ原 志筑
「最後じゃないよ」
静寂ヶ原 志筑
「生きてりゃ、この先も隠し事くらいできるから」
静寂ヶ原 志筑
「今は、だな」
静寂ヶ原 志筑
情報判定。韴子ちゃんの秘密、言霊術で
GM
はい…………
GM
判定をどうぞ。
静寂ヶ原 志筑
2D6>=5 (判定:言霊術) (2D6>=5) > 5[1,4] > 5 > 成功
天之 韴子
GM
はい。
GM
では、志筑と。
GM
情報共有で黙雷にも。
GM
お渡ししましょう。
天之 韴子
「……はは」
天之 韴子
「生きてりゃ、かあ……」
静寂ヶ原 志筑
「……嫌?」
天之 韴子
「儀式が成立したら、私は消える」
天之 韴子
「しなかったら、志筑が死ぬ……」
天之 韴子
「どうやって、二人で長生きするのさ」
静寂ヶ原 志筑
「……長く、は無理かもな」
静寂ヶ原 志筑
「でも、できるだけ、かな」
天之 韴子
「……ほんの数日かもしれない」
天之 韴子
「もっと、短いかも」
静寂ヶ原 志筑
「それは別に……」
静寂ヶ原 志筑
「もともと、先がどれだけかわかる人生はない」
静寂ヶ原 志筑
「忍やってたら、なおさら」
静寂ヶ原 志筑
「でも、逆に」
静寂ヶ原 志筑
「最後がもうすぐだなってわかってたら、大切にできるだろ。いろんなものをさ」
静寂ヶ原 志筑
「……それは、お前もわかるだろ」
天之 韴子
「……わかる、けど」
天之 韴子
「それでも、私は……」
天之 韴子
「いよさんを犠牲にしたりはしないよ」
天之 韴子
「世界を見殺しにすることもできない」
天之 韴子
「命をかけて、使命を果たすよ」
静寂ヶ原 志筑
「…………」
静寂ヶ原 志筑
「わかってる」
静寂ヶ原 志筑
「みんな、お互いに。わかってるよ」
天之 韴子
「そうかな……」
静寂ヶ原 志筑
「わかってて、でも、簡単に譲れないからさ」
静寂ヶ原 志筑
「だから、まあ。全部丸くはいかないかもしれない」
静寂ヶ原 志筑
「それでも、成人の儀は来て、結果は出る」
静寂ヶ原 志筑
「おれは、誰も恨まずにいたい」
静寂ヶ原 志筑
「どうなっても」
天之 韴子
「私……」
天之 韴子
心の扉が叩かれる。どんどん、ぎしぎし。
天之 韴子
ぼろぼろに壊れた扉が軋んで、今にも崩れそうだ。
天之 韴子
そのたびに、心臓が鳴り響いて痛い。
天之 韴子
韴子はまだ、分かっていない。
天之 韴子
さっきの勝負の結果が。
天之 韴子
志筑の口から放たれる言葉が、この胸中を見抜いて出されたものなのかどうかが。
天之 韴子
……今度は、確かめる勇気はなかった。嘘を剥がせば、ぼろぼろに崩れてしまいそうで。
静寂ヶ原 志筑
「韴子」
天之 韴子
「……、……?」
静寂ヶ原 志筑
「おれはさ、たぶん、お前の望みが、わかってるけど」
静寂ヶ原 志筑
「ほんとうに、……どうしても、そうしてほしいなら」
静寂ヶ原 志筑
「それは、ちゃんと言葉にしないとだめだ」
静寂ヶ原 志筑
「おれは、考えることからは逃げないよ」
天之 韴子
「……っ!」
天之 韴子
目を見開いて、志筑を見て。
天之 韴子
「…………っ」
天之 韴子
咄嗟に目をそらして。
天之 韴子
「…………さ」
天之 韴子
「先っ…………」
天之 韴子
「……帰、る」
天之 韴子
取った行動は、不器用な逃げだった。
静寂ヶ原 志筑
「気をつけてな」
天之 韴子
「っ……!」
天之 韴子
優しい言葉をかけられれば、自分がとても無様なものに見える。
天之 韴子
「(あと、少し)」
天之 韴子
「(あと、少しだけ、だから)」
天之 韴子
きっと、志筑は受け入れてくれるのだ。
天之 韴子
そして、全力で立ち向かってきてくれるのだ。
天之 韴子
自分はどうだろう。
天之 韴子
ここで弱さを全部曝け出して。
天之 韴子
本音を全部ぶつけて。
天之 韴子
その状態で、全力で志筑の前に立ちはだかれるだろうか。
天之 韴子
──まだ、言えない。
天之 韴子
もう、伝わっていたとしても。
天之 韴子
自分の口からは、まだ。
静寂ヶ原 志筑
去っていく韴子の背を見送る。
静寂ヶ原 志筑
ずっと一緒だった。ずっと見つめて、憧れて、追いつきたくて、追い抜きたくて。
静寂ヶ原 志筑
だから、韴子の望みも、わかる。わかってしまう。
静寂ヶ原 志筑
自分が、そうするにせよ。しないにせよ。
静寂ヶ原 志筑
まずは、勝たなければ始まらない。――終わらない。
静寂ヶ原 志筑
家に帰り。
静寂ヶ原 志筑
いつものように、夕の鍛錬に入る。
静寂ヶ原 志筑
調子は、良くもなく、悪くもなく。
静寂ヶ原 志筑
ただ勝てばいいわけではないから。
静寂ヶ原 志筑
自分の力を、確かめるように。
静寂ヶ原 志筑
ほんの僅かの手応えを、いつだって追い求めている。
静寂ヶ原 志筑
背景で持っている稽古を行います。
選択するのは神槍。
GM
了解しました。
GM
志筑は以降一度だけ、判定なしに神槍の命中判定を成功させることができます。
静寂ヶ原 志筑
いつだって。お前が大切だよ。
静寂ヶ原 志筑
暮れていく日の中に。
静寂ヶ原 志筑
いつもどおりに、
静寂ヶ原 志筑
そう思う。

◆マスターシーン

シーンプレイヤー:静寂ヶ原志筑

GM
同じく、夕暮れの少し前。
静居 黙雷
虫の知らせ。
静居 黙雷
書物から顔を上げる。
静居 黙雷
「……」
静居 黙雷
しばし迷うような間の後、男は立ち上がった。
静居 黙雷
静居 黙雷
韴子の帰り道。いよが迎えに来るくらいの時間帯。
静居 黙雷
遊歩道に設置されたベンチに座り、ぼうっとしている。
雨野 いよ
雨野いよはいつになくゆっくりと歩いている。
雨野 いよ
何かをかみしめるように。
雨野 いよ
「おや、黙雷さん」
雨野 いよ
昨日の夜とは違う、よそ行きの声。
静居 黙雷
いよの方を見ずに、手招き。隣に座れと言っている。
雨野 いよ
「………」
静居 黙雷
いよに対して、普段から砕けた態度を取っている黙雷にしても、少し雑だ。
雨野 いよ
黙雷の横に腰を下ろす。
いよからすれば、ここしばらく黙雷の様子はどこかおかしいと感じていた。
静居 黙雷
ベンチはちょうど、街路樹の木陰に隠れている。少し薄暗い中に、木漏れ日がちらちらと光った。
静居 黙雷
「いよ」
雨野 いよ
「……なんだ」
静居 黙雷
「お前は、自分がどうなったら幸せだと思う?」
雨野 いよ
こんなにも不安をあらわにすることがあっただろうか。
雨野 いよ
「……役目を果たして、韴子様のことを……」
雨野 いよ
守るのだろうか?助けるのだろうか?それとも、遠ざけるのだろうか?
静居 黙雷
「実現可能かどうかとか、家のしがらみがどうかとか、そういうのはなしだ」
静居 黙雷
「ただの願望とか、欲望とか、エゴの話が聞きたい」
雨野 いよ
「………」
雨野 いよ
「四人と、その周りの世界が続けばいい。今までのように、昨日のように。今日も、明日も、その先も」
雨野 いよ
「世界がどんどん広がればいい。四人の」
雨野 いよ
四人の世界。四人の未来。
すべてに色が付いた、そんな世界。
雨野 いよ
自嘲かあきらめかの混じった言葉を吐露する。
静居 黙雷
「そうだな」
静居 黙雷
「俺も、そうなったらいいと思うよ」
静居 黙雷
膝の上で指を組む。数秒後に、落ち着かない様子でまた指を組み直す。
静居 黙雷
「……でも、韴子様がそれを望んでいなかったら」
静居 黙雷
「どうする?」
雨野 いよ
 
雨野 いよ
 
雨野 いよ
「………」
雨野 いよ
今朝のことをぼんやりと考える。
あるいは、志筑様との勉強会の日。
静居 黙雷
「俺達は親ではないが、心持ちとしては親のようなものだ」
静居 黙雷
「一般論で言うのなら……、子供の幸せを願うのならば、本人が望むようにさせた方がいい」
静居 黙雷
「しかし、なぁ」
静居 黙雷
「俺達は親じゃないんだよ」
雨野 いよ
「………だから、何だ」
雨野 いよ
僅かに混じる怒気。
静居 黙雷
「わからん」
雨野 いよ
「わっ……!……!!」
静居 黙雷
ちらりと、いよを見る。
雨野 いよ
声を荒げそうになるのを抑える。
雨野 いよ
 
雨野 いよ
「……」
静居 黙雷
「……親じゃないとしても、他人に意思を押し付けることはできない」
静居 黙雷
「しかし、見過ごす訳にはいかないこともある」
静居 黙雷
「なぁ、いよ」
静居 黙雷
「お前も俺と悩んでくれないか」
静居 黙雷
天之 韴子の秘密を渡します。
GM
了解です。全て?
静居 黙雷
ふたつ全てお願いします。
GM
畏まりました。公開いたしましょう。
【秘密:天之 韴子】
あなたは静寂ヶ原 志筑を深く愛している。
しかし同時にあなたはこの世界が限界を迎えつつあることを知っており、シノビガミの血を継ぐ者として世界を救わなければならないと思っている。
そのためにはあなたは人間としての自分を捨て去り、シノビガミとならなければならない。
あなたの本当の使命は【シノビガミとなり、世界を救う】である。
また、あなたはもう一つ秘密を持っている。
【追加の秘密:天之 韴子】
あなたは神となって世界を救わなければならないと考えているが、同時に、静寂ヶ原 志筑とは完全に隔絶した存在になってしまうことに恐れを抱いている。
あなたは静寂ヶ原 志筑が自分に勝ち、自分を殺し、そして一緒に死んでくれるのならば、人間のまま死ぬのも悪くないと思っている。
GM
黙雷から明かされた真実。
GM
韴子の本当の気持ち。
GM
扉の奥の、
GM
秘められた願い。
雨野 いよ
「………」
雨野 いよ
「………」
雨野 いよ
「……ふふっ」
静居 黙雷
笑い声に、隣の友人の顔を見る。
雨野 いよ
表情からは喜びとも悲しみともつかない感情があふれている。
雨野 いよ
「韴子様……」
雨野 いよ
ほんのわずかに漏れた笑い声は一息だけ。
雨野 いよ
「………なるほど、これは、俺がわかりようはずもない、な」
雨野 いよ
感情のはっきりしない表情のまま絞り出すような声が出る。
静居 黙雷
「韴子様も、そりゃあ、隠すだろう」
静居 黙雷
「特にお前には」
雨野 いよ
「ふ、ふ。韴子様なら、最後の最期のその瞬間まで隠し通したかっただろう、な」
雨野 いよ
「そうだな……韴子様がこういう気持ちを隠して、それでも隠し切れなかったことが、俺は少し嬉しい」
静居 黙雷
「……嬉しいか」
雨野 いよ
「嬉しいよ」
静居 黙雷
「まぁ、そうだな」
静居 黙雷
「子供のままなら、こんなこと思いもしないだろうし」
静居 黙雷
「そんな事を思う歳になったのか、と感慨深くはなるよ」
雨野 いよ
「それもある」
雨野 いよ
「そして、俺みたいにならなくてもいいということが嬉しいんだ」
静居 黙雷
「お前みたいに?」
雨野 いよ
「家のために競わされ、己を捨て、顔を隠し体を隠し、嘘をつき……おおよそ人間らしい生き方なんて捨ててしまった」
雨野 いよ
「韴子様はまだそうじゃない」
雨野 いよ
「シノビガミに近いとは言っても、17歳の女の子だ」
雨野 いよ
「韴子様が隠していたことが、17歳の女の子の、子供のような青い秘密で本当によかったよ」
静居 黙雷
「……」
静居 黙雷
いよは黙雷の幼馴染だ。しかし家の事情については詳しく聞いていない。
静居 黙雷
子供の頃には親しくしていたが、しばらく会っていない時期がある。韴子の世話役を決めるための選抜を行っていた、とだけ知っている。
静居 黙雷
いよは、表向きは男ということになっている。自分も長いこと男だと信じていた。
静居 黙雷
顔だって、隠さずに済むのなら、4人で食卓を囲むことだってできただろう。
静居 黙雷
「……聞くまでもないことではあるが」
静居 黙雷
「聞いたことがなかったから、聞いてみよう」
静居 黙雷
「いよ、辛かったか?」
雨野 いよ
「………少しな」
雨野 いよ
「でも韴子様と、もっくんと、志筑様がいたから、思ったほど辛くはなかったよ」
雨野 いよ
「4人の世界が広がり続ければいいと思えるくらいには」
静居 黙雷
「自分みたいにならなくてよかった、と安心しているくせに」
雨野 いよ
「ああ」
雨野 いよ
「韴子様はまだ子供だ。子供でいていい」
静居 黙雷
「なら、お前はどうする」
静居 黙雷
「その子供のような青い秘密を応援するのか?」
雨野 いよ
「できることなら成就させてあげたいよ」
静居 黙雷
「悩まないんだな」
静居 黙雷
「お前には止める力があるというのに」
雨野 いよ
「最後の最後。そこだけを俺がやればいい」
雨野 いよ
「こういうのは大人の役目だ」
雨野 いよ
「黙雷は」
雨野 いよ
2人きりの時には珍しい呼び方。
雨野 いよ
「何に悩んでいる?」
静居 黙雷
「悩むだろう」
静居 黙雷
「お前が言った通りになったとする」
静居 黙雷
「すると、若は早逝してしまう」
静居 黙雷
「ならば、韴子様も後を追うのではないか?」
静居 黙雷
「俺はそれは嫌だ」
静居 黙雷
「……しかし」
静居 黙雷
「そんな青臭い事を言わずに、残された方の身になってみろ、身勝手なことはやめろ」
静居 黙雷
「などとは口が裂けても言いたくなくてなぁ~」
静居 黙雷
足を放り出し、ベンチの背もたれの後ろに両腕を回す。
雨野 いよ
「……つまり、何も解決できない無力感と、答えの出しようがない選択で参ってしまっている、って?」
静居 黙雷
「そういうことだ」
雨野 いよ
「そういうことか」
静居 黙雷
「最悪、三人が死んで俺一人になるのだぞ」
静居 黙雷
「参りもする」
雨野 いよ
「なら」
雨野 いよ
「いっそのこと世界と一緒に終わりにするか?」
静居 黙雷
「馬鹿」
静居 黙雷
「そんなこと、若も韴子様も喜ばないだろう」
雨野 いよ
「だろう?」
雨野 いよ
「韴子様が皆に、志筑様にも俺にも黙雷にも忘れられてもいいと思うか?」
静居 黙雷
「いい訳がない」
静居 黙雷
「が、お前が死ぬのもいい訳ない」
静居 黙雷
「詰みだ詰み。俺にどうしろというのだ」
雨野 いよ
「そうだな」
雨野 いよ
「全部は選べないんだ」
雨野 いよ
「大人は我儘を言ってられないんだよ」
雨野 いよ
「俺から言えることは」
雨野 いよ
「ちゃんと生きろってことくらいだ」
雨野 いよ
「どういう結末になっても、たとえ一人になっても」
雨野 いよ
「生きて、できることをやるんだ」
静居 黙雷
「随分と勝手を言う」
静居 黙雷
「若と、お前と、韴子様がいない俺の人生に、なんの楽しみがあるものか」
静居 黙雷
「……」
静居 黙雷
「いや、そうだな、そうだ」
静居 黙雷
「いよ、取引をしないか」
雨野 いよ
「取引?」
静居 黙雷
「取引として成立するかは微妙だが……」
静居 黙雷
「成人の儀で若とお前が勝ち、若と韴子様が共に死んだとする」
雨野 いよ
「ああ」
静居 黙雷
「そうしたら、天帝の眼を勝ち取ったお前は結界内の生死を決定できる」
雨野 いよ
「そうなるな」
静居 黙雷
「死者が三人は多すぎる」
静居 黙雷
「多すぎて、死体があと一つ増えるかもしれない」
雨野 いよ
「ああ、なるほど……」
雨野 いよ
「それなら、もっくんは”納得”してくれるんだな?」
静居 黙雷
「お前が選んだことなら、肯定するよ」
静居 黙雷
「俺が世界にできるのは、この程度だ」
雨野 いよ
マスクの裏で私はほっと胸をなでおろす。
雨野 いよ
取引もなにも、そういう形にできれば一番だ。
出来る限りの望みをかなえ、そして最後は大人が後始末をすればいい。
雨野 いよ
”最初”から、そのつもりだ。
雨野 いよ
「じゃあ、幼馴染として応援してくれ」
雨野 いよ
そういいながら腰をあげる。
静居 黙雷
「応援はしないぞ」
静居 黙雷
「ああは言ったが、負けてやるつもりはない」
雨野 いよ
「こぉ~の我儘やろ~」
雨野 いよ
茶化しながら歩き始める。
静居 黙雷
「我儘やろ~ですみませんね~」
静居 黙雷
歩き出した背中を見る。
雨野 いよ
黙雷を置いて、韴子のもとへ。
静居 黙雷
「いよ」
雨野 いよ
歩みを止める。
静居 黙雷
声をかけたものの、言葉につまる。
静居 黙雷
言いたいことはいくらでもある。話を聞いてくれてありがとう。死ぬなよ。お互いに頑張ろう。今まで迷惑をかけた。お前のことを大切に思っている。
静居 黙雷
しかしそのどれを選んでも違う気がして。
静居 黙雷
「……またな」
静居 黙雷
まだ、また次の機会がある。
静居 黙雷
これが言えるのは、あと何回か分からない。
静居 黙雷
老人になっても言えたらいいのに、と思う。
雨野 いよ
「また、明日」
雨野 いよ
振り返らずに、そう答えた。
GM
いずれ来る明日のために。
GM
当たり前の明日のために。
GM
夕陽の朱に縁取られたいよの背中が、
GM
今はやけに眩しかった。
雨野 いよ
夕暮れの道を、韴子を迎えに歩いていく。
雨野 いよ
黙雷から知らされた韴子の秘密には驚いた。
黙雷に告げた感情も、本心だ。
雨野 いよ
幼馴染に出かかった”うらやましい”という言葉をマスクの裏の心の奥にしまい込む。
雨野 いよ
私だって死にたくない。
雨野 いよ
韴子のこれからを見守ることができないなんて、考えられない。
志筑様が韴子と一緒に居られる時間がわずかだなんて、信じたくない。
雨野 いよ
黙雷のことがうらやましい。
雨野 いよ
どうにもならないことを、どうにかできないかと必死になれる。
雨野 いよ
あきらめきれない。黙雷自身もわかっているのに、それでもあがいている。
雨野 いよ
そんなことができる黙雷がうらやましい。
雨野 いよ
そんな人間らしさなんてとうに捨ててしまった。
雨野 いよ
世話役の選抜の時に、表向きの性別は男となった。
雨野 いよ
雨野の家の、しきたり。
選抜されるのは次期筆頭。そして世話役を兼ねる。
雨野 いよ
幼い韴子に、選抜候補者がいれかわり立ち代わり世話をする。
雨野 いよ
候補者同士でも交友は深まる。
雨野 いよ
そして告げられる。家のために殺せと。
雨野 いよ
選抜者以外は死ぬか、もしくはシノビとしても表舞台に一度も立つことはない。
雨野 いよ
生きたかったから。気づいたら選抜に勝ち残っていた。
雨野 いよ
他の世話役候補はどうなったかわからない。
選抜のことも、ほとんど覚えていない。
雨野 いよ
ただ、私が勝ち上がったことで最初は家の中でもめていたことは覚えている。
雨野 いよ
そして結局、表向きは男として過ごすことになった。
雨野 いよ
『そういうしきたりだ』『その方がちょうどいい』
その時はその意味がわからなかった。
雨野 いよ
数年前、筆頭に呼び出された。
雨野 いよ
私の身に先代のシノビガミを降ろすらしい。
なんで?私に?
雨野 いよ
韴子にいずれ降ろすことは知っていた。そういう役目で、韴子を世話するのが私の役目。
雨野 いよ
『韴子に降ろすなら、女に預けておいたほうがいい』
『本当なら選びなおしになるところだったが、成人の儀まで持ちそうになくてな』
雨野 いよ
そんなようなことを言われていた気がする。
雨野 いよ
私に拒否権なんてなかった。
雨野 いよ
どうにもならないことに、抵抗する気もなかった。
雨野 いよ
世話役だから、次期筆頭だから。
大人になって、あきらめる。
雨野 いよ
灰色の未来に、どれだけ色を重ねても灰色だった。
雨野 いよ
韴子以外は。
雨野 いよ
だから、韴子の秘密は本当にうれしかった。
雨野 いよ
ごめんね、わかってあげられなくて。
ごめんね、勝手に知っちゃって。
雨野 いよ
だからでも、私の命で済むなら安いもの。
シノビとして、誰かのために命を落とす覚悟はできてる。
雨野 いよ
嫌だけど、それはマスクをした時から言えない言葉。
雨野 いよ
黙雷が、うらやましい。
雨野 いよ
人間でいられて。

メインフェイズ第三サイクル第四シーン

シーンプレイヤー:天之韴子

天之 韴子
暗い部屋に一人。
天之 韴子
晴れ着、化粧、扇、羽衣、盃。
天之 韴子
来たる日のために拵えた儀礼用具の一式が、分厚い箱に置かれている。
天之 韴子
戦いが終わった後に行われる、儀式の手順を振り返りながら。
天之 韴子
準備は恙なく、やはり予定通りに通過儀礼は行われるのだということを再確認する。
天之 韴子
世界が救えるので、良いことだ。
天之 韴子
そこには、懐剣もある。
天之 韴子
これは晴れ着の懐に忍ばせるもの。実際に儀式で使われることはない。
天之 韴子
けれど鞘から抜けば、研ぎ澄まされた刃が光って見える。
天之 韴子
そっと首に触れさせる。
天之 韴子
いつからだろう、死にたいと思うようになったのは。
天之 韴子
自身の正体と使命を知らされたのは、齢13の頃。
天之 韴子
韴子には、守りたいものが山ほどあった。
天之 韴子
たとえば高校に入れば、たとえば人里に下りれば、たとえば遊びに行けば。
天之 韴子
新しい出会いがあって、新しい大事な人が生まれていく。
天之 韴子
韴子にとって、彼らは守るべき世界を構成する要素であった。
天之 韴子
人の世界を生きる者と、人と神の境界を生きる者、その目線の違いは大きい。
天之 韴子
彼女がどれほど人を愛しても、人の姿をして、人のように振る舞っていても、その責任感の強さゆえに彼女は人になれないのだ。
天之 韴子
世界を救おうと心に決めた。
天之 韴子
世界を救える立場であるならば、それを果たさねばと、果たしたいと強く思った。
天之 韴子
しかし、世界を救える立場に自分が選ばれたことを──
天之 韴子
──忌まわしくも思った。
天之 韴子
死は恐ろしくない。恐ろしいのは、完全に別の物へと変わってしまうことだ。世界で一番好きな人と、心も体も離れてしまうことだ。
天之 韴子
役割を放棄することはできなかった。自分がそれを許さなかった。
天之 韴子
同じく、自ら死に逃げることも許されはしない。理由も告げられないまま、大事な人たちを悲しませたくなかった。
天之 韴子
もしも、好きな人に殺されて終われるのならば、それはどんなに良い事か。
天之 韴子
刃を放し、鞘へと仕舞う。
天之 韴子
事情も、本心も、もう伝わってしまった。
天之 韴子
許されるのなら、甘えてしまいたい。
天之 韴子
けれど甘えたら、願いは叶ってしまうかもしれないのだ。
天之 韴子
今はただ、待つのみ。
天之 韴子
できることなら皆で笑って終わりたい。
天之 韴子
それが無理ならば、せめて少しだけでも皆が納得できる形で。
天之 韴子
成人の儀の前に、もうひとつだけ自分に出来る準備があった。
天之 韴子
山ほどあったポケットマネーも、もう使われることはないだろう。
天之 韴子
それを使ってひとつ調べものをしていた。
天之 韴子
*静居 黙雷の秘密に対して情報判定 判定は経済力
GM
了解です。判定をどうぞ。
天之 韴子
2D6>=5 (判定:経済力) (2D6>=5) > 9[4,5] > 9 > 成功
GM
成功ですね。そのまま全体公開。
【秘密:静居 黙雷】
あなたは静寂ヶ原 志筑が天之 韴子に執着しすぎていることを危惧している。
このまま天之 韴子への執着を保っていては、静寂ヶ原 志筑さえも天之 韴子と同じようにシノビガミとなってしまうのではないだろうか。
そう危惧したあなたは天之 韴子の家からプライズ『帝光の書』を奪った。
これを調べれば、この心配が杞憂であるかどうかが分かるはずである。
【設定:帝光の書】
天之 韴子の家に受け継がれている古文書。
シノビガミについての記述があるものと思われる。
このプライズには秘密があり、それを調べられるのは所持者のみである。
GM
これもか。以上です。
天之 韴子
「はあ……」
天之 韴子
調査結果のメモを見て、小さく笑う。
天之 韴子
悪戯なお目付け役もいたものだ。
天之 韴子
「(よかったね、もっくん。大丈夫だよ、もっくん)」
天之 韴子
儀式が成功すれば、シノビガミになるのは韴子だけ。
天之 韴子
志筑が、韴子に執着することはない。
天之 韴子
志筑は、無事に大人になれる。
天之 韴子
──その時が、迫ろうとしている。
GM
陽が沈み、また昇りゆく。
GM
当たり前の明日を、
GM
いつまでも迎えるために。
GM
その影に、胸の奥の奥に隠したものに、
GM
いまはひとまず、鍵をかけた。