キャラクター紹介

GM
シノビガミ「殺戮教本」
GM
はじめていきます!
GM
宜しくお願いします!
荒鹿火唯史
よろしくお願いします!
霧渡匣
よろしくお願いします。
GM
ではまず、PC番号順にPC紹介を。
GM
現在の年齢と、好きなものなどを。簡単にお願いします。

PC1 荒鹿火唯史

荒鹿火唯史
キャラクターシート
荒鹿火唯史
荒鹿火唯史(あらかびただふみ)だ!
荒鹿火唯史
年はつい最近15になったばかり。
荒鹿火唯史
幼なじみのハコとはずっと一緒に鍛錬を重ねて、競い合ってきた。
荒鹿火唯史
一番の仲間で、ライバルだ。
荒鹿火唯史
ずっと一緒にやってきた。今度の昇格試験も、一緒に合格するつもりでいる。
荒鹿火唯史
好きなものは……里の外のものは面白くてなんでも好きだ!
荒鹿火唯史
こんなもんかな!
GM
ありがとうございます!いいPC1 いいPC1です
GM
では続いてPC2 お願いします

PC2 霧渡匣

霧渡匣
はい。
霧渡匣
ハコは匣。
霧渡匣
霧渡匣(きりわたりはこ)。
霧渡匣
年は15ということになってる。
霧渡匣
正しい誕生日はわからないから、唯史とだいたい同じ。
霧渡匣
昔の昔のこと、覚えてないから。親のこととかも……
霧渡匣
影絵座の術が使えるからって、里に拾われてきた。それが私。
霧渡匣
ハコ。
霧渡匣
好きなもの? 好きなものは……
霧渡匣
………………。
霧渡匣
……ひみつ。
霧渡匣
もういい? ハコはハコだよ。
霧渡匣
終わり。
GM
ありがとうございます!

導入フェイズ

導入 シーン1

GM
・5年前
GM
荒鹿火 唯史、そして霧渡 匣が所属するハグレモノの里は、人里からは離れた場所にある。
GM
人の目から隠されたその場所で、里の子供達はまずは忍としての基礎を身に着け。
GM
そして10歳の誕生日を迎えた時に初めて、里の上忍に連れられて人里へと降りる。
GM
もっとも、忍務などを受けていればその日よりも早くに人里へ降りることもあるし、そうでない場合もある。
GM
どちらにせよ、忍ならば【雑踏】というものには慣れておく必要があるものだ。
GM
意思を持って動く人の群れ、隠される事のない気配の濁流。
GM
そうしたものに飲まれてしまえば、他の者を見失ってしまう事もある。
GM
今、霧渡匣が昼間の大通りの中に取り残されてしまっているように。
GM
共にいた上忍──霧渡匣の里親とされている者──の姿も、連れられていた少年の姿も今は見えない。
霧渡匣
胸元でぎゅっと拳を握り、あちらこちらへと視線を彷徨わせる。
霧渡匣
見渡す限り人、人、人。
霧渡匣
霧渡匣が今まで見たことがないような、多すぎる人の群れ。
霧渡匣
匣の世界は狭い。
霧渡匣
忍びの里に連れてこられる前のことは覚えていないし、
霧渡匣
連れられてきてからは唯史と、あとはあまり数の多くない里の上忍たち。
霧渡匣
それくらいしか知らない。
霧渡匣
街に降りてくるのだって、匣は初めてだ。
霧渡匣
だから、わからない。忍びの鋭敏な聴覚があっても、それを処理するだけの能がない。
霧渡匣
見つからない。匣の知る世界がどこにもない。
霧渡匣
いつも匣を照らしてくれる温かい灯火。
霧渡匣
それを探して、一歩を踏み出すことすら、今は恐ろしい。
荒鹿火唯史
雑踏。道行く人々の囀り、足音。
荒鹿火唯史
それらを裂いて、
荒鹿火唯史
「──ハコ!」
霧渡匣
「!」
霧渡匣
振り返る。声の聞こえた方へ。
霧渡匣
ぬくもりの方へ。
荒鹿火唯史
人の波をかき分けて、少年が現れる。
霧渡匣
「――ぁ」
霧渡匣
口は辛うじて開く。けれど舌がうまく回らない。
荒鹿火唯史
「ハコいた~……」
荒鹿火唯史
「よかった……」
霧渡匣
ぱくぱくと口を開閉させて、肩で息をする目の前の少年を見ている。
霧渡匣
「あ」
霧渡匣
「う」
霧渡匣
「た、っ」
霧渡匣
「…………」
霧渡匣
舌が、どうにか動いて、
霧渡匣
けれどその名をなぞる前に。
霧渡匣
見開いた瞳から、ぼろぼろと涙を落とす。
荒鹿火唯史
「お前小さいんだから、もっと気をつけて……」
荒鹿火唯史
と大して変わらない背の丈で言いながら、その涙に目を見開く。
荒鹿火唯史
「ぇ、」
霧渡匣
「ぅ」
荒鹿火唯史
「あ、え」
霧渡匣
「う~~…………」
霧渡匣
背を丸め、うつむき、涙を落としている。
霧渡匣
胸元に握り締めていた手でそれを拭っては、溢れる涙を押し留められず、しゃくりあげる。
荒鹿火唯史
「だ、大丈夫か……?」
荒鹿火唯史
「そんな怖かったか?」
霧渡匣
ひく、と背をふるわせて、
霧渡匣
しかし首は横に振られた。
霧渡匣
「ち、が」
霧渡匣
「……こ、こわかった」
霧渡匣
「けど」
霧渡匣
「でも」
荒鹿火唯史
おろおろとハコを見ている。
霧渡匣
「た」
霧渡匣
「ただふ、み」
霧渡匣
「きてくれた」
霧渡匣
「から……っ」
荒鹿火唯史
「…………」
荒鹿火唯史
「……来るだろ、そりゃ」
霧渡匣
涙に濡れた瞳が、瞬く。
霧渡匣
暗色の潤んだ瞳に、その姿が揺れている。
荒鹿火唯史
再び、間を置いて。
荒鹿火唯史
ハコの手を取る。
霧渡匣
その手は涙に濡れている。
霧渡匣
ちいさな指が戸惑ったようにうごいて、
霧渡匣
おそるおそるに、絡められる。
荒鹿火唯史
繋ぎ返されると、緊張したように手に力が入る。
荒鹿火唯史
「…………」
霧渡匣
「…………」
荒鹿火唯史
ハコを連れて人混みをかき分ける。
荒鹿火唯史
そうしながら、キョロキョロと辺りを見回している。
霧渡匣
人混みを恐れるようにぴったりと唯史にくっついている。
荒鹿火唯史
特に行くあてがあるわけでもないのか、時に迷ったように立ち止まったり、脇道を覗いてみたり……。
霧渡匣
その都度唯史に遅れて、同じ場所へと視線を送る。
荒鹿火唯史
里を出る前は、俺は街に出るの初めてじゃないから頼っていいぜ! とか豪語していたが、実際のところさして差があるわけではない。
荒鹿火唯史
ハコの手を引いて、慣れない道を歩く。
荒鹿火唯史
その内に、
荒鹿火唯史
「!」
霧渡匣
「?」
荒鹿火唯史
なにか見つけた、というように目を瞬かせ、
荒鹿火唯史
「あれ」
荒鹿火唯史
「行くぞ」
霧渡匣
どれ、と覗き込むより先に促されて頷く。
霧渡匣
「うん」
霧渡匣
手を握る指に力が籠もる。
荒鹿火唯史
二人、手を繋ぎ。
荒鹿火唯史
先程までよりも確かな足取りで、少し早足に駆ける。
霧渡匣
唯史に歩調を合わせ、知らぬ街を駆ける。
霧渡匣
涙はすっかり止まっていた。
荒鹿火唯史
クレープ屋、と書かれたのぼりを掲げた店にたどり着く。
霧渡匣
「くれーぷや」
霧渡匣
兼ねてより授けられた知識から理解はするが、実感はない。
霧渡匣
ただ単語をなぞる。
荒鹿火唯史
「……食うか」
荒鹿火唯史
ガラスの向こうに並んだ、様々なクレープを指差す。
霧渡匣
「え」
霧渡匣
「でも」
霧渡匣
とは言ったものの、特に後が続かない。
荒鹿火唯史
「金持ってるし……」
霧渡匣
「いい」
霧渡匣
「の、かな」
荒鹿火唯史
「大丈夫」
荒鹿火唯史
つきそいの上忍の名前をあげて、
荒鹿火唯史
「後で合流することになってるから」
荒鹿火唯史
と説明する。
霧渡匣
「……ん」
霧渡匣
「それなら……」
霧渡匣
と、頷きはしたものの。
霧渡匣
どうすればいいかがわからない。唯史を見る。
荒鹿火唯史
見られる。
霧渡匣
泣いた跡の残る双眸が、まっすぐに唯史を見ている。
荒鹿火唯史
「えー……と……」
荒鹿火唯史
クレープたちに視線を移す。
荒鹿火唯史
「どれ……」
荒鹿火唯史
「どれ食いたい……?」
霧渡匣
唯史にくっついて、一緒にクレープを眺める。
霧渡匣
きらびやかでいろとりどりのメニューがたくさん並んでいて、目が回る。
荒鹿火唯史
チョコとかいちごとかバナナとか……。
霧渡匣
そのどれもが滅多に与えられるものではない。
霧渡匣
果物と言えば、基本的には山で見つけて食べるもの。
荒鹿火唯史
たっぷりと盛られた真っ白いクリームも、二人にはなんだか現実みがない。
霧渡匣
なんだか手の届かないものがずらずら並んでいて、気後れに暫し悩み込んでしまったが。
霧渡匣
「……あ」
霧渡匣
「あれ……」
荒鹿火唯史
「ん」
霧渡匣
匣が指差したのは、あずきいちごクリーム。
荒鹿火唯史
それを視線で追う。
霧渡匣
あずきだとかあんこだとかはまだ結構、里でも見かけるような感じのやつ。
荒鹿火唯史
頷く。
霧渡匣
おそるおそる、頷き返す。
荒鹿火唯史
なんとなく決心をするような間を置いて、背伸びをしてカウンターの向こうに声をかける。
荒鹿火唯史
声にそこはかとない緊張が漂っている。
霧渡匣
唯史の手を掴んで、その様子を見ている。
霧渡匣
表情がこわばっている。
荒鹿火唯史
あずきいちごクリームください、と注文して、財布を取り出し、
荒鹿火唯史
「…………」
荒鹿火唯史
「……ハコ、手……」
霧渡匣
「……あっ」
霧渡匣
慌てて手を離した。
霧渡匣
空をさまよった手が少し迷って、
霧渡匣
結局唯史の袖を掴む。
荒鹿火唯史
「…………」
霧渡匣
「…………」
荒鹿火唯史
袖を掴まれている方の手に財布を持ち替え、自由な方の手で支払いを済ませる。
荒鹿火唯史
ちゃりちゃり。
霧渡匣
その様子をじっと見ている。
荒鹿火唯史
店員が妙ににこにこしている……。
荒鹿火唯史
お作りしますので少々お待ち下さい~とか言われる。
霧渡匣
こくこく頷く……
荒鹿火唯史
クレープが出来上がるまでの間、なんとなく手持ち無沙汰になる。
荒鹿火唯史
「……よかったのか、あずきで」
霧渡匣
「?」
荒鹿火唯史
「もっとこう……」
荒鹿火唯史
「カスタード? とか?」
霧渡匣
「唯史は」
霧渡匣
「そういうのが良かった……?」
荒鹿火唯史
「いや、俺じゃなくて」
荒鹿火唯史
「ハコが、普段食えないやつじゃなくてよかったのかなって」
荒鹿火唯史
「クレープが普段食えなくはあるけど……」
霧渡匣
少し黙る。それから。
霧渡匣
「なんだか」
霧渡匣
「わかんないやつ、すぎると」
霧渡匣
「全然、想像がつかない」
霧渡匣
「から……」
荒鹿火唯史
ハコを見る。それから改めてクレープたちを眺めて。
荒鹿火唯史
「……確かに」
荒鹿火唯史
「そうかも」
霧渡匣
頷いている。
霧渡匣
「ハコ、あずきは好き」
霧渡匣
「唯史も、好きなの知ってる」
霧渡匣
「他のが変な味してても、あずきは、たぶんおいしい」
霧渡匣
ろんりてききけつ。
荒鹿火唯史
「あずきはうまい」
荒鹿火唯史
頷いている。
荒鹿火唯史
真理だ。
霧渡匣
「ああいうの、とも」
霧渡匣
指差す。抹茶黒みつとかのシリーズ。
霧渡匣
「迷った、けど……」
霧渡匣
「でも、唯史の言うとおり」
霧渡匣
「ちょっとは知らないの」
霧渡匣
「試したかった」
霧渡匣
「し」
荒鹿火唯史
「ん」
荒鹿火唯史
「せっかく来たんだしな」
霧渡匣
「……うん」
霧渡匣
ちいさく微笑んで、頷く。
荒鹿火唯史
「……」
荒鹿火唯史
なんとなく黙ってしまったところに、店員から声がかかる。
霧渡匣
顔を上げる。
荒鹿火唯史
お待たせしました、とできたてのクレープをハコに差し出す。
霧渡匣
「わ」
霧渡匣
慌てた様子で片手を差し出しかけ、
霧渡匣
遅れて唯史の袖を握る手を離し、そちらも添える。
荒鹿火唯史
しっかり受け取ったのを確認して、店員が手を離す。
荒鹿火唯史
ハコの両手には、できたてほかほかのクレープ。
霧渡匣
どきどき……
霧渡匣
クレープに視線を落としたまま、店の前に突っ立ってしまっている。
荒鹿火唯史
あちらのベンチをどうぞ~、と店員に促され
荒鹿火唯史
「ハコ」
荒鹿火唯史
手は……引けないので、シャツの裾を軽く引っ張る。
霧渡匣
「あ」
霧渡匣
はた……と気付いて、引っ張られていきます。
霧渡匣
促されたベンチに腰掛ける。二人で。
霧渡匣
「た」
霧渡匣
「唯史」
荒鹿火唯史
ちょこんと並んでいる。
霧渡匣
ほかほかのクレープを唯史へと差し出す。
荒鹿火唯史
「え」
霧渡匣
「?」
荒鹿火唯史
「?」
霧渡匣
顔を合わせて二人で首を傾げる。
荒鹿火唯史
「ハコが……」
荒鹿火唯史
「ハコの」
霧渡匣
「でも」
霧渡匣
「唯史が……」
霧渡匣
「…………」
霧渡匣
「……いっしょに」
霧渡匣
「食べよ?」
荒鹿火唯史
「…………」
霧渡匣
クレープを持ったまま、じっと唯史を見る。
霧渡匣
見ている。
荒鹿火唯史
こいつ俺が頷くまで食わないなこれ……というのが経験上分かる。
荒鹿火唯史
「……ん」
荒鹿火唯史
「分かった」
霧渡匣
「ん」
霧渡匣
笑顔になりました。
霧渡匣
唯史の口元へとクレープを差し出します。
霧渡匣
ぐいぐい。
荒鹿火唯史
俺からなのは変わんねえのかよ。
霧渡匣
嬉しそうに押しつけてきます。
荒鹿火唯史
観念して、差し出されたクレープにかぶりつく。
荒鹿火唯史
ぱく。
霧渡匣
じっと見ている。
荒鹿火唯史
もくもく……
霧渡匣
じー……
荒鹿火唯史
慣れない甘さと、甘酸っぱさが口の中に広がる。
荒鹿火唯史
あずきまで辿りつけなかった気がする。
霧渡匣
匣の持つクレープに、唯史の歯型がきれいにぱっくりと。
荒鹿火唯史
未知の甘味をもくもくと咀嚼して、飲み込む。
荒鹿火唯史
「甘い」
霧渡匣
「あまい」
霧渡匣
たどるように返す。
荒鹿火唯史
「すげー甘い」
霧渡匣
じ、と歯型の付いたクレープに視線を落としている。
荒鹿火唯史
「見てないでハコも食えよ」
霧渡匣
「ん、うん」
霧渡匣
頷く。促されてやっと、おそるおそる口を寄せる。
霧渡匣
かぷり。
荒鹿火唯史
今度は唯史がハコをじっと見る。
荒鹿火唯史
そわそわ……
霧渡匣
唯史が口をつけた場所だとか、そういうのはあまり気にする様子なく。
霧渡匣
食べやすそうなところをぱくりと食べて、小さな口をもくもくと動かしている。
荒鹿火唯史
まじまじ……
霧渡匣
もくもくもく……
霧渡匣
唇にクリームとあずきとがちょっとついてる。
霧渡匣
それに気づかず、こくりと飲み込んで、
霧渡匣
「あまい」
霧渡匣
唯史を見返した。
荒鹿火唯史
頷いている。
霧渡匣
「クリーム? が……」
霧渡匣
「すっごく甘くて……」
霧渡匣
「いちごは、あずきより甘くないけど」
霧渡匣
「でも」
霧渡匣
「野いちごよりずっと甘いし」
荒鹿火唯史
「な」
荒鹿火唯史
こくこく
荒鹿火唯史
「野いちごって……なんか……」
荒鹿火唯史
「もしかして……いちごと全然別物なのか……?」
霧渡匣
「かも…………」
霧渡匣
頷き返して、また唯史へとクレープを差し出します。
荒鹿火唯史
野がつくかつかないかだけなのに……
霧渡匣
驚きの格差。
荒鹿火唯史
差し出されたクレープをまた一口かじる。
霧渡匣
唯史がかじったのを見て手元に戻して、匣もそれをかじる。
荒鹿火唯史
咀嚼しながら、ん……? これでいいのか……? という気持ちになる。
霧渡匣
もぐもぐと嬉しそう。
荒鹿火唯史
でもいちいち持ちかえるのも手間だし……?
霧渡匣
ほどほどでまた差し出してきます。
荒鹿火唯史
ハコは特に変だと思ってなさそうだし……
荒鹿火唯史
変じゃないのかもな……
霧渡匣
そんな感じで完食までいきます。
霧渡匣
口にクリームとあずきとついてる。
荒鹿火唯史
唯史もさして変わらない状態。
GM
丁度、手元の甘味が消えた頃。
GM
口の中の後味も消えない内に、どこからとなく上忍が2人の前に姿を現す。
霧渡匣
びくっとする。
上忍
「……里に戻るぞ」
霧渡匣
「……あ」
霧渡匣
「わた」
霧渡匣
「わたし……」
霧渡匣
小さくなります。
霧渡匣
逸れたのを咎められるかもしれない……
霧渡匣
言い訳もできようはずがなく。
荒鹿火唯史
ハコの手を取る。
霧渡匣
はっと唯史の顔を見る。
上忍
上忍は寡黙なまま。服装が忍び装束でない以外は、里の”家”に居る時と何も変わりない。
荒鹿火唯史
顔は上げて、上忍の方を向いている。
霧渡匣
唯史の手をおずおずと握り返す。
霧渡匣
それから改めて表情をどうにか引き締めて、上忍を見上げます。
霧渡匣
「……す」
霧渡匣
「すみません、でした」
霧渡匣
なんとか言い切って、頭を下げる。
上忍
答えない。
荒鹿火唯史
一緒に頭を下げる。
荒鹿火唯史
「俺も、ハコをちゃんと見れてなくて……」
荒鹿火唯史
「すみません」
上忍
「……」
上忍
言葉の代わりに一つ、掌に乗るサイズの箱を霧渡に対し差し出す。
霧渡匣
「……?」
荒鹿火唯史
「?」
霧渡匣
気配にわずか顔をあげます。
荒鹿火唯史
横からそれを見る。
霧渡匣
窺うような瞳。
GM
著名な電子機器メーカーのロゴがプリントされた、里ではまず見ないような洒落た紙箱。
GM
中身は、今の時代なら2人と同年代の子どもたちも皆持っている電子端末。
上忍
「……持っておけ」
霧渡匣
おそるおそる手を差し出し……片手で受け取りそうになって、唯史と繋いだ手を解く流れを再び繰り返しながら、受け取ります。
霧渡匣
じっと見下ろす。
霧渡匣
「……はい」
霧渡匣
「ありがとうございます」
荒鹿火唯史
iPhoneじゃん、と興奮したように小さく呟く。
霧渡匣
あいふぉーん……
荒鹿火唯史
横からわっとなっている。
荒鹿火唯史
いいな……。
霧渡匣
前聞いたような……
上忍
「……荒鹿火 唯史」
霧渡匣
ぴゃっ
荒鹿火唯史
「っ、はい!」
上忍
「お前の分は別の店に用意させている、受け取ってこい」
荒鹿火唯史
「!!」
霧渡匣
何故か唯史の名前が呼ばれたことに緊張していましたが、唯史が咎められる内容ではなかったのでほっとしています。
荒鹿火唯史
背筋が伸びる。
荒鹿火唯史
「ありがとうございます!」
上忍
受け取り用の領収書も手渡す。記載された店の場所はそう遠くない。
荒鹿火唯史
なんで別の店なんだ……? という疑問がなくはないが、上忍の指示に口を挟める立場にはない。
荒鹿火唯史
領収書を受け取り、記載された店に向かう。
霧渡匣
箱を両手に、その背を見送る。
上忍
そんな匣に声が掛けられる。
上忍
「随分と、仲良くやっているようだな」
霧渡匣
びく、と身を強張らせて上忍を見上げる。
霧渡匣
箱を持つ手に力が入る。
霧渡匣
「……は、はい」
霧渡匣
返る声はか細く、どこか切迫した色が滲む。
上忍
「……そう警戒するな」
上忍
「何も問題は無い。むしろ……」
霧渡匣
「…………」
霧渡匣
緊張した面持ちで上忍を見ている。
上忍
手が伸ばされ、霧渡の頭の上へ。
上忍
壊れ物を扱うような慎重な手付きで触れる。
霧渡匣
触れられる瞬間、思わず首を縮めてしまう。
上忍
「……事情は多々あるが」
霧渡匣
ちらちらとその顔を窺っている。
上忍
「お前は、奴を……唯史を、守り、愛してやれ」
霧渡匣
「…………」
上忍
「それが里の者としての私の願いだ。できるな?」
霧渡匣
「はい」
霧渡匣
即答する。それから。
霧渡匣
「……はい」
霧渡匣
繰り返して、頷いた。
上忍
「……なら、良い」
上忍
一つ、緊張から解き放たれたように息をつき、手を放す。
上忍
「では、里に戻るぞ」
霧渡匣
「はい」
霧渡匣
頷く。同じ調子に。
霧渡匣
指先に握るはあの暖かい手ではなく、
霧渡匣
精密な機械の収められたただの箱。
GM
触れなければ願いは伝わらない。
GM
或いは触れたとしても、そこには目に見えぬ隔たりが常にある。
GM
だが時には、その隔たりこそが人を形作るものとなる。
GM
自分と他人の隔たり。
貴方と私の隔たり。
その確認作業を、人は絆と名付ける。
GM
思い出は、箱の中に仕舞われて。
GM
心の奥深くへと、潜っていく。

導入 シーン2

GM
・時は流れ、現在
GM
竹林の中を、獣に似た4足の異形が駆けている。
GM
枯れ笹を踏みしめ跳躍し、隙間をすり抜けていくその息は荒い。
GM
その異形──妖魔は、後方の気配を探る。
己を追う2人の追跡者の姿を探して。
荒鹿火唯史
二人、妖魔を追って竹林を駆ける。先を行くのは唯史の方。
荒鹿火唯史
妖魔を撹乱するように、その姿がブレる。
荒鹿火唯史
影分身。唯史の十八番だ。
霧渡匣
匣は唯史より少し上に。
霧渡匣
木々の枝を渡り歩く。
霧渡匣
指先より糸を渡し、それを伝う形で追走する。
GM
逃げ切れぬと覚った妖魔は足を止め、地を踏みしめて咆哮する。
GM
無論尋常の叫びではなく、呼応するように竹林が震える──
荒鹿火唯史
「鬼ごっこは終わりか?」
荒鹿火唯史
咆哮にびりびりと身体を震わせながら笑う。
霧渡匣
「まだ。やる気満々」
霧渡匣
「油断するのは、早い」
荒鹿火唯史
「わかってるって!」
GM
その言葉を証明するように、妖魔の全身の毛が逆立ち、炸裂。
GM
体毛は人体など容易く貫く鋭利な針と化し、追跡者に向けて射出される。
霧渡匣
指を引き絞る。
霧渡匣
木々より無数の黒絃が張り巡らされ、
霧渡匣
その針ごとに妖魔の身を縛りつける。
荒鹿火唯史
防御の姿勢を取らないのは油断していたから──ではない。
荒鹿火唯史
ハコが止めてくれると分かっていたから。
霧渡匣
ぎり、と匣の手元で音がした。
荒鹿火唯史
ならば唯史のなすべきは防御でも回避でもなく。
霧渡匣
「唯史!」
荒鹿火唯史
「おう!」
荒鹿火唯史
跳ぶ。
霧渡匣
腕に力を込め、妖魔をその場に縛りつける。
GM
その場に縫い留められた妖魔がもがく。
荒鹿火唯史
雨あられと、その背にクナイが降りそそぐ。
GM
血飛沫と咆哮。しかしクナイの流血のみでは妖魔は止まらず。
荒鹿火唯史
突き刺さったクナイが燃え上がり──
GM
身体の内に妖気を溜め込み、再び炸裂させようとしたところで──
荒鹿火唯史
それよりも早く、クナイが次々に音を立てて爆発する。
荒鹿火唯史
派手な爆風が竹やぶを揺らす。
霧渡匣
爆風に妖魔を拘束していた黒絃が千切れ飛ぶ。
GM
閃光と衝撃と轟音。
GM
風に舞い上げられた笹の葉が地に落ち着き、巻き上げられた煙と土埃が晴れた頃──
GM
そこにあったのは、黒く焦げ付き、倒れ伏した妖魔の姿だった。
霧渡匣
風に髪を揺らしながら、油断なくその姿を見据えていたが。
荒鹿火唯史
間違いなく、妖魔の力尽きたのを確かめる。
霧渡匣
同時にふっ、と、匣のまとう空気が緩んだ。
霧渡匣
「……もう大丈夫。終わった」
荒鹿火唯史
「……ん!」
荒鹿火唯史
「よーし! これで忍務達成だな!」
霧渡匣
「ん」頷き返す。
霧渡匣
「唯史も、前よりは油断しなくなった」
荒鹿火唯史
討伐の証拠に牙をもいでいる。
荒鹿火唯史
「前から油断してない」
GM
こうした妖魔討伐の忍務はこれが初めてではない。
その手付きは十分に手慣れたものと言えるだろう。
霧渡匣
「調子には乗る」
荒鹿火唯史
「調子にも乗ってない」
霧渡匣
「あ、今いい気になってるなって、わかる」
霧渡匣
「見てて」
霧渡匣
「ハコはわかる」
荒鹿火唯史
「むむ……」
霧渡匣
弱気ですぐ唯史の背中に隠れていた頃はどこへやら、
霧渡匣
今の匣は割とこんな感じ。
荒鹿火唯史
「生意気になりやがって……」
霧渡匣
唯史の隙を見つけては苦言を呈してくる。
霧渡匣
「もうすぐ中忍になる。当たり前」
霧渡匣
「しっかりしてないと、一人前になれない」
GM
里の同じ階級の者達が、皆同様にこのような忍務を熟している訳ではない。
GM
2人の実力は、すでに里の下忍頭の中では一つ抜けたものとなっていた。
荒鹿火唯史
「おー、お前試験落ちるなよな!」
荒鹿火唯史
自分は受かって当然とばかりの口ぶりでいる。
霧渡匣
「……早速出た」
霧渡匣
「いい気になってる。調子に乗ってる言動」
荒鹿火唯史
「…………」
荒鹿火唯史
さすがにこれを乗ってないと言い返すのは苦しいかもしれん。
霧渡匣
ふふん。
霧渡匣
「自分の心配をした方がいい。唯史も」
霧渡匣
「ハコも、そうする」
荒鹿火唯史
「……ふん。分かってるよ」
霧渡匣
「…………」
霧渡匣
「唯史のことは、信じてるから」
霧渡匣
「ハコはハコのすべきことを、するよ」
荒鹿火唯史
コソ練もしてっし。言わないだけで。
荒鹿火唯史
「……おう」
霧渡匣
「唯史もそうして」
荒鹿火唯史
「分かってるって。ちゃんとする。してる」
霧渡匣
「うん」
霧渡匣
「……うん」
荒鹿火唯史
「受かるのは二人で、だ」
霧渡匣
「……ん」
霧渡匣
「二人で」
荒鹿火唯史
「おう」
荒鹿火唯史
「罰ゲームでもするか? どっちか落ちたら」
霧渡匣
「必要ない」
霧渡匣
「そんなこと考えるより、試験のことを考えた方がいい」
荒鹿火唯史
それはそう……
霧渡匣
「…………」
霧渡匣
厳しい言葉を繰り返していた匣が、
霧渡匣
ふっと表情を緩めた。
霧渡匣
「試験」
霧渡匣
「がんばろうね。唯史」
荒鹿火唯史
「…………」
荒鹿火唯史
「…………ん」
霧渡匣
返答に、にこりと笑った。
GM
時が流れれば、陽が昇る。
GM
未明の頃、目を凝らしながら手探りで探した誰かの輪郭も。
GM
明るくなるにつれ、色々な姿が見えてくる。
GM
広く見渡す事ができるようになれば、目に映る世界に対し抱く感想も変わってゆく。
GM
自分の足元と、探し求めるものの場所を見据える事ができるようになって。
GM
そうしてから、世界は暗くなっていくのだ。
GM
2人が里に帰る頃、空はすっかり夕方になっていた。

導入 シーン3

GM
黄昏時。
GM
里の最も大きな屋敷、その最も広い板の間は、茜色に染まっていた。
GM
並べられた座布団の上に、荒鹿火唯史 と霧渡匣の2人が並べられ。
GM
その対面に、痩せた老婆が胡座をかいて座り込んでいる。
里長
手にした煙管に火を入れ、吸い込み、吐く。
里長
煙が広がった頃に、しわがれた、しかし自然と背筋が伸びるような力のこもった声が発される。
里長
「……ずいぶんと熟れた」
霧渡匣
「…………」
霧渡匣
真っ直ぐに背筋を伸ばして正座をし、正面の老婆を見つめている。
荒鹿火唯史
背筋が伸びる。緊張を隠しきれずにいる。
里長
「お前たちも予感はしていたろうが……そろそろ、下忍頭じゃ役不足だね」
霧渡匣
「恐縮です」
荒鹿火唯史
揃えた膝の上で、握りこぶしに力が入る。
里長
「ふたりとも、よう技を磨いた。術もいくつか身につけし、忍務の経験も多少は積んだね」
里長
「あと身につけなきゃあいけないのは、一つだけだ」
霧渡匣
唯史よりは、緊張の色が薄く見える。ただ告げられることを受け入れる忍びの在り方。
荒鹿火唯史
あと一つ。里長の言葉の続きを待つ。
里長
「お前たち」
里長
「明日、二人で殺し合いをしな」
荒鹿火唯史
「────え」
霧渡匣
「…………」
里長
「確実に、己の手で、相手の息の根を止めるんだ」
里長
「生き残ったほうにだけ、中忍の許しをやるよ」
霧渡匣
黙り込んでいる。唇を引き結んだまま。
荒鹿火唯史
殺し合い?
霧渡匣
常であれば全てに唯唯諾諾と承服するところを。
荒鹿火唯史
俺と……ハコが?
霧渡匣
自分より目上の忍びの言葉に対し、ただ沈黙だけを返す。
荒鹿火唯史
「…………な、んで」
荒鹿火唯史
「どうして俺たちが、そんな」
里長
「”忍務に理由を尋ねるな”」
里長
「うちじゃそう教えてる筈だけどね」
荒鹿火唯史
そう。命じられたことの意味を考える必要などない。
荒鹿火唯史
常ならば、唯史もそのように振る舞う。
霧渡匣
黙り込んでいる。
里長
「……いいかい」
里長
「今あたしゃあ、できるか?なんて聞いたんじゃあないよ」
荒鹿火唯史
理由も目的も尋ねず、ただ首肯のみを返す。それが忍びのあり方だから。
里長
「やるんだ」
荒鹿火唯史
「…………」
霧渡匣
「畏まりました」
荒鹿火唯史
「……っ、ハコ!?」
霧渡匣
静寂の中に三つ指をつき、頭を垂れる。
霧渡匣
常と同じ。忍務を受諾するように。
里長
里長の視線が唯史の方を向く。
里長
同時に、空気が重圧を纏う。
荒鹿火唯史
有無を言わせぬ重圧。
里長
老婆の指の間で煙管が揺らめく。次の言葉を待つように。
荒鹿火唯史
何を言ったところで無駄なのだろう、と悟るには十分だった。
霧渡匣
ただ頭を垂れている。
里長
煙管の火が燃え尽きるよりも早く、この老婆は下忍頭の首を落とせる。
荒鹿火唯史
感情的に振る舞うこともできる。理屈を捏ねてみせることもできる。
里長
そしてそうなった場合、落ちる頭の数は一つではないだろう。
霧渡匣
それを知って、全てを受け入れる従順のさま。
荒鹿火唯史
そんな行為はなんの意味も持たない。
里長
それを悟らせるには十分な量の殺気が放たれている。
荒鹿火唯史
「…………」
荒鹿火唯史
頭を下げる。
荒鹿火唯史
「…………わかり、ました」
里長
「いい子だ」
里長
牙をむき出しにして見せるような、破顔。
里長
「明日、場を用意するよ」
里長
「身支度する時間くらいはくれてやる。よく気を練っておくといい」
霧渡匣
「……はっ」
荒鹿火唯史
「……はい」
GM
命は下された。
GM
二人が席を立ち、里長の屋敷を後にする頃には、昼の気配はとうに過ぎ去り。
GM
空は夜よりも暗い闇に沈んでいた。
GM
その日は、月が出ない夜。

導入 シーン4

GM
夜も深く、草木も寝静まり返る頃。
GM
里の中にある家屋の一つは、明日行われる定めに係ること無く、定刻通りに灯りが落とされていた。
霧渡匣
暗闇の中。
霧渡匣
支度を済ませて、布団の傍に腰を下ろす。
霧渡匣
万全を期すなら、少しくらいは眠っておくべきだ。という理と、多少睡眠を摂ったかどうかで左右されるものなどない、というもう一つの理と。
霧渡匣
頭の中で喧嘩をして、諦めて膝を抱えてしまう。
霧渡匣
ハコは、匣。
霧渡匣
分かりきっていたこと。
霧渡匣
だから、こうするしかない。
霧渡匣
そのように命ぜられるのならば、そのように振る舞うのがこの匣なのだ。
霧渡匣
(……でも)
霧渡匣
思い出す。
霧渡匣
里長に告げられた時の、唯史の狼狽。
霧渡匣
(唯史は、そうじゃないよね)
霧渡匣
それが、忍びとして正しいのか。正しくないのか。
霧渡匣
匣には、判断がつかない。
霧渡匣
匣には、判断ができない。
荒鹿火唯史
風が吹き込み、匣の髪を揺らす。
荒鹿火唯史
「──ハコ」
霧渡匣
揺れる髪を掌で押さえかけて、
霧渡匣
聞こえた声に、目を見開いた。
霧渡匣
そちらを向く。
荒鹿火唯史
常の溌剌とした様子は影を潜めて、音もなく。
霧渡匣
「……た」
霧渡匣
名前を呼びかけて、呑み込む。
霧渡匣
躊躇うように。恐れるように。指先で口を抑える。
荒鹿火唯史
頷く。
荒鹿火唯史
「ハコ」
荒鹿火唯史
静かに、再度名を呼んで。
霧渡匣
「…………」
霧渡匣
唯史を見ている。
荒鹿火唯史
「ここを出よう」
霧渡匣
「ぇ」
荒鹿火唯史
静かに、だけど確かな意思を持って、匣に告げる。
霧渡匣
唯史。
霧渡匣
唯史が本意を呑み込んだであろうことはよくよく理解していたが、
霧渡匣
それが、まさかこのようなことを言い出すとまでは思わなかった。
霧渡匣
だって、それは、そんなのは。
霧渡匣
この、忍の里においては。
荒鹿火唯史
それでも一緒に来ると信じて疑わぬように、まっすぐに匣を見つめている。
霧渡匣
その燃ゆる眼差しから、目を逸らせない。
霧渡匣
心を灼かれる心地がある。魂を照らされる実感がある。
霧渡匣
「……、…………」
荒鹿火唯史
返事を待っている。
霧渡匣
なにがしか答えようと、唇をひらいて。動かして。
霧渡匣
しかし最後には、引き結ばれる。
霧渡匣
「――できない」
霧渡匣
明確な拒絶のことば。
荒鹿火唯史
「……なんでだよ」
霧渡匣
「できない」
荒鹿火唯史
「俺は、ハコを殺すのも殺されるのもごめんだ」
荒鹿火唯史
「お前もそうだろ」
霧渡匣
「…………」
霧渡匣
「……でも、唯史」
霧渡匣
「忍びなんだよ」
霧渡匣
「唯史とハコは。忍びだよ」
荒鹿火唯史
「ああ」
荒鹿火唯史
「でもこの里の掟が絶対ってわけじゃないんだ」
霧渡匣
「…………」
荒鹿火唯史
「ここだけが、世界じゃない」
荒鹿火唯史
「ハコも知ってるだろ」
霧渡匣
「でも」
霧渡匣
自らの胸元に指を寄せる。不安を示すように拳が握られる。
霧渡匣
「でも、……でも」
荒鹿火唯史
「逃げたら抜け忍だ。追手が来るだろうし、二人とも殺されるかもしれない」
荒鹿火唯史
「だからって……諦めて言う事聞いてお前と殺し合うなんて、嫌だ」
霧渡匣
「…………っ」
霧渡匣
匣の指先が服を手繰り皺を作って、
霧渡匣
けれど、その手が握るのは、唯史の手じゃない。
霧渡匣
「だめ」
霧渡匣
「――だめ!」
荒鹿火唯史
「行こう、ハコ」
霧渡匣
糸が唯史の全身に絡む。
霧渡匣
伸べられた手を縛りつける。
荒鹿火唯史
「…………っ!」
霧渡匣
闇の中に匣の姿が溶け消えて、
霧渡匣
声だけが届く。
霧渡匣
「だめ」
霧渡匣
「だめだよ、唯史」
荒鹿火唯史
「ハコ……!」
霧渡匣
「ハコは、できない」
霧渡匣
「できないし、……だめなの」
霧渡匣
「唯史」
霧渡匣
「ちゃんとして」
荒鹿火唯史
闇の中に溶けた姿を捉えようと、もがく。
霧渡匣
「ちゃんと、忍びをして」
霧渡匣
「……ハコは」
霧渡匣
「唯史のこと、信じてるから」
霧渡匣
「だから」
霧渡匣
「ハコはハコのすべきことを、するよ」
荒鹿火唯史
「…………」
霧渡匣
「……信じてるよ」
霧渡匣
繰り返す。
霧渡匣
か細い少女の声に、泣き笑うような色を帯びて。
霧渡匣
やがて気配すら薄れていく。
荒鹿火唯史
黒絃を焼き切って自由になった時には、もはやその残滓すら掴めず。
荒鹿火唯史
「……ちゃんと忍びをして、とか」
荒鹿火唯史
「そういうこと言うなら、お前も泣きそうになってんじゃねえよ……」
荒鹿火唯史
「……泣き虫ハコめ」
荒鹿火唯史
匣の部屋を出る。
荒鹿火唯史
空に月はなく、一寸先も見通せぬ闇が里を覆っている。
荒鹿火唯史
この闇を抜けていけば広い世界があることを知っている。
荒鹿火唯史
その中には、唯史とハコの二人で暮らせる場所があるはずだ。
荒鹿火唯史
「……俺は」
荒鹿火唯史
忍びとして間違っていても、いい。
荒鹿火唯史
「俺のやりたいようにする」
GM
それは光に照らされぬ決意だった。
GM
一寸先も見通せぬ闇の、その外に向かって。
GM
或いは一人で駆け抜けてしまえば、まだたどり着けるかもしれなくとも。
GM
闇の中を振り返って、手を伸ばす。
GM
だけど。
GM
暗闇は、知らないことでできている。