エピローグ:葛火焔郎&藻鹿乃子1
GM
眩しすぎない太陽が空から世界を見守っている。
藻鹿乃子
待ち合わせ場所に使っていた、いつもの場所。
いつもは先に鹿乃子が待っていたけれど。
今日は少しだけ遅れている。
葛火焔郎
穏やかな日差しを浴びながら、風に吹かれて。
葛火焔郎
成人の儀を越えてから。潺を見送ってから。
葛火焔郎
相変わらず寒さには弱いが、身体の内側から凍えるようなことはなくなって。
藻鹿乃子
輝きそのものの髪の色は褪せ、
石のように磨かれた紅い眼は水底のように凪いでいた。
葛火焔郎
未だ包帯を巻いた手を伸ばし、ぎこちなく頬に触れ。
藻鹿乃子
「ほっぺ触られたときとか、手繋いだときとか……」
藻鹿乃子
「手ぬぐいでぬぐってくれたときとか、もっと……いっぱい、昔から」
葛火焔郎
うり、と緩く握ったままの拳で頬を撫でて。
葛火焔郎
「女の子はふつうじゃだめなんじゃないのか」
藻鹿乃子
どんな顔していいか。
わかんないよ~……!
藻鹿乃子
かつて神性に抑え込まれていた少女が。
花ひらくように淡く、笑っている。
藻鹿乃子
指の隙間から見ていたが、観念したように顔を上げた。
葛火焔郎
「鹿乃子といるときはいつも暑いくらいだよ」
藻鹿乃子
顔を手で覆って何も言えなくなってしまった。
藻鹿乃子
しばしどうしようもなく恥じらっていたが、観念したように潜り込む。
葛火焔郎
髪に触れる。その頭に角はなく。手は容易に届く。
葛火焔郎
あまりにもちいさな頭が、華奢な首が、触れている感触。
藻鹿乃子
一瞬緊張したように、こわばって。
すぐにそれは手入れされた髪のように解けていく。
藻鹿乃子
だいすきな人の手や指や、体温を感じている。
葛火焔郎
手は届いた。だが、それは自分の思い描いていたものとはかけ離れていて。
藻鹿乃子
ずっと夢見てたものだ。
心のずっと奥のやわらかいところで。
葛火焔郎
水というには苦く、空というにはあたたかく。
藻鹿乃子
まなざしを触れ合わせるだけで。
口から心臓が飛び出そうになってしまう。
藻鹿乃子
あんなに長かった、17年の沈黙よりも。
ずっと今この瞬間の沈黙の方が長く思えるほど。
葛火焔郎
激しく燃えていた瞳はいまやその熱を和らげ、
葛火焔郎
燃やすよりも、僅かに夜を照らす揺らめきとなって。
藻鹿乃子
チョコレートのように心を優しくとかす甘い熱が。
彼の瞳のなかで燃えている。
藻鹿乃子
その名前で呼んでくれる日をずっと待ってた。
藻鹿乃子
わたしの、わがままなお願いを聞いてくれた。
葛火焔郎
燃え盛る炎の中で嗅いだそれよりもずっと柔らかく甘い。
葛火焔郎
「鹿乃子の欲しいものなら、なんでもあげたいよ」
葛火焔郎
スモアでも。マジェステでも。人生でも。愛でも。命でも。なんでも。
藻鹿乃子
もう少し、このまま。
と言おうとして、顔を上げてそっと耳元で囁く。
藻鹿乃子
乙女の小さな願いは。
またしても果たされてしまった。
藻鹿乃子
これからも。
果たされない日はないと、心の底から。
葛火焔郎
その願いに向かって身を投げる。
果たせなかった悲願の苦さを供連れに。
葛火焔郎
これからは。
愛おしい願いの、ひとつひとつを叶えていこう。
エピローグ:葛火焔郎&藻鹿乃子2
GM
流れ落ちる水飛沫のひとつひとつが、暖かい陽光に眩しくきらめく。
GM
陽射しに照らされたその場所で、こどもたちが今日も遊ぶ。
藻鹿乃子
かみさまじゃなくなっても、お転婆ぶりは相変わらず。
誰よりも先にその場所へぴょんぴょんと向かっていく。
葛火焔郎
新品の釣り用具やら、母に持たされたお弁当やらを抱えて。
少しあとから、ゆっくりとした足取りでその背を眺めて歩く。
藻鹿乃子
いちばん水がきれいで穏やかなところ。
あの子と女子会しちゃった秘密の場所。
藻鹿乃子
清流にしゃがみこみ、手をそっと差し入れて。
くるくるとゆっくり右に回す。
煤木野灰吏
一旦荷物を下ろして、しゃがみこんだ鹿乃子の後ろから水面を覗く。
サチ
程近くに人の気配を感じ取り、それ自体が水流であるかのように優雅に
藻鹿乃子
もう前みたいにお話はできないけど。
大事なおともだち。
煤木野灰吏
……あの晩御祀さんと一緒にうちに入り込んでた子か……?
葛火焔郎
おどろかさないように気を使いながら、膝に手を置いて毛に覆われた顔を覗き込む。
藻鹿乃子
「わたしの、大事な……“おともだち”、と。
そのお兄さんだよ」
煤木野灰吏
「鹿乃子ちゃんには初めての女友達になるのか」
藻鹿乃子
「サチちゃんもわたしにいっぱい色んなこと教えてくれてね」
煤木野灰吏
里に年の近い女子いないんだもんな~と、二人の仲睦まじく戯れる様子を眺める。
藻鹿乃子
「せせらぎの秘密もいっぱい知ってるかも」
煤木野灰吏
「恥ずかしい秘密の一つや二つ、あればぜひ知りたいもんだな」
煤木野灰吏
もっともあの人がそんなもの残していくとも思えないが……
煤木野灰吏
なんかあるんだろ~?とサチの顔を覗き込む。
サチ
伝えるすべもないが、滝の裏にある両親の墓に、供えられていたものだ。
サチ
いなくなった両親ではなく、いなくなった潺のかわりになるのだと思っている
煤木野灰吏
焔郎を御祀さんに勝てない仲間に引きずり落とそうとしている。
藻鹿乃子
せせらぎがそうしていたようにサチの頭をなでる。
葛火焔郎
俺は潺さんには勝てなくてもいいですし……
葛火焔郎
潺を、奪ってしまったとは、思っていない。思わないことにする。
葛火焔郎
俺の方にも来てくれるかな、と手を伸ばしてみる。
葛火焔郎
潺さんの残していったものは、あたたかいものばかりだ。
葛火焔郎
「これからも、鹿乃子の話し相手になってやってな」
煤木野灰吏
「こっちにも来てくれるか? お嬢さん」
煤木野灰吏
驚かせないようにゆっくりと、手を伸ばす。
煤木野灰吏
「寂しくなったらうちに遊びに来ていいからな」
煤木野灰吏
「女の子が遊びに来てくれるなら俺はいつでも大歓迎だからな」
葛火焔郎
「潺さんのガールフレンドをナンパしないでください」
煤木野灰吏
別にいいよなぁ?とサチの顔を見て笑って。
藻鹿乃子
「サチちゃんはお目が高いからどうかなぁ」
煤木野灰吏
こないだ俺のことかっこいいって言ってくれたのに…………
煤木野灰吏
「レディを優しく安全にお連れしますとも~」
葛火焔郎
荷物を抱え、上流を目指して再び歩き出す。
藻鹿乃子
いつもせせらぎが見回ってくれていたあたりを目指して。
藻鹿乃子
「せせらぎ、いっつもあの滝登ってたんだよ」
藻鹿乃子
上流へ向かう山道で近くに滝の音を聞きながら。
藻鹿乃子
鯉の滝登りはわからないけど鮭の滝登りはわかる。
藻鹿乃子
上流のひらけたところが木々の隙間から見えている。
葛火焔郎
「潺さんはいっぱい獲って来てくれてたけどな」
葛火焔郎
穏やかな日差しのもと、川のせせらぎを聞きながら。
葛火焔郎
実は走り込みも鍛錬もまだ全然やっている。
藻鹿乃子
率先して清流の中ほどまでぴょんぴょんと分け入っていく。
藻鹿乃子
「せせらぎいわく、流れを見極めるのが極意……」
葛火焔郎
意気で分け入る。冷たさの和らいだ流れのなか。
煤木野灰吏
荷物の脇に腰を下ろし、川岸から二人の姿を見守っている。
サチ
荷物の上に横たわったまま、その様子を見守る。
煤木野灰吏
「俺は鹿乃子ちゃんかと思うんだが……」
葛火焔郎
追って、追いついて、足を滑らせそうになる。
葛火焔郎
「俺ももうちょっと潺さんに教えを請うべきだった……」
藻鹿乃子
「ほむろがわたしにいっぱい色んなこと教えてくれたみたいに」
藻鹿乃子
せせらぎの思い出がいっぱいの自然の歩き方を。
水の泳ぎ方、風のにおいのかぎ方。
花の種類、星の数え方。
葛火焔郎
窓は今や大きく開かれて、彼女が満開の花のように笑う。
葛火焔郎
火傷の残る不格好な手で、小さな少女の手を握る。
GM
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