エピローグ:煤木野灰吏

GM
成人の儀が終わり、
GM
世界が救われてより、数日後。
GM
想定外の事態に里は上を下への大騒ぎ。
GM
御祀潺の残した諸々の書き付けに助けられ、なんとか事態が収まった頃。
GM
吹き抜ける風の涼やかさよりも、陽射しの熱が勝るようになってきた日に。
GM
煤木野灰吏は、葛火焔郎を呼び出した。
煤木野灰吏
いつも焔郎と鹿乃子が手合わせをしていた場所。
煤木野灰吏
灰吏にとっても、馴染みも思い出も深い場所に。
煤木野灰吏
儀式が終わって以来、まともに言葉を交わすのはこれが初めてになる。
煤木野灰吏
「……すみませんねえ、お呼び立てして」
煤木野灰吏
「身体の方はもう大丈夫ですか?」
葛火焔郎
ぼろぼろだった顔は幾分かマシになった。
葛火焔郎
死闘のあとは、焼け焦げて融けるほどだった拳に巻かれた包帯を残すばかり。
葛火焔郎
軽く手を上げて、待ち合わせの場所へとやってくれば。
葛火焔郎
「灰吏さんから呼ばれるの、珍しいですからね」
葛火焔郎
「かなりよくなりました。おふくろの薬、効きますし」
煤木野灰吏
あげられた手のありさまに目をやって、眉をひそめる。
煤木野灰吏
「……そう、ですか」
煤木野灰吏
「よくなっているなら、何よりです」
葛火焔郎
その視線に気付く。手を見る。
葛火焔郎
「これは俺の無茶だから」
葛火焔郎
「そんな顔しないでくださいよ」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
「俺が、初めから坊っちゃんの願いを聞いていれば」
煤木野灰吏
「無理をさせることもなかった」
煤木野灰吏
「余計な傷を負わせることも」
葛火焔郎
「それは、どうかな……」
葛火焔郎
「やっぱり鹿乃子は強かったから」
葛火焔郎
「余計な傷なんかじゃないです」
葛火焔郎
「ぜんぜん、余計じゃない」
煤木野灰吏
「……坊っちゃん」
葛火焔郎
「ん」
煤木野灰吏
「…………あー、いや」
煤木野灰吏
「違うな……」
煤木野灰吏
「…………焔郎」
葛火焔郎
「うん」
煤木野灰吏
「……悪かった」
煤木野灰吏
「申し訳ないことをした、と思ってる」
煤木野灰吏
「お前にも、藻……鹿乃子ちゃんにも」
葛火焔郎
「謝るようなこと、なんも」
葛火焔郎
「……なんもない」
葛火焔郎
「……俺が意地張ったのは、そうだから」
葛火焔郎
「……鹿乃子もそう思ってますよ」
煤木野灰吏
「いーや」
煤木野灰吏
「謝らないと俺の気が済まない」
煤木野灰吏
「後で鹿乃子ちゃんのとこにも行くつもりだ」
葛火焔郎
「言うと思った」
葛火焔郎
「律儀だな~……」
葛火焔郎
頭を掻く。
煤木野灰吏
「……俺ってそんなに分かりやすいのか?」
煤木野灰吏
「なんかさあ、最近さあ……」
葛火焔郎
「いや、だってそりゃ。にいちゃん責任感強いし」
煤木野灰吏
そんなようなことばっかり言われる気がする……とぶつぶつ呟いて
煤木野灰吏
「はいはい」
煤木野灰吏
「そうなんです」
煤木野灰吏
「もういい、それでいいから黙ってくれ」
葛火焔郎
「はは」
葛火焔郎
「本気で思ってるよ」
葛火焔郎
「真面目、勤勉、実直!」
煤木野灰吏
「うるせ…………」
葛火焔郎
「自分でいったんじゃん」
煤木野灰吏
「後悔してるよ」
煤木野灰吏
「ツッコんでくれねえんだもんな……」
葛火焔郎
「だってほんとのことだから」
葛火焔郎
「突っ込まれたいならもうちょっとずるくやるべきだったんじゃないですか?」
煤木野灰吏
「くそ~……」
煤木野灰吏
息をつく。
煤木野灰吏
「……いや、話が逸れたな」
煤木野灰吏
「俺はさ」
煤木野灰吏
「間違ってるのは俺の方なんだって、最初から多分気づいてたんだ」
煤木野灰吏
「お前がどんだけ鹿乃子ちゃんを大事に思ってたかも」
煤木野灰吏
「鹿乃子ちゃんがどんだけお前のことが好きだったのかも」
煤木野灰吏
「ずっと見てて、分かってた」
葛火焔郎
僅かに面食らったように、その言葉を受ける。
煤木野灰吏
「……お前の命があとどれ位もつのか、分からないが」
煤木野灰吏
「例えばそれが……明日でも」
煤木野灰吏
「お前は後悔しないし、彼女にもさせないようにするんだろうなって」
煤木野灰吏
「それくらいにな」
葛火焔郎
「……にいちゃんは、間違ってない」
葛火焔郎
「多分俺ももし立場が逆だったら、同じことしたと思う」
葛火焔郎
「……わがまま言ったよ、俺」
葛火焔郎
「でも、俺も間違ってない」
煤木野灰吏
「…………鹿乃子ちゃんを神様にしてたら」
煤木野灰吏
「多分、さっきみたいに笑うお前は見れてないよ」
煤木野灰吏
「だからやっぱ、俺が間違ってたんだ」
煤木野灰吏
「……そういうことにしといてくれよ」
葛火焔郎
「…………にいちゃんの頼みなら、そういうことにしとく」
煤木野灰吏
「それは助かる」
煤木野灰吏
「あんまりフォローされると俺もさ~気まずいからさ~」
葛火焔郎
「自分はフォローしたがりのくせに」
煤木野灰吏
「それはそれ」
葛火焔郎
「……俺は、でも」
葛火焔郎
「にいちゃんが、俺のこと本気で大事に想ってくれてたってわかってよかった」
葛火焔郎
「……面倒ばっかかけてたし、本家とか分家とか、そういうの」
煤木野灰吏
「え~」
煤木野灰吏
「俺はいつだって坊っちゃんを真剣に想ってたじゃないですか~」
葛火焔郎
「そういう態度だから言ってんですよ」
煤木野灰吏
「………………」
葛火焔郎
「……にいちゃんが高校卒業したあたりから、けっこう本気で」
葛火焔郎
「重荷になってんじゃないかって」
煤木野灰吏
「あ~……」
煤木野灰吏
「いや……」
煤木野灰吏
「……悪かったな」
葛火焔郎
「でも勘違いだった」
葛火焔郎
「……それがわかって、よかった」
煤木野灰吏
「まあ……はい…………」
煤木野灰吏
「いや、だって、真面目に言ったら恥ずいだろ……」
葛火焔郎
「真面目に言ってくれないとわかりませーん」
煤木野灰吏
「ぐぅ……」
葛火焔郎
「俺も好きだよ、灰吏にいちゃんのこと」
煤木野灰吏
「………………」
煤木野灰吏
「なんか…………」
煤木野灰吏
「流行ってるのか…………? 俺に告るの…………」
葛火焔郎
「ええ?」
葛火焔郎
「他に告られた?」
煤木野灰吏
「あー」
煤木野灰吏
「もういいもういい」
煤木野灰吏
「焔郎のことが大事すぎて暴走してすみませんでした」
煤木野灰吏
「これで許してください」
葛火焔郎
「最初っから怒ってないよ」
煤木野灰吏
「ちったあ怒れよな……」
煤木野灰吏
「怒らないといけないときに怒れるか、にいちゃんは心配です」
葛火焔郎
「怒れる怒れる」
葛火焔郎
「大人だからな」
煤木野灰吏
「鹿乃子ちゃんのためとかじゃなくてだぞ」
煤木野灰吏
「自分のためにだ」
葛火焔郎
「うん」
葛火焔郎
「まあ、鹿乃子のためは自分のためだし」
煤木野灰吏
「そうか…………」
煤木野灰吏
「まあ、そうだな……」
煤木野灰吏
さらっとすごいこと言うな……
葛火焔郎
真顔です。
煤木野灰吏
「あー、そうだ」
煤木野灰吏
「成人の儀が終わったら俺、里を出るはずだったんだけどさ」
煤木野灰吏
「あれなくなったから」
葛火焔郎
「え」
煤木野灰吏
「ていうか、延期だな」
葛火焔郎
「なんで」
葛火焔郎
「俺のせい?」
煤木野灰吏
「せいっていうか、まあ」
煤木野灰吏
「一緒にいてやりなさいみたいな?」
葛火焔郎
「……あ~」
葛火焔郎
「……そっか」
煤木野灰吏
「鹿乃子ちゃん連れ出すにも、引率が必要なときもあるだろ」
葛火焔郎
「うん」
煤木野灰吏
「別にデートの邪魔する気はねえけどさ」
葛火焔郎
「灰吏にいちゃんがいてくれると、嬉しいよ」
煤木野灰吏
「外じゃ高校生なんて全然ガキ扱いだからな~」
葛火焔郎
「……外めんどくせ~」
煤木野灰吏
「めんどくせー思いする価値はあるぞ」
葛火焔郎
「それは、まあ。そうかな」
煤木野灰吏
「ま、言うまでもないか」
葛火焔郎
志筑
葛火焔郎
「じゃ、灰吏にいちゃんに悪い遊びも教えてもらうか」
煤木野灰吏
「お~」
煤木野灰吏
「いくらでも教えてやる」
葛火焔郎
「にいちゃんはなんでも知ってるからな~」
煤木野灰吏
「そうだぞ~すごいだろ~」
葛火焔郎
「俺中学の頃にいちゃんの友達に弟扱いされるの嬉しかった」
葛火焔郎
「なんか、自慢のにいちゃんってかんじで」
煤木野灰吏
「お前のほうが、灰吏にはもったいないよくできた弟分だって評判だったぞ」
葛火焔郎
「え~?」
葛火焔郎
「にいちゃんのこと好きな女の子にチョコ持たされたりとかな~」
葛火焔郎
「あったな~……」
煤木野灰吏
「あったな……」
煤木野灰吏
「悪かったな、なんか…………」
葛火焔郎
「あれはなんか、今はちょっと面白い」
葛火焔郎
「あの時はわけわかってなかったけどさ」
煤木野灰吏
「おもしろいか~……?」
葛火焔郎
「悪い思い出じゃないよ」
葛火焔郎
「ただ、まあ、にいちゃん優しいから」
葛火焔郎
「俺が持って来て困った?」
煤木野灰吏
「困ったっていうか、まあ、申し訳ないなと…………」
葛火焔郎
「そういうところ」
葛火焔郎
「にいちゃんのいいところだ」
煤木野灰吏
「………………」
煤木野灰吏
「……そりゃ、どーも…………」
煤木野灰吏
頭を掻く。
葛火焔郎
そのさまを、微笑って見る。
葛火焔郎
「にいちゃんもいつか結婚とかすんのかなあ」
煤木野灰吏
「あー?」
煤木野灰吏
「まあ、するんじゃねえの」
煤木野灰吏
「親が裏で進めてると思う」
葛火焔郎
「マジですか」
煤木野灰吏
「しらんけど……」
煤木野灰吏
「多分……」
葛火焔郎
「……いいひとだといいな」
煤木野灰吏
「そうだなあ」
煤木野灰吏
「なんも分からん」
煤木野灰吏
「どっかの忍びの家のお嬢さんなんだろうなくらいしか」
葛火焔郎
「いいひとじゃなかったら嫌って言えよ」
葛火焔郎
「にいちゃんあんま嫌って言わないんだから」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
「覚えて、おく」
葛火焔郎
丸めた拳で軽く、灰吏の背を叩く。
葛火焔郎
「覚えてて」
煤木野灰吏
「…………おう」
煤木野灰吏
とはいえ公安入りを延期してもらうのに結構ゴネたからな~……
葛火焔郎
ゴネ得ゴネ得!
煤木野灰吏
努力はするが……
葛火焔郎
応援してる
煤木野灰吏
「…………ま、いい人であることを祈っててくれ」
葛火焔郎
「そりゃもう」
葛火焔郎
「にいちゃんくらい良い人でありますように」
煤木野灰吏
「なんなんだよ~……」
煤木野灰吏
ため息。
葛火焔郎
天を仰ぐ。日差しは暖かい。
葛火焔郎
「うまくいくよ」
葛火焔郎
「潺さんも見ててくれるから」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
倣うように、天を仰ぐ。
煤木野灰吏
「……そうだな」
煤木野灰吏
「は~」
煤木野灰吏
「帰るか」
葛火焔郎
「ん、もういいんですか」
煤木野灰吏
「言いたいことは言えた」
煤木野灰吏
「これ以上話してると褒め殺されそうで怖い」
葛火焔郎
「え~?」
葛火焔郎
「俺は三日三晩でもにいちゃんのかっこいいとこ話せるよ」
煤木野灰吏
「ぜっっってえ聞きたくねえ…………」
葛火焔郎
「褒められることにも慣れろよな~」
煤木野灰吏
「え~…………」
煤木野灰吏
「……あとまあ、あれだ」
煤木野灰吏
「よその家のお嬢さんを呼ぶのに、あんまり遅くなったら失礼だろ」
煤木野灰吏
「このあと鹿乃子ちゃんとも話すんだからな俺」
葛火焔郎
「鹿乃子」
葛火焔郎
「そっか」
葛火焔郎
「うん」
煤木野灰吏
「そう」
煤木野灰吏
「弟の恋人だしな~」
葛火焔郎
「こ」
煤木野灰吏
「失礼のないようにしないとな~」
葛火焔郎
「こいび」
葛火焔郎
「、……」
煤木野灰吏
「お?」
葛火焔郎
「………………………」
煤木野灰吏
「どした~?」
葛火焔郎
「どうもしてない」
葛火焔郎
「帰ろ」
煤木野灰吏
「おー」
煤木野灰吏
「焔郎の恋人に会うために帰るか」
葛火焔郎
「くそ~~」
煤木野灰吏
「はは」
葛火焔郎
ずかずかと歩き出す。
煤木野灰吏
つられて歩きだす。
煤木野灰吏
温かい日差しを受けて、やさしい風に揺られて、
煤木野灰吏
いつもの帰り道を辿る。
煤木野灰吏
焔郎と別れたあと、藻の家を訪れて
煤木野灰吏
鹿乃子を伴って、川べりを歩きながら話をした。
煤木野灰吏
成人の儀でのこと。
煤木野灰吏
鹿乃子の気持ちを無視したことへの謝罪。
煤木野灰吏
それから、彼女の大事な焔郎を傷つけたことにも。
煤木野灰吏
随分と久しぶりに、ちゃんと彼女の顔を見て話をしたような気がする。
藻鹿乃子
それらすべてに、小さく頷きながら。
大丈夫だとか、こっちこそごめんね、とか返しながら。
藻鹿乃子
久しぶりに、顔を見れて。
やっぱり嬉しい、ほんとは寂しかったから、と。
藻鹿乃子
ちょっと悪戯っぽく言った。
煤木野灰吏
悪かった、と困ったように小さく笑う。
藻鹿乃子
「あのね、はいり」
煤木野灰吏
「ん」
藻鹿乃子
「わたし前はわからなかったんだけどね」
藻鹿乃子
「今はせせらぎにとほむろに色んなこと教えてもらって、わかったことがあるの」
煤木野灰吏
「分かったこと?」
藻鹿乃子
「はいりってかっこよくてすてきなひとなんだなーって」
藻鹿乃子
「ね!」
煤木野灰吏
「……………………」
藻鹿乃子
「でも、でもでも。わたしが好きになったのはほむろで……」
煤木野灰吏
「はい…………」
煤木野灰吏
マジで流行ってるのか……?
藻鹿乃子
「いっぱい、いっぱいハードル上げちゃったんだね、はいり」
藻鹿乃子
「わたしの中のかっこいいひとハードルが……」
煤木野灰吏
「………………そうですか」
藻鹿乃子
「……わたし、ほんとは。ほんとにほむろのことが好きだったのか」
藻鹿乃子
「自信がなかったときもあった」
藻鹿乃子
「だって……わたし、何も知らないままで」
藻鹿乃子
「……ほむろしかいなかったからだよ、なんて」
藻鹿乃子
「言われたら、どうしようって思ってた」
煤木野灰吏
「…………」
藻鹿乃子
「でもちゃんと」
藻鹿乃子
「わたし、はいりがかっこいいって。すてきだってわかってて」
藻鹿乃子
「それなのに、ずっとずっとほむろがすきで……」
藻鹿乃子
「だから、わたし。はいり……」
藻鹿乃子
「ほんとに、ありがとう」
煤木野灰吏
「どういたしまして…………なのか…………?」
藻鹿乃子
「だって」
藻鹿乃子
「はいり、わたしにもっとひどい言い方できたでしょ」
煤木野灰吏
「結構ひどくなかったか……?」
煤木野灰吏
「言い方以前に……押し付けようとしてた内容がさぁ……」
藻鹿乃子
「はいり、大事なことしか言ってなかった」
藻鹿乃子
「だから、わたし。怖くても、ずっといちばん大事な気持ちを持ってられた」
藻鹿乃子
「わたしは、そう思ってるよ」
煤木野灰吏
「そうかい…………」
藻鹿乃子
「ふふ」
藻鹿乃子
「わたしが思ってるだけだから、安心してね」
煤木野灰吏
「みんなが優しくしてくるから俺はいたたまれないよ……」
藻鹿乃子
「わたしも……」
藻鹿乃子
「いたたまれない仲間、だね」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
「そうだな」
藻鹿乃子
「心強くって、助かっちゃう」
藻鹿乃子
「へへ……」
煤木野灰吏
「おー」
煤木野灰吏
「なんでも頼ってくれよ、いたたまれない仲間だからな」
藻鹿乃子
「うん」
藻鹿乃子
「いっぱい頼るし、いっぱい……遊ぼうね」
煤木野灰吏
「お二人のデートの邪魔するのはなあ」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
「こういうのが良くないのか……?」
藻鹿乃子
「ふふ」
藻鹿乃子
「そうかも?」
煤木野灰吏
「そうか……」
藻鹿乃子
「あったかくなってきたけど、風邪ひかないでね」
藻鹿乃子
「神様じゃなくなっても、はいりのこと。いつも大事に思ってるよ」
煤木野灰吏
「……ん」
煤木野灰吏
「……ありがと、鹿乃子ちゃん」
藻鹿乃子
名前を呼ばれると年相応の笑顔で笑う。
煤木野灰吏
「鹿乃子ちゃんも気をつけてな」
藻鹿乃子
「うん!」
煤木野灰吏
「泳いでんの見る度に、風邪引くんじゃねーかって俺は昔から心配だったんだよ」
藻鹿乃子
「ご心配おかけしまして」
煤木野灰吏
「お転婆なお嬢さんだったなぁ」
藻鹿乃子
「おしとやかも……がんばったでしょ、ちょっと」
煤木野灰吏
「頑張ってたな」
煤木野灰吏
「……君が焔郎の傍にいてくれて」
煤木野灰吏
「今も、いてくれるの」
煤木野灰吏
「よかったと思ってる」
藻鹿乃子
「うん……わたし、すごく幸せ」
煤木野灰吏
「本当に、よかった」
煤木野灰吏
「御祀さんには感謝してもしきれないな……」
藻鹿乃子
「せせらぎが残していってくれたものがたくさんあるの」
藻鹿乃子
「今度、はいりも見に来てね」
煤木野灰吏
「……うん」
煤木野灰吏
「そうさせてもらうよ」
藻鹿乃子
頷く。
このあたたかな風も。
川の流れも、ぜんぶ潺が見守ってくれている。
煤木野灰吏
「鹿乃子ちゃん」
藻鹿乃子
「なぁに」
煤木野灰吏
「焔郎とめいっぱい楽しんで……」
煤木野灰吏
「…………いや、」
煤木野灰吏
「三人で、いっぱい遊ぼうな」
藻鹿乃子
「うん……!」
煤木野灰吏
任されたから、だけではなく。
煤木野灰吏
小さい頃から一緒に育ってきたかわいい弟分と妹分と、
煤木野灰吏
残された時間を、一緒に、たくさん。
煤木野灰吏
楽しく、過ごそう。
煤木野灰吏
あの人が救ってくれた世界で。