2018/05/07 八崎高校-昼休み
夜高ミツル
生徒たちのお喋りが響く、昼休みの教室。
夜高ミツル
入学してから一月と少し、GW明けともなると、それなりにクラスの中でグループも形成されてくる。
夜高ミツル
夜高ミツルはしかし、その中のどれにも交わらず、
夜高ミツル
教室の隅の自分の席で一人、弁当を取り出していた。
夜高ミツル
蓋を開ければ、彩りも栄養のバランスもさして気にしてないことが一目で分かる内容。
夜高ミツル
米と、前日のおかずの炒めものと、あとは弁当用の冷食の野菜が申し訳程度に。
真城朔
そのミツルの机の上に、がさ、と中身の入ったコンビニ袋が置かれる。
夜高ミツル
そこにいたのは久しぶりに登校してきたクラスメイト。
真城朔……だっけ。
真城朔
「一週間いなかっただけなのにもう浦島だわ」
真城朔
がたがたと音立てながら前の椅子を反転させて、
夜高ミツル
あれよあれよという間に一緒に食事をする態勢が整えられていく……。
夜高ミツル
「……GW挟んでるから、気分的にはそれ以上だけどな」
夜高ミツル
今までも挨拶程度には話したことがあったけど、
真城朔
がさごそとコンビニ袋からフランクフルトパンを取り出しながら。
夜高ミツル
自然にさも友人のように話しかけられて、戸惑いを隠せずにいる。
夜高ミツル
法事とか? でもそれなら法事って言うよな……。
夜高ミツル
気にはしつつも深く追求することもなく、自分も弁当に手を付ける。
真城朔
まぐ。ミツルをぼんやり眺めながらむぐむぐ口を動かす。
夜高ミツル
いただきますは、一人暮らしを始めてから程なくして言わなくなってしまった。
夜高ミツル
自分から誰かに話したことはないのに、いつの間にかその話がクラスの中で広まってしまっていた。
夜高ミツル
その頃ちょうど真城は学校を休んでいたから、聞いていないのだろう。
夜高ミツル
”かわいそうなやつ”として扱われるのは居心地が悪かった。
だけど真城にとってはどうやら、自分はそうではないらしい。
真城朔
あぐ、と口を開けて、またフランクフルトを頬張っている。
夜高ミツル
まずくはないが、特段美味しくもないおかずを口に運ぶ。
真城朔
同じレアケースの前で言っても自慢にもなんにもならない。
夜高ミツル
「一人で三食はな……まあめんどくさいな……」
夜高ミツル
こんなにずっと向かい合って話すのは初めてだな。
真城朔
授業中の真城の背中はもとよりあまり熱心とは言い難い。
真城朔
よく潰れたり、よそ見をしたり、頬杖をついたりなどしていて、
真城朔
ごくんと口の中のパンを飲み込んでから、視線に問う。
夜高ミツル
彼とは入学時が初対面のはず、なのだが。
夜高ミツル
「……いや、まあそっちに心当たりないならいいわ」
夜高ミツル
恥ずかしくなってきた。こころなしか顔が熱い。
真城朔
逆にメロンパン齧る真城は久しぶりに登校してきたからか、ちょこちょこ女子の視線が向けられたりなどしているが。
真城朔
「誰か好きな子とかできてねーの」隅っことは言え白昼の教室で堂々と言うことではない。
夜高ミツル
ちゃんと話すの初めてなのに随分ぶっこんでくるな……。
夜高ミツル
「何って言われると、確かに遊ばれてる以外ねえけど……」
真城朔
入学から一ヶ月近く経って席も前後なのに、今更みたいにその名をなぞり。
夜高ミツル
「後ろのやつの名前くらい覚えておいてくれてもいいんじゃねえの」
真城朔
4日くらいしか休まなかったとか言ってたのに適当な言い訳をする。
夜高ミツル
本当に大して気にした様子もなく、弁当を片付ける。
真城朔
こちらも席を立ってがちゃがちゃと椅子を直している。
夜高ミツル
ミツルをそう呼んでいたのは姉のめぐるで、
夜高ミツル
その呼び名が今、目の前のクラスメイトの口から飛び出したことに、
夜高ミツル
正直、どうしたらいいのか分からずにいる。
真城朔
向きを直した自分の椅子を足で蹴り込んでいる。
真城朔
ポケットに手を突っ込んで、そのまま教室を出ていった。
夜高ミツル
総合して、なんだったんだ……という気持ちがある。
夜高ミツル
別に今までロクに話もしてこなかったのに。
夜高ミツル
なんだろう。真城もどこの輪にも入れなくて寂しかったとか?
夜高ミツル
それで席が前後で同じように一人の自分に声をかけてきたとか?
夜高ミツル
でもなんか……そういうキャラでもなさそうな気がするんだけど。
夜高ミツル
あんな風に普通にクラスメイトとして接してもらえるのは、嬉しい。
夜高ミツル
こんな風に誰かと普通に喋りながら飯食ったのいつぶりだろうなー……