2021/04/上旬 真城の髪を切った翌日

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真城朔
これもまたいつかと同じように、玄関。
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真城朔
だいぶ暖かくはなってきました。
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夜高ミツル
以前よりはだいぶ軽くなった装いで、玄関に立っている。
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真城朔
今年は札幌も桜が早いそうです。
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真城朔
けれど真城の表情はあまり明るくなく、玄関に立つミツルを見ている。
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夜高ミツル
「……」
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夜高ミツル
頭を撫でる。
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真城朔
なでられ……
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夜高ミツル
わしゃ……
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真城朔
昨日ミツルが切ったばかりの髪がわしゃになります。
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真城朔
だいぶすっきりしました。
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夜高ミツル
「……できるだけ、すぐ帰ってくる」
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真城朔
12月に髪を切りに行くミツルを見送り、2月に髪を切りに行くミツルを見送り、これもまた3回目。
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真城朔
ミツルの言葉に頷く。
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真城朔
「うん」
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真城朔
「……だいじょうぶ」
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真城朔
「まてる……」
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真城朔
こくこく……
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夜高ミツル
「ん……」
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夜高ミツル
手を離して、真城を抱き寄せる。
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真城朔
ぎゅ……
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真城朔
抱き寄せられて、真城もミツルの背中に腕を回す。
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真城朔
前より薄着になってきたので、密着感がアップ。
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夜高ミツル
体温が伝わる。
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真城朔
くっつき……
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真城朔
鼓動もなんとなく伝わるような気がする。
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真城朔
なんとなく
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夜高ミツル
そんな気がする……
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夜高ミツル
抱き寄せながら頭を撫でて……
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真城朔
撫でられると手のひらに頭をすり寄せる。
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真城朔
動物的仕草……
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夜高ミツル
ぐりぐり……
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真城朔
わしゃわしゃ
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真城朔
そうして瞼を上げると、ミツルと目が合う。
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夜高ミツル
じ、と真城を見つめて
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夜高ミツル
顔を寄せる。
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真城朔
すぐにまた目を伏せた。
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夜高ミツル
唇を触れ合わせる。
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真城朔
重なるだけの接触。
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夜高ミツル
すぐに、顔を離して
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真城朔
深くは追わず、
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夜高ミツル
名残を惜しみつつ腕を下ろす。
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真城朔
ミツルを見る。
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真城朔
腕が離される。
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夜高ミツル
「…………いって」
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夜高ミツル
「きます」
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真城朔
「……うん」
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真城朔
「いってらっしゃい……」
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夜高ミツル
頷いてドアノブに手をかける。
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真城朔
じ……
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真城朔
見ています。
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真城朔
あっ
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真城朔
手をふる……
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真城朔
小さく……
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夜高ミツル
こちらも小さく手を振りながら、外へ。
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夜高ミツル
扉を閉じる。
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真城朔
ばたん。
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夜高ミツル
肩で息をしながら、カードキーを扉に当てる。
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夜高ミツル
すぐに扉を開く。
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真城朔
「……あ」
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真城朔
「ミツ……」
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真城朔
飛びついてくることはなく、
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真城朔
けれど玄関に立って、ミツルを待っている。
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夜高ミツル
「真、城」
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真城朔
全身を小さく震わせている。
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真城朔
珍しくスマホを手に、
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夜高ミツル
ぜいぜいと息をしながら、靴も脱がずに真城に抱きつく。
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真城朔
けれどそれを置いてしまって、
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真城朔
飛びつく前にミツルに抱きすくめられた。
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夜高ミツル
「た」
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夜高ミツル
「だいま…………」
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真城朔
「ミツ」
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真城朔
「おかえり」
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真城朔
「…………」
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夜高ミツル
「ん……」
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真城朔
「おかえり……」
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真城朔
おかえり、と繰り返しながら、ほろほろと涙を落としている。
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夜高ミツル
抱きしめたまま、上がった息を整えている。
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真城朔
ミツルの首元に顔を埋める。
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真城朔
息を整えるミツルに合わせてか、小刻みに呼吸を繰り返している。
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夜高ミツル
前回までと違って雪がなかったので、走って帰ってこれた。
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真城朔
ミツルの胸元に顔を埋めてほろほろ涙を滲ませていたが……
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夜高ミツル
真城に身体を預けている……。
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真城朔
やがてゆっくりと顔を上げて、
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真城朔
少し首を傾げた。
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真城朔
「……ミツ」
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夜高ミツル
「ん~……」
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真城朔
手が上がる。
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真城朔
指先が顔に伸びて、髪に触れた。
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真城朔
「前髪」
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真城朔
「すっきり……」
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夜高ミツル
ぱち、と目を瞬かせ
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夜高ミツル
「あ」
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夜高ミツル
「うん」
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真城朔
癖のついた前髪を細い指が通る。
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夜高ミツル
「暖かくなってきたし……」
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夜高ミツル
「ちょっと短めにしてもらった」
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真城朔
「……ん」
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真城朔
「うん……」
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真城朔
頷く。
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真城朔
「いい、と」
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真城朔
「おもう」
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夜高ミツル
「ん……」
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夜高ミツル
「よかった」
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真城朔
目の端には涙を湛えたまま笑っている。
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真城朔
また頷いた。
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夜高ミツル
身体を離して、ようやく靴を脱ぐ。
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真城朔
あっ……
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真城朔
そういえばそうだった……になっている。
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夜高ミツル
実はそうだった。
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夜高ミツル
靴を揃えて廊下に上がり、改めて真城を抱きしめる。
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真城朔
ぎゅ……
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真城朔
こちらもまた背中に腕を回す。
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真城朔
髪でちくちくするかも……とか一切考えずに
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夜高ミツル
ぴったりと身体を寄せ合う。
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真城朔
あたたかい。
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真城朔
春になってきたからじゃなくて、
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真城朔
二人でいるから。
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夜高ミツル
しばらくそのままぬくもりを確かめ合う。
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真城朔
耳を寄せれば鼓動の音が、今度は確かにはっきりと。
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夜高ミツル
まだいつもより少し速い。
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真城朔
それが少し心地よい。
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夜高ミツル
いつも真城より少し高い体温も、今は更に。
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真城朔
その熱を分けてもらいながら、
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真城朔
瞼をあげて、首を傾けた。
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真城朔
「……きょう、も」
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真城朔
「お風呂」
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真城朔
「このまま?」
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夜高ミツル
目が合う。
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夜高ミツル
「……ん」
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夜高ミツル
「入るか」
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真城朔
「ん」
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夜高ミツル
真城のまるい頭を撫でる。
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真城朔
それにまた頭を寄せながら、
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真城朔
雪解けに覗く花のように笑った。