2021/07/18 昼過ぎ

noname
少しぬくまった体温がミツルに寄り添っている。
夜高ミツル
ぬくもりに身を寄せて、
夜高ミツル
それからぼんやりとまぶたを持ち上げる。
真城朔
目が合った。
真城朔
涙に濡れた睫毛をぱち、と瞬いて
真城朔
ごしごしと目元を拭う。
夜高ミツル
「真城……?」
真城朔
「う」
真城朔
「え、っと」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「おなか……」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
真城の頭を撫で、
真城朔
「ゼリーとか」
真城朔
「あった、と」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
撫でられている……
真城朔
「持って、これる」
真城朔
「あ」
真城朔
「水……」
真城朔
布団から身を乗り出し……
真城朔
ヤカンからコップに水を注いで、ミツルへと差し出す。
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「…………」
真城朔
頷いている。
夜高ミツル
受け取って、こくこくと飲み干す。
真城朔
ベッドから這い出ている。
真城朔
体温計しまわなくてよかったな……
真城朔
戸棚から取って戻ってきました。
真城朔
ミツルに渡す。
夜高ミツル
コップと交代で、体温計を受け取る。
真城朔
コップは元の場所に戻すぞ。
真城朔
涙は拭う。
真城朔
ぬぐ……
真城朔
拭っています。
夜高ミツル
心配かけてるな……。
夜高ミツル
服の下に手を差し入れて、体温計を挟む。
真城朔
「なにか」
真城朔
「食べる……?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「軽く、食おうかな……」
真城朔
「ゼリーとか……」
真城朔
「お粥」
真城朔
「くだもの……」
真城朔
「あったかいの、と」
真城朔
「つめたいの」
夜高ミツル
「んー……」
真城朔
「どっち……」
夜高ミツル
ぼやぼや……と考え……
夜高ミツル
「お粥……」
夜高ミツル
「が、いい、かな」
真城朔
こくこく頷いた。
真城朔
「お粥」
真城朔
「つくる……」
真城朔
「から」
夜高ミツル
「頼む……」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
ゆっくり頷いて、
夜高ミツル
体温計が鳴る。
真城朔
ミツルを見る。
夜高ミツル
のそ、と体温計を取って
夜高ミツル
「えーと……」
真城朔
じ……
夜高ミツル
「7度9分……」
真城朔
うーん……という顔をしている。
夜高ミツル
ちょっっとだけ下がった。
真城朔
ヤカンからコップに水を注いだ。
真城朔
それをテーブルに置き、体温計も受け取って枕元へ置いて、
真城朔
「お粥」
真城朔
「つくる、から」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「うん……」
夜高ミツル
「ありがとう」
真城朔
ごしごし……
真城朔
涙を拭いてから、頷く。
真城朔
「寝てて」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「?」
真城朔
キッチンに行きかけた足を止める。
夜高ミツル
「真城がいてくれて、助かってるよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
何度か頷いて、改めてキッチンへと向かった。
真城朔
なにやらかたことやっている気配がある。
夜高ミツル
見送って、ベッドに横たわる。
真城朔
かたこと ぐつぐつ
夜高ミツル
冬にもこうして風邪を引いて、お粥作ってもらったな……
夜高ミツル
あの時ほどは心配してない。
真城朔
すぐにミツルに助けを求める癖は変わらないが、毎日やっているだけあって手際自体はよくなっている。
夜高ミツル
問題なくできるだろう、と思うものの、どうしてもソワソワしてしまう。
夜高ミツル
心配性。
真城朔
いつも頼ってばかりだから……
真城朔
途中でちょっと戻ってきた。
真城朔
ミツルの様子を気にしつつ……
夜高ミツル
「……?」
真城朔
「あ」
真城朔
「いま」
真城朔
「煮てる……」
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
あんまり火から目を離すべきではないが……
真城朔
ないので、ミツルの脱いだ服を抱えると洗濯物入れへと移し
真城朔
ミツルの様子を気にしつつ……
真城朔
またキッチンへと戻っていく。
夜高ミツル
ぼんやりと見送る。
真城朔
あんまり変な声とかも聞こえてこない。
夜高ミツル
聞こえてこないな……
真城朔
そもそもあまり音が聞こえてこず……
夜高ミツル
静か。
真城朔
そのうち食器の音とかが多少聞こえてきてから、
真城朔
お盆に器と匙を乗せて戻ってくる。
真城朔
卵がゆ。食塩の瓶を添えて。
真城朔
テーブルによいしょと置きました。
夜高ミツル
それを眺めつつ、ゆっくりと体を起こす。
真城朔
相変わらず卵がちょっとだまになってる。
真城朔
「食べれそう?」
真城朔
煮えたばかりなので湯気が上がっています。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
ヤカンが邪魔だからちょっとどけて……
真城朔
ミツルを支え起こす。
夜高ミツル
支えられつつ、ベッドから降りてテーブルの前に。
真城朔
隣に座ります。
真城朔
気遣わしげに見ている。
夜高ミツル
湯気を立てるお粥を前に手を合わせ
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「お」
真城朔
「おそまつさまです……」
夜高ミツル
匙を手に取る。
真城朔
「味」
真城朔
「薄かったら」
真城朔
「塩、あるから」
真城朔
「それで……」
夜高ミツル
卵粥をひとすくいとって、少し冷ましつつ
夜高ミツル
「ん」
真城朔
じ……
夜高ミツル
頷いて、粥を口に運ぶ。
夜高ミツル
もぐ……
真城朔
隣で見ている……
夜高ミツル
もくもくと味わう。
真城朔
まじまじと見ている。
夜高ミツル
咀嚼して、飲み込んで
夜高ミツル
「……うまい」
真城朔
「ちゃ」
真城朔
「ちゃんと味」
真城朔
「する?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「してるよ」
真城朔
「殻とか……」
真城朔
「入ってたり……」
夜高ミツル
「入ってないよ」
真城朔
ほ……
夜高ミツル
もうひとすくい取って、口に運ぶ。
真城朔
「…………」
真城朔
「前」
真城朔
「よりは……」
真城朔
「たぶん……」
真城朔
思えば料理を教わり始めたのもミツルが風邪を引いたのがきっかけだった。
夜高ミツル
もくもくと食べながら頷いて、
夜高ミツル
飲み込む。
夜高ミツル
「うまくなった」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「教わった、し」
真城朔
「から……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「一緒に作ったもんな」
真城朔
頷いている。
真城朔
「まだ」
真城朔
「わかんないこと、多い」
真城朔
「し」
真城朔
「ミツみたいには」
真城朔
「できない」
真城朔
「けど……」
夜高ミツル
「これからも続けたらなれるよ」
夜高ミツル
また一口。
夜高ミツル
「……うまいよ」
夜高ミツル
再びそう言って、ぱくぱくと食べ進めていく。
真城朔
どこか思わしげな様子でミツルが食べるのを眺めている。
夜高ミツル
食べていく内に思ったよりも腹が減っていたことに気づき
真城朔
いっぱいたべてる……
夜高ミツル
盛られた卵粥を、きれいに食べ終えた。
夜高ミツル
「ごちそうさま」
真城朔
「おそまつさまでした」
真城朔
今度は正しいタイミング。
真城朔
「あ、薬」
真城朔
「持ってくる」
真城朔
「から」
夜高ミツル
「あ」
真城朔
常備薬を……
夜高ミツル
「うん」
真城朔
戸棚へと取りに行きます。
真城朔
どれだっけ えーと……
真城朔
あんま使わないので毎度悩む。
真城朔
これかな……
真城朔
戻ってきました。
真城朔
錠剤をミツルに渡す。
夜高ミツル
受け取る。
夜高ミツル
錠剤を取り出して、コップを持ち
真城朔
じー
夜高ミツル
ぐっと薬を飲む。
真城朔
ほっ……
夜高ミツル
こくこくと水で流し込み……
真城朔
これで安心というわけではないのだが……
真城朔
薬は薬。
夜高ミツル
飲まないよりは飲んだほうがいい。
夜高ミツル
多分。
真城朔
「洗ってくる」
真城朔
「から」
真城朔
「ミツは寝て……」
真城朔
「寝れる?」
真城朔
どうだろう……になった。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
ずっと寝てるし……
夜高ミツル
「とりあえず、横にはなってる」
真城朔
「うん」
真城朔
頷いた。
夜高ミツル
不意に、真城の頭を撫でる。
真城朔
きょと……
真城朔
戸惑い気味にミツルの顔を見る。
真城朔
撫でられ……
夜高ミツル
「うまかった」
夜高ミツル
「ありがとな」
真城朔
「う」
真城朔
「うん」
真城朔
何度か頷く。
真城朔
「……なら」
真城朔
「よかった」
真城朔
「…………」
真城朔
よかった、ともう一度繰り返して頷いている。
夜高ミツル
撫でている……
真城朔
撫でられています……
真城朔
やや浮かない表情のままではある。
夜高ミツル
満足したのか、手を離す。
真城朔
視線が思わずミツルの手を追った。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「洗い物、あとでもいいんじゃないか?」
真城朔
「え」
真城朔
「…………」
真城朔
「で、も」
真城朔
「お米」
真城朔
「くっつく……」
夜高ミツル
「それは……そうだな……」
真城朔
「…………」
真城朔
「つ」
真城朔
「漬けてくる」
真城朔
「水に……」
真城朔
お盆を取って立ち上がった。
夜高ミツル
「……あ」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
ちらりとミツルを見てから、
真城朔
ぱたぱたとキッチンへと。
真城朔
水音や食器の音が少しして……
真城朔
まあまあすぐ戻ってくる。
夜高ミツル
ぼんやりとその音を聞いていた。
真城朔
ぱたぱたとミツルの元へ。
夜高ミツル
ベッドに上がっておけばよかったな……と今更思った。
真城朔
「た」
真城朔
「ただいま……」
夜高ミツル
「おかえり」
真城朔
「…………」
真城朔
「ね」
真城朔
「寝る?」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
テーブルに手をついて、腰を上げる。
真城朔
支えます。
真城朔
よりそい……
夜高ミツル
支えられながら、再びベッドへ。
真城朔
一緒になって転がる。
夜高ミツル
ころん。
真城朔
ぴと……
真城朔
布団を引き上げて、まとめて二人でひっかぶる。
真城朔
その下でまたくっつきあっている。
夜高ミツル
うつす心配のないのをいいことに、身を寄せる。
真城朔
こういう時は人間じゃない身体でよかったとおもう……
真城朔
おもう、のだけれども
真城朔
「……エアコン」
真城朔
ぼそりと……
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「気をつけようね……」
真城朔
「……お」
真城朔
「俺も」
真城朔
「なんか……」
夜高ミツル
「…………うん」
真城朔
「ちゃんと」
真城朔
「…………」
真城朔
考えれば考えるほど自分に原因があり……
夜高ミツル
「気をつけます……」
真城朔
それを防ぐ手立てが自分にないことに気づいてきたため……
真城朔
しょんぼりしてきた。
真城朔
目の端に僅かに涙が滲む。
夜高ミツル
やんわりと、頭を撫でる。
真城朔
撫でられている……
真城朔
熱でつらいのはミツの方なのに……
真城朔
しょぼしょぼ
夜高ミツル
「お互い気をつけようということで……」
真城朔
「……う」
真城朔
「うん……」
真城朔
俯きがちに頷いている。
夜高ミツル
熱い体で真城を抱き寄せる。
真城朔
「う」
真城朔
抱き寄せられて、服越しに身体が重なる。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺は、だいじょうぶ……」
夜高ミツル
「飯、作ってもらったし」
夜高ミツル
「薬も飲んだし」
夜高ミツル
「だいじょうぶ」
真城朔
「…………」
真城朔
「でも」
真城朔
「熱……」
真城朔
しょぼしょぼぼそぼそと言い募っている。
夜高ミツル
「その内下がる……」
真城朔
「でも」
真城朔
「つらい、と」
真城朔
「思う」
真城朔
「し」
真城朔
「…………」
真城朔
「俺のせいで……」
夜高ミツル
「真城が」
夜高ミツル
「いるから、大丈夫」
夜高ミツル
そう言って、身を寄せる。
真城朔
密着する。
夜高ミツル
「真城のせいじゃ、ないよ」
真城朔
「…………」
真城朔
そうだろうか、とは思いつつも口に出せずにいる。
夜高ミツル
「真城のせいじゃない」
夜高ミツル
繰り返す。
真城朔
「…………ん」
真城朔
恐る恐るにミツルの背中に腕を回して、
真城朔
「……でも」
真城朔
「気をつけ」
真城朔
「…………」
真城朔
「……る」
真城朔
どう気をつければいいかわからなくなっている。
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「俺も、気をつける」
夜高ミツル
せめて布団だけはかけるように……と思ってから、
夜高ミツル
それでいいのか? と内心で首をひねった。
真城朔
頷き返して、ミツルの胸に顔を埋める。
真城朔
そうしてゆっくりと瞼を伏せた。
夜高ミツル
その様子を見て、ミツルも目を閉じる。
真城朔
ベッドの中で寄り添い合う。
真城朔
高くはない平温が、またミツルの熱を受けてぬくまっていくのが分かる。
夜高ミツル
今日はずっと寝てばかりではあるのだが、
夜高ミツル
そのぬくもりのおかげか、腹がくちくなったからか、
夜高ミツル
あるいはどちらもか。
夜高ミツル
思ったよりもすぐに眠気が訪れる。
真城朔
それはこうして寄り添う真城も同じで、
真城朔
二人身を寄せ合いながら、仲良くまどろみへと落ちていった。
夜高ミツル
三度、目を覚ます頃には、きっと熱は下がっているだろう。
夜高ミツル
なんとなく、そんな気がした。