2021/07/18 早朝

noname
締め切られたカーテンの隙間から朝の光が射し込む。
noname
夏の北海道は本日も大変に気温が高く、
noname
昨日も同じだったから、快適な暮らしのためにはエアコンが必要不可欠であり。
夜高ミツル
ミツルの目を覚まさせたのは、朝の光ではなくそちらの方だった。
夜高ミツル
──寒い。
noname
エアコンが冷風を吐き出す音が耳にうるさい。
真城朔
ミツルの腕の中には、くったりと眠っている真城の裸体。
真城朔
重ねた肌が、冷えた汗でべたついている。
夜高ミツル
……あー、とぼんやり思考を巡らせる。
夜高ミツル
そうだ、昨夜は。
夜高ミツル
散々に身体を重ねて、後始末もせずにそのままぱったりと寝てしまったのだ。
真城朔
ゴムやらティッシュやら散乱している……
夜高ミツル
やってしまった……
真城朔
蹴飛ばされた布団がベッドの足元でぐちゃあ。
真城朔
その中で真城は冷えた身体をミツルへと擦り寄せるが。
夜高ミツル
真城も寒かったかな、せめて布団くらいかけるべきだったな……。
夜高ミツル
ちょっと横着に足で布団を持ち上げて、
夜高ミツル
手に持ち替えると、それをひっかぶる。
真城朔
ぼふ。
真城朔
「ん」
真城朔
「んー……」
真城朔
布団を被せられて、真城がまた小さく身じろぐ。
夜高ミツル
身じろいだ身体を、改めて抱きしめる。
真城朔
抱きしめられてふにゃ、と息をつき……
真城朔
ややあってぼんやりと瞼を上げた。
真城朔
じ、とミツルの顔を見ている。
真城朔
ぼー……
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「おはよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「おはよ……」
真城朔
どこか訝しげにミツルの顔を眺めつつ……
真城朔
手を伸ばして頬に触れた。
真城朔
ぺた。
夜高ミツル
「ん~……?」
真城朔
冷たい。或いは、熱い。
真城朔
真城の手は今のミツルには冷たく、ミツルの頬は今の真城には熱い。
真城朔
ぱちぱち、と数度瞬きを繰り返して、
夜高ミツル
その冷たさが心地よくて目を伏せる。
真城朔
前髪を退け、両手でミツルの頬を包むと
真城朔
額と額を合わせて固まった。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「…………はい」
真城朔
「熱……」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「……やっぱり、ある?」
真城朔
こくこくと頷いた。
真城朔
「ある……」
真城朔
答えるとずるりとミツルの腕から抜け出す。
夜高ミツル
抜け出されて、ぼふ、と腕がベッドに落ちる。
真城朔
ミツルに布団をかけなおし……
真城朔
裸のままぺたぺたと戸棚へと向かい、体温計を取って戻ってくる。
真城朔
「これ……」
夜高ミツル
「ありがと……」
真城朔
前は間に合わなかったけど今回は使えるぞ。
夜高ミツル
受け取って、腋に挟む。
真城朔
エアコンのリモコンを取って設定温度を上げている。
真城朔
ぴぴ……
真城朔
脱ぎ散らかされていた服を適当に取って羽織っている。
夜高ミツル
その様子をぼんやりと見ながら、熱を測り終わるのを待っている。
真城朔
体裁を保つ程度に着込み……
真城朔
ミツの服は……うーんと……
真城朔
「お風呂」
真城朔
「つらい?」
真城朔
「からだ拭く?」
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
ぼんやりとした返答。
夜高ミツル
「風呂は……あとにしようかな……」
真城朔
「ん」
真城朔
また頷いている。
真城朔
「体温、出たら」
真城朔
「拭く」
真城朔
「から」
夜高ミツル
「ん……頼む……」
真城朔
頷きます。
真城朔
とりあえずゴムやらなんやらを片端から拾ってゴミ箱に集めている。
夜高ミツル
そんな中、ピピッと体温計が鳴る。
真城朔
ミツルの寝間着やタオルバスタオルも集め……
真城朔
音に反応してミツルの方を見た。
夜高ミツル
体温計を手にとる。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「38……」
夜高ミツル
ジャスト。
真城朔
眉を寄せた。
真城朔
「病院」
真城朔
「行く……?」
真城朔
体温計を受け取ります。
夜高ミツル
渡す。
真城朔
目視確認してスイッチを切った。
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
「明日になっても下がらなかったら……」
夜高ミツル
「かな……」
真城朔
「ん」
真城朔
頷き……
真城朔
「ていうか」
真城朔
「今日、日曜……」
真城朔
そうしよう……になっている。
夜高ミツル
「あ~……」
夜高ミツル
そっか……になっている。
真城朔
「身体起こせる?」
真城朔
「拭くの……」
真城朔
枕元に置いてある身体拭きシートを取った。
真城朔
普段から常備されている。自分が使われる側だが。
夜高ミツル
「だいじょぶ……」
真城朔
身を乗り出してミツルの背中に腕を回す。
夜高ミツル
真城に補助されながら、重たい体を持ち上げる。
真城朔
支え支え……
真城朔
こういう介護は得意。力があるので。
真城朔
ミツルの身体を起こすとシートを引き出して、
真城朔
それで肌を拭いていく。
真城朔
タオルでやるより……ずっと楽!
夜高ミツル
拭いてもらっている。
夜高ミツル
買ってよかったな……
真城朔
すーっとした感覚がけっこう心地よかったりするが、なんせ熱でだるい。
真城朔
いつも心地よくしてもらっているやつを今日はミツルに使っている。
真城朔
首まわりからはじめ……
真城朔
胸を拭いて 腕を取って
真城朔
指もきれいに……
夜高ミツル
火照った体を、シートが清めていく。
夜高ミツル
大人しくそれに身を委ねている。
真城朔
一枚で全身拭けるらしいけど途中で換えた。
真城朔
シャワー浴びれてないし、病人だから清潔にしたいし……
真城朔
背中もきれいにして、腰回りもちゃんと拭いて……
真城朔
上半身が終わったらベッドに横になってもらう。
夜高ミツル
促されるままに転がる。
真城朔
浮かせた脚をふきふきと……
真城朔
丹念に拭いてから、最後の一枚を出して
真城朔
「目」
真城朔
「閉じて」
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
顔をやっていく。
真城朔
とんとんと控えめに……
真城朔
おでこはちょっとぐいっとやった。
夜高ミツル
汗でべとついた額が拭われて気持ちいい。
真城朔
顔が終わったら首周りとか関節とか汗の溜まりやすそうなとこをもう一度やりなおし……
真城朔
よし。
真城朔
ミツルに布団をかぶせなおす。
夜高ミツル
「ありがと……」
真城朔
「ん」
真城朔
「服……」
真城朔
こくこく頷いてから取りに行った。
真城朔
下着と寝間着と持ってちゃっちゃと戻ってくる。
真城朔
「着れる?」
真城朔
「だいじょうぶ?」
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
じ……
夜高ミツル
頷く。
真城朔
「ん」
真城朔
うなずき返し
真城朔
服を渡します。
夜高ミツル
受け取る。
真城朔
「食欲とかは……」
真城朔
「あ」
真城朔
「水」
夜高ミツル
のそのそと着込みつつ……
真城朔
とりあえずぱたぱたとキッチンに向かった。
真城朔
コップに冷えた水を汲んで戻ってくる。
真城朔
「ここ」
真城朔
「置くね」
夜高ミツル
「ん、ありがと……」
真城朔
「布団」
真城朔
「増やす?」
真城朔
「寒くない?」
夜高ミツル
服を着終え……
夜高ミツル
「とりあえず大丈夫……」
夜高ミツル
「寒くなったら言う」
真城朔
「ん」
真城朔
頷き……
夜高ミツル
のろのろとコップに手を伸ばす。
真城朔
ちらちらとミツルの様子を気にしつつ……
真城朔
体温計を拭いて戸棚にしまうと、冷えピタを取って戻ってきた。
夜高ミツル
冷えた水を飲むと、体の内側が熱いのが分かる。
真城朔
「貼る」
真城朔
「ね」
真城朔
そのミツルに声をかけ……
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
冷えピタのフィルムを剥がすと、おでこの髪をよけて
真城朔
ぺたり。
夜高ミツル
ひや……
真城朔
ひやになりました。
真城朔
「水足りる?」
真城朔
「もっといる?」
夜高ミツル
「ん……」
夜高ミツル
「頼む……」
夜高ミツル
コップを真城に渡す。
真城朔
「うん」
真城朔
渡された。
真城朔
頷いてキッチンに戻り……
真城朔
今度は水の入ったコップとヤカンを持って戻ってきた。
真城朔
ヤカンはテーブルに置いて、コップをミツルへと手渡す。
夜高ミツル
「ありがと……」
真城朔
ヤカンを置いたテーブルをよいしょとベッドの方へと近づけ……
夜高ミツル
受け取って、ゆっくり2杯目を飲んでいる。
真城朔
こういう作業をひょいっとできる。力があるため。
夜高ミツル
ひょいとしてもらっている。
真城朔
心配そうにミツルを見ています。
真城朔
「とりあえず」
真城朔
「休んで……」
真城朔
「寝る?」
真城朔
「寝られる?」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
「俺……」
真城朔
おろ……
真城朔
視線をさまよわせている。
夜高ミツル
2杯目を飲み干して、テーブルにコップを置く。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「一緒に寝る……?」
真城朔
「み」
真城朔
「ミツが」
真城朔
「いいなら……」
真城朔
「その方が……」
真城朔
ぼそぼそ……
夜高ミツル
「真城がいると、うれしい……」
真城朔
「……ん」
真城朔
こくこく頷いた。
真城朔
そっと布団へと潜り込み、ミツルの隣へ。
真城朔
横に並んで心配そうに見ている。
夜高ミツル
隣に並んだ真城をやんわりと抱きしめる。
真城朔
抱きしめられ……
真城朔
そっと腕を回して密着する。
夜高ミツル
自分より低い体温が、心地いい。
真城朔
ただでさえ平熱が低いので、ひんやりとすら感じそうだが、
真城朔
それでも一応ちゃんと人肌。
夜高ミツル
甘えているな……と思う。
夜高ミツル
真城が風邪とか引かないのをいいことに……。
真城朔
甘えられているらしい。
真城朔
こちらはこちらで甘やかされている気分でいる。
真城朔
「俺」
真城朔
「寝てても」
真城朔
「起こしていい、から」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
「ミツのが、寝る」
真城朔
「とは」
真城朔
「思うけど……」
夜高ミツル
抱きしめたまま、目を閉じる。
真城朔
おそるおそる頭へと手を伸ばし
真城朔
髪を撫でている。
夜高ミツル
撫でられている……
真城朔
「お」
真城朔
「やす、み」
真城朔
繰り返し、繰り返し、頭を撫でる。
夜高ミツル
真城がよくやるように、すり、と手に頭を擦り寄せて
夜高ミツル
「おやすみ……」
夜高ミツル
甘えているし、頼っているし、
夜高ミツル
熱の原因が原因だけに、なんとも間の抜けた話で……
真城朔
それを全部受け入れるように、
真城朔
ミツルを抱き締めて頭を撫でている。
夜高ミツル
それが心地よくて、安心して、
夜高ミツル
さっき起きたばかりではあるけど、再びとろとろと眠りに落ちていく。
真城朔
そのままごく近くで、ミツルが寝入るさまを見守っていた。