真城朔
建物の入り口に青い立て看板がある。
真城朔
「カマイルカ」
真城朔
「親仔……」
真城朔
公開中らしい。
夜高ミツル
「親子」
真城朔
看板には写真もあり……
真城朔
大小のイルカが並んで泳いでいる様子が映っている……
夜高ミツル
「子供だ……」
真城朔
「ちっちゃい……」
真城朔
親の1/4くらい……?
夜高ミツル
ちんまりと……
夜高ミツル
つい看板を眺めてまじまじしてしまった。
真城朔
ミツルが眺めていると真城も眺め……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
看板から視線を上げ、真城の手を引いて中に入っていく。
真城朔
手を引かれていく。
真城朔
日陰……
真城朔
日陰だし建物の中は涼しいのでほっとする……
真城朔
建物の中には広いプールが。
真城朔
その側面が例によってガラス張りになっていて横から眺められる感じで……
夜高ミツル
「おー……」
夜高ミツル
その中を悠々とイルカの親子が泳いでいる。
真城朔
すい~……
真城朔
泳いでる……
真城朔
けど……
真城朔
「けっこう」
真城朔
「育った……?」
夜高ミツル
「大きくなってるな……」
真城朔
写真よりもだいぶカマイルカの子どもが大きくなっている。
夜高ミツル
大小だったのが大中くらいの感じに……
真城朔
大人の……
真城朔
半分くらいに……?
真城朔
「すくすく……」
夜高ミツル
「育ってるな……」
真城朔
「でも」
真城朔
「ちっちゃい頃から」
真城朔
「ずっと、イルカの形」
真城朔
「っていうか……」
真城朔
写真を思い返している。
夜高ミツル
「ミニイルカ……」
夜高ミツル
「海の中だと泳げるようになるまで待つとかできないだろうしな……」
真城朔
「大変……」
夜高ミツル
「最初から泳げる感じじゃないと」
真城朔
こくこく
真城朔
「哺乳類」
真城朔
「だしね……」
真城朔
すいすい泳いでるけど……
夜高ミツル
「哺乳類なんだよなー……」
真城朔
カワウソとかと違って魚みたいな形してるけど……
夜高ミツル
改めて見ると不思議……
真城朔
水面を軽くジャンプするような動きをしている。
真城朔
背びれが見えて……
真城朔
魚っぽい背びれが……
夜高ミツル
身体の形は完全に魚っぽい……
真城朔
毛も生えてなくてつるつる……
真城朔
アザラシもけっこうつるつるだったけど、イルカはよりつるつる。
夜高ミツル
ヒレにも手足っぽさが残ってない。
真城朔
親子が並んで泳いでいる様子を見ている……
夜高ミツル
「元気だなー……」
真城朔
「元気……」
真城朔
頷き……
真城朔
よいこと……
真城朔
ミツルと手を繋ぎながら、ぼんやりそのさまを眺めている。
夜高ミツル
ぼやぼや……
夜高ミツル
二匹寄り添ってすいすい泳いでいるのを……
真城朔
広々としたプールの中で軽やかに……
真城朔
ちょっとした25mプールみたいな感じの広さがある。
真城朔
この建物がそもそもこのプール専用っぽい広さ
夜高ミツル
イルカのプールしかない。
真城朔
イルカのプール それとそれを眺める人間の場所
夜高ミツル
こちらからは見えないが、左手側はショーのプールに繋がっているらしい。
真城朔
ここで待機してたりするのかも……
夜高ミツル
多分そんな感じの……
夜高ミツル
ぼんやり眺めていると、また軽くジャンプ。
夜高ミツル
身軽……
真城朔
ショーでもないのにジャンプを……
夜高ミツル
好きなのかな……
真城朔
もともとの習性なのかも……
夜高ミツル
海のイルカもジャンプしてるイメージあるしな……
真城朔
イルカといえばジャンプ。
真城朔
二人手を繋いで並んで……
真城朔
二匹で並んで泳ぐイルカを見ている……
夜高ミツル
まじまじ……
真城朔
のんびり……
真城朔
ぼやぼや……
夜高ミツル
「……そろそろ次行く?」
真城朔
「次……」
真城朔
ミツルの顔を見る。
夜高ミツル
「隣の……」
夜高ミツル
「マリンサファリ?」
真城朔
「マリンサファリ」
真城朔
復唱。
真城朔
頷いた。
真城朔
きゅ、とミツルの手を握り……
真城朔
「行こ」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
てくてく……
夜高ミツル
マリンサファリ。ひれあしの入り江。
真城朔
ひれあし……
真城朔
階段を登り……
真城朔
横に広いプールが岩場と柵でいくつかに区切られている。
夜高ミツル
プールと岩場を見下ろすような感じ。
夜高ミツル
一番手前のエリアから覗いてみる。
真城朔
でん……
真城朔
岩場のプールに張り出した場所に……
真城朔
腹這いになって転がっているあざらしがいる。
夜高ミツル
ころころ……
真城朔
日向ぼっこを……
夜高ミツル
「こっちにもアザラシが」
真城朔
天気がよく……
真城朔
「うん」
真城朔
「あざらし……」
真城朔
天気……
真城朔
そそくさ……
真城朔
リュックから帽子を引っ張り出した。
真城朔
被る……
真城朔
一応日陰ではあるけど、建物じゃなくて屋外の展示なので……
夜高ミツル
帽子があるので被った方がいい。
真城朔
被るとちょっと落ち着く。
真城朔
あざらしは落ち着いている……
真城朔
じ……
夜高ミツル
「気持ちよさそうに寝てるな……」
真城朔
手すりに近寄りつつ……
夜高ミツル
寝ているあざらし以外にも、プールの中を何匹か泳いでいる。
真城朔
ゆったりすい~っと……
真城朔
「…………」
真城朔
「お腹」
真城朔
「上にして泳ぐよね……」
夜高ミツル
「なんでだろうな……」
夜高ミツル
「上向いたり下向いたりも……」
夜高ミツル
ぐるん……
真城朔
器用に……
夜高ミツル
言っている間にも水中で一回転。
夜高ミツル
そのまますい~っと泳いでいく。
真城朔
屋外なだけあって建物の中のアザラシよりも広めなような……
真城朔
屋外だからそう感じるだけかもしれない……くらいのプールを……
真城朔
すいすいと。
真城朔
「…………」
真城朔
「平和……」
夜高ミツル
「平和だな……」
夜高ミツル
あ、寝返り……
真城朔
おなかが……
夜高ミツル
まるいお腹がでーんと晒されている……。
真城朔
「水族館の」
真城朔
「中の、よりは」
真城朔
「でも」
真城朔
「ちょっと小さい……?」
真城朔
ような……
夜高ミツル
「そうかも……」
真城朔
彼らは大層でっぷりしていた。
夜高ミツル
こっちは気持ち細いような気がする。
夜高ミツル
見ている距離の違いかもしれない。
真城朔
かも……
真城朔
迫力の横アングルだったから……
夜高ミツル
目の前を……
真城朔
上から見下ろすとなかなか牧歌的風景の趣が強く。
真城朔
「しゅっとしてる」
真城朔
「気がする」
真城朔
こっちのほうが……
真城朔
黒めの個体を指差して……
夜高ミツル
「そんな感じが……」
真城朔
「あの子とか首ある感じで……」
真城朔
他のあざらしには首がないかのような物言い。
夜高ミツル
「細いなー」
夜高ミツル
他のあざらしは胴体の上に頭が……
真城朔
「細い……」
真城朔
他のあざらしと仲良く寄り添っている……
夜高ミツル
「なんか模様とかも違う感じが……?」
真城朔
「んー……」
真城朔
「…………?」
夜高ミツル
「種類の違うあざらし……?」
真城朔
まじ……
真城朔
目を凝らし……
真城朔
ふとパンフレットを出して……
真城朔
眺め……
真城朔
「…………」
真城朔
「あ」
夜高ミツル
横から見ている。
真城朔
「アシカ……?」
夜高ミツル
「あしか」
夜高ミツル
水槽に視線を戻す。
真城朔
「たぶん……?」
真城朔
「ここ、アザラシとアシカとトドで」
真城朔
「たぶん……」
真城朔
区切られた水槽は二つ。
真城朔
隣をちらりと見ると……
真城朔
トドがいる。
真城朔
まあお前らはトドじゃろうて……って感じのトド。
夜高ミツル
向こうはトドだな……
真城朔
から……
真城朔
「アザラシとアシカが」
真城朔
「いっしょに……」
夜高ミツル
「なるほど……」
真城朔
すいすいころころしてるアザラシとアシカとを眺め……
真城朔
目を凝らしている。
夜高ミツル
よく見るとヒレの形とか結構……
真城朔
シルエットもだいぶ違う……
真城朔
「アシカ」
真城朔
「一匹だけ」
真城朔
「みたい」
真城朔
見極めていたらしい。
夜高ミツル
「一匹なのか……」
真城朔
「うん……」
真城朔
「あの子」
夜高ミツル
確かに他にはいなさそう……
真城朔
一匹しゅっとした個体……
真城朔
もといアシカを指差して……
真城朔
「以外、みんな」
真城朔
「あざらし」
真城朔
「っぽい」
夜高ミツル
指さされたアシカをまじまじと眺める。
夜高ミツル
「でも」
夜高ミツル
「あざらしと仲良さそうでよかった」
真城朔
「うん……」
真城朔
見ればアシカはあざらしとくっついたり……
真城朔
鼻先を触れ合わせたりしている。
夜高ミツル
仲良しっぽい。
真城朔
自然な感じに馴染めてる。
真城朔
「一匹だけ、だから」
真城朔
「いっしょ」
真城朔
「なんだろうね……」
夜高ミツル
「一匹だけ離すのもな……」
夜高ミツル
寂しいだろうし……
真城朔
こくこく……
真城朔
「馴染めるなら」
真城朔
「馴染める場所で……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
「ビーバーは」
真城朔
「一匹でも平気」
真城朔
「だったのかな……」
真城朔
カワウソと一緒とかじゃなかった……
夜高ミツル
「どうなんだろう……」
真城朔
檻とかプールとかの都合かもしれないけど……
真城朔
ぼんやり見下ろしている……
真城朔
なんとなく考え込んでしまっている。
夜高ミツル
一匹で泳いでたな……
夜高ミツル
「その内仲間連れてきてもらえたりとか、も、あるかも」
夜高ミツル
分かんないけど……
真城朔
「あると」
真城朔
「いいね」
真城朔
こく……
真城朔
頷き……
真城朔
あざらしと仲良くしているアシカを見ている。
夜高ミツル
こっちは違う種族で仲良し……
夜高ミツル
柵に手をついてぼんやり眺めていると……
真城朔
じ……
夜高ミツル
唸るような、なんとも言えない低い声が右手のプールから轟く。
真城朔
びく……
夜高ミツル
ヴァー、とか、ヴォー、とか、そんな感じの……
夜高ミツル
思わず声のした方を振り向く。
真城朔
ミツルと同時に……
真城朔
「トド」
真城朔
「鳴く……」
夜高ミツル
「声でか……」
夜高ミツル
柵の向こうの岩場の上に、でっぷりとしたトドが……
夜高ミツル
見ているとまた吠えた。
真城朔
ひゃあ……
真城朔
思わずミツルの手を握る。
夜高ミツル
ぎゅっと握り返す……
真城朔
「……なんか」
真城朔
「トドって……」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
「海獣……」
真城朔
「あの」
真城朔
「海の、獣の……」
夜高ミツル
頷く……
夜高ミツル
「なんかほんとにそんな感じ……」
真城朔
「アシカとか、あざらしも」
真城朔
「だけど……」
真城朔
「トドは……」
真城朔
海獣……
夜高ミツル
「まさに……」
真城朔
「海の獣」
真城朔
なんとなくトド側の方に行けずにいる。
夜高ミツル
遠巻きに眺めている。
夜高ミツル
「次行くか……」
真城朔
「うん……」
真城朔
黒いシルエットを眺めながら……
真城朔
あざらしたちと仲良くしているアシカを見る。
夜高ミツル
こっちは牧歌的……
真城朔
平和……
真城朔
よかったね……という気持ちになる。
夜高ミツル
よかった……
真城朔
ずっとなかよくね……
夜高ミツル
一緒で……けんかせず……
真城朔
平和で……
真城朔
次行くかという気持ちで建物を降りたが……
真城朔
「あれ」
真城朔
「ここ」
真城朔
「下……」
真城朔
通れる場所が……
夜高ミツル
「あー」
夜高ミツル
「こうなってるのか……」
真城朔
「横から……?」
真城朔
すす……
真城朔
入っていくと、先程のプールの部分が横から見られる感じに。
真城朔
トドは上にいたから横からはあんまり見られないけど……
真城朔
見上げると岩場の方に……
真城朔
いる…………
夜高ミツル
見える……
夜高ミツル
吠えるとそれもまだ全然聞こえる……
真城朔
ぴえ……
真城朔
足早に通り過ぎて……
夜高ミツル
そそくさ……
真城朔
あざらしとアシカの側へ……
真城朔
すい~……
真城朔
泳いでるな……
夜高ミツル
泳いでる。
夜高ミツル
横から見るとやっぱりあざらしは丸い……
真城朔
「説明」
真城朔
「ある」
真城朔
下にはあった。
真城朔
「ゴマフアザラシ」
真城朔
「カリフォルニアアシカ」
夜高ミツル
一緒にパネルを眺め……
夜高ミツル
それからまた水槽へ視線を戻す。
真城朔
青い水槽に……
真城朔
ぷかぷか……
夜高ミツル
すいすい……
真城朔
気ままに泳ぐうみのいきものたち……
夜高ミツル
気ままに平和に……
真城朔
見れば見るほど……
真城朔
よかったな……という気分になってしまっている……
夜高ミツル
よかった……
真城朔
時折唸り声が聞こえてびく……になり……
夜高ミツル
もう行くか……
真城朔
うん……
夜高ミツル
ぎゅっと手を繋いで、そそくさと建物を後にする。
真城朔
日差しの下に出ると気持ちふにゃ……になってしまう。
真城朔
くて……
夜高ミツル
あとは見てないのはペンギンくらい。
真城朔
帽子をかぶり直し……
夜高ミツル
パンフレットを広げ……
真城朔
横から見ている。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「ペンギンのとこ、中からでも行けるな」
夜高ミツル
「一回中戻るか」
真城朔
「中……」
真城朔
素直に頷いた……
真城朔
ここで押し問答をしてもそのぶん消耗してミツルを心配させるだけなので……
夜高ミツル
なるべく日陰を通りつつ本館へ……
真城朔
今まさに何らかのゲージが削られている感覚がないでもない日差しの強さ。
真城朔
夏……
夜高ミツル
夏だな……
真城朔
一旦建物の中に入って、道を通り抜け……
真城朔
やや玄関に近いところからまた出ていく。
夜高ミツル
ぽてぽて……
真城朔
ペンギン海岸へと……
真城朔
の、途中。
真城朔
「ん……」
真城朔
生臭い臭いが鼻をついた。
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
すごい……
真城朔
「なんか」
真城朔
「魚って感じの」
真城朔
「においする……」
夜高ミツル
「餌のにおい……?」
真城朔
「かな……?」
真城朔
首をひねりながら歩いていると……
真城朔
すぐに臭いが薄れる。
真城朔
夜高ミツル
マシになった……
真城朔
一体……?
真城朔
今のは……?
夜高ミツル
なんだったんだろう……
夜高ミツル
謎。
夜高ミツル
なんかあそこだけすごかった。
真城朔
不思議……
夜高ミツル
よく分からないので気にしないことにして……
真城朔
ペンギン海岸へ。
真城朔
ペンギン海岸も一応日除けあるけど……
夜高ミツル
一応……という感じ
真城朔
プールの水もきらきらしてるし……
真城朔
作られた岩山があって、プールがあって……
真城朔
岩山には穴が開いていて、そこがペンギンの巣穴になっているらしい。
真城朔
「ペンギン」
真城朔
「いっぱいいる……」
真城朔
目を眇めている。
夜高ミツル
「色々いるな」
真城朔
なんか立ち呆けているのから泳いでいるのから……
真城朔
羽繕いしてたり……
真城朔
腹ばいになってたり……
真城朔
様々。
夜高ミツル
色んなのがいる。
夜高ミツル
岩山の穴の中に引っ込んでいったり出てきたり……
夜高ミツル
あ……
夜高ミツル
地面の石に足を引っ掛け……
夜高ミツル
ちょっとわたわたしたけど転びはしなかった。
真城朔
よかった……
夜高ミツル
よかった。
真城朔
「なんか」
真城朔
「歩いてると」
真城朔
「左右に……」
夜高ミツル
「足の動きに合わせて……」
真城朔
「ゆらゆら……」
真城朔
てちてち……
夜高ミツル
「大変そうだな、歩くの……」
真城朔
「鳥って」
真城朔
「歩くの下手なのいる……」
真城朔
「すずめ」
真城朔
「とか……」
真城朔
歩けなくてぴょんぴょん跳ぶし……
夜高ミツル
「普段木の上で暮らす鳥なら、そんな上手じゃなくてもいいんだろうけど……」
夜高ミツル
「ペンギンって結構歩くイメージも……」
真城朔
「歩くと思う……」
真城朔
歩くはずなんだけど……
真城朔
ペンギンを見る。
真城朔
てち……てち……
夜高ミツル
てちてちよちよち……
真城朔
うんしょよいしょと歩いている……
真城朔
水に入ると……
真城朔
すいーっ……
真城朔
軽やか。
夜高ミツル
はやい。
真城朔
「泳ぐのは」
真城朔
「上手……」
夜高ミツル
「羽がもうひれだもんな……」
真城朔
「うん……」
真城朔
とても羽ばたけそうにない……
夜高ミツル
ぱたぱたさせてはいる。
真城朔
ぼんやり見ていると、ガラスでできた塀に張り紙が……
真城朔
『かまれます! 中に物や手を入れないで下さい。』
夜高ミツル
傷ついた手の写真も一緒に……
真城朔
隣にペンギンの嘴も……
真城朔
これで噛むぞと言わんばかりの。
夜高ミツル
噛むんだな……
真城朔
強い……
真城朔
当のペンギンを見ると、ぼんやり突っ立って羽繕いしてたりする……
夜高ミツル
よちよち歩いて……
夜高ミツル
獰猛そうな感じはない。
夜高ミツル
「……これ」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「飼育員の人の写真かな……」
夜高ミツル
手の……
真城朔
「…………」
真城朔
「じゃないかな……」
夜高ミツル
「だよな……」
真城朔
「客、が」
真城朔
「噛まれて」
真城朔
「写真使わせてくださいとかは……」
真城朔
「言えないと思う」
真城朔
「し……」
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
いくらなんでも……
真城朔
「大変……」
夜高ミツル
「大変だな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
ペンギンたちは気ままに泳いでいる。
真城朔
空を羽ばたくように翼を広げて……
真城朔
「……水族館、とか」
真城朔
「動物園の飼育員さん」
真城朔
「って」
真城朔
「動物といっしょに遊んでたり」
真城朔
「とか」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「そういうの、見ると」
真城朔
「ちょっとうらやましいけど……」
真城朔
ちょっとっていうか……
真城朔
種類によってはけっこう……
夜高ミツル
懐かれてまとわりつかれてたり……
真城朔
おっきい動物だと大変そうだけど……
夜高ミツル
「表に出ない部分はめちゃくちゃ大変なんだろうな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「なまぐさかったり……」
夜高ミツル
「フンの始末とか……」
真城朔
「餌食べてくれなかったり……」
夜高ミツル
「怪我も……」
夜高ミツル
トドとか、パネルによるとオスは700kgとかあるらしいし……
夜高ミツル
ぶつかられたり乗られたりしたら……
真城朔
ほぼモノビーストの世話を……
真城朔
ペンギンたちはかわいらしい。
真城朔
てちてち歩いてのびのびしてて……
真城朔
すいすい泳いで……
真城朔
人を噛むと怪我をさせる
夜高ミツル
アクリル越しに見ている分には平和。
真城朔
手を入れなければ平和……
真城朔
平和だけど……
真城朔
陽射しは強い。
夜高ミツル
日除けがあるとはいえ、結構ずっと屋外で見ている……
真城朔
どうしても……
真城朔
外の施設が後に集中してしまいがち。
夜高ミツル
「暑いなー……」
真城朔
順路に従ってきたため……
真城朔
「ん……」
真城朔
「夏……」
夜高ミツル
「ちょっと中戻るか」
真城朔
「…………」
真城朔
「うん……」
真城朔
ペンギンたちは元気だけど……
真城朔
でも巣穴に戻っていく個体も結構いる。
真城朔
てちてち歩いて……
夜高ミツル
アパートみたいだな……
夜高ミツル
手を繋いで、ミツルたちも本館へ戻っていく。
真城朔
途中生臭さに襲われつつ……
真城朔
一瞬だけすごい臭う。
夜高ミツル
何?
夜高ミツル
なんかそういうゾーンがある。
真城朔
謎……
夜高ミツル
そういうゾーンを抜けて本館へ……
真城朔
中は涼しい。
真城朔
冷房がよくきいている……
夜高ミツル
ほ……
真城朔
休憩スペース的な場所があり、そこに腰掛ける。
真城朔
くったり……
真城朔
ミツルの肩に頭を預けている。
夜高ミツル
「お茶飲むか?」
夜高ミツル
リュックからペットボトルを取って差し出す。
真城朔
「……ん」
真城朔
頷き……
真城朔
「ありがと……」
真城朔
受け取って蓋を開ける。
真城朔
のんびりもたもた……
夜高ミツル
開けて渡せばよかった……
真城朔
のんびりお茶を飲んでいます。
真城朔
一口二口……
真城朔
一口ごとに口を離しては休んでいる。
真城朔
両手でペットボトルを持って……
夜高ミツル
バテてるな……
夜高ミツル
パンフレットでぱたぱた仰いでいる。
真城朔
バテてる割にはそんなにいっぱいはお茶を飲まずに……
真城朔
「ミツ」
真城朔
「は?」
真城朔
ミツルの顔を見る。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「飲む」
真城朔
「ん」
真城朔
差し出す。
真城朔
蓋はあいたまま……
夜高ミツル
仰ぐ手を一旦止めて、ペットボトルを受け取る。
真城朔
渡し……
夜高ミツル
口をつけて、こくこくと喉に流し込む。
夜高ミツル
飲み始めると結構喉渇いてたな……って気づくやつ。
真城朔
あぶない……
真城朔
のんびり館内を見回しつつ……
真城朔
くっつきぼんやり
夜高ミツル
一度口を離したが、残りが中途半端だったのでそのまま飲み干してしまう。
真城朔
ぐいーっと……
夜高ミツル
からっ
真城朔
いっぱい水分補給した。
夜高ミツル
蓋ももらって閉める。
夜高ミツル
後で捨てよ……
真城朔
ぼんやりくっついて時間を過ごし……
真城朔
てはいるが、一応予定がある。
夜高ミツル
15時半からのイルカショー。
真城朔
人が少ない日だから、席取りに不安はないけど……
夜高ミツル
ないけど、のんびりしすぎて遅れるとよくない。
夜高ミツル
ちら、とスマホで時間を確認する。
真城朔
「何時?」
夜高ミツル
「15分」
真城朔
「もうちょっと……」
真城朔
「…………」
真城朔
「行く?」
真城朔
首を傾げる。
夜高ミツル
「大丈夫そうか?」
夜高ミツル
真城の様子を窺う。
真城朔
「うん」
真城朔
頷く。
真城朔
「休んだし……」
真城朔
「平気」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷いて立ち上がる。
真城朔
立ち上がり……
真城朔
手を繋いでてくてくと……
夜高ミツル
途中の自販機で空のペットボトルを捨て……
夜高ミツル
新しいお茶も買った。
真城朔
水分。
夜高ミツル
だいじ。
真城朔
イルカショーのスタジアムはカマイルカの親子が展示されていた場所の……
真城朔
上?
真城朔
裏側?
真城朔
むしろカマイルカが裏側……?
真城朔
まあそんな感じの場所。
夜高ミツル
外の施設の中では一際大きいように見える。
真城朔
イルカショーはやはり花形……
真城朔
客席の大きなスタジアムという感じ。
真城朔
舞台と言える場所にプールがあり……
真城朔
イルカが泳いでいる。
夜高ミツル
もういる……
真城朔
「客席」
真城朔
「前の方」
真城朔
「水、かかるって……」
真城朔
線が引いてある。
真城朔
ここより前は……みたいな。
夜高ミツル
座席の色分けもしてある。親切。
夜高ミツル
「後ろの方行くか」
真城朔
「うん……」
真城朔
旅暮らしで濡れたくない。
真城朔
後ろの方でちょうどいい座席を探しつつ……
真城朔
探しつつも何も、平日なので人が少なくて選び放題なのだが……
真城朔
入り口の近くではちょっとした軽食も売っていた。
夜高ミツル
なんか色々売店だな~って感じの軽食があって……
真城朔
ホットスナック的なメニューが……
夜高ミツル
ミツルたちも気になったものを一つ買ってきた。
夜高ミツル
それを手に、空いている座席に腰を下ろす。
真城朔
並んで腰掛け……
真城朔
人が少ない平日とは言え、流石にイルカショーともなるとちょこちょこ観客が。
真城朔
でも全然スペース開けて座れる余裕はある……
夜高ミツル
よかった……
真城朔
それはそれとしてくっついている。
夜高ミツル
身体を寄せ合いつつ、輪ゴムで留められた透明なパックを開ける。
真城朔
買ってきたのはのどぐろサンドとかいう……
真城朔
不思議な……
夜高ミツル
聞き慣れない魚の……
真城朔
ホットドッグのソーセージの部分にのどぐろのフライが挟まってる。
真城朔
なんか……
真城朔
赤いひれっぽい部分の存在感がある……
真城朔
タルタルソースたっぷり。
夜高ミツル
フライは3匹分入ってて、なかなか存在感がある。
真城朔
飛び出てる……
夜高ミツル
サンドを手にとって、まずは一口……
真城朔
じ……
夜高ミツル
かじり……
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
見ています。
夜高ミツル
うまいけど……なんか……
夜高ミツル
もぐもぐしながら真城の口元にも差し出す。
夜高ミツル
あーん……
真城朔
口を開く。
真城朔
あー……
真城朔
ぱくり……
真城朔
小さめの一口。
夜高ミツル
並んで一緒にもぐもぐと……
真城朔
もごもぐ……
真城朔
味わっている……
夜高ミツル
していたが、先にミツルが飲み込んで……
真城朔
んー……
夜高ミツル
「魚のフライ……」
真城朔
こくこく……
真城朔
もぐもぐ
夜高ミツル
「魚のフライのサンド……」
真城朔
飲み込み……
真城朔
「タルタルソースの」
真城朔
「味……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「うまいけど……」
夜高ミツル
「のどぐろの味はよく分かんないな……」
真城朔
「うん……」
真城朔
「魚」
真城朔
「薄い……」
夜高ミツル
「薄いなー」
夜高ミツル
うまくはある……
真城朔
おいしいけど……
真城朔
「のどぐろ……」
真城朔
「なんか」
真城朔
「繁殖に成功したとかいう……」
真城朔
水族館の中にあった。
夜高ミツル
「いっぱいいたやつ……」
真城朔
繁殖? 人工孵化?
真城朔
赤いのがいっぱいいて……
真城朔
それが……
真城朔
こうしてフライに……
夜高ミツル
されている……
夜高ミツル
食べ進めてみてもやっぱりのどぐろの味はよく分からなかった。
真城朔
わからない……
真城朔
ちょこちょこ食べさせてもらったけど……
夜高ミツル
二人でわからない……になった。
真城朔
わからないまま味わってしまった。
夜高ミツル
おいしくはあった。
夜高ミツル
ごちそうさまでした。
真城朔
食べ終わって手を合わせていると……
真城朔
「あ」
真城朔
なにやらにぎやかげな音楽が鳴り始め……
夜高ミツル
二人でプールに注目する。
真城朔
トレーナーさんらしき人がステージに立って……
真城朔
「イルカショー」
真城朔
「始まる」
真城朔
「っぽい?」
夜高ミツル
「かな」
真城朔
イルカたちが……
真城朔
並んで水面をジャンプして……
真城朔
三匹ずつ同時に……
真城朔
ばっちりタイミングが揃っている。
夜高ミツル
おお……
夜高ミツル
都度指示している感じでもなさそうなのに……
真城朔
イルカ同士、ぴったり息が合っている。
真城朔
ひととおりジャンプを繰り返した後はステージの方で飼育員さんに餌をもらっている……
夜高ミツル
イルカたちが餌をもらっている間に、マイクを持った飼育員さんが始まりの挨拶をしている。
夜高ミツル
そのままなめらかにイルカの紹介へ……
真城朔
「あ」
真城朔
「カマイルカ」
真城朔
「さっきの親子の……」
夜高ミツル
「さっきの」
真城朔
カマイルカがぴょーんと水面を跳び……
真城朔
くるくる回って……
真城朔
ばしゃんと着水。
夜高ミツル
おお~……
真城朔
観客が少ないなりに歓声があがる。
真城朔
飼育員さんが説明をしている間も……
真城朔
息を揃えて軽やかに跳んで……
真城朔
「ドルフィンジャンプ……」
夜高ミツル
「売店の……」
夜高ミツル
名前がそうだったな……
真城朔
そんな感じでショーが始まっていく。
真城朔
逐一イルカたちが飼育員さんに餌を貰いに行くのが見える……
真城朔
水面からちょっとだけ顔を出して……
真城朔
口をぱくぱくさせて……
夜高ミツル
もらったら水の中に戻っていってる。
真城朔
かと思えば水面の上に身体を大きく出したり。
真城朔
縦に……
真城朔
「すごい……」
真城朔
姿勢を維持……
夜高ミツル
「すごいな……」
夜高ミツル
「ジャンプはまだ分かるけど……」
真城朔
「なんか」
真城朔
「体幹が……」
真城朔
イルカの体幹……?
夜高ミツル
体幹がしっかりしている……
真城朔
姿勢を保つ力がつよい
真城朔
「…………」
真城朔
ショーのイルカの並んで跳ぶ様子など眺めつつ……
真城朔
「やっぱ」
真城朔
「すぐ、飼育員さんとこ」
真城朔
「戻ってくね」
夜高ミツル
「毎回ご褒美もらいにいってるな」
真城朔
「褒めてもらってる……」
真城朔
えさをもらったり……
真城朔
飼育員さんが差し出した手にちょんと触れたり……
夜高ミツル
なかよさそう……
真城朔
「甘えてる」
真城朔
「みたい……」
真城朔
プール際でわちゃわちゃと……
夜高ミツル
「だなあ」
真城朔
飼育員さんは身振り手振りで指示を出したりとかしている……
真城朔
ショーじたいもマイクを持って解説する飼育員さんとイルカに指示を出したりご褒美をあげて戯れている飼育員さんとで……
真城朔
役割分担。
夜高ミツル
解説の人はずっと解説してる。
真城朔
甘やかしながらじゃ解説できない……
真城朔
のんびりイルカショーを見ていたが……
真城朔
そのうちイルカが飼育員さんの指示に従い、
真城朔
プールから上がってステージに腹ばいになった。
真城朔
器用……
夜高ミツル
すいー……っと
真城朔
ぴちぴち……
夜高ミツル
イルカの身体の解説が始まるらしい。
真城朔
三匹のイルカがステージ上でお腹を見せて……
真城朔
ひれをぱたぱたと動かし……
真城朔
飼育員さんが……
真城朔
マイクを片手にイルカの……
真城朔
色んな場所を……
真城朔
指差して……
夜高ミツル
色んな……
夜高ミツル
えっそこまで?
真城朔
あわわ……
真城朔
イルカは私達と同じ哺乳類です……
真城朔
そうですね……
夜高ミツル
哺乳類の……
真城朔
イルカはおとなしくステージに横たわっている。
真城朔
ぴちぴち……
夜高ミツル
こちらはなんとなく気まずい気持ちになってしまう……
真城朔
餌をもらってる……
真城朔
陸上にいても……
夜高ミツル
餌もらえたのはよかったな……
真城朔
身体の解説が終わり、
真城朔
飼育員さんの合図とともに、イルカが三匹同時に……
真城朔
プールへとばしゃーん。
真城朔
息の合った動きで……
夜高ミツル
戻っていった……
真城朔
なんとなく……
真城朔
ほっとしてしまう……
夜高ミツル
そんな二人をよそに、ショーは進んでいく……
真城朔
ガラスの側に寄ってきたイルカが……
真城朔
頭の上の鼻から空気を出していたり……
真城朔
ぷくぷく
夜高ミツル
おお……
夜高ミツル
途中お客さんを交えての体験コーナーがあったり。
真城朔
平日なので子どもが少なくて、普通に大人も呼ばれてた。
夜高ミツル
小さい子がイルカの身体に触らせてもらっている。
真城朔
よかったね……
夜高ミツル
感想を聞かれて、つるつるしてると言っていた。
真城朔
見た目通り。
夜高ミツル
濡れたイルカの身体はつるつるぴかぴかしている。
真城朔
つるつるぴかぴかしている身体が……
真城朔
プールの上でお腹を見せて横たわっていた様子は……
真城朔
なんか……だったから……
夜高ミツル
さっきの……
真城朔
腹這いだとまだまし。
真城朔
まだなんか……どうにでもなりそうな感じだから……
夜高ミツル
無防備すぎない。
真城朔
安心する……
真城朔
「ずっと」
真城朔
「おとなしいね……」
真城朔
お客さんに触られているイルカ……
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
歯まで触らせてる……
夜高ミツル
「歯とか触っても大丈夫なんだな……」
真城朔
「ペンギンは噛むけど……」
夜高ミツル
「ショーでお客さん相手にできるくらい噛まないんだよな……」
夜高ミツル
「かしこい」
真城朔
「あ」
真城朔
「お客さんの合図も」
真城朔
「聞けたりするんだ……」
夜高ミツル
飼育員さんが教えた仕草をお客さんが真似して……
夜高ミツル
イルカはそれを見てヒレを動かしている。
真城朔
初対面だろうに……
夜高ミツル
ちゃんと言うことを……
真城朔
かしこい。
真城朔
かしこいイルカが……
夜高ミツル
かしこいイルカの……
夜高ミツル
なんだか折に触れて気まずくなってしまう……
真城朔
インパクトが……
真城朔
お客さんを招くコーナーが終わった。
真城朔
終わって、あとはイルカが芸を見せるコーナーが再び……
真城朔
またノリのいい音楽とともに……
真城朔
前の列の方に水しぶきが……
夜高ミツル
イルカたちがぴょんぴょんとジャンプし始める。
真城朔
「息」
真城朔
「揃ってるね」
真城朔
「ずっと……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「なんか、こう」
真城朔
「すごーく高く飛ぶ」
真城朔
「とかじゃ、なくて」
真城朔
「一緒……」
夜高ミツル
「同じくらいの高さに毎回……」
真城朔
「統率が……」
真城朔
統率……?
夜高ミツル
普通にジャンプするだけでなく、身体に捻りを加えながら跳んだりしている。
夜高ミツル
ざっぱーんと大きく水しぶきが上がる。
真城朔
ばっしゃーん……
真城朔
歓声。
夜高ミツル
これは前は濡れるな……
真城朔
濡れそう……
真城朔
後ろの方でよかった。
夜高ミツル
濡れたら困る……
夜高ミツル
見ていると、飼育員さんが棒の先に輪っかのついたものをプールの上に掲げる。
真城朔
これは……
夜高ミツル
かなり高い位置で輪っかを静止させて……
真城朔
もしかせずとも……
夜高ミツル
そこに……
夜高ミツル
ぴょーんと、イルカが輪をくぐり抜ける。
真城朔
「わ」
真城朔
「すごい……」
真城朔
ぱしゃーん……
夜高ミツル
「おー……」
夜高ミツル
「かなり高かったのに……」
真城朔
「しなやかに……」
夜高ミツル
「すごいな……」
真城朔
「すごい」
真城朔
頷きあっている。
夜高ミツル
輪っかくぐりのあとは、一層派手なジャンプが披露されていく。
夜高ミツル
くるくるっと回転してから着水したり……
真城朔
畳み掛けるような勢いで……
真城朔
「イルカの」
真城朔
「シンクロナイズドスイミング……」
夜高ミツル
「息が合ってる……」
真城朔
ただ漫然と跳んでいるだけではなく……
夜高ミツル
タイミングも位置もきれいに揃えて……
真城朔
最後にひときわ気合の入ったジャンプを何匹かで一斉に決めて……
真城朔
ざっぱーん。
夜高ミツル
水しぶきもひときわ派手に上がる。
真城朔
歓声。
夜高ミツル
おー……
真城朔
同時にトレーナーさんがマイクを持って……
真城朔
今ので終わりらしい。
真城朔
拍手。
夜高ミツル
ぱちぱちぱち
真城朔
海の話をしている……
真城朔
イルカもまたステージの上に……
真城朔
ちゃんと腹這いで……
夜高ミツル
挨拶してくれに……
真城朔
また陸の上でも器用に滑って並んで……
真城朔
飼育員さんに合わせてひれを振って……
夜高ミツル
飼育員さんの終わりの言葉とともに、また拍手が上がる。
真城朔
二人も拍手をして……
真城朔
ざわざわと観客が退場の準備を。
真城朔
イルカも戻っていったり餌をもらっていたりしている……
夜高ミツル
気ままな時間になってる。
真城朔
おつかれさまでした。
夜高ミツル
「すごかったなー」
真城朔
「すごかった」
真城朔
「イルカ」
真城朔
「かしこい……」
夜高ミツル
「身体能力も……」
真城朔
「きれいに息あわせて動いて……」
夜高ミツル
「動きがきれいに揃って……」
真城朔
「練度が……」
夜高ミツル
「たくさん練習してるんだろうな……」
真城朔
「すごい……」
真城朔
他の観客たちがスタジアムを去っていく中、
真城朔
のんびり座って話している。
真城朔
急ぐことない……
夜高ミツル
退場を急かされなければ、他のお客さんが出ていくのを待ったりしがち。
夜高ミツル
人がはけてからのんびり出る。
真城朔
手を繋いで……
真城朔
「イルカ」
真城朔
「飼育員さんのこと」
真城朔
「好きなんだなって」
真城朔
「思った」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「餌もらうだけじゃなくてな……」
真城朔
「褒められて」
真城朔
「嬉しそうだったし……」
夜高ミツル
頷いている。
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「仲いいんだな」
夜高ミツル
客席を降りて、改めて水槽に目をやる。
真城朔
「うん」
真城朔
ミツルに誘われるように視線を水槽へ。
夜高ミツル
今は気ままに泳いでいるのが見える。
真城朔
たのしそう……
夜高ミツル
すいすい……
真城朔
自由。
夜高ミツル
眺めていると、近くまで来て泳いでいったりする。
夜高ミツル
「サービスしてくれてる……?」
真城朔
水槽のほうに寄りつつ……
真城朔
「そう」
真城朔
「かも……」
真城朔
すいすい~……
真城朔
視線で尾びれを追いかける。
夜高ミツル
なんとなく手など振ってみる。
真城朔
手を振り返してくれる……
真城朔
などということはなく、イルカはきままにすいすいと。
夜高ミツル
だろうな~
真城朔
眼中になさそう。
真城朔
ショーは終わり。
真城朔
今は自分たちが勝手に見ているだけ。
夜高ミツル
勝手に見て、近づいてきたのを見て勝手にサービスしてもらった気分になったりした。
真城朔
ちょっとしたマナー違反かも……
真城朔
そんなことはないが……
夜高ミツル
楽屋裏に見に来てしまったような気分がなくはない……
真城朔
イルカのフリータイムに……
夜高ミツル
ぼんやりしてると、スタッフの人が客席の清掃にやってきたらしき様子。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「そろそろ行くか」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷く。
真城朔
「次は……」
夜高ミツル
「あとは……」
夜高ミツル
パンフレットを開く。
真城朔
覗き込み……
夜高ミツル
「にいがたフィールドってのがあるっぽいけど……」
真城朔
「にいがたふぃーるど」
夜高ミツル
「新潟の里山環境を再現……らしい」
真城朔
「水族館……?」
夜高ミツル
緑に囲まれた池のような写真が載っている。
夜高ミツル
めちゃくちゃ屋外。
夜高ミツル
日除けもなさそう。
真城朔
いかにも外。
真城朔
夏。
夜高ミツル
結構広くて……
真城朔
うーん……
夜高ミツル
「……出口の近くだから」
夜高ミツル
「とりあえず出口の方行ってみるか」
真城朔
「うん……」
真城朔
こくこく……
真城朔
頷いた。
真城朔
二人で手を繋いでドルフィンスタジアムを出て……
夜高ミツル
本館の中に戻る。
真城朔
そのままちらっとにいがたフィールドとやらの方を見てみるが……
真城朔
屋外で……
真城朔
自然って感じで……
夜高ミツル
水族館……?
真城朔
うーん……
夜高ミツル
まあ……
夜高ミツル
いいか……
夜高ミツル
いきものがいるという情報も書いてないし……
真城朔
いいか……になり、スルーした。
夜高ミツル
自然、南下してくる途中で散々見たし……
真城朔
というわけで、最後は売店に。
真城朔
ぬいぐるみがいっぱいある……
夜高ミツル
ぬいぐるみが塔のように積まれている。
真城朔
色とりどりのぬいぐるみが……
真城朔
なんかこの水族館で見た覚えのない生き物も居る気がするが……
夜高ミツル
ラッコとか……
夜高ミツル
ジンベエザメとか……
真城朔
見た覚えがない……
真城朔
「やっぱ」
真城朔
「ぬいぐるみ」
真城朔
「いっぱい……」
真城朔
買うわけにはいかないものナンバーワン。
夜高ミツル
「色々あるな……」
真城朔
「定番……」
真城朔
大きなものから小さなものまで。
夜高ミツル
「皆川さんこういうの好きだったりしないのか?」
夜高ミツル
「子供っぽいかな……」
夜高ミツル
小さいのなら持っていけそう……と手のひらサイズのぬいぐるみを触ったりしている。
真城朔
「うーん……」
夜高ミツル
あざらし。
真城朔
「病院には」
真城朔
「あんまり持っていかなかった……」
真城朔
「積み重ねが……」
夜高ミツル
「あー……」
夜高ミツル
なるほど……
真城朔
お花はむしろ枯れるからこそいいみたいな……
真城朔
ずっと入院してると……
真城朔
「今、は」
真城朔
「いいかも」
真城朔
「だけど」
真城朔
「どうかな……」
真城朔
「さんくちゅありの部屋」
真城朔
「広く、なさそう」
真城朔
「だから」
真城朔
「小さいやつ……」
夜高ミツル
「そうだなあ……」
真城朔
「マスコット的……」
真城朔
ちんまりしたやつとか……
真城朔
「あとは」
真城朔
ちら……
真城朔
見回し……
真城朔
「トートバッグ、とか」
真城朔
「ハンドタオル」
夜高ミツル
「あー」
真城朔
「しおり……」
夜高ミツル
「良さそう」
真城朔
「手ぬぐい……」
真城朔
実用系……
夜高ミツル
「タオルとか手ぬぐいとかいいかもな」
真城朔
「かわいすぎない感じの……」
真城朔
ほどよくセンスの……
真城朔
そんな感じでああだこうだしつつ……
真城朔
いい感じのグッズを見繕えた。
夜高ミツル
彼女の好みを知らないので、だいぶ真城の意見を参考にした。
真城朔
俺もちょっと自信ないけど……
真城朔
そうして水族館を去る頃にはまあまあ夕方。
真城朔
とはいえ、まだまだ日は高い。
夜高ミツル
傾いてきてはいるけども……
真城朔
「日が沈むまでは」
真城朔
「もっとかかるね」
真城朔
ハンターをやっているとそのあたりの感覚が正確になる。
夜高ミツル
「だなー」
真城朔
「どうしよ」
夜高ミツル
「あの、昨日調べたとこ」
夜高ミツル
「海の家?」
真城朔
「あ」
夜高ミツル
「あそこ行ってみるか」
真城朔
「おしゃれな感じの……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
スマホで改めて場所を確認し……
夜高ミツル
「海沿いにちょっと歩いていったら着けそう」
真城朔
「とりあえず」
真城朔
「海の方から行ってみよっか」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
スマホをポケットにしまって歩き出す。
真城朔
道路沿いに……
真城朔
海はなんとなく見えてるんだけど、いざ海に出るまでは軽く歩く。
夜高ミツル
横断歩道を渡り……
真城朔
車をやり過ごし……
夜高ミツル
海沿いの駐車場に思いのほか車が停まっているのを横目に……
真城朔
海へ出……
真城朔
海……
真城朔
海だけど……
真城朔
海浜って感じじゃない。
夜高ミツル
「うわ」
夜高ミツル
風に煽られて思わず声が出る。
真城朔
「潮風が……」
夜高ミツル
「つよい……」
真城朔
うーんと……
真城朔
「あっち」
真城朔
指差す。
真城朔
「あっちの方」
真城朔
「砂浜」
真城朔
「っぽい……?」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
このあたりはだいぶコンクリートというか……
真城朔
堤防的な……
夜高ミツル
砂浜の方に歩いていく。
真城朔
海は海でもなんか違う感じだけど……
真城朔
手を繋いでてくてくと……
真城朔
てく……
真城朔
ぼす……
夜高ミツル
「……結構」
夜高ミツル
「草が」
夜高ミツル
生えてる……
真城朔
「海沿いなのに……」
真城朔
塩でだめになりそうな印象なんだけど……
夜高ミツル
「意外と……」
夜高ミツル
歩いていくと、海の家らしきカラフルな建物が並んでいるのが見える。
真城朔
おお……
夜高ミツル
「結構、確か」
夜高ミツル
「奥の方に……」
真城朔
ざくざくと砂浜を乗り越えつつ……
夜高ミツル
海の家の傍はコンクリートで道があったので、そこに上がる。
真城朔
歩きやすくなった。
夜高ミツル
ちゃんと地面が硬い。
真城朔
道を作るというのが大事だとわかる。
夜高ミツル
辺りの海の家を見渡す。
夜高ミツル
この辺はいかにも海の家……って感じで
夜高ミツル
ご近所さんらしきおじさんが酒を飲んでたりする。
真城朔
なかなかこう……
真城朔
ワイルド。
真城朔
店の奥が色んなものでごちゃついているのが見える……
夜高ミツル
この辺じゃないな……
夜高ミツル
先の方へと道を進んでいく。
真城朔
てくてく……
夜高ミツル
いくつか似たような店を通り過ぎ……
真城朔
結構進む。
夜高ミツル
結構歩くな……
夜高ミツル
結構歩き、通り過ぎたか……? とちょっと不安になってきた辺りで
夜高ミツル
「あ」
真城朔
「ん」
真城朔
ぱちくり……
夜高ミツル
看板が出ている。
夜高ミツル
スマホを取り出し、店の名前を確認し……
夜高ミツル
「ここだ」
真城朔
「おお……」
真城朔
なんか今までの海の家とずいぶん毛色の違う感じの建物。
夜高ミツル
ガラス張りで内装もおしゃれな感じ。
真城朔
スタイリッシュ……
真城朔
ベランダ的な外の席もある。
夜高ミツル
平日だからか奥の方だからか、その両方か、全然お客さんがいない。
真城朔
ありがたくはある。
真城朔
折りたたみの日傘をしまって中へ。
夜高ミツル
奥から店員さんが出てきて案内してくれる。
夜高ミツル
テーブルと座敷の希望を聞かれたので、座敷に通してもらった。
真城朔
靴を脱いで……
真城朔
足を伸ばせる席。
真城朔
海が見える。
夜高ミツル
壁際に足のないソファみたいなのと、クッションもいくつか。
真城朔
開放的なカフェスペースで……
真城朔
今はドリンクメニューだけらしい。
真城朔
スマホで注文できるとか……
夜高ミツル
QRコードを読み込んで……
夜高ミツル
お~……
真城朔
「すごい……」
夜高ミツル
「こんなん初めて見た」
真城朔
「現代」
夜高ミツル
「すげ~」
真城朔
分けて注文する必要はないので、同じ端末で一緒にドリンクを選ぶ。
夜高ミツル
なんかおしゃれなドリンクがあったのでそれにした。
真城朔
オレンジジュレスカッシュとかなんとか……
真城朔
口の広いおしゃれな瓶って感じのグラスに入って出てくる。
夜高ミツル
ミツルはキウイジュレにした。
真城朔
おいしい。
真城朔
のんびりと飲み物を飲みつつ……
真城朔
日が沈むまではもう少し……
真城朔
「このお店」
真城朔
「夜には閉まるみたいだし」
真城朔
「ほどほどで、海の方……」
夜高ミツル
少しずつ空の色が変わっていっている。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「日没までだもんな」
夜高ミツル
営業時間が。
夜高ミツル
そのようになっているらしい。
真城朔
海の家らしい感じ。
真城朔
「日没、より」
真城朔
「ちょっと前に、出ちゃおっか」
夜高ミツル
「あんまりギリギリになるとだもんな」
真城朔
「うん」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
見えるところに自分たちしか客がいないので……
真城朔
ちょっともうしわけない……
夜高ミツル
そのために遅くまで対応させるのはさすがに。
真城朔
ドリンクしか頼んでないし……
真城朔
頼めないんだけど……
真城朔
黒くて太いストローでジュレをかき混ぜている。
真城朔
海が見える。
夜高ミツル
ランチタイムにはご飯も頼めたらしい。
真城朔
ちょっとしたテトラポッド越しに水平線が。
夜高ミツル
海面が夕日に照らされてきらきらと揺れている。
真城朔
ちょっと眩しいけど……
真城朔
建物の中だから平気。
真城朔
「海……」
夜高ミツル
「海だな……」
真城朔
「すぐ近くに……」
夜高ミツル
「水平線が見えて……」
真城朔
「波」
真城朔
「穏やか」
夜高ミツル
「だな~」
夜高ミツル
「なんかヨットに乗ってるっぽい人もいるし……」
夜高ミツル
さすがに海水浴客はいないけど……
真城朔
「アクティブ……」
真城朔
「あ、でも」
真城朔
「そろそろ撤収するのかな」
夜高ミツル
「あー」
真城朔
そんな感じで上がってきてる……
夜高ミツル
「暗くなったら危ないもんな……」
真城朔
「危ない……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
夜は危ない。色々と。
真城朔
ちょっと前まではまだまだ日が高かった気がするけど……
真城朔
秋の夜はつるべ落としというだけあり、みるみるうちに傾いてきている。
真城朔
そうして撤収しているサーファーたちを見ていると……
夜高ミツル
「……そろそろ」
夜高ミツル
「出るか?」
真城朔
「そう」
真城朔
「しよっか」
真城朔
まだ残っているジュレスカッシュを手に取り……
真城朔
ずずー……
夜高ミツル
おいしかった。
夜高ミツル
ごちそうさまでした。
真城朔
お会計をして、店を出る。
真城朔
傾いた夕日が眩しい。
真城朔
目を眇めて、再び折り畳み傘を取り出した。
真城朔
広げ広げ……
真城朔
よいしょ……
夜高ミツル
風が……
真城朔
あわわ……
真城朔
えいしょ……
真城朔
なんとか安定した。
真城朔
たぶんよし。
夜高ミツル
なんとか……
夜高ミツル
相変わらず風が強い。
真城朔
長い髪が風に乱されている。
夜高ミツル
「もうちょっと波打ち際の方行ってみるか」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「せっかく海に来てるもんなー」
夜高ミツル
手を繋ぐ。
真城朔
ミツルに手を取られて、
真城朔
それを握り返す。
真城朔
「泳がなくても」
真城朔
「もうちょっとくらい」
真城朔
「ね」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
歩き出す。
真城朔
手を引かれて、歩いていく。
夜高ミツル
昼間の暑さが嘘のような、少し冷たい潮風に吹かれながら。
真城朔
やがて日の沈む水平線へと、二人並んで歩いていった。