2021/10/12
noname
いつも泊まっているホテルと大差はなく、まあ狭い方だけど、別にこんなもん、くらいの。
真城朔
これまたちょっと狭めのユニットバスのとこで手を洗い……
夜高ミツル
そろそろインフルエンザとか流行りだす頃。
真城朔
手を洗ったので、改めて二人でベッドに腰を下ろす。
夜高ミツル
そのまま二人でベッドに倒れ込んでしまう。
真城朔
倒れ込んだ拍子に、ミツルの胸に収まって顔を埋めた。
真城朔
心地良さそうに目を細めはするが、どこか浮かない表情。
夜高ミツル
明日このホテルを発てば、県境を越えて千葉に入る。
夜高ミツル
そうすればすぐに目的地の八崎市に着く。
真城朔
そろそろおずおずとミツルの背中に腕を回している。
真城朔
服を握りしめる指先に、縋るような気配があった。
夜高ミツル
自分たちの生まれ育った土地。出会った土地。
夜高ミツル
進んで戻りたい場所ではないだろうことは容易に分かる。
真城朔
少なくとも、帰ってみようという提案を拒みはしなかった。
真城朔
今はこうして、ミツルの胸に顔を寄せて沈んでいる。
夜高ミツル
改めてその意志を確かめるようなことはしない。
夜高ミツル
せめて不安を和らげるように甘えさせて、寄り添っている。
真城朔
その温もりを好んで、ミツルの腕の中にいる。
夜高ミツル
そろそろ切った方がいいかもな……とかぼんやりと思う。
真城朔
ミツルの内心も知らず、撫でられるに任せている。
夜高ミツル
真城の頭に顔を寄せて、髪の毛に口づける。
夜高ミツル
固い手のひらに、その温度と頬の柔らかさが伝わる。
真城朔
触れられ慣れた手のひらに、無防備に頬を預けている。
真城朔
ミツルの胸の中でくったりと体重を寄せている。
夜高ミツル
乱れて張り付いた髪を、指先でそっと整える。
真城朔
触れ合わせた肌と肌も、少し湿ってべたついた感触。
夜高ミツル
チェックアウトの時間までは、まだ余裕がある。
夜高ミツル
まだ起こさなくてもいいだろうと判断して、布団をかけ直す。
夜高ミツル
そして、改めてその細い身体を抱きしめる。
真城朔
布団に包まれて尚、別の熱を求めてやまぬように、
夜高ミツル
真城はただでさえ朝に強くないし、昨夜は……
夜高ミツル
覚えてないということは、そういうことだ。
夜高ミツル
時間に余裕があるならゆっくり寝かせてやりたい。
真城朔
ミツルの厚意のままにすやすやと眠っている。
夜高ミツル
ただでさえ、今日はこのあと八崎に戻るわけで……。
真城朔
眠っていても、或いは眠っているからこその無意識に、頭がミツルの手のひらに擦り寄る。
夜高ミツル
擦り寄せられる頭を撫でる仕草もいつもどおりに。
夜高ミツル
いつもどおりの時間を過ごしながら、この後のことに思いを馳せる。
夜高ミツル
八崎に戻るのは、お世話になった人たちに挨拶をするため。
夜高ミツル
そして何より、真城の家を見に行くためだ。
真城朔
その全てが、いつかは通らなければならないことだった。
夜高ミツル
今を逃せば、次はいつ千葉に戻れるか分からない。
真城朔
真城もそう思ったからこそ、ミツルの提案に頷いたのだろう。
夜高ミツル
D7が今は積極的に真城を追っていない……
夜高ミツル
正確には、追えていないことも、仲間を通して知っている。
真城朔
ただ、どうしても平然とはしていられないだけ。
真城朔
それから逃れたくて、溺れてしまいたくなっただけ。
夜高ミツル
不安を少しでもごまかせるなら、それでいい。
夜高ミツル
真城を取り巻いてきた様々な問題を根本的に解決することは、結局ミツルにはできはしない。
夜高ミツル
真城のしたことはなくならない。死んだ人たちも帰らない。
真城朔
その上でこうしてミツルに甘やかされている。
夜高ミツル
それでも、そうしてほしいとミツルは願う。
夜高ミツル
ミツルが真城を許すことを、甘やかすことを、受け入れてほしいと。
真城朔
一年をかけて、その願いは聞き届けられてきた。
真城朔
夜色の眠たげな瞳が、ぼんやりとミツルを映していた。
夜高ミツル
まだ眠たそうにしている真城に声をかける。
真城朔
流石にまた横たわったらまずいという意識があるのか、もぞもぞと上体を起こしている。
真城朔
ベッドに座り込んだまま、ミツルの動作をぼんやり見守っている。
夜高ミツル
静かな駆動音を聞きながら、マグカップを取って並べる。
夜高ミツル
ティーパックは緑茶しかないようだったので、それを開ける。
夜高ミツル
今日はそこまで長距離を運転するわけではないので、まあ大丈夫だろう。
夜高ミツル
とはいえ仲間たちとは予定を取り付けてあるので、そこに遅れるわけにはいかないが……。
夜高ミツル
その日にさえ間に合えばいいということでもある。
夜高ミツル
少しぼんやりしているとすぐにお湯が沸く。
真城朔
両手でマグカップを持って、軽くふうふうとしている。
真城朔
時間をかけて熱を冷まして、慎重に口をつける。
真城朔
布団の中の温もりを抜け出して、今日一日の活動へ。
真城朔
言っていて、結構今更であることに気付きつつある。
夜高ミツル
「まあ、とりあえずシャワーはしないとだし……」
夜高ミツル
レインコートは常備してるので、よっぽど土砂降りじゃなければまあ……
夜高ミツル
腰を上げて、テーブルの上のリモコンを取って戻る。
夜高ミツル
テレビを点けて、適当にチャンネルを回す。
真城朔
関東に戻ってくるとさすがに見慣れた番組が並ぶ。
夜高ミツル
時間的にどこかでは天気予報してるだろ……
夜高ミツル
「ときどき雨くらいなら、まあ……って感じだな」
真城朔
普段だったら一日くらい休んでいくか……になったかもしれないが……
真城朔
あまりぐだぐだしているよりは、という感じ。
夜高ミツル
「雨がひどそうだったらホテル入って明日から動く感じかな……」
夜高ミツル
「降ってなければ予定通り、今日見に行こう」
真城朔
ユニットバスの方へ向かって、扉に手をかけて
夜高ミツル
自分と真城の着替えを出して、ベッドの上に置いておく。
夜高ミツル
荷物が多くないので、シャワーしてる間に片付けておくとかすることがあんまりない。
夜高ミツル
スマホを取って、この後の道程を再確認したりする。
真城朔
バスタオルで髪を拭きながらベッドの方へと。
夜高ミツル
見送られながら、浴室に入って戸を閉める。
夜高ミツル
使われたばかりの浴室は、まだ湯気がこもって温かい。
夜高ミツル
バスローブを脱いで、ささっとシャワーを浴びる。
夜高ミツル
バスタオルを取って、わしゃわしゃと頭を拭く。
夜高ミツル
大体水気が取れたところで、頭にバスタオルをかけて浴室を出る。
真城朔
着替えは済んでいて、髪はまだ湿ってるけど、
真城朔
ベッドはなんとなくきれいに整えられている。
夜高ミツル
言いながら、出しておいた着替えを取る。
真城朔
別にこんなことしてもどうせホテルの人がきれいにし尽くすから意味ないんだけど……
夜高ミツル
きれいに使って出ていったほうがいいよねという感覚がある。お互いに。
夜高ミツル
もぞもぞと服を着込んで、改めて髪をタオルでわしゃわしゃと。
夜高ミツル
大体拭けた感じがするので手を止めて、タオルを下ろす。
真城朔
頷く仕草は控えめだが、明らかにミツルが言い出すのを待っていた。
夜高ミツル
ドライヤーをかけるのも、すっかりいつもに組み込まれている。
夜高ミツル
一度浴室に戻って、ドライヤーを取って戻ってくる。
夜高ミツル
コンセントを刺して、腰掛けた真城の後ろに立つ。
真城朔
ちょこんと座ってしてもらうのを待っている……。
夜高ミツル
黒髪に指で隙間を作りながら、温風を通していく。
真城朔
乾いて温まった髪のさらさらとした感触がミツルの指に伝わる。
夜高ミツル
全体がそうなっているのを確かめて、スイッチを切る。
真城朔
今回は真城もけっこうがんばってタオルドライをしていたし……
夜高ミツル
風に乱れた髪を、するすると指先で整える。
夜高ミツル
その感触を楽しむ方に寄っていたことに気づいて、はたと手を止める。
真城朔
よいしょよいしょとリュックを背負い、一応忘れ物がないか再確認して……
夜高ミツル
元々荷物多くないから大丈夫とは思うけど……
真城朔
連れ立ってホテルをチェックアウトして、近場のファーストフードで朝食を摂る。
真城朔
食べ終わって店を出たら、外は変わらず曇り空。
夜高ミツル
すぐに降り出しはしなさそうだけど……という感じ。
真城朔
荷物からレインコートを探して引っ張り出しつつ……
夜高ミツル
ミツルも自分の荷物からレインコートを取り出して、真城に渡す。
夜高ミツル
入れ替わりにヘルメットとグローブを取り出す。
夜高ミツル
背負い直すのを待って、ヘルメットを差し出す。
夜高ミツル
自分もヘルメットを被って、きゅっとグローブをはめ……
真城朔
真城の両手が、ミツルの腹部で組み合わされている。
夜高ミツル
腕がしっかりと回されているのを確かめて、