2021/10/07 昼過ぎ

真城朔
人混みが苦手なので、お店に入るときはランチタイムやらディナータイムやらをなるべく避けがち。
真城朔
なので今日も、おやつ時ちょっと手前くらいにお店に入る。
夜高ミツル
目論見通り、客の入りは程々。
夜高ミツル
空いていた隅の席に通してもらえた。
真城朔
のんびりと腰を下ろし……
真城朔
手を拭いてメニューをひらく。
真城朔
こういう気軽なチェーン店だと一人一人前とかを意識しなくていいのでかなり楽。
真城朔
ラム肉のメニューを何種類かと、きのこのパスタだとかと、あとはサラダやドリンクバーやらを頼み……
真城朔
取り皿も多めにもらってくる。
夜高ミツル
真城に荷物を任せて、ドリンクバーで飲み物を注いでくる。
真城朔
勝手知ったるなんとやらというか……
夜高ミツル
よく使うチェーン店なので、ドリンクバーに置いてあるものも大体分かる。
真城朔
数が多いだけあっていつも人が多いけど、田舎効果と時間をずらしたおかげで今日はかなりまったり。
真城朔
ほどほどの人の声。
夜高ミツル
ほどほどに落ち着けるくらいの感じ。
真城朔
そんな空間の中、二人で頼んだメニューを分け合いもぐもぐと食べ進め……
夜高ミツル
もくもくもぐもぐ……
真城朔
おいしい。
真城朔
安定の味。
夜高ミツル
安くてどれを食べてもうまいからすごい。
真城朔
たすかる……
真城朔
そんな感じで食べ進め、なにか二人でデザートでも頼むかとメニューを引っ張り出したところで、
真城朔
「……あ」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
小さなメニューがテーブルにぱたんと。
真城朔
キッズメニュー。
夜高ミツル
それを拾い上げる。
真城朔
お子様向けの小さなメニューの載せられたあれやこれやなのだが……
真城朔
表紙と裏表紙が……
真城朔
「これ」
真城朔
「間違い探しに……」
夜高ミツル
「そうそう」
夜高ミツル
開いて、二人で見やすいように持つ。
夜高ミツル
同じような絵が左右に並んでいる。
真城朔
んー……と覗き込む。
真城朔
空いてるときに来て広めの席に通してもらったので並んで座っています。
真城朔
間違い探しの絵柄は、創業当時のなんとやら……みたいなテーマらしい。
真城朔
「あ」
真城朔
指差す。
真城朔
「ひつじの置物……」
夜高ミツル
厨房にシェフが立ってて、カウンターを隔てて手前に家族連れの客……という構図。
夜高ミツル
「あと、これも違うな」
夜高ミツル
シェフの持つパスタを指差す。
真城朔
「ほんとだ」
真城朔
ひつじの置物がある方とない方と、シェフのパスタがミートソースの方とイカスミの方と。
夜高ミツル
「あとここの煙もか」
真城朔
「わ」
真城朔
ほんとだ……になっている。再び。
真城朔
「10個」
真城朔
「あるんだって、違い」
真城朔
「あと7個……」
夜高ミツル
「10個……」
真城朔
なし崩しにじ……っと眺めてる。
真城朔
気付けばメニューをテーブルに広げて置いて……
夜高ミツル
デザートでも頼むかと言っていたはずが。
夜高ミツル
二人で小さなキッズメニューを覗き込んでいる。
真城朔
じー……
真城朔
「あ」
真城朔
「瓶の色……」
真城朔
右上の方をさす。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「ピンクと」
真城朔
「灰色」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「違う」
真城朔
「ちがう……」
夜高ミツル
「……あ、煙……じゃないな湯気か」
夜高ミツル
「の後ろ」
夜高ミツル
「これもか?」
真城朔
「ん……」
真城朔
「あ」
夜高ミツル
「ドリアっぽいやつが……」
真城朔
「なんだろ」
真城朔
「トマトスープ……?」
真城朔
ミネストローネ……?
真城朔
違うのは分かったけど、違いの具体的な内容がわからない……
夜高ミツル
「そんな感じになってる」
真城朔
具体的な内容というか……
真城朔
とにかく違うのだけわかった。
真城朔
「えっと」
真城朔
「これで今……」
夜高ミツル
「5?」
真城朔
「半分……」
真城朔
結構あっさり半分に来た。
夜高ミツル
トントン拍子。
真城朔
あと残り半分。
夜高ミツル
「あと半分……」
真城朔
じー…………
夜高ミツル
まじまじ……
真城朔
普段は結構お客が多いからまったり間違い探しとかする気にならないんだけど……
夜高ミツル
今日は席も空いてて後を気にする必要があんまりなくて……。
真城朔
こういうぼんやりと何かを眺めるみたいなのが意外と好きなのかもしれない。
真城朔
意外とっていうか……
真城朔
好きかも……
夜高ミツル
お互いにそう。
真城朔
地味な作業とか好き。
真城朔
「……あ」
真城朔
「フライパン」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「数が……」
真城朔
数?
真城朔
あれ? になっている。
夜高ミツル
「数?」
真城朔
とりあえず該当箇所を指差した。
真城朔
「いち」
真城朔
「に」
真城朔
「さん……」
真城朔
さんを指差したところで……
真城朔
うん……?
真城朔
「……取手?」
夜高ミツル
「あー」
夜高ミツル
「向きが違うっぽい」
真城朔
「向きが……」
真城朔
なるほど……
真城朔
「6」
夜高ミツル
取っ手が互い違いになっているのと、取っ手を揃えて重ねてあるのと……。
夜高ミツル
「あと4つ……」
真城朔
解説文の白枠と重なってるのでちょっと認識がバグった。
夜高ミツル
そういうこともある。
真城朔
じー……
真城朔
「あとよっつ……」
夜高ミツル
まじまじと絵を眺め見比べ……
真城朔
よっつ……?
夜高ミツル
「……あ」
夜高ミツル
「ここ」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「この子供の持ってるメニューの……」
真城朔
「メニュー……」
夜高ミツル
「メニュー持ってる子供の?」
真城朔
「あ」
夜高ミツル
「手が」
真城朔
「手」
真城朔
「被ってる……」
真城朔
メニューの下に……
真城朔
目を細めて見ている。
夜高ミツル
「そうそう」
真城朔
「…………」
真城朔
見比べ……
真城朔
「……けっこう」
真城朔
「意地悪……」
夜高ミツル
「まあ、難しいので結構有名だよな……」
真城朔
むむむ……
夜高ミツル
「子供の頃もやったけど全部見つけれたことないな……」
真城朔
「そんなに……」
真城朔
初めてらしい。
夜高ミツル
「難しいんだよ……」
真城朔
「あと」
真城朔
「みっつ……」
真城朔
なんか……
真城朔
途方も無い数字に思えてきた。
真城朔
メニューを見ている……
夜高ミツル
「3つ……」
夜高ミツル
3つか……
夜高ミツル
テーブルに描かれた木目とかまで見比べてる。
真城朔
トマトの数とか数えてる。
夜高ミツル
料理の肉の数とか……
真城朔
ビンの蓋の色が違うとか……
真城朔
ではない……?
夜高ミツル
ないな……?
夜高ミツル
むむむ……とまじまじ絵を見比べる。
真城朔
ううーん……?
真城朔
眺め……見比べ……
真城朔
なんとか頭を閃かせようとするが……
夜高ミツル
ためつすがめつ眺めども……
真城朔
眉を寄せている。
夜高ミツル
え? あるか?
夜高ミツル
あと3つも?
真城朔
「……ここの」
真城朔
真ん中の……
真城朔
「木目の……」
真城朔
「数……?」
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
言ってて自信がない。
真城朔
首をひねっている。
真城朔
「……いや」
夜高ミツル
うーん……
真城朔
「羊で……」
真城朔
「隠れてる」
真城朔
「だけ……?」
夜高ミツル
「多分そう……」
夜高ミツル
「かも……?」
真城朔
この羊が間違い探しの割に存在感が大きすぎて……
夜高ミツル
なんていうか、惑わされる……。
真城朔
デコイ
夜高ミツル
視線がつい向いてしまう……。
真城朔
うーんうーん……
夜高ミツル
むむむ……
真城朔
意味もなくシェフのひげの数を数えている。
真城朔
7個と……
真城朔
7個……
真城朔
うーん……
夜高ミツル
木目でもないし、伝票の線でもないし、鍋の模様でも料理でも……
夜高ミツル
なんか右上の妙に存在感のある仮面? も違うし……
真城朔
ファミレスの隅の席で並んで座ってキッズメニューの間違い探しを眺めているカップル。
真城朔
この家族連れの客にもっと間違いが潜んでいてもおかしくない気がする……
夜高ミツル
手前の間違いの数が少なすぎる……
夜高ミツル
そうやってしばらく二人で悩んでいたが……
夜高ミツル
「……わっっかんねえ…………」
真城朔
「あと……」
真城朔
「何個だっけ……?」
真城朔
探しすぎてそこから曖昧になっている。
夜高ミツル
「3……?」
真城朔
「3個……?」
真城朔
声に絶望感が滲んだ。
夜高ミツル
「しかもこれ答え書いてないんだよな……」
夜高ミツル
メニューを裏返す。
真城朔
「そんな……」
真城朔
キッズメニューが並んでいる。
真城朔
ちっちゃい料理たちが……
夜高ミツル
残念ながら間違い探しの答えはない。
真城朔
キッズメニューでもちゃんとおいしそう。
真城朔
答えはない。
夜高ミツル
ない……
夜高ミツル
間違い探しを表にして起きなおす。
真城朔
思わずミツルにくっついた。
真城朔
なんかおそろしいものに見えてきた。
夜高ミツル
「……ネットで、答え」
夜高ミツル
「ないかな……」
真城朔
「あ」
真城朔
「あるかも……?」
夜高ミツル
スマホを取り出す。
真城朔
インターネットはつよいから……
真城朔
ミツルを見守っている。
夜高ミツル
検索検索……
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「間違い探しの答えまとめ」
真城朔
「おお……」
真城朔
あるんだ……
夜高ミツル
一番上にすぐあった。
夜高ミツル
それを開く。
真城朔
みんな気にしていることがわかる。
夜高ミツル
「えーっと……」
夜高ミツル
散々見たシェフの絵が載ってる。
夜高ミツル
9月からこの絵になっているらしい。
真城朔
眺めすぎたシェフの絵。
夜高ミツル
最新版の答えの項目をタップする。
夜高ミツル
「おお……」
真城朔
「どう……?」
夜高ミツル
間違いのあるところが丸で囲まれている。
夜高ミツル
メニューと並べるようにスマホを置く。
真城朔
「…………」
真城朔
スマホを見下ろし……
真城朔
「…………?」
真城朔
眉を寄せた。
夜高ミツル
「…………え」
夜高ミツル
「あ?」
夜高ミツル
「鍋の蓋…………?」
真城朔
「あ」
真城朔
「こっち」
真城朔
「ちょっとおっきい……」
真城朔
くっついてる……
夜高ミツル
隙間があるのとないのと……
真城朔
棚と……
真城朔
こっちはない……
夜高ミツル
「え~~……?」
真城朔
「微妙」
真城朔
「すぎ……」
夜高ミツル
「これ絶対わかんないって……」
真城朔
「あとは……」
夜高ミツル
見ても微妙に納得いかない。
真城朔
「シェフの……」
真城朔
「袖、と」
真城朔
「…………?」
真城朔
「???」
夜高ミツル
「袖……」
真城朔
「袖は」
真城朔
「長さ、違う……」
真城朔
「言われてみたら……」
夜高ミツル
「袖は、まあ、分かる……」
真城朔
ゆびさしゆびさし……
真城朔
でも……
夜高ミツル
「確かにこれは違うけど……」
真城朔
「帽子」
真城朔
「なんか、違う……?」
夜高ミツル
「帽子は…………」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「あー?」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「位置? が……」
真城朔
「???」
夜高ミツル
「この……」
夜高ミツル
「こっちの方が目の上が広い……」
真城朔
「…………」
真城朔
じ……
真城朔
っと見つめている。
真城朔
テーブルに両手を揃えて……
真城朔
「……え」
真城朔
「えー…………」
真城朔
ぼうぜん……
夜高ミツル
「えっていうかシェフだけで3つ間違いが……?」
真城朔
「そんな……」
夜高ミツル
手前にこんなに人が描いてあるのに……?
真城朔
家族連れの間違い一個だけ……
夜高ミツル
「マジか~…………」
真城朔
「これ」
真城朔
「これ……」
真城朔
なんか……
真城朔
言おうとして……
真城朔
出てこなかった……
夜高ミツル
「うん……」
夜高ミツル
うん……になった。
真城朔
脱力。
夜高ミツル
は~……
真城朔
隣のミツルに体重を預けてしまっている。
真城朔
ぴと……
真城朔
疲労感がすごい。ファミレスなのに。
夜高ミツル
「……デザート頼むか」
真城朔
「ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
「甘いの」
真城朔
「食べよ……」
夜高ミツル
頷いて、キッズメニューを閉じて丁重にメニュー立てに押しやる。
夜高ミツル
そして、すっかり忘れ去られていた通常メニューを取る。
夜高ミツル
二人してデザートメニューを覗き込む。
真城朔
デザートメニューには間違いはない。
真城朔
頭を使ったぶんの糖分を求めて、
真城朔
二人、食べたいものを素直に探し始めた。