ラタス
1d12 シーン表 (1D12) > 10
ラタス
10 三叉路。今来た道。以前に来た道。あのときは選ばなかった道がある。
ラタス
野球拳の村から南下し、今まで通った道へ合流する。
ラタス
更に下って、三叉路へ。
ラタス
行く道は決まっている。
ラタス
「予知夢じゃあ、どうしたんだ」
ラタス
「おれは一人で出てったんだろ、手紙を置いて」
リリオ
「3人で追いかけたよ」
リリオ
「それで、ラタスが好きにやるなら、こっちも好きにやるってついていった」
ラタス
あのとき選ばなかった道。
ラタス
「そうか」
ラタス
「まあそうじゃなきゃ3Pにはならねえな……」
ラタス
そうでもならんが……。
ラタス
なるのか……。
リリオ
「あはははは」
リリオ
あの時は、3人で追いかけることに迷いはなかった。
リリオ
何が起こるか分からなかったから、それ以外の選択肢なんてなかった。
リリオ
分かっていたとしても、この道は選んではいけない道だ。
リリオ
今までの自分なら、そう思った。
ラタス
「……」
ラタス
今頃あいつらはどうしているだろうな、という言葉を噤む。
ラタス
そういう沈黙が横たわった。
リリオ
「………」
ラタス
「……まあ、でも、おれは」
ラタス
「なんにせよ置いていったからな」
ラタス
元々は、3人を置いていくつもりだった。
ラタス
夢では、そこに3人がついてきたという。
ラタス
今では、今リリオが一人横にいる。
リリオ
2人だけの旅は、4人の時よりも静かだ。
ラタス
足音だけが続いている。
ラタス
そうして切り捨てたことを、選んだことを。
ラタス
ラタスは傷つかずにはいられない。
ラタス
「あ、そうだな」
ラタス
「海を見に行こう」
リリオ
「海か」
リリオ
「いいね」
ラタス
何かに追いつかれないように、小さな目的地を設定する。
ラタス
30日間。
ラタス
選択や、残したものにただ向き合い続けるには長すぎる。
ラタス
メモを取り出し、海を見に行くと書いた。
ラタス
「なんかこう、水がいっぱいあるんだろ、すごく」
リリオ
「才覚またどこか行ったな」
リリオ
「まぁ、水がいっぱいある」
リリオ
「色々な生き物もいる。水の中を泳ぐ魚とか、壁に張り付いて生きる貝とか、カラフルないそぎんちゃくとか」
ラタス
「恐ろしいところだな……」
リリオ
「人間を食べる巨大な化け物なんかもいる」
ラタス
「おれを脅かそうとしてもそうはいかねえぞ……」
リリオ
「おどかしてないんだけどなー」
リリオ
「あとは、水に塩味がついてる。だから飲めないんだ」
ラタス
「しょっぱくて飲めないのは知ってるぜ」
ラタス
ドヤ……
リリオ
「お、才覚」
ラタス
「あと……広いのもな」
ラタス
ドヤドヤ……
リリオ
「おお~」
リリオ
こいつ……かわいい所あるのでは……?
という気持ちになっている。
ラタス
おれとしては閉所の方が化け物に有利とれるが……
リリオ
「まぁ、堕落の国の海はちょっと違う感じかもだけど、せっかくだし行ってみよう」
ラタス
「楽しみだな」
リリオ
「普通に人を食う亡者はいそうな気がする」
ラタス
「どこにでもいるからな~」
ラタス
「そういえば夢でも海に行ったのか?」
リリオ
「いや……行ってない」
リリオ
「…………」
リリオ
「今とは違うルートを通ったから、海に行く余裕がなかった」
ラタス
「そうか」
ラタス
順調な道程を辿っている。野球拳の村で気を良くした商人が、結構なところまで運んでくれたからだ。
リリオ
「海、行きたかったのか?」
ラタス
「まあ、下層では噂になってたよ」
ラタス
「上にあるらしいものは、だいたい噂になるもんだ」
リリオ
別に、海は珍しいものではなかった。
毎年付き合いで連れて行かれて、つまらない人付き合いをさせられて、愛想を振りまくだけの場所。
リリオ
「そうか」
リリオ
「本当に、プレートなんてなくなればよかったのにな」
ラタス
「そうだな」
ラタス
「でもまあ、おれたちにとってそれは、初めからあったものだ」
ラタス
「ない想像は、つかないな」
リリオ
「だからだよ」
リリオ
「想像できないものは、見てみたくなるじゃないか」
ラタス
「まあ、そうだな」
ラタス
だから今、海を見に行こうと歩いている。
リリオ
だから今、ラタスに海を見せたいと思っている。
ラタス
「もっと早くこうしようと思えば、出来たんだよな」
ラタス
「果物も、海も、空も」
リリオ
「そうだねぇ」
リリオ
「ついでにセックスも」
ラタス
「ははは」
リリオ
「適当に買っとけよ~」
ラタス
「……別に、大した心残りじゃない」
ラタス
「たとえばどっかの救世主に殺されたなら」
ラタス
「死に際に振り返って後悔するほどのことでもない」
リリオ
「うん」
ラタス
それほどのことだったら。
ラタス
それを果すための生きる理由に値したことだろう。
リリオ
それほどの何かが、ラタスにあればよかった。
リリオ
そう思うのは、残酷かもしれない。
ラタス
「悪いな」
リリオ
「なにが?」
リリオ
「別に悪いことなんて……」
リリオ
「いや、非童貞だと思い込まされていたのは悪いことかもな」
ラタス
「ははは」
ラタス
「勝手に勘違いしとけ」
リリオ
「お前、勘違いさせるようにしてただろ!?」
リリオ
「してなかったとは言わせないぞ!!」
ラタス
「手練手管、嘘偽りが商売道具だからな!」
リリオ
「騙された!!」
ラタス
「騙した!」
リリオ
「乙女の純情を弄ばれた!!」
リリオ
「3人分!!」
ラタス
「それこそ早いところ男に抱かれておけばよかったろ!」
ラタス
男娼なりなんなりで……。
リリオ
「そんなことユキやこよみに本気で思うのか!?」
ラタス
「え?」
ラタス
思うが……
リリオ
カス!
ラタス
リリオ
「はぁ……、なんか1人で付いてきてよかった気がしてきた」
ラタス
「まあ」
ラタス
「じゃないと出来ない話もある」
ラタス
「それは確かだな」
リリオ
「そうだな」
ラタス
「今頃あいつらはどうしているだろうな」
リリオ
「……泣いてるかもな」
ラタス
「追いかけてきてるかもしれない」
ラタス
こよみの世話をユキはひとりで出来るだろうか。
リリオ
「そうだなぁ。それだったら、追いつくといいけど」
ラタス
難しいだろう。
リリオ
救世主や亡者に襲われていないだろうか。
2人だけの裁判は、随分と勝手が違うだろう。
ラタス
白兎の末裔に、よい導きをもらっているといい。
ラタス
「それでも、おれは」
ラタス
「お前が一人でついてくることを選んでくれて嬉しかったんだぜ」
リリオ
「へぇ~」
リリオ
「それはまた、どうして?」
ラタス
「2人を連れてきた方がよかった。正しかった。普通に考えればそうする」
ラタス
「そうだろ?」
リリオ
「それはそうだ。どう考えてもそっちの方がいい」
ラタス
おれたちは今、間違ったことをしている。
ラタス
酷いことをしている。
リリオ
「2人も傷付けずに済むし、戦闘も人数が多い方がいい」
リリオ
「2人を置いていくメリットなんて、何もない」
リリオ
これは、選んではいけない選択だ。
ラタス
「そうするお前が見たかった」
リリオ
「…………」
ラタス
「死に際に振り返って後悔することがあるなら」
ラタス
「きっとそれがその一つだったろうな」
ラタス
「お前がそんな正しくないようなことをすること」
ラタス
「想像できないものは、見てみたくなるだろ?」
リリオ
「あっはっは」
リリオ
「そうだねぇ、確かに。
夢なんて見なかったら、絶対にしなかった」
リリオ
「ラタス。僕が2人を置いてきたのは」
リリオ
「君を独り占めしたかったから」
リリオ
「それだけだ」
リリオ
「ただのわがまま。個人的な感情」
リリオ
「それを……、こよみや、ユキよりも優先した」
ラタス
驚いたように瞬き。
ラタス
リリオの心の疵『強欲』を舐めます。才覚。
ラタス
2d6+3>=7 (2D6+3>=7) > 7[1,6]+3 > 10 > 成功
リリオ
はい
ラタス
足を止め、リリオに向き直り。
ラタス
唇を奪う。
リリオ
小さく身じろぎしたが、受け入れた。
ラタス
リストに書かれなかったものはたくさんある。
ラタス
そもそも書きようのないものを書くことはできない。
ラタス
捨て置いて、もう手に入るとは思っていなかったものを、
ラタス
したいことに書き並べることも無意味。
ラタス
何一つ正しくない運命の中にしか、
ラタス
高潔でも美しくもない、正しくもない残酷な選択肢にしか、
ラタス
強欲にしか。
ラタス
果されないものがある。
リリオ
この選択は間違っている。
リリオ
選ぶべきではなかった。
リリオ
それでも、選びたいと思ってしまった。
リリオ
正しくない自分を、ラタスが見たがったから。
ラタス
口付けは罪の味がした。
リリオ
正しくないことが、求められることもある。
リリオ
そんな事は知りたくなかった。
リリオ
もう、知らない頃には戻れない。
リリオ
ラタスから離れて、俯く。
ラタス
ここは堕落の国。
ラタス
堕ちてからも尚深く、堕ちてゆく。
ラタス
手を赤く汚さぬと決めたあとさえも。
リリオ
「ラタス」
リリオ
「多分僕は……、ユキやこよみほど、君に恋していない」
リリオ
「恋愛感情でいっぱいになれていない。
君には友情も、仲間としての信頼も感じている」
リリオ
「そして……、それ以上に、執着がある」
リリオ
「依存と言ってもいいかもしれない。
そんなものは、しまっておいた方がいいんだ」
リリオ
「でも、だめだね。
これだけ執着でいっぱいになっちゃったら……、もう、愛してるとしか言えないよ」
ラタス
「ああ」
リリオ
「愛してるよ。ラタス」
ラタス
「愛している」
リリオ
「嬉しい」
リリオ
「……けど、信用ならないな~~!!」
ラタス
リストに書かれなかったものはたくさんある。
ラタス
夢にも思わないことはあるだろう。
ラタス
「じゃあ、そうだな」
ラタス
「まだ30日まで時間がある」
ラタス
「それまでに、確かめてくれ」
[ リリオ ] 強欲 : -1 → 0
リリオ
「怖いな、確かめるの」
リリオ
「恋愛には慣れてないんだ」
リリオ
「でもまぁ、見たことないもの、だし」
リリオ
「楽しみにしておこう」
ラタス
1d6 (1D6) > 3
ラタス
*それが4日目のこと。
ラタス
リリオ
* ラタスの心の疵「青い窓の見える庭」を舐めます。判定は才覚
リリオ
2d6+3>=7 (2D6+3>=7) > 4[3,1]+3 > 7 > 成功
GM
振り直しをどうぞ。
リリオ
謎の運命力によって振り直しが許可された
リリオ
2d6+3>=7  (2D6+3>=7) > 6[5,1]+3 > 9 > 成功
ラタス
海にもいけます。
リリオ
謎の力の介入によって成功しました。
リリオ
地図を見ながら、海の方に向かっている。
ラタス
「あ~」
リリオ
周囲は背の高い岩に囲まれて、海は見えない。
ラタス
「なんか……なんだ? このにおい」
リリオ
「潮の香りがするねぇ」
リリオ
「海はこういう匂いがするんだ」
ラタス
「なんか……洗ってない服のにおいだな……」
リリオ
「聞いた話によると、死んだ生物の腐敗臭だとかなんとか」
ラタス
「堕落の国だけのことではなく……?」
リリオ
「堕落の国だけのことではなく」
ラタス
「膿……?」
リリオ
「ははは」
リリオ
「いやでも、実際海は割とグロいとこある」
ラタス
「ヤバい生き物、ヤバいにおい」
リリオ
「謎のドロドロした緑色のものとか打ち上げられてたりするし」
リリオ
「謎のプルプルとか……ビロビロとか……」
ラタス
「危険な場所では……?」
ラタス
リリオの才覚が……?
リリオ
「そうだぞ」
リリオ
「だから、よく分からないものは素手で触らないように注意しよう」
リリオ
磯の香りが強くなる。
海が近い。
ラタス
こわ~。
ラタス
「なんか音がしないか?」
リリオ
「するねぇ。波の音だ」
ラタス
「これも海が……?」
リリオ
「コップに入った水を揺らすと、波が立つだろ?」
リリオ
「海は水が多いから、そういう波も大きくなる。音がこんなに遠くまで聞こえるくらいにね」
ラタス
「ヤバいな」
リリオ
「ヤバいぞ~」
リリオ
「正直、説明しながら見に行くほどいい所か?って気持ちになってきてる」
ラタス
「もはや怖いもの見たさの域だな」
リリオ
「怖いもの見たさなら、ちょうどいいかもな~」
リリオ
岩の連なりが終わり、視界が開ける。
ラタス
「うわ、うわ~」
リリオ
「赤いな……」
ラタス
「びろびろしてるな……」
ラタス
波が……。
リリオ
「お前、さっきから語彙がヤバいぞ」
ラタス
「びろびろしてるとしか言いようがなくないか?」
リリオ
「まぁ、確かに」
リリオ
「あ、ほらほら、あった!緑色のドロドロ!」
リリオ
「プルプルしてるのもあるぞ!」
ラタス
「うれしそうに危険なドロドロを見つけ出すな~」
ラタス
「ドロドロやプルプルが大好きみたいになってるぞ」
リリオ
「え~?別に大好きってわけじゃないんだけど……、あ!ほら岩にへばりついてる貝もある!」
ラタス
「あれは本当に生き物なのか?」
リリオ
貝に触れると、ぽろりと取れた。
中身は死んでいたらしい。
ラタス
死んでる……。
リリオ
「死んでた……」
ラタス
「死んでるな……」
リリオ
「堕落の国は、貝にも生きにくい世界らしい……」
リリオ
「まぁ、仕方ない。
それよりどう?海の感想は」
ラタス
「憐れな貝め……」
ラタス
「いや、なんか、すごいな……」
ラタス
波打ち際まで歩いている。
リリオ
「海水に触るなら、靴脱いでからにしなよー」
ラタス
「お、そうだな……」
ラタス
「いや……こわくないかこれ」
リリオ
「そりゃあ……」
ラタス
「触ったら引きずりこまれないか……?」
リリオ
「人食いの化け物が飛び出してくるかもね」
リリオ
「噂では、触ると離れない8本の腕を持つ怪物とかもいるとか」
ラタス
「恐ろしいな……」
リリオ
自分も靴を脱いで、裾を上げて波打ち際に行く。
ラタス
寄せては返す波に近づいたり離れたり。
リリオ
浅瀬にばしゃばしゃと入ってゆく。
ラタス
「あっおい!」
リリオ
「はーい」
ラタス
ラタスも入る。
ラタス
ひえ~。
ラタス
なんか温いな。
リリオ
「いや~、ちゃんと塩水みたいだ」
リリオ
「体が溶ける液体とかじゃなくてよかった」
ラタス
「確認してから入れ!」
リリオ
「ラタスが先に触ってたから……」
リリオ
「大丈夫かなって」
ラタス
「うわっなんか足に触ったぞ」
リリオ
「え~、ナマコかなにかかな」
リリオ
ラタスの言う方向を適当に漁る。
ラタス
ヒトデでした。
リリオ
「じゃーん」
リリオ
見せつける
ラタス
「グロ……」
リリオ
ヒトデが元気にうにょうにょしている
ラタス
こわ~。
リリオ
「毒がないことを祈ろう」
リリオ
海にリリース。
ラタス
くるくる回って飛んでいった。
リリオ
真顔で見ている。
ラタス
「こんなのがずっと続いてるのか、海」
リリオ
「う~ん、まぁ、そうだねぇ」
リリオ
「先に行くと、すごく水が深くなってる」
ラタス
「どんどん怖い話が出てくる」
ラタス
底が知れないぞ……
リリオ
「あっはっは」
リリオ
「こんなに何かに怯えるラタスを見るの、初めてかも」
リリオ
ばしゃ、と足で海水を蹴った。
ラタス
「うわっ」
ラタス
「やったな」
ラタス
海水を蹴る。
リリオ
「ごめんごめん、かけるつもりはなかったんだって~」
リリオ
「うわっ」
リリオ
「あー!あー!結構濡れたぞ!」
リリオ
「くそ……ここまで来たら腹を括るしかないか……」
リリオ
腰を落として構える。気合の入ったポーズ。
ラタス
「な、何を考えている……!?」
リリオ
「うおおおおお!!」
ラタス
リリオがキレた!
リリオ
砂地を蹴り、駆ける!
水しぶきが上がる。
ジャンピングラリアットだ!
ラタス
「うおっ」
ラタス
まともに受ける。
リリオ
ばしゃーん
ラタス
「おい!!!」
リリオ
頭から海水を被った。
ラタス
「おい!!!!!」
リリオ
「ふっ……、僕を怒らせるからこうなるんだ」
ラタス
ぺっぺっ
リリオ
「ははははは」
ラタス
「まっず! おえ!!!」
リリオ
「あっはっはっはっは」
リリオ
「あーあ、服どうしたらいいんだこれ?」
ラタス
「たき火するか」
ラタス
「おれは一秒でも早く乾かしたい。髪を」
リリオ
「一回真水で洗わないと、服の表面に塩が出てくるぞ」
ラタス
「貴重な真水を……」
リリオ
「貴重な真水を!」
リリオ
「そしてそんな量の真水は今ここにありません」
ラタス
「つまり……」
リリオ
「どうしたらいいんだ~」
リリオ
「あっはっはっはっは」
ラタス
「おれのコートが溶け込まなくなるだろ!!」
ラタス
煙幕に!
リリオ
「なんか薄汚れたコートを着てるだけの人になる!」
ラタス
「海め……おれの弱点を見抜くとは……」
リリオ
「ラタス……君ともあろう者が、一本取られたようだな……」
ラタス
「くっ……覚えておけ……」
リリオ
「まぁ、仕方ないし乾かすか」
ラタス
「おう」
リリオ
ざんぶざんぶと海から上がる。
リリオ
服が水を吸って重たい。
ラタス
日が傾き、暗く沈みゆく海辺。
リリオ
「雲がなければな」
ラタス
「何が見えるんだ?」
ラタス
また怖いものが出てくるのか?
リリオ
「日が傾くと、夕焼けが見れる」
リリオ
「海で見る夕焼けは格別だよ。
空が黄色や赤に染まって、真っ赤な太陽が水平線に沈む」
ラタス
ようやく怖くない情報が出てきたな。
ラタス
ようやく過ぎないか?
リリオ
「海は空を写して、同じ色になる。
視界の全てが温かい色になるんだ」
リリオ
「でも、反対を見ると空が暗くなり始めている。赤から紫、紫から青、青から暗い夜の色に」
リリオ
「そして少しずつ、星が輝き始める」
リリオ
「ラタスにも見てもらいたかったなぁ」
ラタス
「まるで詩人だな」
リリオ
「はは、そう?」
ラタス
「実物にも興味はそりゃあるが」
ラタス
「もし見れたならお前がこうやって教えてはくれなかったろ」
ラタス
「お前の目を介して見るのも悪かないな」
リリオ
「いやあ、照れちゃうな」
リリオ
「まぁでも、そんな海じゃなくても見に来れてよかった」
ラタス
「ああ」
リリオ
「この開けた感じとか、匂いなんかは説明しきれないからね」
ラタス
「広いのはいい」
ラタス
「曇った空でも海が光を反射して、まぶしいくらいだ」
リリオ
「うん」
ラタス
視界いっぱいの光は、下層にはない。
ラタス
空は遠く赤く、鈍るように暮れていく。
ラタス
燃えるような落日もなく、ただ暗闇が訪れて、夜へ。
ラタス
暗闇と潮騒の中でたき火が燃えている。
ラタス
「暖けえな」
リリオ
「そうだね」
ラタス
「一応言っておくが」
ラタス
「下層にあれやらこれやらがないことを、いちいち気に病んだりする必要はねえぞ」
リリオ
「…………」
リリオ
「でも」
リリオ
「君が見たいものを、君に見せたい」
リリオ
「これはいつもの綺麗事だけど、本心からの気持ちでもある」
ラタス
「お前は優しいな」
リリオ
「優しくはないよ。どっちも自分のためだ」
リリオ
「君に少しでも、嬉しいと思って欲しい」
ラタス
「嬉しいと思っている」
リリオ
「それならよかった」
リリオ
「僕は下層の人たちのために色々なことをしたけど」
リリオ
「結構、裏目に出ることも多かった」
リリオ
「浄水器を設置してみたら、水を売っている人が激怒して、浄水器を壊してしまった」
リリオ
「空気清浄機を置いてみたら、場所を巡って人が殺された」
ラタス
どちらも、ありそうなことだな、と思う。
ラタス
そういう場所だ。
リリオ
「望まない妊娠をした娼婦の相談に乗ってたら、元締めに怒鳴り込まれた事もあった」
ラタス
そうして出来る子供も金になる。
リリオ
「2人仲良く乱暴されて、娼婦はずっと僕に恨み言を言っていた」
ラタス
暗闇や寒さのようにありふれた、悪意と欲望にまみれている。
リリオ
「そこでやめておけばいいのに、そのまま家の方に身代金とか要求しちゃってさぁ」
リリオ
「僕以外は全員殺されてしまった」
ラタス
この堕落の国では、撒いた種から植物の亡者が生まれるという。
ラタス
下層もそういう場所だった。
リリオ
「僕がやることは、全然下層のためになっていなかった」
リリオ
「自分のためにしてただけなんだよ。
何もしないのが苦しいから」
ラタス
「それでもあんたは有名人だったんだぜ」
ラタス
「下層のために活動しているヤツがいるって噂は口々にされていた」
ラタス
「お前が何一つ実現できなかったとして」
ラタス
「それで生まれなかったものがないとは言えない」
ラタス
「それで十分すぎるほどだ」
リリオ
「そうだったら、嬉しいな」
リリオ
「ラタス、僕が君を好きなのは、そういう所だよ」
ラタス
急に来たのでびっくりした。
リリオ
「僕はずっと孤独だった。自分のためだと思っていても、心は消耗していた」
リリオ
「でも、君が友達になってくれて、君の考え方に触れて、なんだかすごく報われた気がしたんだ」
リリオ
「まぁ~、そこで終わっておけばよかったんだけど」
ラタス
「ははは」
リリオ
「ラタスが女の子だったらよかったのにな~」
ラタス
「ラタスです」くねくねしながら裏声で。
リリオ
「おっ、君かわいいね~、いくら?」
ラタス
「手が早ぇな!」
リリオ
「あっはっはっは」
ラタス
「生きていくのには、飯と、暖かい寝床と、それと希望が必要だ」
ラタス
「おれにとって、上から漏れる空の光がそれだった」
ラタス
「お前がいてくれてよかった」
ラタス
「……お前を殺さなくてよかった」
リリオ
「いや~、これは照れる」
ラタス
「ははは」
リリオ
「恥ずかしいんだけど……」
リリオ
「いや、うん、そうだな」
ラタス
なにもかも今さらだからな~。
ラタス
恥ずかしいことについてはな~。
リリオ
「堕落の国に来てから、僕の希望は君だった」
ラタス
「おれがか」
リリオ
「さっきも言ったけど、僕本当に人望なくてさ~」
リリオ
「上層の人からもあんまり好かれてなかったし、下層の人たちも声をかけてくるのは下心ある人ばっかりだし」
リリオ
「君に信頼してもらえたのも、友達になれたのも本当に嬉しかった」
リリオ
「それに、君はいつも明るくて、暖かくて、皆の中心で」
リリオ
「はは」
リリオ
「君は、僕の太陽だった」
ラタス
「恥ずかしいな!」
リリオ
「恥ずかしいだろう!」
リリオ
「今自分で言っててかなり恥ずかしい」
ラタス
「無駄じゃなかった」
ラタス
「無駄じゃない」
ラタス
「お前が下層のために奔走してきたことも」
ラタス
「おれが人を殺して生き延びてきたことも」
ラタス
「無駄じゃなかったってわけだ」
リリオ
「……そう、いう、ことになるな」
ラタス
少なくとも、だから今がある。
リリオ
「ラタス」
リリオ
「生き延びてくれて、ありがとう」
ラタス
「……ああ」
ラタス
「リリオもだ」
ラタス
「ありがとう」
リリオ
「うん……」
リリオ
「いや~!恥ずかしい!!」
ラタス
たき火の燃える音と潮騒とが言葉と言葉の隙間を埋める。
ラタス
「恥ずかしいな~~」
リリオ
「でも、話せてよかった」
ラタス
「ああ」
ラタス
ここに至るまでの過程。それはきっと、世界を救うには値しない。
ラタス
救世主という言葉はおれたちには重すぎる。
ラタス
それでも救われたものがあり、今がある。
リリオ
世界を救うほどの力はない。
人一人を救うほどの力もない。
リリオ
でも、何一つ救えなかった訳じゃない。
リリオ
手のひら一杯の海水くらいは、何か救えたかもしれない。
ラタス
そして夜に沈み行く堕落の国のなかで、今日は良い日だったと思いながら過ごせることの幸せは、
ラタス
救いと呼ぶに値するだろう。
[ ラタス ] 青い窓の見える庭 : 0 → 1
ラタス
1d6 (1D6) > 3
ラタス
*それが7日目のこと。