鐘守錫為
ローテーブルには清酒の瓶とタンブラー、
鐘守錫為
するめだとか貝ひもだとか、珍しくコンビニで買った安上がりなつまみ。
鐘守錫為
キッチンの方から皿を両手に戻ってくれば、
鐘守錫為
既にそれなりに出来上がっている後輩の姿が目に入る。
煤木野灰吏
明らかにいつもよりペースが早い。
煤木野灰吏
酔うために酒を飲むということを、普段ならばしないのだが……。
鐘守錫為
出来合いのつまみを置いた。
鐘守錫為
炙った油揚げにねぎ乗せたのとか、レンジで作った茄子の煮浸しとか、その程度。
煤木野灰吏
「ありがとうございま~す……」
煤木野灰吏
笑ってみせるが、声には覇気がなく。
鐘守錫為
「お粗末様で」
鐘守錫為
腰を下ろして酒の瓶に手を伸ばす。
煤木野灰吏
それを制して、瓶を手に取る。
鐘守錫為
深追いせずにタンブラーを取って灰吏へと傾けた。
煤木野灰吏
傾けられたグラスに清酒を注ぐ。
鐘守錫為
どうも、と返してから軽く呷り、
鐘守錫為
「振り返りは済んだか?」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
「まぁ……概ね…………」
鐘守錫為
箸を取って、油揚げの一片をつまんでいる。
鐘守錫為
目線だけで続きを促した。
煤木野灰吏
瓶の蓋を締めてテーブルに戻す。
煤木野灰吏
意気揚々と臨んだ中忍頭昇格試験。
煤木野灰吏
終わってみれば試験官であった鐘守に傷一つつけられない有様。
鐘守錫為
多少その動きを封じることはできたが、それだけの話。
鐘守錫為
全身を打ち据えられた灰吏と裏腹に今もぴんぴんしている。
煤木野灰吏
「まぁ、前準備も立ち回りも甘かったですねー……」
鐘守錫為
口を動かしながら灰吏を見ている。
煤木野灰吏
「準備の方は、ガードの固さを突破する手段がなかったのがキツかったですね」
鐘守錫為
飲み込む。
鐘守錫為
「あれは刃物相手には弱かろう」
鐘守錫為
「手数で上回れればあるいは、だが」
煤木野灰吏
「そうですねぇ」
煤木野灰吏
「いや~、一向にガードを抜けなかったですね……」
鐘守錫為
「罠もな」
鐘守錫為
「辛うじて張れたようだったが、あまり有効には働かなかった」
煤木野灰吏
「はい……」
鐘守錫為
「そもそも俺は張らせるつもりなく動いていたから」
鐘守錫為
「よくくぐり抜けた、とは言えるが」
鐘守錫為
タンブラーに手をかけて、
鐘守錫為
「それだけだったな」
鐘守錫為
呷る。
煤木野灰吏
「はい………………」
煤木野灰吏
「障害物の多さは俺に優位なはずだったんですが……」
煤木野灰吏
「まあ、そこが立ち回りの甘さですね」
煤木野灰吏
「うまく活かせませんでした」
鐘守錫為
「俺も移動をしくじっていたしな」
煤木野灰吏
グラスに口をつけて、酒を流し込む。
煤木野灰吏
「そこをちゃんと突けてればまだな~……」
鐘守錫為
「判断の全てが悪かったとは言わないが」
鐘守錫為
「実を結ばなかったのは確かだ」
鐘守錫為
「攻め気の戦い方自体は俺も評価する」
煤木野灰吏
「ありがとうございます……」
鐘守錫為
「だが」
鐘守錫為
「それが分の悪い賭けでないかどうか」
鐘守錫為
「より有効な策が他にないか」
鐘守錫為
「もう少し、深く考えていい」
煤木野灰吏
「はい…………」
煤木野灰吏
項垂れる。
鐘守錫為
「…………」
鐘守錫為
酒瓶を取った。
鐘守錫為
それを灰吏のグラスへと傾ける。
煤木野灰吏
「あ」
煤木野灰吏
顔を上げる。
鐘守錫為
清酒を注ぎながら、
鐘守錫為
「これでも俺はお前を買っている」
鐘守錫為
「次は改善があるのだろう」
煤木野灰吏
グラスに酒が満たされていくのを眺めて、
煤木野灰吏
「……評価してもらうに足る成果を出したいと思っていますよ」
鐘守錫為
「期待している」
鐘守錫為
そのように答えて、酒瓶を戻した。
煤木野灰吏
「努力します」
GM?
では そろそろ やりましょう かけひきを
GM?
まずは2D6で順番決定。
煤木野灰吏
2d6 (2D6) > 5[1,4] > 5
鐘守錫為
2d6 (2D6) > 11[6,5] > 11
GM?
鐘守から。
GM?
ではまず互いに3D6を。
煤木野灰吏
3d6 (3D6) > 9[2,2,5] > 9
鐘守錫為
3D6 (3D6) > 11[2,4,5] > 11
[ 煤木野灰吏 ] がダイスシンボルを2 に変更しました。
[ 鐘守錫為 ] がダイスシンボルを4 に変更しました。
[ 鐘守錫為 ] がダイスシンボルを5 に変更しました。
鐘守錫為
2を切ってアピール>灰吏
鐘守錫為
2D6>=5 (2D6>=5) > 8[2,6] > 8 > 成功
[ 煤木野灰吏 ] 情緒 : 1 → 2
鐘守錫為
「まあ、自分で言うのもなんだが」
鐘守錫為
タンブラー片手に酒を揺らしながら、
鐘守錫為
「俺が相手なのは運が悪い」
煤木野灰吏
「……まあ、それはそうなんでしょうけど」
煤木野灰吏
「とは言え俺は誰が相手でも受かるつもりで挑みましたからね」
鐘守錫為
「そうでなければ困る」
鐘守錫為
当然と頷きつつも、
鐘守錫為
「それでも、外のやり方にも内のやり方にも詳しい俺が相手では」
鐘守錫為
「得意の技も通じない局面が数多くあったろう」
煤木野灰吏
「それでも、まあ」
煤木野灰吏
「運が悪かった、相手が悪かった、なんてのは」
煤木野灰吏
「口が裂けても言いたくないですね~俺は」
鐘守錫為
灰吏の顔を見ながら茄子の煮浸しをつまんでいる。
煤木野灰吏
グラスを傾けている。
鐘守錫為
「……まあ」
鐘守錫為
「そういうところも、買っているよ」
鐘守錫為
「俺はお前を」
煤木野灰吏
「…………それは、どうも」
煤木野灰吏
「ありがたい話ですね」
煤木野灰吏
5で距離を測る 2でアピール
鐘守錫為
4切って誘い受けします 5切って距離を測るで+1
鐘守錫為
2D6+1>=5 (2D6+1>=5) > 9[3,6]+1 > 10 > 成功
煤木野灰吏
2d6+1=>10 (2D6+1>=10) > 8[5,3]+1 > 9 > 失敗
[ 煤木野灰吏 ] 情緒 : 2 → 3
鐘守錫為
「当たりが悪ければ、という場面もあった」
鐘守錫為
「こちらにも」
鐘守錫為
「逆に俺の方からは有効打がなかなか入らなかったからな」
煤木野灰吏
「なんとか捌けてる間にこちらから攻撃を入れられたらよかったんですけどね……」
鐘守錫為
「手数だな」
鐘守錫為
手数、と繰り返す。
煤木野灰吏
「そうですね……」
鐘守錫為
「難しいがね」
鐘守錫為
「手数か、貫通力」
鐘守錫為
「どちらかは欲しい」
煤木野灰吏
んー、と間を置いて、
煤木野灰吏
「貫通力ですかねぇ……」
煤木野灰吏
「手数を今以上に増やす手段は……ちょっとすぐには思いつかないですね」
鐘守錫為
「俺のやり口は真似できんだろうからな」
煤木野灰吏
「ははは、そうですねー」
鐘守錫為
「方針が定まったなら良かったんじゃないか」
鐘守錫為
「俺も実際貫通力には欠けるきらいがある」
鐘守錫為
「どうにか補う手段を模索してはいるが……」
煤木野灰吏
「まあ、それでも俺は押し切られてますからね……」
鐘守錫為
「まあ」
鐘守錫為
「あれが俺の常套手段だ」
煤木野灰吏
「じゃあ次に鐘守さんと当たったら今度はラッキーかもですね~」
煤木野灰吏
軽口を叩いてみせ、油揚げをつまむ。
鐘守錫為
「イーブンじゃないのか」
鐘守錫為
「俺も、お前の手の内と方向性を把握したからな」
鐘守錫為
酒を呷った。
煤木野灰吏
「いや~、ガラッと戦い方を変えていくかもですよ?」
鐘守錫為
「俺もそうしたらどうする」
煤木野灰吏
「鐘守さんそういうタイプじゃなさそうですけどねぇ」
鐘守錫為
「少なくとも」
鐘守錫為
「お前よりは、様々の戦い方に精通している」
鐘守錫為
斜歯にも公安にも、
鐘守錫為
それ以上の流派に通じてきた者として。
煤木野灰吏
「そうですねぇ」
煤木野灰吏
実際に当たればラッキーと思っている訳ではない。
煤木野灰吏
不運とも思わない。
鐘守錫為
「まあ、また俺がお前に当たることがあったとして」
鐘守錫為
「それでお前が俺を上回る時が来たなら」
鐘守錫為
「素直に祝福するさ」
鐘守錫為
「目覚ましい進歩だろう」
煤木野灰吏
「是非ともそうなりたいものです」
GM?
振り直しタイムで。
煤木野灰吏
2d6 (2D6) > 2[1,1] > 2
鐘守錫為
3d6 全部使ったので全部振り直し (3D6) > 5[2,2,1] > 5
[ 煤木野灰吏 ] がダイスシンボルを1 に変更しました。
[ 煤木野灰吏 ] がダイスシンボルを1 に変更しました。
[ 鐘守錫為 ] がダイスシンボルを2 に変更しました。
[ 鐘守錫為 ] がダイスシンボルを1 に変更しました。
GM?
2R目!
鐘守錫為
グラスの酒を飲み干して、息を吐く。
煤木野灰吏
グラスが空になったのを見て、瓶に手を伸ばす。
鐘守錫為
「ん」
鐘守錫為
「……ああ」
鐘守錫為
悪い、とグラスを灰吏の方へとやる。
煤木野灰吏
いえいえ~、とグラスに酒を注ぐ。
鐘守錫為
透明な液体の注がれるさまを見ている。
煤木野灰吏
グラスを満たして、瓶を置く。
鐘守錫為
その動作を眺めながら、
鐘守錫為
「今回の試験に関しては、ありのままに上に報告するが」
鐘守錫為
それは当然。
煤木野灰吏
「はい」
煤木野灰吏
当然だ、と灰吏も思っている。不満はない。
鐘守錫為
「俺がお前に将来性を見込んでいるのも同時に揺るぎない事実だ」
鐘守錫為
「だから」
鐘守錫為
「……なんというか」
煤木野灰吏
首をわずかに傾けて、鐘守の話を聞いている。
鐘守錫為
「…………」
鐘守錫為
考え込んでいる。言葉を選びあぐねている。
鐘守錫為
もとより言葉を弄すことのあまり得意でない性質であるが。
鐘守錫為
生育環境から来る寡黙を友と長く過ごし過ぎたために、
鐘守錫為
素で話す時は、たまにこうなる。
煤木野灰吏
急かすでもなく、言葉の続きを待っている。
鐘守錫為
その気質を育てた遠因に、ふと思考が逸れた。
鐘守錫為
目を瞬く。灰吏の顔を見た。
煤木野灰吏
「…………?」
煤木野灰吏
視線がぶつかる。
鐘守錫為
「……言霊術」
鐘守錫為
ぼそりと唇から、零すように。
鐘守錫為
アピール します 1切り
鐘守錫為
2D6>=5 (2D6>=5) > 8[2,6] > 8 > 成功
[ 煤木野灰吏 ] 情緒 : 3 → 4
煤木野灰吏
「言霊術」
煤木野灰吏
単語をなぞる。
鐘守錫為
「いや、あの」
鐘守錫為
「あれが」
鐘守錫為
「…………」
煤木野灰吏
「はい」
鐘守錫為
『俺と一緒に、来てはくれないか』
煤木野灰吏
「…………あ~」
鐘守錫為
そのように力を、唇に乗せたことは覚えているが。
鐘守錫為
「あまり」
鐘守錫為
「普段は使わないようにしているものだが」
煤木野灰吏
言い淀む様を見て、遅れて考えが至る。
鐘守錫為
「いや、忍び相手に案ずることでもなかろうが……」
鐘守錫為
酔いのためだけではなかろうが、珍しく語尾がぼやける。
煤木野灰吏
「あれ、後から思うとおかしかったな~って分かるんですけど」
煤木野灰吏
「かけられたその時はなかなか気づけないですねぇ」
鐘守錫為
「そもそも根本的におかしかったからな……」
煤木野灰吏
「おかしかったですね~」
煤木野灰吏
はは、と笑って酒を煽り
煤木野灰吏
空になったグラスに手酌で酒を注ぐ。
鐘守錫為
「一週間もしたら、俺はあの”益のない”流派にしばらくカンヅメだ」
煤木野灰吏
「いつもお疲れさまです」
鐘守錫為
労りに頷きを返す。
鐘守錫為
「好き好んで帰る場所ではない、とは」
鐘守錫為
「当時も思っていた記憶があるがね」
煤木野灰吏
「なんだったんですかねぇ、あのシチュエーション」
鐘守錫為
「さて」
鐘守錫為
「だが、本気でやれたろう」
煤木野灰吏
「男にお持ち帰りされるなんてごめんですからね!」
鐘守錫為
「それであの結果だが……」
煤木野灰吏
「………………」
煤木野灰吏
返す言葉もない。
煤木野灰吏
グラスに口をつける。
鐘守錫為
貝ひもをかじっています。
煤木野灰吏
「……そうです~本気でやってあのザマでした~」
鐘守錫為
「持ち帰られなくてよかったな」
煤木野灰吏
「はい……本当に…………」
鐘守錫為
意気消沈している様子を見ながら酒を飲んでいます。
煤木野灰吏
「…………ん?」
鐘守錫為
「?」
煤木野灰吏
「……あ~、いや」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
2でアピール
煤木野灰吏
2d6=>5 (2D6>=5) > 3[2,1] > 3 > 失敗
[ 煤木野灰吏 ] 情緒 : 4 → 5
煤木野灰吏
「互いが本気を出せるシチュエーションに設定されるんですよね……?」
鐘守錫為
「まあ、概ね」
鐘守錫為
「試験官の側には多少無理があっても構わないとされる」
鐘守錫為
「本質を計られるのは、試験を受ける側の方だからな」
煤木野灰吏
「……鐘守さんも」
鐘守錫為
酒を飲んでいる。
煤木野灰吏
「あれが『本気を出せるシチュエーション』だったってことですよね……?」
鐘守錫為
止まった。
鐘守錫為
目を瞬いて灰吏に視線を向ける。
煤木野灰吏
言ってから、訊かない方がよかったかもしれないと思った。
煤木野灰吏
「……いや、多少の無理もあるんですもんね!」
煤木野灰吏
言い出しておいて、誤魔化すようにグラスを傾ける。
鐘守錫為
裏腹にグラスを持った手を下ろして、
鐘守錫為
ゆっくりと首を傾けた。
鐘守錫為
「だから、そもそも」
鐘守錫為
「根本的にああはならない状況設定だったが……」
煤木野灰吏
「ならないですね~」
鐘守錫為
「あの中での俺はそうだった、ということにはなるな」
鐘守錫為
「今は違うが」
煤木野灰吏
「いや~、無理のある設定でしたね」
鐘守錫為
「あの中で大真面目に戦っていたかと思うと」
鐘守錫為
「多少、滑稽な気分にはなる」
煤木野灰吏
「神器って怖いですね~」
鐘守錫為
清酒を呷る。
鐘守錫為
その開発というか、再現に関わりもしたことが頭を過ぎったが、黙っておいた。
GM?
◆3ラウンド目
鐘守錫為
2捨てて2個振り直します
鐘守錫為
2d6 (2D6) > 8[5,3] > 8
[ 鐘守錫為 ] がダイスシンボルを3 に変更しました。
煤木野灰吏
1捨てで2個振り直し
煤木野灰吏
2d6 (2D6) > 2[1,1] > 2
[ 鐘守錫為 ] がダイスシンボルを5 に変更しました。
煤木野灰吏
鐘守錫為
[ 煤木野灰吏 ] がダイスシンボルを1 に変更しました。
鐘守錫為
「趣味の悪い試験ではあるが」
鐘守錫為
「仮初の感情に振り回されるようではそもそも適性がない、という」
鐘守錫為
「上の考えに関しては理解できる」
煤木野灰吏
「いや~、全くその通りですね……」
鐘守錫為
「それも含めて制御してみせろという話なのだろう」
煤木野灰吏
「記憶や感情を書き換えられるのは、今回に限らずある話ですからねぇ」
鐘守錫為
「我々はむしろ仕掛ける側まである」
煤木野灰吏
「仕掛ける側がかけられて振り回されてりゃ世話ないって話ですよね」
煤木野灰吏
グラスを傾ける。
鐘守錫為
残り少なくなってきた自分のグラスへと視線を移しながら、
鐘守錫為
「煤木野」
鐘守錫為
「お前はその自信はあるか?」
鐘守錫為
2切ってアピールです
鐘守錫為
2D6>=5 (2D6>=5) > 8[2,6] > 8 > 成功
[ 煤木野灰吏 ] 情緒 : 5 → 6
GM?
煤木野灰吏の情緒が爆発しました。
煤木野灰吏
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
手が止まる。
鐘守錫為
残り少ない酒を呷り、手酌で次を注いでいる。
煤木野灰吏
「……そうあるべきだと、」
煤木野灰吏
「そうありたいと思ってますよ」
鐘守錫為
「そうか」
鐘守錫為
「では、それも課題だな」
鐘守錫為
蓋を締めて瓶を置く。
煤木野灰吏
「はい…………」
煤木野灰吏
置かれた瓶に、交代に手を伸ばす。
煤木野灰吏
グラスに酒を注ぐ。
煤木野灰吏
酔うために酒を飲むことも、自身の限界を見誤ることも、普段ならばしないのだが。
鐘守錫為
酒を呷りながら灰吏の様子を見ている。
煤木野灰吏
酒を煽り、合間につまみに箸を伸ばし。
煤木野灰吏
いつになく深酒をして、やがてローテーブルに突っ伏してしまう。
鐘守錫為
突っ伏した灰吏へと視線を落とし、
鐘守錫為
こちらも軽く姿勢を崩して頬杖をついた。
鐘守錫為
「煤木野?」
煤木野灰吏
「は~い…………」
煤木野灰吏
ぼんやりした返事。
鐘守錫為
「…………」
鐘守錫為
ぼんやりした返事に目を瞬いて、
煤木野灰吏
相手に見せる態度を慎重に選んでいる後輩にしては珍しい声色。
鐘守錫為
やがて軽く表情を緩めると、突っ伏した頭に手を伸ばした。
鐘守錫為
薄色の髪を撫で回す。
煤木野灰吏
んー、とも、うー、ともつかない唸り声をあげる。
煤木野灰吏
「なんすかぁ…………」
鐘守錫為
「いや」
鐘守錫為
「お前の頑張り自体は、認めてやろうと思っているよ」
鐘守錫為
わしゃわしゃと手のひらが這う。
煤木野灰吏
掌が這う心地に、また何事かうめいて。
煤木野灰吏
「そりゃどうも~……」
鐘守錫為
「頑張った頑張った」
煤木野灰吏
「ガキじゃないんですから……」
鐘守錫為
「俺より年下で」
鐘守錫為
「後輩だ」
煤木野灰吏
「そうですけど~」
煤木野灰吏
「後輩ですけど~」
煤木野灰吏
「23なんですけど~」
鐘守錫為
「はいはい」
煤木野灰吏
「ガキじゃないですって~~」
鐘守錫為
「分かっているよ」
煤木野灰吏
「ならいいですけどー……」
鐘守錫為
「けど」
鐘守錫為
軽く顔を覗き込む。
煤木野灰吏
覗き込まれた気配に、緩慢に顔を上げる。
鐘守錫為
目が合った。
煤木野灰吏
「けど~?」
鐘守錫為
「けど」
鐘守錫為
「なんだ」
煤木野灰吏
「別に~」
煤木野灰吏
「本当に分かってくれてるのかなって思っただけです~」
鐘守錫為
「分かっているつもりだが」
鐘守錫為
「ここで証明する手段がない」
煤木野灰吏
「そっすね……」
鐘守錫為
「子どもに酒は飲ませんよ」
鐘守錫為
「俺は」
煤木野灰吏
「………………」
煤木野灰吏
目を逸らした。
鐘守錫為
姿勢を戻す。背を伸ばしながら、
鐘守錫為
「まあ、たまには浴びるほど飲むのもいい」
鐘守錫為
「お前は珍しいだろう、そういうの」
煤木野灰吏
「ん~……」
煤木野灰吏
「ま~」
煤木野灰吏
「そーですね~」
鐘守錫為
「立派ではないが」
鐘守錫為
「大人の特権、だろう」
煤木野灰吏
「ダメな大人ですねぇ……」
煤木野灰吏
また顔を伏せるのもおっくうなのか、視線はぼんやりと鐘守に向けられている。
鐘守錫為
「?」
鐘守錫為
まっすぐに灰吏を見返す。
煤木野灰吏
「……鐘守さんは」
煤木野灰吏
「そういう時あるんですか?」
鐘守錫為
「そういう時」
煤木野灰吏
「飲まなきゃやってらんね~、みたいな……?」
鐘守錫為
「…………」
鐘守錫為
少し考え込むが。
鐘守錫為
「俺の場合では」
鐘守錫為
「あまり酒には行かないな」
煤木野灰吏
「なるほど~……」
鐘守錫為
「酒の方が」
鐘守錫為
「いや」
鐘守錫為
「酒も、まあ」
鐘守錫為
「他人に迷惑をかける時はあるか……」
煤木野灰吏
「…………」
鐘守錫為
「煤木野」
鐘守錫為
また手を伸ばした。
鐘守錫為
頭に触れる。
煤木野灰吏
「ん~……」
鐘守錫為
指をさしいれて、髪を梳く。
鐘守錫為
「お前のことは、迷惑と思っていないよ」
煤木野灰吏
「…………なら」
煤木野灰吏
「よかった、です」
鐘守錫為
「そうか」
鐘守錫為
「何よりだ」
鐘守錫為
そのまま、先程より穏やかな手つきで頭を撫でている。
煤木野灰吏
もう少し素面に近ければ、あるいは拒否したかもしれない手付きを、
煤木野灰吏
今は抵抗もなく受け入れている。
鐘守錫為
頬杖をついてそれを延々と繰り返している。
鐘守錫為
グラスもすっかり手放してしまって、灰吏を見ている。
煤木野灰吏
そうされているうちに、やがてうとうとと瞼が下りてゆく。
煤木野灰吏
「…………俺」
煤木野灰吏
「かえんないと」
煤木野灰吏
「そろそろ…………」
鐘守錫為
「…………」
煤木野灰吏
そう言いつつも、起き上がる気配はなく。
鐘守錫為
もごもごと言い募るのを見ながら、手を止めない。
鐘守錫為
「立てないだろう」
鐘守錫為
「そのざまでは」
煤木野灰吏
「立てます~……」
鐘守錫為
返答は口ばかりと理解しているから、
煤木野灰吏
「超余裕…………」
鐘守錫為
手を止めることはない。
煤木野灰吏
結局、抗えず瞼が下りてゆく。
鐘守錫為
その様子を見ている。
鐘守錫為
瞼を落としても手を止めず、繰り返し頭を撫でている。
煤木野灰吏
口から出るのも、もはや意味をなさないうめき声ばかり。
煤木野灰吏
やがてそれさえもなくなって、静かに寝息を立て始める。
鐘守錫為
灰吏が寝息を立て始めてからも、しばらくは手を止めずにいた。
鐘守錫為
しかしそのうち手を止めて、ソファのへりに背中を預ける。
鐘守錫為
寝入った後輩を眺めながら残った酒をちびちびとやって、
鐘守錫為
それが空になったら立ち上がった。
鐘守錫為
灰吏の腕を取り、肩に担ぐ。
煤木野灰吏
「ん~…………」
煤木野灰吏
かすかに唸って、けれどされるがままに担がれる。
鐘守錫為
唸り声を耳に一瞬止まったが、起きる様子のないことを確認して
鐘守錫為
そのまま寝室に繋がる扉を押し開け、酒の残るリビングを去った。