◆メインフェイズ第二サイクル第一シーン

シーンプレイヤー:七竈 幽

GM
どういうシーンだろう。誰か出しますか?
七竈 幽
蘇芳さんついてきてくれる?
七竈 蘇芳
いいよ。
GM
仲良し。
GM
またCSTでも振りますか?
GM
もしくは家で探るのもありだろうが。
七竈 幽
蜜さんの秘密を抜きたいんだけど、どのようにしたら抜ける感じの秘密ですかね。
GM
どうだろうな。とりあえず会っていいんじゃないですか?
GM
幽くんあんま蘇芳さん以外と話してないし。
七竈 幽
そうだな。
GM
とりあえず会話すると物語的にアドがあるとわかる。
七竈 幽
情報判定。蜜の秘密を抜きます。
七竈 幽
特技は見敵術。
GM
感情修正もらうんですか?
七竈 幽
ほしい。
GM
蘇芳さんいかがか。
七竈 蘇芳
いいよっ
GM
では+1をつけて判定をどうぞ。
七竈 幽
2D6+1>=5 (判定:見敵術) (2D6+1>=5) > 7[1,6]+1 > 8 > 成功
GM
出目の安定した卓だな。
GM
蜜さんの秘密ですね。二人にお送りしましょう。
七竈 蘇芳
わ~い
七竈 幽
秘密だ。
七竈 蘇芳
幽の判定は安定していてえらいねえ
GM
お送りしました。
GM
んじゃRPの方お願いしますよ。
七竈 幽
街。
七竈 幽
時にビルの屋上から屋上へと渡り、
七竈 幽
時に人混みをすり抜けて。
七竈 幽
今日も探し人を求め歩く。
七竈 蘇芳
街の影から影へ。
七竈 蘇芳
気配を殺し、息を潜め。
七竈 蘇芳
その足取りをつかずはなれず追う。
七竈 幽
ただ闇雲に歩いているわけではない。
七竈 幽
声。
七竈 幽
足音。
七竈 幽
一度立ち会った相手の痕跡を思い出し、たどる。
懸鉤子 蜜
やがて、ひとつの音に辿りつく。
懸鉤子 蜜
ヒールがアスファルトを蹴る音。
あの日その身に振りかぶられただろう靴。
懸鉤子 蜜
それが歩く音。
七竈 幽
す、と目を細める。
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
それを追って、建物の隙間を駆けていく。
懸鉤子 蜜
スーパーへ立ち寄り。
エコバッグを下げたまま、近道なのか路地へ。
懸鉤子 蜜
人気のない方へ歩いていく姿。
七竈 幽
息を潜めて、後を追う。
七竈 幽
彼女を追っていけば、獅子鞍透夜の隠れ家に行き当たるかもしれない。
懸鉤子 蜜
果たしてそこは袋小路だった。
七竈 幽
「…………」
懸鉤子 蜜
苺が一粒落ちている。
七竈 蘇芳
誘導されている。それに気づいていて、しかし。身を潜めたまま。
七竈 幽
或いは既に自分の尾行は気づかれているのかもしれない。
七竈 幽
その考えも、勿論あった。
七竈 幽
袋小路に、苺が一粒。
懸鉤子 蜜
「ね」
懸鉤子 蜜
袋小路の壁から声がする。
七竈 幽
「何」
七竈 幽
その可能性を考えながらもついてきたのは、彼女が獅子鞍透夜を殺す上で一番の障害になると思われたからだ。
七竈 幽
手に持つは刀。
懸鉤子 蜜
隠形術専用の風呂敷をはらりと解いて。
姿を現す。
懸鉤子 蜜
くるりと丁寧に、バッグにスカーフのようにそれを巻いて。
七竈 幽
手傷を負わせる。相手の情報を知る。
七竈 幽
なんでもいい。手ぶらですごすごと引き返すよりは。
懸鉤子 蜜
相対する。
その顔をまじまじと見つめ。
懸鉤子 蜜
「……君、好きな食べ物は?」
七竈 幽
「は……?」
七竈 幽
「それは何の意味がある質問なんだ?」
懸鉤子 蜜
「お話は嫌い?」
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
「時と場合による」
懸鉤子 蜜
苺を一粒拾いあげて。
これまた専用の風呂敷を敷いて座る。
懸鉤子 蜜
「これは時と場合……に入れてくれる?」
懸鉤子 蜜
自分の隣の地面をぽんぽんと叩く。
七竈 幽
「………………」
七竈 幽
女のシノビなどというものは警戒するべきで。
七竈 幽
まして、フレンドリーなくノ一などは尚更。
七竈 幽
「……………………」
懸鉤子 蜜
じっと見つめる。
七竈 幽
警戒は解かぬまま。
七竈 幽
ゆっくりと歩み寄る。
七竈 幽
「妙な動きをしたら斬る」
懸鉤子 蜜
「どうぞ~」
七竈 幽
蜜の隣に腰を下ろす。
懸鉤子 蜜
膝を抱える。
懸鉤子 蜜
改めてまじまじと眺める。
七竈 幽
まっすぐにその視線を受け止める。
懸鉤子 蜜
「……うん。やっぱり……よく見たら、かわいい顔してる。君」
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
「そう……」
懸鉤子 蜜
「とーやには負けるけど~」
懸鉤子 蜜
うふふ。
七竈 幽
「そう…………」
七竈 幽
心底どうでもよさそうに答える。
獅子鞍 透夜
隠れ家から少し離れた木々の中。
獅子鞍 透夜
両手に構えた銃を正面の的に向ける。
獅子鞍 透夜
射撃。移動、装填。射撃。
獅子鞍 透夜
コンマ1秒でも早く。
獅子鞍 透夜
1mmでも先に。
獅子鞍 透夜
腕が軽い。
獅子鞍 透夜
昨日までよりも、動きが滑らかだ。
獅子鞍 透夜
これは……
獅子鞍 透夜
何かが影響しているという事なのだろうか。
獅子鞍 透夜
「ミ……」
獅子鞍 透夜
そういえば、帰りが遅い。
獅子鞍 透夜
もう、その辺にいるものだと思っていた。
獅子鞍 透夜
「…………」
獅子鞍 透夜
胸騒ぎがする。
獅子鞍 透夜
こくりと喉を鳴らすと、銃をホルスターに戻し
獅子鞍 透夜
ミツの向かった先へと走り出した。
七竈 幽
「…………」
懸鉤子 蜜
「さっきの質問に答えてくれたら」
懸鉤子 蜜
「イイコト教えてあげる」
七竈 幽
「さっき」
七竈 幽
「好きな食べ物?」
懸鉤子 蜜
頷く。
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
「…………大学芋」
懸鉤子 蜜
「渋い!」
七竈 幽
「で、」
七竈 幽
「いいことって何?」
懸鉤子 蜜
同じシノビにしか聞こえないごくわずかな声量の囁き。
七竈 幽
幽だけが、その声を捉える。
懸鉤子 蜜
「……とーやの、好きな食べ物は」
懸鉤子 蜜
「苺だよ」
七竈 幽
「………………」
七竈 幽
「…………いちご」
懸鉤子 蜜
くすくす。と笑う。
七竈 幽
それが、なんだ。
七竈 幽
苺が好きだから、なんだっていうんだ。
七竈 幽
そう思うのに。
懸鉤子 蜜
また唇が動く。
懸鉤子 蜜
小さく。小さく。
懸鉤子 蜜
密やかな声。
七竈 幽
「…………」
懸鉤子 蜜
そうしてただ笑っている。
七竈 幽
「…………適当な、ことを」
七竈 幽
「言うな」
七竈 幽
隠しきれない動揺。
懸鉤子 蜜
「適当なんて言わない」
七竈 幽
出鱈目ならば、思い当たるものが何もないならば、動揺などしない。
七竈 幽
「…………」
懸鉤子 蜜
「私の声に嘘が混じってるか」
懸鉤子 蜜
「よぉく聞いてみて」
七竈 蘇芳
ひそやかな声は、影がそれを掠め取る前に幽の耳元に溶ける。
言葉ではなく、断片的に情報を拾う。
懸鉤子 蜜
できるでしょ?と、いう挑発を含んだ声。
懸鉤子 蜜
「もう一度言おうか?」
七竈 幽
「…………いや」
七竈 幽
「必要ない」
七竈 幽
「あんたの言葉が真実だとしても」
七竈 幽
炎が溢れる。
七竈 幽
「オレのやることに何も変わりはない」
獅子鞍 透夜
カン!と高所から足元に銃弾。
七竈 幽
飛び退る。
獅子鞍 透夜
「…………」
獅子鞍 透夜
殺気。
七竈 幽
見上げる。
懸鉤子 蜜
立ち上がって風呂敷を畳む。
獅子鞍 透夜
「お前の相手は俺じゃなかったのか?」
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
視線が交わる。
七竈 幽
蜜の秘密を透夜に譲渡します。
獅子鞍 透夜
炎を宿した心臓が呼応する。
獅子鞍 透夜
蘇芳の秘密を幽に譲渡します。
GM
いいですね。かっこいい。
GM
では、蜜の秘密から公開していきましょう。
【秘密:懸鉤子 蜜】
獅子鞍 透夜は不知火の生き残りであり、『宝珠・迦具土』の器である。
クライマックスフェイズ開始時に
獅子鞍 透夜が『宝珠・迦具土』を持っていた場合、獅子鞍 透夜は火神となる。
あなたの本当の使命は【火神を殺す】ことだ。

「君を自由にする」
獅子鞍 透夜にそんな約束をしたのは七竈 幽である。
あなたはその約束の相手が自分であると獅子鞍 透夜に思い込ませ、
あなたの傍にいるように縛りつけた。

しかし、ずっと共に過ごしてきた獅子鞍 透夜をあなたは失いたくない。
獅子鞍 透夜があなたにプラスの感情を抱いてくれるのであれば
使命を【獅子鞍 透夜を自由にする】に変更してもよい。
GM
続けて蘇芳の秘密を公開します。
【秘密:七竈 蘇芳】
あなたは火神と称される不死の命を持つ存在だ。
だが、己のうちにあった力『宝珠・迦具土』を奪われた上、
瀕死の七竈 幽を助けるために不死の命の源である『神鏡・啼沢女』を与えた今、
あなたは定められた命を持つただの怪物となってしまった。
背景『劣性因子』を修得し、好きな妖魔忍法を1つ修得すること。

神であった頃の記憶も薄れた今、
胸に募るは共に生きてきた七竈 幽への想いのみ。
七竈 幽と互いにプラスの感情を結んでいる場合、
あなたは自分のドラマシーンで七竈 幽と何かを約束し、
それを使命とすることもできる。
GM
蘇芳は【見越】を修得しています。
GM
――呼応する。
GM
ともに生まれた二人の、
GM
ともに形作られた心臓が、
GM
今この瞬間、同時に脈打つ。
七竈 幽
「────!」
七竈 幽
交わった視線に宿っていた炎が、殺意が、
七竈 幽
揺れる。
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
「…………結?」
獅子鞍 透夜
「……!」
獅子鞍 透夜
問いかけるようなその呼びかけに息をのむ。
獅子鞍 透夜
その名を知っているのは、幼き日に別れた家族のみ。
獅子鞍 透夜
ならば
獅子鞍 透夜
ならば、この、自分と同じほどの年の男は……
獅子鞍 透夜
「透夜……?」
GM
溢された名が。
GM
しるしが二人の縁を繋ぐ。
GM
遅れて彼と彼女の脳裏を駆け巡る、
GM
既に燃え落ち失せ果てたはずの、
GM
とおいむかしの、色彩の記憶。
GM
GM
――鞍馬からの要請だった。
GM
不知火の幼き子を。
GM
迦具土の器となる子供を一人、忍の世の安寧を守るため、譲り受けたい。
GM
忍の世の揺らぐことは不知火も望まない。ただでさえいつ消え失せるとも知れぬか細き流派。
GM
それと引き換えに鞍馬との協力関係を築けるのならばありがたいと、不知火の首魁はそのように判断した。
GM
しかし、ただひとつ。互いに食い違うところがあった。
GM
候補となりうる子供は二人。
GM
同時にこの世に生まれ落ちた、双子の兄と妹。
GM
鞍馬の望んだ子は兄だった。この役目には本来男児こそが相応しいと。
GM
さりとて不知火の側も跡継ぎの男児を差し出すことは好ましくない。
GM
食い違う主張。しかし取引の決裂を望まなかったそれぞれは話し合いの末、一つの結論を出す。
GM
不知火のもとに残す子は男児。ただし、鞍馬に差し出す方の子を、『男児であった』こととする。
GM
双子の兄妹。兄を透夜(トウヤ)、妹を結(ユウ)と云う。
GM
鞍馬に差し出された女児は、これより透夜を名乗って過ごす。
GM
男として育てられ、男の格好をして、男として『迦具土』の器としての役目を果たす。
GM
不知火に残った男児は、その真実を隠すため、結を名乗る。
GM
その時が訪れるまで。差し出された子が役目を果たすその瞬間まで、世間の目を欺くために、彼は女として育てられる。
GM
鞍馬と不知火。二つの流派の間で、そのように円満に取引が成立した。
GM
とうの双子、幼子ふたり。
GM
当然に、その意志の確認などもせで。
GM
――鞍馬の名門、獅子鞍が屋敷。
GM
結――これより先、彼女は透夜と名乗ることとなる――は戸籍上この家の一員として迎えられ、役目を果たすこととなる。
GM
不知火の里では見られない立派な門構えの屋敷に連れ来られた彼女に、
GM
透夜――これより先、彼は結を名乗るはずだった――が語りかける。
GM
兄として。
GM
妹に手向ける言葉を。
透夜
別れを知らされた時には、全てが決定事項となっていた。
透夜
妹はこの家に残されて、自分だけが里に帰る。
透夜
どんなに駄々をこねたところで、覆るはずもなく。
透夜
「…………結」

微笑む。

「大丈夫だよ、透夜」

嘘、本当は大丈夫などではない。
透夜
「…………」
透夜
大丈夫なはずがない。

それでも、心配させまいと精いっぱいの虚勢を張る。
透夜
「……うん」
透夜
「…………」

「透夜」
透夜
妹を見る。
透夜
内気な兄よりも、
透夜
妹の方が、もっと幼い頃からいつも気が強くって
透夜
透夜の方が弟みたいだとか言われることもあった。
透夜
「…………結」

「うん」

どうして、離れなければならないのか。

一族のため。世界のため。そして何より

透夜のためだと、父は言った。
透夜
自分の身代わりにされようとしている片割れ。

それならば、別に構わないと思った。

「大丈夫だよ」
透夜
透夜のために、結はこの家に残る。
透夜
ならば自分が、結のためにできることは。
透夜
「……結は、つよいもんな」

「大きくなって、もっと強くなって」

「ちゃんと、務めを果たすから……」
透夜
「…………」

「透夜は、父様と母様をよろしくね」
透夜
「オレは、それよりもっと強くなる」
透夜
「結」
透夜
「迎えに来る」

「…………」

「うん…………」
透夜
「オレが結を自由にする」
透夜
「だから、待ってて」

堰を切ったように、両目からぽろぽろと涙があふれだす

「うん……うん……透夜……」
透夜
ぎゅ、と涙をこぼす妹を抱きしめる。

二度と会えないかもしれない片割れ。

「まってる……まってるから……」
透夜
「うん」
透夜
「約束する」

その記憶さえ、奪われるとも知らず。
透夜
すべて忘れることになると知らず。

ただ、縋り付くように最後の涙を流した。
透夜
「絶対、ぜったい、迎えにくる」
透夜
幼い約束を交わす。

「ぜったいね……」
透夜
「うん」
透夜
「ぜったいだ」
透夜
小さなてのひらで、懸命に妹の背中をさする。

「…………」

すっかり涙で兄の着物を濡らし

顔をあげて。

「約束ね」
透夜
小指を差し出す。
透夜
「約束」

小指を絡めて。

「……うん!」
透夜
結ぶ。
透夜
「ん」

縁を結ぶ。結という名

その名を兄に預け

日の光の届かない夜を超えて、明日が見えるように。透夜という名

それを受け取る
獅子鞍 透夜
袖で、涙をぬぐいながら離れる。
獅子鞍 透夜
離れていく小指。
透夜
それが寂しくて、だけど不安を見せないように笑っている。
獅子鞍 透夜
「……またね」
透夜
「うん」
透夜
「また」
透夜
話したいことは、時間がいくらあっても足りないほどに。
透夜
だけど、これが今生の別れにはならない。させないから。
透夜
だから手を振って、笑顔で別れる。
獅子鞍 透夜
にこりと、笑って
獅子鞍 透夜
獅子鞍の者に手を引かれ、連れられて行く。
獅子鞍 透夜
これが最後ではないと信じて。
GM
二人の世界を隔てるように、
GM
障子の戸が、閉じられた。
GM
GM
そして、今。
GM
十年後。
GM
透夜は幽を名乗り、結は透夜を名乗り。
GM
シノビとしてここに相対している。
懸鉤子 蜜
「……約束、守れないね。幽くん」
七竈 幽
「…………」
懸鉤子 蜜
取引に一枚噛んだ、比良坂より遣わされた。
あの日。名を互いにすげ換えた2人の縁を完全に切り離すために。
懸鉤子 蜜
言霊術を繰る醜女衆の1人として。
しかし今は。
懸鉤子 蜜
ひとりの少女のために。
獅子鞍 透夜
「…………」
懸鉤子 蜜
「だって。私が、約束を守るもの」
七竈 幽
今までどうして思い出せなかったのか。
七竈 幽
獅子鞍透夜。
七竈 幽
彼女が自分の双子の妹、結であること。
七竈 幽
彼女が名乗っている透夜こそが自分の名前であること。
懸鉤子 蜜
「あの男の息子としてぬくぬくしてるんならそれでいいけど~」
懸鉤子 蜜
「あなたは自由の身だものね」
七竈 幽
あの日結んだ約束。
七竈 幽
妹を迎えに行く。自由の身にする。
七竈 幽
それは果たされず、
七竈 幽
あろうことか命を奪う者として、自分は彼女の前に現れた。
七竈 幽
「……結…………」
獅子鞍 透夜
「…………違う」
獅子鞍 透夜
「俺は……透夜だ。獅子鞍 透夜……!」
獅子鞍 透夜
銃を、向ける。
七竈 幽
「…………!」
七竈 幽
「結……」
七竈 幽
「オレは、お前を、」
七竈 幽
「お前を…………、……っ!」
獅子鞍 透夜
「…………」
獅子鞍 透夜
引き金にかけた人差し指が震える。
七竈 幽
妹を見つめる瞳が揺らぐ。
七竈 幽
右目を抑える。
七竈 幽
「オレ、は」
七竈 幽
「ぐ……っ!」
七竈 幽
「オレは……!」
獅子鞍 透夜
「ミツ!」
懸鉤子 蜜
「幽くん」
七竈 幽
一度は消えた炎が、殺意が、
懸鉤子 蜜
「……透夜のためになにができるか、よ~く考えてね」
懸鉤子 蜜
「結のためにも」
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
再び、幽を焦がす。
懸鉤子 蜜
荒い殺意の炎が迫るのを、足取り軽やかに躱す。
七竈 幽
「…………オレは」
七竈 幽
「獅子鞍透夜を殺す」
獅子鞍 透夜
「…………ちっ」
七竈 幽
「火神被殺を成す」
七竈 幽
「それ以外に、考えることなどない」
獅子鞍 透夜
上方は優位、両手の銃から弾丸が放たれる。
七竈 幽
切り払い、燃やし尽くす。
七竈 幽
そのまま、獅子鞍透夜の元へ駆け上がろうと。
七竈 蘇芳
どぷん、と音ならぬ音。
獅子鞍 透夜
「てめぇの横にいるそれが……」
七竈 蘇芳
「幽」
獅子鞍 透夜
「火神だろうがよ!」
七竈 蘇芳
「退け」
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
「邪魔をするな」
獅子鞍 透夜
「ミツ!」
懸鉤子 蜜
「あ~らあら。火神の息子だなんて、とっても光栄だね!」
懸鉤子 蜜
上方へ、跳ねる。
七竈 蘇芳
問答はなく、幽の脚に影が絡む。
七竈 蘇芳
機動を阻む。
獅子鞍 透夜
「引くぞ」
七竈 幽
「…………っ!」
懸鉤子 蜜
透夜の隣へ降り立ち、頷く。
七竈 幽
容易に脚を捉われる。
七竈 幽
獅子鞍透夜を殺す。
獅子鞍 透夜
その間に、遠方へと駆ける。
獅子鞍 透夜
姿をくらます。
七竈 幽
それ以外のすべてが意識の外にあったから。
七竈 蘇芳
その焔は鬼の影さえ灼く。
七竈 蘇芳
形を成し、姿を現して。
七竈 幽
しばし影から逃れようともがいていたが、
七竈 幽
透夜の気配が消えたのに応じて、炎も散っていく。
七竈 蘇芳
肩に手を置く。
七竈 幽
「…………蘇芳さん?」
七竈 蘇芳
「深呼吸」
七竈 幽
小さく目を見開く。
七竈 幽
この場に蘇芳が来ていることに、はじめて気がついたかのように。
七竈 幽
言われるままに、呼吸を繰り返す。
七竈 蘇芳
「良い子だ」
七竈 蘇芳
とはいえ、そこに常の能天気な笑みはなく。
七竈 蘇芳
袋小路の天を仰ぎ、二人の去った方角を見る。
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
「…………ごめん」
七竈 蘇芳
「うん?」
七竈 幽
「邪魔するなとか言った……」
七竈 幽
「蘇芳さんに……」
七竈 蘇芳
「あっはは」
七竈 蘇芳
「ちょっとびっくりした」
七竈 幽
「ごめん……」
七竈 蘇芳
「大丈夫」
七竈 蘇芳
「元気なのはいいことだ」
七竈 蘇芳
「でも、まあ」
七竈 蘇芳
「あの感じじゃ殺れないと思ったから」
七竈 蘇芳
「邪魔してごめんね」
七竈 幽
「……大丈夫」
七竈 幽
「オレも、多分無理だったと思う」
七竈 幽
「位置取りが向こうに有利だったし」
七竈 蘇芳
「感情面の余裕もあっちにあったさ」
七竈 蘇芳
「……幽」
七竈 蘇芳
「何か思い出した?」
七竈 幽
「…………うん」
七竈 蘇芳
それはいつも。幼いころから繰り返した問いかけで。
七竈 幽
「……獅子鞍透夜」
七竈 幽
「あいつの名前は、結」
七竈 幽
「それで、オレの本当の名前が透夜」
七竈 幽
「あいつはオレの双子の妹だ」
七竈 蘇芳
そしていま、はじめて幽が うん、と言った。
七竈 蘇芳
「……そっかあ」
七竈 蘇芳
自分がどんなに手を尽くしても戻ることのなかった記憶が。
七竈 蘇芳
あの一瞬の視線の交叉で。
七竈 蘇芳
「透夜って呼んだほうがいい?」
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
「いや」
七竈 幽
「幽がいい」
七竈 蘇芳
「そう」
七竈 幽
「うん」
七竈 蘇芳
頭を撫でる。
七竈 幽
撫でられている。
七竈 蘇芳
「じゃ、今日は帰ろう。作戦会議だ」
七竈 幽
目の前の彼こそが火神だと告げられても、態度は何ら変わることなく。
七竈 幽
「……ん」
七竈 幽
「そうする」
七竈 幽
「…………」
七竈 蘇芳
「幽が、やりたいことなら」
七竈 蘇芳
「応援するから」
七竈 幽
「………………オレの」
七竈 幽
「やるべきことは、変わらない」
七竈 幽
「妹だろうが、誰だろうが」
七竈 幽
「迦具土の器──獅子鞍透夜を殺す」
七竈 蘇芳
「……うん」
七竈 蘇芳
それがこの子の望みなら。
GM
耳にとおく、
GM
どこかで、火の粉の爆ぜる音がした。