◆メインフェイズ第二サイクル第四シーン

シーンプレイヤー:懸鉤子 蜜

GM
七竈幽と七竈蘇芳との交錯の末、
GM
手傷を負うた二人は数あるセーフハウスの一つに戻る。
GM
傷は、浅い。シノビが戦うのはなんら支障を来たしはしない。
GM
身体の傷は。
懸鉤子 蜜
再びがらんとした部屋に戻ってくる。
それでもいくらか散らかり始めてはいて。
身を隠している期間を思う。
懸鉤子 蜜
昔から、透夜は。
ひとりが苦手な子だった。
懸鉤子 蜜
それでも一人暮らしを勧めたのは、自由というものを謳歌してほしかったから。
懸鉤子 蜜
今は、通話でもゲームでも友達と遊ぶことだってできる。
便利な時代だ。
懸鉤子 蜜
それでも、そんな便利な世界にだって。
心に忍び込む闇があるのを知っているのが。
懸鉤子 蜜
シノビだし。
それ以前に、家族だろう。
懸鉤子 蜜
脱いだ靴を揃えもせずに、脱衣所に行って素足を洗う。
懸鉤子 蜜
「とーやも手洗うんだよ~」
懸鉤子 蜜
ふんわりと声をかける。
懸鉤子 蜜
宣言してなかった。透夜くんに登場してもらいます。
獅子鞍 透夜
破れた上を脱ぎ、半裸のままタオルを手に水道に向かう。
GM
あ、了解です。なめらかに受け入れていた。大丈夫。>登場
獅子鞍 透夜
既に血は止まっているが、汚れまで落ちたわけではない。
獅子鞍 透夜
「んー」
獅子鞍 透夜
もう少し、差し込まれていたら心臓に届いていただろうか。
獅子鞍 透夜
ぞっとしない。
獅子鞍 透夜
赤く汚れたタオルを洗濯機に入れて、振り返る。
獅子鞍 透夜
「怪我した?」
懸鉤子 蜜
「んーん、触られたのが気持ち悪かっただけ」
懸鉤子 蜜
ふふ、と悪戯っぽく笑う。
獅子鞍 透夜
「そりゃよかったですね」
獅子鞍 透夜
肩を竦める
懸鉤子 蜜
「とーやは……痛くない?」
獅子鞍 透夜
「へーきへーき」
懸鉤子 蜜
いつもとは違う聞き方。
獅子鞍 透夜
「毒とかもなさそうだし、切れただけ」
懸鉤子 蜜
怪我だけを心配したものではない。
獅子鞍 透夜
あれは、いつからだったろう。
獅子鞍 透夜
幼い時から、一人でいると声が聞こえることがあった。
獅子鞍 透夜
自分を呼んでいるような、恨んでいるような声。
獅子鞍 透夜
おばけがこわい、だなんて誰にも言えず。
獅子鞍 透夜
でも、ミツといるときだけはその声が聞こえてはこなかった。
懸鉤子 蜜
戦闘の汚れを落とし、先日のように処置道具を広げる。
懸鉤子 蜜
今度は胸に傷。
これが、今日まで仕えている理由。
獅子鞍 透夜
軽く汚れを落とすと、タオルを肩から掛けてミツの前へ。
懸鉤子 蜜
女であることを明かさないまま。
兄と離れ離れになったまま。
一族からひとり、差し出されて。
懸鉤子 蜜
それがどれだけつらいことか、わかる。
懸鉤子 蜜
そして、自分が想像しているよりもっとあるかもしれない。
透夜自身が抱えているものを軽くしてやれないのが、悔しい。
獅子鞍 透夜
「そんなに深くないと思うけど」
懸鉤子 蜜
軟膏を手に取り、塗る。
特製の塗り薬だ。体の傷は塞がるだろう。
懸鉤子 蜜
心は?
獅子鞍 透夜
初めから、死ぬために生かされてきた。
獅子鞍 透夜
それが、今更わかったところで。
獅子鞍 透夜
この身体に宿った化け物を、引きはがすことは出来ない。
獅子鞍 透夜
きっと、自分が死んで、悲しむ人はいなかった。
獅子鞍 透夜
それはきっと、家族でさえも。
ただ、必要な犠牲。
獅子鞍 透夜
"だった"
懸鉤子 蜜
「とーや」
懸鉤子 蜜
「……初めて会った時、おぼえてる?」
獅子鞍 透夜
「え?」
懸鉤子 蜜
「好きな食べ物聞いて、ほら。
正座の崩し方教えたでしょ」
獅子鞍 透夜
「ああ……覚えてる。俺、めちゃめちゃ緊張して」
獅子鞍 透夜
「覚えろって言われたの、全部忘れてさ」
懸鉤子 蜜
「ふふ」
懸鉤子 蜜
真面目でまっすぐ。
負けず嫌いで、寂しがり。
懸鉤子 蜜
「あの時みたいな顔してたから、ちょっと心配だったの」
懸鉤子 蜜
あの時みたいに。
少しずつ抜け道を教えてあげると、そう言った。
獅子鞍 透夜
「ミツ……」
懸鉤子 蜜
まっすぐすぎるこの子に、してあげられること。
いくつも選択肢を用意すること。
懸鉤子 蜜
それが私の、使命。
懸鉤子 蜜
獅子鞍透夜に感情を結びます。
使用するのは衣装術。
あの日一番最初に教えたこと。
GM
いいでしょう。判定をお願いします!
懸鉤子 蜜
2D6>=5 (判定:衣装術) (2D6>=5) > 8[2,6] > 8 > 成功
GM
ETを。
懸鉤子 蜜
ET 感情表(3) > 愛情(プラス)/妬み(マイナス)
獅子鞍 透夜
ET 感情表(4) > 忠誠(プラス)/侮蔑(マイナス)
GM
いかがいたしますか?
懸鉤子 蜜
愛情です
獅子鞍 透夜
忠誠で
GM
了解しました。続けてどうぞ!
懸鉤子 蜜
本当の自由。
自分の気持ちに素直になること。
懸鉤子 蜜
そのための道を用意できるだけ、用意する。
だから今。ちゃんと聞かなきゃ。
懸鉤子 蜜
「……ほんとは、悲しい?」
獅子鞍 透夜
「…………」
獅子鞍 透夜
この気持ちを、言葉にするのは難しい。
獅子鞍 透夜
本当の家族に、道具のように差し出されていたことも。
その家族がひとりを残して死んでいることも。
どこか遠く。
獅子鞍 透夜
あの一瞬、兄の面影を。
約束を思い出したのは……
獅子鞍 透夜
「悔しい」
獅子鞍 透夜
ぼそりと
獅子鞍 透夜
「俺、何も知らなかった。忘れてた。全部、俺の知らないところで……」
獅子鞍 透夜
「何もできなかった。いや、それ以前の問題だ。」
獅子鞍 透夜
それでも、また
獅子鞍 透夜
「苦しい」
獅子鞍 透夜
「なんで……なんで、俺……」
獅子鞍 透夜
「殺すって……」
獅子鞍 透夜
「俺も、殺さないとダメかな……」
懸鉤子 蜜
忘れさせたのは、自分だ。
何もさせなかったのも。
それが透夜のためになると。
獅子鞍 透夜
「まだ、何にも話してない。せっかく会えたのに……」
懸鉤子 蜜
今、そうでないのなら。
今、できることを考える。
それが償いで、愛情の形。
獅子鞍 透夜
「でも、俺だって……死にたくない」
獅子鞍 透夜
「ミツが、一緒にいてくれるから……俺の居場所は、あるから」
獅子鞍 透夜
これまで。これから。
獅子鞍 透夜
一番近くにあって、ずっと大切にしてくれて。
獅子鞍 透夜
本当は、もっと大切にしなければならないもの。
獅子鞍 透夜
「悔しくても、苦しくても。俺は、悲観したりはしない。」
懸鉤子 蜜
「……殺しても、殺さなくてもいい方法。
選べる方法、なるべく考えてみよ」
懸鉤子 蜜
「そんで、やっぱこっちがいいな!ってなったら、その時ちゃっかり選んじゃお」
獅子鞍 透夜
「……うん」
懸鉤子 蜜
「どっちにしたって私たちが勝つもんね~」
獅子鞍 透夜
「当然!」
懸鉤子 蜜
だから。
好きに、自由に、自分のために選んで。
懸鉤子 蜜
今度こそ本当に、自由にしてあげるから。
一緒に頑張ろうね。
獅子鞍 透夜
使命を【自由になる】に変更します。
懸鉤子 蜜
使命を【獅子鞍透夜を自由にする】に変更します。
GM
了解しました。獅子鞍透夜と懸鉤子蜜の使命が変更。
GM
二人をつなぐまことの約束が、
GM
胸にあたたかい熱を灯す。
GM
それは二人を縛るものではなく、
GM
寄り添い、向き合い、結びつけるものとして――。
七竈 幽
蘇芳と一緒に、二人の暮らす家に戻る。
七竈 幽
出会う以前の記憶を取り戻したとて、やはりここが自分の帰る家だという気持ちは変わらない。
七竈 蘇芳
いつもと変わらぬ家。かつて定住をすることの無かった自分が、幽のために棲みかと決めた場所。
七竈 幽
きれいに靴を揃えて家にあがる。
七竈 幽
力を失くした神と、記憶を失った幼子。
七竈 幽
二人で手探りで、今の暮らしを作り上げてきた。
七竈 蘇芳
幸い、知識を得るための材料は階下に多く揃っていた。
七竈 蘇芳
朝も昼もなかった暮らしに、人間としての"普通"が作りあげられていった。
七竈 蘇芳
たくさん失敗して。たくさん間違えて、それでも。
七竈 蘇芳
二人で手探りで。
七竈 幽
少しずつ、少しずつ。
七竈 幽
そうして、家族になっていった。
七竈 蘇芳
母が欲しいかと訊いたことがある。
七竈 幽
いらないと答えた。
七竈 幽
蘇芳さんがいるから大丈夫。
七竈 蘇芳
ずっとその調子だ。
七竈 蘇芳
この子には、俺しかいない。
七竈 蘇芳
それをいつも喜ばしく思っていた。
七竈 蘇芳
自分にもまた、この子しかいないのだから。
七竈 幽
……なのに、今になって。
七竈 幽
……妹。結。
七竈 幽
落ち着いてみれば、どうして妹と知ってあんなに動揺したのか分からない。
七竈 幽
知ったところで、自分の成すべきことに変わりはない。
七竈 蘇芳
あんなにも動揺した幽を見るのは初めてだった。
七竈 蘇芳
だから、自分もまた動揺した。
七竈 蘇芳
恐ろしい、と。そう思った。これが恐怖だということがなんとなくわかった。
七竈 幽
あの交錯の瞬間に弱まった不知火の業火は、
七竈 蘇芳
この子がいなくなることがおそろしい。
七竈 幽
元通り、あるいは以前よりもなお激しく。
七竈 幽
幽を縛る。
七竈 幽
獅子鞍透夜に対して、殺意以外の感情を持つことを許さない。
七竈 幽
そうでない思いは火に焚べられ、塵へと変わっていく。
七竈 幽
だけど、多分、
七竈 幽
その業火がなくても、幽が結との約束を果たすことはなかった。
七竈 幽
もはや自分は不知火の透夜ではない。
七竈 幽
七竈幽。
七竈 幽
七竈蘇芳の息子。
七竈 蘇芳
大事な、大事な愛し子。
七竈 蘇芳
この子が宿願を果たせば、その先を脅かすものはもう。
七竈 蘇芳
何もないはずだ。
七竈 蘇芳
ならばあの時。なぜ止めた?
七竈 蘇芳
その答えが出ない。
七竈 蘇芳
あの時もうひとつ、恐ろしいと思ったのは。
七竈 蘇芳
不知火の業火に焼かれ続けるこの子の、その宿命。
七竈 蘇芳
力を失った神――怪物の手をとることでしか、生き延びられなかった幼子の。
七竈 蘇芳
自分がまだ神であったなら、他に道を示せただろうに。
七竈 蘇芳
俺では、何も選ばせてやれない。
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
「蘇芳さん」
七竈 蘇芳
「ん」
七竈 幽
下から顔を覗き込む。自然とそういう形になる。
七竈 幽
「大丈夫?」
七竈 蘇芳
またたく。
七竈 蘇芳
見下ろす。小さな頭。
七竈 蘇芳
「大丈夫」
七竈 幽
「そう?」
七竈 蘇芳
「変な顔してたかな」
七竈 幽
「う~んって感じになってた」
七竈 蘇芳
「う~んってなってたかあ」
七竈 幽
「なってた」
七竈 幽
頷く。
七竈 幽
本を読んで育った割には語彙に乏しい。
七竈 蘇芳
顔を覆って、うーん、と唸る。
七竈 幽
それは、言葉を尽くさなくても蘇芳が分かってくれるからかもしれない。
七竈 蘇芳
「これでどう?」
七竈 蘇芳
笑う。牙を隠したいつもの笑顔。
七竈 幽
「いつもの蘇芳さんだ」
七竈 蘇芳
「よかった」
七竈 蘇芳
「幽は――」
七竈 幽
「うん」
七竈 蘇芳
「良い子だね」
七竈 幽
「……そうなってるなら、多分」
七竈 幽
「蘇芳さんの育て方がよかったんだ」
七竈 蘇芳
「ほんとに俺が育てたのかな~って、ときどき不思議だよ」
七竈 幽
「育てたでしょ」
七竈 幽
「ちゃんと覚えてるよ」
七竈 蘇芳
「育てたねえ」
七竈 蘇芳
「こ~~~んなちっちゃいころから」
七竈 蘇芳
人差し指と親指でサイズを示す。
七竈 蘇芳
そんなにちっちゃかったことはない。
七竈 幽
「それは小さすぎる」
七竈 蘇芳
「そうだっけ~?」
七竈 蘇芳
好きにさせてきた。けれども彼は無欲すぎて。
七竈 幽
蘇芳さんがいるからそれでいい。
七竈 幽
一事が万事、その調子。
七竈 蘇芳
「……子供はもっとわがまま言うもんだって読んだんだけどなあ」
七竈 蘇芳
「反抗期とか……ないとグレるって……」
七竈 幽
「わがまま……」
七竈 幽
首を捻る。
七竈 幽
「最近の、結構わがまま言ってるつもりだった」
七竈 蘇芳
「えっ」
七竈 幽
「店番サボったり、学校も休んだり」
七竈 幽
「戦うのも……ついてきてくれてるし」
七竈 蘇芳
「ああ……」
七竈 蘇芳
言われてみれば、という顔をする。
七竈 蘇芳
「……俺が保護者としてしっかりしてないだけかあ?」
七竈 幽
「そんなことない」
七竈 蘇芳
「そう?」
七竈 蘇芳
「俺ママ友もパパ友も出来なかったしな~」
七竈 幽
「それはオレの友達がいないからかな……」
七竈 蘇芳
「う~~ん……」
七竈 幽
「…………蘇芳さんは」
七竈 幽
「オレのやりたいことを応援してくれるって言ったから」
七竈 幽
「だから、本当はちょっと困ってたんだ」
七竈 幽
「……これは、オレのやりたいことじゃなかったから」
七竈 蘇芳
「獅子鞍透夜を殺すこと?」
七竈 幽
「うん」
七竈 蘇芳
「……そうだね」
七竈 蘇芳
「やりたいこと、じゃなくて、やらなきゃいけないこと、か」
七竈 幽
「オレの父さんだか爺さんだか、もっと昔の祖先だか」
七竈 幽
「分かんないけど、そういうやつらが言ってきて」
七竈 幽
「それを聞くと、果たさなくちゃいけないって思う」
七竈 蘇芳
「死んでるくせに勝手だなあ」
七竈 幽
「だよな」
七竈 蘇芳
「自分でやれなかったんだから、諦めればいいのにな」
七竈 幽
「うん」
七竈 幽
「だから、蘇芳さんには関係ない、オレのやりたいことでもないのに」
七竈 幽
「蘇芳さんを巻き込んでるなって思って……」
七竈 幽
「それで結構困ってた」
七竈 蘇芳
「たしかに」
七竈 蘇芳
なるほどなあ、と零す。
七竈 蘇芳
「……じゃあ」
七竈 蘇芳
「幽のやりたいことって、なんだい」
七竈 幽
「…………」
七竈 幽
時間を置いて、言葉を探す。
七竈 幽
「蘇芳さんの」
七竈 幽
「ためになることがしたい」
七竈 蘇芳
「おれのため」
七竈 幽
「うん」
七竈 蘇芳
再び、なるほどなあ、と。
七竈 蘇芳
「俺のため……」
七竈 蘇芳
繰り返す。まるで何がそうなるのかわからないとでも言った調子で。
七竈 幽
「蘇芳さんのため」
七竈 幽
繰り返す。
七竈 蘇芳
「難しいなあ」
七竈 幽
「うん」
七竈 幽
「でもこの戦いが、蘇芳さんに無関係じゃないのが分かったから」
七竈 幽
「だから今は、オレにとってもやりたいことになった」
七竈 蘇芳
「ははあ。そういえば」
七竈 蘇芳
「火神を殺すとかなんとか……」
七竈 幽
「殺させない」
七竈 蘇芳
「頼もしいねえ」
七竈 幽
「蘇芳さんに助けてきてもらった分」
七竈 幽
「蘇芳さんを助ける」
七竈 蘇芳
「……うん、わかった」
七竈 蘇芳
「じゃ、死なないことにしよう」
七竈 蘇芳
「もともとあれ、俺のだしなあ」
七竈 幽
「うん」
七竈 蘇芳
頭を撫でる。
七竈 幽
撫でられて目を細める。
七竈 蘇芳
恐怖はいつのまにか消えていた。
七竈 蘇芳
ほんとうの家族が、いようと。
七竈 蘇芳
この子はこの手を振りほどかない。
七竈 蘇芳
ならば握っていよう。出来るだけ強く、ずっと。
七竈 幽
されるがままに受け入れる、だけじゃない。
七竈 幽
自分からもこの人に。もっと。