メインフェイズ
◆メインフェイズ第一サイクル第一シーン
シーンプレイヤー:牛墓 鞴良
蘭沢 清誉
獣と妻のわずかな血の痕跡を頼りに走ったが、それも次第に薄れて消えた。
蘭沢 清誉
悪態と共に顎に滴る汗を拭い、遂に立ち止まる。
牛墓 鞴良
いささか上等すぎるその香。
振り向けば、急に人の気配がする。
牛墓 鞴良
瓢箪を煽る男が、道祖神のごとく道端にでんと座っていた。
牛墓 鞴良
口の端の酒をだらしなく手の甲で拭って声をかける。
蘭沢 清誉
ただならぬ佇まいに、しかし。再び背を向けて、
いなかったものと歩き出そうとする。
牛墓 鞴良
ひょいと投げた煙管が前を行く男の足元をかすめる。
蘭沢 清誉
普段ならば気にも留めずそのまま歩き去るところだが、
あいにくと”普段”ではなかった。
蘭沢 清誉
刀を抜き、再び振り向きざまーー斬りかかる。
牛墓 鞴良
先ほど投げたのと、同じ煙管がそれを受け止める。
牛墓 鞴良
ほんの少し残っている二の腕と首とで挟んだ煙管がその一閃を防いだ。
牛墓 鞴良
「女のひとり攫われたぐらいでカリカリしなさんな」
牛墓 鞴良
「先の一太刀で私の実力は知れただろう?」
牛墓 鞴良
「ただのしがない炭焼きよ。知るはずがない」
蘭沢 清誉
「あれを受けて何がしがないだ、ーー良い、そんなことはどうでもいい」
牛墓 鞴良
「……なに、用があったのはこっちの方」
牛墓 鞴良
蘭沢 清誉の秘密を調査。
使用するのは刀術。
牛墓 鞴良
2D6>=5 (判定:刀術) (2D6>=5) > 9[4,5]
> 9 > 成功
牛墓 鞴良
「なに、あくびを噛み殺しただけのこと」
牛墓 鞴良
「このまま激情に任せて先を行くがいい」
蘭沢 清誉
知ったような口を、と言葉が出る前に、その視線の重さを悟る。
蘭沢 清誉
「……言われずとも、地の果てまででも追ってやる」
蘭沢 清誉
「あれは俺の妻だ。……あの男は俺の獲物だ。追わぬ道理はない」
牛墓 鞴良
「道に迷うたら“草”に聞け、私の名を出すがいい」
牛墓 鞴良
煙管からたなびくわずかな煙に紛れて、その姿はかき消える。
蘭沢 清誉
焦燥と、刹那の交叉の間に抱いた畏れをもって、姿の消えるのを見た。
蘭沢 清誉
刀を納め。走り出す。妻を、獣を探して。
◆メインフェイズ第一サイクル第二シーン
シーンプレイヤー:終末の獣
蘭沢 繭子
小柄な身体は、力なく獣の腕に抱かれている。
終末の獣
己が血は止まれど、人の子の手当てなどしたことがない。
蘭沢 繭子
絹糸のごとき黒髪が、さらりと草の上に落ちる。
蘭沢 繭子
身じろぎ一つせず、ただ細く浅い呼吸を繰り返している。
終末の獣
手慣れぬ様子でわたわたと服を脱がせ、傷口を確かめる。
蘭沢 繭子
白い装束の下から表れるのは、これも白い肌。
蘭沢 繭子
それが今は、血でべっとりと染まっている。
終末の獣
「これこんなにいる……?いいや、悪いけど!」
終末の獣
傷口を押さえ、簡易の包帯として巻きつけ。
蘭沢 繭子
その耳に触れる呼気が、僅かに穏やかになった気配がある。
終末の獣
そして、思い出したようにうちに着ていた着物を着せて。
蘭沢 繭子
血を流して冷えた指先に、その温かさが伝わる。
蘭沢 繭子
はたと思い至ったように、握られたその手を振りほどく。
蘭沢 繭子
「夫というのは、生涯を共にする、と誓った人のことです」
終末の獣
「今すぐに会いたいという顔ではないように思うよ」
蘭沢 繭子
極めて端的に言えば、繭子は困っている。
蘭沢 繭子
あの満月の夜、清誉の手で命を散らされる。
蘭沢 繭子
未来を見通す瞳に、それより先が映ったことはない。
蘭沢 繭子
そのつもりで生きてきた。そのはずで生きてきた。
終末の獣
「ちょっとだけ、心臓が止まったりしたかもしれないし……」
蘭沢 繭子
なのにどうしてか、こうして生きている。
終末の獣
「それで、生涯一回終わりってことにしたら、ダメ?」
終末の獣
「おはようって言ってくれた人を、あの人のところに返すの」
蘭沢 繭子
「……私が生きている以上は、儀式は終わっておりません」
蘭沢 繭子
「この身を捧げなければならないのです」
蘭沢 繭子
「国に命を捧げるは、本懐にございます」
蘭沢 繭子
「……案じてくださって、ありがとうございます」
終末の獣
「いいんだ。勝手に連れてきちゃったのは俺の方だし」
終末の獣
「でも、そっか……それが君の願いならかなえてあげたい気持ちもあるけど……」
終末の獣
「よかったら、俺の願いもちょっとだけ聞いてくれる?」
終末の獣
「俺さ、『終末の獣』って呼ばれてるみたいなんだよね」
終末の獣
「うん。きっと……それがなくなった時が俺の終末」
蘭沢 繭子
「叶えて差し上げたいのですが……私は夫の元に戻らなければなりません……」
終末の獣
「俺におはようって言ってくれた、最初の人」
蘭沢 繭子
「…………人の妻に、そんな言葉をかけるものではありません」
蘭沢 繭子
「……手当てをしてくださった方の頼みを、無下にするわけにもいきません」
蘭沢 繭子
「ただ、先のように身体に触れることのないように」
終末の獣
「君とともに朝を迎え、おはようの声をきけたら」
終末の獣
「それはきっと生涯で一番幸福な日になるだろう」
蘭沢 繭子
「……人に幸いをもたらすが、私の務めでした」
蘭沢 繭子
「終わった役目ではございますが、あなたがそう感じてくれるのならば、私も嬉しく思います」
蘭沢 繭子
血は止まったとはいえ、身体はまだずっしりと重い。
終末の獣
「うん。俺とこいつらが守るから……安心して」
蘭沢 繭子
答えて、指先に止まった蝶に視線を移す。
蘭沢 繭子
「……約束を果たすまでは、あなたの元に留まりましょう」
蘭沢 繭子
「なんでもいいが一番人を困らせるのですよ」
終末の獣
「うーん……俺は名前とかよくわからないし……」
蘭沢 繭子
「私も世間を知らぬ方ですが、あなたは私以上ですね」
蘭沢 繭子
「……ああ、すっかり申し遅れていましたね」
翡翠
「マユって部分が気に入ったから、マユって呼んでいい?」
翡翠
初めて交わした言葉。
初めて呼んだ名前。
初めて呼ばれた名前。
翡翠
2D6>=5 (判定:生存術) (2D6>=5) > 6[2,4]
> 6 > 成功
翡翠
ひとり、その名を呼んで歓喜に笑みをこぼした。