メインフェイズ

◆メインフェイズ第一サイクル第一シーン

シーンプレイヤー:牛墓 鞴良

GM
獣と妻は影に消え。
GM
追う夫の足取りは重いまま、空に月が消え、
GM
日が昇る。
GM
地平線を裂く光が忍のまなこを刺す。
蘭沢 清誉
「ッ、クソ……」
蘭沢 清誉
獣と妻のわずかな血の痕跡を頼りに走ったが、それも次第に薄れて消えた。
蘭沢 清誉
悪態と共に顎に滴る汗を拭い、遂に立ち止まる。
GM
夏の陽射しがじりじりと首を灼く。
牛墓 鞴良
木陰から、酒の匂いだけが漂う。
牛墓 鞴良
いささか上等すぎるその香。
振り向けば、急に人の気配がする。
蘭沢 清誉
怪訝な顔で振り向くーー
牛墓 鞴良
瓢箪を煽る男が、道祖神のごとく道端にでんと座っていた。
牛墓 鞴良
「よう、兄さん」
牛墓 鞴良
口の端の酒をだらしなく手の甲で拭って声をかける。
蘭沢 清誉
「……」
蘭沢 清誉
ただならぬ佇まいに、しかし。再び背を向けて、
いなかったものと歩き出そうとする。
牛墓 鞴良
「ふ~」
蘭沢 清誉
スタスタ……
牛墓 鞴良
ひょいと投げた煙管が前を行く男の足元をかすめる。
蘭沢 清誉
「ッ、」
蘭沢 清誉
普段ならば気にも留めずそのまま歩き去るところだが、
あいにくと”普段”ではなかった。
蘭沢 清誉
刀を抜き、再び振り向きざまーー斬りかかる。
牛墓 鞴良
先ほど投げたのと、同じ煙管がそれを受け止める。
牛墓 鞴良
男に、両手はない。
牛墓 鞴良
ほんの少し残っている二の腕と首とで挟んだ煙管がその一閃を防いだ。
蘭沢 清誉
刹那の交叉のみで、後ろへ跳び退る。
蘭沢 清誉
「俺は機嫌が悪い」
牛墓 鞴良
「は」
牛墓 鞴良
「女のひとり攫われたぐらいでカリカリしなさんな」
蘭沢 清誉
「な……」
蘭沢 清誉
「見ていたのか、おい、見ていたな?」
牛墓 鞴良
「ん?なんだその顔は」
蘭沢 清誉
「ーーあの男は、あれは何処へ逃げた」
牛墓 鞴良
無精ひげを撫でる。
牛墓 鞴良
「先の一太刀で私の実力は知れただろう?」
牛墓 鞴良
「ただのしがない炭焼きよ。知るはずがない」
牛墓 鞴良
喉の奥でおかしそうに笑う。
蘭沢 清誉
「あれを受けて何がしがないだ、ーー良い、そんなことはどうでもいい」
蘭沢 清誉
「知らぬなら用はない。構うな」
牛墓 鞴良
「……なに、用があったのはこっちの方」
牛墓 鞴良
「それももう済んだ」
牛墓 鞴良
蘭沢 清誉の秘密を調査。
使用するのは刀術。
蘭沢 清誉
片眉をひくつかせて、睨む。
GM
OK
GM
判定をどうぞ!
牛墓 鞴良
2D6>=5 (判定:刀術) (2D6>=5) > 9[4,5] > 9 > 成功
GM
成功ですね。
GM
清誉の秘密が鞴良へ。お送りします。
GM
お送りしました。していました。
牛墓 鞴良
煙を吐き出す。
牛墓 鞴良
先の一瞬で解るものがある。
牛墓 鞴良
「……くく」
蘭沢 清誉
「何が可笑しい……!」
牛墓 鞴良
「なに、あくびを噛み殺しただけのこと」
牛墓 鞴良
値踏みするような重たい隻眼が見やる。
牛墓 鞴良
「このまま激情に任せて先を行くがいい」
牛墓 鞴良
「いずれ辿り着けようぞ」
蘭沢 清誉
知ったような口を、と言葉が出る前に、その視線の重さを悟る。
蘭沢 清誉
「……言われずとも、地の果てまででも追ってやる」
蘭沢 清誉
「あれは俺の妻だ。……あの男は俺の獲物だ。追わぬ道理はない」
牛墓 鞴良
「私は牛墓の鞴良」
牛墓 鞴良
「道に迷うたら“草”に聞け、私の名を出すがいい」
蘭沢 清誉
「…………蘭沢。蘭沢清誉」
蘭沢 清誉
「覚えておく……」
牛墓 鞴良
「気張れや、兄さん」
牛墓 鞴良
煙管からたなびくわずかな煙に紛れて、その姿はかき消える。
蘭沢 清誉
焦燥と、刹那の交叉の間に抱いた畏れをもって、姿の消えるのを見た。
蘭沢 清誉
刀を納め。走り出す。妻を、獣を探して。
GM
陽は昇る。
GM
無慈悲な時間の流れを示すように、
GM
しつこく男の首の裏を灼いた。

◆メインフェイズ第一サイクル第二シーン

シーンプレイヤー:終末の獣

GM
せせらぎの音を聞く。
GM
山を駆ける獣の知る清流。
GM
その河原にふたり、
GM
男と女の姿。
終末の獣
「くっそ……くそっ」
終末の獣
女を抱いて逃避行。
終末の獣
流れた血を洗い、川を下り、下流。
蘭沢 繭子
小柄な身体は、力なく獣の腕に抱かれている。
終末の獣
己が血は止まれど、人の子の手当てなどしたことがない。
終末の獣
ひとまず追手は撒いた。
終末の獣
河原から、引き上げて草の上。
終末の獣
女を横たえる。
蘭沢 繭子
絹糸のごとき黒髪が、さらりと草の上に落ちる。
終末の獣
「傷……!とりあえず血!」
蘭沢 繭子
身じろぎ一つせず、ただ細く浅い呼吸を繰り返している。
終末の獣
手慣れぬ様子でわたわたと服を脱がせ、傷口を確かめる。
蘭沢 繭子
白い装束の下から表れるのは、これも白い肌。
蘭沢 繭子
それが今は、血でべっとりと染まっている。
終末の獣
「これこんなにいる……?いいや、悪いけど!」
終末の獣
女の羽織を割いて細く割く。
終末の獣
傷口を押さえ、簡易の包帯として巻きつけ。
終末の獣
その口元に、長い耳を近づける。
蘭沢 繭子
その耳に触れる呼気が、僅かに穏やかになった気配がある。
終末の獣
「よ……」
終末の獣
「よかったぁ~……」
終末の獣
一息。
終末の獣
そして、思い出したようにうちに着ていた着物を着せて。
蘭沢 繭子
その感覚に、睫毛がわずかに震え、
蘭沢 繭子
重たげに、持ち上がる。
終末の獣
手を握っている。
終末の獣
手を握り、隣に体育すわりで座っている。
蘭沢 繭子
血を流して冷えた指先に、その温かさが伝わる。
蘭沢 繭子
「…………」
蘭沢 繭子
ぼんやりと瞬いて
蘭沢 繭子
「あなたは……?」
終末の獣
その声に、視線が其方へと。
終末の獣
「…………おはよう」
終末の獣
質問には答えず、微笑んで。
蘭沢 繭子
「…………おはよう、ございます」
終末の獣
「へへ……」
蘭沢 繭子
身体に、冷たい刃の食い込む感触。
終末の獣
「おはようって言われるの、初めてだ」
蘭沢 繭子
覚えているのはそこまでで。
終末の獣
握った手はそのままに
蘭沢 繭子
はたと思い至ったように、握られたその手を振りほどく。
終末の獣
「あ……」
終末の獣
「ごめん、いやだった……?」
蘭沢 繭子
「……夫のいる身ですので」
終末の獣
「夫……」
終末の獣
「って何?」
終末の獣
「大事な人?」
蘭沢 繭子
「……はい」
終末の獣
その顔を、じっと見つめる。
蘭沢 繭子
「夫というのは、生涯を共にする、と誓った人のことです」
終末の獣
「…………」
終末の獣
「でも……」
終末の獣
「君はあまり、必死そうではないね」
終末の獣
「今すぐに会いたいという顔ではないように思うよ」
蘭沢 繭子
「…………っ」
蘭沢 繭子
「そんなことは、ございません」
蘭沢 繭子
瞳が揺れる。
終末の獣
膝を抱えて座る。
河原を見て。
蘭沢 繭子
極めて端的に言えば、繭子は困っている。
蘭沢 繭子
あの満月の夜、清誉の手で命を散らされる。
蘭沢 繭子
未来を見通す瞳に、それより先が映ったことはない。
終末の獣
「あのさぁ」
蘭沢 繭子
そのつもりで生きてきた。そのはずで生きてきた。
終末の獣
「もしかしたら此処に、逃げてくるとき」
終末の獣
「ちょっとだけ、心臓が止まったりしたかもしれないし……」
蘭沢 繭子
なのにどうしてか、こうして生きている。
終末の獣
「それで、生涯一回終わりってことにしたら、ダメ?」
蘭沢 繭子
「…………一回、終わり」
終末の獣
「あの人でしょ」
終末の獣
「俺、いやだな」
終末の獣
「おはようって言ってくれた人を、あの人のところに返すの」
蘭沢 繭子
「……帰らないわけには、参りません」
終末の獣
「どうして」
蘭沢 繭子
「……私が生きている以上は、儀式は終わっておりません」
終末の獣
「…………」
蘭沢 繭子
「この身を捧げなければならないのです」
終末の獣
「絶対?」
蘭沢 繭子
「……はい」
終末の獣
「…………君が望んでる?」
蘭沢 繭子
「国に命を捧げるは、本懐にございます」
終末の獣
「そっか……」
蘭沢 繭子
「……案じてくださって、ありがとうございます」
蘭沢 繭子
「傷の手当も」
終末の獣
「いいんだ。勝手に連れてきちゃったのは俺の方だし」
終末の獣
「でも、そっか……それが君の願いならかなえてあげたい気持ちもあるけど……」
終末の獣
「よかったら、俺の願いもちょっとだけ聞いてくれる?」
蘭沢 繭子
「私にできることでしたら」
終末の獣
「俺さ、『終末の獣』って呼ばれてるみたいなんだよね」
終末の獣
「でも、終末ってよくわからなくて」
蘭沢 繭子
頷いて、続きを待つ。
終末の獣
「さっきちょっとわかった気がしたんだ」
終末の獣
「明日も、おはようって言ってくれる?」
蘭沢 繭子
「……明日も、ですか?」
終末の獣
「うん。きっと……それがなくなった時が俺の終末」
蘭沢 繭子
「叶えて差し上げたいのですが……私は夫の元に戻らなければなりません……」
終末の獣
「ちょっとだけ……」
終末の獣
「少しの間だけでいいんだ……」
終末の獣
「俺におはようって言ってくれた、最初の人」
蘭沢 繭子
「…………」
蘭沢 繭子
見つめられて、また瞳が揺れる。
終末の獣
「可愛い人」
蘭沢 繭子
「…………人の妻に、そんな言葉をかけるものではありません」
終末の獣
「気高い人、優しい人」
蘭沢 繭子
「私は…………」
蘭沢 繭子
「…………」
終末の獣
にこりと笑う。
蘭沢 繭子
「……手当てをしてくださった方の頼みを、無下にするわけにもいきません」
終末の獣
「はは……やったぁ」
蘭沢 繭子
「ただ、先のように身体に触れることのないように」
終末の獣
「うん」
終末の獣
「君とともに朝を迎え、おはようの声をきけたら」
終末の獣
「それはきっと生涯で一番幸福な日になるだろう」
終末の獣
「ああ、そうだ」
終末の獣
「そうに違いない」
蘭沢 繭子
「……人に幸いをもたらすが、私の務めでした」
蘭沢 繭子
「終わった役目ではございますが、あなたがそう感じてくれるのならば、私も嬉しく思います」
終末の獣
「…………」
終末の獣
「笑ってくれた」
蘭沢 繭子
はたと、口元を抑える。
終末の獣
「うれしいな……うれしい」
終末の獣
「でも、そうだ」
終末の獣
「怪我、簡単に血を止めただけだから」
終末の獣
「今日は、お休み。」
終末の獣
指を立てればその先に6枚翅の蝶がとまる
蘭沢 繭子
血は止まったとはいえ、身体はまだずっしりと重い。
蘭沢 繭子
「そういたします」
終末の獣
「うん。俺とこいつらが守るから……安心して」
蘭沢 繭子
答えて、指先に止まった蝶に視線を移す。
蘭沢 繭子
「……約束を果たすまでは、あなたの元に留まりましょう」
終末の獣
「おやすみ」
蘭沢 繭子
「おやすみなさいませ、……ああ、」
蘭沢 繭子
「お名前」
終末の獣
「ないんだ」
蘭沢 繭子
「ない、のですか」
終末の獣
「誰にも呼ばれたことが、なくてね」
蘭沢 繭子
「どのようにお呼びすれば?」
終末の獣
「うーん……」
終末の獣
「何でもいいよ」
蘭沢 繭子
「なんでもいいが一番人を困らせるのですよ」
終末の獣
「君はたくさん初めてをくれるね」
終末の獣
「うーん……俺は名前とかよくわからないし……」
終末の獣
「君の夫の人の名前とかどうかな。」
終末の獣
「呼び慣れてる?」
蘭沢 繭子
「まあ……!」
終末の獣
「……?」
蘭沢 繭子
「それはいけません」
終末の獣
「そうかぁ……」
蘭沢 繭子
「私も世間を知らぬ方ですが、あなたは私以上ですね」
蘭沢 繭子
息を吐く。
終末の獣
「そうかも!」
蘭沢 繭子
「…………」
終末の獣
「?」
蘭沢 繭子
「……翡翠」
蘭沢 繭子
「貴方の瞳と同じ色の宝石です」
終末の獣
「…………翡翠」
蘭沢 繭子
「翡翠様、と呼ばせていただきます」
蘭沢 繭子
「構いませんね?」
終末の獣
「うん、いい響きだ」
終末の獣
「ありがとう」
蘭沢 繭子
「では、そのように」
翡翠
蝶が羽搏く
翡翠
「君の名前は?」
蘭沢 繭子
「……ああ、すっかり申し遅れていましたね」
蘭沢 繭子
「蘭沢繭子と申します」
翡翠
「あららぎざわまゆこ」
翡翠
「長いね」
蘭沢 繭子
「よく言われます」
翡翠
「マユ」
翡翠
「マユって部分が気に入ったから、マユって呼んでいい?」
蘭沢 繭子
「お好きに」
翡翠
「そうする」
翡翠
触るなと言われた手前、近づきすぎず。
翡翠
「それじゃあ、おやすみ。マユ。」
翡翠
「いい夢を」
蘭沢 繭子
「おやすみなさいませ。翡翠様」
翡翠
少女が眠りに落ちるのを見守って
翡翠
月を見上げる。
翡翠
初めて交わした言葉。
初めて呼んだ名前。
初めて呼ばれた名前。
翡翠
では、アレは。
翡翠
アレはいったい何だというのか。
翡翠
アレについて調査します。
GM
OK
GM
特技は?
翡翠
彼女ともっと一緒にいたい、生きるために。
翡翠
生存術で。
GM
判定を。
翡翠
2D6>=5 (判定:生存術) (2D6>=5) > 6[2,4] > 6 > 成功
GM
成功ですね。
GM
えーと、なんとPC3にも渡ります。
GM
絆があるので。
GM
翡翠と清誉にですね。お待ち下さい。
翡翠
長い耳に指先で触れる。
翡翠
肩に蝶々がとまる。
翡翠
頼るものなく、すがるものもなく。
翡翠
守るものも、大切なものもなく。
翡翠
「…………」
翡翠
いや。ついさっき。ちょっと前に。
翡翠
「マユ……」
翡翠
ひとり、その名を呼んで歓喜に笑みをこぼした。
GM
名を呼ぶ声にいらえはなくとも、
GM
その獣は、充分に満たされていた。