◆メインフェイズ第二サイクル第一シーン

シーンプレイヤー:牛墓 鞴良

GM
再び朝。
GM
繭子の迎えるはずのなかった二度目の日の出。
GM
刀の切っ先が、繭子の命が、
GM
千里眼の見通した未来から逸れたことなど知らぬように。
GM
あるいは知って構わぬとばかりに、空には変わらず太陽が上がる。
GM
生きていれば腹が空く。
GM
この同行者は野での暮らしに詳しく、何くれと繭子に世話を焼きたがる。
翡翠
日の昇りきらぬうちに調達した川魚を鋭く削った枝に刺し焼いたもの。
翡翠
川の少し上まで行って湧き出る水をこしたもの。
翡翠
そういったものを用意して。
蘭沢 繭子
「ありがとうございます」
蘭沢 繭子
用意された朝食に、丁寧に手を合わせる。
翡翠
「俺は、街じゃ目立つから」
翡翠
「こういうものしか用意できなくて、悪いね」
蘭沢 繭子
「気にすることはありません」
蘭沢 繭子
「十分です。用意してもらっている身ですもの」
翡翠
「魚が嫌いでなくてよかった」
蘭沢 繭子
「魚は好きですよ。自分でもよく捌きます」
翡翠
「へぇ……マユは料理をするんだ」
蘭沢 繭子
「ええ」
蘭沢 繭子
「料理は妻の仕事ですから」
翡翠
「他にもいろいろできる?」
蘭沢 繭子
「できますとも」
蘭沢 繭子
「妻として、求められることは一通り」
翡翠
「へぇ……」
翡翠
「求められること……たくさんあるんだろうな」
翡翠
「マユはすごい」
蘭沢 繭子
「当然のことでございますよ」
牛墓 鞴良
山に似つかわしくない酒の香。
遅れて、人の気配。
牛墓 鞴良
見れば男が焼かれた川魚を眺めている。
翡翠
「俺はたぶん全部はできないし」
翡翠
水に交じる香を嗅ぎつけて、顔をあげる。
牛墓 鞴良
「おっいい朝餉だねえ」
翡翠
「やあ、どうも」
蘭沢 繭子
酒の香をまとった男に目を向ける。
翡翠
間に入るように位置をとる。
牛墓 鞴良
上げた顔の先で視線がかち合う。
隻眼がふたりの目線をゆるゆると探る。
翡翠
「…………何か用かい?」
牛墓 鞴良
「私にも一串くれたりしねえか?」
翡翠
「いいよ」
牛墓 鞴良
「気前がいいねえ」
蘭沢 繭子
翡翠が許した以上は何も言わず。
翡翠
「マユがどれほど食べるかわからないから、多めに獲ったしね」
蘭沢 繭子
男の意図を探るように、視線を向けている。
翡翠
これまで出会った者は、剣を向け槍を向け追い回す者たちばかり。
翡翠
そうでないならば、警戒心もなく。
牛墓 鞴良
片足を折り曲げて、義足をおっくうそうに放り出して屈みこんだ。
牛墓 鞴良
焚火のまだ燃えるさなか、突き立てられている串へ口元を寄せて歯でくわえる。
翡翠
「おお、言ってくれればとったのに」
牛墓 鞴良
「こういうのは自分でとったほうが旨ェ」
翡翠
「そういうものか」
蘭沢 繭子
自分の分の串を、ちみちみといただいている。
牛墓 鞴良
ない腕の先を手繰って、袖で串を固定して食べ始める。
翡翠
「それで……」
翡翠
食べ終わり、残った枝をくるりと回して
翡翠
「こんな山奥に、何をしに?」
牛墓 鞴良
「ん?お前ェさんに会いに来た」
翡翠
「俺にぃ」
牛墓 鞴良
食べ終わった串で歯の隙間をしごきながら。
牛墓 鞴良
こともなげに言う。
翡翠
「まあ、でも……じゃあ」
翡翠
「用があるのは『終末の獣』ってやつか」
蘭沢 繭子
言葉を交わす二人の様を、口を挟まずに眺めている。
牛墓 鞴良
「そういうこった、有名人」
翡翠
「にしちゃあ、温厚だねぇ」
牛墓 鞴良
「最近の忍は過激でいけねェ」
牛墓 鞴良
「朝餉を囲んでのらくら話をするのもいいもんなんだがな」
牛墓 鞴良
瓢箪から酒を煽る。
翡翠
「話をねぇ」
翡翠
蝶が、肩にとまる。
翡翠
「…………ほかのやつらは知り合いかい?」
牛墓 鞴良
煙管で煙を吸う、吐く。
翡翠
少し煙たげに眉を寄せる。
牛墓 鞴良
「お前さんたちを追ってる……なんつったっけ。名前、あ~……つづらおり?きよまる……?」
蘭沢 繭子
「蘭沢清誉様です」
翡翠
「ひひひ」
蘭沢 繭子
きよまるはギリギリ分かるけどつづらおりは全然違う……。
牛墓 鞴良
「あ~そうそう蘭沢清誉!」
翡翠
「そっちの方か」
牛墓 鞴良
「他は知らねェ~な」
蘭沢 繭子
「清誉様のお知り合いでいらっしゃいましたか」
翡翠
「じゃあ、マユを連れに?」
牛墓 鞴良
「いんや」
牛墓 鞴良
「商談に来た」
翡翠
「商談……」
牛墓 鞴良
「あいつの持ってるモン、要らねえか?」
牛墓 鞴良
行動としては、情報の取引です。
翡翠
「ふむ……」
翡翠
俺の知ってるアレの情報が欲しいってか
牛墓 鞴良
そういうこったな。
蘭沢 繭子
清誉様の……
翡翠
ちら、とマユを見て。
翡翠
視線を戻す。
翡翠
「いいね。何も知らないまま追いかけられるより……少しでも」
翡翠
「知っておいた方がいい。マユのことも、心配だしな。」
牛墓 鞴良
「あァ、お前さんの追手はあのよくわからん連中だが」
牛墓 鞴良
「この嬢ちゃんの追手はあいつとわかってる」
翡翠
取引しましょう
GM
OK。
例のアレの秘密を翡翠から鞴良に譲渡し、
鞴良からは清誉の秘密を翡翠に譲渡。
で、よろしいですか?
翡翠
はい
牛墓 鞴良
認識に相違ないです
GM
ですと、まずは清誉の秘密が……これは感情による情報共有で繭子にも渡るため、公開ですね。
GM
そちらから参りましょう。
【秘密:蘭沢 清誉】
あなたは一族に伝わる神刀『化粧応神』の伝承者である。
あなたの一族の【使命】は『終末の獣』を殺すことだ。
愛し合う相手を『化粧応神』にて殺すことで、
この刀は真の力を発揮し、獣を殺すことが出来るようになる。
あなたはその役目から逃げるように、ずっと蘭沢 繭子を愛さないようにしてきた。
しかし、あの満月の晩、あなたは彼女を愛してしまった。

メインフェイズ開始前に、以下に示す2つの選択肢の中から、
いずれかを選ぶこと。
【選択肢①】
刀の声と己の使命に応え、あなたは蘭沢 繭子を殺害した。
あなたに残ったのは蘭沢 繭子への【愛情】と神器『化粧応神』であった。
蘭沢 繭子への愛情を獲得し、プライズ『化粧応神』と『化粧応神』の秘密を手に入れること。

【選択肢②】
刀の声に抗うため、あなたは『化粧応神』を折った。
プライズ『化粧応神』はこのセッションから取り除かれる。
GM
清誉は選択肢①を選択しております。
GM
では、それはそれとして、例の秘密を鞴良さんにお渡ししましょう。
少々お待ちください。
翡翠
「は……?」
翡翠
「でも、だって……息が……」
翡翠
「マユが……?」
蘭沢 繭子
「…………」
翡翠
「…………」
翡翠
「生涯、終わってた……?」
牛墓 鞴良
「まっこと不思議なこともあるもんだなァ」
翡翠
マユを見る。
蘭沢 繭子
「……ですから」
蘭沢 繭子
「やはり、貴方と共に行くことはできないのですよ」
翡翠
「なんで!」
蘭沢 繭子
「……死んでいる者のことなどお忘れなさい」
翡翠
「…………」
牛墓 鞴良
空気を区切るようにパチンと手を叩く。
牛墓 鞴良
「さて、終末の獣さんよ。化粧応神を持つ男の妻よ」
牛墓 鞴良
「お前さんらの目の前にいるのが、化粧応神を打った男だ」
蘭沢 繭子
男を見る。
牛墓 鞴良
無精ひげをぞり、と撫ぜて。
ふたりを見やる。
牛墓 鞴良
「私の話は信じるに値するか?」
翡翠
「……嘘をつく理由がない」
翡翠
「嘘だったとして、得るものもない」
蘭沢 繭子
小さく頷く。
翡翠
「あるならば、ひとつ……俺を」
翡翠
「真に、獣に、したいか……」
牛墓 鞴良
酒を煽る。
空になった瓢箪が揺れた。
牛墓 鞴良
「は……また、お前さんら3人は逢うだろう。そこに私も居るだろう」
牛墓 鞴良
「逃げるもいい、向き合うもいい」
牛墓 鞴良
「旅は、まだ続くなァ」
翡翠
「…………化粧応神を、打った男」
牛墓 鞴良
「牛墓の鞴良と申す」
翡翠
「フクラ……」
牛墓 鞴良
「牛墓は生まれた地、鞴良は号」
牛墓 鞴良
「故あって名はない」
翡翠
「俺は翡翠。マユがくれた名だ。」
蘭沢 繭子
「……蘭沢清誉の妻。繭子と申します」
牛墓 鞴良
「あい、今度はしかと覚えた」
翡翠
「…………俺は、マユを失いたくない。何故あの男は未だ、マユを殺そうとする。」
牛墓 鞴良
「……馴れて後に」
牛墓 鞴良
離るるるるるるるるが、大事”ただ人には 馴れまじものぢゃ
馴れて後に
離るるるるるるるるが
大事ぢゃるもの”

室町の歌。
あんまり仲良くなると、離れるのが大変だね。本当に本当に大変だから仲良くならなけりゃ楽なのにね。というような意味。
離れる にるをめちゃくちゃつけて、離れるのは本当に大変だということを強調している言葉遊びが入っている。
ってこったな」
翡翠
「………………」
翡翠
「…………そうか」
翡翠
「人を、殺すことに何の意味があるのか」
翡翠
「ずっとわからなかった」
翡翠
「こんな風に、知りたくはなかったな」
蘭沢 繭子
「…………」
牛墓 鞴良
焚火越しに、隻眼が娘の瞳を見る。
牛墓 鞴良
蘭沢 繭子の秘密を調査します。
使用するのは火術。
刀鍛冶にとって火は神聖なるもの。
その力をもって、見通す。
GM
いいでしょう。判定をどうぞ。
牛墓 鞴良
2D6>=5 (判定:火術) (2D6>=5) > 10[4,6] > 10 > 成功
GM
高い。お送りいたします。
蘭沢 繭子
黄水晶の瞳が、炎を映して煌めいている。
牛墓 鞴良
火は、あまりに厳かなるもの。
その水晶に映したものを違わず知る。
蘭沢 繭子
瞳のその奥。心の動きごと。
牛墓 鞴良
男は笑う。吐息に酒精が混じって焚火の煙に消える。
翡翠
「俺が獣になったら、困るかい?」
蘭沢 繭子
「……困りますよ」
牛墓 鞴良
用は済んだとおっくうそうに立ち上がる。
翡翠
「話」
翡翠
「聞かせてくれてありがとう」
牛墓 鞴良
「獣ンなっちまったら魚焼けねえかもね」
牛墓 鞴良
土を払って。
翡翠
「そうかもな」
牛墓 鞴良
「ごっそさん」
翡翠
「では、また」
牛墓 鞴良
のらくらと茂みへ歩いていき、ふと気配が途切れて消える。
蘭沢 繭子
静かにその後ろ姿を見送っていた。
翡翠
「マユ」
蘭沢 繭子
「はい」
翡翠
「…………」
翡翠
「火の始末をしたら、少し移動しよう」
翡翠
「見つかるかもしれないからね」
蘭沢 繭子
「…………わかりました」
翡翠
言えない。言えなかった。
だけど。
翡翠
俺は決めたよ。
翡翠
世界の人間をすべて殺しても。
翡翠
君の命を救うよ。

◆メインフェイズ第二サイクル第二シーン

シーンプレイヤー:蘭沢 清誉

GM
日が昇り、男の足は山へと向かう。
GM
追わねばならないものを知っている。
GM
追いたいと、そのように思うものも、あるいは。
蘭沢 清誉
鞍馬の草にも捜索させているが、依然として風のごとく捕まらぬまま。
しかし、山脈を抜けてはいないはずだ。
蘭沢 清誉
そう踏んで。
蘭沢 清誉
牛墓。片端の男が与えた助言をまるきり呑んだわけではないが。
蘭沢 清誉
暗い炎は業火となり、未だ胸で燃えている。
蘭沢 清誉
清流を追って、山を上っていく。
蘭沢 清誉
吹き抜ける風に微かーー酒の香。
牛墓 鞴良
視線を動かした先に、予め居る。
ちょうど酒を煽っている男の姿。
牛墓 鞴良
「っカァ~……沁みるねェ~」
蘭沢 清誉
「まだ彷徨ついてたのか」
牛墓 鞴良
ふらふらと酔いどれの足取り。
楽しそうに鞍馬の男へ近づいてくる。
蘭沢 清誉
半歩避ける。今度は、見なかったことにはしなかった。
あらためてその異様な立ち姿を見る。
蘭沢 清誉
「あの後、一度見つけた。逃がしたが」
牛墓 鞴良
隻眼。両手はない、片足は義足。
右足と左目だけを残している、不具の男。
牛墓 鞴良
「ほォ、私は2人と朝餉を囲んだぞ」
蘭沢 清誉
「……まだ生きていたか」
牛墓 鞴良
「どっちの話だ」
蘭沢 清誉
「女だ」
牛墓 鞴良
「く、なかなかどうしてしぶといなァ?」
蘭沢 清誉
「…………………」その反応を肯定と取る。
蘭沢 清誉
「どちらへ行った」
牛墓 鞴良
隻眼が男を見る。
牛墓 鞴良
「一回こっきりの方角だけ教えたとこで追いつけるわけでもねェだろが」
牛墓 鞴良
吐いた煙が金粉のように光る。
あの娘の瞳と同じ色。
蘭沢 清誉
「良い。一切の当所ないよりはマシだ」
牛墓 鞴良
「それよかもっと“上等”なモンがあるぜ」
蘭沢 清誉
「……何?」
牛墓 鞴良
「要るかい?兄さん」
蘭沢 清誉
「師走の20日は先だろうにフラフラと」
蘭沢 清誉
「……情報屋気取りか?」
牛墓 鞴良
「忍の本懐だろう」
蘭沢 清誉
「生憎上等な流派でもなくてな」
蘭沢 清誉
「……無駄口だったな。……何が望みだ」
牛墓 鞴良
では情報を取引希望します。
こちらから出せるのは蘭沢 繭子の秘密。
欲しいのは翡翠の秘密と『化粧応神』の秘密。
牛墓 鞴良
つい、と煙管が指ししめす。
蘭沢 清誉
両方渡します。
蘭沢 清誉
腰に履いた刀――『化粧応神』に手を掛ける。
牛墓 鞴良
腰に下げた神刀『化粧応神』。
そして、耳のあたりをひょいと三角に煙管の先が描く。
牛墓 鞴良
その手つきを見る。
蘭沢 清誉
視線がひとすじ交差する。
GM
それでは、鞴良から清誉に繭子の秘密。
清誉から鞴良に翡翠の秘密とプライズ『化粧応神』の秘密ですね。
情報共有はなし。お渡ししましょう。
GM
少々お待ち下さい。
GM
お送りしましたが、しばらくショックに耐えたりなどしているかもしれない。
GM
終わったら再開してください。
蘭沢 清誉
「…………………」
蘭沢 清誉
知らなかったことばかりではない。
薄々と感づいていたこともある。
蘭沢 清誉
だが、そこに深く落ちる沈黙が。
その意味を、意図を、こころを。
取りこぼさぬように必死に呑み込もうとしていることを、示していた。
蘭沢 清誉
神刀の柄を握る。
蘭沢 清誉
抜くためではなく、半ば縋るように。
蘭沢 清誉
「俺、は。…………」
蘭沢 清誉
「終末の獣を殺す。そのための刀だ」
蘭沢 清誉
「あれが何を想おうと、俺はーーだが、……」
牛墓 鞴良
吸って吐かれぬ紫煙が立ち昇っている。
牛墓 鞴良
男の沈黙をわざわざ推し量るようなことはしない。
ただ、刀を打った者としてその神刀を見ている。
蘭沢 清誉
「貴様はなぜわざわざ俺たちに近づいた。……鍛冶師だろう、牛墓とは」
牛墓 鞴良
「聞いたか、あるいは知っていたか?」
牛墓 鞴良
当代500年を生きる、牛墓の鞴良。
戦国の世から、こんにちまで生き続けている長命の男。
蘭沢 清誉
「一族に伝わる刀にまつわることだ。……改めて調べさせたが」
蘭沢 清誉
神刀になるべく打たれた『化粧応神』。名が伝わっていないはずもなく。
牛墓 鞴良
銘は入れていない。
その刀はもはや、人の世のもので収まるものではないゆえに。
牛墓 鞴良
だから口伝えに残っているだけの、名。
蘭沢 清誉
「今更顔を出す理由があるのだろう。ーー聞いてやる、話せ」
牛墓 鞴良
笑う。
牛墓 鞴良
「話したところで、お前さんにわかるかねェ」
蘭沢 清誉
牛墓 鞴良の秘密を調査します。
特技は伝達術。その言葉を取りこぼさず”わかる”か。
牛墓 鞴良
天下泰平と、刀を使わぬ戦と、文明が発展するさまを見てきた眼が。
血の色の隻眼が、語る。
GM
いいでしょう。判定をどうぞ。
蘭沢 清誉
2D6>=5 (判定:伝達術) (2D6>=5) > 3[1,2] > 3 > 失敗
蘭沢 清誉
がーー
牛墓 鞴良
男は、笑って。
もう一度。
あの2人の前で歌った歌を口ずさんだ。
蘭沢 清誉
「………………」
牛墓 鞴良
離るるるるるるるるが ──
牛墓 鞴良
こんな阿呆らしい歌を、どうして。
かつて人は歌ったのか。
蘭沢 清誉
怪訝な顔をする。
瞳の語る轍を、読み解くことは叶わなかった。
牛墓 鞴良
お前にはわかるまい。
わからないなら、語ることはない。
牛墓 鞴良
まだ旅をするがいい。
蘭沢 清誉
わからなかった。
わかるはずもなかった。まだ。
これまで、二年間。
己が感情からも逃げ続けてきた代償だとでもいうように。
牛墓 鞴良
「どれ、代わりに。年寄りがひとつ助言をしてやろう」
牛墓 鞴良
「伝えんと、伝わらんぞ」
蘭沢 清誉
「っ、……余計なことを!」
牛墓 鞴良
「はははは!」
蘭沢 清誉
「もういい。俺が阿呆だった」
蘭沢 清誉
背を向ける。
牛墓 鞴良
同じくして、男も背を向ける。
愉快そうな歌声が聞こえて、からかうようにしばらく気配は消えなかった。
蘭沢 清誉
振り払うよう進む。妻と共にあるだろう、獣の姿を探して。
GM
さりとて果たして、
GM
その男の真に追う先はいかなるものか、
GM
誰の知ることでもなく。