◆メインフェイズ第二サイクル第四シーン

シーンプレイヤー:蘭沢 繭子

GM
夕暮れに翡翠と別れ、太陽が傾き、
GM
今まさに沈みつつあるそのさまを眺めながら。
GM
はい、では、繭子。
GM
どの「感情」をなくしますか。
蘭沢 繭子
翡翠への忠誠を……
GM
了解です。繭子の抱く翡翠への「忠誠」が喪失。
GM
それでは、シーンを続けてください。
蘭沢 繭子
夕日を受けながら翡翠を見送って、一人。
蘭沢 繭子
肩には黒い蝶がその羽を休ませている。
蘭沢 繭子
そっと、自身の腹に掌を当てる。
蘭沢 繭子
まだ、応えるものはない。だけど分かる。
蘭沢 繭子
ここに、新しいいのちがある。
蘭沢 繭子
「…………」
蘭沢 繭子
自分の命ならば惜しくはない。
蘭沢 繭子
だけど。
蘭沢 繭子
「…………私が」
蘭沢 繭子
ぽつり、こぼす。
蘭沢 繭子
「獣になれば」
蘭沢 繭子
そうしたら、あなたも、あの方も、あの人も、
蘭沢 繭子
守ってあげられる?
蘭沢 繭子
長く伸びる森の影が、繭子の顔に影を落とす。
蘭沢 繭子
影の中、腹を撫でていると。不意に。
蘭沢 繭子
鈍く続いていた身体の痛みが。
蘭沢 繭子
なくなった。
蘭沢 繭子
「…………!」
蘭沢 繭子
「翡翠、様…………?」
蘭沢 繭子
そして、少し遅れて
蘭沢 繭子
今しがた彼を案じた感情も、薄れてゆく。
翡翠
彼方、人里の空に虹の煌。
翡翠
夜の帳を招くような輝きが空から舞い落ち、翡翠色の髪が風になびく。
蘭沢 繭子
そのきらめきを、視界に捉える。
翡翠
未だ不完全な変態。
ガラスのように翅は割れ、散り。
翡翠
歯は抜け落ち、髪は色あせて。
翡翠
降り立ち、膝をつく。
蘭沢 繭子
その一部始終を、呆けたように眺めていた。
翡翠
その手には一振りの刀。
蘭沢 繭子
「……やはり」
蘭沢 繭子
「なって、しまったのですね……」
翡翠
「…………」
翡翠
「元気になった?」
蘭沢 繭子
「……ええ」
翡翠
「よかった」
蘭沢 繭子
翡翠に感情判定を行います。特技は千里眼の術。
GM
了解。判定をどうぞ。
蘭沢 繭子
翡翠様修正をいただいてもよろしいでしょうか……
翡翠
感情修正します
蘭沢 繭子
ありがとうございます……
GM
では+1を。
蘭沢 繭子
2D6+1>=5 (判定:千里眼の術) (2D6+1>=5) > 11[5,6]+1 > 12 > 成功
GM
成功ですね。それぞれETを。翡翠は上書きか継続か選べます。
翡翠
ET 感情表(5) > 憧憬(プラス)/劣等感(マイナス)
蘭沢 繭子
ET 感情表(2) > 友情(プラス)/怒り(マイナス)
蘭沢 繭子
友情
翡翠
憧憬にします
GM
了解です。繭子は友情、翡翠は憧憬。
翡翠
「マユ」
蘭沢 繭子
「翡翠様……」
翡翠
「君には清誉が必要なんだね」
蘭沢 繭子
「…………はい」
翡翠
「君の手には、たくさんのものがある」
翡翠
「人としての生活、これまでの記憶、愛してくれる人」
蘭沢 繭子
「…………」
翡翠
「俺には君以外何もない」
翡翠
「だから……」
蘭沢 繭子
「……あなたにも」
蘭沢 繭子
「もっと、たくさんのものをあげられたら、よかった」
翡翠
「…………」
蘭沢 繭子
共に朝を迎えて、おはようと声をかける。
蘭沢 繭子
それだけのことを、あんなにも喜ぶひと。
翡翠
「大丈夫。俺はもう……」
翡翠
「独りじゃないからさぁ……」
蘭沢 繭子
「…………」
翡翠
鞘に収まった刀。
翡翠
「こいつも、ずっと独りだった。」
蘭沢 繭子
「……独り」
翡翠
「誰にも手を伸ばしてもらえず、誰にも愛してもらえず」
翡翠
「何処にも居場所がない」
蘭沢 繭子
「……」
翡翠
「それは、寂しいんだって……俺、わかるから」
蘭沢 繭子
翡翠に手を伸ばすことはできなかった。
翡翠
「よかったんだ、これで」
蘭沢 繭子
愛することはできなかった。
蘭沢 繭子
彼を居場所とすることは、できなかった。
翡翠
「人は人同士で争い同種を迫害し切り殺し血を流し怒りと憎しみと怨恨で美しい世界を穢し続けている」
翡翠
「だから俺の居場所はこの世界にはない」
翡翠
「世界はもっと美しくあるべきだ」
蘭沢 繭子
「……皆が翡翠様のような方ばかりなら、あるいはそうなるのかもしれませんね」
翡翠
「うん、だから」
翡翠
「一度全部終わらせることにするよ」
蘭沢 繭子
「…………」
蘭沢 繭子
「……翡翠様」
蘭沢 繭子
「それでも、私はこの世界を壊してほしくはありません」
翡翠
「君はこの男に、更なる苦を強いるというんだね」
蘭沢 繭子
「……ええ」
翡翠
「この世界に彼の居場所はない」
翡翠
「向けられるのは殺意と敵意。忘れ去られ、あとは消えゆくだけ。」
翡翠
「…………」
翡翠
「でも、それでもいいと」
翡翠
「それでもいいと、思ってるよ」
翡翠
「マユ、君が幸福なら」
翡翠
「俺は、それでいい」
蘭沢 繭子
「…………」
蘭沢 繭子
「……比良坂の女として、私は」
蘭沢 繭子
「…………」
蘭沢 繭子
「……いえ」
蘭沢 繭子
「私は」
蘭沢 繭子
「私の世界を、守りたい」
翡翠
「うん」
蘭沢 繭子
「私の世界と、」
蘭沢 繭子
「世界を教えてくださった、清誉様を」
蘭沢 繭子
「私は……守りたいのです」
翡翠
「それでいい」
翡翠
「君がそうして、この男を突き放せば」
翡翠
「未練は消える」
翡翠
「刃を向け、追い立ててくれ」
翡翠
「他のすべての人と同じようにね」
蘭沢 繭子
「…………」
蘭沢 繭子
「……ええ」
翡翠
「…………」
翡翠
「清誉が迎えに来る」
翡翠
「俺はもう行くよ」
翡翠
マユの肩にとまった蝶が羽ばたき、離れる。
翡翠
僅かなきらめきを残し。
蘭沢 繭子
その行方を目で追って、
蘭沢 繭子
また翡翠に視線を戻す。
翡翠
「さよなら」
蘭沢 繭子
「……さようなら」
蘭沢 清誉
果たしてその言葉通りに男が姿を現す。
翡翠
背を向けて走る。
翡翠
追い立てられる獣のように。
蘭沢 繭子
「…………清誉様」
蘭沢 清誉
微かなきらめきが残り香のようにそこに漂っている。
眉間に皺を寄せたまま、その光を目で追って。
蘭沢 清誉
「…………」
蘭沢 清誉
「逃がしたか」ほとんどひとりごちるように。
蘭沢 繭子
視線を落とし、所在なさげに佇んでいる。
蘭沢 清誉
「……身体は、もういいのか」
妻とする女に視線は向けず、翅の消えた方向を睨んだまま。
蘭沢 繭子
「……はい」
蘭沢 清誉
「そうか。……」
蘭沢 清誉
「一度戻るぞ。お前を連れて追うわけにも行くまい」
蘭沢 繭子
「…………、」
蘭沢 繭子
「……私にも」
蘭沢 繭子
「私も、共に追わせてはいただけませんか?」
蘭沢 清誉
目を見開く。
蘭沢 繭子
見上げている。
蘭沢 繭子
背丈だけを見るならば、親子ほどの差がある。
蘭沢 繭子
今まで夫に意見を告げることなどなかった妻が、あなたを見上げている。
蘭沢 清誉
見開いたままその姿を視界に納める。
まるで、初めて相手がそこにいることに気づいたかのように。
蘭沢 清誉
生まれた時から、命のすべてをひとのものとしていた女に、
何かを選ぶことができると思っていなかった。
蘭沢 清誉
僅かに喉を鳴らす。息を零す。
蘭沢 清誉
「体は本当にもういいんだな」
蘭沢 繭子
頷く。
蘭沢 清誉
「なら、好きにしろ」
蘭沢 繭子
「……ありがとうございます」
蘭沢 清誉
翅の残した微かな光が舞う方へと、向かう。
その手を引くことはもうしない。
蘭沢 繭子
手を引かれずとも、同じ道を進んでいく。
蘭沢 繭子
自らの意志で。
GM
一歩一歩は小さくとも、確かな足取りでもって、その男の行路を。
翡翠
世界なんてどうでもいい。
翡翠
終わろうが、始まろうが、どうでもいい。
翡翠
ただ君に傍にいてほしかった。
翡翠
お前を愛する者はいない。
翡翠
どこにもいない。
翡翠
この世界にお前の居場所はない。
翡翠
斬られ、打ち捨てられ、屍は踏みにじられ
翡翠
その存在は夢幻にもならない。
翡翠
それでも、マユの居場所はここにある。
翡翠
清誉の居場所はここにある。
翡翠
他の、すべての人の居場所はここにある。
翡翠
俺は彼らを憎んでいるわけじゃない。
翡翠
だが、お前は俺の声に応えた。
翡翠
応えた。
翡翠
「欲しいに決まってるじゃないか」
翡翠
「ここにいてもいいって」
翡翠
「誰かに、言ってほしかった」
翡翠
「ずっと」
翡翠
なら、見つければいい。
翡翠
新しい世界で。
翡翠
「…………」
翡翠
ともに行こう。
翡翠
「そうだね」
翡翠
木々の生い茂る森を獣が走る。
翡翠
結ばれた縁は、どこまで離れれば引きちぎれるのだろうか。
翡翠
未練という名の楔は、どうすれば抜け落ちるのか。

◆マスターシーン

GM
その答えを知るものはない。
GM
生きている限り。
GM
記憶のある限り、人はそれに囚わるる。
GM
後ろ髪を引かれながら生きていくのが、
GM
記憶持つ生命がさだめ。
GM
だから、彼女が愛おしい。
GM
彼女の声が恋しい。
GM
この手で彼女に触れたその感触を、
GM
今もまだ、覚えている。
GM
欠けつつある月夜の下。
GM
刀鍛冶が、獣と相対す。
翡翠
丘に転がる岩の上に座っている。
翡翠
周囲に遮蔽物はなく、その手には一振りの刀。
牛墓 鞴良
夜をあまねく照らす月の光を遮るように、影。
牛墓 鞴良
一本足の男。
翡翠
「…………何か用?」
翡翠
視線を向けぬまま声をかける。
牛墓 鞴良
「だいたいは用がなきゃ話に来ねえもんな」
翡翠
「殺しに来たってわけじゃなさそうだけど」
牛墓 鞴良
「応、そうさな。私は争いごとは嫌いでね」
牛墓 鞴良
どっかと地面に座り込む。
座り込んだあとに、足をよいように崩した。
翡翠
「これを見に来た?」
翡翠
鞘の半ばほどを右手でつかみ、見せる。
牛墓 鞴良
「見せてくれんのかい」
翡翠
「ダメだダメだ。渡せないよ。」
翡翠
「ダメだってさ」
牛墓 鞴良
「ツレないね」
翡翠
「……」
翡翠
何か言いかけて、目を伏せる。
牛墓 鞴良
「なんだ。言ってみろ」
牛墓 鞴良
「刀鍛冶程度にもわかる惑いぞ」
翡翠
「…………」
翡翠
「俺は」
翡翠
「俺は、人に弓を向けたことがない」
翡翠
「覚えている限りでは」
翡翠
「それが、こうして……」
翡翠
「世界を相手にしようとしているんだって」
翡翠
「おかしな話だと思わない?」
牛墓 鞴良
「一言で言い捨てるなら、宿命よな」
牛墓 鞴良
「乱世が、戦が、数多の人の縁故が御前さんを仕立て上げた」
牛墓 鞴良
「私も御前と同じだけの人の血を浴びた」
牛墓 鞴良
「そうして、世は成った。農民が文字を読み、花を遊び、歌を謡った」
翡翠
「それを」
翡翠
「覚えているっていうのは、どんな気持ちなんだろうね」
牛墓 鞴良
笑う。穏やかとさえ言える乾いた笑い。
牛墓 鞴良
「あの日から」
牛墓 鞴良
「私だけ乱世を生きている」
牛墓 鞴良
「終わらんのだよ」
翡翠
「じきに終わる」
牛墓 鞴良
「あぁ」
牛墓 鞴良
「それを見に来たようなもんだ」
牛墓 鞴良
「気張れや、兄さん」
翡翠
「…………」
翡翠
「フクラ」
牛墓 鞴良
「なんだ」
翡翠
「お前はどこにある」
牛墓 鞴良
「……500年前に置いてきた」
翡翠
「…………」
翡翠
「遠いね」
牛墓 鞴良
「ああ」
翡翠
「帰りたい?」
牛墓 鞴良
「否」
翡翠
「記憶があるっていうのも、いいことばかりじゃないんだね」
牛墓 鞴良
「悪いことばかりでもない」
牛墓 鞴良
「ただ、どちらも在り過ぎる」
翡翠
「…………」
牛墓 鞴良
「故に、世も人も立ち行かぬ」
牛墓 鞴良
「御前が見るのはなんだろうな」
牛墓 鞴良
「私が最後に見るのは、御前なんだろうが……」
牛墓 鞴良
「次の500年後はどうなっているのやら」
翡翠
「幻想」
翡翠
「争いのない世。誰もが善良で、苦しむことがない世界。」
翡翠
「夢。幻。全てを切り殺し、存在を否定し、葬り去り、その果てに……平和を為す。」
翡翠
「野望、欲望。天下統一が成さんとし、人が欲の為泡と消えた幻想を。」
翡翠
「俺が成す」
牛墓 鞴良
「左様か」
牛墓 鞴良
「見届けようぞ」
翡翠
「…………」
翡翠
「うん」
牛墓 鞴良
月が雲間に隠れた闇に乗じて、姿を消す。
翡翠
男の消えた空間を、何ともなしにしばし眺め。
翡翠
誰に聞かせるでもなく「おやすみ」と呟いて。
GM
やがて雲が流れ、月が顔を出す。
GM
五百年より前から変わらぬ月が、
GM
今も人の世を見下ろしている。