蘭沢 清誉
ーー蝶を、その翅の残す鱗粉を追い、山を、野を行く。
蘭沢 清誉
ひとりで追うつもりだった。その方が良い、と思っていた。
蘭沢 清誉
今、半歩の後ろには妻とする女がいて。
千里を見通す瞳でもって、己を確かに導いている。
蘭沢 清誉
2年前。妻を取れと命じられた時、断ることは出来なかった。
蘭沢 清誉
しかし正直なところ、僥倖だと思った。
もとより己の身は終末の獣を討つためにしかなく。
妻を持ち、ーーそれを愛し、斬れば。力を得ることができる。
それを知っていたから。
蘭沢 繭子
『不束者でございますが、どうぞよろしくお願いいたします』
蘭沢 清誉
小さく、か細く、それまで触れてきたなによりも儚く。
蘭沢 清誉
ーー扱いあぐねた。愛せと言って、どう愛せと。
蘭沢 繭子
少女は不平の一つもこぼさず、夫の言葉になんでも従った。
蘭沢 清誉
寄るなと言えば寄らず。喋るなと言えば喋らず。
ほとほと困り果てた。
蘭沢 清誉
人形遊びをする趣味はないと比良坂に何度も手紙を送った。
蘭沢 清誉
そうして、ほかに誰もいない家に一対一。
子供への接し方も、女への接し方も、まるで身に着けて来なかった。
ままならぬ己に嫌気が差すばかりで。
蘭沢 清誉
視界に姿のなければ落ち着かないようになった。
抱いても涙一つ流さないことに戸惑った。
学を得ればそのうち何処かへ出ていくのではないかと、
期待と不安とが胸を焼いた。
蘭沢 清誉
それは、世の言う愛ではないように、思っていた。
蘭沢 繭子
あなたの内心を知ってか知らずか、妻の様子に変わりはなく。
蘭沢 繭子
しいて変化をあげるなら……ほんの少し、笑顔を見せることが増えた。
蘭沢 清誉
笑顔にただの一度も、笑みを返せないまま。
己が妻に対して出来ることが何か……考え、そして答えを出したのは。
ーーあの満月の夜に至ってのことだった。
蘭沢 清誉
そうして違えたのだと、気付いてしまった。
蘭沢 清誉
この女に対して自分の果たすべき役目はーー、
持ち主としてそれを振るうことではなかったのだ。
蘭沢 繭子
いつものように『はい』と返事のできぬまま、そちらに導かれる。
蘭沢 清誉
「少し休むぞ。……どうせもう、そう遠くはあるまい」
蘭沢 繭子
「…………確かに、もうそろそろ行き当たるはずですが」
蘭沢 繭子
「ならば、尚更急いだ方がよろしくはありませんか……?」
蘭沢 清誉
「……向こうは明るい。通り雨だ。……じきにまた晴れる」
蘭沢 清誉
それきり。妻の初めて家に来たその日のように、ただ押し黙った。
◆メインフェイズ第三サイクル第四シーン
シーンプレイヤー:蘭沢 繭子
GM
なのに月が空には眩しく、まるで道先を照らすように。
蘭沢 繭子
「かつては、この瞳にはなんでも映りました」
蘭沢 繭子
「人の心を、考えを、おしはかる必要はなかったのです」
蘭沢 清誉
「……役目を終えて見えなくなったと、聞いてはいた」
蘭沢 繭子
「私には、あなたの心が見えたことはありません」
蘭沢 繭子
「……見えればよいのに、と思っていました」
蘭沢 清誉
「……形ばかりの夫の心を推し量って何になる」
蘭沢 清誉
何も知らず、望みなどないと、選ぶこともできないと。
蘭沢 繭子
「どう思われているか分からないのが、おそろしかった」
蘭沢 繭子
「ひとの望むことが、望まないことが、以前は労せずとも知れたのに」
蘭沢 繭子
「清誉様の心のうちは、ひとつも分からなかった……」
蘭沢 清誉
頭ひとつほど視線の下にある繭子の顔を、見下ろす。
雨にけぶる月の光の中、その瞳にひどく狼狽した己が映っている気がした。
蘭沢 繭子
「言いつけられたことだけは守っていようと思いました」
蘭沢 清誉
「…………好きで、あのようにしていたわけではないと」
蘭沢 清誉
間抜けなことを言っていると自分でわかっていて。口を突く。
蘭沢 繭子
「ただああするより他に、私にはどうすればよいのか分からなかったのです」
蘭沢 清誉
「何のために学校へ遣ったと思っている……」
蘭沢 清誉
「何か学べば逃げるなり、泣くなり、するものだと、ばかり……」
蘭沢 繭子
「……ですが、何も言わずにいたのは私も同じこと」
蘭沢 繭子
「清誉様も、私の心のうちの分からぬことが、おそろしかったのではないかと」
蘭沢 清誉
話題が戻ってきて、またひとつ、瞬いた。
蘭沢 繭子
またたく瞬間すらも逃さぬように見つめている。
蘭沢 清誉
「……失うのだと、思いたくなかった……」
蘭沢 清誉
「お前を見る度に、お前が話す度に、お前が笑う度に」
蘭沢 清誉
「俺はいずれお前を失うのだと、気づいた」
蘭沢 清誉
「お前を斬ったとき、ようやくその恐怖から逃れられたと思った」
蘭沢 清誉
「あの獣は、『二度目の生涯を始められる』と、そう言った」
蘭沢 清誉
「……お前ともっと、話しておくべきだったんだ」
蘭沢 繭子
「誤ったのは、私も同じでございますよ」
蘭沢 清誉
「あの獣にもわかったことが、俺は今更……」
蘭沢 清誉
月明かりに薄明るく照らされた妻の顔を見る。
蘭沢 繭子
「まるで、この世の終わるようなことを仰るのですね」
蘭沢 繭子
「これからのことを語ってはくださらないのですか?」
蘭沢 清誉
「……獣を討った後より先のことなど考えたこともなかったんだ」
蘭沢 清誉
「役目を果たしてなおも生が続くことなど想像したこともなかった」
蘭沢 繭子
今はまだ、膨らみの見てとれるようなことはない。
蘭沢 繭子
「おいしい喫茶店であるとか、恋人と遊びに行った場所であるとか、教えてくれるんです」
蘭沢 清誉
「……お前がそんな口を利く女だったとはな」
蘭沢 繭子
「嫁ぎ先では口を閉じているのが懸命ですよと、よくたしなめられたものです」
蘭沢 清誉
「大人しく従順でよく気の利く、利口な娘だとしか言われていない」
蘭沢 繭子
「清誉様の務めなら、妻である私の務めでもありましょう」
蘭沢 清誉
「どうだか知らんが、あれはお前と戦いたくはないだろうよ」
蘭沢 繭子
雨脚が弱まっていく。この場を発つ時が迫る。
蘭沢 繭子
「……これも、友人が教えてくれたことなのですが」
蘭沢 繭子
普通のこと、そう言いながらも恥じらいに目を逸らす。
蘭沢 清誉
口づけられた頬に、唇の柔らかさが残っている。
蘭沢 清誉
「……そういうことは帰ってからにしろ」
蘭沢 清誉
霧のようにけぶる雨の中、蝶を追って。
終末のはじまりを探しに。
蘭沢 繭子
手に手を取って、夫婦があなたの前に立っている。
蘭沢 清誉
分かれたときには異形だったその姿を見据える。
蘭沢 繭子
未来も、過去も、秘められたものも、人の心のうちも、
蘭沢 繭子
あなたの心に触れようと、見据えている。
蘭沢 繭子
2D6+1>=5 (判定:千里眼の術) (2D6+1>=5) >
12[6,6]+1 > 13 > スペシャル(【生命力】1点か変調一つを回復)
GM
忍具を1個取得してください。これに関しては種類の申告も。
[ 蘭沢 繭子 ] 忍具 : 2 → 3
翡翠
ET 感情表(2) >
友情(プラス)/怒り(マイナス)
蘭沢 繭子
ET 感情表(6) >
狂信(プラス)/殺意(マイナス)
蘭沢 繭子
「あなたが、幸せを掴むために戦えるのかということです」
翡翠
「俺がつかみかけた幸福は、君が自分で壊したんじゃないか」
蘭沢 繭子
「あなたに救われた恩を、私は何一つ返せていない……」
翡翠
たとえそれが2人きりでなくとも、俺は良かったのに。
翡翠
「わかりあえねば刃を交え、一方の死によって沈黙と正義を為す」
翡翠
「それを為せど。人々は『英雄』と呼び称え、人ならざるものと遠ざけ、祀り上げるだけだ」
翡翠
結局のところ、心に刻まれたのは突き刺すような苦しみばかり。
翡翠
俺はおはようが言えれば、それだけでよかったのに。
翡翠
金の髪も、翡翠の目も。
今や忌むべきものではなかろうに。
蘭沢 清誉
なおも呪いの向かう先として、現世の敵として。
翡翠
髪はエメラルドの如く輝き、宵闇に虹を塗した翅の伸びる。
牛墓 鞴良
常ならむ行く末を見る眼が、めおとを見る。
翡翠
異形の獣のすらりと抜くは、妖刀『化生鏖刃』。
蘭沢 繭子
小さな身体に、怒りを、視線を、受け止める。
翡翠
「さあ、終焉をはじめよう。後の世に鬼と呼ばれし英雄の……最後の戦の幕開けだ」
翡翠
義を嘲笑い。情に仇なせ。我を貫いて。
我が血をぶち撒け、屍を踏み超え続くのならば。
それぞ、まさしく人の歴史なり。
蘭沢 清誉
「生憎と畜生の言葉は、理解ができなくてな」
蘭沢 清誉
人の世の業が生み出せし、神の名を戴く刀。
蘭沢 清誉
「蘭沢七代当主、清誉の名に於いてーー貴様を討つ」