メインフェイズ第二サイクル第三シーン

シーンプレイヤー:煤木野灰吏

GM
滝壺の近く。
GM
みずのにおい、
GM
みずのおと。
煤木野灰吏
いずれも、灰吏にとってもよく親しんできたもの。

客間で待つ。

いつものようなお転婆な服ではなく、羽織を頑張ってきちっときている。

アポイントメントの重要性を……重んじる!
GM
藻の家の使用人が灰吏を招き入れ、お茶など出します。
GM
藻の家の茶菓子も出す。
GM
水饅頭。
煤木野灰吏
スーツで来るべきだったか……とも思うが、変に仰々しくして坊っちゃんに勘ぐられるのも困る。

藻家の水まんじゅうは……絶品だ!
煤木野灰吏
服装はいつも通りですが、背筋は伸びています。
煤木野灰吏
「……お時間をいただき、ありがとうございます」

しずしずとしている。

「……いえ」

「私個人に約束事を取り付けられたとのこと」

「長く交友を結ばせていただいております、煤木野様のお話でしたら」

「……当然で御座います」
煤木野灰吏
「感謝いたします」
煤木野灰吏
「……お耳に入れたいことがございまして」

「それはまた……」
煤木野灰吏
「藻様と、焔郎様に関わることで」

「私と葛火君の?」
煤木野灰吏
「……はい」

「……詳しくお聞かせ願えますか」
煤木野灰吏
藻さんに秘密を2つ渡します。一人の情報判定だけで全ての情報を手に入れられるはずもないため、よくこういった取引が行われる。
GM
はい、指定いただいた通りの2つですね。
GM
では藻さんから焔郎さんに共有され、公開全員に知れ渡ったので表に出しちゃうぞ。となります。
GM
ひとつめ。
【秘密:帝光の書】
藻がこうして人間と同じようにして暮らせるのは、藻が不完全なシノビガミである間だけである。
藻が完全なシノビガミとなったら最後、藻は人々の記憶からは完全に消え去ってしまう。

葛火 焔郎は藻が完全なシノビガミとなるまでの錨であり、葛火 焔郎の存在が藻をこの世界に繋ぎ止めている。
しかし、不完全であるとはいえ神との繋がりは人間の身体には毒にしかならず、このままでは葛火 焔郎に残された命は長くない。
藻が完全なシノビガミとなれば、葛火 焔郎との繋がりを断ち切り、身体を蝕む毒を消し去ることが出来るようになる。
GM
ふたつめ。
【秘密:天帝の眼】
御祀 潺は成人の儀で自分の『天帝の眼』を藻へと受け継がせることになる。
『天帝の眼』を受け継いだ藻は完全なシノビガミとなり、世界を救うだけの力を持ち合わせる。
御祀 潺は藻に比べて力が欠けているため、御祀 潺が世界を救うためには、『天帝の眼』を持ち合わせた上で、御祀 潺がその命をなげうつ必要がある。

成人の儀は特殊な結界の中で行われる。
その場に於いて天帝の眼を勝ち取った者は、その結界の中で行われた戦いに参加したものの生死を決定できる。
これについては、死亡を選択した者のそれを覆すことも可能とする。
GM
以上です。
煤木野灰吏
そのような話をしました。
【解説:成人の儀】
藻が『天帝の眼』を御祀 潺から受け継ぎ、シノビガミとなるための儀式。
葛火 焔郎が不完全なシノビガミの錨としての役割を終えるための儀でもある。
シノビガミとなった藻は世界を救うだけの力を持ち合わせ、この世界の人々の前から消える。
人間である間に藻を殺すというのも、それを防ぐ手段の一つになるかもしれない。
GM
その2つを総合してすっきりまとめた情報がこちらになります。
これは秘密扱いではありません。
GM
では どうぞ。
煤木野灰吏
あとは藻さんがお持ちの潺さんの秘密も教えてもらえると嬉しいです。
煤木野灰吏
まあとりあえずRPするか
煤木野灰吏
「……私からお伝えしたかったことは、以上です」
煤木野灰吏
「もしかしたら既にご存知のことだったかもしれませんが」
煤木野灰吏
「そうでないのなら、と」

「……」

一度二度大きく瞬いて。

少しだけ微笑んだ。

潺の秘密を渡します。
GM
それでは潺さんの秘密も公開ですね。
【秘密:御祀 潺】
あなたは現代のシノビガミである。
あなたは、成人の儀が藻が完全無欠のシノビガミへと為るための儀式であることを知っている。
しかし、まだまだ若い藻にこのような重荷を背負わせてしまうことを申し訳なく思っている。
あなたはプライズ『天帝の眼』を所持している。
GM
以上です。

「……潺は、私を案じてくれているみたいです」

穏やかな声色。
煤木野灰吏
「……そうでしょうね」

「私の……お世話役として、だけではなく」
煤木野灰吏
潺ほど近くも、焔郎ほど親しくもなかったが、灰吏もこの少女を幼い頃から知っている。

少なくとも、この佇まいは。
努力して身に着けたものだ。

灰吏の知っている少女ではない。
煤木野灰吏
「……あの人は」
煤木野灰吏
「素直に天帝の眼を渡してはくれないでしょうね」

「ああ見えて頑固者ですからね」

「……でも、本当。
それだけですよ。それだけ」
煤木野灰吏
叶うなら、焔郎と藻の無邪気なやり取りをずっと見守っていられればよかった。
煤木野灰吏
「……御祀さんの気持ちは、俺にも少し分かります」
煤木野灰吏
「分かるからこそ、俺は……」
煤木野灰吏
「成人の儀は、正しく執り行われなければならない」
煤木野灰吏
「そう思っています」

潺の秘密の庵のことは胸にしまう。
それを話さずとも。

彼の話はいくらでもできるぐらいの時間が。
4人のあいだで流れたのだ。

「……はい」
煤木野灰吏
「…………」

焔郎に向けるものとは違う微笑。
煤木野灰吏
焔郎に向けるものをずっと見てきたから、その違いが分かる。

分をわきまえた年頃の少女の、敬意のしるし。
煤木野灰吏
藻様に感情判定を行います。
GM
判定特技はいかがいたしますか?
煤木野灰吏
特技は……封術で! 潺さんの思惑を封じていくぞ
GM
いいでしょう。判定をどうぞ
煤木野灰吏
2D6>=5 (判定:封術) (2D6>=5) > 11[5,6] > 11 > 成功
煤木野灰吏
オラァ!!!!!
GM
おめでとう!!!!
GM
はい、ETです。
煤木野灰吏
ET 感情表(5) > 憧憬(プラス)/劣等感(マイナス)
煤木野灰吏
ああ!?5しか出さない人もいた。

ET 感情表(3) > 愛情(プラス)/妬み(マイナス)
GM
えっ?
煤木野灰吏
ゆるして……
煤木野灰吏
…………憧憬

愛情
GM
はい。
GM
灰吏が憧憬、藻が愛情。
GM
了解しました。続きを。
煤木野灰吏
焔郎が勝負を挑み、藻がそれを受け、そして叩き伏せる。
煤木野灰吏
永遠に続くはずなどないと知りながらも、それを望んでいた。
煤木野灰吏
まばゆく輝く二人の日々。
煤木野灰吏
その記憶も、藻が神となれば消えてしまうのだという。
煤木野灰吏
そうなるように、しようとしている。
煤木野灰吏
この少女を、神に。

大自然の息吹からそのまま生まれ出でたような少女。
煤木野灰吏
誰よりも近くで、二人を見守ってきた立場でありながら。

その瞳に今湛えるのは。
あまねくひとびとへ向けられる慈しみと愛。

自らに運命づけられた摂理を、大層大事に取り扱う少女の神性。
煤木野灰吏
そんなものは放り投げてしまえばいいと言ってやることは、できない。

放り投げ方がわからない。
煤木野灰吏
誰も教えなかったから。

だから。
きらめく水のように、少女の瞳が揺れることはない。

石のように輝いている。

人が磨き上げたものだ。
煤木野灰吏
「……貴女が、役目を果たされるその時まで」
煤木野灰吏
「私は、貴女をお守りいたします」

「はい」

「よろしくお願いしますね」
煤木野灰吏
「…………はい」

「はいり」

「ありがとう」
煤木野灰吏
「…………いえ」
煤木野灰吏
「礼を、申し上げないといけないのは」
煤木野灰吏
「こちらの方です」
煤木野灰吏
頭を下げる。

同じく頭を下げる。

付き人に添われて、奥の部屋へ戻っていった。
煤木野灰吏
「…………」

残り香は、ない。
御祀 潺
滝壺から暫く降りて行った川のほとり。
御祀 潺
秘密部屋から持ち出した煙管を手に、大岩に腰かけている。
葛火焔郎
修行のさなか。清涼な気配に足を止める。
御祀 潺
火をいれれば、狼煙とは異なる細い煙がたつ。
御祀 潺
これを出すのも、20年ぶりくらいか。
葛火焔郎
咄嗟に気配を消そうとするが、やましいことがあるわけでもない。
御祀 潺
御祀 潺は気配を隠さない。
葛火焔郎
しばし悩み、木々の間から顔を覗かせる。
御祀 潺
顔がないからだ。
葛火焔郎
「……潺さん」
御祀 潺
「いらしましたか」
御祀 潺
知らなかったわけではない
御祀 潺
ただ、隠れないだけ
御祀 潺
「どうなさいました?」
葛火焔郎
「あ、いや……」
葛火焔郎
「こんにちは」
御祀 潺
「ええ、こんにちは」
御祀 潺
そちらに顔を向けずとも、見える。
御祀 潺
しかし、顔を向けて。
葛火焔郎
「お邪魔をしたかもと」
御祀 潺
「いいえ」
御祀 潺
大きく平たい岩の横に、あいている方の手で触れる。
御祀 潺
「いらっしゃいますか?」
葛火焔郎
ひょい、と岩を乗り越え、相手の傍に寄る。
御祀 潺
「焔郎坊ちゃまとゆっくりお話しするのも久しぶりですね」
葛火焔郎
「そうですね」
御祀 潺
煙管を咥え、暫く。
離した唇から煙が吐き出される。
葛火焔郎
滝つぼが近いせいか、寒い。
御祀 潺
「いつも、ありがとうございます」
葛火焔郎
襟巻を巻き直す。
葛火焔郎
「礼を言われるようなことは何も」
葛火焔郎
「……」
御祀 潺
「心当たりはないですか?」
葛火焔郎
「叱られてもしかたのないことだと思います」
御祀 潺
「ふふ……」
葛火焔郎
こころあたり。
葛火焔郎
深く長く息を吐く。
御祀 潺
「お強くなられましたね」
葛火焔郎
「……まだまだです」
葛火焔郎
「きっとあなたにも敵わない」
御祀 潺
「…………敵わないと思っていたら」
御祀 潺
「いつまでも、勝つことは出来ませんよ」
葛火焔郎
「今は、です」
葛火焔郎
「いずれは超えます。あなたも、藻も」
御祀 潺
「……焔郎」
葛火焔郎
「はい」
葛火焔郎
いつもと違う呼び掛けに、しかし驚きはしない。
葛火焔郎
ただ僅かに緊張した面持ち。
御祀 潺
「『いずれ』は、絶対ではありません。」
葛火焔郎
「……では、”絶対に”超えます」
御祀 潺
「その時が、早いことを望まずにいられませんね。」
葛火焔郎
「……」
葛火焔郎
「時間がありませんか」
御祀 潺
煙管を口元へ。
御祀 潺
考える、間。
御祀 潺
「…………ええ」
御祀 潺
細い煙が空に上がっていく。
御祀 潺
「成人の儀が、まもなく行われるでしょう」
御祀 潺
潺は語る。
御祀 潺
成人の儀が何を指すのか。
御祀 潺
何が行われるのか。
御祀 潺
藻と焔郎が何を背負っているのか。
葛火焔郎
「………………」
葛火焔郎
「……それを、俺に話してよかったんですか」
葛火焔郎
顔を向ける。責めることもなく、不安や焦りも、今は見えない。
御祀 潺
「知るべきことです」
御祀 潺
「今でなくとも、時が来ればわかりましょう」
御祀 潺
煙管を逆さにして、こんと叩くと
御祀 潺
湿気た葉が地面に落ちる。
御祀 潺
「私は」
御祀 潺
「貴方が知らずにいることを、公平ではないと思いました」
葛火焔郎
「俺が嫌がったり、反発したり、儀式を投げ出す可能性があるとは」
葛火焔郎
「思いませんか」
御祀 潺
「構いません」
御祀 潺
「それは、貴方がそういう人間であるという事」
御祀 潺
「それは……」
御祀 潺
「好ましい事です」
御祀 潺
「命は大切になさい」
御祀 潺
ゆくゆくはその、命を奪うことになると知りながら。
御祀 潺
微笑む。
葛火焔郎
「否定してほしかったんですが」
葛火焔郎
頬を掻く。
葛火焔郎
こういうところは兄貴代わりの男に似たかもしれない、と少し思う。
葛火焔郎
「あなたは」
葛火焔郎
「あなたも、」
葛火焔郎
「大切にしてほしい」
葛火焔郎
言い淀み、けれど口から突いた。
御祀 潺
「ふふ……」
御祀 潺
「私はもう、十分生きましたから」
葛火焔郎
物ごころついてからも変わらない姿。
葛火焔郎
ずっと藻の傍に控えていた。
記憶の中に藻がいる限り、切っても切れない水の匂い。
葛火焔郎
僅かに肌寒さが増す。己の指先を握る。
葛火焔郎
「藻もあなたほど生きるでしょうか」
御祀 潺
「さて……」
御祀 潺
「あの方は、私よりも……生きるかもしれませんね」
葛火焔郎
「はは、しぶとそうですからね」
御祀 潺
「…………あの方を、頼みますね。」
葛火焔郎
「それは約束できません」
御祀 潺
「ふふ」
御祀 潺
「そうですか」
葛火焔郎
「はい」
御祀 潺
「なしたいようになさい」
葛火焔郎
居ずまいを正す――正座し、向き直る。
葛火焔郎
「努めます」
葛火焔郎
頭を下げた。
御祀 潺
「…………」
御祀 潺
忘れてくれたらいいと、そう思う。
御祀 潺
そうして、少しだけ古い家系図に『御祀 潺』の名前だけが。
御祀 潺
そっと残るのだ。
御祀 潺
もっと力があれば。
御祀 潺
よかったね
御祀 潺
「焔郎」
御祀 潺
卑怯な私を、許してくださいね
御祀 潺
「超えていきなさい」
御祀 潺
それが僅かな時間だとしても
御祀 潺
「私は、いつでも。見守っていますからね」
御祀 潺
常、そうであるように。
葛火焔郎
「必ず」
葛火焔郎
頷いた。
このRPは併設されたサブロールタブで行われたが、事実上の追加マスターシーン扱いということになる。
結果、弱点背景【不忍】により焔郎、藻に潺の【居所】が渡った。
煤木野灰吏
使用人に促され、屋敷を出る。
GM
丁寧にお土産まで持たされて。
GM
藻の使用人は深く腰を折り、大切な客人を見送った。
煤木野灰吏
そうして屋敷の門をくぐった矢先に。
葛火焔郎
「灰吏さん」
煤木野灰吏
「お」
葛火焔郎
立っている。少し間の悪そうな、ばつの悪そうな。
煤木野灰吏
声をかけられれば、いつもの笑顔。
煤木野灰吏
「また藻様に試合のお誘いですか」
葛火焔郎
「……いや」
葛火焔郎
「珍しいですね、一人で藻に寄るなんて」
煤木野灰吏
「成人の儀が近いですからねえ、ちょっと打ち合わせをね」
葛火焔郎
「打ち合わせ」
煤木野灰吏
「警備の段取りとかね」
葛火焔郎
「俺抜きで、ですか?」
葛火焔郎
まだ藻の屋敷はほど近い。とりあえず視線で促して、歩き出す。
煤木野灰吏
「坊っちゃんたちを混じえての打ち合わせも近い内にあるんじゃないですかね」
煤木野灰吏
促されるままについていく。
葛火焔郎
「一言くらい声かけてくれてもよかったと思いますけど」
煤木野灰吏
「坊っちゃんはいつも忙しいでしょうよ~」
煤木野灰吏
「修行とか修行とか……」
葛火焔郎
「儀式に割く時間がないほどではないです」
葛火焔郎
どこか、拗ねたようなもの言い。
煤木野灰吏
「……な~んかご機嫌斜めじゃないですか?」
葛火焔郎
「俺はいつもこうです」
煤木野灰吏
「あ、水まんじゅうならありますよ」
煤木野灰吏
「ほら、お土産で」
煤木野灰吏
持たされた包みを軽くかかげる。
葛火焔郎
立ち止まり、首だけ巡らせてちらと見る。
煤木野灰吏
「好きでしょう、これ」
葛火焔郎
「食べ飽きました」
煤木野灰吏
「昔はあんなに喜んで食べてたのに~」
葛火焔郎
「いつまでも子供じゃないですから」
煤木野灰吏
「はは」
葛火焔郎
「灰吏さんだっていつまでも俺のお守じゃないでしょう」
煤木野灰吏
「まあ、そりゃあね」
煤木野灰吏
「坊っちゃんが無事成人なすったら俺もお役御免ですよ」
葛火焔郎
「……ずいぶん苦労かけました」
煤木野灰吏
「いや~、大変だった!」
葛火焔郎
完全に立ち止まり、向き直る。
葛火焔郎
「多分、もう少し」
煤木野灰吏
足を止める。
葛火焔郎
「掛けます」
葛火焔郎
燃える瞳が見つめる。
煤木野灰吏
「……へえ?」
煤木野灰吏
「全く、しょうがない坊っちゃんだ」
煤木野灰吏
くすんだ、煤色の瞳が受け止める。
煤木野灰吏
「……まあ」
煤木野灰吏
「俺は、俺の役目を果たすまでですよ」
煤木野灰吏
「ご存知の通り、俺は仕事熱心な男ですからね~」
葛火焔郎
やくめ、と小さく口がなぞる。
葛火焔郎
「そうですね」
葛火焔郎
「灰吏さんは仕事熱心だ。じゃないと俺のお守なんか続けてられないでしょう」
煤木野灰吏
「そうですよ~」
煤木野灰吏
「真面目、勤勉、実直です!」
葛火焔郎
「俺はあなたに似たんですよ」
煤木野灰吏
「……え?」
葛火焔郎
「真面目、勤勉、実直」
煤木野灰吏
ぽかん、と焔郎を見つめる。
葛火焔郎
「……しょうがない男」
煤木野灰吏
「…………ははは」
葛火焔郎
「あんたの背中を見て育った」
葛火焔郎
燃える、燃やす、焔。
煤木野灰吏
「……大したものは得られなかったでしょうに」
葛火焔郎
「じゃあ、僕も大したもんじゃない」
煤木野灰吏
「いやいやいや」
煤木野灰吏
「坊っちゃんは俺とは違いますから」
葛火焔郎
「そりゃ、違うだろうけど」
煤木野灰吏
「……違いますよ」
葛火焔郎
「でもそれは、なにが定められているかって違いで」
葛火焔郎
「どう歩くかって違いじゃない」
煤木野灰吏
「…………」
葛火焔郎
首を僅かに傾ける。
煤木野灰吏
「……見る目ないっすよ」
煤木野灰吏
「背中を見るなら相手は選ばなくっちゃ」
葛火焔郎
「藻のほかには、あんたの背中しか見てこなかった」
煤木野灰吏
「藻様だけ見てりゃあよかったのに」
煤木野灰吏
「いや、それはそれでだな……」
葛火焔郎
「そういうわけにもいかないでしょ」
煤木野灰吏
「いかないんですよねえ」
葛火焔郎
「あんたがにいちゃんなんだから」
煤木野灰吏
「……そうなっちゃったなあ」
葛火焔郎
「あんたがそれを心から望んじゃいなかったことはわかってる」
煤木野灰吏
頬を掻く。
煤木野灰吏
「……」
葛火焔郎
「でも僕のにいちゃんはあんただったって、それだけです」
煤木野灰吏
「……身に余る光栄で」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
焔郎の燃える瞳を見る。
煤木野灰吏
「…………俺は」
煤木野灰吏
「俺は、お前を守りたいと思ってるよ」
煤木野灰吏
「……最後まで、お役目きっちり務めさせていただきますよ~!」
煤木野灰吏
言って、いつもの笑顔。
葛火焔郎
「苦労かけます」
煤木野灰吏
「いえいえ~」
葛火焔郎
踵を返す。
煤木野灰吏
追いかける。
葛火焔郎
僕の何を、とは訊かなかった。
葛火焔郎
わかっているつもりだったから。
煤木野灰吏
自分の背中を見られている、なんて、
煤木野灰吏
思ったことは欠片もなかった。
煤木野灰吏
焔郎はこうして一人で突き進んでいけて、
煤木野灰吏
それを灰吏は後ろから見守っている。
煤木野灰吏
ずっと、そうだと思っていたから。
煤木野灰吏
参ったな。
煤木野灰吏
知っていれば、もう少しかっこいい所を見せたかったものだが。
煤木野灰吏
まあ、できなかったものは仕方がない。
煤木野灰吏
だったらせめて、最後くらいは「かっこいいにいちゃん」の姿を見せてやるとしますか!