GM
第三サイクル第三シーンが終わりまして、最後のプレイヤーのシーン……
GM
の、前に。
GM
RPのためだけのマスターシーン話し足りない時とかによくやる。を挟みましょう。

マスターシーン

シーンプレイヤー:潺

御祀 潺
霧、霞、水の気配。
御祀 潺
煤木野の戸が叩かれる。
煤木野灰吏
少しだけ間を置いて、門が開かれる。
煤木野灰吏
「どうも、こんばんは」
煤木野灰吏
「お待ちしておりましたよ~」
御祀 潺
「お時間を取っていただき感謝いたします。」
煤木野灰吏
いつもと変わらぬ軽薄な表情を浮かべて、出迎える。
煤木野灰吏
「いえいえ」
煤木野灰吏
「近頃はもてなしていただいてばっかりでしたからねえ」
煤木野灰吏
「そろそろこちらからもお招きせねばと思っていたところで」
御祀 潺
手土産にヤマメの入った籠と、清酒の瓶。
煤木野灰吏
客人を中へ招き入れる。
御祀 潺
「お邪魔いたします」
御祀 潺
中へと。
空気が涼む。
GM
藍の夜空に透き通る月。
GM
夜闇を、裏の世界をわずかたしかに照らすもの。
御祀 潺
招かれるまま、席に。
煤木野灰吏
月の見える縁側。
煤木野灰吏
いつかのように、盆を挟んで二人並ぶ。
御祀 潺
「…………。」
御祀 潺
「大きくなりましたね」
煤木野灰吏
徳利を持ち上げた手が止まる。
煤木野灰吏
「お陰様で~」
御祀 潺
3人。
煤木野灰吏
「御祀さんは全然変わりませんねえ」
御祀 潺
子供たちの、その中で。
常に一歩先を歩くよう。
煤木野灰吏
改めて、盃に酒を注ぐ。
御祀 潺
背筋を張っていた、少年の。
御祀 潺
「ええ。」
御祀 潺
「でも、私にも小さい頃があったのですよ。」
煤木野灰吏
「ええ~?」
煤木野灰吏
「想像できませんねえ」
煤木野灰吏
「なんせ知り合った頃からそのお姿だ」
御祀 潺
「ふふ」
御祀 潺
「写真のひとつやふたつ、残っていればよかったですね」
煤木野灰吏
「ぜひ拝見したかった」
御祀 潺
「灰吏様は、こんなに……小さい頃から。」
御祀 潺
手で、縁側より少し高いところを示し。
御祀 潺
「頑張り屋でいらっしゃいましたね」
煤木野灰吏
「いやいや」
煤木野灰吏
「頑張り屋で言ったら坊っちゃんの方でしょう」
煤木野灰吏
「俺はこう……適当に……ねぇ?」
御祀 潺
「ふふ……」
煤木野灰吏
最近やたらとこういうことを言われる。
煤木野灰吏
居心地悪いことこの上ない。
御祀 潺
「前を」
御祀 潺
「ただ、向くことができるのは。」
御祀 潺
「信頼あっての事です」
御祀 潺
「目を離せるのもまた」
御祀 潺
盃を口元へ。
御祀 潺
「…………」
御祀 潺
「あなたは」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
「俺はそんな大したもんじゃないんですけどねえ」
煤木野灰吏
「本当に」
御祀 潺
「…………まだ、子供です。」
御祀 潺
「私から見れば、まだまだ。」
煤木野灰吏
「そうでしょうね……」
御祀 潺
「すみませんでした」
煤木野灰吏
「………………え?」
御祀 潺
「あなたを」
御祀 潺
「甘えさせてあげられるのは、私くらいのものだったでしょうに」
煤木野灰吏
「…………は」
煤木野灰吏
「いや」
煤木野灰吏
「いやいや…………」
御祀 潺
「ふふ」
煤木野灰吏
視線が彷徨う。
御祀 潺
「私の方が、その……強がりに。」
御祀 潺
「甘えてしまっておりましたね」
煤木野灰吏
「強がりとかでは、なくてですねぇ……」
煤木野灰吏
行き場のない視線が手元に落ちる。
御祀 潺
「わがままひとつ言わず、頑張ってきたあなたの……おそらくは」
御祀 潺
「最初で最後のわがままを」
御祀 潺
「私は、聞き入れてあげることが……できないでしょう。」
煤木野灰吏
「………………」
煤木野灰吏
深く、息を吐く。
煤木野灰吏
「お見通しですか……」
御祀 潺
「さて」
御祀 潺
月を見上げる。
煤木野灰吏
昔からこの人を相手に隠し事を通せた試しがない。
御祀 潺
「……許してくださいとは言いません。許してあげてくださいとも。」
御祀 潺
「ただ」
煤木野灰吏
「…………」
御祀 潺
「少しくらい、弱音を吐いても。誰かに泣きついても。」
御祀 潺
「格好の悪い事を言ったって」
御祀 潺
「いいから」
御祀 潺
「自分の心も、大切になさい」
御祀 潺
「灰吏」
煤木野灰吏
「…………それを、あなたに言われるとは」
煤木野灰吏
敵わない。
煤木野灰吏
そう思ってしまう。
御祀 潺
「手を伸ばせば届くところに」
御祀 潺
「触れられるものは、たくさんありましょう」
御祀 潺
「その視界には、多くの人々と」
御祀 潺
「鮮やかな世界が、共にあったことでしょう」
御祀 潺
「あなたは」
煤木野灰吏
「…………」
御祀 潺
「そこから、目を逸らさなくていい」
御祀 潺
顔をそちらに向ける。
煤木野灰吏
その気配に、わずかに顔を上げる。
御祀 潺
「灰吏」
御祀 潺
「あなたも、私の……大切な。」
御祀 潺
「守るべき、子であることを。」
御祀 潺
「知っていてください」
煤木野灰吏
「……俺は」
煤木野灰吏
「あなたの敵になりますよ」
御祀 潺
「ええ」
御祀 潺
「強くなりましたね」
煤木野灰吏
「…………どうですかねえ」
煤木野灰吏
再び、息を吐く。
煤木野灰吏
「恨んでくれりゃあいいのに……」
御祀 潺
「それは……ずるですよ」
御祀 潺
「がんばる覚悟を決めたなら……」
御祀 潺
「笑って、逝かれる覚悟も」
御祀 潺
「きめておきなさい」
煤木野灰吏
「…………それは、」
煤木野灰吏
「ご忠告、痛み入ります……」
御祀 潺
「ふふ」
御祀 潺
布を外す。
煤木野灰吏
「…………」
御祀 潺
「灰吏」
煤木野灰吏
目を瞠って、布の下の素顔を見る。
煤木野灰吏
「……え」
煤木野灰吏
「はい」
煤木野灰吏
驚きに反応が遅れる。
御祀 潺
「顔のないまま、知らぬまま。」
御祀 潺
「露となり、消えるのが……私の役目と。」
御祀 潺
「ですが、気が変わりました。」
煤木野灰吏
月明かりに照らされて、金色の瞳が煌めいている。
煤木野灰吏
先日会った際の藻と同じ金色。
御祀 潺
役目を、立場を。
御祀 潺
括りつけられた生であることに変わりはなかろうが。
御祀 潺
少なくとも、彼には
御祀 潺
「選んだのでしょう」
御祀 潺
「悩んだでしょう」
煤木野灰吏
「…………」
御祀 潺
「それを、許されることの重みを」
御祀 潺
「背負って立ちなさい」
煤木野灰吏
心の内まで見透かすようなその瞳に、見据えられている。
煤木野灰吏
「…………はい」
煤木野灰吏
言葉にされると改めて、重い。
御祀 潺
まだ、役目が残っている。
煤木野灰吏
自由であるということの重みを、感じる。
御祀 潺
「今日は、少しだけ。」
御祀 潺
「あなたの話を、聞かせてくださいますか?」
煤木野灰吏
「…………面白くないですよ」
御祀 潺
「ぶっちゃけ、というやつでもかまいませんよ」
煤木野灰吏
「……ずっと」
煤木野灰吏
「あなたのことが苦手だった話とか?」
御祀 潺
「おや」
御祀 潺
「それは興味深いですね」
御祀 潺
「ふふ……」
煤木野灰吏
「なるべく二人きりにならないように頑張ってきてたんですけどねえ」
煤木野灰吏
手酌で酒を注ぎ足して、煽る。
煤木野灰吏
「……いかんせん、見逃してもらえた試しがない」
御祀 潺
「さすがの千里眼、ですから」
煤木野灰吏
「参りましたよ、本当に……」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
また、盃を口に運ぶ。
煤木野灰吏
「……俺はねぇ」
煤木野灰吏
「何か一つくらい、あなたに勝ちたいと」
煤木野灰吏
「思ってたんですよ」
御祀 潺
手もとの盃、平らな水面に月が映る。
御祀 潺
耳を傾ける。
煤木野灰吏
こうなったら、吐くまで呑んでしまおう。
煤木野灰吏
そうしたら明日の朝には何を言ったかきれいさっぱり忘れているかもしれない。
御祀 潺
儀式の日は近く。
御祀 潺
その何倍も、何十倍も長い時を共に過ごしてきたというのに。
煤木野灰吏
今までこうして本音を語ったことはなかったし、そうするつもりだってなかった。
煤木野灰吏
「……大体さぁ」
御祀 潺
千夜に勝る夜のこと。
煤木野灰吏
「様とかつけるもんじゃないですよ……」
煤木野灰吏
ぽつぽつと溢していた言葉が、やがて愚痴や難癖の様相を呈していく。
御祀 潺
「ええ~、同じ分家の身ではありませんか」
煤木野灰吏
「同じなら尚更いらんでしょうよ……」
御祀 潺
「他家の者には敬意をはらいませんとねぇ」
御祀 潺
手を、縁側についたりなどして。
御祀 潺
足を組んだりして。
煤木野灰吏
「俺はそんな様とかつけられるようなアレじゃね……」
煤木野灰吏
「なくてですねぇ……」
御祀 潺
「灰吏様」
御祀 潺
くすくすと、笑ったりして。
煤木野灰吏
「やめてくださいって~」
御祀 潺
「うふふふ」
煤木野灰吏
「昔からさあ」
煤木野灰吏
「いっつも助けてくれるのに、それで恩に着せるようなことも言わないし……」
煤木野灰吏
「なんなら気づかせないようにしてくるし……」
煤木野灰吏
「俺がどれだけ気まずいか分かってるんですか~?」
御祀 潺
「あとで、いつもちょっと悔しそうな……可愛い顔をしていましたよね」
煤木野灰吏
いつもよりも明らかに早いペースで、酒を入れていく。
御祀 潺
「私はその顔が好きでしたよ」
煤木野灰吏
「…………趣味わりい」
御祀 潺
「がんばりやさんのお坊ちゃん」
煤木野灰吏
「もうそれでいいです~~」
煤木野灰吏
「御祀さんには俺がそう見えたんですね~~~」
御祀 潺
「うふふ」
煤木野灰吏
ぐで、と柱に背中を預ける。
御祀 潺
「でも……」
御祀 潺
「焔郎の事を真剣に考える……あなたは。」
御祀 潺
「立派な、一人前のシノビの顔をしていますよ」
御祀 潺
わしわしと頭を撫でる
煤木野灰吏
「うえ~~~」
煤木野灰吏
ぐらぐらと頭が揺れる。
煤木野灰吏
「やめ」
煤木野灰吏
「マジでやめて…………」
御祀 潺
「あははは」
煤木野灰吏
吐いてしまう……
御祀 潺
愛しているよ。
他の2人と同じように。
御祀 潺
あなたも私の大切な人なんですよ。
煤木野灰吏
知ってたよ。
煤木野灰吏
そういうところが苦手だったんですよ。
御祀 潺
テレなくていいのに。
煤木野灰吏
照れてねえ~……
御祀 潺
「おやおや……」
御祀 潺
「飲み比べなら、私の勝ちですね」
煤木野灰吏
すっかり柱に体重を預けている。
煤木野灰吏
話も聞いているやらいないやら。
御祀 潺
「お腹を出して寝ていませんか?」
御祀 潺
「お部屋まで運んで差し上げましょうか」
御祀 潺
変わらぬ量を、口にしながら。
御祀 潺
素面のように口にして。
煤木野灰吏
「…………一人で……」
御祀 潺
たちあがりかけて、足を滑らせる。
煤木野灰吏
「あるける…………」
御祀 潺
「おっと」
煤木野灰吏
柱に手をついて立ち上がり、
煤木野灰吏
珍しいその光景をぼんやりと見つめ、
御祀 潺
「あはは……」
煤木野灰吏
へら、と笑った。
御祀 潺
「引き分けかもしれませんねぇ」
煤木野灰吏
「引き分けじゃあ、ダメだ」
御祀 潺
その場に座り込み、見上げて。
御祀 潺
「……では、次の機会に。」
煤木野灰吏
「……ええ」
煤木野灰吏
笑って、頷いて
煤木野灰吏
「…………あ~~~」
煤木野灰吏
歩き出そうとして、項垂れる。
煤木野灰吏
「ダメだ……うごけん……」
煤木野灰吏
ずるずる……
御祀 潺
「おやすみなさい」
煤木野灰吏
「う~……」
御祀 潺
額に布を。
御祀 潺
縁側にへたりと座り込んだまま。
御祀 潺
霧が立ち込め、灰吏と潺を包み。
煤木野灰吏
もはや完全に目を閉じて、それにも気づかずにいる。
煤木野灰吏
……なんかさ。
煤木野灰吏
焔郎にとって、俺ってまだにいちゃんらしいんだよ。
煤木野灰吏
だったら、やっぱり
煤木野灰吏
一度くらい、勝つとこ見せてやりたいよな。

獺ちゃんと仲良くなっちゃったので一緒に鮎とって遊ぼ~っと。

ぱしゃりと音を立てて渓流を2つのいきものが駆ける。

鮎って。
街じゃ貴重なたべものなんだって。

こっちじゃフラペチーノのほうが貴重で。

不思議だねえ。

あのね、なんか。
あまくって。
冷たくて。

……ヘンな味するって。
言ってたなあ。

どんな味だろうね。

あとね、食べてみたいのは……。

レモン。

はちみつレモン……?

甘くて酸っぱいの。
きゅん、ってするんだって。

(ほむろは食べたことあるかな)

(いっぱい運動したあとにいいんだって)

(思い出の味、だって)

(どんな味を)

(どんな風景を)

(どんな言葉を)

(ほむろは思い出にしてくれるかな)

いちばん深いところまで潜って。

そうして並んで水の中から月明りを見上げた。

マスターシーン:2

シーンプレイヤー:煤木野灰吏

GM
渓流。
GM
水しぶき。
GM
清ら静謐、藻の神域。
GM
そこに立ち入る者のある。
GM
空には今宵も、月が明るい。
煤木野灰吏
草を踏みしめる微かな音。

気配を察した獺は一足先にどこかへ行ってしまっていた。
煤木野灰吏
夜闇と同じ色の服が、月明かりに照らされる。

そちらを見やる。
煤木野灰吏
「…………藻様」
煤木野灰吏
片方だけ、赤く戻った瞳を見る。

「はいり」

清流から上がらず見上げる。
煤木野灰吏
「…………改めて、藻様に」
煤木野灰吏
「お願いを、申し上げたく」

「わたしの気持ちは変わらないよ」
煤木野灰吏
川べりに膝をつき、そのまま折り目正しく正座する。

世界を救うこと。
神様になること。
負けないこと。
煤木野灰吏
「……焔郎様が、あなたを生かそうとしても」
煤木野灰吏
「それでも?」

「うん」
煤木野灰吏
月の光に照らされる神の子を見つめる。
煤木野灰吏
左右で違う色の瞳。

違う色のまま見つめる。
煤木野灰吏
「……その、目は?」

神の子はいま、あわいのなかにいる。

「角とおんなじ」

折れた方の角を指さして。
煤木野灰吏
片方だけになった角。
煤木野灰吏
片方だけの眼。

あの夜。
潺から奪い取った眼。

その代わりに失った角。

まだ残っている角。

潺にはんぶんこした眼。

今。

「はいり」

「わたしは負けないよ」
煤木野灰吏
「…………はい」

「ほむろが止めても」

「勝っちゃうもんね」
煤木野灰吏
地面に手をついて、
煤木野灰吏
頭を下げる。
煤木野灰吏
「……どうか」

「せせらぎにだって」
煤木野灰吏
「勝って、ください」

「はいりにだって」
煤木野灰吏
「勝利して」

「わたし負けないよ」
煤木野灰吏
「正しく、儀式を執り行い」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
「焔郎様を」
煤木野灰吏
「焔郎様の命を、お救いください」

心配そうな顔で覗き込む。

「はいり」
煤木野灰吏
幼馴染の兄貴分から、よく知る小さなお嬢さんへではなく。

「どこか痛いの?」
煤木野灰吏
人の子として、神の子へ。
煤木野灰吏
「…………いいえ」

「よかった」

「風邪ひかないようにしてね」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
おもてを上げる。
煤木野灰吏
「…………ええ」
煤木野灰吏
「成人の儀では、微力ながら藻様の勝利のためにお力添えいたします」
煤木野灰吏
「それに支障をきたすようなことはありません」

「成人の儀もそうだけど」

「はいりが心配」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
おもてを上げて、それでも
煤木野灰吏
少女の顔を見ることができない。

年齢よりもずっと幼く見える少女。
煤木野灰吏
「……ありがとう、ございます」

そう見える。

人の子として見れば人に。
神の子として見れば神に。

「藻のおうちのあたり、寒いから」

「ほむろも心配しちゃうよ」

「風邪ひいたら」
煤木野灰吏
自分が相対しているのは神の子だ。
煤木野灰吏
世界を救う運命を背負い、
煤木野灰吏
そうなるべく、人が磨き上げた。
煤木野灰吏
「……はい」
煤木野灰吏
焔郎と共に過ごす姿を見守ってきた。
煤木野灰吏
焔郎に向ける、焔郎だけに向ける笑顔を知っている。
煤木野灰吏
焔郎が語って聞かせる話に驚き、喜び。
煤木野灰吏
もらったもの全てを大事に、大切に扱って。

今は、濡れてしまっただろう灰吏の洋服のことを心配している。

「おうちで乾かしてく?」
煤木野灰吏
川辺の湿った土が、スーツを汚している。
煤木野灰吏
「……いえ」
煤木野灰吏
「お心遣いだけ、いただきます」
煤木野灰吏
立ち上がる。

「そう……」
煤木野灰吏
「……突然訪ねた非礼を、お詫びいたします」

「ほんとはいつでも会いに来ていいのに」

「お家ってたいへんだよ」
煤木野灰吏
「…………」

そして神様にも。

いつだって会いに来ていいのだ。

人のためのものなのだから。

「帰ろっか」
煤木野灰吏
深夜にレディの元を訪ねるのは無礼でしょう。
煤木野灰吏
その言葉を飲み込んだ。
煤木野灰吏
「……はい」

もうお家に帰ろうと。
3人のうち誰かが言って。

まだ帰らないと。
3人のうち誰かが言って。

今はもう2人とも、帰るタイミングを知っちゃったね。

帰ろう。はいり。

待ってるよ、ふたりとも。
煤木野灰吏
一足早く、灰吏が大人になった。
煤木野灰吏
たくさん、祝いの言葉をかけてもらった。
煤木野灰吏
この少女が大人になれないなんて、あのときは知る由もなかったんだ。