メインフェイズ第三サイクル第四シーン

シーンプレイヤー:葛火焔郎

GM
どういったシーンで始めましょうか。
葛火焔郎
先に灰吏さんと話して、そのあと藻と話そうかと思いますが
GM
どんな感じで灰吏さんと話すのがいいでしょうね……
GM
訪問を……?
葛火焔郎
煤木野に行くと家の人に気使わせるからな~
GM
呼び出しますか。
GM
鍛錬に付き合ってもらうとか?
煤木野灰吏
呼ばれたら行きます
GM
よっ 呼ばれたら来る男!
煤木野灰吏
ワンちゃんです
葛火焔郎
呼び出しましょうね なんか 山のいい感じのところで
GM
いつも鍛錬してきた山に。
葛火焔郎
鍛錬にというよりは「話があります」って連絡します
GM
OK
煤木野灰吏
はい・・・・・・・
GM
吹き抜ける春の風に木の葉がささやき、
GM
鳥の声鳴くいつもの山の中。
GM
葛火焔郎は煤木野灰吏を呼び出し、
GM
呼ばれるままに煤木野灰吏はその場所に赴く。
煤木野灰吏
呼び出しにはいつもどおり二つ返事で了承し、告げられた時間に約束の場所へと出向く。
葛火焔郎
風に吹かれながら空を仰ぎ、気配に気付けば振り返る。
葛火焔郎
「灰吏さん」
煤木野灰吏
家のよほど大事な用でもない限り、焔郎に呼び出されればいつもそうしてきた。
煤木野灰吏
「お待たせしちゃいましたか~?」
煤木野灰吏
笑顔を浮かべて、焔郎の元へ。
葛火焔郎
中学を卒業するころを境に、呼びつけることはさほど多くはなくなった。
葛火焔郎
「丁度です」
煤木野灰吏
「それは良かった」
葛火焔郎
いつものように笑みのない仏頂面。
煤木野灰吏
「……で、お話ってのはなんですか~?」
葛火焔郎
「単刀直入に言います」
煤木野灰吏
対してこちらは軽薄な笑いを浮かべているのもいつもどおり。
葛火焔郎
「俺は藻に勝つ」
葛火焔郎
真っ直ぐ。
葛火焔郎
真っ直ぐに。
煤木野灰吏
「…………」
葛火焔郎
「…………」
葛火焔郎
「絶対に」
煤木野灰吏
真っ直ぐな視線に、射抜かれている。
煤木野灰吏
「…………絶対、ですか」
葛火焔郎
「はい」
葛火焔郎
すう、と息を吸う。
葛火焔郎
いくらかの緊張。
葛火焔郎
「立ち会ってくれますか」
煤木野灰吏
「…………それを」
煤木野灰吏
「断ったことが、ありましたか」
葛火焔郎
「今回ばかりは」
葛火焔郎
「そうしてもらえないかもと、思って」
葛火焔郎
襟巻の下にいつも隠れ気味の唇から、それでもはっきりとした声が。
葛火焔郎
風にさらわれることなく、届く。
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
「……立ち会いは、しますよ」
煤木野灰吏
「……いや」
煤木野灰吏
「俺も、単刀直入に言いましょう」
煤木野灰吏
どうせ、遅かれ早かれ分かること。
煤木野灰吏
「焔郎」
煤木野灰吏
「お前を勝たせるわけにはいかない」
葛火焔郎
「…………」
煤木野灰吏
「恨んでくれたって構わない」
葛火焔郎
「恨んだりしませんよ」
葛火焔郎
「でも俺は」
葛火焔郎
「勝つ、」
葛火焔郎
「勝ちたいんです」
煤木野灰吏
「…………そうか」
煤木野灰吏
「そうだな」
葛火焔郎
「手出し無用は、もう守ってはもらえませんか」
煤木野灰吏
「悪いけど、手段を選ぶ余裕がなくてね」
葛火焔郎
子供の頃。叩き伏せられて間に入られれば火のついたように泣いた。
葛火焔郎
藻に加減を許さなかった。灰吏が割って入ることも。
煤木野灰吏
だから、段々とただ立ち会いだけを役割とするようになった。
煤木野灰吏
手出しも手助けもせず、
煤木野灰吏
ただ、勝負の行方を見守って。
煤木野灰吏
「……強くなったよ、お前」
煤木野灰吏
「強くなった……」
煤木野灰吏
息をつく。
葛火焔郎
「まだです」
葛火焔郎
「まだ、強くなります」
煤木野灰吏
「…………ああ」
煤木野灰吏
「そうだな」
葛火焔郎
見守られてきた。護られてきた。
煤木野灰吏
もっと強くなる。
煤木野灰吏
生きていれば、の話だ。
葛火焔郎
それをいま。
葛火焔郎
あるいは、投げ捨てようとしている。
煤木野灰吏
「……諦めろっつって」
煤木野灰吏
「聞いたことねえもんなあ……」
煤木野灰吏
頭を掻く。
葛火焔郎
「諦められない」
煤木野灰吏
「ああ」
煤木野灰吏
「知ってる」
葛火焔郎
「藻を超えることが俺の生涯の目標だから」
葛火焔郎
「……灰吏さんが、それを喜んでくれないことくらいはわかります」
煤木野灰吏
「…………」
葛火焔郎
「親父もお袋も、里のみんなも」
葛火焔郎
「でも、俺は」
葛火焔郎
「藻を一人で行かせたくない」
煤木野灰吏
そうだな。
葛火焔郎
この身が錨だというのなら。
葛火焔郎
途切れてはいけない。
煤木野灰吏
俺も、そうできればよかったと思うよ。
葛火焔郎
「灰吏さん、俺は」
煤木野灰吏
「…………ああ」
葛火焔郎
「藻と一緒にいきたいんです」
葛火焔郎
「許しては、もらえませんか」
煤木野灰吏
「…………」
煤木野灰吏
「……悪いな」
煤木野灰吏
息をつく。
葛火焔郎
「灰吏さんが俺の頼み断るの、初めてですね」
煤木野灰吏
「……そうかもな」
煤木野灰吏
「ていうかお前、許さないって言ったら諦めるのかよ」
葛火焔郎
どんな小さな子供のワガママでも、最終的には折れてくれたのに。
葛火焔郎
「諦めませんね」
煤木野灰吏
「だろ」
葛火焔郎
「でも、あんたの気持ちくらいは確認しとかなきゃ」
葛火焔郎
「訊かないままでは嫌だった」
葛火焔郎
それがどういう気持ちを由来としていたとしても。
煤木野灰吏
「……そんなん、前に言っただろ」
煤木野灰吏
「俺はお前を守りたい」
煤木野灰吏
「そう思ってるよ」
葛火焔郎
「俺の、命を?」
煤木野灰吏
「そうだ」
煤木野灰吏
「お前の人生をかけてきた目標を」
煤木野灰吏
「俺は、踏みにじるよ」
煤木野灰吏
「それでお前の命を守れるなら」
葛火焔郎
わかりきっていたこたえ。
煤木野灰吏
煤色の瞳が、焔の色を映している。
煤木野灰吏
「……だから」
煤木野灰吏
「やっぱ、恨んでいいよ」
葛火焔郎
「俺は、俺の命より、藻との思い出が大事です」
煤木野灰吏
「……ああ」
葛火焔郎
「あんたが俺の命を大事にしてくれるのと同じくらい」
葛火焔郎
「だから、恨めませんよ」
葛火焔郎
「俺もあんたに似ちゃったから」
煤木野灰吏
「よりにもよって……」
葛火焔郎
「困ったもんです」
煤木野灰吏
「ほんとにな」
煤木野灰吏
「……お前は、お前のやりたいようにやりゃあいい」
葛火焔郎
「邪魔すんなって言っても、邪魔しますか」
煤木野灰吏
「ああ」
煤木野灰吏
「する」
葛火焔郎
がし、と頭を掻く。
煤木野灰吏
「言ったろ」
煤木野灰吏
「お前を勝たせるわけにはいかねえ」
葛火焔郎
「……やっぱ俺、説得とか交渉とか向いてないですね」
葛火焔郎
「口先ももうちょっとあんたに似ればよかったんですが」
煤木野灰吏
「はは」
煤木野灰吏
「お前も全然説得されてくれないくせに」
煤木野灰吏
「にいちゃんの頼みだぞ?」
葛火焔郎
「……それもそうですね」
煤木野灰吏
「素直に聞き分けてみないか?」
葛火焔郎
「出来ません」
煤木野灰吏
「そうだな」
葛火焔郎
すいません、とは。言わなかった。
煤木野灰吏
「だからまあ、お互い様だ」
葛火焔郎
「あんたも、超えなきゃかあ」
煤木野灰吏
「ハードル高い方がお好みだろ?」
葛火焔郎
「今回ばかりは、どでかいのが待ってるからなあ」
葛火焔郎
「……まあ、やってやりますよ、ご期待にお応えして」
煤木野灰吏
「…………」
葛火焔郎
「いつまでも子供じゃありませんから」
煤木野灰吏
「どちらにせよ、俺に邪魔されてるようじゃ藻様にも勝てないさ」
葛火焔郎
「言われると思った」
煤木野灰吏
「言いますとも!」
葛火焔郎
「言っておきますけど、潺さんは俺の味方ですからね」
煤木野灰吏
「ああ、あの人にはもう宣戦布告済んでるから」
葛火焔郎
「へえ、やるじゃん」
煤木野灰吏
「いや~、心強いお味方がついてようございましたねえ」
葛火焔郎
「あのひとは」
葛火焔郎
「俺に、託してくれたから」
煤木野灰吏
「……ああ」
煤木野灰吏
「…………焔郎」
煤木野灰吏
「悔いの残らないようにな」
煤木野灰吏
なんて、自分が言えた立場ではないけれど。
葛火焔郎
「うん」
葛火焔郎
*感情判定をします。使用特技は【意気】
GM
了解です。判定をどうぞ
煤木野灰吏
修正を
煤木野灰吏
入れましょうか
GM
+1ですね。いいでしょう
葛火焔郎
もらいます……
葛火焔郎
2D6+1>=5 (判定:意気) (2D6+1>=5) > 6[2,4]+1 > 7 > 成功
GM
ETを。
煤木野灰吏
ET 感情表(3) > 愛情(プラス)/妬み(マイナス)
葛火焔郎
ET 感情表(2) > 友情(プラス)/怒り(マイナス)
GM
いかがいたしますか?
葛火焔郎
友情で。
煤木野灰吏
待ってね~~~
煤木野灰吏
……憧憬のままで5以外出したんだが。
感情判定においては、もともと抱いている感情をキープすることもできる。
GM
了解しました。
GM
焔郎からは友情、灰吏からは憧憬。
葛火焔郎
「ところで、灰吏さん」
煤木野灰吏
「ん?」
葛火焔郎
「藻になんか……買って行きたいんですけど」
葛火焔郎
「俺やっぱ甘いもんわかんないから、ちょっと付き合ってもらっていいですか」
煤木野灰吏
「…………」
葛火焔郎
街まで。普通に歩くとけっこうかかる。
煤木野灰吏
「……しょうがないですねえ」
煤木野灰吏
「お供しましょう」
葛火焔郎
「ありがとうございます」
GM
 
GM
春の風はまだ優しく。
GM
川のせせらぎが耳を和ます。
GM
降り注ぐ陽光がきらきらと水流に光って、
GM
ぱしゃん、と、なにかが弾けた。

日向ぼっこをしている。
葛火焔郎
「……藻」

のび、のび、と柔らかい草の上で背伸びをする。

「!」

「ほむろ」
葛火焔郎
「おう」
葛火焔郎
片手を揚げる。
葛火焔郎
片手には街のカフェで買ってきた茶チョコフラぺチ―ノ。
葛火焔郎
ちょっと溶けているが、まあ。許容範囲ということにしてもらいたい。

起き上がって駆け寄る。
葛火焔郎
歩み寄って。
葛火焔郎
「……藻」
葛火焔郎
「おまえ、目」
葛火焔郎
「また」

瞬く。

いつものお転婆な服装。
スケスケのシフォンのワンピース。

肌にはりついて、いない。
下着を着ている。

そうして、眼の色がふたつ。

もう一度瞬く。
葛火焔郎
「……どうした」

「フラペチーノ!?」
葛火焔郎
「ん」

眼を輝かせた。
葛火焔郎
追及は、それ以上しない。
葛火焔郎
差し出す。
葛火焔郎
「ちょっと溶けてるかも」

「ありがとう……」

受け取る。

おそるおそる、ひとくち。
葛火焔郎
正確には―― チャイチョコフラぺチーノだ。

「あっ」

「胃薬、の味!」
葛火焔郎
「だよなあ」

「でも、でも」

「おいしい」
葛火焔郎
「そうか」
葛火焔郎
草むらに腰を下ろす。

隣に座る。
葛火焔郎
「ゆっくり飲まないと頭痛くなるから」
葛火焔郎
「ゆっくりな」

頷く。
葛火焔郎
「次のやつはさくらだってさ」

「桜?」

さくらもちの味を想像している……。
葛火焔郎
「桜味。ホワイトチョコと……なんか、そんなの」

「きっとかわいいね」
葛火焔郎
「ピンクだった」

ピンク色で。

「ピンク!」
葛火焔郎
街に出れば、なんでもないチェーン店の。
葛火焔郎
あたりまえの、ありふれた。
葛火焔郎
けれどこの里にはないもの。
葛火焔郎
「エクレアとか、マカロンとかも買ってきたから」

「!」
葛火焔郎
「潺さんに預けてある」

「うれしい!」
葛火焔郎
「あとで食おう」

「うん」

「たのしみ」
葛火焔郎
「……藻」

「?」
葛火焔郎
「成人の儀」
葛火焔郎
「……勝つからな」

「うん……」

「負けないよ」
葛火焔郎
「…………」
葛火焔郎
その顔を見る。
葛火焔郎
今日は、視線は泳がない。

瞬く。

そうして、今度は少しだけ。
こちらが視線を泳がせた。

ちらりと、フラペチーノに視線を落として。
葛火焔郎
一度は金色に輝いていた筈の右目が、元の赤へ戻っているのを見る。
葛火焔郎
その視線が泳ぐのを、また。見る。

じるるー。
葛火焔郎
「潺さんに、勝ちますって約束した」
葛火焔郎
「灰吏さんにも」

「せせらぎと?はいりに?」
葛火焔郎
「灰吏さんには、やだって言われたけどな」
葛火焔郎
両手を後ろについて空を仰ぐ。
GM
あたたかな陽光。
葛火焔郎
風。山のにおい。街にはない、静けさ。
GM
ふたりを照らすもの。
GM
その存在を確かなものと、
GM
ひとのかたちの影が落ちている。
GM
ふたりぶんの、影。

不思議な味のチョコレートと、生クリームと、バニラと。

だいじなおともだち。
葛火焔郎
「……滅びそうなんて、嘘みたいだ」

「うん」
葛火焔郎
「嘘じゃないんだな」

「……うん」

今はもう。
眼をつむればいろんなものがみえる。
葛火焔郎
「……こえーなあ……」
葛火焔郎
焔郎の目にはただ、青空と、……目を遣れば、隣の幼馴染が映るだけ。

「……こわいの?」
葛火焔郎
「怖いよ」

「大丈夫」
葛火焔郎
「大丈夫じゃない」
葛火焔郎
「お前がどっか行くのはやだ」

「……」

「……そ」

「……そう……」

うつむいて。
黙りこくる。
葛火焔郎
草葉の揺れる音。日差しにすら音が聞こえる。

手の中のフラペチーノが。
とけていっちゃう。
葛火焔郎
忍の耳ならばその心音さえも聞こうと思えば、容易に。
葛火焔郎
けれども耳は澄ませない。
葛火焔郎
「……俺は」
葛火焔郎
「お前との思い出が大事だよ」

うつむいたまま、頷いて。

ひとくち。
甘いもので喉をうるおした。
葛火焔郎
「お前に、……俺と、いてほしいよ」
葛火焔郎
あと、もう少しだけでも。

「……ほむろ」
葛火焔郎
「うん」

「あのね」
葛火焔郎
「ん?」

「ひざ、貸してくれる?」
葛火焔郎
「ひざ」
葛火焔郎
胡坐を掻いていた足を見下ろす。
葛火焔郎
「返せよ」

「うん!」

いそいそと、おそるおそる。
膝の上に身を乗り出して、
幼馴染の膝に角が折れた方の頭を乗せる。

「えへへ……」
葛火焔郎
厚い袴越しに、やわらかい髪が膝の上に流れる感触がある。

「あのね。せせらぎのおともだちとお話して」
葛火焔郎
水の匂い。

「おともだち、ってこうすると素敵だねって」
葛火焔郎
ばら香料の匂い。
葛火焔郎
少し考えるふう。
葛火焔郎
「……獺の子?」

「うん!」
葛火焔郎
「藻があれくらいのサイズだったら何処でも抱いて行くけどな」
葛火焔郎
見下ろす。かじかむ指を後ろにやったまま。

「わたし大きくなっちゃったもんね」

昔はまだもう少し、小さかったから。
葛火焔郎
「藻の方が大きいときもあったろ」

「ゆーえつかんあった」

ふふん。
葛火焔郎
「角分、いつもでかいしな」
葛火焔郎
下駄分を含めるとどっこいかもしれない。
葛火焔郎
「……」
葛火焔郎
長くのびる角。片方を失った角。
葛火焔郎
あかし。
葛火焔郎
境目の。
葛火焔郎
どちらもなくなったさまを想像する。
葛火焔郎
それはうまくいかなかった。
葛火焔郎
彼女が神の血を引く子であることは、焔郎の中でもまた、あまりにも深く結びついたまま。
葛火焔郎
それでも。
葛火焔郎
膝の上にある、華奢で儚いけれど、確かな重さ。
葛火焔郎
霞や霧ではない。肉持つ人間の。
葛火焔郎
それを否定することは、捨てさせることは、焔郎にはできない。
葛火焔郎
誰よりも近くで触れ合い、藻が当たり前に笑う姿を見てきた。

今もこうして当たり前のように笑っている。
葛火焔郎
藻が神などではなく、自分たちと同じ人間であることを信じている。
葛火焔郎
それを証明するためには――
葛火焔郎
「藻」
葛火焔郎
「よろしくな」

「うん」

「……うん」
葛火焔郎
「……ところでそろそろ痺れてきた」

「え~」

もう少しだけ。

このまま。
葛火焔郎
「え~じゃない……」
葛火焔郎
このまま。
葛火焔郎
もう少しだけ。
葛火焔郎
このまどろみのなかに。
煤木野灰吏
溶けない内に、と駆け出していった焔郎を見送って、一人。
煤木野灰吏
焔郎と藻と、灰吏。
煤木野灰吏
3人で過ごすということは、子供の時分と比べればそれなりに減った。
煤木野灰吏
常に目をつけていなければ、という年ではとっくにない。
煤木野灰吏
一番の理由は、二人の時間を邪魔しないように、だったが。
煤木野灰吏
きっと二人きりの方が喜ぶだろう。
煤木野灰吏
そう思って、さりげなく誘導してみたり。
煤木野灰吏
……今は、また少し違う。
煤木野灰吏
見ていられない。
煤木野灰吏
少女の姿を、少女の表情を、立ち振舞いを、
煤木野灰吏
まともに見ることができない。
煤木野灰吏
それを、二人の時間をつくるためという綺麗事に包んで。
煤木野灰吏
焔郎を送り出して、目を逸らす。
煤木野灰吏
見なければいけない。
煤木野灰吏
そうも思うのに。
煤木野灰吏
忘れてしまうとしても。
煤木野灰吏
忘れてしまうからこそ。
煤木野灰吏
今が、今である内に。
煤木野灰吏
焔郎はいつでも真っ直ぐに前を見据え、向かっていく。
煤木野灰吏
藻に対しても、灰吏に対しても。
煤木野灰吏
潺にも、きっとそうしたのだろう。
煤木野灰吏
真面目、勤勉、実直。
煤木野灰吏
焔郎は、灰吏に似たのだと言うけど
煤木野灰吏
やっぱり、似ていないと思う。
煤木野灰吏
焔郎は灰吏にないものを持っていて、
煤木野灰吏
そんな焔郎を、灰吏は生かしたい。
煤木野灰吏
まっすぐ向かっていく、その正面に立ちふさがり、
煤木野灰吏
戦いに割って入り、
煤木野灰吏
あの情熱の炎を踏みにじってでも。
煤木野灰吏
そう決めた。
煤木野灰吏
それだけは、もう揺らがない。
煤木野灰吏
だけど。
煤木野灰吏
「…………見たかったな」
煤木野灰吏
それもまた、どうしようもなく
煤木野灰吏
心からの思いだった。
御祀 潺
滝壺の、飛沫の中。
御祀 潺
ずっと昔。
御祀 潺
物心ついた時から。
御祀 潺
この滝壺の水に浸かり、身を清めるのが日常だった。
御祀 潺
決められた時間。ただ、そこにあり。
御祀 潺
清浄なものになる為に。
御祀 潺
今、その滝壺で
御祀 潺
飛沫をたてて泳いでいる。
御祀 潺
当時の世話係達が見たら発狂していたかもしれない。
御祀 潺
水の中で友と手を繋ぎ、微笑む。
御祀 潺
彼女の両親も、その両親も知っている。
御祀 潺
今この川に、他の仲間はいない。
御祀 潺
北に。
御祀 潺
獺のあるという。
御祀 潺
川への移住を勧めたこともある。
御祀 潺
しかし、彼女はここを離れたくはないという。
御祀 潺
もうすぐ、大事な儀式があるんです。
御祀 潺
それが終われば、もう。
御祀 潺
何も、怖いものはなくなるんです。
御祀 潺
先祖返りなのだという。
御祀 潺
ふた目と見れぬ醜い顔を、しているのだという。
御祀 潺
目元を覆う布に触れる。
御祀 潺
サチ。
御祀 潺
幸運ぶ子。
御祀 潺
どうか、祈っておくれ。
御祀 潺
皆の幸せを、私に。
御祀 潺
君の幸せを、私に。