2020/11/1 昼過ぎ

 
ハロウィンの満月の狩りを終えた、その翌日。
真城朔
同じベッドに寄り添うように、真城はぼんやりとミツルを見つめている。
真城朔
頬を涙で濡らしながら、眠る顔を見ている。
夜高ミツル
明け方まで狩りをした疲れで、こんこんと眠っている。
真城朔
涙は頬を濡らし、シーツの色を変えていく。
夜高ミツル
時折寝返りを打とうとしては、裂かれた左腕の痛みに眉を顰めていた。
真城朔
そのたび真城も眉を寄せて。
真城朔
手を伸ばせず、代わりに指先はシーツを握りしめて皺を作る。
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツ……」
真城朔
呼ぶでもなく、名をなぞった。
夜高ミツル
「ん……」
夜高ミツル
小さく息が漏れ、瞼がぴくりと動く。
夜高ミツル
やがてゆっくりと瞼が持ち上がり、視線が真城を捉えた。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……はよー」
真城朔
ぎゅっと眉が寄る。
真城朔
「……お」
夜高ミツル
寝起きの気配を纏ったまま、ぼんやりと真城に声をかける。
真城朔
「は、よう」
真城朔
ぽつぽつとためらいがちにそう返す。
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「怪我……」
夜高ミツル
「んん……?」
夜高ミツル
「あー……」
夜高ミツル
自身の左腕に目をやる。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「大丈夫大丈夫」
夜高ミツル
「これくらい」
真城朔
「……やっぱ」
真城朔
「俺」
真城朔
「一人でも……」
真城朔
ぼそぼそと言い募る。
真城朔
「ミツは」
真城朔
「来なくて、いいから」
夜高ミツル
「行かせるわけあるか」
夜高ミツル
「一人でなんか……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
昨晩のことを思い出して、眉を寄せる。
夜高ミツル
「……一人では、行かせない」
夜高ミツル
「真城が行くなら俺も行く」
真城朔
「……昨日は」
真城朔
「人」
真城朔
「多かったから」
真城朔
「普段は、もっと……」
真城朔
「気をつければ……」
夜高ミツル
「ダメだ」
真城朔
唇を引き結ぶ。
夜高ミツル
「……真城が俺を危ない目にあわせたくないって」
夜高ミツル
「思ってくれてるのは、分かるんだけど……」
真城朔
こくこく頷く。
夜高ミツル
「……俺だって、」
夜高ミツル
「真城があんなことされるのは」
夜高ミツル
「……嫌だ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……だから、悪いけど」
夜高ミツル
「これは、譲れない」
真城朔
「……だ」
夜高ミツル
「狩りに行くなら、俺も一緒だ」
真城朔
「いじょうぶ、だった」
真城朔
「し」
真城朔
往生際悪く食い下がろうとしている。
夜高ミツル
「一人で行かせて、それでもし大丈夫じゃない時が来たら」
夜高ミツル
「俺は、耐えられない」
真城朔
「大丈夫」
真城朔
「俺、だって」
真城朔
「ほら」
夜高ミツル
「大丈夫じゃない」
真城朔
「そんな、死なないし」
夜高ミツル
真城に食い下がられても、ミツルも退く姿勢を見せない。
真城朔
「怪我だって、治るし……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……治っても、やだよ」
夜高ミツル
「真城が怪我させられるのとか、誰かに……」
夜高ミツル
「無理やり、されたりとか」
夜高ミツル
「嫌だ」
真城朔
「…………」
真城朔
「い」
真城朔
「まさら、だから」
真城朔
「だか、ら」
夜高ミツル
「今更じゃない」
真城朔
「気にならない、から」
夜高ミツル
「これからは、もうそういう目に遭わせたくない」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺は、」
夜高ミツル
「俺が、真城が好きだから」
夜高ミツル
「だから、守りたいんだ」
真城朔
「……でも」
真城朔
「ミツが、怪我する……」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「……怪我も、まあ、するけど……」
夜高ミツル
「……しないように気をつけるから」
真城朔
ぼそぼそ言い募りながらシーツに顔を埋めた。
真城朔
「それでも」
真城朔
「だめなとき、ある」
真城朔
「から」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「俺も」
真城朔
「ミツが怪我するの」
真城朔
「痛いのも、やで」
真城朔
「だから」
夜高ミツル
無事な右手を伸ばす。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
シーツに顔を埋める真城の頭に手を乗せて、柔らかく撫でる。
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
細い背中が震える。
真城朔
「……もっと」
真城朔
「強かったら、よかったのに……」
夜高ミツル
「……俺も」
夜高ミツル
「真城に心配させないでいいくらい強ければって」
夜高ミツル
「そう思うよ……」
真城朔
「…………」
真城朔
「狩り」
真城朔
「行くの」
真城朔
「俺の勝手、だから」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「行きたくなんて、ない」
真城朔
「だろうに」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「それについていくのだって俺の勝手だよ」
真城朔
ぐず、と鼻を鳴らす音。
真城朔
「つきあわせたくない……」
真城朔
シーツにくぐもった声。
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「でも、俺は真城を守りたいんだ……」
夜高ミツル
「俺がいないとこで、真城が傷つけられるのは」
夜高ミツル
「無理だ」
夜高ミツル
「我慢できない」
真城朔
「…………」
真城朔
「傷ついたり、もう」
夜高ミツル
「一緒にいれば、少なくとも昨日みたいのからは守れるだろ」
真城朔
「しないから」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ついていくったら行く」
真城朔
「……うう」
真城朔
「ぅ」
夜高ミツル
「……心配させて、悪いとは」
真城朔
シーツに顔を埋めたまま身を縮こませている。
夜高ミツル
「思ってる」
真城朔
「俺が……」
真城朔
「俺が、勝手なんだ」
真城朔
「俺が狩りなんて行かなければ」
真城朔
「いいのに」
夜高ミツル
「俺は色んなことを真城に我慢させたんだから」
夜高ミツル
「ていうか、今もさせようとしてるけど……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……だから、叶えられることはちゃんと叶えたい」
夜高ミツル
「真城が狩りに行きたいって思うなら」
夜高ミツル
「それを手伝いたい」
真城朔
「…………」
真城朔
「巻き込みたくない……」
夜高ミツル
「巻き込んでいいよ」
真城朔
「ミツがよくても」
真城朔
「やだ」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「また、特訓つけてくれよ」
夜高ミツル
「怪我しないで済むようにさ」
真城朔
「…………」
真城朔
「教えるの」
真城朔
「うまく、ない……」
夜高ミツル
「真城が心配しないでいいよう、強くなるから」
夜高ミツル
「いいよ」
夜高ミツル
「実際真城に特訓つけてもらって、死なずに済んでるんだから」
真城朔
「わかんない……」
夜高ミツル
「効果出てるし」
真城朔
「運が」
真城朔
「よかっただけ、で」
真城朔
「俺」
真城朔
「だって」
真城朔
「誰かに教える、とか」
真城朔
「そんなの」
真城朔
「全然」
真城朔
「全然、なかった、から」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「わかんない……」
真城朔
「何、すればいいのか」
真城朔
「どうすれば……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「前してたみたいな組み手とか」
夜高ミツル
「あれ大事だったなって思うよやっぱり」
真城朔
ぐしゃぐしゃになったシーツをたくし寄せている。
夜高ミツル
「昨日咄嗟に動けなかったからさ……」
真城朔
「……ミツが」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……?」
夜高ミツル
頭を撫でながら、様子を窺う。
夜高ミツル
シーツに埋められた真城の表情は見えない。
真城朔
撫でられてべったりとシーツに沈んでいる。
真城朔
「いたいの」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「でも、必要だろ」
真城朔
やだ、と不明瞭な発音で繰り返す。
真城朔
「必要じゃ」
真城朔
「ほんとうは」
真城朔
「狩り、なんて」
真城朔
「行かなければ」
夜高ミツル
「でも、俺は行くから」
真城朔
「…………」
真城朔
「俺のせい……」
夜高ミツル
「俺がそうしたいんだよ」
真城朔
ひくひくと泣き声を漏らし始める。
真城朔
背中が呼吸に合わせて揺れた。
真城朔
「俺のせいで……」
夜高ミツル
手を滑らせて、今度はとんとんと背中を叩く。
夜高ミツル
「……無茶なことはしない」
夜高ミツル
「怪我もしないよう気をつける」
真城朔
「か、りが」
真城朔
「むちゃだ……」
真城朔
「あんな、の」
真城朔
「にんげんに、やらせる、ことじゃ」
夜高ミツル
「……でも、やらない訳にはいかない」
夜高ミツル
「真城を守りたいってのが一番だけどさ」
真城朔
「俺が……」
真城朔
「俺がやるから……」
夜高ミツル
「モンスターを放置できないとは俺も思うし」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺は今までやってきて、それができるから」
夜高ミツル
「だから、一緒に」
真城朔
「……うぅ」
真城朔
また呻いた。
真城朔
「俺が……」
真城朔
「俺が、ふつうなら」
真城朔
「こんな」
真城朔
「俺、が」
夜高ミツル
掌はあやすように背中をさすっている。
真城朔
「ミツに」
真城朔
「心配も、かけないで」
真城朔
「わるい、っ」
真城朔
「わるいこ、とも」
夜高ミツル
「……どんなでも、好きなやつの心配するのなんて当たり前だろ」
真城朔
「してこないで」
真城朔
「…………」
真城朔
「……もっと」
真城朔
「ふつうの、ひと」
真城朔
「なら」
真城朔
「こんな、こと」
真城朔
「まきこまれない……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「でも、俺が好きなのは」
夜高ミツル
「今の、ここにいる真城だ」
真城朔
「な、んで」
真城朔
「なんで……」
真城朔
「なんで俺なんか……」
夜高ミツル
「なんかじゃなくて真城がいいんだよ」
真城朔
「なんで……」
夜高ミツル
「真城といるのが嬉しいから」
真城朔
「……なら」
真城朔
「ミツのとこ」
夜高ミツル
「学校とかもさ、真城が来ないと寂しいしつまんねーって感じだったし」
真城朔
「かえって、くるから」
真城朔
「それで……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……だから」
真城朔
「そうなったのだって……」
夜高ミツル
「離れてる間に、真城がなんかされるのとか」
真城朔
ぼそぼそぐすぐす抗弁している。
夜高ミツル
「そういうの嫌なんだって」
真城朔
「う」
真城朔
「ぅ」
夜高ミツル
「……帰ってきてくれるのは疑わないけど」
夜高ミツル
「でも、嫌だ」
夜高ミツル
「一人でいかせるのは」
真城朔
「俺といても」
真城朔
「楽しい、ことなんか」
真城朔
「……面倒ばっか」
夜高ミツル
「……守らせてくれよ」
真城朔
「だし」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城が、俺の一番大事な人なんだ」
夜高ミツル
「大事だから、守りたいんだよ」
真城朔
「っ」
真城朔
ぎゅ、とシーツを握って、
夜高ミツル
「真城のためなら俺はなんだってするし、できるし」
夜高ミツル
「怪我するのも……えーと」
真城朔
なにかに怯えるように全身を竦める。
夜高ミツル
「それは、真城が嫌がるから」
夜高ミツル
「ちゃんと、気をつける」
真城朔
「…………」
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「ん?」
真城朔
「ぜったい」
真城朔
「死んだら」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「死なないよ」
真城朔
「俺」
真城朔
「生きて、いけなく」
真城朔
「なる」
真城朔
「……から」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「真城を残して、死んだりしない」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「置いていかない」
夜高ミツル
「約束する」
真城朔
「うん」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「二人で行って」
真城朔
顔を伏せたままに頷いた。
夜高ミツル
「二人で帰ってこよう」
真城朔
「…………」
真城朔
それでもその言葉には答えを渋る気配を見せたが。
夜高ミツル
「二人で」
夜高ミツル
念を押すように、繰り返す。
真城朔
「……ふたり」
真城朔
「で」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「俺だって、もう真城がいないと駄目だから」
真城朔
「…………」
真城朔
「ふたり……」
夜高ミツル
「二人でだ」
真城朔
「ふたり」
真城朔
繰り返して、
真城朔
顔をシーツに埋めたままにミツルに身を擦り寄せた。
夜高ミツル
右腕で真城を抱き寄せる。
真城朔
小さく安堵の息をつく気配がある。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
「真城……」
夜高ミツル
掌で優しく真城の背を撫でる。
真城朔
恐る恐るに顔を上げて、視線が合う。
真城朔
涙に濡れた顔を今度はミツルの胸元に埋めて。
夜高ミツル
「……間に合って良かった」
夜高ミツル
「昨日」
真城朔
瞼を伏せて、小さく頷く。
夜高ミツル
ガラの悪い男達に絡まれて
夜高ミツル
どこかに連れ去られようとしていた真城を思い出すと
夜高ミツル
今でも背筋が凍るような恐ろしさを感じる。
夜高ミツル
「……良かった」
夜高ミツル
繰り返して、強く真城を抱きしめる。
真城朔
ミツルに抱き竦められてあの時真城が浮かべていたのも、紛れもない安堵の表情だった。
真城朔
それが今も、ミツルの腕の中にある。
真城朔
ぴったりと寄り添って静かに涙を流して、
夜高ミツル
大丈夫な筈がない。
真城朔
ほうと小さく息を漏らした。
夜高ミツル
ただ、麻痺しているだけで。
夜高ミツル
いくら大丈夫と言っていても、怖くないはずが、嫌でないはずがなくて。
夜高ミツル
だから、守りたい。
夜高ミツル
そんな目に絶対に遭わせたくない。
真城朔
真城がおずおずと顔を上げる。
夜高ミツル
目が合う。
真城朔
じ、とその瞳を見つめ返しながら、
真城朔
首を伸ばした。
真城朔
キスをする。
真城朔
瞼を伏せて、ミツルの唇に。
夜高ミツル
ミツルからも顔を寄せて、それを受け入れる。
夜高ミツル
唇を離してはまた触れ合わせて。
夜高ミツル
何度も、繰り返し。
真城朔
啄むような仕草で口づけを繰り返しながら、
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
口づけの合間に
夜高ミツル
大好きな人の名前を呼ぶ。
真城朔
吐息に紛れるような声が、この距離では聞き逃されることもなく。
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「真城……」
真城朔
「ミ、ツ」
真城朔
「っ」
真城朔
繰り返し重ね合わされるそれがやがて深くなって、
夜高ミツル
互いに貪りあうように唇を重ねる。
真城朔
名を呼ぶことすら甘い吐息の音に紛れ始めて、
真城朔
その矢先に。
真城朔
「…………」
真城朔
ゆっくりと真城は瞼をあげて、
夜高ミツル
「……?」
真城朔
ちらとミツルの左腕を見遣った。
夜高ミツル
「……ああ」
夜高ミツル
「大丈夫」
夜高ミツル
「動かさないようにしてりゃ」
真城朔
「…………」
真城朔
「大丈夫な」
真城朔
「ように、……」
真城朔
「…………」
真城朔
そもそも控えるべきでは? と今更思い当たったのか口を噤んだが。
夜高ミツル
ミツルの方も今更やっぱやめ……とはできない。
夜高ミツル
それよりも、とまた口づけを落とす。
真城朔
「ん」
真城朔
そうされると瞼を落として、結局それを受け入れてしまって。
夜高ミツル
舌先を割り入れて、真城の舌を絡め取って
夜高ミツル
合間に熱の上がった吐息を漏らす。
真城朔
「んっ、……ぅ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
掌が真城の背中を滑って、撫でて。
真城朔
触れられるたび肌がひくりと震えて、目の前の熱に蕩けるようで、
真城朔
結局、その服の裾を指先で掴み寄せ。
夜高ミツル
そうして反応を返されるごとに、ミツルにもなお火がついていく。
真城朔
「……な、るべく」
真城朔
「俺」
真城朔
「…………」
真城朔
「………………」
真城朔
言いかけておいてかなり黙った。
夜高ミツル
「…………?」
真城朔
「……う、ごく」
真城朔
「か、ら」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「…………う、ん」
真城朔
ひととおりすることして風呂に入って、
真城朔
真城が風呂を手伝うもんだからまた多少ひと悶着して、
真城朔
なんだかんだ着替えてから、昼食を摂る。
真城朔
真城は半乾きの髪にタオルを被り、ミツルの隣に座っている。
真城朔
時折もそもそと髪を拭いている。
夜高ミツル
コンビニで買ってきた弁当を食べている。
夜高ミツル
生姜焼き弁当。
夜高ミツル
箸を持ってると、右手が無事で良かったな……と思う。
真城朔
じっとその様子を見つめている。
真城朔
ごしごしもそもそとタオルを動かすので頬に濡れた髪が張りついたりする。
夜高ミツル
左腕の方も全く動かせないというわけではないので、食事程度なら支障はない。
夜高ミツル
箸を進めながら、真城の方を見て
夜高ミツル
「……狩りの時」
真城朔
「?」
真城朔
手が止まった。
夜高ミツル
「防犯ブザーとかあったらいいかなって」
真城朔
「ブザー」
夜高ミツル
思いついて、口に出す。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
首を傾げて。
真城朔
「……抜いたら」
真城朔
「鳴る……?」
夜高ミツル
「鳴る」
夜高ミツル
「あと位置情報送ったりとか……?」
夜高ミツル
「できた気がする……」
真城朔
「すごい」
真城朔
感想が素朴
真城朔
「…………」
真城朔
「高くない……?」
真城朔
色々機能がついてると……
夜高ミツル
「あー……? どうだろ……」
夜高ミツル
スマホを引き寄せて、検索する。
夜高ミツル
別に高くても構わないのだが。
真城朔
じっと見てますが。
真城朔
「別に」
真城朔
「食べたあとでも……」
真城朔
片腕不自由なのでよく分からないところを気にしている。
真城朔
「あ」
真城朔
「と」
真城朔
「ていうか」
夜高ミツル
「気になってつい……」
真城朔
「俺」
真城朔
「調べる……」
夜高ミツル
食事中にするのは行儀が悪かったな、と思い当たった。
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「うん、そうだな」
真城朔
ベッドサイドに置いてあったスマホを取りに行く。
真城朔
取って、戻ってきた。
真城朔
隣にまた座ってスマホをいじりはじめる。
夜高ミツル
スマホから手を離して箸を持ち直す。
夜高ミツル
食事を再開しつつ、スマホをいじる真城の様子を窺う。
夜高ミツル
「どうだ?」
真城朔
「防水」
真城朔
「ライト」
真城朔
「GPS」
真城朔
なにやら読み上げている。
夜高ミツル
「多機能だな……」
夜高ミツル
「まあGPSだけあればとりあえず十分だろ」
真城朔
「月額プラン……?」
真城朔
「使用料が……」
夜高ミツル
「あ、そういう感じなのか」
夜高ミツル
「なるほど……」
夜高ミツル
「そりゃ通信するんだからそうか……」
真城朔
「セコムが来る」
夜高ミツル
「セコムが来てもなあ」
真城朔
首をひねっている。
真城朔
「スマホ連動とか……」
夜高ミツル
「後でちゃんと調べないとだな」
夜高ミツル
買ってあげればそれでいいかと思ってた。
真城朔
「スマホ連動、Bluetooth」
夜高ミツル
「何が連動するんだ……?」
真城朔
「えーと」
真城朔
「スマホにアプリを入れて」
真城朔
「ブザーとスマホをBluetoothで連動……?」
真城朔
「四千ちょっと……」
夜高ミツル
「なるほどなー」
夜高ミツル
「四千くらいなら全然いいな」
真城朔
「こっちは別に、サービス料とかは」
真城朔
「セコム来ない」
夜高ミツル
「セコムの人を狩りに巻き込むのはな……」
夜高ミツル
「俺に届けばそれで十分だから」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷く。
真城朔
ミツルのLINEに通知が届いて。
真城朔
「送った」
真城朔
アドレスを。
夜高ミツル
「ん、サンキュ」
真城朔
「それじゃなくてもいいと思うけど……」
真城朔
「候補……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「別に」
真城朔
「なくても」
夜高ミツル
「俺の方でも色々見てみるよ」
真城朔
「なんとか、なるかもだし」
真城朔
「…………」
真城朔
小さく頷いた。
夜高ミツル
「あったら便利かもだろ」
夜高ミツル
「使う必要がなければそれが一番だけど」
真城朔
襟足に落ちてきた水分をタオルで拭っている。
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん……」
夜高ミツル
「用心するに越したことねーしな」
真城朔
さすがにもったいないかもとは言わなかった。
真城朔
やや言いたげだった雰囲気もあるが。
夜高ミツル
ミツルの方はなんか満足げにしてますね。
真城朔
スマホを戻して、食べる様子をまた見ている。
真城朔
戻してというか テーブルに置いて
夜高ミツル
結構お腹が空いてたので、パクパクと食べ進めていき
真城朔
じ……
夜高ミツル
やがて完食すると、ごちそうさまを言って箸を置いた。
夜高ミツル
買ってきたときのレジ袋に空き容器なんかを放り込みつつ
真城朔
見ています。
夜高ミツル
「当たりつけといて、どっかで電器屋あったら探してみるか」
夜高ミツル
「次の満月までまだあるから、北海道着いてからでもいいし」
夜高ミツル
「通販するならそっちの方がいいな」
真城朔
「通販」
真城朔
復唱。
真城朔
「北海道……」
夜高ミツル
「雪降り始めたらバイク無理だから」
真城朔
そういえば、と目を瞬いている。
夜高ミツル
「ちょっと急がないとなー」
真城朔
「そろそろ」
真城朔
「出る?」
真城朔
仙台。
夜高ミツル
「バイク乗れない怪我じゃなくて良かった」
夜高ミツル
「そうだな」
真城朔
「うん」
真城朔
「北海道……」
夜高ミツル
「俺北海道行くの初めて」
真城朔
「俺は」
真城朔
「ある、けど」
真城朔
「何か見て回ったとかじゃないし……」
夜高ミツル
「そっか」
真城朔
「広い、から」
夜高ミツル
「じゃあ一緒に色々行ってみるか」
真城朔
「交通の便が大変」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「らしいなー」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「どのくらい回れるか分かんねえけど」
真城朔
小さく頷く。
真城朔
「バイクが無理だと……」
真城朔
「……バス?」
夜高ミツル
「タクシー乗ればいいんじゃねえ?」
真城朔
「えっ」
夜高ミツル
「運転手の人に訊いたら観光地教えてくれたりするらしいし」
夜高ミツル
「まあ長距離は難しいけどさ」
真城朔
「…………」こくこく
真城朔
「……併用で……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「バスも」
夜高ミツル
「楽しみだ」
真城朔
「……電車も」
真城朔
「すいてれば、別に」
真城朔
「だし」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「…………うん」
真城朔
「たの」
真城朔
「しみ」
真城朔
ぽつぽつと答えながら、かすかに微笑む。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
それを見て、満足げに笑って
夜高ミツル
真城の頭に手を乗せ、撫でる。
夜高ミツル
「楽しみだ」
真城朔
濡れた髪を撫でられて目を細めた。
真城朔
「…………」
真城朔
「今晩は」
夜高ミツル
「?」
真城朔
「普通に、寝よう」
真城朔
「なにも」
真城朔
「しない……」
夜高ミツル
「……はは」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「狩りの後だしな」
夜高ミツル
「ゆっくり休もう」
真城朔
「ゆっくり休んで」
真城朔
「北海道」
真城朔
「行く」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
「たのしみ……」
夜高ミツル
濡れた髪を指で梳かしながら、
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「北海道で色んなとこ行こう」
夜高ミツル
「真城と一緒だから」
夜高ミツル
「楽しみだ」
真城朔
「……ん」
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツと、行く」
真城朔
「ミツと」
夜高ミツル
「真城と」
真城朔
「いっしょに、いる……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「一緒だ」
夜高ミツル
「ずっと、」
夜高ミツル
「ずっと一緒だ」