2020/12/上旬
真城朔
自分の部屋着の裾を掴んでうつむきがちに、ちらちらとミツルの顔を窺っている。
夜高ミツル
それだけと言えばそれだけのことなのだが……。
真城朔
なにせ狩りの時を除いては四六時中一緒にいると言っても過言ではなく。
真城朔
ミツルが意図的に真城から離れたあの一日以来、ずっと。
夜高ミツル
ミツルが真城を置いてどこかに行くようなことはなかった。
夜高ミツル
真城がミツルから離れることも同様に、全くなく。
夜高ミツル
そんなもんだから、小一時間程度の外出なのにやたらと後ろ髪が引かれる思いで……。
真城朔
ただ、ミツルを離れることばかりを気にしている。
夜高ミツル
真城から離れて、ドアノブに手をかける。
夜高ミツル
ミツルの方も名残惜しそうに振り向きながら、扉を開け
夜高ミツル
手を振り続ける真城を見ながら、扉を閉じた。
夜高ミツル
店員のやる気ない声に見送られ、床屋を出る。
夜高ミツル
とりあえず適当に短くしてもらう感じで、速さ重視で……
夜高ミツル
真城に見送られてからまだ1時間も経ってないくらい。
夜高ミツル
スマホを取り出して、LINEを立ち上げる。
夜高ミツル
通行人を避け、冷たい空気を感じながら雪道を走っていき……
夜高ミツル
高校生にもなって道で転ぶと恥ずかしい。
真城朔
札幌あるあるなのか、通行人はあらあら……みたいな感じ。
真城朔
大丈夫かな? みたいな目も多少は向いているが。
夜高ミツル
それでも道中何度か滑りかけたものの……
夜高ミツル
なんとか無様を晒すことはなく、マンションへとたどり着く。
夜高ミツル
もどかしげにカードキーを取り出して入り口のロックを開け、
夜高ミツル
幸い一階に止まっていたので、すぐに乗り込む。
夜高ミツル
エレベーターが登っていく僅かな時間すら待ち遠しく、
夜高ミツル
足音を響かせながら廊下を駆け、真城の待つ部屋の前へ。
夜高ミツル
手に持ったままのカードキーで扉を解錠し、開ける。
真城朔
雪に濡れたコートを着たままのミツルにしがみついて、
夜高ミツル
真城、と名前を呼ぶよりもはやく飛びつかれる。
夜高ミツル
体温で溶けた雪が、真城の髪をも濡らしていく。
夜高ミツル
撫でていたが、はたと気づいたように動きを止め、
夜高ミツル
とりあえず靴箱の上にそれを置いて、改めて真城の身体に触れる。
真城朔
外から帰ってきたばかりの肌には、真城の体温ですらあたたかい。
夜高ミツル
いつもならミツルより少し低い真城の体温。
夜高ミツル
それよりも尚冷えた手で、真城の背中を撫でる。
夜高ミツル
外気に冷えた身体が、真城の体温で温められていく。
真城朔
ミツルに身を寄せてぐしゃぐしゃに泣きじゃくって、
真城朔
背中を撫でられるたびに深く息を吸い込もうとして、
夜高ミツル
あやすように、時折背中をとんとんと叩く。
夜高ミツル
次は成功するぞ……という気持ちを新たにする。
真城朔
いっぱい泣き、疲れたため、ややうとうと……
真城朔
ミツルの使っている方の枕がだいぶぐしゃぐしゃになっていた。
真城朔
ミツルが帰ってきて我に返って青ざめたりしてた。
夜高ミツル
指先が頭皮に触れ、髪をすき、ドライヤーの風を通していく。
真城朔
触れられるたび、心地よさそうに目を細める。
夜高ミツル
そうしていつものように乾かして、いつもより早く終わった。
夜高ミツル
これもいつものように、頭を撫でて乾いたのを確かめる。
真城朔
ぼんやりと頭をミツルの手のひらへと寄せる。
夜高ミツル
ミツルの方も同じ気持ちで、何をするでもなくただ抱きしめている。
夜高ミツル
すっかり真城と離れがたくなってしまったことを思い知る。
夜高ミツル
そのたった一時間離れていた分を取り返すように、身を寄せ合っている。
真城朔
二度と離れたくないとでも言うようにしがみついてくっついて……
夜高ミツル
身を寄せて、手を繋いで、体温を分け合って。