2020/12/23 朝

真城朔
食卓の準備をするミツルの一方で、真城はグラスに牛乳を注いでいる。
真城朔
とぽとぽ……
夜高ミツル
テーブルの上に朝食を並べる。
夜高ミツル
朝は簡単に、トーストとベーコンエッグ。
夜高ミツル
真城の方にはトーストを小さめに切ったものと、ベーコン。
夜高ミツル
いちごのジャム。
真城朔
ちんまりサイズの朝食
真城朔
色々並べられるのを眺めながら冷蔵庫に牛乳を戻しに行きます。
真城朔
ぱたん……
夜高ミツル
その様子を目で追う。
真城朔
こみあげてきたあくびを噛み殺している。
真城朔
噛み殺したところでミツルと目が合った。
夜高ミツル
眠そうだなー。
夜高ミツル
食卓の方は準備ができたので、戻ってくるのを待っています。
真城朔
ふにゃふにゃ戻ってきます。
真城朔
目をこすりこすり食卓に腰を下ろす。
真城朔
腰を下ろして、ぼーっとミツルの顔を見る。
夜高ミツル
「まだ眠そうだな」
夜高ミツル
「買い物このあと行けそう?」
夜高ミツル
「食べたらもうちょい寝るか?」
真城朔
「買い物」
真城朔
ぽつり
真城朔
「行く……」
真城朔
「寝ない……」
真城朔
首を振る。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「起きてる」
真城朔
控えめに宣言。
夜高ミツル
「わかった」
夜高ミツル
では、と手を合わせて。
真城朔
遅れて合わせます。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
夜高ミツル
トーストにバターを塗る。
真城朔
ちょっと前傾姿勢でいただきますしてから、箸を取って
真城朔
ベーコンを齧ってます。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
バターをたっぷり塗ったパンを齧る。
真城朔
のんびりもぐもぐしてます。朝はいつにも増してテンポ遅め。
真城朔
朝は眠い生き物。
夜高ミツル
焦る必要もないし。
真城朔
甘やかされているなあ。
真城朔
ベーコンを半分くらい齧って飲み込んだところで、小さく切ったパンをさらに小さく齧っている。
夜高ミツル
さくさくとトーストを食べつつ、
夜高ミツル
「そういえば、真城」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「何かほしいものとかある?」
真城朔
もごもごしながら首を傾げた。
真城朔
質問の内容に、さらに傾けた。
夜高ミツル
「ほら、あれ」
夜高ミツル
「もうすぐクリスマスだから」
夜高ミツル
「プレゼント」
真城朔
「…………」
真城朔
ぱちぱちとまばたき。
夜高ミツル
「なんかそういうのを、したいなあと……」
真城朔
牛乳を飲んだ。
真城朔
飲み込み。
真城朔
「……ミツは」
真城朔
「なにか……?」
真城朔
一度手を止めて聞き返す。
夜高ミツル
「俺?」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
聞き返されると、ん~と唸りはじめる。
真城朔
じっ……
夜高ミツル
「聞いといてなんだけど……」
夜高ミツル
「冬が終わったらまた出ていくから難しいんだよなあ」
真城朔
「むずかしい……」
夜高ミツル
「本当に聞いといてなんだけどな……」
真城朔
しゅん……となりつつも控えめに頷きます。
真城朔
「ミツの」
真城朔
「誕生日、も」
真城朔
「特別なもの……」
真城朔
なかったし……みたいなことをぽつぽつ言っています。
夜高ミツル
「えー」
夜高ミツル
「真城が祝ってくれて嬉しかったよ、俺は」
夜高ミツル
あとあれ以来めちゃめちゃキスしてくれるようになったし……
真城朔
おろろ……
真城朔
「で、も」
真城朔
「…………」
真城朔
しゅんになっています。
真城朔
「プレゼント、じゃ」
真城朔
「なかった」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「そもそも真城に金持たせれてなかったからなあ……」
真城朔
しょぼぼ……
夜高ミツル
「逃げる時になんか持ち出す時間とか作ってやれなかったしな……」
真城朔
「あれは」
真城朔
「俺の、せい」
真城朔
「だから」
真城朔
思い出したようにトーストにジャムを塗っています。
真城朔
多めに……
真城朔
具に果実が粒で入ってるタイプのよいジャム。
夜高ミツル
目玉焼きに手をつける。わりとしっかり焼き。
夜高ミツル
味付けは塩コショウ。
夜高ミツル
「別に真城のせいってこともないだろ」
真城朔
「俺が……」
真城朔
「…………」
真城朔
「いろいろ」
真城朔
「なんか」
真城朔
「……総合的に……」
真城朔
総合的に……?
夜高ミツル
「総合的に……」
夜高ミツル
首をひねっている。
真城朔
しゅん……
真城朔
塗ったはいいもののトーストをかじれなくなっている。
真城朔
「俺、だけ」
真城朔
「もらうのは」
真城朔
「少なくとも、おかしい……」
真城朔
とりあえず結論。
夜高ミツル
「まあ、うん、それは、まあ……」
夜高ミツル
歯切れが悪い。
真城朔
訴えかけるようにミツルを見つめています。
夜高ミツル
黄身をかじっている。もぐもぐ。
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「……なんか、二人で使うものでも買う?」
真城朔
もぐもぐしているのでトーストに手をかけたが。
夜高ミツル
「プレゼントって感じじゃないかもだけど」
真城朔
ぱちぱちと瞬き。
真城朔
「ふたりで」
真城朔
かじりかけジャムを塗ったトーストに手をかけて止まっています。
夜高ミツル
「二人で」
夜高ミツル
「なんか……なんだろう」
夜高ミツル
言い出したはいいけど具体的に考えてなかったやつ。
真城朔
医療キットとか輸血パックとかが思い浮かんでいるけど流石に口に出さずにいます。
夜高ミツル
実用的すぎる……。
真城朔
「……買い物、で」
真城朔
「探してみる……?」
夜高ミツル
「……そうだなー」
夜高ミツル
「うん、そうしよう」
真城朔
「ん……」
真城朔
頷く。やっとトーストを齧った。
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
唇にジャムがついている。
夜高ミツル
食べてるなあ。
真城朔
小さめのパンならまぁまぁ食べられる。昼ごはんいらなくなったりするけど。
真城朔
ほどほどに朝を抜いたり。昼を抜いたり。色々。
夜高ミツル
様子を見つつ。
夜高ミツル
そんな感じで、一緒に食事をする機会がだいぶ増えてきている。
真城朔
タンパク質中心に無理をしない程度に与えられています。
真城朔
牛乳を飲んだ。牛乳はタンパク質。
夜高ミツル
嬉しい。一緒に同じものを食べられるのも、自分の作ったものをおいしいと言ってもらえるのも。
夜高ミツル
以前に料理をもうちょっと頑張ってみようと思ったのも、そういえば真城が理由だったなとか思い出したりして。
真城朔
ミツルの内心を知ってか知らずか、最後のトーストのひとかけらを口に放り込んだ。
真城朔
残ったベーコンも食べる。
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
咀嚼が長い。
夜高ミツル
眺めたり自分の分を食べたりしている。
真城朔
飲み下して、息をついた。
真城朔
ふうになっている。
夜高ミツル
なってるなあ。
真城朔
牛乳の残りを飲んで、完食。
夜高ミツル
ミツルも同じくらいのタイミングで食べ終えて箸を置きます。
夜高ミツル
ミツルの方が量は多いものの、ペースが速いので。
真城朔
おずおずとミツルを窺っています。
夜高ミツル
牛乳を飲み干して、手を合わせる。
真城朔
合わせる。
夜高ミツル
「ごちそうさま」
真城朔
「ごちそうさまでした」
真城朔
お皿を重ねていきます。
真城朔
片付けをするぞ。
夜高ミツル
片付けだ~。
夜高ミツル
二人並んでキッチンへ。
真城朔
手を洗ってからふきんを取って待機。
真城朔
じ……
夜高ミツル
いつものようにミツルが洗って、洗い終えると真城に渡していく。
夜高ミツル
じゃぶじゃぶ……
真城朔
受け取り……
真城朔
ふきふき……
夜高ミツル
まあやっぱりそんなに大した量でもないので、すぐに終わるでしょう。
真城朔
拭いた端から食器棚に戻しては流し台に戻っていく。
真城朔
のを繰り返して、すぐ終わり。
真城朔
歯磨きに洗面台向かいつつ。
真城朔
「今日」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「何」
真城朔
「買う?」
夜高ミツル
並んで洗面台に向かう。
真城朔
ミツルの顔を見ながら。
夜高ミツル
「明日雨降るから、出ないでいいように飯の材料と」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「さっき話したプレゼントと」
夜高ミツル
「あとは、小さいツリーでも買ってみようかなって」
夜高ミツル
「せっかくだしな」
真城朔
「ツリー」
真城朔
「小さい……」
真城朔
両手でサイズを想像している。
夜高ミツル
こんくらい、と手で示す。
真城朔
示されたそれに合わせた。
真城朔
「これくらい」
夜高ミツル
20cmくらい。
真城朔
なるほどと頷いている。
夜高ミツル
卓上にちょこんと飾れるサイズ。
真城朔
「クリスマス……」
真城朔
あんまりピンときていない顔で歯ブラシを手にとった。
真城朔
しゃこしゃこ……
夜高ミツル
「クリスマスとかすんのすげー久しぶり」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
歯ブラシを取る。
夜高ミツル
歯磨きタイム。無言が続く……。
真城朔
揃いの色違いの歯ブラシ。
真城朔
を、歯磨きを終えていつもの場所に戻して、うがいをして。
真城朔
水を吐いて。
真城朔
「ハロウィン」
真城朔
「と、同じで」
真城朔
「人出が多くなって……」
真城朔
タオルで口を拭きながら。
夜高ミツル
真城に続いてうがいして、水を吐き出して。
夜高ミツル
「だなー……」
夜高ミツル
「だから、まあ」
夜高ミツル
「明日明後日は家でゆっくりしよう」
真城朔
「ん」
真城朔
年末は大変。
夜高ミツル
「明後日は特に金曜だしな……」
夜高ミツル
多分めちゃめちゃ人が多い……。
真城朔
多いだろうなあ。
真城朔
「準備も」
真城朔
「ある」
真城朔
狩りの。
夜高ミツル
「ああ」
真城朔
言いながらしょぼ……になってきた。
真城朔
面倒に巻き込んでいる……
真城朔
俺のせいで……
真城朔
わがままが……
夜高ミツル
真城の頭に手を乗せる。
夜高ミツル
そのままうりうりと撫でる。
真城朔
うりうりとされます。
真城朔
ややきょどつきながらミツルを見る。
夜高ミツル
「いや、なんか……元気なかったから」
夜高ミツル
頭を撫でながら。
真城朔
ぱちぱち。まばたき。
真城朔
「げんき……」
夜高ミツル
「元気」
真城朔
「げんきは」
真城朔
「だいじょうぶ」
真城朔
「朝、食べた」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「食べてたなー」
夜高ミツル
と、そこには嬉しそうに。
真城朔
頷く。
真城朔
「おいしかった」
真城朔
ふにゃ……
夜高ミツル
「よかった」
夜高ミツル
相好を崩す。
真城朔
「だから」
真城朔
「元気、も」
真城朔
「だいじょうぶ……」
真城朔
言い張ります。
夜高ミツル
「無理してない?」
真城朔
頷く。
真城朔
「して」
真城朔
「ない」
真城朔
「……いっしょに、行く」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「じゃあ、出かける準備するか」
真城朔
頷いた。
真城朔
マンションに近いデパートはクリスマス間近なだけあって人が多く、
真城朔
真城はミツルにひっついている。
夜高ミツル
平日とはいえ……。
夜高ミツル
ぴっとりと寄り添いあって、二人でフロアをうろついている。
真城朔
ぴと……
真城朔
人が近くを通るたびにミツルへの密着が気持ち強まる感じがする。
夜高ミツル
ミツルの方も、真城に壁側を歩かせたりなどの
夜高ミツル
彼氏仕草を……。
真城朔
立ち並ぶ店を見るのが半々、通り過ぎる人を見るのが半々。
真城朔
彼氏仕草されてるなあ。
夜高ミツル
途中食洗機に一瞬惹かれたけど、さすがに半年しか使えないのに買う気にはならなかった。
夜高ミツル
今の、二人で後片付けするのもそれはそれで楽しいし。
真城朔
「ふたりで……」
真城朔
「ふたりで使えるもの……」
真城朔
難しげな顔をしています。
夜高ミツル
「難しいな……」
真城朔
防寒具は即座に揃えてしまったし。
真城朔
調理器具も同じくだし。
夜高ミツル
概ね生活に必要なものはすでに買い揃えてある。
真城朔
雑貨店とか。靴屋とか。アクセサリーショップとか。そういうものが無造作に立ち並ぶデパート内をうろうろ。
夜高ミツル
元々そう物欲のない二人。
夜高ミツル
必要のないものを選ぶのが……下手!
真城朔
いまいちぴんと来ないままエスカレーターに乗って、別のフロアへ。
真城朔
電器系ショップの並ぶフロアに到着し。
真城朔
さっきも思ったけど、家電もだいたい買っちゃったからな……みたいな顔。
夜高ミツル
買っちゃったなあ……。
夜高ミツル
並んでフロアを歩き出す。
真城朔
ミツルについて歩きます。
真城朔
ドライヤーはもうミツルが買った。
真城朔
ヘアアイロンはいくらなんでも使わないだろう。
真城朔
ホームベーカリーをぼんやり見ている。
真城朔
でもほとんどミツに食べさせることになるんだよな……。
夜高ミツル
低温調理器とかそういうのがあるんだな~と眺めている。
真城朔
「なんか」
真城朔
「気になる?」
真城朔
よくわからないままに訊いてみる。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
商品から真城に視線を移して
真城朔
じ……
夜高ミツル
「なんか、えーと……」
夜高ミツル
「これを使うとゆっくり熱を通せるらしく」
夜高ミツル
低温調理器を示しながら
真城朔
「熱を……」
真城朔
不思議な棒みたいなものを見ています。
夜高ミツル
「肉を柔らかく調理したりできるらしい」
夜高ミツル
棒ですねぇ。
真城朔
「柔らかく……」
真城朔
「これで……?」
真城朔
棒だけど……
夜高ミツル
水を張った容器のふちに棒を固定して水を加熱する。
真城朔
使い方を見ている。
真城朔
不思議だ……
夜高ミツル
「なんかこれでこう……水をいい感じの温度のお湯に……」
夜高ミツル
ミツルも実際に使ったことがあるわけではないので、使い方を眺めながら。
真城朔
「いい感じの温度」
真城朔
ぽや……
真城朔
しばらくまじまじ眺めていたが。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ほしい?」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「ちょっとほしい……」
夜高ミツル
「でも半年しか使わねえんだよな……」
真城朔
「何買っても」
真城朔
「半年は、半年」
真城朔
「だろうし」
夜高ミツル
「そうだな~……」
真城朔
「消え物じゃない限り……」
夜高ミツル
肉料理に色々使えるんだな~真城に食べさせたいな~。
夜高ミツル
そういう気持ちがあり続けています。
真城朔
「俺、は」
真城朔
「ミツがほしいなら」
真城朔
「ほしいし」
真城朔
なんとなく、自分のためというのもわかっているので……。
夜高ミツル
「いや、うん、あの……」
夜高ミツル
固まってしまった。
真城朔
「?」
夜高ミツル
「いや、こう……これを……買って……」
夜高ミツル
「使って楽しいのは俺であって……」
夜高ミツル
「真城に食べてもらうものを作るのではあるが……」
真城朔
頷きます。
夜高ミツル
そんなことをぶつぶつとつぶやいている。
真城朔
「俺の、ため」
真城朔
「なら」
真城朔
「…………」
真城朔
ちょっと難しげに詰まりかけたが。
真城朔
「……うれしい」
夜高ミツル
「なんかこう……二人で使うものからちょっと……外れるなと……」
真城朔
ちがう?
夜高ミツル
とか、言っていたが。
真城朔
になってる。
真城朔
きょと……
夜高ミツル
「…………」
真城朔
じ……
夜高ミツル
「……真城が、そう言ってくれるなら」
真城朔
こくこく。
夜高ミツル
「……」
真城朔
「俺も、これ」
真城朔
「おもしろそう」
夜高ミツル
「……っし、半年で使い倒すか!」
真城朔
完全にこれはなんというか、不思議なガジェットを喜ぶ子供の心理ですが……
夜高ミツル
「色々作る」
真城朔
大きめに頷きます。
真城朔
「食べられる限り」
真城朔
「食べる……」
夜高ミツル
ちなみに低温調理器があるとローストビーフが作れる。
真城朔
ローストビーフおいしいね~。
真城朔
うれしいね よかったね
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「……じゃあ、これ買ってくか」
真城朔
「買う」
真城朔
頷く。
真城朔
くっつく。
夜高ミツル
箱を手にとって、二人でレジに向かう。
真城朔
そこそこ並びました。
夜高ミツル
クリスマス前だからなー。
真城朔
そこそこ並んで、ラッピングとかも特になしでそのまま受け取って。
真城朔
「クリスマス」
真城朔
「クリスマスにこういうの買うの」
真城朔
「初めて」
真城朔
そりゃそうだという話だが。
真城朔
なんか嬉しそうではある。
夜高ミツル
「俺も」
真城朔
低温調理器の箱をじっと見ています。
真城朔
二人で選んだ、二人の日々へのクリスマスプレゼント。
夜高ミツル
「肉買ってくか~」
夜高ミツル
ウキウキしている。
真城朔
「ん」
真城朔
こちらも控えめにですが真城にしてはかなりうきうきしています。
真城朔
「たのしみ」
夜高ミツル
「だな!」

2020/12/24 昼過ぎ

 
窓の外では雪が降っている。
夜高ミツル
今日明日は部屋でぬくぬくすごすぞ、という気持ち。
真城朔
しばらく引き込もれる食料も用意したし。
真城朔
色々準備もあるし。
真城朔
低温調理器もあるし。
真城朔
低温調理器がある。
夜高ミツル
ある!
夜高ミツル
買ってきたブロック肉は、昨日の内に下味をつけて寝かせてある。
真城朔
その様子を対面キッチン越しにじっと眺めていました。
真城朔
じ……
夜高ミツル
ということで、低温調理器は今日が初運転。
夜高ミツル
ぴかぴかの新品の低温調理器を、水を貼った鍋にセットする。
真城朔
手伝えることがあるわけではないのだがなんとなくエプロンを着ています。
真城朔
何度見てもなにやら不可解なガジェット。
夜高ミツル
ミツルも真城と揃いのエプロンをつけている。
夜高ミツル
説明書に改めて目を通しつつ、低温調理器の設定をしていく。
真城朔
眺めています。
真城朔
なんか……やってる……
真城朔
ふしぎなことを……
夜高ミツル
57℃を90分に設定。
真城朔
じんわりとテンションが高い。
夜高ミツル
60℃でも55℃でもなくて57℃なんだな……。
夜高ミツル
よく分からないので、ネットで調べたレシピに従っている。
真城朔
真城はもっとなにもわからない。
真城朔
でもなんかおもしろそうだな、という印象でそれなりに目が輝いています。
真城朔
ローストビーフできるらしいし……
真城朔
ローストビーフおいしいし……
真城朔
ミツのローストビーフだし……
真城朔
わくわく……
真城朔
どきどき……
真城朔
じー……
夜高ミツル
低温調理器が稼働し、表示されている温度が設定したものに近づいていく。
真城朔
「あったまってる」
真城朔
温度が上がっているのを見て。
夜高ミツル
「な」
夜高ミツル
「すごいな~」
夜高ミツル
すごいなになっている。
真城朔
「すごい」
真城朔
すごいになってます。
夜高ミツル
ビーフストロガノフの方の準備を進めていくつもりだったのに、思わず手が止まってしまっている。
真城朔
真城はもじっとそれを見つめています。
真城朔
おもしろい……
真城朔
つよい……
夜高ミツル
見慣れないガジェットが動いているのを見るのは単純な楽しさがある。
真城朔
わくわくする。男の子なので。
真城朔
「これで」
真城朔
「ローストビーフ」
真城朔
「できる?」
真城朔
じ……
夜高ミツル
「できるできる」
夜高ミツル
「できるらしい」
真城朔
「できる……」
真城朔
うれしそう。
真城朔
しっぽあったら多分振ってる。
真城朔
少し身を屈めて目線を低温調理器に合わせています。
真城朔
じー……
夜高ミツル
そうして眺めている間に湯の温度が設定したものに達して、
夜高ミツル
ぴぴ、とそれを知らせる音。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
きょと……
真城朔
「鳴った」
夜高ミツル
「設定した温度になった」
真城朔
「57度」
夜高ミツル
言いながら、ジップロックに入れたブロック肉を取り出して。
夜高ミツル
「なんかそれがいいらしい」
真城朔
肉を見てますますわくわくしています。
真城朔
おっきい生肉。
夜高ミツル
下味のついたおっきい生肉をお湯に沈めます。
夜高ミツル
ちゃぽ……。
真城朔
沈んでいく……
真城朔
肉が……
真城朔
お湯に……
夜高ミツル
「あとは待ってるだけ」
夜高ミツル
「すごいな~」
夜高ミツル
二回目
夜高ミツル
「で、焼いて切ったらできる!」
真城朔
「できる」
真城朔
「すごい」
真城朔
じー
夜高ミツル
「なー」
真城朔
「たのしみ」
真城朔
また言います。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「俺も」
真城朔
うきうき……
真城朔
色んな角度から見ている。
真城朔
見上げたり。覗き込んだり。
夜高ミツル
単純に楽しいのと、真城が楽しそうなので嬉しい。
真城朔
きょろきょろ わくわく
夜高ミツル
すっかり止まっていたので、気を取り直してもう一個の調理を始めていく。
真城朔
低温調理器に夢中になっていたが、ミツルが手を動かし始めたのを見て思い出したようにそちらへ。
真城朔
「ビーフストロガノフ」
夜高ミツル
玉ねぎを取り出して皮を剥き
夜高ミツル
「ん」
真城朔
手際が良い。向かいで眺めている。
真城朔
牛と牛だな~。
夜高ミツル
贅沢。
夜高ミツル
クリスマスだからいいだろう。
真城朔
祝い事。
夜高ミツル
皮を剥いたたまねぎをまな板の上に置いて薄切りにしていく。
真城朔
「いためる」
真城朔
「やる……」
夜高ミツル
切れ味のいい包丁を使うとあまり目に染みない(tips)
真城朔
大事。
夜高ミツル
そしてこの包丁は買ったばかりなのでよく切れる。
夜高ミツル
「お、じゃあ頼む」
真城朔
「ん」
真城朔
頷いて、キッチンへと入っていきます。
真城朔
深底の鍋に用意されていたバターを落として、加熱。
真城朔
じゅわじゅわ……
真城朔
ややぎこちないながらもへらで溶かし溶かし……
夜高ミツル
バターの香りがキッチンに広がる。
夜高ミツル
その様子をじっと見守っている。
真城朔
ローストビーフと低温調理器で始まったので今日は結構テンションが高め。
真城朔
ビーフストロガノフもあるし。
夜高ミツル
たのしそうだと嬉しい。
夜高ミツル
バターが溶けたのを見て、横から玉ねぎを鍋に入れていく。
真城朔
ざざーっと入っていくのを見ています。
真城朔
「薄切り」
真城朔
入れられたばかりの玉ねぎをへらで混ぜている。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「薄い」
真城朔
とても薄い。
夜高ミツル
「そんな感じでしんなりするまで炒めてくれ」
真城朔
こくこく。
真城朔
「しんなり……」
真城朔
ミツルのやってきたのを見様見真似で混ぜてます。
真城朔
鍋の取っ手を掴んでぐるぐる……
夜高ミツル
こうして並んでキッチンに立っていると、なんか
夜高ミツル
一緒に暮らしてるな……という実感が改めて湧いてくる。
真城朔
同居 同棲
真城朔
やりすぎかな? という顔になって手を止めて覗き込んだりしている。
夜高ミツル
鍋は真城に任せて、残りの食材の用意。
真城朔
火加減はミツに何も言われないから多分大丈夫で……
真城朔
焦げないように……でもしんなり……
真城朔
時折混ぜ返し……
真城朔
眺め……
夜高ミツル
横からちら、と覗いて
夜高ミツル
「そんな感じそんな感じ」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
残りと言ってもあとはマッシュルームと牛肉くらい。
夜高ミツル
牛肉は一口大に。
真城朔
ちらちらミツルの手元を見るが、火から目を逸らしてはいけないので真面目に鍋に向き合ってます。
夜高ミツル
えらい。
真城朔
火は危険……
夜高ミツル
玉ねぎが良い感じにしんなりしてきたのを見て、
夜高ミツル
「肉入れるぞー」
夜高ミツル
と声をかける。
真城朔
「ん」
真城朔
入れやすいように身を引きました。
真城朔
玉ねぎを寄せる発想はない。
夜高ミツル
横からひょいひょいと肉を放り込む。
夜高ミツル
ちなみにレシピの分量よりやや多め。
真城朔
肉が投入されていく……
真城朔
多めの肉が。
夜高ミツル
真城は肉が好きだし、そもそもミツルも好き。
夜高ミツル
男子なので。
真城朔
味も濃くなる。
真城朔
良い事づくし。
夜高ミツル
肉を入れるとまた元の場所に戻って、真城に鍋を任せる。
真城朔
ぐるぐる……
真城朔
炒めています。
夜高ミツル
マッシュルームを切る。
真城朔
きのこだ……
夜高ミツル
加熱しすぎると香りが飛ぶらしいので、こちらはもうちょっと後に入れる。
真城朔
「たまねぎ」
真城朔
「牛肉」
真城朔
「きのこ」
夜高ミツル
とすとす……とスライスしていく。
真城朔
炒めながらぽつぽつと。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ストロガノフって」
真城朔
「……玉ねぎときのこ……?」
夜高ミツル
「ストロガノフさん家の料理みたいな由来らしい」
夜高ミツル
「レシピ調べた時にそんな感じの話を見かけた」
真城朔
「ストロガノフさん」
真城朔
じ……と鍋に視線をやった。
真城朔
「サンドイッチ伯爵」
真城朔
「みたいな……?」
夜高ミツル
「そんな感じだな、多分」
真城朔
「牛肉ストロガノフさん……」
真城朔
炒め炒め……
夜高ミツル
マッシュルームを切り終えると、包丁は一旦流しに。
真城朔
炒めながら考え込んでいます。
夜高ミツル
軽く洗ってしまって、ついでに手も洗う。
夜高ミツル
手を拭きつつ、鍋の方を覗き込みます。
真城朔
覗き込まれてミツルを見る。
真城朔
「…………」
真城朔
「大丈夫?」
真城朔
ちょっと心配になった。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「いい感じいい感じ」
真城朔
変になってないらしい。
真城朔
良かった。
真城朔
混ぜて炒め 混ぜて炒め……
夜高ミツル
火を扱ってなければ頭を撫でているところだった。
真城朔
「思ったより」
真城朔
「かなり、カレーとかシチューとか」
真城朔
「そういうのぽい」
真城朔
「作り方」
夜高ミツル
「な、そんな感じだよな」
真城朔
「意外……」
真城朔
「ビーフストロガノフなのに……」
夜高ミツル
「もっとなんか……凝った料理かと思ったよな」
真城朔
こくこく……
真城朔
「意外と普通」
真城朔
「でも」
真城朔
だいぶ炒められた中を覗き込む。
真城朔
「たのしみ」
夜高ミツル
「もううまそうだもんな」
真城朔
こくこく……
真城朔
肉が多いし……
真城朔
肉が多い うれしい
真城朔
いっぱいは食べられないけど……
夜高ミツル
程よく炒められてきたのを見て
夜高ミツル
「そろそろ良さそうだなー」
夜高ミツル
「場所代わってもらっていいか」
真城朔
「ん」
真城朔
どきます。
夜高ミツル
「ありがとな」
夜高ミツル
すれ違いざまに頭を撫でる。
真城朔
ふにゃ……
夜高ミツル
撫でて、鍋の前に。
真城朔
場所を譲って後ろから覗き込む。
真城朔
覗き込んでいたけど、対面なのを思い出して出ていきました。
夜高ミツル
塩コショウで味をつけると軽く混ぜて、
真城朔
向かいから改めて覗き込みます。
真城朔
当然ながら自分よりずっと手慣れているそのさまをまじまじ見ている。
夜高ミツル
とんとん、と缶を二つ鍋の横に置く。
真城朔
嬉しそうに。
夜高ミツル
トマトピューレとデミグラスソース。
真城朔
「デミグラスソース」
夜高ミツル
缶を開けて、中身を鍋に投じる。
真城朔
わー。
真城朔
入っていく……
夜高ミツル
デミグラスソースは何種類かあったので、せっかくだから高い方を買ってきた。
夜高ミツル
特撰って書いてある。
真城朔
めっちゃいいやつ。
真城朔
ソースが投入されかなり料理っぽくなっているのでわくわくが増しています。
夜高ミツル
デミグラスソースに続いてトマトピューレも鍋に。
真城朔
赤い。
夜高ミツル
水も少し足して、ぐるぐるかき混ぜる。
真城朔
「ビーフストロガノフ」
真城朔
またその名前を繰り返した。
真城朔
「かなり」
真城朔
「写真っぽくなってきた」
真城朔
写真で見たやつっぽく。
夜高ミツル
「見た目かなり完成に近いからなー」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
かき混ぜて、弱火で煮込んでいく。
真城朔
ぐつぐつ……
夜高ミツル
煮込みつつ、塩と胡椒を足して味を見る。
夜高ミツル
うーん……みたいな顔をして、さらに塩を振る。
真城朔
じー……
真城朔
料理してる……
真城朔
炒めるのはわかるけど、そういう手順はよくわからないので
真城朔
真城の中の料理してるのイメージがかなり強いシーンはこういうところかもしれない。
夜高ミツル
忘れてた……みたいな雰囲気でマッシュルームも入れる。
真城朔
あっ。
夜高ミツル
そういう時もある。
真城朔
強めに煮込めば多分大丈夫。
夜高ミツル
そもそもレシピだとマッシュルームじゃないから入れるタイミングが正確に分からない。
真城朔
そんなに加熱がどうこうの食材じゃないしなんとかなるだろう……
夜高ミツル
なるなる。
夜高ミツル
かき混ぜています。ぐるぐる……。
真城朔
混ぜられていく。見ている。
夜高ミツル
それから改めて味見。
真城朔
味見の様子をじっと見ています。
夜高ミツル
今度は小皿にちま、と盛って真城にも渡す。
夜高ミツル
「味見する?」
真城朔
きょと。
真城朔
「味見」
真城朔
「…………」
真城朔
「ちょっと」
真城朔
「だけ?」
夜高ミツル
「もうちょっと塩入れるか悩んでて」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「ちょっと舐めるくらいでも」
真城朔
「ん」
真城朔
「ちょっと……」
真城朔
気持ち身を乗り出す。
夜高ミツル
カウンター越しに、真城に小皿を渡す。
真城朔
受け取ってちろりと舌で舐めた。
真城朔
口の中で舌を動かしている。
夜高ミツル
その様子をじっと見ています。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……どうだ?」
真城朔
「豪華」
真城朔
「な、感じの」
真城朔
「味がする……」
真城朔
小皿にもうちょっと残ったやつをまた舐めて。
夜高ミツル
「ソースがいいんだろうなー」
真城朔
「ん」
真城朔
頷く。
真城朔
「おいしい」
夜高ミツル
いいやつを買ったのでおいしい。
真城朔
「から」
真城朔
「ミツも、おいしい」
真城朔
「なら」
夜高ミツル
「……ん、ならよかった」
真城朔
こくこく……
真城朔
小皿を流し台に戻します。
真城朔
水を張った中にちゃぷんと沈める。
真城朔
「完成?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「あとは肉の加熱が終わったらって感じだな」
夜高ミツル
言って、鍋の方は火を止める。
真城朔
「肉……」
真城朔
ちらりと低温調理器の方を見ます。
夜高ミツル
低温調理器はあと15分ほどかかる様子。
真城朔
覗き込んでいます。
真城朔
動物園で小動物見てるときとかなり近いテンション。
夜高ミツル
「もうちょいかかりそうだな」
夜高ミツル
「楽しみだな~」
真城朔
「うん」
真城朔
「たのしみ」
真城朔
わくわく……
真城朔
また色んな角度から見ている。
夜高ミツル
手が空いたので意味もなく真城の頭を撫でる。
真城朔
撫でられています。
真城朔
ミツルに身を寄せた。
真城朔
ぴと……
真城朔
ミツルに身を寄せながら、視線は低温調理器といった塩梅。
夜高ミツル
そんな感じでくっついている内に、タイマーが0に近づいていき。
夜高ミツル
ピピ、と出来上がりを告げる。
真城朔
ぱっと笑った。
真城朔
低温調理器を見て、ミツルを見る。
夜高ミツル
「できたっぽいな」
夜高ミツル
ミツルの声も心なしどころではなくはずんでいる。
真城朔
「できた」
真城朔
「できた?」
夜高ミツル
鍋からパックした肉を取り出す。
真城朔
じー……
夜高ミツル
投じる前の生肉の赤色ではなく、
夜高ミツル
火が通った肉の、薄い茶色になっている。
夜高ミツル
「おお~……」
真城朔
「ローストビーフ」
夜高ミツル
「ローストビーフっぽくなってるな!」
真城朔
「なった」
真城朔
「なってる」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
こくこく頷いている。
真城朔
「すごい」
夜高ミツル
「な~」
夜高ミツル
「放置してるだけで……」
真城朔
「味は」
真城朔
「ミツ、つけてた」
夜高ミツル
肉を一旦置いて、フライパンを取り出す。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
その様子を見ています。
夜高ミツル
「あとは軽く焼いて、ソースも作って」
夜高ミツル
「で、完成!」
真城朔
「完成」
真城朔
「ローストビーフ」
真城朔
「完成」
真城朔
わくわくに頷いています。
夜高ミツル
フライパンに火を入れる。
真城朔
火だ。
真城朔
料理だな~という感じ。
真城朔
料理をやっている……
夜高ミツル
温まったところで、パックから取り出した肉塊を乗せる。
夜高ミツル
でん、という感じ。
真城朔
豪勢な光景。
夜高ミツル
かなり存在感がある。
夜高ミツル
フライパンに肉塊が乗ってる。
真城朔
塊。
真城朔
インパクトが強い光景。
真城朔
だいぶ目を輝かせています。
夜高ミツル
じゅわ……と物が焼ける音がする。
真城朔
「焼けてる……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
対面から覗き込み覗き込み。
夜高ミツル
肉を回して、全体的に焼き目をつけていく。
真城朔
「焼けてる」
真城朔
また言った。
夜高ミツル
「焼けてる焼けてる」
真城朔
「ロースト」
夜高ミツル
全面に焦げ目がつくと、火を止める。
夜高ミツル
肉をまな板の上に移動させる。
真城朔
わくわく……
夜高ミツル
包丁を取る。
真城朔
じ……
夜高ミツル
「……なんか緊張してきた」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「いや、なんか、」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「中ちゃんとできてるのかなって」
真城朔
「…………」
真城朔
ぱちぱち
真城朔
「できて」
真城朔
「ないかも……?」
真城朔
なの? と首を傾げ。
夜高ミツル
「……切ってみないとわからん」
真城朔
改めて肉塊に視線を落とす。
夜高ミツル
「ちゃんと火が通ってなかったりとかさ~~」
夜高ミツル
「……いや、言っててもしょうがないけど」
夜高ミツル
「……切るか!」
真城朔
「通ってなかったら……」
真城朔
おろおろになりかけていたが、
真城朔
ミツルの宣言にこくこく頷いた。
真城朔
肉塊を見つめます。
夜高ミツル
端の方に包丁を当て、押し込む。
夜高ミツル
す……と肉がスライスされる。
真城朔
どきどき……
夜高ミツル
断面は……よく見るローストビーフのピンク色。
夜高ミツル
「……おお……」
真城朔
「おおー」
夜高ミツル
もう一枚スライスする。
真城朔
きらきら目を輝かせます。
真城朔
スライスされる断面を見ている。
夜高ミツル
「すげえ……」
真城朔
「ローストビーフ」
真城朔
「ローストビーフだ」
夜高ミツル
「できてる……」
夜高ミツル
「な」
真城朔
「できてる」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「ローストビーフだ」
真城朔
「ローストビーフになった……」
真城朔
「すごい」
夜高ミツル
「すげ~」
夜高ミツル
「いやすごいなマジで……」
真城朔
いっぱい頷いてます。
真城朔
「低温調理器」
真城朔
「すごい」
夜高ミツル
「な」
真城朔
じー……
夜高ミツル
「……買ってよかった」
真城朔
「うん」
真城朔
頷いた。
真城朔
なるべく目線を近づけてローストビーフを見ています。
夜高ミツル
ちゃんと出来てるのが分かったので、一旦スライスする手を止める。
夜高ミツル
包丁を置いて、再びフライパンの前に。
真城朔
じっと見ている。
真城朔
見つつもちらちらと既にスライスされたローストビーフに視線が行く。
夜高ミツル
フライパンに残った肉汁を使ってソースを作る。
真城朔
視線が行ったり来たりしています。
夜高ミツル
醤油をベースに、にんにくチューブとか料理酒とかを足していく。
夜高ミツル
くるくる混ぜて軽く煮立たせて。
真城朔
「いいにおい」
真城朔
「する」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
じゅわじゅわ鳴っている……
夜高ミツル
それほど時間をかけず、ソースの方も完成する。
真城朔
おおー……になっている。
夜高ミツル
火を止めて
真城朔
ローストビーフができ……
真城朔
ソースができている……
真城朔
すごい。
夜高ミツル
「……っし、できた~!」
夜高ミツル
「あとは盛るだけ!」
真城朔
「ん」
真城朔
「できた……」
真城朔
「すごい……」
真城朔
「ローストビーフ」
真城朔
「すごい……」
真城朔
すごいになってます。
夜高ミツル
「できたなー」
夜高ミツル
「できるんだなあ」
真城朔
「できてる」
真城朔
「できた」
夜高ミツル
すごいな、低温調理器……。
真城朔
よくわからない棒、強い。
夜高ミツル
何回目かわからないが、すごいなと思っている。
真城朔
それから二人で食卓を整えて。
真城朔
昨日買った小型ツリーは一旦脇にどける。
真城朔
テレビの横でぴかぴかオーナメントを輝かせている。
真城朔
安いやつならだいたいこんなサイズだろって思ってたら安くておっきいやつあってびっくりしたな……
夜高ミツル
こんなにでかいやつがこんなに安く!?になった。
夜高ミツル
今回はそんなにでかくないやつ。
真城朔
消費社会が過ぎるよ~。
真城朔
ほどよいサイズを避けて、食卓を整える。
真城朔
100均で買ったクリスマスっぽいランチョンマットとか……
真城朔
雰囲気が出るので、敷いた。
夜高ミツル
見た目にもなんだか豪勢な感じ。
真城朔
ビーフストロガノフ。
真城朔
真城は米なし。
夜高ミツル
上から生クリームがかけてある。
真城朔
けっこう戸惑った。
真城朔
戸惑ったけど、かかっているそれを眺めながら。
真城朔
「……小さい」
真城朔
「頃」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
ぽつぽつ
真城朔
「カレー」
真城朔
「辛めのに、挑戦」
真城朔
「して」
真城朔
「……だめで……」
夜高ミツル
「あ~」
夜高ミツル
「あるある」
真城朔
「コーヒーミルク」
真城朔
「かけて」
真城朔
「食べれて」
真城朔
「…………」
真城朔
「ちょっと似てる……」
真城朔
生クリームを見ている。
夜高ミツル
「なるほどなー」
夜高ミツル
てきぱきと配膳していき、
夜高ミツル
定番になりつつあるぶどうジュースも出したり。
真城朔
ぶどうジュースを注いでいます。
真城朔
受け取って。
真城朔
ついでついで……
夜高ミツル
「俺はこういうの初めてだな」
夜高ミツル
クリームとかかかってる料理。
真城朔
「あんまり」
真城朔
「かけない」
夜高ミツル
「写真だとたま~にこういうの見たことあったけど」
夜高ミツル
「実際はなかなかなあ」
真城朔
「高級感……」
夜高ミツル
「な」
真城朔
真ん中のローストビーフもちらちら見てます。
夜高ミツル
ブロックから作ってるので、できあいのものよりたくさんある。
真城朔
おおきい。
真城朔
食べ切れる量ではないけど、うれしい。
真城朔
ミツが作ってくれたのがいっぱいある……
夜高ミツル
明日も食べれる。
真城朔
うれしい。
夜高ミツル
配膳を終えて、並んで座り
夜高ミツル
手を合わせる。
真城朔
合わせます。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
唱和して、ちょっと迷ったけど
真城朔
すぐにローストビーフに箸を伸ばしました。
真城朔
じ……
夜高ミツル
見てる。
真城朔
見られています。ローストビーフを見ています。
真城朔
しっかりローストビーフの色をしている。
夜高ミツル
初めて作るものを食べてもらう時はいつもちょっと緊張する。
真城朔
のを、口を開いて頬張り。
夜高ミツル
味見はしたけど、それはそれとして……
夜高ミツル
緊張は……する!
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
もぐ……
夜高ミツル
じ……
真城朔
じ……
真城朔
目が合います。
夜高ミツル
「……どう?」
真城朔
頷きました。
真城朔
口を押さえて。
真城朔
「ロースト」
真城朔
「ビーフ」
真城朔
「してる」
真城朔
「すごい」
真城朔
手で押さえたまままた口を動かし。
夜高ミツル
ほっと安堵の息をつく。
夜高ミツル
「そっか」
夜高ミツル
「ちゃんとできてて、よかった」
真城朔
もぐもぐ
真城朔
ごくん。
夜高ミツル
自分でも箸を伸ばす。
真城朔
「味」
真城朔
「強い、気が」
真城朔
「する」
真城朔
「肉と」
真城朔
「えーと」
真城朔
「下味……」
夜高ミツル
「ちょっと濃い目にしてみた」
真城朔
こくこく。
夜高ミツル
「家で作るとそういうとこ調整できるのがいいよな」
真城朔
「うん」
真城朔
「あと」
真城朔
「ぱさぱさしてない」
夜高ミツル
一枚取って、口に運ぶ。
真城朔
ジューシー。
真城朔
もう一枚取った。
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
まくまく……
夜高ミツル
真城の話には、こくこくとうなずいて。
真城朔
肉って感じの圧がある。
夜高ミツル
飲み下す。
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「そうだな」
真城朔
もぐもぐしながら頷いています。
真城朔
いっぱいもぐもぐする
真城朔
いつもより厚めだし 水分が多いし
真城朔
肉汁が出る……
夜高ミツル
「買ってきたのよりしっとりしてる感じがする」
真城朔
「ん」
真城朔
笑顔でこくこく。
真城朔
口を押さえて
夜高ミツル
ちゃんとできててよかったし、
真城朔
「れきはへ」
夜高ミツル
それで真城が喜んで食べてくれているので
夜高ミツル
うれしい……。
夜高ミツル
「できたてだなー」
真城朔
ごくん。
真城朔
「切ったばっか」
真城朔
「だし」
真城朔
「ローストビーフ」
真城朔
「すごい」
真城朔
またすごいになってる。
夜高ミツル
「ちゃんとローストビーフになったなー」
真城朔
「つくれた」
夜高ミツル
「よかったよかった」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ミツのローストビーフ」
真城朔
「ミツの……」
真城朔
三枚目を取ってます。
夜高ミツル
「低温調理器様様だな」
真城朔
「ミツも」
夜高ミツル
ちょっと照れたように笑う。
真城朔
「味、つけた」
真城朔
「焼いた」
真城朔
「ソース……」
真城朔
指折り。
真城朔
「した」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「ミツの……」
真城朔
三枚目を頬張りました。
真城朔
もぐもぐ
夜高ミツル
「はは……」ミツのを連呼されるのでさらに照れてきた。
真城朔
嬉しそうにもぐもぐしている。
夜高ミツル
スプーンを取って、ビーフストロガノフの方に手を伸ばす。
真城朔
いっぱい咀嚼しています。
夜高ミツル
「クリームかかったハヤシライスって感じだな」
夜高ミツル
「見た目」
真城朔
「ん」
真城朔
改めてビーフストロガノフに視線を向けます。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
言いながら、一匙すくって口に運ぶ。
夜高ミツル
見た目通り、味もハヤシライスに近い印象。
夜高ミツル
まあ材料もほとんど同じだしな……。
真城朔
けっこう時間をかけてもぐもぐしてからローストビーフを飲み下し。
真城朔
それからやっとスプーンを取りながら、
真城朔
「どんな」
真城朔
「感じ?」
真城朔
食べる前に何故か訊く。
夜高ミツル
「濃いめのハヤシライス……?」
夜高ミツル
「クリームの分味がちょっとまったりしてる感じ」
真城朔
なるほどと頷いて、
真城朔
肉ごとひと口すくって食べました。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
「気になって一応調べたんだけど、どうもクリームかかってるかかかってないかの違いぐらいっぽいんだよな」
真城朔
へえー……って顔になっている。
夜高ミツル
また掬って食べる。もくもく。
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
ごくん。
夜高ミツル
「ほんとはサワークリームってのをかけるらしいんだけど」
夜高ミツル
「売り切れてたな……」
真城朔
「ん」
真城朔
「でも」
真城朔
「おいしい」
真城朔
「豪華な」
真城朔
「感じ、する」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「だったら良かった」
夜高ミツル
「サワークリームだとどうなるかは、またその内だな」
真城朔
「また」
真城朔
「作る?」
真城朔
もうひと口。もぐもぐ。
夜高ミツル
「結構簡単だったしな」
夜高ミツル
「また作ってみる」
夜高ミツル
「結構うまくできたし」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「真城も手伝ってくれたもんな」
真城朔
「ちょっと」
真城朔
「ちょっとだけ……」
真城朔
ちょっと炒めた……
夜高ミツル
「真城が炒めた玉ねぎと肉だな~」
夜高ミツル
もぐもぐ。
真城朔
「おい」
真城朔
「しい?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「うまいよ」
真城朔
「ん」
真城朔
嬉しそうに頷く。
真城朔
頷きながら、ローストビーフをまた取りました。
夜高ミツル
ぱくぱくと食べていく。
真城朔
一旦取り皿に置いた。
真城朔
「クリスマス」
真城朔
「豪華……」
真城朔
「すごい」
真城朔
またすごいになった。
夜高ミツル
合間に匙を置いて、またローストビーフに手を伸ばし。
夜高ミツル
「あとでケーキも食べような」
真城朔
「ん」
真城朔
「ちょっと」
真城朔
「だけ……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
たぶんあんまり食べられないだろうな……と思っている。
夜高ミツル
「食べれるだけでいいから」
真城朔
思っているけど、ローストビーフを食べている。
真城朔
こくこく。
夜高ミツル
食べたいものを食べたいだけ食べてるのが嬉しい。
真城朔
咀嚼しながら頷く。
夜高ミツル
「なんだったら別に明日食べてもいいし、ケーキは」
真城朔
考え込みます。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
ローストビーフを取って、食べる。
真城朔
ごくん。
真城朔
「……たぶん」
夜高ミツル
むぐむぐ。
真城朔
「あした、の」
真城朔
「ほうが」
真城朔
ローストビーフを……
真城朔
食べるので……
夜高ミツル
飲み込んで。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「じゃあそうしよう」
真城朔
こくこく。
真城朔
「そうする」
真城朔
「したい」
真城朔
主張。
夜高ミツル
うなずいて。
夜高ミツル
真城がローストビーフで喜んでてうれしいなあになる。
真城朔
ペースを反省しているのか一旦箸を置いてミツルの顔を見ている。
真城朔
じー
夜高ミツル
「クリスマスってチキンの方がイメージあるけど」
夜高ミツル
またビーフストロガノフの方を食べはじめる。
夜高ミツル
「牛もうまいし、牛でよかったな」
夜高ミツル
「なんか豪華な感じするし」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく。
真城朔
「そう、いえば」
真城朔
「ローストチキン」
真城朔
「も」
真城朔
「同じ感じに作る……?」
真城朔
なんか、こう。
真城朔
ローストビーフとローストチキンだとかなりイメージが違う。
真城朔
名前はビーフとチキンが入れ替わっただけなのに……
夜高ミツル
「あ~」
夜高ミツル
もくもく
夜高ミツル
「どうだろうなあ」
夜高ミツル
「後で調べてみるか」
真城朔
「ん」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
「同じ感じだったら試してみれるし」
夜高ミツル
「それでできそうなら来年はチキンかな」
真城朔
「来年……」
真城朔
「……持っていく?」
夜高ミツル
「……あ」
真城朔
きょと……
夜高ミツル
「そうだった……」
真城朔
こくこく。
夜高ミツル
「半年な、半年……」
夜高ミツル
「そもそも来年どうしてるか分かんねえもんな……」
真城朔
「ん」
真城朔
「でも」
真城朔
「作る、のは」
真城朔
「試せる」
真城朔
「し」
夜高ミツル
またこうしてどこかに暮らしてるのか、まだ旅してるのか……。
真城朔
「来年じゃ」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「なくても」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「今のうちだな」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「今のうちに色々試してみよう」
真城朔
「今の、うち」
真城朔
「いろいろ……」
夜高ミツル
「そんでまあ、その内どこかに落ち着くことになったらまた買い直そう」
真城朔
言いながら四枚目を取りました。
真城朔
ちょっと強めにソースを絡めてみている。
夜高ミツル
「そんなに高いもんでもないしな」
夜高ミツル
高いといえば高いけど。
真城朔
ちょっと悩ましい顔になった。
真城朔
消耗品にしていい値段ではないが、
夜高ミツル
まあ半年使い倒せば十分元が取れた気になるだろうという判断。
真城朔
普通に買い直してもいいくらいの値段ではある。
真城朔
むずかしいライン……
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「使う」
夜高ミツル
「いっぱい使っていっぱい作るからな~」
夜高ミツル
ちょっとネットを調べただけで、思ったより膨大にレシピが出てきたので。
真城朔
「いっぱい……」
真城朔
「ほっといてたら」
真城朔
「進む、から」
真城朔
「すごい」
真城朔
「火」
真城朔
「使わないし」
夜高ミツル
「火は目離せないもんな」
真城朔
こくこく
真城朔
火は危ない。
真城朔
狩人なのでよくわかる。
夜高ミツル
「低温調理は放置してても大丈夫」
夜高ミツル
安心。
真城朔
「便利」
真城朔
「すごい」
真城朔
「ローストビーフできる」
真城朔
できた。
真城朔
できたのを食べます。
真城朔
もぐもぐ
真城朔
5枚目。
夜高ミツル
いっぱい食べてる。
真城朔
ローストビーフの方に集中しているのであまりビーフストロガノフに手をつけられていない。
夜高ミツル
ミツルの方は米とビーフストロガノフのおかわりを取りに向かう。
真城朔
もぐもぐしながら見送ります。
夜高ミツル
一杯目の半分くらいの量をよそって戻ってくる。
夜高ミツル
クリームもちょっとかけてある。
夜高ミツル
ないとただ濃いめのハヤシライスになるので。
真城朔
再現している。
真城朔
再現?
夜高ミツル
再現かな?
真城朔
けっこう気長にローストビーフを咀嚼して味わっています。
真城朔
噛むと味が一杯出てくる。
夜高ミツル
肉汁がね 出るね
真城朔
いっぱいでる……
真城朔
惣菜のよりもいっぱいでてくる
夜高ミツル
味わっている様子を眺めつつ、
夜高ミツル
自分の方はおかわりを食べはじめる。
真城朔
じー……
真城朔
もぐもぐ
夜高ミツル
真城が好きなものは真城にいっぱい食べさせてやりたいので、あんまり自分からは箸を伸ばさない。
真城朔
ごくん。
夜高ミツル
特に今回は、まだ切ればあるし……。
真城朔
切ればあるなら逆に食べていいのでは?
夜高ミツル
もっと食べたくなったらあとで切ればいいか~という感じ。
真城朔
真城ファースト
真城朔
「……ミツは」
夜高ミツル
見てるだけでうれしい。
真城朔
また小休止している。
真城朔
「クリスマス」
夜高ミツル
「ん?」
真城朔
「こういうの、で」
真城朔
「よかった?」
夜高ミツル
「こういうの」
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「真城とクリスマスっぽいことできて、楽しい」
夜高ミツル
「ツリー置いてみたり、ちょっと特別っぽいもん食ってみたり」
真城朔
ふんふん……
真城朔
「クリスマス」
夜高ミツル
「ケーキも買ってあるし」
真城朔
「っぽい」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「いろいろ」
真城朔
「豪華……」
真城朔
「ビーフストロガノフ」
夜高ミツル
「だな」
真城朔
ちょっと冷めてきたのを、ソース部分だけすくって口に含んだ。
真城朔
「ぜんぜん」
真城朔
「知らなかった」
真城朔
「こういうの」
真城朔
「だった」
夜高ミツル
「俺も調べてみるまでどういうのか全然知らなかったからなー」
夜高ミツル
「名前しか知らない料理だった」
夜高ミツル
「牛が入ってることしか分からない何か……」
真城朔
こくこく
真城朔
「おいしかった」
夜高ミツル
「だったらよかった」
夜高ミツル
「2年越しにリクエストに応えたかいがあるなー」
真城朔
「…………」
真城朔
頷いて。
真城朔
頷いてたけど。
真城朔
ふっと瞳に涙が滲んで、その顔をうつむける。
夜高ミツル
まくまくと匙を口に運んでいたが
夜高ミツル
「……?」
夜高ミツル
「真城……?」
真城朔
「……ん」
真城朔
涙を落としながら、
真城朔
「だい」
夜高ミツル
その様子を見て、手を止める。
真城朔
「じょう、ぶ」
真城朔
「だから」
真城朔
「…………」
真城朔
袖で目元を拭う。
夜高ミツル
匙を置いて、真城の頬に手をのばす。
真城朔
それでも涙が止まらないでいる。
真城朔
「かな、しく」
真城朔
「ない」
真城朔
「ないか、ら」
真城朔
「ないよ……」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「……袖で拭くと目痛くなるぞ」
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
と、やんわりと真城の手を抑える。
夜高ミツル
手に手が重なる。
真城朔
少しひんやりした体温。
真城朔
抑えられて涙を拭えなくて、ほろほろと頬を伝い落ちる。
真城朔
「……だいじょうぶ」
真城朔
「だから」
真城朔
「いつもの」
真城朔
「……いつもの、で」
夜高ミツル
手を離して、指先で真城の涙を拭う。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……でも、ほっとけないから」
真城朔
「ほっといて」
真城朔
「も」
真城朔
「別に」
真城朔
「…………」
真城朔
「……ごめん」
夜高ミツル
嬉しくて、だから泣いてるんだろうなというのは、なんとなく分かってはいるんだけど。
真城朔
俯いた。
真城朔
「気まずく」
夜高ミツル
「……いや」
真城朔
「する……」
真城朔
「また……」
真城朔
「せっかく……」
夜高ミツル
「気まずいとかではなく……」
真城朔
俯いて涙を落としている。
真城朔
背中を丸めて、肩を落とし。
夜高ミツル
俯いた頭に、掌を重ねる。
夜高ミツル
ゆるゆると、その頭を撫でる。
真城朔
撫でられている。
夜高ミツル
「……真城が、」
真城朔
ミツルがドライヤーをした癖のない髪。
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
「泣くくらいに、嬉しかったり、幸せだったり」
夜高ミツル
「そう思ってくれるのは嬉しくて……」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「ただ、泣かせたいわけではなく……」
夜高ミツル
「でも、それくらいに思ってくれるのは本当に嬉しいから……」
夜高ミツル
とか、ごにょごにょと。
真城朔
頷いて、
真城朔
笑おうとしたけど、それがうまくできないでいる。
夜高ミツル
「……だから、気まずいとかじゃないから」
真城朔
「……でも」
真城朔
「せっかく、ミツが」
真城朔
「いろいろ」
真城朔
「してくれる、たび」
真城朔
「……俺」
真城朔
「いつも……」
真城朔
いつも。
夜高ミツル
「いいんだって」
真城朔
いつもいつも、台無しにしてしまうようで、
真城朔
それが嫌で仕方ないのに、
夜高ミツル
「真城が喜んでくれてるなら、それが俺には嬉しくて」
真城朔
涙は止まらないし笑えもしない。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「そう思ってくれたなら成功だよ」
真城朔
「せい、こう」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「真城が楽しかったり嬉しかったり」
夜高ミツル
「そうなってくれたら俺には成功」
夜高ミツル
「嬉しいって思う」
真城朔
「…………」
真城朔
「……こんな」
真城朔
「でも?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
黙り込んだ。
真城朔
ぐす、と鼻を鳴らす。
夜高ミツル
「嫌で泣かれてたら困るけど……」
夜高ミツル
「でも、そうじゃないんだろ?」
真城朔
「……ミツが」
真城朔
「してくれることは」
真城朔
「うれしい……」
夜高ミツル
「なら、よかった」
真城朔
俯くように頷いた。
真城朔
「ビーフストロガノフ」
真城朔
「ローストビーフ」
真城朔
「うれしい、し」
夜高ミツル
丸い頭を撫でる。
真城朔
「おいしい」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「し……」
真城朔
撫でられながら、ぽつぽつと。
真城朔
「でも……」
真城朔
「俺、は」
真城朔
「こうだから」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「……俺、が」
真城朔
「俺が、…………」
真城朔
口を噤んでしまった。
夜高ミツル
「……真城が?」
真城朔
「……こんなじゃ」
真城朔
「なけれ、ば」
真城朔
掠れ声で漏らす。
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「でも、俺は」
夜高ミツル
「ここにいる真城が好きなんだよ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城が真城だから、なんでもしてやりたいし」
夜高ミツル
「喜んでほしい」
夜高ミツル
「楽しませたい」
真城朔
「……う」
真城朔
「ぅ」
真城朔
意味のない声を漏らす。
真城朔
「俺」
真城朔
「俺、は」
真城朔
「ミツが」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「嬉しかった、り」
真城朔
「……困らないのが」
真城朔
「いい……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「いい、のに」
夜高ミツル
「俺は、真城といるのが嬉しいよ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「嬉しくて、楽しくて、幸せだ」
真城朔
涙で潤んだ瞳でミツルを見る。
夜高ミツル
「真城といるのが、俺の幸せだよ」
夜高ミツル
そう繰り返して、また頭を撫でる。
真城朔
撫でられて姿勢が崩れていく。
真城朔
「……こんな」
真城朔
「こんな、なのに……」
真城朔
しょぼしょぼと言い訳のように。
夜高ミツル
「こんななのにじゃない」
夜高ミツル
「真城だからいいんだ、俺は」
真城朔
「いいとこ」
真城朔
「ないし」
夜高ミツル
「あるだろ~」
夜高ミツル
「真城は優しいし」
夜高ミツル
「色々気がついて、気にかけてくれたりとか」
夜高ミツル
「俺がすることに、いつも応えようとしてくれてるし」
真城朔
「……?」
真城朔
よく分かっていない顔をしている。
夜高ミツル
「飯の時、色々感想教えてくれたりとかさ」
真城朔
自分の取り柄としてピンときていない……
真城朔
「だ、って」
夜高ミツル
「ああいうの言ってもらえると、また頑張ろうって思うし」
真城朔
「ミツが」
真城朔
「してくれる、から」
真城朔
「そんなのは……」
真城朔
「それ、くらい」
真城朔
「せめて」
真城朔
「それしか……」
真城朔
「…………」
真城朔
「……やさ」
夜高ミツル
「真城が思ってるより言ってもらえると嬉しいんだよ、そういうの」
真城朔
「しい……?」
真城朔
一番最初のに一番ぴんときてない。
真城朔
「…………」
真城朔
わかんないままミツルを見る。
夜高ミツル
「優しいだろ」
真城朔
「…………」
真城朔
きょと……
夜高ミツル
「いつも俺の身体のこととか気にしてくれるし」
真城朔
「それ、は」
真城朔
「ミツが」
真城朔
「ミツがつらくなったりとか」
真城朔
「やなのは」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「俺の、勝手で……」
真城朔
「やさしい」
真城朔
「とか、じゃ」
真城朔
「なくて」
夜高ミツル
「でも、そうやって気にしてもらえるのは嬉しいよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「……迷惑じゃ」
真城朔
「ない?」
夜高ミツル
「迷惑なわけないだろ」
真城朔
「困らない?」
夜高ミツル
「困らない」
真城朔
「…………」
真城朔
「……狩り」
真城朔
「来ないでほしいって」
真城朔
「言ったら……」
夜高ミツル
「……それは」
夜高ミツル
「それは、悪いけど」
夜高ミツル
「聞けない、な……」
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「……心配してくれてるのに、危ないことするのは」
夜高ミツル
「悪い、とは思ってるよ」
真城朔
「わるく」
真城朔
「わるくない」
真城朔
「俺の勝手、だから」
真城朔
「……ミツは」
真城朔
「ミツの、好きにして、よくて」
真城朔
「だから……」
夜高ミツル
「俺のも、俺の勝手」
真城朔
「俺が……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「わがまま」
真城朔
身を竦めている。
真城朔
膝の上で指を落ち着きなく動かしている。
真城朔
部屋着のズボンを引っ張ったり皺にしたり。
夜高ミツル
「……真城がやめてほしいならそうしてやれたらいいけど」
夜高ミツル
「わがままだから、できない」
真城朔
しゅんとしています。
夜高ミツル
しょんぼりしているのをずっと撫でている。
夜高ミツル
よしよし……。
真城朔
撫でられています。
真城朔
「……ローストビーフ」
真城朔
「ビーフストロガノフ」
真城朔
ぽつり。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「おいしかった」
真城朔
「おいしい、けど」
真城朔
ちらりと食卓を見ます。
夜高ミツル
「……けど?」
真城朔
あまり量を盛っていないビーフストロガノフだけど、まだ半分は残っている。
真城朔
「……たぶん」
真城朔
「今日は」
真城朔
「もう……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ん、わかった」
真城朔
ますます泣き始める。
真城朔
「ごめん……」
夜高ミツル
「食えるだけ食ったらいいんだって」
夜高ミツル
「気にしなくていい」
真城朔
泣いています。
真城朔
「おいしかっ」
真城朔
「た」
真城朔
「うれしくて」
夜高ミツル
「うん、うん」
真城朔
「それは」
真城朔
「それは本当」
真城朔
「で」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「そう言ってもらえたら嬉しい」
真城朔
袖で涙を拭おうとして、止められたのを思い出して固まった。
真城朔
「うれしかった……」
真城朔
嗚咽混じりに訴える。
夜高ミツル
かわりにミツルの掌がおりて、指先が涙を拭った。
夜高ミツル
真城のそれより少し硬い皮膚が、目元を拭う。
真城朔
拭われる。
真城朔
瞼を伏せて指を受け入れて、
真城朔
ぐす、とまた鼻を鳴らしてからミツルを見る。
夜高ミツル
「俺は真城が食べて、美味しかったって言ってくれたらそれで」
夜高ミツル
「それだけで嬉しいから」
真城朔
「…………ん」
真城朔
「……うん…………」
真城朔
こく……
夜高ミツル
「だから、無理しないで」
夜高ミツル
「食いたいだけ食ったらいい」
真城朔
「あした」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「また、食べる……」
真城朔
「ケーキも……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「まだあるからな」
夜高ミツル
「明日な」
真城朔
頷く。
真城朔
「……ミツは」
真城朔
「まだ、食べる?」
真城朔
「まだ……」
真城朔
「食べてる、とこ」
真城朔
「だった」
真城朔
「…………」
真城朔
「のに……」
真城朔
またじわ……になってきた。
夜高ミツル
「そうだな、ついだ分は」
夜高ミツル
溢れそうになっている涙をまた拭って。
真城朔
拭われる。
真城朔
やや名残惜しげにミツルから身体を離して、
真城朔
じっとミツルを見る。
真城朔
じ……
夜高ミツル
離れる間際、軽く頭を撫でてから手を離す。
真城朔
撫でられて心地よさそうに目を細めていた。
夜高ミツル
真城のビーフストロガノフの器を取って、自分の分にかけてしまう。
夜高ミツル
それから残りを再び食べはじめる。
真城朔
じっと見つめています。
夜高ミツル
とは言え元々少なめによそっていたし、真城の分もちまっとだし。
真城朔
涙の跡が残ってはいるが、ひとまず泣き止んでいる。
夜高ミツル
さっさと食べちゃって真城とゆっくり話したい気持ちもあり。
夜高ミツル
あと真城を眺める作業がないから速い。
夜高ミツル
ぱくぱくと残りを食べ進めていく。
真城朔
ぶどうジュースはまだ飲める。飲んでいます。
真城朔
飲み干して息をつく。
夜高ミツル
やや冷めてはいるがそれはそれでわりとおいしい。
真城朔
味が濃いからね……
夜高ミツル
という感じで、真城がジュースを飲んでいた横でビーフストロガノフを食べ終わる。
真城朔
じ……
真城朔
手のひらをさまよわせている。
夜高ミツル
合間にローストビーフも食べたりした。
真城朔
よい出来のローストビーフを。
夜高ミツル
匙を置いて手を合わせる。
真城朔
ミツルに合わせて手を合わせます。
夜高ミツル
「ごちそうさま」
真城朔
「ごちそうさまでした」
真城朔
いつもの唱和。
真城朔
昭和してから、
真城朔
ちょっとどうすればいいか分からなくておろおろしている。
夜高ミツル
ジュースを飲んで一息ついて、後片付けを始める。
夜高ミツル
皿を重ねていく。
真城朔
ミツルが後片付けを始めたのに合わせて腰を上げました。
真城朔
皿は重ねられてしまったのでグラスを取る。
真城朔
始めてしまえばあとはいつもどおりなので。
夜高ミツル
いつもどおりな感じに片付け終わりました。
真城朔
洗って 拭いて 戻して
真城朔
歯を磨いて……
真城朔
ひとここち。
夜高ミツル
ソファに並んで座る。
真城朔
無言でぴっとり身体を預けています。
夜高ミツル
真城の身体に腕を回して、指先で髪をいじっている。
真城朔
癖のない髪で遊ばれている。
真城朔
少しずつ身体が傾いで
真城朔
そのうち崩れて、ミツルの膝に頭が乗った。
夜高ミツル
膝枕。
真城朔
見上げる。
真城朔
泣き腫れた瞳。
夜高ミツル
膝の上の真城を見下ろしながら、また頭を撫でている。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「俺」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
「……邪魔じゃ」
真城朔
「ない?」
夜高ミツル
「邪魔なわけないだろ~」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
何言ってんだよ~、と頭を撫でる。
夜高ミツル
わしわし。
真城朔
撫でられる。わしゃわしゃ。
真城朔
疑っているというよりは、惑っているような視線。
夜高ミツル
くちゃっとしてしまった髪を、今度は手で整えていく。
真城朔
整えられていく。
真城朔
「変、だし」
真城朔
「面倒だし」
真城朔
「……すぐ」
真城朔
「こんな、なる」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「俺は、真城といるのがいいんだよ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「普通じゃなくても」
真城朔
見上げている。
夜高ミツル
「真城とがいい」
夜高ミツル
「真城がいないとだめだ」
真城朔
最後の言葉には困ったように眉を寄せたが。
真城朔
「……ちゃんと」
真城朔
「もっと」
真城朔
「もっと、ちゃんと、したい……」
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「……俺は今のままでも困ってないけど」
真城朔
「……でも……」
真城朔
ごろりと転がった。
真城朔
ミツルのお腹に顔を埋める形になる。
真城朔
ぎゅ。
夜高ミツル
うずまった……。
夜高ミツル
「……」
真城朔
「うれしい、ことに」
真城朔
「水」
真城朔
「さしたり……」
真城朔
「やだ……」
真城朔
ぽつぽつと言い募る。
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
ゆるやかに、頭を撫でる。
真城朔
撫でられてちょっと身じろいだ。
真城朔
もぞ……
夜高ミツル
「……ゆっくりでいいよ」
真城朔
「……ゆっくり」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ゆっくり」
真城朔
「どう、しよう」
真城朔
「どうすれば」
夜高ミツル
「多分、真城が感じてることは俺が想像してるよりずっと多くて」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「それを整理するのは、難しいことだと思うんだ」
真城朔
聞いている。
夜高ミツル
「気にしなくていいよって俺が言うのは簡単だけど」
夜高ミツル
「だから気にしない、ってわけにはいかないもんだろうし」
真城朔
「…………ん」
真城朔
ミツルの腹に顔を押し付けたまま小さく頷く。
夜高ミツル
「だから、焦らなくていいから」
夜高ミツル
「時間はたくさんある」
真城朔
「たくさん……」
夜高ミツル
「話したいことがあるなら、俺がいくらでも付き合うし」
夜高ミツル
「そうしたら少しは楽になるかもで」
真城朔
「……ゆっくり……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「どれだけ」
真城朔
「かかる、か」
真城朔
「……わかんない……」
夜高ミツル
「どれだけでも」
夜高ミツル
「どれだけでも付き合うよ」
真城朔
もぞもぞと身を擦り寄せている。
夜高ミツル
「ずっと一緒だからな」
真城朔
「……ずっと」
真城朔
「ずっと、こう」
真城朔
「かも」
真城朔
「しれない」
真城朔
「……し」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「それでも、ずっといるよ」
夜高ミツル
「……それで真城が苦しいのは嫌だけど」
夜高ミツル
「だからって、無理にどうこうなってほしいわけじゃなくて……」
真城朔
「…………」
真城朔
肩が震える。
夜高ミツル
「……真城がどうなっても、それかもしかして変わらなくても」
夜高ミツル
「俺は、真城の隣にいる」
真城朔
「……ずっと」
夜高ミツル
「ずっと」
真城朔
「こんな、でも」
真城朔
「ずっと?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ずっと、一緒にいる」
真城朔
「……ずっと」
真城朔
「いっしょに……」
夜高ミツル
掌は背中をゆるゆると撫でている。
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
薄い背中が呼吸に上下している。
夜高ミツル
「ずっと、死ぬまで」
夜高ミツル
「一緒だ」
真城朔
「…………」
真城朔
ややあって、
真城朔
ぐすぐすと涙に鼻を鳴らし始めた。
真城朔
「……み」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
掌が移動して、また頭を撫で始める。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「しんだ、ら」
真城朔
「やだ…………」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
ちょっと困ったような間を置いて
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「ごめんな……」
夜高ミツル
……そうは言っても、真城は半吸血鬼。
夜高ミツル
自分は、人間。
夜高ミツル
これから何度もあるだろう狩りの全てを生きて帰れたとしても、
夜高ミツル
いずれ先に死ぬのはミツルの方だ。
真城朔
それを真城も理解していないはずはない。
真城朔
むしろ、
真城朔
だから、
真城朔
しているからこそこうも怯えるのか。
夜高ミツル
だから、あえて口を挟むこともできず。
夜高ミツル
ただあやすように、真城の頭を撫でる。
真城朔
ミツルの腹に顔を押しつけながら涙を圧し殺している。
真城朔
ふるりと肩を震わせて、しゃくりあげて。
真城朔
意識して深く息を吸って。
夜高ミツル
……こんな風に自分に縋って泣く真城を、いつか置いて逝くことになるのだろうか。
夜高ミツル
……いやだな。
夜高ミツル
どうしようもないこととはいえ、
夜高ミツル
どうしようもないことだからこそ、
夜高ミツル
それだけが、たまらなくいやだった。
真城朔
しばらくそのようにミツルのお腹で泣いていた。
夜高ミツル
手はずっと真城の頭を撫でていた。
真城朔
撫でられてあやされて髪を整えられ。
真城朔
やがてその顔が、
真城朔
ミツルの腹を少し離れて、ちらりと表情を窺う。
夜高ミツル
見下ろすミツルと目が合う。
真城朔
長い睫毛が涙に彩られている。
夜高ミツル
目が合って、少し表情が緩んだ。
真城朔
じっとミツルの顔を見返す。
夜高ミツル
目尻に溜まった涙を拭う。
真城朔
拭われて目を眇めて、
真城朔
その手を取って、濡れた頬に擦り寄せる。
夜高ミツル
固くなった掌に、真城の柔らかな肌の感触。
真城朔
心地よさそうに目を細める。
真城朔
しばらくその固い感触と、自分よりも高い体温を楽しんでいたが。
真城朔
不意に手のひらに唇を寄せ、
真城朔
ぺろりとその舌を這わせた。
夜高ミツル
「……っ、」
真城朔
舌で。
夜高ミツル
ぬる、と舌が掌を這う。
真城朔
手のひらの中央を撫ぜて、上の方へと。
夜高ミツル
指先がぴくりと震える。
真城朔
指尖球のあたりに辿り着いて、指の股を分けて、
夜高ミツル
抵抗などするはずなく、真城がしたいままに任せる。
真城朔
人差し指と中指の先をぱくりと食む。
夜高ミツル
「──っ」
夜高ミツル
指先が、暖かな粘膜に包まれる。
真城朔
熱くぬるついた口腔内へとミツルの指を含む。
夜高ミツル
「……真、城」
夜高ミツル
意味もなくその名を呼んで。
夜高ミツル
そっと、口に含まれた指先を動かす。
真城朔
第一関節、第二関節までをたやすく含んで、
真城朔
含まれた矢先に動いた指先が、
真城朔
「ん、っ」
夜高ミツル
舌の表面をやわやわと撫でる。
真城朔
喉の奥が鳴った。
夜高ミツル
その柔らかな感触を楽しみ、
真城朔
ぶるりと身を震わせながら、瞼を上げる。
夜高ミツル
指先に唾液を絡め取る。
真城朔
「んく、っ」
真城朔
「ん」
真城朔
真城の口の中で水音が立つ。
夜高ミツル
今はテレビもついていない静かな部屋に、
真城朔
熱くて柔らかい舌が熱心にミツルの指を歓迎して、
夜高ミツル
それが響く。
真城朔
舌先がその指の関節の裏側を必死に辿る。
夜高ミツル
指先が舌に触れて、絡めて。
夜高ミツル
やがて、唾液にぬるついた指が上顎の粘膜に触れる。
真城朔
「――ふ」
真城朔
半開きに鳴った唇の端からよだれが落ちて真城の首筋を伝った。
夜高ミツル
つ、と指の腹がそこを撫でる。
真城朔
「ぅ、んん」
真城朔
ぞくぞくと肩に力が入って、
夜高ミツル
ゆるやかに、丹念に、
真城朔
ソファの上に横たわった膝が、内腿が擦り合わされる。
夜高ミツル
舌よりも固いそこを指が這う。
真城朔
「ん」
真城朔
「んん、……っ」
真城朔
引き攣れたように、
真城朔
足が跳ねた。
真城朔
口の中で舌が縮こまる。
真城朔
唇は噛み締められるけれど辛うじて歯は開かれたまま、
夜高ミツル
それを見て、指の動きを止める。
真城朔
首を竦めて全身を震わせて、
夜高ミツル
余計に刺激しないようゆっくりと、指を引き抜く。
真城朔
口の端からはさらに唾液を溢れさせて。
真城朔
「っは」
真城朔
「ぁ」
夜高ミツル
指先と真城の唇の間、唾液が糸を引いて、落ちた。
真城朔
そのぶん唇の端に唾液が溜まる。
真城朔
それを拭えないまま、
真城朔
ゆっくりと瞼を上げて、熱の灯った瞳でミツルを見上げる。
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
呼気が荒い。
真城朔
「……み」
夜高ミツル
「……」
真城朔
「つ」
夜高ミツル
「……ベッド」
夜高ミツル
「行く、か」
真城朔
「…………」
真城朔
頷いた。