2020/12/31 夜明け前

 
2020年12月31日、早朝も早朝、夜明け前。
空がほの明くなってきた頃。
真城朔
マンスリーマンションの扉を開けながら、真城は気遣うようにミツルを見ている。
夜高ミツル
気遣われながら扉をくぐり、出かける前に玄関先に広げておいたブルーシートの上に立つ。
夜高ミツル
真城も中に入れさせて、扉を締める。
夜高ミツル
狩りの後の姿を他の住人に目撃されるのは……できるだけ避けたい。
真城朔
武装のベルトを外してブルーシートの上に下ろし、靴を脱ぐ。
真城朔
手袋を外して玄関先に置いてあったリモコンを手にとった。暖房をつける。
夜高ミツル
「雪ヤバかったなぁ……」
夜高ミツル
コートを脱いで、雪を払う。
真城朔
同じくコートを脱ぎながら頷く。
真城朔
「まだまだ」
真城朔
「積もる……」
夜高ミツル
「だな~……」
夜高ミツル
「年明けたら更にだよなぁ」
真城朔
こくこく。
真城朔
ウェットティッシュを取った。ミツルにも差し出す。
夜高ミツル
「対策できる分だけは7月の時よりマシだけど……」
夜高ミツル
「ん、ありがと」
真城朔
「7月は」
夜高ミツル
受け取って、何枚か取り出す。
真城朔
「……そもそも」
真城朔
「雪、ふらないとこで……」
真城朔
だから大変だった、みたいなことをもそもそと言っている。
真城朔
ウェットティッシュで手を清めて浴室に繋がる扉へと手をかける。
夜高ミツル
「事故とかの心配しないでいいのは気が楽だな」
夜高ミツル
言いながら、あくび。
真城朔
「起きるときは」
真城朔
「起きる」
真城朔
血の落ちていないことを確認しながら洗面所へと。
夜高ミツル
「起きるな~」
夜高ミツル
眠気と疲れで受け答えがぼんやりしてきている。
真城朔
温水を出してじゃぶじゃぶ手を洗う。
真城朔
こちらは逆にまだ狩りの後なので比較的てきぱきしている。
夜高ミツル
真城を追って洗面所に入り、後ろでぼんやりと順番を待っている。
真城朔
とはいえすぐに風呂に入るのでそれほど丹念にではなく。
真城朔
泡もほどほどに洗い流し、ミツルに場所を譲るとうがいを始めた。
真城朔
がらがら……
夜高ミツル
場所を譲られて手を洗う。
夜高ミツル
冷えた指先に、湯の暖かさが心地いい。
夜高ミツル
こちらもそこそこに手を洗って、うがいをして。
真城朔
身を折って水を吐いています。
真城朔
口を拭う。
真城朔
「……怪我……」
夜高ミツル
そんな感じで洗面台でわちゃわちゃと。
夜高ミツル
「んー?」
夜高ミツル
「ああ、そんなしてないよ」
真城朔
自分の服に手をかけながら気遣わしげに。
夜高ミツル
「ちょっと切れたくらい」
夜高ミツル
「真城は? 大丈夫か?」
真城朔
こくこく頷きます。
真城朔
「すぐあがって」
真城朔
「手当て……」
夜高ミツル
ミツルの方は太もも辺りが少し裂けて、血が滲んでいる。
夜高ミツル
とは言え立ち姿に無理した様子もなく。
夜高ミツル
「ん、頼む」
真城朔
また頷いた。
真城朔
ズボンのボタンを外してジッパーを下ろし、
夜高ミツル
のそのそと服を脱いでいく。
真城朔
返り血の付着したそれを予め用意した黒い袋に突っ込んだ。
夜高ミツル
ぽいぽい。
真城朔
上はコートがあったので大丈夫。
真城朔
普通に脱いでカゴに放り込んでいく。
夜高ミツル
ズボンを下ろす時には、血で貼り付いた布が傷口を引っ張る痛みに少しだけ顔を歪めた。
真城朔
ちらと顔を窺う。
夜高ミツル
黒い袋に突っ込んで
夜高ミツル
「大丈夫だいじょうぶ」
真城朔
「…………」
真城朔
頷いた。
真城朔
自分の服を脱いでしまってから思い出したようにヒーターをつけて、
真城朔
先に浴室に入ります。
真城朔
最後にもう一度ちらりとミツルを窺ってから、
真城朔
けれどさっさと扉を閉めてしまう。
真城朔
シャワーの音。
夜高ミツル
待ってる間に洗濯機に洗濯物を突っ込んだり。
真城朔
磨りガラス越しに真城の身体がシャワーを浴びる様子が見える。
夜高ミツル
そうしながら、また大きくあくび。
真城朔
髪を流して、手早く汚れを落として、
真城朔
そう時間もかけずにシャワーが止まる。
夜高ミツル
ドア越しに見える真城の姿に、あー血もあげないとなあとかぼんやり思った。
真城朔
浴室の扉が開いた。
夜高ミツル
バスタオルを差し出す。
真城朔
受け取ります。被ってバスマットの上に。
真城朔
「……準備」
真城朔
「してる……」
真城朔
ぽたぽたと水を落としながら。
真城朔
「急がなくて」
真城朔
「いい、から」
真城朔
「ミツは」
夜高ミツル
「ん、頼む」
真城朔
「あったまって……」
夜高ミツル
「ありがとな」
真城朔
「…………」
真城朔
こくこく。
真城朔
気遣わしげにミツルに視線を向けながら身体を拭き始めます。
真城朔
特に脚の傷などに。
夜高ミツル
残りの服を脱いで洗濯機に突っ込んで、真城と入れ替わりに浴室へ。
夜高ミツル
扉を締める。
真城朔
脱衣所の真城はそこそに身体を拭いてしまい、汚れた服などをまとめて出ていきます。
夜高ミツル
お湯を浴びてぼんやりしている。
夜高ミツル
あったかい…………。
夜高ミツル
汚れやら、こびりついた血やらを洗い流していく。
夜高ミツル
このままぼやぼやとお湯を浴びていたい気持ちになるが、そうもいかないので。
夜高ミツル
ささっと頭や身体を洗って、浴室を出る。
真城朔
玄関口ではブルーシートの上に置いたコートや武装などがまとめ直されて、
真城朔
半分に折りたたまれたブルーシートに覆い隠されている。
夜高ミツル
真城がやってくれてるなー……
真城朔
リビングではルームウェアを着た真城が医療キットを広げて床べたに座っていた。
真城朔
強めに暖房が入っている。
夜高ミツル
首にタオルをかけた姿で、そちらへぺたぺたと歩いていく。
夜高ミツル
「片付け、ありがとな」
真城朔
首をふりかけて、
真城朔
こくこく頷いた。
真城朔
「…………」
真城朔
「傷……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
どうせすぐに手当してもらうからと、ルームウェアの下は履いてない。
夜高ミツル
真城の隣に腰を下ろす。
真城朔
揃えた膝をミツルの脚の前につき。
夜高ミツル
言ったとおりに大して深い怪我でもなく、出血ももう止まっている。
真城朔
ミツルの目を窺ってから、
真城朔
消毒液を浸したガーゼを傷へと当てる。
真城朔
なるべく傷に障らないよう、こわごわ、弱い力で。
夜高ミツル
ちょっとしみる。
夜高ミツル
けどまあそんなに大した痛みもなく。
夜高ミツル
「……そこまで気使わないでも大丈夫だぞ?」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルの顔を見た。
真城朔
血に汚れたガーゼを袋に捨てている。
夜高ミツル
「……気にしてくれるのは嬉しいけどな」
夜高ミツル
言って、頭を撫でる。
真城朔
撫でられて俯いた。
真城朔
消毒が済んだらいつも使っている大きめの傷パッドを出して、ぺたりと貼る。
夜高ミツル
貼られました。
真城朔
傷に響かないように丁寧に貼っています。
真城朔
丁寧に……慎重に……
真城朔
貼りながら。
夜高ミツル
気遣われている……
真城朔
うつむいた頬に涙が落ちた。
夜高ミツル
「……真城?」
真城朔
「……また」
真城朔
「怪我……」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「大丈夫だって、これくらい」
真城朔
濡れた髪を首筋にはりつかせながら、ぽろぽろと泣いている。
真城朔
「俺は」
真城朔
「なにも、ない」
真城朔
「のに」
夜高ミツル
言ってから、いや、と首を振って。
夜高ミツル
「……心配かけてごめん」
真城朔
ミツルを見た。
夜高ミツル
「……真城に怪我がなくてよかったよ、俺は」
真城朔
「…………」
真城朔
「しんぱ、い」
真城朔
「は」
真城朔
「……俺が」
真城朔
「勝手に」
真城朔
「だか、ら」
夜高ミツル
涙に濡れる頬に手を伸ばす。
真城朔
触れられた上からまた涙が落ちる。
夜高ミツル
「……真城に心配かけないでいいくらい、強かったらよかったんだけど」
真城朔
首を振る。
真城朔
「俺が」
真城朔
「俺が、弱い……」
夜高ミツル
溢れる涙を拭う。
真城朔
「俺のせいで……」
夜高ミツル
「真城のせいじゃないよ」
真城朔
拭われて目を眇めた。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……真城にこうやって心配かけさせるの分かってて、俺は」
夜高ミツル
「真城を一人にしたくないから、一緒に行ってる」
夜高ミツル
「俺がそうしたくてしてることだ」
真城朔
じっとミツルを見ている。
夜高ミツル
「真城のせいじゃない」
真城朔
「……でも」
真城朔
「俺が」
真城朔
「狩り、なんか」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……真城がしたいこと、させてやりたいんだ」
真城朔
「…………」
真城朔
「わがままだ……」
真城朔
「俺の……」
夜高ミツル
「いいよ」
真城朔
「俺の」
夜高ミツル
「もっと言ってほしいくらいだけどなー、俺としては」
真城朔
「わがままで」
真城朔
「ミツが、……」
真城朔
「…………」
真城朔
俯いた。
夜高ミツル
頬に触れていた手を下ろして、真城の身体に回して
夜高ミツル
抱き寄せる。
真城朔
抱き寄せられて、その肩に顔を埋めた。
真城朔
脚の傷に障ることのないよう腰が引けている。
夜高ミツル
腰が引けているのに気づけば、更に腕に力を込めて。
真城朔
「っ」
夜高ミツル
そうして、あやすように背中を撫でる。
真城朔
逆らえず密着する。
夜高ミツル
「真城が望むことを、俺は叶えたいんだよ」
真城朔
撫でられて小さく声を漏らして、
真城朔
「……ミツが」
真城朔
「ミツが、いたいの」
真城朔
「あぶないの」
真城朔
「俺は」
真城朔
「やだよ……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「そうだよな……」
夜高ミツル
「ごめんな」
真城朔
首を振る。
夜高ミツル
「俺もわがままなんだ」
真城朔
「…………」
真城朔
声を殺して泣いている。
夜高ミツル
「……全部叶えてやれたらいいんだけど」
真城朔
乱れた呼気の音が耳近く響く。
夜高ミツル
「それで真城が一人で狩りに行くのは、嫌で」
夜高ミツル
「……こうして、泣かせるのが分かってるのに」
真城朔
「……俺が」
真城朔
「泣く、のが」
真城朔
「…………」
真城朔
「わるい……」
真城朔
言いながらもぐすぐすと鼻を鳴らした。
夜高ミツル
「俺が泣かせてるからだろ」
真城朔
首を振る。
真城朔
ミツルの肩にまた顔を押しつける。
夜高ミツル
手のひらは変わらず背中を撫でている。
真城朔
濡れた髪、濡れた頬、震える身体をミツルに寄せて、
真城朔
やっとその背中に腕を回して、息を殺して泣いている。
夜高ミツル
更に身を寄せようと抱きしめる。
真城朔
「っ」
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「ごめん……」
夜高ミツル
「……謝られること、されてないよ」
真城朔
「面倒」
真城朔
「かけて、る」
真城朔
「から」
夜高ミツル
「気にすることないって」
夜高ミツル
「俺は真城といれたらそれで嬉しいんだから」
真城朔
「疲れてる」
真城朔
「だ、ろうに」
真城朔
「…………」
真城朔
ふと思い立ったようにちょっとだけ身体を離した。
真城朔
じっとミツルの顔を見る。
夜高ミツル
「……?」
真城朔
至近距離。
真城朔
「…………」
真城朔
「寝る……?」
夜高ミツル
目が合う。
真城朔
首を傾げた。
夜高ミツル
「……あ~」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「寝るかぁ」
真城朔
「…………」
真城朔
涙を落としながら頷く。
夜高ミツル
「手当、ありがとな」
夜高ミツル
改めて言って、頭を撫でる。
真城朔
頷いたような俯いたような。
夜高ミツル
濡れた髪の感触に、自分の肩にかけていたバスタオルを真城の頭に乗せた。
真城朔
ばふ。
夜高ミツル
わしゃわしゃ~……と髪を拭く。
真城朔
拭かれています。
真城朔
「……寝る」
真城朔
「寝ない……?」
真城朔
されながら。ややおろつく。
夜高ミツル
「寝る」
夜高ミツル
「ねるけど」
夜高ミツル
「濡れてたから……」
夜高ミツル
つい
真城朔
「…………」
真城朔
おろおろ……
真城朔
腕をおろして気持ちおろおろしながら拭かれています。
真城朔
膝の上で手持ち無沙汰に指を動かしている。
真城朔
すり合わせたり。握ったり。
夜高ミツル
満足したので手を止めました。
真城朔
手が止まり、ちら、とミツルを窺う。
夜高ミツル
タオルをどけて、乱れた髪を手ぐしで整える。
真城朔
整えられます。
真城朔
きょど……
夜高ミツル
「よし」
夜高ミツル
「じゃあ寝るか~」
真城朔
「……ん」
真城朔
おずおず頷く。
夜高ミツル
バスタオルはさしあたりソファの背にでもかけてしまう。
夜高ミツル
それから真城の手を引いて、ベッドの方へ。
真城朔
とぼとぼついていきます。
真城朔
手を握り返す。
夜高ミツル
色々片付けるのは……一旦寝て起きてからでいいだろという気持ち。
夜高ミツル
真城と一緒に、ベッドに潜り込む。
真城朔
布団の中、ミツルに身体を擦り寄せる。
夜高ミツル
その背中に腕を回す。
真城朔
ミツルのルームウェアの胸元に指を寄せ。
夜高ミツル
布団にくるまれて、二人で身を寄せ合う。
真城朔
あたたかい。
真城朔
温度が、熱が、触れている。
夜高ミツル
吐息さえも感じられる距離。
夜高ミツル
「おやすみ、真城」
真城朔
「……おやすみ」
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
小さく笑って、瞼を閉じた。
夜高ミツル
ゆっくりと、瞼が持ち上がる。
夜高ミツル
部屋の中が薄暗い。
夜高ミツル
かなり寝入ったようで、頭は随分とスッキリしている。
真城朔
ミツルの胸元に頬を寄せた真城が、涙を滲ませながらミツルを見上げている。
夜高ミツル
「……おはよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「おはよ……」
真城朔
視線がさまよう。
夜高ミツル
指先で、真城の涙を拭う。
真城朔
拭われて目を細めた。
夜高ミツル
そのまま手を頭に添わせて、ゆるゆると撫でる。
真城朔
濡れたまま眠ったので少し癖がついている。
真城朔
頭の丸みはそのまま。
夜高ミツル
それを整えるように、指先で髪を梳く。
夜高ミツル
丸いな~。
真城朔
髪を梳かれるままにうとうとと眠たげになってきた。
真城朔
涙の気配は消えないが。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「んー?」
夜高ミツル
指先は髪をいじりながら返事をする。
真城朔
「…………」
真城朔
「やっぱり」
真城朔
「俺のせいで……」
真城朔
話が戻っている。
夜高ミツル
戻ってるなあ。
夜高ミツル
「俺はしたいことしかしてないよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「怪我、は」
真城朔
「したいことじゃ……」
夜高ミツル
「それはそうだけど……」
夜高ミツル
「これはまあ、やりたいことを通すために仕方ないから」
夜高ミツル
「……心配かけるのは、悪いと思ってるけど」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「狩りに行きたいのが真城のわがままっていうなら」
夜高ミツル
「それについていきたいのは、俺のわがままだから」
夜高ミツル
「真城のせいじゃない」
真城朔
「……でも……」
真城朔
でも、と繰り返して
夜高ミツル
「真城のせいじゃないよ」
真城朔
ミツルの顔を見ていられなくなって、胸元に視線を落とす。
夜高ミツル
とこちらも繰り返す。
真城朔
「……うう」
真城朔
うめいた。
夜高ミツル
頭を撫でていた手がおりて、背中に回る。
夜高ミツル
真城の薄い背中を、柔らかく撫でる。
真城朔
背骨と肩甲骨の浮く背中。
真城朔
ミツルの手のひらがそこを柔らかく撫でる感触にぶるりと身を震わして、
真城朔
身を丸めれば顔がその胸元に収まる。
夜高ミツル
背骨をなぞるように、繰り返し繰り返し
夜高ミツル
手のひらがそこを往復する。
真城朔
「ん」
真城朔
「……っ」
夜高ミツル
「……あ」
夜高ミツル
「そうだ、真城」
真城朔
びくと肩が跳ね、額をさらにミツルの胸に押しつけて、
真城朔
ほうと息をついたところを、
夜高ミツル
「……血、飲むか?」
夜高ミツル
「血戒使ってたよな」
真城朔
名前を呼ばれて顔を上げる。
真城朔
提案にぱち、と目を瞬いて。
真城朔
「……う」
真城朔
「ぅ…………」
夜高ミツル
じー……と見ている。
夜高ミツル
真城の返答を待つ。
真城朔
見つめられてたじろぎ、おろおろと視線を彷徨わせ、
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「怪我」
真城朔
「し、た」
真城朔
「し」
真城朔
「した、のに」
夜高ミツル
「そんなに血出てないから大丈夫」
真城朔
「……お、れは」
真城朔
「だい」
真城朔
「じょう、ぶ」
真城朔
「だし」
夜高ミツル
じー……
真城朔
消え入るような声でもごもごと抗弁している。
夜高ミツル
「……遠慮されない方が、俺は」
夜高ミツル
「嬉しいんだけど」
真城朔
ちらちらとミツルの顔を窺う。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……飲む?」
夜高ミツル
と再び問いかける。
真城朔
「…………」
真城朔
「……ちょっ」
真城朔
「ちょっと、……」
真城朔
「だ、け」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
頷いたはいいものの、
夜高ミツル
その返答に笑みを返して。
真城朔
煮え切らずにおどおどしている。
夜高ミツル
上半身を起こす。
夜高ミツル
寝たままだとベッドを汚すので……。
真城朔
合わせて身体を起こした。
真城朔
しょんぼりと俯いている。
夜高ミツル
サイドボードに手を伸ばして、引き出しを開ける。
夜高ミツル
絆創膏やらハンドタオルやらを取り出して準備を整える。
真城朔
帰ってきた時の手際のよさはどこにやら、
真城朔
ぼんやりとミツルが準備をする様子を眺めている。
真城朔
かなり居心地が悪そうに身を竦めているが。
夜高ミツル
こっちは一度寝て起きたので元気!
夜高ミツル
てきぱき。
真城朔
準備が整っていくにつれ表情に後悔を滲ませていく。
夜高ミツル
準備ができると、真城を抱き寄せる。
真城朔
いたが、抱き寄せられて、
真城朔
ミツルの首に頬を預け。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
真城の後ろ頭を撫でている。
夜高ミツル
いつでもどうぞとばかりに、真城の眼前に首筋がさらされている。
真城朔
黙り込んでいる。
真城朔
ミツルのルームウェアの裾を掴んだまま、
真城朔
この期に及んで迷う気配。
夜高ミツル
「……どうした~?」
夜高ミツル
促すように、真城の頭を軽く抑える。
真城朔
「う」
真城朔
「…………」
真城朔
また黙ったあとに。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「怪我……」
夜高ミツル
「大丈夫だって」
夜高ミツル
「キツくなったらちゃんと言うから」
真城朔
「…………」
真城朔
渋々といった様子で頷いた。
真城朔
目を伏せる。
真城朔
ミツルの首に顔を押しつけて、
夜高ミツル
「……っ、」
真城朔
唇でその線を探る。
真城朔
生暖かい舌で肌を濡らし。
夜高ミツル
ぞわ、と肌が粟立つ。
真城朔
そこを唇でやわやわと食んだあと、
真城朔
牙が立つ。
夜高ミツル
息を詰める。
夜高ミツル
肌を鋭い牙が突き破る痛み。
真城朔
半吸血鬼の牙が皮膚を破り、
真城朔
肉に食い込んで、血を溢れさす。
真城朔
窄まった唇が傷口に触れ、吸い上げる。
真城朔
リップ音。耳元で。
夜高ミツル
唇の、舌の柔らかな感触。
夜高ミツル
痛みは一瞬で、すぐに快感に取って代わられる。
真城朔
血を吸い上げるさなかにも舌が皮膚を辿る。
夜高ミツル
真城の背中に回した腕に、力がこもる。
真城朔
滲んだ血を逃さぬように舌を這わせてすくい取り、
真城朔
丹念に舐めしゃぶっていたかと思えば、
夜高ミツル
そうされる度に、びく、と身体をこわばらせる。
真城朔
牙と唇が一度離れ、
真城朔
そしてもう一度、首筋に食らいつく。
夜高ミツル
なされるがまま、真城に身を委ねている。
真城朔
再びの新鮮な痛みを、這わされる舌と唇の熱が換えていく。
真城朔
絶え間ない水音。
夜高ミツル
吐息に熱がこもる。
真城朔
背中に回った指がぎゅ、とルームウェアを握りしめて、
真城朔
それ以上に熱烈に牙が食い込む。
夜高ミツル
尚更に腕に力を込めて抱き寄せれば、熱を持った箇所が真城に当たる。
真城朔
それにも構わず血を啜っている。
真城朔
溢れかけた血混じりの唾液すら惜しいとばかり、
真城朔
貪欲に舌で追うて肌を撫ぜ。
夜高ミツル
息を荒げ、時折眉根を寄せて、真城に自身の血を供する。
真城朔
最後にひときわ強く、
真城朔
音を立てて傷口を吸い上げる。
真城朔
唇が離される。
夜高ミツル
身体を震わせる。
真城朔
熱の籠もった息が真城の唾液で濡れた首筋にかかる。
真城朔
首筋から顔を離して
夜高ミツル
そんな些細な刺激ですら、ひどく意識してしまう。
真城朔
とろりとした瞳でミツルを見返した。
夜高ミツル
顔を寄せる。
真城朔
「あ」
真城朔
惑ったように短い声が漏れた。
夜高ミツル
微かに血の残る唇に、それに構わずに唇を重ねる。
真城朔
けれど拒めずに唇を受け入れる。
真城朔
鉄臭い血の味がする。
夜高ミツル
舌を割り入れれば、尚更に。
真城朔
「ん、……っ」
真城朔
目を伏せた。
真城朔
身体と同じように、口の奥で舌を縮こめている。
夜高ミツル
それを捕らえるように舌を伸ばして、絡め取る。
真城朔
喉が鳴った。
夜高ミツル
舌の上に広がる血の味にも構わずに、
真城朔
絡め取られた舌がひくりと震えて、
夜高ミツル
あるいはそれに煽られるように。
真城朔
恐る恐るにミツルに応える。
真城朔
濡れた音が頭の奥から直接耳に響いて、熱をあげる。
夜高ミツル
貪りあうように唇を重ね、粘膜を絡ませる。
真城朔
「は」
真城朔
「っ、ん」
真城朔
「んぅ」
夜高ミツル
ルームウェアをまくりあげて、手のひらが素肌の上を這う。
真城朔
息を継ぐ端から舌を押し込まれ、
夜高ミツル
骨の浮いた背中を、つ……と下からなで上げる。
真城朔
生肌に触れる他人の熱にぎくりと膝を跳ねさせた。
夜高ミツル
「っ、真城……」
夜高ミツル
口づけの合間に、名前を呼ぶ。
真城朔
重ねた唇の奥、
真城朔
喉が小さくくぐもった音を漏らし。
真城朔
「み」
真城朔
「……ミ、ツ」
夜高ミツル
「真城……」
真城朔
「まっ、て」
夜高ミツル
「……?」
真城朔
熱に飢えた肌を震わせながら、
夜高ミツル
待ったをかけられて、少しだけ顔を離す。
真城朔
見つめる瞳に切実な色。
真城朔
「き、……」
真城朔
「きず」
真城朔
「が」
真城朔
「まだ」
夜高ミツル
「…………」
真城朔
ちらりとミツルの首筋に目をやる。
夜高ミツル
「…………あ~……」
真城朔
「ちゃん、っ」
真城朔
「ちゃんと」
真城朔
「しない、と」
真城朔
「…………」
真城朔
訴える今も、
夜高ミツル
「はい……」
真城朔
真城の吐息は熱い。
夜高ミツル
それはミツルも同じことで。
真城朔
もじもじと膝を擦り寄せては唇を噛んでいる。
夜高ミツル
そそくさと、出しておいた絆創膏に手を伸ばした。
真城朔
テーブルの上に取皿や箸を並べている。
夜高ミツル
こちらは食事を並べていく。
真城朔
電源のついたテレビからは紅白の歌が流れているが、あまり強い関心を持っている様子もなく。
夜高ミツル
買っておいたオードブルやローストビーフにサラダ。
夜高ミツル
オードブルは今回は中華メインのもの。
真城朔
風呂上がりのルームウェア姿、ドライヤーも済んで落ち着いた様子。
真城朔
並べられる料理をじっと見ている。
夜高ミツル
流石に狩りの翌日ということで、全て出来合いのものを。
真城朔
ちゃんと帰ってこれてよかった……
夜高ミツル
入院する羽目にならないでよかった~
夜高ミツル
あとは冷蔵庫からジュースを取ってくる。
夜高ミツル
以前買ったのと同じぶどうのジュース。
真城朔
年越しなので。
真城朔
真城はまだ米を食べないのでお茶碗はなし。
夜高ミツル
そんな感じで紅白をBGMに食卓を整えて、腰を下ろす。
真城朔
座るのをじっと見ています。
真城朔
結局目の前のテレビの紅白よりも隣のミツルの方を見ている。
夜高ミツル
ミツルの方も、さしてテレビには興味なく。
夜高ミツル
あんまり知らないし……。
真城朔
しらないねぇ……
真城朔
なんか男性アーティストがラブソングうたってるな……
夜高ミツル
名前くらいはさすがに聞いたことある。
夜高ミツル
お互い準備ができた所で手を合わせる。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
倣います。
真城朔
箸を取りながら。
真城朔
「年末……」
夜高ミツル
時間はなんだかんだしてたら22時を回ってしまった。
夜高ミツル
「今年は色々あったな……」
真城朔
なんだかんだ……
真城朔
ブルーシートはまだ片付いていない。明日以降でいいかとなった。
夜高ミツル
なんだかんだヤッてたらねえ(逆ギレ)
真城朔
ワハハワハハ
真城朔
ミツルの言葉に少し肩を落とす。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
色々あったな~としみじみしている。
真城朔
「俺の」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……何も知らないままだったら、きっと真城は俺が知らないところで死んでた」
夜高ミツル
「そりゃまあ、大変は大変だったけどさ」
夜高ミツル
「こうして真城と年が越せて嬉しいよ」
真城朔
俯く。
真城朔
箸を持ったまましょんぼりとしている。
夜高ミツル
「巻き込まれて良かったって思ってるくらいなんだからさ、俺は」
真城朔
じわ、と目の端に涙が滲みかけたが。
真城朔
落ちないようにこらえている。
夜高ミツル
箸を持っていない方の手で頭を撫でる。
真城朔
目を閉じた。ので、そのぶんぽろりと落ちる。
真城朔
こわごわと少しだけ頭をミツルの方へと傾ける。
夜高ミツル
よしよし……
真城朔
箸のない手でぐしぐしと涙を拭っている。
夜高ミツル
撫でて、髪を梳いて、あやす。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「ミツ、は」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「?」
真城朔
もう一度涙をぬぐった。
真城朔
「……さめる……」
真城朔
温め直したばかりのオードブルを示す。
夜高ミツル
「……あ」
夜高ミツル
「うん、そうだな」
夜高ミツル
「食べる食べる」
真城朔
「……ごめん」
夜高ミツル
真城を撫でていた手を下ろす。
真城朔
ちょっとだけ名残惜しそうに食事に向き直ります。
夜高ミツル
謝罪には首を振って
夜高ミツル
改めて箸を持ち直す。
真城朔
悩んでから、肉団子を取ってみる、けど。
真城朔
「…………」
真城朔
取皿にとって。
真城朔
むずかしい顔で眺めている。
夜高ミツル
その様子を見て、
夜高ミツル
「……どうした?」
夜高ミツル
「大きい?」
真城朔
小さく頷いた。
真城朔
「いろいろ」
真城朔
「いっぱい、ある」
真城朔
「し」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「そうだな」
真城朔
おろろ……
夜高ミツル
「適当に割って、残りは俺の皿に置いていいから」
真城朔
おろ……となりつつ、頷きました。
真城朔
箸で肉団子を縦に割る。
夜高ミツル
「せっかく色々あるしなー」
夜高ミツル
「食べれそうなだけ、無理せず取ればいいから」
真城朔
「……ん」
真城朔
こくこく。
真城朔
半分に割って、
真城朔
ちょっと悩んでから、さらにもう半分割った。
真城朔
残った1/2を箸でつまんで、ミツルの顔を窺う。
夜高ミツル
自分の取皿を真城側に寄せる。
真城朔
そこに置きました。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷く。
真城朔
気を取り直して1/4肉団子を取る。
夜高ミツル
ミツルとしては真城が何か食べるだけで嬉しいので
夜高ミツル
食べきれない分を自分の皿に移されただけのことにも妙に満足げ。
真城朔
頬張るという程のサイズではないが、口に含んでもごもごと動かしています。
真城朔
もごもご……
夜高ミツル
やはり嬉しそうに、真城が肉団子を食べる様子を見る。
真城朔
もごもごと食べながらミツルの顔を見ます。
夜高ミツル
「うまいか?」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
笑みを深める。
真城朔
「肉……」口を押さえながら
夜高ミツル
「肉だなー」
夜高ミツル
「俺も食べよ」
真城朔
「タレ? が」
夜高ミツル
真城が皿に置いた1/2肉団子を口に運ぶ。
真城朔
もごもご
真城朔
「濃い」
夜高ミツル
「中華って味濃いよな、なんか」
真城朔
頷く。
真城朔
こくこく……
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
もぐもぐしつつ。
夜高ミツル
茶碗をとってご飯も食べる。
真城朔
「おい」
真城朔
「しい?」
夜高ミツル
狩りのあと何も食べずに寝たので、大盛り。
夜高ミツル
しばらく口をもごもごさせたあと、飲み込んで。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「おいしい」
真城朔
「ん」
真城朔
小さく笑った。
真城朔
残った1/4を食べる。
夜高ミツル
サラダを引き寄せる。
夜高ミツル
サラダはミツルしか食べないので取皿に移すこともなく、ひょいひょいと食べていく。
真城朔
ミツルがサラダをとってるのもじっと見てます。
夜高ミツル
もしゃもしゃ……
真城朔
もごもご……
夜高ミツル
葉っぱの味がするな~。
真城朔
肉団子を飲み込んだので、ちょっと悩んでいます。
真城朔
オードブルとローストビーフの間で。
夜高ミツル
葉っぱに飽きたので春巻きに手を伸ばす。
真城朔
ミツルが春巻きを取ったのでそれを見る。
真城朔
じ……
夜高ミツル
「ちょっと食う?」
真城朔
ぱちぱち。
真城朔
瞬きしてから、
真城朔
おずおず頷く。
真城朔
「半分……」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「……より」
真城朔
「ちょっと」
真城朔
「少ない……」
真城朔
「くらい……?」
夜高ミツル
「りょうかーい」
夜高ミツル
春巻きの中心を箸で割った後、その更に真ん中辺りに箸を置いて
夜高ミツル
「このくらいいけそう?」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷く。
真城朔
じ……
夜高ミツル
うなずいたのを見て、そこで割る。
夜高ミツル
割ったものの真ん中側、具の多い方を真城の皿に移す。
真城朔
取皿を差し出して受け取りました。
真城朔
「ありがとう」
夜高ミツル
笑顔で応える。
真城朔
頷いて、箸で取ります。
真城朔
口に含む。
真城朔
まくまく……
夜高ミツル
それをやっぱりじっと眺めている。
真城朔
紅白はなんか有線でやたら訊くやつ流れてる。
夜高ミツル
そんなだから、この二人の食事は時間がかかる。
夜高ミツル
やたら聞くやつだなあ。
夜高ミツル
もっとも、食事に時間がかかったところで困ることもないので。
真城朔
それはそれとして、ミツルが食べていない様子だと
真城朔
真城が気遣わしげに視線をやる。
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
じ……
夜高ミツル
見られると、さすがに食事を再開する。
真城朔
ほ……
夜高ミツル
割った残りの春巻きを自分も食べる。
真城朔
「たけのこ」
夜高ミツル
「たけのこだなー」
真城朔
「たけのこの」
真城朔
「味、は」
真城朔
「よくわかんないけど」
真城朔
「食感が……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「刻まれてる」
真城朔
「硬いやつ……」
真城朔
もごもご……
夜高ミツル
「あと椎茸とか春雨とか肉とか……」
夜高ミツル
そんな感じかなー、とむぐむぐしつつ。
真城朔
こくこく……
真城朔
「細かい」
夜高ミツル
「色々入ってるな」
夜高ミツル
春巻きを食べる。米も食べる。
真城朔
「中華だから……?」
夜高ミツル
「中華じゃなくても色々入ってるやつは色々入ってないか?」
真城朔
「…………」
真城朔
「いろいろ」
夜高ミツル
色々入ってるやつはそりゃ色々入ってるよ
真城朔
「いろいろ……」
真城朔
ぼや……としてます
真城朔
ぼや……としながら、気を取り直してローストビーフ取りました。
夜高ミツル
「なんかこう……色々……」
夜高ミツル
「カレーとかも色々入れたら色々になる……」
真城朔
「…………」
真城朔
「なる」
真城朔
頷いた。
真城朔
頷いて、ローストビーフを食べます。
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
もぐ……
夜高ミツル
横目に真城を見つつ、エビチリを取ったりしている。
真城朔
明らかに気に入りになっている。ローストビーフ。
真城朔
生で……
夜高ミツル
買ってきてよかった~
真城朔
そんなに味が濃いはずじゃないのに味がわかる
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
比較的早くに二枚目を取ります。自分で。
夜高ミツル
よかったなあという気持ちになりつつ、自分はエビチリを食べる。
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
関ジャニが来た さすがに名前は把握してる
真城朔
具体的に曲は出てこない……
夜高ミツル
真城の方はやっぱり見てるんだけど、まあ結構腹も減っているので
真城朔
体操……?
夜高ミツル
そこそこのペースで箸を動かしていく。
夜高ミツル
紅白の方は……よく分からん。
真城朔
わからないなあ……
真城朔
「ミツ」
真城朔
「は」
夜高ミツル
ほぼほぼBGMと化している。
夜高ミツル
「ん?」
真城朔
「…………」
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
「年末……」
真城朔
「今まで、とか」
真城朔
「どう……」
真城朔
「…………」
真城朔
訊きながら何故か口が重くなっている。
夜高ミツル
「年末はバイト代上がるから、去年一昨年はバイトしてたなー」
真城朔
「バイト……」
夜高ミツル
「年明けはさすがに親戚の家に顔出してたけど」
真城朔
話題に反して紅白のテンションが高い。
真城朔
ミツルの話を聞いています。
夜高ミツル
「飲食はみんなが休みの時が稼ぎ時だからな」
夜高ミツル
「まあ高校生だからあんま遅くまでいらんないんだけど」
真城朔
こくこく……
真城朔
「…………」
真城朔
「大変……」
夜高ミツル
「大変だったな…………」
夜高ミツル
思いを馳せている。
夜高ミツル
「バカみたいに忙しかった……」
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「まあやることたくさんあるのは結構好きだけどな」
夜高ミツル
「暇なのよりはよっぽど」
真城朔
首を傾げます。
夜高ミツル
「なんかこう……働いた感がある方が」
夜高ミツル
「暇すぎるよりはそっちの方が好きだったかな」
真城朔
「…………」
真城朔
「今、は」
真城朔
「もう」
真城朔
「バイト……」
夜高ミツル
「今は真城がいるからそれでいい」
真城朔
きょと……
真城朔
ぱちぱちと目を瞬く。
真城朔
「働けない……」
真城朔
「働けて」
真城朔
「ない……」
夜高ミツル
「真城といるなら忙しくても暇でもいいよ」
真城朔
おろ……
夜高ミツル
「まああと……いっぱい働いたから今は休憩って感じで」
真城朔
「きゅう」
真城朔
「けい」
夜高ミツル
「いつかはなんかしら働かないとだけどな~」
真城朔
「…………」
真城朔
こくこく……
真城朔
「……俺も」
真城朔
「なんか」
真城朔
「でき、たら」
真城朔
迷い迷い、オードブルからエビチリを取った。
真城朔
エビを1個。
夜高ミツル
「二人でどっか給料もらえる感じの組織に入ってみるか?」
真城朔
エビチリというか、エビ。
真城朔
「…………」
真城朔
「……D7」
夜高ミツル
「D7は無理にしても……」
真城朔
「指名手配……」
真城朔
「他のとこに」
真城朔
「とか……」
真城朔
大丈夫だろうか……みたいな顔。
夜高ミツル
「他所までは回ってねえんじゃねえかなあ」
真城朔
気付いたら紅白のテンション下がってる。
夜高ミツル
「今のとこは……」
真城朔
「……そんなに」
真城朔
「とは、思う」
真城朔
「けど」
真城朔
「…………」
真城朔
「いけそう」
真城朔
「だった、ら」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「探っては」
真城朔
「みる……」
真城朔
「もっと……」
夜高ミツル
「まあ、様子見てだな……」
真城朔
少なくともここに至るまで同行した狩人にどうこう言われたことはない。一応。
夜高ミツル
バベルネットも定期的にチェックはしてる。
夜高ミツル
須藤がすっかり定番ネタになっていたりした。
真城朔
哀れな須藤よ……
真城朔
「それまでは」
真城朔
「なんか、吸血鬼」
真城朔
「持ってたら……」
真城朔
「うまいこと……」
真城朔
宝石とか溜め込んでるのいるからな……。
夜高ミツル
「うまいことな~」
夜高ミツル
略奪!
真城朔
現代日本なのか?
真城朔
えびちりのえびをもぐもぐしています。
真城朔
「…………」
真城朔
「えびちり」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「の」
真城朔
「ちりって」
真城朔
「……何?」
真城朔
もぐ……
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「チリソースって言うよな」
夜高ミツル
「チリは……」
真城朔
「ちりそーす」
夜高ミツル
「……なんだろうな……」
真城朔
「チリソース?」
真城朔
取皿に残った赤みを見下ろします。
夜高ミツル
「なんか……辛いトマトソースみたいな」
真城朔
こくこく。
夜高ミツル
「国の名前……?」
夜高ミツル
「チリのソースだからチリソース…………?」
夜高ミツル
適当を言い始めた。
真城朔
「中華なのに……?」
夜高ミツル
「わかんねえ……」
真城朔
「中華でチリ……」
夜高ミツル
「何もわからん」
真城朔
不思議……みたいになっている。
真城朔
もごもご……
真城朔
「味」
真城朔
「する」
真城朔
とりあえず事実を言った。
夜高ミツル
「するな~」
夜高ミツル
またよかったなという気持ちになっている。
真城朔
「えびの」
真城朔
「っていうか、チリソース……?」
真城朔
もご……
夜高ミツル
「エビチリの味ってほぼソースだよな」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
言いながらエビチリに箸を伸ばす。
真城朔
それを見ています。
夜高ミツル
いくつか取皿に取って、それでご飯を食べる。
真城朔
ゆずはさすがに知ってるな……
夜高ミツル
さすがに分かる
真城朔
知ってるけど特に着目もせずミツルの方を見ている。
夜高ミツル
聞いたことある歌声が流れてくるけど、それ以上でもそれ以下でもなく。
夜高ミツル
茶碗が空になったので、おかわりをよそいに腰を上げる。
真城朔
見送っている。
真城朔
真城は真城でミツルがいっぱいたべるとうれしい。
夜高ミツル
一杯目よりは控えめによそって戻ってくる。
真城朔
ぶどうジュースを飲んで人心地ついてます。
夜高ミツル
腰を下ろして茶碗を置く。
夜高ミツル
若いし運動したし食べてないのでいっぱい食べる。
真城朔
運動からの運動だったからな……
夜高ミツル
カロリー消費したな~
夜高ミツル
消費した分どんどん食べています。
真城朔
食べてる。
真城朔
うれしい。
真城朔
見ています。
真城朔
じ……
夜高ミツル
真城を眺める作業がなくなるとペースが上がる。
真城朔
ちょっと気にしたふうにオードブルを見たりもしつつ。
真城朔
さっきからちょこちょこ酢豚を見たりしている。
真城朔
テレビはやっぱり聞いたことはあるが……みたいな感じのアーティストだな……
夜高ミツル
チラ見しているのに気づいて、
夜高ミツル
「? どうした?」
真城朔
「?」
真城朔
訊かれたのできょとになります。
夜高ミツル
「いや、なんか見てたから……」
夜高ミツル
「どれ? 酢豚?」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「小さくするか?」
真城朔
「えっ」
真城朔
「と」
真城朔
「…………」
真城朔
視線がちょっと彷徨う。
真城朔
「……酢豚……」
夜高ミツル
「肉一個いけそう?」
真城朔
おろ……
真城朔
「酢豚」
真城朔
「って」
真城朔
「…………」
真城朔
「具」
真城朔
「いろいろ……」
真城朔
ぽつぽつ……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「野菜とかも食べてみるか?」
真城朔
「…………」
真城朔
「……食べた、ほうが」
真城朔
「いい?」
夜高ミツル
「真城が色々食べれると俺は嬉しい」
夜高ミツル
「けど、無理はしなくていい」
真城朔
おろろ……
真城朔
右左……
夜高ミツル
「だから、気になるならって感じかな」
夜高ミツル
「別に肉だけ食べてもいいぞー」
真城朔
「…………」
真城朔
「……肉」
真城朔
「だけ、で」
真城朔
「いい……?」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
頷く。
真城朔
なんか後ろめたそうにしています。
真城朔
言っておいて。
夜高ミツル
「野菜はまあその内、食べたくなったら食えばいいよ」
真城朔
「……酢豚の」
真城朔
「豚だけ……」
真城朔
しょぼしょぼ……
夜高ミツル
言いながら酢豚の豚を取って、真城の取皿に移した。
真城朔
移されています。
真城朔
酢しか残らないのに……みたいな気持ちでいる。
夜高ミツル
豚もまだあるから……
真城朔
受け取り。
真城朔
「……ありがとう……」
真城朔
おろろ……
夜高ミツル
「ん」ついでに自分の皿にも酢豚を盛りました。
真城朔
受け取った酢豚を口に含んでいます。
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
もぐ……
真城朔
豚の塊を噛んでいる。
夜高ミツル
眺める作業が始まったので手が止まりがちになる。
夜高ミツル
これだから食事に時間がかかる。
真城朔
肉団子とか春巻きより硬いしローストビーフと違って火が通っているので、
真城朔
咀嚼が長い。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
食べてるなあ
真城朔
手が止まっているミツルを見て目が合いました。
夜高ミツル
合ってしまった。
真城朔
ぱちぱち……
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
ちょっとだけ気まずい……。
真城朔
じ……
夜高ミツル
誤魔化すように自分も箸を動かして、酢豚を口に運ぶ。
真城朔
ちょっとだけ嬉しげな気配が出ます。
真城朔
もぐもぐ
真城朔
飲み下す。
真城朔
ぶどうジュースを飲む。
夜高ミツル
「酢豚も結構ほぼソースの味みたいなとこあるよな……」
真城朔
「中華」
真城朔
「ソース」
真城朔
「強い……」
夜高ミツル
もぐもぐと食べながら。
夜高ミツル
「だなあ」
真城朔
「鶏にもなにか」
真城朔
「かかってるし……」
真城朔
「豚」
真城朔
「肉」
真城朔
「って感じ、で」
真城朔
「…………」
真城朔
首を傾げた。
真城朔
「……強かった……?」
真城朔
歯ごたえとか……
夜高ミツル
首を傾げたのを見て首を傾げていたが。
夜高ミツル
「強かったか……」
真城朔
「火が通ってるし……」
真城朔
豚はやばいからな……
夜高ミツル
もっと柔らかめの肉のほうがいいのかと思った。
真城朔
柔らかいほうが食べやすくはある……
真城朔
あるけど それはそれとして 肉の強さが……
夜高ミツル
肉食動物の離乳食。
真城朔
離乳ローストビーフやめろ
真城朔
離乳ローストビーフ取りました。三枚目。
夜高ミツル
もぐもぐと強い肉を咀嚼している。
真城朔
地味に手間なんだよな酢豚……
夜高ミツル
ローストビーフ、今度作ってみるか……とぼんやり。
夜高ミツル
味の濃いものが続いたので箸休めにサラダに箸を伸ばす。
真城朔
酢豚、一度揚げた上に濃い味のソース絡めてるからますます肉の強さが強調されたのでは……?
夜高ミツル
強かったねえ。
真城朔
強かったので柔らかくて食べやすいお肉を食べています。
真城朔
負けず劣らず長く咀嚼している。
夜高ミツル
買ってきてよかったな~と思う(n回目)
真城朔
甘やかしている…………
夜高ミツル
ちなみにローストビーフにはほとんど手をつけていない。
夜高ミツル
全く食べないわけではないが。
真城朔
真城用
夜高ミツル
真城に食べさせたくて買ってきているので。
真城朔
食べていますね……
夜高ミツル
うれしい!
夜高ミツル
という感じでミツルの方は主にオードブルに手を付けていき
真城朔
真城がもごもごしているうちにあいみょんミスチルSuperflyと来て天城越えが来ている。
真城朔
演歌だ……
真城朔
もごもご……
夜高ミツル
演歌だな~
真城朔
祖父母と暮らした経験の薄い二人だから演歌への馴染みが薄い。
夜高ミツル
ほとんど紅白でしか聞いたことない。
真城朔
なんかステージの後ろで筒が燃えてる
夜高ミツル
なぜ……
真城朔
演出……?
真城朔
灯火っぽく……
夜高ミツル
そんな感じでだらだらと食事している内に二杯目のご飯が空になるのではないでしょうか。
夜高ミツル
お腹いっぱい。
真城朔
真城ももごもごとローストビーフを飲み下しています。
真城朔
演歌の後ろで燃えてるのをじっと見ている。
真城朔
光るものに惹かれるな
夜高ミツル
燃えてるなあ。
真城朔
火を使った狩りをしてきた帰りなので
真城朔
危なくないのかな……みたいな気持ちもあります。
夜高ミツル
狩人は危なく使うから危ない。
真城朔
危ない狩人たちです。
真城朔
ローストビーフを食べ終わって箸を置きました。
夜高ミツル
こちらも箸を置く。
真城朔
ミツルを見ます。
夜高ミツル
見られて視線が合わさる。
夜高ミツル
「?」
真城朔
「おなか」
真城朔
「いっぱい?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「真城も?」
真城朔
頷きます。
真城朔
手のひらを合わせる。
夜高ミツル
こちらも手を合わせ。
夜高ミツル
「ごちそうさま」
真城朔
「ごちそうさま」
真城朔
ローストビーフは半分くらい残ってるのかな。まあ全体的に半分くらいは残ってそうだな……
真城朔
オードブルはさすがにもうちょっと減ってるか。ミツルくんがちゃんといっぱい食べるし……
夜高ミツル
ジュースとコップは残して、お皿などを片付けていく。
真城朔
全然食ってなかったし……
夜高ミツル
オードブルいっぱい食べました。
真城朔
食べたねえ
真城朔
片付けを手伝います。
真城朔
ローストビーフを冷蔵庫に入れ……
真城朔
オードブルはいったん冷ますのでキッチンに置き……
夜高ミツル
皿を流しに置いて、洗っていく。
真城朔
ふきんを手に寄ってきます。
夜高ミツル
取皿と茶碗と箸くらい。調理をしないと洗い物がすくない。
真城朔
対面キッチン周りをちょろちょろする生き物
夜高ミツル
幼児。
真城朔
洗われた先から拭いてしまって……
夜高ミツル
スポンジで洗ってお湯で流して、真城にパスしていく。
真城朔
パスされては拭いて片付けます。
夜高ミツル
大した量ではないのですぐに終わる。
真城朔
本当に大した量ではない。
真城朔
使い終わったふきんを干しています。
真城朔
よいしょよいしょ
夜高ミツル
タオルで手を拭く。
夜高ミツル
「ありがとな~」と手伝いの礼を言って、キッチンを出る。
真城朔
「ん」
真城朔
首を振ってから頷きます。
真城朔
リビングに戻るミツルについていく。
夜高ミツル
時間は……23時を回った辺りかな。
夜高ミツル
テーブルの前、今度は床ではなくソファに腰掛ける。
真城朔
そんくらいかな~
真城朔
氷川きよしのテンションが高い
夜高ミツル
「さすがにあと1時間で蕎麦食う気にならないなー」
真城朔
ミツルの腰掛けた隣に座ります。
真城朔
ぴと……
夜高ミツル
「明日の朝かな」
真城朔
頷く。
真城朔
「朝そば」
夜高ミツル
真城の背中から手を回して、頭に乗せる。
真城朔
頭をミツルの方に傾けます。
夜高ミツル
「年越し蕎麦じゃなくなるな~」
真城朔
身体も寄り添う。
夜高ミツル
「まあ無理してもしょうがないし」
真城朔
こくこく。
真城朔
「けっこう」
真城朔
「どたばたした……」
夜高ミツル
寄り添って、互いに体重を預けあう。
夜高ミツル
「満月の時期が悪い」
夜高ミツル
「来年はゆっくりしたいな……」
真城朔
頷く。
真城朔
「…………」
真城朔
「うん」
真城朔
「もっと……」
夜高ミツル
頭を撫で、指先で髪を梳く。
真城朔
「…………」
真城朔
もっと、の後が続かず、
真城朔
ミツルに身体を預けて頬を寄せ。
夜高ミツル
「もっとのんびりと、こう、な~」
夜高ミツル
「飯も俺が作ったりとか」
真城朔
「……ミツが」
真城朔
「作るなら、何?」
夜高ミツル
「何がいいかな……」
真城朔
じ……
夜高ミツル
「なんか年明けっぽいものって色々あるけど、年末っぽいものって思いつかなくねえ?」
真城朔
考え込みます。
真城朔
「……そうかも……?」
夜高ミツル
「年明けだったらおせちとか雑煮とかあるのに」
真城朔
こくこく
真城朔
「年末……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「わかんね~」
真城朔
しょぼになってきた。
夜高ミツル
「来年までに考えとく」
真城朔
小さく頷いた。
真城朔
ぼんやりと松田聖子だな……と思っています。
夜高ミツル
「その頃には作れるものも増えてるだろうし」
夜高ミツル
松田聖子はさすがに分かるなあ。
夜高ミツル
知ってると言うほど知らないけど。
真城朔
デビュー40周年……
真城朔
果てしない……
真城朔
「食べたいもの」
夜高ミツル
俺たちの人生の二倍以上。
真城朔
「作る……?」
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
「その時にリクエスト聞くよ」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルを見ます。
真城朔
「ミツの」
真城朔
「食べたいもの」
真城朔
「は……?」
夜高ミツル
「ん?」
夜高ミツル
「ああ」
夜高ミツル
「俺が食べたいのも作るよ」
真城朔
こくこく。
真城朔
「ミツの、好きなもの」
真城朔
「も」
夜高ミツル
俺が食べたいもの、概ね真城が食べたいものとなりそうだけど……。
真城朔
「もっと……」
真城朔
「なにか」
真城朔
「なんでも……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
しょぼしょぼと背中を丸めながら。
真城朔
「俺、ばっかり」
真城朔
「じゃ」
真城朔
「なくて」
夜高ミツル
「二人の食べたいもので決めようなー」
真城朔
じ……
夜高ミツル
わしわしと頭を撫でる。
真城朔
撫でられて頭を傾けた。
真城朔
ぴと……
夜高ミツル
こちらも頭を傾けて、こつ、と合わせる。
真城朔
頬に頬を擦り寄せて、
夜高ミツル
撫でて乱れた髪を、また指で整える。
真城朔
瞼を伏せた。
真城朔
ドライヤーをされた髪のさらさらとした感触。
夜高ミツル
指先でその感触を楽しみながら、
夜高ミツル
瞼を伏せたのを見て、そのまま唇を寄せる。
真城朔
「ん」
真城朔
拒むはずもない。
真城朔
受け入れて、下ろしたままの指先がミツルのナイトウェアの裾を掴む。
夜高ミツル
啄むように、何度も口づけを落とす。
夜高ミツル
お互いに正面を向いていたはずが、向かい合うような形に。
真城朔
裾を掴んでいた手が上がって、
真城朔
向かい合う形になって、おずおずと背に回る。
真城朔
後ろで指が組まされる。
夜高ミツル
空いていた手が真城の背中へ。
夜高ミツル
手のひらがゆっくりと真城の背を滑る。
真城朔
ぞくりと肩が震えて、瞼が上がる。
夜高ミツル
その間にも、口づけを重ねて
真城朔
「ん、っ」
夜高ミツル
舌先が真城の唇に触れる。
真城朔
「あ」
真城朔
「ミツ」
真城朔
触れた唇が薄く開かれて、名を呼ぶ。
夜高ミツル
開かれた唇の内側に、舌が侵入する。
真城朔
「み、――」
真城朔
半ばに舌を潜り込まされて声が塞がれて、
真城朔
代わりに差し出された舌がミツルを迎えた。
夜高ミツル
テレビから流れる歌声はどこか遠く、
夜高ミツル
舌を絡ませあう水音ばかりが頭に響いた。
真城朔
背中で指が服を掴んではその背を掻く。
夜高ミツル
水音や、その合間に漏れる吐息。衣擦れ。
真城朔
熱い口の中で熱を交わらせて、
真城朔
ますますに温度を上げながら、
夜高ミツル
熱の上がった身体を寄せ合う。
真城朔
摩擦に身体が強張っては膝を震わせる。
真城朔
「……は、」
真城朔
「んん、……っ」
真城朔
息を継ぐ間に意味のない音を漏らしては唇を重ねて、
夜高ミツル
合間に漏れる真城の声を、耳は敏感に拾い上げる。
真城朔
気付けば胸を合わせている。
夜高ミツル
熱い。
夜高ミツル
その熱をもっと感じたくて、服の下に手を滑らせる。
真城朔
少し温度の低い素肌。
真城朔
物欲しげに腰が揺れて、硬い熱をミツルに押し上げる形になって、
真城朔
「っ」
真城朔
ぎくりと背を竦ませた。
夜高ミツル
長い口づけの後、唇を離す。
夜高ミツル
熱のこもった瞳で、真城を見つめる。
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「…………」
真城朔
ごく近くで潤んだ瞳を惑わせた。
真城朔
一方で背に縋る腕の力は緩まないままで。
夜高ミツル
「真城、真城……」
夜高ミツル
意味のない呼びかけ。
真城朔
「あ」
真城朔
「ぅ」
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
ただその名前を呼びたくて、繰り返す。
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「ミツ……」
真城朔
他に返せるものがなくて、呼び返す。
夜高ミツル
指先が、腰を撫でて
夜高ミツル
再び、顔を寄せた。
真城朔
シーツの上に裸体がくったりと沈んでいる。
真城朔
ふにゃ……
夜高ミツル
その隣、真城の身体に腕を回して
夜高ミツル
気だるげに寝転んでいる。
真城朔
気付けば時計の針は3時を回っており。
夜高ミツル
3時だな~……。
真城朔
それにも気付けない様子で真城はぐったりと横たわっているが。
夜高ミツル
3時。
夜高ミツル
3時???
夜高ミツル
日付が変わっている。
真城朔
なるべく深く呼吸を繰り返して、
真城朔
背中が上下している。
夜高ミツル
日付が変わったということは、年が明けたということだ。
夜高ミツル
「…………」
真城朔
年越しもクソもなく……
夜高ミツル
切り出したものか迷いながら、指先は真城の髪を梳いている。
真城朔
あまりに情趣に欠ける……
真城朔
潰れてます。真城は
夜高ミツル
せっかくの……二人で初めての年越しが……。
真城朔
髪を梳かれながら、やがてゆっくりと瞼を上げた。
真城朔
熱の名残の感じられるとろとろとした瞳でミツルを見ている。
夜高ミツル
「…………あ~」
真城朔
「?」
夜高ミツル
ぐにゃぐにゃと、どうしようかなと思っていたが、結局
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「あけまして、おめでとう……」
真城朔
「……ん」
真城朔
ぱちぱち。
夜高ミツル
「ございます…………」
真城朔
瞬き。
夜高ミツル
「年、明けてた……」
真城朔
「……あ」
夜高ミツル
「なんか……」
夜高ミツル
なんかではない
真城朔
喉で声が詰まって
真城朔
軽く咳き込んでから、顔を上げる。
真城朔
「あけま、して」
真城朔
「おめでとう……」
真城朔
少々声が枯れている。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「今年もよろしくな~」
夜高ミツル
抱き寄せる。
真城朔
抱き寄せられます。
夜高ミツル
抱き寄せてから、
夜高ミツル
「水いるか?」
真城朔
ぴと……
真城朔
「……ん」
真城朔
おずおずと頷いて。
真城朔
「こ、としも」
真城朔
「よろしく」
真城朔
「おねがい、します……」
真城朔
ミツルの腕の中、ためらいがちに挨拶を返した。
真城朔
肌と肌が重なっている。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
他人の体温の心地よさ。
夜高ミツル
抱きしめて、それから名残惜しげに腕を離して
夜高ミツル
ささ……と台所の方へ向かう。
真城朔
ベッドからその背中を見ています。
真城朔
もぞもぞ……
真城朔
重たげに上体を起こしている。
夜高ミツル
コップに水を注いで戻ってくる。
夜高ミツル
北海道の水道水はおいしいらしいです。
真城朔
乱れた髪が濡れた頬にくっついている。
真城朔
さすが北海道。
夜高ミツル
両手に持った内の一つを真城に差し出した。
真城朔
両手で受け取ります。
真城朔
「ありがとう……」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
くぴくぴ飲んでる。
夜高ミツル
もう一つを持って、こぼさないようにベッドに腰を下ろす。
真城朔
コップに口づけて、やや首ごと上向いて水を飲んで、
真城朔
ほうと大きく息をついてコップを持った手を下ろす。
真城朔
ぽー……
夜高ミツル
ミツルの方も水を飲み干して。
真城朔
ベッドの上にぺたんと座ってぼんやりしている。
真城朔
裸のまま。暖房とヒーターのめちゃめちゃ効いた部屋で。
夜高ミツル
空になったコップを取って、二つまとめてサイドボードに置いてしまう。
真城朔
置かれます。
真城朔
ぼんやりそれを見てから。
夜高ミツル
「シャワーするか?」
真城朔
「……にせん」
真城朔
「にじゅういちねん……」
真城朔
ぽそぽそとつぶやいている。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
ミツルを見ます。
夜高ミツル
「2021年だな」
真城朔
「…………」
真城朔
手を伸ばして
真城朔
しがみついた。
夜高ミツル
受け止める。
夜高ミツル
背中に腕を回す。
真城朔
姿勢を崩してミツルの胸に頬を寄せる。
真城朔
「…………」
真城朔
「……もう、ちょっと」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
頬を擦り寄せながら、瞼を伏せる。
真城朔
「このまま」
夜高ミツル
薄めのタオルケットを一枚引っ張って、二人でくるまる。
夜高ミツル
「そうだな」
真城朔
「…………」
真城朔
タオルケットとミツルの腕に包まれて、
夜高ミツル
タオルケットの下、手のひらが真城の素肌を撫でる。
夜高ミツル
慈しむような、穏やかな手付き。
真城朔
自分でそれを望んだはずなのに、どこか戸惑うように視線を彷徨わせたが。
真城朔
触れる手のひらの感触に安堵した様子で息をついた。
真城朔
くっついてくる。
真城朔
ただでさえくっついてるけど。
真城朔
より体重を預けて。
夜高ミツル
まだ少し汗ばんだままの肌を合わせる。
真城朔
微熱。微睡。
夜高ミツル
寝そうだなあ。
夜高ミツル
まあそれならそれで、別に。
真城朔
首を竦めて、頬を擦り寄せ、
真城朔
閉じた目の端に涙を滲ませて、小さく微笑む。
夜高ミツル
手のひらは変わらないリズムで背中を撫でている。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「ミツ……」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
頬に涙を落としながら、名前を呼ぶ。
真城朔
「ミツが」
真城朔
「ミツが、いい……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「俺も」
夜高ミツル
「真城がいい」
真城朔
「ミツと、いる」
真城朔
「ミツと……」
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
飽きるほど呼んだはずの名前をなお繰り返して、
夜高ミツル
「ずっと、真城と一緒だ」
夜高ミツル
「傍にいる」
真城朔
「いっ、しょ」
真城朔
「そばに」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
「好きだよ、真城」
夜高ミツル
「好きだ」
真城朔
「……ミツ」
真城朔
瞼を上げて、ミツルの顔を見る。
真城朔
涙を落としながら、
夜高ミツル
見つめられれば、目が合う。
真城朔
眠気に浮いた声のまま、ぱちりと目を瞬かせる。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
頬を涙が伝う。
夜高ミツル
「……真城~」
真城朔
一糸まとわぬ肌へと涙のしずくが伝い落ちて、
夜高ミツル
ぎゅ、と抱き寄せる。
真城朔
「っ」
真城朔
抱き寄せられて重なった胸と胸の中で潰れた。
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツ……?」
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
「なんか……」
夜高ミツル
「こう……」
夜高ミツル
「真城と年を越したんだなあって思って……」
真城朔
「……とし」
真城朔
「こし」
真城朔
「…………」
真城朔
「した……」
夜高ミツル
抱き寄せたまま、ぽつぽつと。
真城朔
同じように、それ以上に辿々しく答える。
夜高ミツル
「こう……好きな相手と、」
夜高ミツル
「真城と、」
夜高ミツル
「年を越すとか……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「こうなる前まで全然、考えてなかったから」
真城朔
「…………お、れも」
真城朔
「そもそも」
真城朔
「こんな……」
真城朔
「……まだ……」
真城朔
生きて、とか、口の中でもごもごと。
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「真城も俺も死なずに」
夜高ミツル
「生きて、新年を迎えれてうれしい」
夜高ミツル
「……うれしいよ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
真城の肩口に、顔を寄せる。
真城朔
おろおろとミツルの動作を見つめている。
夜高ミツル
抱き寄せて、肌を重ねた部分で真城を感じている。
夜高ミツル
熱を、鼓動を、吐息を。
真城朔
生きたものの熱がある。
夜高ミツル
失われずに今も腕の中にある。
真城朔
情事の後、身を寄せているがため、
真城朔
常よりも体温が高くてあたたかい。
夜高ミツル
「…………」
真城朔
汗やら何やらでいささかべたついてはいるけれど。
夜高ミツル
改めて、それに感じ入って
夜高ミツル
抱きしめて、じっと動かずにいる。
真城朔
真城も何も言わずに。
真城朔
いつしかミツルの背中にそっと腕を回し、低いところに手を添えている。
真城朔
触れて、熱を分けて、けれど穏やかなままに。
夜高ミツル
ただ静かに、身を寄せ合う。
真城朔
「…………」
真城朔
「……初日の出」
真城朔
「までは」
真城朔
「まだ……」
夜高ミツル
「……7時ぐらいだっけ」
夜高ミツル
ゆるゆると、顔を上げる。
真城朔
こくこく
真城朔
「それくらい……」
真城朔
ぴったりくっついたまま答える。
夜高ミツル
「結構あるな~……」
夜高ミツル
「寝そう」
夜高ミツル
「真城起きてる自信ある?」
真城朔
「…………」
真城朔
「あんまり……」
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「俺もない」
夜高ミツル
「まあ見れたら見るか~って感じで……」
真城朔
「……ん」
真城朔
目を伏せて、ミツルの胸にぐりぐりと頭を寄せる。
夜高ミツル
なされるがまま、受け止めている。
真城朔
そうしてしがみついている身体からはやがて少しずつ力が抜けて。
夜高ミツル
撫でる手のひらも、寝かしつけるようにゆっくりと。
真城朔
呼吸が規則的なそれへと変わっていく、
真城朔
その中で。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「……ミツ、と」
真城朔
「いっしょで」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
微睡に舌足らずに声が浮く。
真城朔
「うれしい……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
消え入るような声でそう言って、
夜高ミツル
「俺も」
夜高ミツル
「一緒にいれて、嬉しい」
夜高ミツル
「幸せだよ……」
真城朔
小さく頷いて笑った。
夜高ミツル
力の抜けた真城の身体を支える。
真城朔
ミツルの腕に身体を委ねる。
真城朔
穏やかな寝息が耳に届いた。
夜高ミツル
寝入ってしまった真城を横たえる。
真城朔
くた……
真城朔
情事の痕の残る細い身体。
夜高ミツル
せめて拭くくらいはするか……。
夜高ミツル
そっとベッドから抜け出して、ついでにコップも流しに持っていって。
夜高ミツル
タオルをお湯で濡らして、絞る。
真城朔
すよすよ……
真城朔
深く寝入っています。
夜高ミツル
それを持って真城の元に戻る。
夜高ミツル
寝てるな~。
真城朔
横たえられた姿勢のままくったりと……
夜高ミツル
なるべく静かにベッドに上がって、真城の身体をタオルで清める。
夜高ミツル
起こさないようにそー……っと、一通り汚れを拭い去って、
夜高ミツル
ついでに自分の方もぱぱっと拭いてしまって。
真城朔
いくらか声が漏れることはあったが目を覚ます様子はなく。
夜高ミツル
終わるとタオルを洗濯機に放り込んで、またベッドに戻る。
真城朔
安らかにすやすや眠っています。
夜高ミツル
ベッドの上に散らばってたゴミとかも捨てた。
真城朔
拭いてもらったので気持ちよさそうな気がする。
夜高ミツル
後始末を終わらせて真城の隣に寝転んで、布団を被る。
真城朔
すや……
夜高ミツル
眠る真城の前髪をかきあげて、
夜高ミツル
額に軽く口づける。
真城朔
眠っている。
夜高ミツル
「……おやすみ」
夜高ミツル
「また一年、よろしくな……」
夜高ミツル
返事を期待するでもなく声をかけて、まぶたを閉じる。
夜高ミツル
日の出までに起きれるかな……
夜高ミツル
まあ起きれたら起きるって感じで。

2021/1/1 日の出前

夜高ミツル
ふ、と目が覚める。
夜高ミツル
部屋の中は……まだ薄暗い。
夜高ミツル
どうやら、無事日の出前に起きられたらしい。
真城朔
その隣で相変わらずすやすやと寝入っている。
夜高ミツル
時計を見れば、6時45分頃。
夜高ミツル
日の出は7時頃だから、ちょうどいい時間だ。
夜高ミツル
「真城ー」
夜高ミツル
隣で眠っている真城の肩を軽く揺する。
真城朔
「んー……」
真城朔
ゆすられてもにゃもにゃと首を竦めたりなどしています。
夜高ミツル
「初日の出」
夜高ミツル
「見るか?」
夜高ミツル
「起きれる?」
真城朔
「……はつ」
真城朔
「ひの、で」
真城朔
ぼや……とまぶたを上げた。
真城朔
じーっとミツルの顔を見てから、
真城朔
ややあって頷いて。
真城朔
もぞもぞと這い出してくる。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
肌寒かったのかタオルケットを取った。
夜高ミツル
「服着るか」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷きます。
夜高ミツル
ベッドを這い出て、クローゼットへ。
夜高ミツル
下着と部屋着を2セット引っ張り出して、片方を真城に渡す。
真城朔
「ありがとう」
真城朔
受け取る。
真城朔
ふにゃよろと下着を履く。
真城朔
疲れているというよりは眠たげな動作。
真城朔
くぁ、とあくびした。
夜高ミツル
下着を履いて、その上に部屋着を着る。真城よりはテキパキと。
夜高ミツル
わりと朝には強い方だ。
真城朔
逆に朝にたいへん弱い。
夜高ミツル
半吸血鬼だからなあ。
真城朔
半吸血鬼で……いっぱいした後で……
夜高ミツル
そうだね……。
真城朔
ミツルに遅れてのろのろと部屋着を着込んで、ぼんやりとベッドの上に座っている。
真城朔
カーテンの引かれたままの窓を見た。
夜高ミツル
カーテンを引く。
真城朔
明るくなってきた外の風景が見える。
真城朔
のろのろとベッドから降りて、
真城朔
窓の方へと、あるいはミツルの方へと寄る。
夜高ミツル
窓際はさすがに少し冷える。
真城朔
熱を補うようにミツルにくっつく。
真城朔
ぴと……
夜高ミツル
身を寄せ合う。
真城朔
夜色の瞳が窓越しに、朝を迎えつつある街を見つめている。
夜高ミツル
地平線から昇りつつある朝日が街を照らす。
夜高ミツル
街中に積もった雪が、光を跳ね返している。
真城朔
夜を裂いて立ち昇る光のこの上なく眩しいことは、狩人であればよくよく知っているが。
真城朔
「…………」
真城朔
「夜明け……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「元旦の夜明け」
真城朔
「だから」
真城朔
「初日の出……」
真城朔
当たり前のことを言っている。
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
「日の出、しょっちゅう見てるのにな」
真城朔
こくこく
真城朔
「新年……」
夜高ミツル
「なんか、始まったなーって感じする」
夜高ミツル
「狩りの時の日の出は、あ~終わった~って感じだけど」
真城朔
「…………」
真城朔
頷いています。
夜高ミツル
「だから、なんか新鮮だ」
真城朔
「一年の」
真城朔
「はじまり」
真城朔
「…………」
真城朔
「一年……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
途方に暮れたような声。
真城朔
「これから」
真城朔
「一年」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
会話を交わすうちにも、太陽はゆっくりと昇っていく。
真城朔
ぴったりとミツルにくっついて太陽を見上げている。
夜高ミツル
その眩しさに少しだけ目を細めた。
真城朔
こちらはもっと眩しそうに目を瞬いたり時折顔を伏せたりしている。
真城朔
しょぼぼ……
夜高ミツル
それから視線を真城の方に移して、
夜高ミツル
「今年もよろしくな」
夜高ミツル
と、再び。
真城朔
きょとんとミツルへと視線を向けて。
真城朔
「……ん」
真城朔
頷いた。
真城朔
「今年も」
真城朔
「よろしく」