2021/01/10 朝

夜高ミツル
目が覚める。
真城朔
隣ですやすや眠っている。
夜高ミツル
時計に目を移せば、いつもよりやや遅めの目覚め。
夜高ミツル
朝弱い方じゃないんだけどな……。
夜高ミツル
ぼんやりと、眠る真城の頬に手を添える。
真城朔
ひんやりと冷たい。
真城朔
いつもよりも冷たい気がする。
夜高ミツル
「……?」
真城朔
「……ん」
真城朔
「んん」
真城朔
真城の瞼がぴくりと動いた。
真城朔
もぞ……
夜高ミツル
その様子を眺める。
真城朔
ゆっくりと瞼が上がって
真城朔
ミツルの手に頬を擦り寄せて。
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「あったかい……」
真城朔
ふにゃふにゃ笑った。
夜高ミツル
「……んー」
真城朔
笑っていた。が。
真城朔
急にきょと、と目を瞬いた。
夜高ミツル
曖昧に返事を返す。
真城朔
ぱっと真顔。
真城朔
手を伸ばして、ミツルの額に触れる。
夜高ミツル
熱い。
真城朔
癖のある前髪を掻き分けて。
夜高ミツル
「……んん」
真城朔
真城の手は相対的にミツルの体温には冷たく感じられる。
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「手冷たくないか?」
夜高ミツル
「寒かった……?」
真城朔
「…………」
真城朔
おろおろと視線を彷徨わせて
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「ミツが……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
真城の手に額を擦り寄せる。
真城朔
ひんやりとした体温。
夜高ミツル
少し低い体温が心地いい。
真城朔
その様子を眺めながら、
真城朔
ぽろぽろと泣き始めた。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「熱い……」
夜高ミツル
「……真城?」
真城朔
冷たい手がミツルの熱に温められてぬるくなっていく。
夜高ミツル
少しの間呆けたように沈黙して、
真城朔
ミツルの額から頭の横に手を添えて、
真城朔
自分の前髪も掻き分けて、額と額を当てる。
夜高ミツル
額が合わさる。
真城朔
体温の差が明確になる。
夜高ミツル
「あ~…………」
真城朔
「……ど」
真城朔
「どう、しよう」
夜高ミツル
遅れて、身体のだるさに自覚的になる。
夜高ミツル
風邪引いたな~…………。
真城朔
布団から身を起こしておろおろと横たわるミツルを見下ろしている。
真城朔
「病院」
夜高ミツル
「んん……」
真城朔
「病院、行く?」
夜高ミツル
「いや……」
真城朔
「熱……」
夜高ミツル
「寝てりゃ治るよ……」
真城朔
「風邪」
真城朔
「…………」
真城朔
ぽろぽろ……
夜高ミツル
「風邪だな……」
真城朔
日曜日だから緊急のとこしかやってねえんだよな~。
真城朔
真城は俯いて泣いてます。
夜高ミツル
「大丈夫だから……」
夜高ミツル
「……大丈夫」
夜高ミツル
そういえば体温計買ってなかったな……とかぼんやり。
真城朔
「なにか……」
真城朔
「ほしいもの、とか」
真城朔
「ええと」
真城朔
「…………」
真城朔
腰を浮かして視線を彷徨わせている。
夜高ミツル
体温計がないから今何度だか分からないが、熱い。
夜高ミツル
自覚的になれば、背中にじっとりと汗をかいていることも分かる。
夜高ミツル
「んー……」
真城朔
ぽろぽろ……
夜高ミツル
今何があったっけ……
真城朔
ミツルに視線を向けては眉を寄せている。
真城朔
「俺が」
真城朔
「変なこと……」
真城朔
また手を伸ばして、ミツルの額に触れる。
夜高ミツル
「いや……」
夜高ミツル
「俺も楽しかったし……」
真城朔
汗ばんだ髪の生え際を冷たい指が撫ぜる。
夜高ミツル
触れられて、目を閉じる。
真城朔
「う」
真城朔
「と」
真城朔
「ふ、布団」
真城朔
「布団増やす?」
真城朔
「あっ」
真城朔
「水」
夜高ミツル
「んー……」
真城朔
「薬……?」
夜高ミツル
「布団は大丈夫……」
夜高ミツル
「……水」
真城朔
「寒くない?」
真城朔
立て板に水……
夜高ミツル
「暑い……」
夜高ミツル
「水は頼む……」
真城朔
「水……」
真城朔
頷いた。
真城朔
布団から抜け出して
真城朔
ぱたぱたとキッチンへと向かっていく。
夜高ミツル
首を傾けて、その背中を見送った。
真城朔
コップに水道水をついだのを持って戻ってくる。
真城朔
ベッドサイドに置いて、ミツルの背中に手を添えて
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
抱えるように上体を起こさせる。
夜高ミツル
上半身を起こし
夜高ミツル
「ありがと……」
真城朔
「ん……」
真城朔
こくこく
真城朔
コップを取ってミツルの口に近づけます。
夜高ミツル
それくらい自分で……とも思ったけど、されるがままに
夜高ミツル
差し出されたコップに口をつける。
真城朔
コップを傾けて水を飲ませ……
夜高ミツル
熱の籠もった身体に、冷たい水が心地いい。
真城朔
半分くらい飲ませたところで手を止めて傾きを戻し。
真城朔
「全部」
真城朔
「飲む……?」
夜高ミツル
「ん……」
夜高ミツル
「大丈夫……」
夜高ミツル
「あとで……」
真城朔
「ん……」
真城朔
頷いてコップを戻して
真城朔
ミツルを支えたままおろおろと視線を彷徨わせる。
真城朔
「また」
真城朔
「また、寝る?」
真城朔
「あ」
真城朔
「薬」
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
最低限の常備薬はあったはずで……
夜高ミツル
「寝てれば大丈夫……」
夜高ミツル
「多分……」
真城朔
おろおろ……
真城朔
おろおろしながらミツルを寝かせます。
真城朔
上から布団をかけなおす。
夜高ミツル
横たえられる。
夜高ミツル
あー…………
夜高ミツル
情けねえ~………………
真城朔
自分はベッドから降りて隣に跪いている。
真城朔
顔を覗き込む。
真城朔
「なんか」
真城朔
「なんか、食べたり」
真城朔
「……えと」
真城朔
なにあったっけ……
夜高ミツル
「あんま腹減ってない……」
真城朔
「食べないほうが」
真城朔
「いい?」
真城朔
「なんか……」
真城朔
どうしよう……になっている。
夜高ミツル
「もうちょっと寝てから……」
真城朔
ミツルの顔を覗き込んでぽろぽろ泣いている。
夜高ミツル
「あとでたべる……」
真城朔
頷いた。
真城朔
こくこく……
真城朔
ぽろぽろ……
真城朔
じー……
夜高ミツル
「……」
真城朔
こんな凝視されて眠れるのか?
真城朔
そういう気遣いとか発想とかない。
真城朔
飛んでる
夜高ミツル
「……心配かけてごめんな」
真城朔
きょと……
夜高ミツル
「大丈夫」
真城朔
首を横に振ります。
夜高ミツル
「俺はだいじょうぶだから……」
真城朔
「……休ん、で」
真城朔
「寝て……」
真城朔
「ゆっくり……」
真城朔
「ちゃんと……」
夜高ミツル
「んー……」
真城朔
「なんか、あったら」
真城朔
「言って」
真城朔
「俺」
夜高ミツル
目を閉じる。
真城朔
「やるし」
真城朔
「病院だって……」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「つれてける、し」
真城朔
「できる……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
目を閉じたまま、ふわふわと返事をする。
真城朔
じっと見つめられている気配がある。
夜高ミツル
見られてるなあ……
夜高ミツル
風邪引くのとかいつぶりだっけな……
夜高ミツル
真城泣かせたなあ……
夜高ミツル
大丈夫かな……
夜高ミツル
熱に浮かされた思考はふわふわと要領を得ない。
夜高ミツル
それもやがて曖昧になっていき
夜高ミツル
近くに真城の気配を感じながら、意識が落ちるに任せた。
夜高ミツル
ゆっくりと、瞼が持ち上がる。
真城朔
ミツルの額にひんやりと濡れた感触。
夜高ミツル
気持ちいい。
真城朔
冷水で絞られた濡れタオル。
真城朔
そしてその向こう側に、涙を落としながら覗き込んでくる真城の顔。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「ましろ……」
真城朔
いつも使っているテーブルがベッドの近くまで寄せられている。
真城朔
「水」
真城朔
「水、飲む?」
真城朔
ヤカンが置いてある。
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
あと濡れタオルのための氷水を張った洗面器とか。
夜高ミツル
少し掠れた声で返す。
真城朔
その隣に空の洗面器とか。
夜高ミツル
喉が痛い。
真城朔
ミツルの答えを受けて
真城朔
ヤカンからコップに水を注いだ。
真城朔
それをベッドサイドに置くと身を乗り出して、くっついて
真城朔
また抱え込むようにミツルの上体を起こす。
夜高ミツル
熱は一向に下がった気がしない。
真城朔
ベッドサイドからコップを取って、同じようにミツルの口元に。
夜高ミツル
むしろ朝より少し上がっているような感じさえある。
真城朔
おろおろ……
夜高ミツル
差し出された水をちびちびと飲む。
夜高ミツル
時間をかけて、コップに注がれた分を飲み干した。
真城朔
「まだ」
真城朔
「まだ、いる?」
真城朔
空になったコップを見ながら訊く。
夜高ミツル
「……いや」
夜高ミツル
息をついて
夜高ミツル
「だいじょうぶ」
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「…………ん」
真城朔
「なんか」
真城朔
「食べたり……」
真城朔
「薬、あった」
真城朔
「熱に効くやつ……」
真城朔
「あ」
真城朔
「で」
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
「ちょっと」
真城朔
「おかゆ……」
夜高ミツル
「んー……?」
夜高ミツル
「ああ……」
真城朔
「味……」
真城朔
しょぼ……
真城朔
「わかんない」
真城朔
「けど……」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「たべる……」
真城朔
「ん」
真城朔
頷いて、ミツルを横たわらせる。
夜高ミツル
「あんま」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「食えないかも……」
夜高ミツル
「だけど……」
真城朔
振り返って
真城朔
こくこく頷いて
真城朔
「ちょっと」
真城朔
「ちょっとだけ……」
真城朔
「あっためてくる」
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
ぱたぱた……
真城朔
またキッチンに行く。
夜高ミツル
食欲は相変わらずないまま。
真城朔
ベッドの近くまで寄せられたテーブルに薬とかも並べられている。
夜高ミツル
けどまあ食べないことには薬も飲めない……。
真城朔
スマホも置いてある。
夜高ミツル
横たえられたまま、ぼんやりとそれを眺めた。
真城朔
ちょっとして
真城朔
小さめの底の薄い器と木のスプーンを持って戻ってくる。
真城朔
卵がゆが軽くよそわれている。
真城朔
卵がけっこうだまになっている……
夜高ミツル
作れてえらい
真城朔
だまっていうか……なんだ……?
真城朔
なんだ……? って感じになっている。
真城朔
とりあえずそれを持ってベッドサイドに置いて。
夜高ミツル
見ている。
夜高ミツル
ぼや~……
真城朔
同じようにミツルを支えて起こし。
真城朔
匙を取ってすくいあげ、口元に。
真城朔
おずおず……
夜高ミツル
口を開ける。
真城朔
そっと匙を含ませる。
夜高ミツル
ぱく……
真城朔
ふにゃふにゃのふにゃになった米粒と塊の卵の感触。
真城朔
味はかなり薄い。
夜高ミツル
もぐもぐとそれを咀嚼する。
真城朔
塩気少なめ……
真城朔
心配そうに見ている。
夜高ミツル
そもそも味が薄いのか、風邪引いて味覚が狂ってるのかよく分からない。
真城朔
じ……
真城朔
「たべ」
真城朔
「たべ、れる?」
夜高ミツル
暖かくて柔らかいのは分かる。
真城朔
体調を訊いているのか味を訊いているのか微妙。
夜高ミツル
真城ががんばって作ってくれたんだろうな、というのも。
夜高ミツル
頷いて。
真城朔
ちょっとほっとした気配。
夜高ミツル
「……食べる」
真城朔
「ん……」
真城朔
こくこく……
真城朔
もうひとすくい取ってまた口元に。
夜高ミツル
口に含む。
真城朔
またひとすくい……
夜高ミツル
別に自分で食べれるな……?と遅れて気づいたが
夜高ミツル
言い出す気になれず。
真城朔
繰り返し 繰り返し
夜高ミツル
ひな鳥のように、差し出されるままに食べていく。
真城朔
せっせと口に運んでいく。
真城朔
意外となくなっちゃうかな。そんなに量盛ってないし……
夜高ミツル
じゃあ全部食べました。
真城朔
完食。
真城朔
「……まだ」
真城朔
「食べる……?」
真城朔
おろおろ……
真城朔
空の皿と匙を持って……
夜高ミツル
ちょっと考えて、首を振る。
夜高ミツル
「だいじょうぶ」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「ありがとう」
真城朔
こくこく……
真城朔
「薬……」
夜高ミツル
「……うまかった」
真城朔
きょと
真城朔
薬を取るためにミツルから離れようとしたところで止まって
真城朔
ぱちぱち目を瞬いて
夜高ミツル
「ありがとな……」
夜高ミツル
繰り返して、小さく笑う。
真城朔
「……ん」
真城朔
こちらも小さく笑ってから、改めてミツルから離れる。
真城朔
薬を取って コップに水を注いで
真城朔
どちらを先に差し出すか迷い
真城朔
とりあえず薬を差し出した。
真城朔
錠剤。
夜高ミツル
口を開いて、それを含む。
真城朔
遅れてコップを差し出す。
夜高ミツル
差し出されるままにコップに口をつけて、
夜高ミツル
水と一緒に薬を飲み下す。
真城朔
ミツルの喉が鳴ったところでコップを離して。
真城朔
「また」
真城朔
「寝る?」
真城朔
「なんか……」
夜高ミツル
小さく息をつく。
夜高ミツル
「んー……」
真城朔
「されたいこととか……」
真城朔
「服」
真城朔
「気持ち悪い、とか」
夜高ミツル
「あー……」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「着替えたいかも……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「身体」
真城朔
「拭く?」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「頼む」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
自分からもっと頼んだ方がいい気もするが、頭が回らない。
真城朔
またベッドから離れて
夜高ミツル
ぼんやりしているうちに、どんどん真城が先回りして聞いてくれる。
真城朔
クローゼットからは替えのルームウェアと下着を出して
真城朔
テーブルに置いて
真城朔
一旦キッチンの方に消えていって
真城朔
というか洗面所に行った気配がある。
真城朔
水を出す音。
夜高ミツル
ぼんやりとそれを聞いている。
真城朔
洗面台にお湯を張って戻ってくる。
真城朔
ほどほどのぬるま湯。
真城朔
それもテーブルに置いて、タオルを浸した。
真城朔
ミツルのベッドに近づいて、おずおずと布団を剥がす。
真城朔
思い出したようにエアコンを取って室温を上げた。
真城朔
ぴ……
夜高ミツル
してもらうがままに……
真城朔
しています。
真城朔
ミツルのルームウェアの前をあけていく。
夜高ミツル
ルームウェアはじっとりと汗を吸っている。
真城朔
脱がせた上は床に積んじゃう。
真城朔
ぴっとりと寄り添いながら
夜高ミツル
やれば自分でできるんだけど、自分でしようと思う前にしてくれるので……。
真城朔
ぬるま湯に浸したタオルを絞って、
夜高ミツル
結果として全部任せてしまっている。
真城朔
ミツルの肌に沿わせる。
真城朔
首から。
真城朔
首にちょっと触れさせてから
夜高ミツル
少し首をすくめる。
真城朔
真城本人が首を傾げて
真城朔
顔を軽く拭く。
夜高ミツル
目を閉じる。
真城朔
汗ばんだこめかみとか おでことか 髪の付け根とか
真城朔
目元とか……
夜高ミツル
真城に身を委ねている。
真城朔
顔の脂が目に滲むと痛いし……
真城朔
早めのところで一度ぬるま湯にタオルを戻して、また絞り
真城朔
鼻筋に沿って拭いて
夜高ミツル
熱に火照り、汗の滲んだ顔がタオルで清められていく。
真城朔
口を拭いて
真城朔
顔の正面の大方を清めた後に、耳の裏から顎の線を
真城朔
すーっと拭いていく。
夜高ミツル
小さく、息をつく。
真城朔
寒さを感じないようにか、なるべく身を寄り添わせながら。
真城朔
顎の線から首筋へと再び降りて、
夜高ミツル
いつも真城がミツルにするように、力を抜いて身を任せている。
真城朔
うなじから髪の生え際を拭き上げる。
真城朔
また水に浸して絞った。
真城朔
そして今度は首筋から下に。
真城朔
鎖骨に滲む汗をタオル越しに指で辿る。
夜高ミツル
熱に火照った肌をタオルが這う。
真城朔
鍛えられた胸板をぐるりと拭いて
真城朔
腕を取って軽く上げると、
夜高ミツル
持ち上げられる。
真城朔
脇の下から腕へとタオルを這わせてぐいーっと。
真城朔
右腕の肘裏までを拭き清めて
夜高ミツル
タオルが肌を擦る度に、その場所に意識が向く。
真城朔
肩まで戻ってくる。
真城朔
そこで一度身体を離した。
真城朔
バスタオルを敷いてミツルを横たわらせて
真城朔
その上に布団を被せる。
真城朔
タオルを洗面器に沈めて。
夜高ミツル
「……?」
真城朔
「……お湯」
真城朔
「替えてくる……」
夜高ミツル
「……ああ」
真城朔
冷めてきていた。
夜高ミツル
こく、と頷く。
真城朔
言い残して洗面所に向かう。
真城朔
水音の後にすぐに戻ってきた。
真城朔
タオルも新しいものに変わっている。
真城朔
それをまた絞って、布団をはがして、同じように。
真城朔
さっきよりもタオルが熱くなっているような気がする。
真城朔
ミツルを支えて右腕を取って
夜高ミツル
あったかい……
真城朔
手首の周りをぐるぐると拭いて
真城朔
肘までをまたすーっと拭いて……
真城朔
もう一回右肩から先までを一巡する。
真城朔
筋肉を沿うように拭き上げる。
真城朔
時折。
真城朔
傷が見えることに、眉を寄せなどもするが。
真城朔
涙目なのは最初からずっと。
夜高ミツル
身体のそこかしこに、傷痕がついている。
夜高ミツル
いくつかはまだ新しいもの。
真城朔
それに涙を滲ませるけれど、手は止めない。
真城朔
今度は胸から左腕を取って、同じように身を清めていく。
夜高ミツル
ミツルはそれには気づかずに、ただ真城に身を任せている。
真城朔
支えになるように、ミツルの身体が冷えないように、極力寄り添っている。
夜高ミツル
はじめは自分で上半身を起こしていたのが、温もりを求めるように真城に体重を預けている。
真城朔
それを受け止めて
真城朔
重さを感じる様子もなく作業を続けている。
真城朔
背中に腕を回して、
真城朔
胸から腹を拭き清める。
真城朔
傷が多い。
夜高ミツル
目を閉じて、真城の体温とタオルの感触を感じている。
真城朔
覚えのある、ひときわ深い傷痕もある。
真城朔
それに差し掛かった瞬間ばかりはぴくりと手を止めかけたが、
真城朔
思い切ったようにぐいーっと拭いてしまった。
真城朔
ぐいぐい……
真城朔
定期的に温水にタオルを浸しては絞り。
夜高ミツル
治った傷痕なので、痛みもない。
真城朔
何事もないかのように続けて。
真城朔
背中を拭くときはミツルを前傾姿勢にして、
真城朔
片腕を肩に回して身体を支えながら
真城朔
自分のよりも少し広い背中へとタオルを添わせていく。
真城朔
背骨を辿って。
真城朔
肩甲骨の窪みに触れて。
夜高ミツル
「ん……」
夜高ミツル
小さく声が溢れた。
真城朔
回した腕に少し力が入って、
真城朔
気持ち身体が密着する。
夜高ミツル
あったかい……
夜高ミツル
ましろがいるなあ……
真城朔
腰回りを熱心に拭いている。
真城朔
ぐるぐる
真城朔
ごしごし……
真城朔
ごしごしというほど激しくはないのでは?
夜高ミツル
ぼやぼやと、身体を清められる心地よさに浸っている。
真城朔
まあほどほどに拭いて、ふうと息をついて
真城朔
タオルを温水に戻して。
真城朔
なんとなく気化熱で身体が冷めていくような心地がある。
夜高ミツル
ひんやり……
真城朔
手を伸ばしてテーブルからインナーを取った。
真城朔
ミツルの頭に被せる。
夜高ミツル
被せられた。
真城朔
かぶせて 着せて
夜高ミツル
真城に手伝ってもらいながら着ました
真城朔
そのまま替えのルームウェアも着せて
真城朔
上はこれで完了。
真城朔
またお湯を張り直して
真城朔
洗面所から戻ってきて洗面台を置いて
真城朔
ルームウェアのズボンに手をかけます。
夜高ミツル
されるがまま。
夜高ミツル
下はいいんじゃないか?と遅れて思いもしたが。
夜高ミツル
なんかもう今日は何もかも遅い。
真城朔
バスタオルを敷いているのでそのまま下着も脱がせちゃうぞ。
夜高ミツル
ああ~……
真城朔
えいや~
真城朔
淡々とやっていきをしています。
真城朔
淡々とやっていきをし、まずは下着の下の部分をまた拭く。
夜高ミツル
自分だけ下を履いてないと妙に恥ずかしい。
真城朔
流石に性器周りだとかは触れないが……
夜高ミツル
さすがにね……
真城朔
変なことになったらやだし……
真城朔
シンプルに腰の低いところとか臀部とか 太ももの付け根とか
真城朔
そういう場所をさっさと拭いてから
真城朔
下着を取る。
真城朔
脚を掴んで通させて……
真城朔
そこまでするのか?
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
さすがに結構恥ずかしい。
真城朔
しようとしている。
真城朔
しています。
夜高ミツル
「じ」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「自分でする……」
真城朔
「…………」
真城朔
頷いた。
夜高ミツル
さすがに……という気持ちになった。
真城朔
途中で手を止めて
真城朔
洗面器に手をかける。
真城朔
「お湯」
真城朔
「替えてくる……」
真城朔
拭いた場所が拭いた場所なので……
夜高ミツル
頷いて、下着に手をかける。
真城朔
ミツルが自分で履いてる間にやっていくぞ。
夜高ミツル
のそのそと引っ張り上げました。
真城朔
流石に下着を履く方が早い。
夜高ミツル
さすがに……さすがにな?
夜高ミツル
これくらいは自分でな……?
真城朔
さすがにな……になってるミツルのところに戻ってきます。
真城朔
洗面器を置いて、新しいタオルを絞り。
真城朔
下着から伸びる脚を今度は直線的な動きで拭き清めていく。
真城朔
ふきふき……
夜高ミツル
再びされるがままになっています。
真城朔
前後にふきふき
真城朔
膝裏に手を添えてちょっと持ち上げて
夜高ミツル
拭かれてるな~
真城朔
太ももの下側も拭いて
夜高ミツル
足は上半身ほど傷はない。
真城朔
そのまま膝裏とふくらはぎの裏を拭いて……
真城朔
一度温水にタオルを漬けて 絞って
真城朔
膝を拭いて 脛を拭き
真城朔
右が終わったら左にも……
夜高ミツル
拭かれてるなあ
真城朔
熱心にやってます。
真城朔
もくもく……
真城朔
脚が終わったので
真城朔
足にかかる。
真城朔
アキレス腱のあたりから。
真城朔
くるぶしとその筋にタオルを添わせて
夜高ミツル
こういうの、普段は自分がやる側だから
真城朔
内くるぶしまでぐるりと回して
真城朔
それから足の甲。
夜高ミツル
なんかまあなんとなく、気恥ずかしさというか……。
真城朔
足の指の間にもタオルを挟ませて
真城朔
指を突っ込んで拭いて
夜高ミツル
そこまでしなくても……とも思いつつ。
真城朔
終わったら足の指全体にタオルを被せて全体を拭く。
真城朔
足首を取って浮かせて、最後に足の裏。
夜高ミツル
してもらえること自体は嬉しいので、何も言わずに任せている。
真城朔
というのを右にやり、右が終わったら左で、
真城朔
左の足裏も最後に拭き上げたらタオルを戻し。
真城朔
ルームウェアのズボンを取って、ミツルを見る。
真城朔
じ……
夜高ミツル
「……履く」
夜高ミツル
「じぶんで……」
真城朔
「ん」
真城朔
渡した。
夜高ミツル
受け取って。
真城朔
今度は見守っている。
夜高ミツル
もたもたと足を通し
真城朔
支えたりします。
夜高ミツル
裾が絡まったのを整えてもらったりしつつ
夜高ミツル
足を通し、ズボンを腰まで引き上げる。
真城朔
よし。
夜高ミツル
息をついた。
夜高ミツル
それから真城を見て
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
なんとか微笑んでから。
真城朔
ミツルをベッドに横たわらせるぞ。
夜高ミツル
さっぱりして、またベッドに横たえられる。
真城朔
布団をかぶせる。
真城朔
「たぶん」
真城朔
「また」
真城朔
「寝ると……」
真城朔
「食べたし」
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
「薬」
真城朔
「飲んだし」
真城朔
「疲れただろうし……」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
ベッドのすぐ隣にしゃがみこんでまたミツルを見ています。
真城朔
「水」
真城朔
「大丈夫?」
夜高ミツル
「もらう……」
真城朔
布団を被せる前に訊くことであった。
真城朔
頷いて、起こします。
夜高ミツル
起き上がりこぼしになった。
真城朔
いつものように支えていつものように注いだコップをいつものように口元に……
夜高ミツル
飲みました。
真城朔
まだいつもと言うほどではないのでは?
真城朔
飲ませました。
真城朔
飲ませて、また寝かせる。
夜高ミツル
3回目。
真城朔
布団ふたたび
夜高ミツル
横になって目を閉じる。
真城朔
凝視も再び……
夜高ミツル
身体は相変わらず熱を持ったまま。
夜高ミツル
でもお粥を食べて身体もきれいにしてもらったから、気分の方はかなりマシ。
夜高ミツル
「……真城が」
夜高ミツル
「いてくれて」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「よかった……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
目を閉じたまま、掠れた声でそう言う。
真城朔
「……いる」
真城朔
手を潜り込ませて
真城朔
布団の下で、ミツルの手を探す。
夜高ミツル
「んー……」
夜高ミツル
動く気配に、そちらに向けて手を動かす。
真城朔
今のミツルに体温にはひんやりとした手が触れて、
真城朔
指が絡む。
真城朔
「いっしょに」
真城朔
「いっしょに、いる……」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
ミツルからも指を絡める。
真城朔
すべらかな指の腹がミツルの指に添わされる。
夜高ミツル
火照った肌が、真城の指に冷やされる。
夜高ミツル
「真城……」
夜高ミツル
「ましろ……」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「……ミツ」
真城朔
手を重ねる。
夜高ミツル
「……ましろ」
真城朔
ミツルの手に両手を重ねて
真城朔
布団の下、包み込むような形で。
夜高ミツル
それに安心して、小さく笑う。
真城朔
手指を絡めながら
真城朔
ミツルの手の甲に手のひらを添える。
夜高ミツル
暫くは握り返したり、意味もなく真城の名を呼んだりしていたが
夜高ミツル
やがてゆっくりと、手から力が抜けていき
夜高ミツル
吐息が規則正しいものになる。
真城朔
それを認めても、ずっとミツルの手を握っていた。
夜高ミツル
そうして真城に見守られながら眠って、夕方頃。
夜高ミツル
ぱちりと目を覚ます。
真城朔
目が合う。
真城朔
まだ手が握られている。
夜高ミツル
まだ熱っぽさはあるものの、悪寒や頭の重さはだいぶマシになっている。
真城朔
テーブル周りの状況はミツルが眠りに落ちるまでと全く変わっていない。
真城朔
洗面器も脱いだルームウェアも……
真城朔
食べた食器も……
夜高ミツル
手を繋いだまま、身体を起こそうと。
真城朔
支えます。
真城朔
添えた片手を離して 片手はつないだまま
夜高ミツル
身を起こすのも寝る前よりは滞りなく。
真城朔
「…………」
真城朔
「どう?」
夜高ミツル
「んー」
夜高ミツル
「結構よくなった」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城のおかげだな」
真城朔
支える腕を離して 身体でミツルの体重を受けながら
真城朔
前髪を掻き分けて、額に触れる。
夜高ミツル
ひんやりとした真城の肌が触れる。
真城朔
前よりはひんやり度合いが下がっている。
夜高ミツル
熱が下がってることだなあ。
真城朔
「おかゆ、とか」
真城朔
「まだ」
真城朔
「残ってるけど」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「食べる」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「……食べるけど、」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「先に、トイレ……」
真城朔
「ん」
真城朔
支えて起こします。
真城朔
一人で起きられそうだが……
夜高ミツル
結構起きられる感じですね。
夜高ミツル
ベッドから降りる。
真城朔
まじまじ おろおろ
真城朔
付き添うか付き添わないかで右往左往している
夜高ミツル
立つ時こそ多少ふらついたものの、足取りはしっかりしている。
真城朔
おろろ……
真城朔
でも心配なのでとりあえずくっつきます。
夜高ミツル
くっつかれつつ、トイレの方に向かっていく。
真城朔
支え支え……
夜高ミツル
ほぼほぼただくっついてるだけみたいになってる。
真城朔
ぴと……
真城朔
さすがに中にまではついていかない。
夜高ミツル
そうだね……
真城朔
前で待ちはします。
真城朔
するんだなあ。
夜高ミツル
ささっと用を足して、トイレを出る。
真城朔
またぴと……ってくっつく。
真城朔
ベッドに戻ろう……
夜高ミツル
くっつかれている。
夜高ミツル
戻ります。
真城朔
戻って 寝かせて
真城朔
コップに水を注いで
真城朔
ヤカンから
真城朔
ミツルに差し出します。
夜高ミツル
また起き上がりこぼしになるのでは?
夜高ミツル
なりました。
真城朔
なった……
真城朔
終わってから食器とコップを取ってキッチンに消えていく。
夜高ミツル
コップを受け取って、自分で飲んだ。
真城朔
洗面器が3つ並んでて ルームウェアと下着が積んであって
真城朔
ヤカンとか薬とかタオルとかが置いてあって
真城朔
外はとっぷり夜。
夜高ミツル
ずっといてくれたんだな……。
真城朔
とっぷりの夜に、新しく盛ったおかゆをトレイに乗せて戻ってきます。
夜高ミツル
真城に風邪をうつす心配がないのだけはよかった。
真城朔
同じ匙を添えて 新しいコップも持ってきて
真城朔
ベッドサイドに置く。
真城朔
じ……とミツルを見ます。
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「……自分で」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「食べれる」
真城朔
頷かれて頷き返す。
真城朔
コップにヤカンから常温の水を注ぐ。
真城朔
注いで添えて。
夜高ミツル
ベッドを降りて、テーブルの方へ。
真城朔
薬を出して置いて。
真城朔
洗面器とかを避けます。
真城朔
「え」
真城朔
「っと」
真城朔
周囲を見回し……
真城朔
「この」
真城朔
「このあたり」
真城朔
「して、くる」
真城朔
「から」
夜高ミツル
「?」
夜高ミツル
「ああ」
真城朔
水とか湯とか張った洗面器とか……
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「ありがとう」
真城朔
「なんかあったら」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷いて、まず洗面器を一つ持ち上げた。
夜高ミツル
お粥の前に腰を下ろし、手を合わせ。
真城朔
一つだけ空のが残っている。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「…………」
真城朔
「と」
真城朔
「はい」
真城朔
よくわからない返事がきた。
真城朔
そそくさと洗面器を持っていきます。
夜高ミツル
それを見送り、匙を手にとって食べ始める。
真城朔
ふにゃふにゃの卵がゆ。
真城朔
味が薄い。
夜高ミツル
薄いなあ……。
夜高ミツル
でもおいしい。
真城朔
卵があんまり行き渡ってない
夜高ミツル
真城が自分のために作ってくれた卵がゆ。
真城朔
固まっちゃったのを後から混ぜた気配がある。
真城朔
ぱたぱた……
真城朔
戻ってきて
真城朔
洗面器の二個目を取って
真城朔
風呂場に戻り……
真城朔
ぱたぱた
夜高ミツル
やたらと時間をかけて、お粥を味わっている。
夜高ミツル
温かい。
真城朔
ごはんを顆粒だしで煮て卵を注いでちょっと塩入れただけみたいな卵がゆ。
真城朔
スマホで調べた……
夜高ミツル
それを真城が自分のためにがんばって作ってくれた事実が、ぽかぽかと身体を温めているような気がした。
真城朔
脱いだ服とかタオルも拾い上げて
真城朔
脱衣かごに突っ込みに行って
夜高ミツル
味わう時は時間をかけて、でも食べるペースは緩まない。
夜高ミツル
腹減ってたんだなあ、というのに食べ始めてから気づくパターン。
真城朔
戻ってきて
真城朔
けっこう進んでいる様子を見て
真城朔
「…………」
真城朔
「プリン」
真城朔
「とか……」
夜高ミツル
「プリン」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
前買ったやつ……ってキッチンの冷蔵庫の方指差す。
夜高ミツル
「いる」
真城朔
「ん」
真城朔
頷いた。
真城朔
ステンレスのスプーンを添えてプリンを持ってきます。
真城朔
1個。
真城朔
ミツルのトレイに置く。
真城朔
あと台ふきんも持ってきたので今更ながら拭いている。
夜高ミツル
その辺りのタイミングで、ちょうど卵がゆの方も完食する。
真城朔
おず……
夜高ミツル
「ごちそうさま」
夜高ミツル
「うまかった」
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん……」
夜高ミツル
「ありがとな、真城」
真城朔
小さく頷く。
真城朔
こくこく……
真城朔
「よかっ」
真城朔
「た」
真城朔
ミツルの隣に座る。
真城朔
ぴと……
夜高ミツル
隣に来たので、頭を撫でた。
真城朔
擦り寄せます。
真城朔
ふにゃ……
夜高ミツル
「ありがとな~」
夜高ミツル
ぐで、とちょっと体重をかけつつ。
真城朔
体重を受け止めて寄り添う。
真城朔
支える半分 くっつく半分
真城朔
「いつ、も」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「して」
真城朔
「もらってる、し」
夜高ミツル
「今日は真城に色々してもらったなあ」
真城朔
「…………」
真城朔
「できて」
真城朔
「た?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「助かった」
真城朔
よかった、と表情を緩める。
真城朔
手を伸ばして、プリンの蓋を開けた。
夜高ミツル
身を寄せて、目を閉じて。
真城朔
ミツルの前に置く。
夜高ミツル
「……あ」
真城朔
「?」
夜高ミツル
身体を起こす。
夜高ミツル
「いや、プリンな」
真城朔
「プリン……」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
忘れていた。
真城朔
忘れられていたらしい。
真城朔
「プリン」
真城朔
「食べたら」
夜高ミツル
まだぼんやりしてるな……
真城朔
「また、薬」
夜高ミツル
「んー」
真城朔
じー
夜高ミツル
頷いて、プリンとスプーンに手をのばす。
真城朔
見守っています。
真城朔
くっつきながら……
夜高ミツル
スタンダードなカップのプリン。
真城朔
3個セットのやつ
夜高ミツル
スプーンで掬って、口に含む。
真城朔
じーっと見ている。
真城朔
見ていたけど
真城朔
ふと思い出したようにスマホを手にとった。
真城朔
ミツルにくっつきながらもにもにいじっている
夜高ミツル
プリンうまいな~……
夜高ミツル
「?」
真城朔
もにもに……
真城朔
顔を上げたところで目が合った。
真城朔
真城がこういう時にスマホをいじるのはけっこう珍しいのは確か。
夜高ミツル
珍しいなと思って見ていた。
真城朔
目が合って
真城朔
「え」
真城朔
「っと」
真城朔
「体温計……」
真城朔
「アマゾン……」
真城朔
買う? って首を傾げた。
夜高ミツル
「あー」
夜高ミツル
「届く頃には下がってんじゃないかなあ」
真城朔
「でも」
真城朔
「またがあるかも」
真城朔
「だし」
真城朔
「冷えピタとかもある……」
真城朔
もに……
真城朔
「確認……」
夜高ミツル
「まあ、そうだな……」
真城朔
「できた方が」
真城朔
「そんな高くない……」
夜高ミツル
「買っとくか」
真城朔
こくこく……
真城朔
「冷えピタは?」
夜高ミツル
「それもだなー」
真城朔
頷いた。
夜高ミツル
「あとポカリとかもあったらいいか」
真城朔
「ポカリ」
夜高ミツル
そんなもんかなあ、とプリンを掬いつつ。
真城朔
「500ml×24本」
夜高ミツル
「ちょっと多いな……」
真城朔
うーん……
夜高ミツル
「まあ次外出た時のついででもいいか」
真城朔
「ポカリは」
真城朔
「それで……」
真城朔
「とりあえず」
真城朔
「体温計と冷えピタ?」
夜高ミツル
「だなー」
真城朔
ポカリいっぱいあるやつひっかかりすぎて混乱している
夜高ミツル
飲料系は箱買いになりがち。
真城朔
冷えピタもまあ多いやつは多いが……そうじゃないやつをとりあえず選んで……
真城朔
「買った」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
合わせて二千円しないくらい。
真城朔
「水曜日に来る……」
夜高ミツル
「はやいなー」
真城朔
「通販すごい」
真城朔
アマプラはすごい
夜高ミツル
すごいなあ
夜高ミツル
千葉にいた頃は全然使ってなかったので、こんなにはやく来るもんかとびっくりした。
夜高ミツル
そうこうしてるうちに、程々にプリンを食べ進め。
真城朔
下手したら買いに行くよりも全然早い
真城朔
もにもに触って
真城朔
「長引いたら」
真城朔
「ネットスーパーとかで……」
真城朔
「食べ物……」
夜高ミツル
「んー」
夜高ミツル
底の方のカラメルが溜まった部分に行き当たったところで
夜高ミツル
「真城」
真城朔
アマゾンでもあるけど……
真城朔
「?」
真城朔
顔を上げた。
夜高ミツル
「一口いる?」
真城朔
「…………」
真城朔
視線が彷徨った。
真城朔
迷っている……
夜高ミツル
迷ってるなあ
真城朔
ミツのだし……
真城朔
ミツが食べたほうがいいと思うし……
真城朔
俺は食べなくても大丈夫だし……
真城朔
でもミツが言ってくれたわけで……
真城朔
でも……
夜高ミツル
自分だけで食べてる時は一口いるか聞くのが習性になっているところがある。
真城朔
その度に迷いがち。
真城朔
おなかいっぱい目のときは断れるのだが……
夜高ミツル
急かさずに待っている。
真城朔
「……ミツは」
真城朔
「おなか」
夜高ミツル
「ん?」
真城朔
「どんな感じ……?」
夜高ミツル
「んー……」
夜高ミツル
「七分目くらい……?」
真城朔
迷っている……
真城朔
「まだ」
真城朔
「ミツが、まだ」
真城朔
「食べたいなら」
真城朔
「俺は」
夜高ミツル
「……」
真城朔
「別に」
真城朔
「食べなくても」
真城朔
「なので」
真城朔
「問題ないし……」
夜高ミツル
「今日、真城と一緒に食えてないから」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「一口だけでも」
夜高ミツル
「一緒に」
夜高ミツル
「とか……」
真城朔
「…………」
真城朔
「たべる……」
真城朔
小さく口を開きました。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
カラメルとプリンをスプーンで掬って、真城の口に運ぶ。
真城朔
あむ……
真城朔
匙を口に含んで
真城朔
もぐ……
夜高ミツル
それを見て、嬉しそうに。
真城朔
もぐもぐしています。
真城朔
固いものではないので時間はかからないが……
真城朔
「甘い……」
夜高ミツル
「甘いなー」
真城朔
「プリン……」
真城朔
「プリンの」
真城朔
「甘いとこ……」
真城朔
認識。
夜高ミツル
「もっと食うか?」
真城朔
「んー……」
真城朔
「…………」
真城朔
「……ちょっとだけ……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
二口目を掬って、また真城の口元へ。
真城朔
また餌付けられます。
真城朔
もみゅもみゅ
真城朔
舌で味わっている。
夜高ミツル
してもらうのも嬉しいけど、やっぱりこっち側のが落ち着く。
真城朔
嬉しそうにくっつきながらプリンを味わっています。
夜高ミツル
自分も一口掬って食べる。
真城朔
食べるのをじっと眺め……
夜高ミツル
風邪引いてる時の冷たくて甘い物、妙に美味しい。
夜高ミツル
ゼリーとかアイスとか。
真城朔
やたら沁みる
真城朔
隣に恋人もいる。
夜高ミツル
幸せだな…………。
夜高ミツル
熱がある時に一人じゃないばかりか、大好きな相手がいてくれて、
夜高ミツル
何くれとなく世話を焼いてくれて。
夜高ミツル
真城がいてくれてよかった。
夜高ミツル
改めてそう思った。
夜高ミツル
幸せを噛み締めつつプリンを完食しました。
真城朔
「ごちそうさまでした」
夜高ミツル
「ごちそうさま」
真城朔
ミツルの完食に合わせてごちそうさまをした。
真城朔
トレイにおかゆの器とか色々乗せて立ちあがる。
夜高ミツル
後片付けは任せて、薬に手をのばす。
真城朔
ヤカンも持っていき……
真城朔
洗い物の音。
夜高ミツル
コップも取って、水で薬を流し込む。
夜高ミツル
息をつく。
真城朔
水に漬けてた鍋とかも洗ってます。
夜高ミツル
真城がなんでもしてくれるので手持ち無沙汰だ。
夜高ミツル
結構気分も良くなったし、洗い物の手伝いに行こうかなとも一瞬思ったが
夜高ミツル
多分余計な心配をさせるので、おとなしく甘えてしまうことにする。
真城朔
洗い物を終えて戻ってきます。
真城朔
手がちょっと湿っている。
夜高ミツル
ちょうどベッドに戻ったところ。
真城朔
ベッドに戻ってミツルを見て、
真城朔
「…………」
真城朔
迷ったように視線を彷徨わせた。
夜高ミツル
「?」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「寝る?」
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
「結構寝たから、正直」
夜高ミツル
「あんま眠くはない……」
真城朔
「…………」
真城朔
「なんか見る……?」
真城朔
テレビを見……
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
「真城は?」
夜高ミツル
「眠い?」
真城朔
首を振る。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「じゃあなんか流すか」
真城朔
頷いた。
真城朔
テレビ台を掴んで
真城朔
よいしょと持ち上げて
真城朔
見やすい角度と位置にほどよく調整……
夜高ミツル
調整してもらっている
真城朔
引きずらないようにやってます。傷がつくと大変。
真城朔
腕力があるのでできている。
夜高ミツル
あれすごいな……
真城朔
よいしょ……
夜高ミツル
よく知ってるつもりだけど、たまに改めてすごいなと思う。
真城朔
まあまあ調整しました。
真城朔
無理せずに見られる感じの角度と位置になった。
真城朔
リモコンを持ってミツルの方へ。
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
「ん」
真城朔
ミツルにリモコンを渡します。
真城朔
ベッドの脇に座る。
夜高ミツル
受け取りました。
真城朔
遠慮しているのかベッドには乗り込まないで床に座っている。
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
招くように布団を持ち上げている。
真城朔
おろ……
真城朔
おろってなった。
真城朔
しばらくそのままおろおろしている。
真城朔
していたが
夜高ミツル
待ってる。
真城朔
待たれている。
真城朔
おずおずと乗り込みました。
真城朔
布団の中に潜り込む。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
真城の身体を抱え込んで、満足げに。
真城朔
抱え込まれる。
真城朔
ぴと……
夜高ミツル
腕を回したままリモコンを操作する。
真城朔
日曜夜。
真城朔
ニュースとかバラエティとかやってる頃かな……もうちょっとしたら映画とかあるな……みたいな感じかな……
真城朔
ぴっとりくっつきながら
夜高ミツル
適当にチャンネルを変えていく。
夜高ミツル
マグロ漁師の特集をしている。
真城朔
ぼんやり見てます
真城朔
「マグロ……」
夜高ミツル
「でかいな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
他のバラエティとかよりは騒がしくないな……
真城朔
美術館とか 途中のドラマとか わかんないし
夜高ミツル
お笑いもあんまり見ない
真城朔
ぼんやり眺めながら
真城朔
「次」
真城朔
「次は、もっと」
真城朔
「ちゃんと」
真城朔
「あったかくする……」
真城朔
ぽつぽつと。
夜高ミツル
「いやー……」
夜高ミツル
「はしゃぎすぎたな……」
夜高ミツル
「反省しました……」
夜高ミツル
反省している。
夜高ミツル
「これからまた冷え込むんだもんなあ」
真城朔
「俺も……」
夜高ミツル
言って、真城を抱き寄せて。
真城朔
「自分が」
真城朔
「平気だからって」
真城朔
抱き寄せられる。
夜高ミツル
真城の後頭部に顔を寄せる。
夜高ミツル
「いやあ……」
夜高ミツル
「結局は自分でちゃんとしないとな……」
夜高ミツル
「いけないわけで……」
真城朔
「…………」
真城朔
しょぼ……
真城朔
丸い頭がしょぼになってます。
夜高ミツル
「……でも、ほんとに」
夜高ミツル
「楽しかったから」
真城朔
振り返る。
夜高ミツル
「……まあ、こうして、真城に」
夜高ミツル
「色々手間をかけさせてしまったわけですが……」
真城朔
「…………」
真城朔
「手間は」
真城朔
「べつに」
真城朔
「ぜんぜん……」
真城朔
「嫌じゃない」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「……楽しかった」
真城朔
「…………」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「こんなに雪降るの、千葉ではないし」
夜高ミツル
「雪だるま作るのも雪に埋もれるのも」
夜高ミツル
「真城と一緒にいて」
夜高ミツル
「楽しかったよ……」
真城朔
「うん……」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
真城を抱き寄せて、目を伏せている。
真城朔
涙を拭って
真城朔
ミツルの胸に頬を寄せた。
真城朔
「楽しかった」
真城朔
「楽しかった……」
夜高ミツル
常より少し高い体温で、真城を包む。
真城朔
常よりも冷たく感じられる身体がそれに応える。
夜高ミツル
「次はもうちょっと程々に……」
夜高ミツル
「俺もちゃんと気をつける……」
真城朔
「……ん」
真城朔
「ちゃんと」
真城朔
「あったかくして」
真城朔
「防寒……」
夜高ミツル
「だなあ……」
夜高ミツル
「あとあれだ」
夜高ミツル
「タオル」
夜高ミツル
「持ってっといたらよかったな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「あと」
夜高ミツル
思ったより濡れた。
真城朔
「足も」
真城朔
「もっとちゃんと……」
真城朔
靴けっこうぐしょぐしょなった……
夜高ミツル
「だなぁ……」
真城朔
「……ちゃんと」
真城朔
「ちゃんと調べて」
真城朔
「準備して」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「狩りもあるしなあ」
真城朔
「……うん」
真城朔
また、
真城朔
月末になったら。
夜高ミツル
そうでなくても、巻き込まれる可能性はいつだって0じゃない。
夜高ミツル
これから更に冷え込みは厳しくなるわけで。
夜高ミツル
備えておくに越したことはない。
真城朔
何より単純に、体調を崩していいことなどなにもないわけで。
夜高ミツル
心配させたなあ……。
真城朔
泣いた。
夜高ミツル
泣かせてしまった。
夜高ミツル
反省……。
真城朔
その真城が今はミツルの胸に顔を擦り寄せている。
真城朔
いつものように。
夜高ミツル
自分よりは体温が低いとはいえ、身を寄せれば暖かく。
真城朔
布団の中に他人のぬくもり。
夜高ミツル
それを腕の中に抱いて。
夜高ミツル
目を閉じて温もりに浸っていると、また眠気がやってくる。
真城朔
マグロ漁師の声が遠くなっていく……
夜高ミツル
動かしてもらったのに殆ど見なかったな……。
夜高ミツル
そんなことを思いつつも、そのまま眠気に身を任せてしまう。
夜高ミツル
おやすみも言わないうちに、気づけばミツルはすうすうと寝息を立てていた。