21/1/16 昼過ぎ

真城朔
エプロンを着て台所に立っている。
真城朔
入居のときに揃いで買ったものだったが、真城が着る機会はあまりなかった。
夜高ミツル
揃いのエプロン姿で隣に立つ。
真城朔
袖をアームバンドでまくりまくり……
夜高ミツル
いつもはミツルが前に出ているのだが、今日は半歩引いた形。
真城朔
ややというか普通に落ち着かない様子で立っている。
夜高ミツル
ミツルもやや落ち着かなさげ……なのをどうにか取り繕いつつ。
夜高ミツル
「……じゃあ、始めるかー」
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん」
真城朔
助けを求めるように視線をミツルに向けていたが、その声に気持ち背筋を伸ばして。
真城朔
とりあえず手を洗います。
真城朔
洗い洗い……
真城朔
手を拭いて……
夜高ミツル
真城の次に一応ミツルも。
夜高ミツル
じゃぶじゃぶ
真城朔
また視線が向いてしまった。
夜高ミツル
手を拭きつつ……
真城朔
「味噌汁」
真城朔
「味噌汁から?」
夜高ミツル
「えーと」
真城朔
じ……
夜高ミツル
「ん、そうだな、味噌汁から」
夜高ミツル
ちょっと考えて、頷く。
真城朔
「味噌汁……」
真城朔
おろおろ……
真城朔
ええと……
真城朔
調理器具入れから片手鍋を出して……
真城朔
ミツがいつも味噌汁にはこれを使っている……
真城朔
出した。
真城朔
置いた。
夜高ミツル
「そうそう、それ使って」
真城朔
こくこく……
真城朔
「水」
真城朔
「どれくらい?」
夜高ミツル
「一日分まとめて作る時は……この辺くらいかな」
真城朔
じ……
夜高ミツル
指で鍋の内側をこの辺り、と示す。
真城朔
示されたあたりをじっと見つめて、頷いた。
夜高ミツル
半分よりちょい上くらい。
真城朔
鍋を差し出して蛇口から直で水を入れる。
真城朔
ジャーッ
真城朔
キュッ……
真城朔
水を止めました。
夜高ミツル
止まった。
真城朔
だいたいなラインまで水が注がれました。
真城朔
鍋をコンロに置いて……
真城朔
「具」
真城朔
「どうしよ」
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
「今日あるのだと……」
夜高ミツル
昨日の買い物の内容を思い出し……
真城朔
冷蔵庫の方に歩いていき……
真城朔
中身を見たりします
夜高ミツル
後ろから覗くなどする。
真城朔
キャベツとかほうれん草とか白菜とか……
夜高ミツル
「とりあえず豆腐とー」
真城朔
「豆腐」
夜高ミツル
「豆腐買ってある時は大体味噌汁用だから使っていい」
真城朔
「味噌汁用」
真城朔
復唱復唱
夜高ミツル
「うん」
真城朔
出します。豆腐を。
真城朔
絹ごしかな
夜高ミツル
じゃあ絹です
真城朔
絹ごしになりました。
夜高ミツル
「あとはキャベツと玉ねぎあるからそれにするか」
真城朔
絹ごし1パック。お安いやつ。
真城朔
「豆腐とキャベツと玉ねぎ」
真城朔
キャベツも出します。
真城朔
並べ
真城朔
常温の野菜箱から玉ねぎを1玉。
真城朔
小さめ。
夜高ミツル
後ろで見てるだけってなんか慣れないな……。
真城朔
豆腐とキャベツと玉ねぎがとりあえず並びました。
真城朔
えーと……
夜高ミツル
「火が通りにくい野菜から入れたほうがいいから」
真城朔
キャベツに手を伸ばしかけていたのが
真城朔
ミツルの言葉にはっとなります
夜高ミツル
「最初は玉ねぎかな」
真城朔
「玉ねぎ」
真城朔
こくこく
真城朔
玉ねぎを取りました。
真城朔
取って流し台に立って
真城朔
三角コーナーの上で剥いていきます。
真城朔
ぱりぱり……
夜高ミツル
ぺりぺり
真城朔
剥いている。
真城朔
外側は迷いなくどんどん剥いていく。
真城朔
茶色いのは剥いていい。
夜高ミツル
うんうん。
真城朔
茶色いのは剥いていいんだけど、
真城朔
全体的に白いのに上の方が茶色い層に辿り着いてしまった。
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルを見ました。
夜高ミツル
「えーと、そういうとこは……」
夜高ミツル
「もう一層全部剥いちゃってもいいんだけど」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「俺は茶色いとこだけ剥いてる」
真城朔
「茶色いとこだけ……」
真城朔
玉ねぎに視線を戻し……
夜高ミツル
「こう……横にべりべりと……」
夜高ミツル
こう……
真城朔
こう……
真城朔
見様見真似……見様見真似でもないな……
真城朔
なんとなくそれっぽく……
真城朔
上側を摘んでやぶって
真城朔
慎重に……
夜高ミツル
うんうん……
真城朔
ぐるぐるぺりぺり……
真城朔
一周。
真城朔
上側がちょっと凹んだ玉ねぎが剥けました。
真城朔
剥けたので、洗います。
真城朔
じゃぶじゃぶ……
夜高ミツル
茶色い部分が取り除かれているのを見て頷いた。
真城朔
よく洗う。
真城朔
よく洗って台の上に置いて
真城朔
まな板を出す。
真城朔
置いてから、包丁も出す。
真城朔
きら……
真城朔
「…………」
真城朔
刃物……
真城朔
別に怖いわけではないけど……
夜高ミツル
買ってからまだ数ヶ月。
夜高ミツル
概ね新品のピカピカの包丁。
真城朔
ぴかぴかきらきらの包丁
真城朔
玉ねぎをまな板に置きます。
真城朔
丸い。
真城朔
丸いので安定しない。
真城朔
とりあえず……
夜高ミツル
「包丁の使い方って習ったことあるか?」
真城朔
首を振りました。
夜高ミツル
「じゃあ、まずはそこからかな」
真城朔
ぎゅっと握ってます。包丁を。
真城朔
右手でぎゅっと握って、左手で玉ねぎをまな板に置いてます。
真城朔
ミツルに頷きました。
夜高ミツル
「気をつけて使えば大丈夫だから、そんなに緊張しなくていいからなー」
真城朔
「ん……」
真城朔
とは頷くもののややおろついてます。
真城朔
「使い方……?」
夜高ミツル
「手の置き方があって……」
夜高ミツル
こう、と指先を丸めて見せる。
真城朔
「置き方」
真城朔
玉ねぎを押さえつけていた手をあげました。
真城朔
丸めます。
夜高ミツル
反対の手を手刀の形にして、包丁に見立て
夜高ミツル
「指を伸ばしてると……切っていく時にうっかりやっちゃうかもだろ?」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
一度手を伸ばし、とんとんとジェスチャーしてみせ、
夜高ミツル
それから改めて指先を丸めて
夜高ミツル
「猫の手とか言って習うんだけど」
真城朔
「ねこ」
夜高ミツル
「こうやって丸めてるとザクッとやっちゃう心配がないと」
真城朔
「ねこのて」
真城朔
「…………」
真城朔
猫の手にします。
真城朔
猫の手にして、玉ねぎに添えます。
真城朔
添えて……
夜高ミツル
「そうそう」
真城朔
添えて、とりあえず
真城朔
根っこを切り落とそうとしている。
真城朔
ぐらぐら……
真城朔
ぐらぐらを猫の手で上から押さえ……
真城朔
包丁を添えて……
夜高ミツル
ハラハラ……
真城朔
すと……っ
真城朔
やや斜めになりながら
真城朔
玉ねぎの根っこが切り落とされました。
夜高ミツル
おお……
真城朔
ふー……
真城朔
息をついている。
真城朔
根っこを捨てます。
夜高ミツル
見てる側も妙に緊張する。
真城朔
根っこがちょっとまな板に残ってる……
夜高ミツル
あるあるだ
真城朔
まな板を水で流しています
真城朔
しゃー……
真城朔
軽く水で流して
真城朔
切り落とした側を下にして玉ねぎを置きました。
真城朔
安定。
夜高ミツル
やったね
真城朔
安心。
真城朔
さっきよりは安心して包丁を入れる。
真城朔
玉ねぎを左手で押さえ
真城朔
あっ
真城朔
猫の手……
真城朔
思い出したように指先を丸め
真城朔
すとん。
真城朔
ちょっと均等からぶれている。
夜高ミツル
そんなもんそんなもん
真城朔
半分にはなりました。
真城朔
それをまた横にして……
真城朔
半分……?
夜高ミツル
端からこう……
真城朔
端から……?
真城朔
刃先が迷っている。
夜高ミツル
「それを端の方から細めに切っていく感じで……」
真城朔
「端から……」
真城朔
猫の手で押さえ押さえ
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「いつも味噌汁に入ってる幅くらいに」
夜高ミツル
「最初だからもうちょっと太めでいいけど」
真城朔
ええとええと……
真城朔
ええと……になりながら包丁を添えて
真城朔
す……
真城朔
とん。
真城朔
包丁を上げて
真城朔
す……
真城朔
とん。
夜高ミツル
見守り……
夜高ミツル
緊張する…………
真城朔
ぎこちなく切っていきます。
真城朔
とんとんではなく さく……さく…… みたいなテンポ。
夜高ミツル
慌てると危ないからね
真城朔
当然ながらやや太い。1/3くし型みたいな感じ。
真城朔
半分くらい切れたところで
真城朔
「あっ」
真城朔
猫の手から玉ねぎが飛び出した。
夜高ミツル
「あっ……」
真城朔
まな板からも飛び出してころんと……
真城朔
力のかかり方が……
夜高ミツル
床に落ちなくて良かった……
真城朔
拾います。
真城朔
恐る恐るまた手で押さえ……
真城朔
猫の
真城朔
猫の手で……
真城朔
押さえ……
夜高ミツル
うんうん……
真城朔
包丁を添えて、下ろす。
真城朔
慎重に刃を入れる。
真城朔
す…………
真城朔
さく……
真城朔
とん…………
真城朔
じっ……と玉ねぎをにらみながらやっている。
夜高ミツル
そういえば鍋を火にかけてないな?
真城朔
かけてませんね。
真城朔
睨みながらやっているが、涙が滲む様子はなく。
真城朔
それはそれとして睨んでいます。
真城朔
包丁のペースがかなり遅くなっている。
真城朔
ねこのて……
真城朔
ねこのてでおさえる……
夜高ミツル
お湯やっちゃうか……と思いかけたけど、それじゃ教えるにならないな……
真城朔
さく……
真城朔
すとん……
夜高ミツル
切り終わったらだな……
真城朔
ねこのてで……
真城朔
だいぶ小さくなってきたので
真城朔
ちょっと危ない感じになっている。
真城朔
ねこのて……
真城朔
…………
夜高ミツル
「小さくなったら、無理しなくてもいいからな」
真城朔
はた
真城朔
ミツルを見ます。
夜高ミツル
「縦に半分に切っちゃってもいいし」
真城朔
「半分……」
真城朔
たて……
夜高ミツル
「形は揃わなくなるけど……」
夜高ミツル
「まあ最終的に火が通ればいいわけだから」
真城朔
かけらよりはちょっと大きい感じの玉ねぎの半分の残りを見ます。
真城朔
じ……と見つめ
真城朔
ちょっと悩んだけど、言われたとおりに角度を変えて
真城朔
縦に刃を落としました。
真城朔
すとん。
真城朔
ふう……
真城朔
ふうになっている。
真城朔
玉ねぎ1/2個で。
夜高ミツル
最初だし……
真城朔
細切りを寄せて
真城朔
もう1/2個をもってきます。
真城朔
同じ要領で……
真城朔
おおむね同じ要領で改めてやっていきが始まりました。
真城朔
すでに切った玉ねぎがちょっと邪魔そう
夜高ミツル
そわそわと見守っている……
真城朔
せまい……
真城朔
まとめてまとめて……
真城朔
スペースを作り……
夜高ミツル
「ボウル出そうか?」
真城朔
「ふぇ」
夜高ミツル
「切ったやつ邪魔だったら」
真城朔
きょとになってミツルを見ます。
真城朔
「ボウル」
真城朔
「切ったやつ」
真城朔
あとから理解が追いついています。
真城朔
「出す……」
真城朔
包丁を置いて……
夜高ミツル
「一旦よけておくのに」
真城朔
手がたまねぎになっている
真城朔
えっとえっと……
真城朔
一度洗う……?
真城朔
手と視線があちゃこちゃしている。
夜高ミツル
ミツルが出しちゃおう。
夜高ミツル
これくらいは……
真城朔
あちゃこちゃしているうちに……
真城朔
出されてしまった。
真城朔
「ありがとう……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
まな板の横に置いて。
真城朔
あちゃこちゃしていた手でボウルに切り終えた玉ねぎを入れていきます。
真城朔
よいしょよいしょ
真城朔
わざわざ手で掬って入れている
真城朔
かきあつめ……
真城朔
よいしょ……
夜高ミツル
「まな板をボウルの上に持っていって……」
夜高ミツル
「ざーってやると早い」
真城朔
「ざーって」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「落とさないように気をつけつつ……」
真城朔
包丁を右手に持って
真城朔
左手でまな板を……
真城朔
持ち上げて
夜高ミツル
「包丁の背中の部分で……」
真城朔
せなかのぶぶん……
真城朔
包丁を持つ手を逆にして……
真城朔
ぐるりにして……
真城朔
す……
真城朔
ぐいー…………
夜高ミツル
そうそう……
真城朔
あっ
真城朔
切れていない玉ねぎが転がった。
真城朔
ボウルにIN。
夜高ミツル
ああっ
真城朔
「…………」
真城朔
とりあえず気にせず残りを入れてしまった。
真城朔
まな板の上がきれいになりました。
真城朔
そしてまな板を戻し……
夜高ミツル
ボウルの外に落とさなかったからえらい
真城朔
包丁を置いて ボウルを持ち上げて
真城朔
台に置いて
真城朔
中から切れていない玉ねぎを救出。
真城朔
くっつく細切りたちを軽く払って
真城朔
まな板の方へ連行していきます。
真城朔
お前も細切りの刑だぞ……
夜高ミツル
まな板の上の玉ねぎ
真城朔
まな板の上の玉ねぎを切っていきます。
真城朔
ぎこちなく ややあやうく 時間をかけて
真城朔
同じように、最後は縦。
真城朔
よし。
夜高ミツル
後ろでそわ……になりながら見守っていた。
真城朔
ふー。
真城朔
ふーになった。
夜高ミツル
ふーになったのが落ち着いたところで……
真城朔
再びボウルを流し台に置いて
真城朔
よいしょよいしょと玉ねぎをまとめ……
真城朔
ボウルを戻し。
真城朔
ええと次は……
夜高ミツル
それを見守ってから
夜高ミツル
「ええと、ごめん」
真城朔
キャベツと豆腐を振り返り
真城朔
「?」
夜高ミツル
「先にお湯沸かさないとだった……」
真城朔
「お湯」
真城朔
「あっ」
夜高ミツル
「鍋を……」
真城朔
コンロを見ます。
真城朔
ええと……
真城朔
とりあえず手を水で洗って……
真城朔
拭いて……
真城朔
鍋の方。
真城朔
コンロのスイッチを押します。
真城朔
着火。
夜高ミツル
「火は鍋からはみ出ないくらいに……」
真城朔
「はみ出ないくらい……」
真城朔
視線を落とし……
真城朔
目線も低くし……
夜高ミツル
「はみ出てると何かに燃え移ったりするかもしれないから」
真城朔
「あぶない」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
あぶない……
真城朔
はみ出ないくらい……
真城朔
かなりはみ出ないくらいの火になりました。
夜高ミツル
「……ん、それくらいかな」
真城朔
こくこく
真城朔
「ほかは……」
真城朔
なにか……
夜高ミツル
「ちゃんと出汁を取るなら水の時から昆布入れたりするんだけど」
真城朔
「だし」
夜高ミツル
「そうそう、味噌汁は出汁と味噌で味をつけるから」
真城朔
「だしとみそのしる……」
夜高ミツル
「出汁はこれな」
夜高ミツル
と、調味料置き場の顆粒出汁を指す。
真城朔
顆粒だしを見ました。
真城朔
顆粒だしの瓶を取って、蓋を開けて
真城朔
「どれくらい……?」
真城朔
味に関わる加減の問題なので、かなり不安そうにミツルを見ます。
夜高ミツル
「量は……この匙を使って」
夜高ミツル
細々とした調理器具をまとめてるところから、小さじを出す。
真城朔
昨日の買い出しで買った小さじ。
夜高ミツル
今回真城に教えるために買ってきた。
真城朔
計量系一式を……
夜高ミツル
それを真城に渡して……
真城朔
渡されます。
真城朔
じ……
夜高ミツル
事前にスマホで開いておいたレシピをチラ見し……
夜高ミツル
「……それが小さじで」
夜高ミツル
「で、それで2杯分入れる」
真城朔
「こさじ」
真城朔
「2杯」
真城朔
頷き頷き
真城朔
顆粒だしを小さじで掬い……
夜高ミツル
頷き……
真城朔
こういうのはこんもりしちゃだめなのはわかるぞ……
夜高ミツル
えらい
真城朔
横に揺らして量を調整して……
真城朔
鍋に入れる。
真城朔
1杯。
夜高ミツル
山盛りしちゃだめだぞって言おうと思ったけど、言わずにできてたので頷いている。
真城朔
もう1杯も同じように入れました。
真城朔
よし。
夜高ミツル
うんうん
真城朔
小さじを流し台に置いて、蓋を締めます。
真城朔
顆粒だしを戻し……
真城朔
「あとは?」
真城朔
他になんかないか際限なく心配になる。
夜高ミツル
「鍋の方はとりあえずこれで大丈夫」
夜高ミツル
「味噌は具に火が通ってから最後に入れるから」
真城朔
「最後に」
真城朔
「じゃあ……」
真城朔
キャベツと豆腐を見ます。
夜高ミツル
「次はキャベツだな」
真城朔
「キャベツ」
真城朔
頷きました。
真城朔
キャベツを取る。
真城朔
ビニール袋に入ったキャベツ
夜高ミツル
丸い。
真城朔
外側1、2枚を残して包んで保存してあるやつ
真城朔
なんかいい感じに何枚かを剥がし剥がし……
真城朔
玉ねぎよりは苦戦しない感じ。
夜高ミツル
残りを受け取って冷蔵庫に戻し戻し……
真城朔
形が立体的ではないので、玉ねぎみたいなアクシデントはそんなに起きない。
真城朔
洗って 芯を取って
真城朔
ざく……ざく……
真城朔
あと玉ねぎほど細く切らなくていいし……
夜高ミツル
切りやすい
真城朔
ざくざく切れました。
夜高ミツル
途中でお湯が湧いたので鍋に玉ねぎを投じたりした。
真城朔
同じく不揃いではあるが。
真城朔
投じてある玉ねぎを見て 鍋を見て
真城朔
「これも」
真城朔
「入れる?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ん」
真城朔
えーと……
真城朔
まな板ごと。
真城朔
まな板ごとだ。
真城朔
きっとそれがよい
真城朔
まな板を持ち上げます。
夜高ミツル
合ってる合ってる……
夜高ミツル
という感じで頷いている。
真城朔
こういうとき力があるといい。
真城朔
片手で全然持ち上がる
真城朔
持ち上げて持っていき
夜高ミツル
ひょい
真城朔
傾けて
真城朔
火にかけてる真っ最中なので、さっきよりは慎重な手つきで
真城朔
キャベツを入れていく。
真城朔
入れ入れ……
真城朔
入れ……
真城朔
入った。
真城朔
ふー。
夜高ミツル
入った えらい
真城朔
ややぐつぐつになっている鍋を見下ろして息をつきます。
真城朔
まな板を戻し。
真城朔
ふうになっている
真城朔
次は……
真城朔
豆腐……
夜高ミツル
「順調だなー」
真城朔
豆腐を見ます。
真城朔
ミツルを見る。
真城朔
「豆腐……」
真城朔
「これ……」
夜高ミツル
「豆腐が切れたら具は終わりだな」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「どう」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツがやってるのを見たことがある。
真城朔
見ているのだが。
真城朔
あれができる気がしていない。
真城朔
てのうえ……?
夜高ミツル
「あー……」
夜高ミツル
「手の上で切るやつ?」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「あれはまあ、慣れないうちはやらなくていいよ」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「落ちたりするし……」
真城朔
ほっ……
真城朔
ほっとしています。
夜高ミツル
「普通にまな板の上で」
真城朔
「うん」
真城朔
豆腐を持ってきて
真城朔
パックの上を剥がそうとする。
真城朔
剥がそうとして……
真城朔
剥げた。
真城朔
豆腐の包装のフィルムを普通に剥いだ。
夜高ミツル
剥げるのかあれ……
真城朔
剥いでまな板に豆腐を置く。
真城朔
水を払って払って……
真城朔
自分がやったことにあんまり気づいていない……
真城朔
豆腐を手の上で切るのは印象的だから覚えているのだが……
夜高ミツル
包丁を……って言いかけたのが止まっていた。
夜高ミツル
まあ真城だもんな……。
夜高ミツル
開けばなんでもいいし。
真城朔
空になったパックはゴミに捨てて……
真城朔
「えーと……」
真城朔
包丁を握って
真城朔
上? 横?
真城朔
どう切ろう……になってミツルを見ます。
夜高ミツル
「まずは横から……」
夜高ミツル
「真ん中あたりに包丁を入れて」
真城朔
「よこ……」
真城朔
ちょっと首を斜めに
夜高ミツル
「その後上から切っていく感じで」
真城朔
豆腐にそっと手を添え……
真城朔
はっ
真城朔
猫の手……
真城朔
今はあんまり関係ないのでは?
夜高ミツル
関係ないけど気をつけてるのはいいことだから……
真城朔
猫の手にしています。
真城朔
猫の手にして横から……
真城朔
ゆっくり……
真城朔
すー…………
真城朔
とうふはやわらかい……
真城朔
あっ
真城朔
ああ~
真城朔
なんか
夜高ミツル
柔らかいと逆に難しかったりする……
真城朔
斜めになってるような……
真城朔
最初はたぶん等分だったのに
夜高ミツル
だんだん……
真城朔
ゴールはだいぶ偏って……
真城朔
1:2くらいに……
真城朔
なってしまい、むずかしいかおをしています。
夜高ミツル
「だんだん慣れていけばいいから」
真城朔
「ん……」
夜高ミツル
むずかしいかおになっているので、フォローを入れる。
真城朔
むずかしい……
真城朔
「あとは」
真城朔
「縦に……」
真城朔
「上から……」
真城朔
押さえ……
夜高ミツル
「うん」
真城朔
押さえようとすると
夜高ミツル
「サイコロの形にするような感じで」
真城朔
形が……
真城朔
つぶれそう
真城朔
ぷるぷる……
真城朔
豆腐はぷるぷるだし真城も気持ちぷるぷるになりながら
真城朔
ねこのて
真城朔
ねこのてで……
夜高ミツル
「……あんまり力入れて押さえないで」
真城朔
「う」
夜高ミツル
「添える感じで……」
真城朔
「うん」
真城朔
ぐるぐる
真城朔
ぷるぷる
真城朔
そえる……
夜高ミツル
はらはら……
真城朔
そえる
真城朔
そえてます。
真城朔
そえる。
真城朔
そえて、包丁を当てて
夜高ミツル
うんうん……
真城朔
まずは縦に
真城朔
とん……とん……
夜高ミツル
すいー……
真城朔
とん……
真城朔
なんかだんだん崩れてきているような……
真城朔
ようなというか崩れているわけだが……
真城朔
うう……
真城朔
だが止まれぬ……
夜高ミツル
最初だから……
真城朔
止まったらなんかたぶんますます崩れる気がする これは
真城朔
そんな気持ちになりながらとりあえず縦に切り……
真城朔
よこ
真城朔
よこに包丁を……
真城朔
包丁を横向きに……
夜高ミツル
がんばれ…………!
真城朔
奥の方から
真城朔
す……
真城朔
とん……
真城朔
す…………
夜高ミツル
息を呑んで見守っている。
真城朔
ぐにゃ……
真城朔
とん……
真城朔
………………
真城朔
ぐにゃぐにゃになりながら
真城朔
なんとかさいの目切り
真城朔
さいの目切りの手順でサイコロ状じゃない豆腐ができた。
真城朔
ばらばら……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……柔らかいと難しいよな」
真城朔
2倍くらい差がついている気がする……
真城朔
しょぼ……
真城朔
頷きます。
夜高ミツル
「多分木綿の方が切りやすいから、次からそっち買ってくるか……」
真城朔
「もめん」
夜高ミツル
失敗したな……と思っている。
夜高ミツル
「プルプルしてない方の豆腐」
真城朔
「プルプルしてない方の豆腐」
夜高ミツル
「あっちの方がもうちょっとしっかりしてるから切りやすい」
真城朔
豆腐に種類……
真城朔
種類……?
真城朔
あったんだな……みたいな感じ
夜高ミツル
実はあるんだな~
真城朔
不揃いの豆腐たちを見下ろしてます。
真城朔
「これも」
真城朔
「入れる?」
夜高ミツル
「うん、それも」
真城朔
「ん」
真城朔
まな板ごとのいつもの手順
真城朔
でもキャベツとか玉ねぎよりも慎重に……
夜高ミツル
入ってゆく
真城朔
ぽちゃ……
真城朔
ぽちゃぽちゃ……
真城朔
あっこれ跳ねる……
真城朔
跳ねるというか……
真城朔
質量が……
真城朔
そっ……
真城朔
そっと……
真城朔
ちゃぽん……
夜高ミツル
「跳ねるの気をつけてな」
真城朔
「ん」
真城朔
ちゃぽちゃぽ
真城朔
入りました。
真城朔
軽くふつふつした鍋に入った。
真城朔
玉ねぎと、キャベツと、豆腐。
真城朔
真城が切った具材が鍋のなかでふつふつ煮えてます。
真城朔
じー……
真城朔
見てたけど
真城朔
思い出した様子でまな板を戻す。
真城朔
戻して……
真城朔
「…………」
真城朔
「洗う?」
真城朔
一旦……
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
「洗ったら味噌入れるか」
真城朔
今まで手伝うときはこういうとき真城が洗ってそう。
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「多分ちょうどいいから」
真城朔
洗います。
真城朔
洗うのは気持ち慣れている……
夜高ミツル
洗っている間に味噌とか出したり。
真城朔
包丁を洗って包丁入れに まな板を洗ってまな板の台に
真城朔
ヨシ!
真城朔
ふいー。
真城朔
味噌が出ていた。
真城朔
味噌を見ます。
夜高ミツル
出ている。
真城朔
「もう」
真城朔
「もう入れる?」
真城朔
まあまあ一般的な合わせ味噌を見ながら……
夜高ミツル
「うん、具に火が通ってたら入れていい」
真城朔
「具に火が……」
夜高ミツル
「火が通ってるかは、えーと」
夜高ミツル
「玉ねぎだったら色が透明っぽくなってたら大丈夫」
真城朔
じ……
真城朔
味噌を脇に置いて
真城朔
鍋を見ます
真城朔
ぐつぐつ
真城朔
ぐつぐつというほどではないのでは。まあそこそこ。
真城朔
透明に……
真城朔
なっている気がする たぶん
夜高ミツル
「まあこのくらいなってたらいいかなー」
夜高ミツル
「好みもあるから、柔らかい方がよかったらもうちょい待ってもいいけど」
真城朔
「ん」
真城朔
「キャベツと豆腐は……?」
夜高ミツル
「キャベツは柔らかくなってるかかな」
夜高ミツル
「豆腐はそんなに気にしなくても大丈夫」
真城朔
「やわらかく」
真城朔
えーと……
真城朔
箸を……
真城朔
箸を取って……?
夜高ミツル
「なんかこう……くたっとなってたら」
真城朔
菜箸代わりの割り箸を一本取って
夜高ミツル
「あ、そうだ、箸いるな」
真城朔
キャベツを一枚すくい上げ……
真城朔
くた……
真城朔
「くたっと……」
夜高ミツル
「ん、そのくらい」
夜高ミツル
「になってたら大丈夫」
真城朔
「味噌」
真城朔
「入れる?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「味噌はあんまり火入れすぎると良くないらしいから」
真城朔
「火」
夜高ミツル
「ちょっと火を弱めて……」
真城朔
えっと……
真城朔
弱め弱め……
真城朔
一番弱めになっちゃった
真城朔
弱め過ぎか……?
真城朔
うーん……
夜高ミツル
「もうちょっと強く……」
真城朔
もうちょっと……
夜高ミツル
横から手を出し
夜高ミツル
調整調整……
真城朔
手を引っ込めました。
真城朔
調整される様子を見ています。
夜高ミツル
「このくらいで」
真城朔
「このくらい」
真城朔
見ながら頷く。
真城朔
「このくらいで」
真城朔
「味噌を」
夜高ミツル
中火よりやや弱め。
真城朔
やや弱め……
夜高ミツル
お湯がぐらぐらしないくらいに。
真城朔
しないね。
真城朔
よし。
真城朔
よしになりながら味噌の蓋を開ける。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「量は……」
夜高ミツル
「味噌はこっちの大きい方の匙で」
真城朔
おおさじ……
真城朔
大さじを手に取ります。
夜高ミツル
「それで4杯分くらい」
真城朔
「4杯」
夜高ミツル
スマホをチラ見しながら……
真城朔
頷く。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
突っ込んで
真城朔
すくい……
真城朔
すくい
真城朔
これ顆粒だしより大変だな……
真城朔
なんとかパックの側面に貼り付けてちゃんと大さじ1にして
真城朔
鍋に投入を……
真城朔
投入
真城朔
投入を
真城朔
「…………」
真城朔
餃子の具と同じ悪戦苦闘をしている。
真城朔
はっ
真城朔
真城朔
さっき使った箸……
真城朔
一本
真城朔
もう一本取っちゃえ……
夜高ミツル
言い出そうかとしたタイミングで真城が気づきを得た。
真城朔
匙の中に箸を突っ込んで
真城朔
ぐりぐり……
真城朔
味噌を落としていきます。
真城朔
味噌が鍋に落ちていく。
真城朔
ぽと……
夜高ミツル
ちゃぽ
真城朔
落ちた。
真城朔
具に混ざって味噌の塊が。
真城朔
これで1さじ。
夜高ミツル
あと3回
真城朔
2さじ目行くぞ~
真城朔
やや悪戦苦闘しながら合計4往復しました。
真城朔
最後は大さじと箸を鍋に突っ込んで残りを溶かし……
真城朔
…………
真城朔
「…………」
真城朔
味噌汁っていうか
真城朔
味噌が入った汁になってないか……?
真城朔
塊を
真城朔
塊がなんか
真城朔
溶けてないな……
真城朔
ええと……
真城朔
ぐるぐる
夜高ミツル
ああ……っ
夜高ミツル
「あっ……」
夜高ミツル
「おたまを使ったほうが……よかったな……」
真城朔
「おたま」
真城朔
おたま……
真城朔
ええと……
真城朔
吊り下がってるおたまを取って……
真城朔
今更
夜高ミツル
人に教えるとなると途端に色々抜けていく現象
真城朔
どうしてもね……
真城朔
見守るだけでハラハラ。
夜高ミツル
「おたまの中で味噌を溶かす感じで……」
真城朔
「おたまの中で……」
真城朔
ええと……
夜高ミツル
「今からでも塊をすくって……」
真城朔
おたまを鍋に突っ込んで
真城朔
言われるがままに塊を掬っていく
真城朔
豆腐とかまざる……
真城朔
混ざるけどなんとか一個掬って……
真城朔
箸がある。
真城朔
箸でとくぞ。
夜高ミツル
「それで箸で」
夜高ミツル
「そうそう……」
真城朔
こくこく……
真城朔
ほぐしほぐし
真城朔
他の塊も……
真城朔
おたまだけじゃなくて箸も使って捕まえるといいことに気づく
真城朔
捕まえておたまに連行して
真城朔
といて……
夜高ミツル
ぐるぐる
真城朔
というのを繰り返しやっていく。
真城朔
やっていきやっていき……
夜高ミツル
味噌汁の感じになりゆく
真城朔
味噌汁の色になってきました。
真城朔
かなり……
真城朔
なったんじゃないですか?
夜高ミツル
なった!
真城朔
なった。
真城朔
ミツルの顔色を窺います。
夜高ミツル
「……ん、大丈夫そう」
夜高ミツル
「ごめんなー手際悪くて……」
真城朔
首を振ります
真城朔
「俺が」
真城朔
「なんにも分かってないだけで……」
真城朔
「ミツはいつも」
真城朔
「ちゃんとしてるし」
真城朔
「してる……」
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「教えるからちゃんとするぞって思ってたんだけどな……」
真城朔
「教えるの」
真城朔
「むずかしい……」
夜高ミツル
「難しいな……」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「……味噌汁のあと、どうする?」
真城朔
「?」
真城朔
あと……?
真城朔
きょと……
夜高ミツル
「結構色々したし、真城がやるのはまた次にするか?」
真城朔
「あ」
夜高ミツル
「ベーコンと、卵でなんか……と思ってたんだけど」
真城朔
「えーと」
真城朔
「…………」
真城朔
なやんでいる……
真城朔
やりたいきもちは……
真城朔
かなりある……
真城朔
かなりあるけど……
真城朔
ミツをまたせまくるのでは……?
夜高ミツル
待つのはいいけど
真城朔
大変な手際(大変な手際)を晒してしまった……みたいな気持ちになっている。
真城朔
うーんうーん……
夜高ミツル
「まあいっぺんにやらなくても」
夜高ミツル
「時間はいくらでもあるし」
真城朔
じ……とミツルを見る
真城朔
「…………」
真城朔
「見てる……」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「ちゃんと見る……」
夜高ミツル
「じゃあ後は俺がやるから」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
普段じっと見てるようでちゃんと見てなかったな……を痛感しています。
真城朔
ミツの手が動いてる……しか見てなかった……
夜高ミツル
「真城には見学してもらう感じで」
真城朔
「する」
真城朔
「見学」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
鍋の火を止める。
真城朔
はっ……
真城朔
あぶない……
真城朔
弱火は存在感が薄い。
夜高ミツル
「味噌を入れたらちょっと煮立たせて火を止めて」
夜高ミツル
「あとは食べる前にまた温め直す」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
鍋の蓋を取り出します
真城朔
被せる。
真城朔
保温
夜高ミツル
冷蔵庫からベーコンと卵2個を取り出す。
真城朔
見守り……
真城朔
見守るというより 見学
真城朔
対面キッチンを生かして正面から。
真城朔
回り込んでいます。
夜高ミツル
「ベーコンを焼いて、目玉焼きを作ります」
真城朔
「ベーコンを焼いて、目玉焼きを」
真城朔
復唱
夜高ミツル
「ベーコンエッグともいう」
夜高ミツル
「こっちの方が味噌汁よりやることは少ないかな」
真城朔
「ベーコンとエッグ」
夜高ミツル
フライパンを取り出し、コンロに置く。
夜高ミツル
スイッチを入れて、点火。
真城朔
慣れている……
真城朔
手つきが慣れている
真城朔
ちょっと背伸びして火加減の具合とかを見ようとしている。
夜高ミツル
「火は中火で」
真城朔
「中火」
夜高ミツル
「普通炒めものとかする時は油を使うんだけど」
夜高ミツル
「ベーコンは油が出てくるから使わなくて大丈夫」
真城朔
「油を使わない」
真城朔
復唱復唱
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「フライパンが温まってるかは……」
夜高ミツル
水を出して、菜箸の先を濡らし……
真城朔
首を傾げ……
夜高ミツル
「こう、水を垂らしてみて」
夜高ミツル
「ジュワーってなったら温まってるから」
真城朔
じゅわーに……
夜高ミツル
箸を振って、ぴぴっと水をかける。
真城朔
手つきが慣れている……
夜高ミツル
じゅわわ……とフライパンの上で水が蒸発していく。
夜高ミツル
「こうなってたらオッケー」
真城朔
「なってる」
真城朔
じゅわーに……
真城朔
なるほどなるほど……
夜高ミツル
ベーコンのパックを剥く。
夜高ミツル
薄めのやつ。
真城朔
カリカリベーコンだ
夜高ミツル
「真城1枚でいいか?」
真城朔
「1枚」
真城朔
流れで復唱してから
夜高ミツル
卵あるから大体そんなもんかな、と当たりをつけつつ。
真城朔
訊かれてることに気づいて頷いた。
真城朔
「1枚たべる」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
ベーコンを4枚フライパンへ。
夜高ミツル
じゅわわ……
真城朔
じゅわわになっている……
真城朔
おいしそうな音がする。
夜高ミツル
パチパチと脂の弾ける音。
真城朔
ミツが作ってるとひときわおいしいものができている感じがする……
夜高ミツル
「ベーコンは焼いていくとこうやって脂が出てくるから」
夜高ミツル
「キッチンペーパーを使ってちょっと吸わせて……」
真城朔
「あぶらを……」
夜高ミツル
「あんまり脂がいっぱいだとギトギトになるから」
真城朔
わかる。
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
ちょいちょいと箸とキッチンペーパーで脂を吸わせ……
真城朔
ぎとぎとあんまり得意じゃない……
真城朔
吸われている……
夜高ミツル
キッチンペーパーをぽい
真城朔
三角コーナーへ……
夜高ミツル
「裏側が焼けた色になってきたらひっくり返して……」
夜高ミツル
ひっくり返しひっくり返し
真城朔
ひっくり返っていく
真城朔
じっとその手つきを見ている。
夜高ミツル
「この後卵も一緒に焼くから、ベーコンは軽く焼いておくだけな感じで」
夜高ミツル
「あんまりしっかり火を通してると最後に焼き過ぎになるから」
真城朔
「いっしょに」
真城朔
「焼き過ぎに……」
真城朔
なる……
真城朔
なるのはよくない
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
言いながら、卵を手に取り。
夜高ミツル
「で、卵を入れるんだけど」
真城朔
「うん」
真城朔
たまごになにか……?
夜高ミツル
こんこん、と台の端にぶつけて割れ目を入れる。
真城朔
おおー。
夜高ミツル
割れ目の方を真城に見せて
夜高ミツル
「こうやって真ん中辺りに軽くヒビを入れて」
夜高ミツル
卵をフライパンの上に移動させ……
夜高ミツル
「ヒビのところに指を入れて」
真城朔
じっ……
真城朔
なんか
真城朔
テクニカルなことをしている……
夜高ミツル
ぱかっ
夜高ミツル
ベーコンの上に卵が着地。
真城朔
おおお……
真城朔
「すごい」
真城朔
すごいけど……
真城朔
これかなりできる気がしない……
夜高ミツル
「卵割るのが最初は難しいかも」
真城朔
こくこく
真城朔
「むずかしそう」
真城朔
心底同意
夜高ミツル
「殻が混ざったり……ぐちゃぐちゃになったり……」
真城朔
なりそう……という顔
真城朔
ぜったいなる……
夜高ミツル
もう一つの卵を手にとって、同様に。
夜高ミツル
ぱかっ
夜高ミツル
ぽと
夜高ミツル
じゅう……
真城朔
ならない……
真城朔
ミツがやるとならない
真城朔
すごい
夜高ミツル
「まあ慣れていけばできるようになるし」
夜高ミツル
「慣れたつもりで失敗することも……たまにある……」
真城朔
慣れ……
真城朔
慣れるのか……?
夜高ミツル
今日はしなかったので良かった。
真城朔
「失敗しなかった」
真城朔
すごい……になっています。
夜高ミツル
「今日は大丈夫だった」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「で、目玉焼きの焼き方もなんか色々流派があるんだけど……」
真城朔
「流派」
夜高ミツル
「片面だけ焼くとか両面焼くとか」
夜高ミツル
「塩コショウするかしないかとか……」
真城朔
「流派だ……」
夜高ミツル
「色々ある」
真城朔
「奥が深い」
真城朔
果てしない世界……
夜高ミツル
「俺が作る時は、卵入れたら端の方に水を入れて」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「蓋を閉じて」
夜高ミツル
カップで水を注いで、蓋をする。
真城朔
じゅわ……
夜高ミツル
蓋の下からじゅわわ……と音がする
真城朔
いい音がする。
夜高ミツル
「蒸し焼きっぽくする感じで」
真城朔
「蒸し焼き」
真城朔
「いつも」
真城朔
「片面」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「片面蒸し焼き派」
真城朔
ミツルの流派
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「母さんがこんな感じで作ってたから……」
夜高ミツル
「俺もなんか、そんな感じに」
真城朔
「…………」
真城朔
「うん」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
「……で、蓋してから3分くらいで完成」
真城朔
「三分」
真城朔
じ……
真城朔
「火は?」
真城朔
「ずっと中火?」
夜高ミツル
「……あ、蓋をしたらちょっと弱めにする」
夜高ミツル
おっと……
夜高ミツル
火を弱めます。
真城朔
はからずも……
真城朔
「弱め……」
真城朔
頷いている。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「弱めで三分」
夜高ミツル
「卵の白身の透明な部分がなくなってたらいい感じ」
真城朔
「火が通った」
夜高ミツル
「そうそう」
真城朔
一般的に料理は火が通ると良い
夜高ミツル
火を使う料理は火が通るといいですね。
夜高ミツル
味噌汁の蓋を開けてみたりする。
夜高ミツル
温め直したほうがいいかな……?
真城朔
なんかどきどきする
夜高ミツル
蓋してたから大丈夫かな。
真城朔
ミツに自分が作った味噌汁を見られている……
夜高ミツル
焼くだけでそんなに時間経ってないし大丈夫そうだな
真城朔
だいじょうぶだいじょうぶ
真城朔
蓋もしてた。
夜高ミツル
大丈夫そうなので頷いて
夜高ミツル
説明をしたりもしてたのでそろそろ3分が経つかもしれない。
真城朔
よくわからないけど大丈夫そうだと嬉しい
真城朔
気付けば三分
夜高ミツル
経ったことになります。
真城朔
なりました。
夜高ミツル
フライパンの蓋を開ける。
真城朔
じ……
夜高ミツル
もわ、と湯気が立ち
夜高ミツル
フライパンの上に、よく朝食で出てくるベーコンエッグの形ができている。
真城朔
おお……
真城朔
「できてる」
真城朔
「できた」
真城朔
すごい
夜高ミツル
「うん」
真城朔
しっかりと焼けたベーコンエッグ……
真城朔
すごい……とまじまじ見つめていたが
真城朔
はたと我に返り
真城朔
「準備」
真城朔
「する?」
真城朔
食卓……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「しようか」
真城朔
「ん」
真城朔
ぱたぱた……
真城朔
台ふきんを用意して……
夜高ミツル
皿にベーコンエッグを移し……
真城朔
リビングに行ってテーブルを拭いている。
真城朔
拭き拭き……
夜高ミツル
ご飯を茶碗によそいよそい
真城朔
箸を揃えて
真城朔
おしぼりを作り……
夜高ミツル
よそったものから対面キッチンのカウンターに置かれていく。
真城朔
おしぼりと一緒に持っていきます。
真城朔
ベーコンエッグとご飯茶碗を並べている。
夜高ミツル
最後に真城が作った味噌汁をお椀についで。
真城朔
戻ってきた。
真城朔
つがれた味噌汁にちょっと不安そうな顔をした。
夜高ミツル
味噌汁が真城に託される。
真城朔
託されてしまった……
真城朔
味噌汁を見下ろしながら食卓へと戻る。
真城朔
量に従ってそれぞれの食卓に並べ……
真城朔
並べました。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
手を洗ってエプロンを外して、リビングの方へ。
夜高ミツル
真城の隣に腰を下ろす。
真城朔
あっ
真城朔
エプロン……
真城朔
外します。
真城朔
外して軽く畳んで隣に……
真城朔
置いて……
真城朔
おろ……
真城朔
ミツルの顔を窺う。
夜高ミツル
「……緊張する?」
真城朔
「…………」
真城朔
控えめに頷きます。
夜高ミツル
「だよなー」
夜高ミツル
「俺も真城に初めてカレーつくったとき」
夜高ミツル
「あれ実は結構緊張してた」
真城朔
「……してた?」
真城朔
ちょっと意外そうに。
夜高ミツル
「してたしてた」
真城朔
「慣れてても……?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
するんだ……
夜高ミツル
「真城は初心者だから尚更だよな」
夜高ミツル
「……と、喋ってたら冷めるな」
真城朔
「あ」
真城朔
「……うん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「た」
真城朔
「たべる」
真城朔
「たべる……」
真城朔
緊張……
夜高ミツル
「真城が作ってくれたんだから、ちゃんと温かいうちに食わないとな」
夜高ミツル
手を合わせ……
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただき」
真城朔
「ます」
真城朔
手を合わせて復唱。
真城朔
「…………」
真城朔
じっ……
夜高ミツル
箸を取って、真っ先に味噌汁に手を伸ばす。
真城朔
どきどき……
真城朔
自分が食べてる場合じゃない雰囲気
夜高ミツル
お椀に口をつけて一口……
真城朔
びく……
夜高ミツル
ずず……
真城朔
おろ……
真城朔
ぎくぎく
真城朔
ありとあらゆる緊張が全身から発されている
真城朔
手は膝の上に……
真城朔
緊張のあまり……
夜高ミツル
「……うまい」
真城朔
きょど……
真城朔
ミツルの顔を見ます。
夜高ミツル
お椀をちょっと下ろして、箸で玉ねぎを口に運ぶ。
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
膝の上でぎゅっと拳を作りながら……
夜高ミツル
「玉ねぎもちゃんと火が通ってるし」
夜高ミツル
「味の濃さもいい感じで」
真城朔
「う」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ていうかそういえば」
真城朔
「え」
夜高ミツル
「味見忘れてたな……」
真城朔
「あ」
真城朔
「…………」
真城朔
忘れてた……
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「忘れてたけど、でもちゃんとうまいよ」
夜高ミツル
「真城も飲んでみろよ」
真城朔
「え」
真城朔
「っと」
真城朔
「…………」
真城朔
おろおろ……
真城朔
おろおろと味噌汁の椀を取ります。
真城朔
箸を取り……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
じ……
真城朔
箸を取ったけどとりあえず
夜高ミツル
見守りになっている。
真城朔
とりあえずで縁に唇をつけ
真城朔
ずず……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
なぜかミツルがそわ……になっている。
真城朔
「…………」
真城朔
唇を閉じた上でもごもごと舌を動かしている気配
真城朔
しばし黙り込み……
真城朔
「味噌汁……」
真城朔
ぽつり
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「味噌汁作れたな」
真城朔
「味噌汁」
真城朔
「できてる……」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
「できてる」
夜高ミツル
「おいしい味噌汁が」
真城朔
「おいしい」
真城朔
「おいしい?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
頷く。
真城朔
「…………」
真城朔
「おいしい味噌汁……」
真城朔
繰り返してまた啜ります。
真城朔
ちょっとだけ具を取って……
真城朔
つまみやすいキャベツと玉ねぎ。
真城朔
もぐもぐ
夜高ミツル
ミツルの方もまた味噌汁に口をつける。
夜高ミツル
口をつけ……具材を食べ……
真城朔
「火」
真城朔
「通ってる」
夜高ミツル
もぐもぐ。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
ミツルと同じことを言いました。
夜高ミツル
飲み込み。
真城朔
「…………」
真城朔
ずず……
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「ちゃんとできてる」
真城朔
「できた……」
真城朔
「ミツに」
真城朔
「ミツにおしえてもらって……」
夜高ミツル
「真城が頑張ったから」
真城朔
不揃いな豆腐が何欠片か。
真城朔
それを見下ろしながら。
真城朔
「……がんばった」
真城朔
「けど」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「できて」
真城朔
「よかった……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「……俺も」
夜高ミツル
「よかった」
夜高ミツル
「真城の作った味噌汁食えて」
真城朔
「…………ん」
真城朔
「よかった……」
夜高ミツル
感慨深そうに味噌汁を見つめている。
真城朔
気を取り直して味噌汁を置いて……
真城朔
ベーコンエッグに箸を伸ばしている。
真城朔
目玉焼きを縦に割り……
夜高ミツル
「……作ってもらえる飯っていいな」
夜高ミツル
お椀を置きながら、ぽつりと
真城朔
割っているところでミツルの声に
夜高ミツル
「俺は作るの好きだし」
真城朔
そちらを見ます。
夜高ミツル
「真城が食べてくれるのも好きだけど」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「作ってもらうのも、なんか……」
夜高ミツル
「いいな」
夜高ミツル
「嬉しい」
真城朔
「…………」
真城朔
「もっと」
真城朔
「作れるように……」
真城朔
「ミツに作らせてばっかりじゃ」
真城朔
縦に割ったベーコンエッグをお茶碗の上に乗せ……
真城朔
「いつも」
真城朔
「ミツに」
真城朔
「いっぱい、させてる」
真城朔
「し」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「好きだから、それはそれでいいんだけどなー」
夜高ミツル
「でも楽しみだ」
真城朔
口を開けて、ベーコンエッグを頬張ります。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
「真城が色々作ってくれるの」
真城朔
もぐもぐしながらミツルの顔を見る。
真城朔
もぐもぐしながら視線が泳ぐ
夜高ミツル
ミツルの方もベーコンエッグに箸を伸ばす。
真城朔
ごくん。
真城朔
「……こういう」
真城朔
「ちゃんと、おいしく」
真城朔
「作れるかは……」
夜高ミツル
卵には醤油がかかっている。
夜高ミツル
「作れるよ」
真城朔
保証されてしまった
真城朔
おろ……
夜高ミツル
「真城は素直だから」
夜高ミツル
「ちゃんと手順通りにやったらできる」
真城朔
「たまご」
真城朔
「うまく、割れないかも……」
夜高ミツル
「それは練習だなー」
夜高ミツル
「俺も最初はうまくできなかったから」
真城朔
「……うん」
真城朔
「練習……」
夜高ミツル
ベーコンエッグを箸で割り、口に運ぶ。
真城朔
「ちゃんと」
真城朔
「おいしく」
夜高ミツル
頷いて……
真城朔
「できるように……」
真城朔
「ミツが」
真城朔
「作った、みたいに」
真城朔
ベーコンエッグを示す。
夜高ミツル
もぐもぐ。飲み込み。
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
箸で取り上げて、頬張る。
夜高ミツル
「真城ならできるよ」
真城朔
もぐもぐ。
真城朔
「…………」
真城朔
にわかには信じがたく……
真城朔
信じがたいというより こう
真城朔
できる気があんまりしてない……
夜高ミツル
「ちょっとずつ練習してこうなー」
夜高ミツル
「俺も、教え方をもっと……」
夜高ミツル
「手際よくやれるよう、がんばります」
真城朔
「……ん」
真城朔
こくこく
真城朔
「俺も」
真城朔
「ちゃんと……」
真城朔
「勉強……?」
真城朔
勉強……?
真城朔
「予習」
真城朔
「予習をもっと……」
真城朔
かなりいきあたりばったりにやったので……
夜高ミツル
「お、えらいなー」
夜高ミツル
「俺の方でも良さそうな動画とか探しとく」
真城朔
頷く。
真城朔
「…………」
真城朔
「いっしょに」
真城朔
「見る……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「一緒に見ような」
真城朔
「一緒に、見て」
真城朔
「がんばる」
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
箸を進める。
夜高ミツル
「楽しみだ」