2021/01/26 夕方

夜高ミツル
二人でリビングのテーブルの前に並んで座る。
夜高ミツル
テーブルの上には餃子作りの材料。
夜高ミツル
具材の入ったボウル。皮。水を入れた器。
真城朔
見慣れないものに向ける視線をきょろきょろと巡らせている。
夜高ミツル
包んだ餃子を置くために、テーブルにラップを敷く。
真城朔
手伝いたい気持ちとどうすればいいかわからない気持ちで手が行ったり来たり。
真城朔
結局ミツルに任せるべく手が引っ込んでいる。
真城朔
わからない……
夜高ミツル
おろおろしている間に準備が整った様子で。
夜高ミツル
「久しぶりだな~、餃子」
夜高ミツル
「真城やったことある?」
真城朔
首を横に振った。
真城朔
「作った」
真城朔
「こと」
真城朔
「ない」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
手作り餃子する家庭じゃなかった。
夜高ミツル
「慣れるまでは加減とか難しいかも」
真城朔
「加減……?」
真城朔
不安そうになった。
夜高ミツル
「まあとりあえずやってみるから」
夜高ミツル
「それを見ててくれ」
真城朔
こくこく。
夜高ミツル
真城が頷いたのを見て、餃子の皮を一枚手元に取る。
真城朔
両手をテーブルの上に置いてミツルの手元を見ている。
真城朔
膝の上に下ろしちゃうと洗ったのが台無しだから……
夜高ミツル
「まあやることは単純で……」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
言いながら、ボウルに手を伸ばす。
夜高ミツル
スプーンで具を掬って、皮の真ん中に乗せる。
真城朔
じ……
夜高ミツル
「皮の真ん中に具を乗せて……」
真城朔
凝視している。
夜高ミツル
「具が多すぎると包めなかったり破けたりするから」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「最初はちょっと少ないかも?くらいが楽かな」
夜高ミツル
「足りないかなって思って足すと結構失敗する」
夜高ミツル
「俺もよくやった」
真城朔
こくこく
真城朔
「気をつける……」
真城朔
ミツルの手の中の肉の具合を見ています
真城朔
凝視。
夜高ミツル
「で、あとは皮をとじるんだけど」
夜高ミツル
「このままだとくっつかないから」
夜高ミツル
言って、水に指先をつけて
夜高ミツル
くるりと、皮の辺をなぞる。
真城朔
ミツルの指の動きを見ている。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「こうやって濡らして……」
夜高ミツル
「そんで包む」
真城朔
「濡らして」
真城朔
「包む」
夜高ミツル
頷いて。
真城朔
頷き返す。
夜高ミツル
お手本になるように、なるべくゆっくり丁寧に皮を閉じる。
真城朔
その様子もじっと見ています。
夜高ミツル
辺を持ち上げて具を包み込み、
真城朔
穴が空きそうなほどに……
夜高ミツル
片側を三つ折りにして……
真城朔
折ってる……
夜高ミツル
「……こんな感じで」
夜高ミツル
手の上に、餃子の形が出来上がっている。
真城朔
「できてる……」
真城朔
視線を餃子の高さに合わせて。
夜高ミツル
「まあこの通りじゃなくてもいいけど」
夜高ミツル
「要は中身を包めてればいいから」
真城朔
「うん」
真城朔
角度を変えてまじまじと見ています。
真城朔
首を伸ばし……縮め……
真城朔
じー
真城朔
観察。
夜高ミツル
「きれいに作るのは多分慣れがいるから」
夜高ミツル
「形よりも、しっかりとじるのを気にしてくれれば大丈夫」
真城朔
「しっかり」
真城朔
「閉じる」
真城朔
復唱。
夜高ミツル
「そう」
夜高ミツル
「くっついてないところがあると、焼いてる時に中身がこぼれたりするから」
真城朔
「よくない……」
真城朔
よくないな……と思っています。
真城朔
「気をつける」
真城朔
「しっかり閉じる」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「そういう時は水をつけたす感じで」
真城朔
「つけたす」
真城朔
「くっつかない時?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ん」
真城朔
いい子に何度も頷きます。
真城朔
ミツルの手の上の餃子と餃子の皮と肉の入ったボウルとを見比べている。
真城朔
餃子になっている……
夜高ミツル
「よし」
夜高ミツル
今作った餃子をラップの上に。
夜高ミツル
「じゃあやってくかー」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷いた。
真城朔
おそるおそるに皮に手を伸ばした。
夜高ミツル
様子を見つつ、自分も皮をもう一枚。
真城朔
アームバンドで袖があがっています。
真城朔
皮を取って、肉をすくうスプーンをとって、
真城朔
恐る恐るにちょっとすくう。
真城朔
ミツルが取った分よりも少ない。
夜高ミツル
ちなみに具はキャベツ、合挽き肉、ニラ、ネギ。
夜高ミツル
気持ち肉多め。
真城朔
それを皮の真ん中に置いて……
真城朔
置い
真城朔
置いて……
真城朔
…………
夜高ミツル
がんばれ……!
夜高ミツル
見守っている……
真城朔
皮の真ん中で不器用にスプーンを振っている。
真城朔
肉を落とす。
真城朔
スプーンを戻して
真城朔
指先に水をつけて
真城朔
べちゃ……
夜高ミツル
今度はミツルが具をすくって、皮の上に乗せる。
真城朔
水はなんか ちょっと 多すぎる気がする。
真城朔
多すぎる気がするけどそのまま皮の周囲をなぞって
夜高ミツル
そういうこともある。
真城朔
びたびた……
真城朔
「…………」
真城朔
皮の端っこがびたびたになっていく……
夜高ミツル
「ちょっと水が多いかも……?」
真城朔
「う」
真城朔
「と」
真城朔
ミツルを見た。
真城朔
「ふ」
夜高ミツル
「まあ大丈夫大丈夫」
真城朔
「拭く……?」
真城朔
「大丈夫……?」
真城朔
打ち粉のついた水が白くなって皮の周辺を汚しています。
夜高ミツル
破れるほどじゃなければ……
真城朔
ラップの上に白い水の粒が。
夜高ミツル
破れるほどじゃないよな……?
真城朔
これだけではまだ破れてはいないが……
真城朔
おろおろと視線を彷徨わせている。
真城朔
なんかスタートから間違ったような気がするような
真城朔
わからない……
夜高ミツル
「次の分からはもうちょっと少なめにしたらいいから」
夜高ミツル
「それは……俺が包もうかな」
真城朔
「あ」
真城朔
「う、ん」
真城朔
えっと……
真城朔
渡す……?
真城朔
おろ……
夜高ミツル
横から手を伸ばします。
夜高ミツル
そ……
真城朔
おろついているところに手が伸びました。
夜高ミツル
具材が落ちたり皮が破れたりしないようにしつつ、自分の手前に持ってきて。
真城朔
持っていかれていくのを見ている……
真城朔
じ……
夜高ミツル
「水が少ないとくっつかないけど、多すぎると破れやすくなるから」
夜高ミツル
「最初はな~、俺もよく失敗したから……」
真城朔
「ん」
真城朔
しょぼしょぼ……
夜高ミツル
「最初からうまくできるやつなんていないから」
真城朔
しょぼしょぼしながらミツルの持っていったのを見ている。
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「だんだん掴んでいけば大丈夫」
夜高ミツル
濡れた餃子の皮を持ち上げて、丁寧に包んでいく。
真城朔
包まれていく様子を見ています。
真城朔
すごい……
真城朔
濡れすぎてもできてる……
真城朔
濡らしすぎたのは俺。
夜高ミツル
具材が少なかったからか、なんとか破けはしなかった……。
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「一気に水をつけないで、何回かに分けてつけていくといいかも」
真城朔
「……ん」
真城朔
おしぼりで濡れた指先を拭っている。
真城朔
ふきふき……
夜高ミツル
気持ち小さめの餃子を、最初に作ったものの隣に置いた。
真城朔
真城が肉を運んで濡らしてミツルくんが包んだややちび餃子
真城朔
拭いたので、さっきよりもかなり恐る恐るの手付きでまた皮を取ります。
真城朔
皮を取って敷いたラップの上に置き……
真城朔
また肉をスプーンで取って
夜高ミツル
指先を濡らして、さっき作る予定だった方の餃子を包むのを再開する。
真城朔
やっぱり少ないめ。
真城朔
少ない目を 置いて 置い 置いて
真城朔
真ん中に具を置いて……
真城朔
スプーンから具を落とす手つきがすでにぎこちない。
真城朔
ぎこちないので、苦労をする。
夜高ミツル
がんばれ……!
真城朔
ちょっと真ん中からずれたところに置けた。
真城朔
置けて、水を……
真城朔
ちょっとだけ……
真城朔
ちょん……
夜高ミツル
辺を濡らして、餃子を包む。
夜高ミツル
くっつけて……
夜高ミツル
ねじねじ……
真城朔
指先にちょっとだけ水をつけて、餃子の皮の縁に触れる。
真城朔
ミツルがねじねじやってる間にもたもたと……
真城朔
ほんのちょっとだけ。
夜高ミツル
包みながら、真城の様子も気にしている。
真城朔
ほんのちょっとなので、すぐなくなる。
真城朔
皮の周りを濡らしきれなかったのでまた指で水を取って……
真城朔
もう一度……
夜高ミツル
多すぎるよりは少なめから様子を見る方が大体良い。
真城朔
もう もう一度……
夜高ミツル
包み終わったので餃子を並べました。
夜高ミツル
3個め。
真城朔
4回くらいに分けてなんとか皮の周りをうっすら湿らせた。
真城朔
かなりうっすら。
夜高ミツル
手を拭って、次の皮を取る。
真城朔
またぎこちない手つきで具を置いた皮を持ち上げて
夜高ミツル
取りつつ……真城の方を見る。
真城朔
具をくるんで、皮の端っこ同士をくっつける。
夜高ミツル
大丈夫かな……。
真城朔
くっつけて……
真城朔
半月の形になった真ん中を指で撚って
真城朔
くっつけて……
夜高ミツル
見守り……
真城朔
曲げて……
真城朔
とりあえず右の方へと
真城朔
圧力をかけて くっつけて まげて
真城朔
結構力に任せて指と指で押さえていると、
真城朔
皮の端っこがぐにょぐにょ伸びていく。
夜高ミツル
うんうん……うん?
真城朔
薄くなって……
夜高ミツル
ああ……っ
真城朔
くっついてはいるんだが……
真城朔
半月の真ん中から右までなんとか閉じました。
夜高ミツル
くっついてるからいいけど……。
真城朔
くっついてるけどなんかぐにゃぐにゃになっている……
真城朔
「…………」
真城朔
なんか違う気がする……みたいな目で
真城朔
ミツルが並べた餃子と自分の手元の半分閉じかけと
真城朔
そんでもってミツルの顔を見る。
夜高ミツル
「……ちょっと力み過ぎかも?」
真城朔
「りきみ……」
夜高ミツル
あんまり色々言うと気をつけるところが多くなりすぎるかな……という気持ちもあり。
夜高ミツル
どれだけ口を出したものかやや悩んでいる。
真城朔
ぐるぐる……
真城朔
「りきま」
真城朔
「ない」
夜高ミツル
とりあえず見られたので答えた。
真城朔
「りきまない……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
ぐるぐる……
真城朔
反芻しながらもう一方を閉じていきます。
真城朔
ほどほどに……
夜高ミツル
「結構、軽く閉じたらそれでくっつくから」
真城朔
ほどほどの力を……
真城朔
意識……
真城朔
「かるく……」
真城朔
ほどほどを意識している。
真城朔
皮が薄くならない程度にはなった。
真城朔
なったけど、そのぶんなんか、結構ガバい。
真城朔
左の半分だけ折り目がガバ気味になっている……
夜高ミツル
ふにゃ……
真城朔
なってはいるが、なんとかくっつけて 折り目を作って
真城朔
左側も閉じました。
真城朔
閉じたのだが。
真城朔
閉じてみると、なんか……
真城朔
中身が妙に膨らんでいるような……
真城朔
空気が……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
よくある
真城朔
おそるおそる運んで
真城朔
ミツルの作った隣に置くと
真城朔
不格好さがだいぶ一目瞭然。
夜高ミツル
「破かないでできたなー」
真城朔
なんかころころしてる……
真城朔
「でき」
真城朔
「できた……?」
夜高ミツル
とはいえミツルは嬉しそう。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「できてる?」
真城朔
じ……
真城朔
なんか……
夜高ミツル
「できてるできてる」
真城朔
かなり違う気がする……
真城朔
「できてる……?」
真城朔
また訊いた。
夜高ミツル
「破けてないししっかりとじてる」
真城朔
半分はややしっかりか怪しいが……
真城朔
「……う」
真城朔
「ん」
真城朔
でもまあミツルが言うならそうなんだろう……みたいに頷いています。
真城朔
ミツルの手元を見る。
夜高ミツル
「ちょうどいい量とか、きれいな形とかは作っていく内に慣れていくから」
真城朔
顔を見る。
夜高ミツル
ひょいひょいと皮を閉じていく。
夜高ミツル
慣れた手付き。
真城朔
すごい……
夜高ミツル
作るのは久しぶりだけど、案外身体が覚えている。
真城朔
「ミツは」
真城朔
「すごい……」
夜高ミツル
「ん?」
夜高ミツル
「あー」
真城朔
ぽつぽつ言った。
夜高ミツル
「単純に家でよく作ってたから」
夜高ミツル
「いっぱい作ってて慣れてるだけだよ」
真城朔
「でも」
真城朔
「うまい、から」
夜高ミツル
「真城もやっていけば上手くなる」
真城朔
「…………」
真城朔
なるかな……? みたいな顔。
夜高ミツル
「俺が初めて作ったの、ボロボロだったからな」
夜高ミツル
「具を入れすぎて包むとき破けて……」
真城朔
「入れすぎると」
真城朔
「大変、って」
真城朔
「ミツが……」
真城朔
言ってくれたので……
真城朔
なんとかかんとか……
真城朔
どうにかこうにか。
夜高ミツル
「真城は素直だから」
夜高ミツル
「あとは俺がもうちょっとうまく教えられたらいいんだけど……」
真城朔
首を振り……
真城朔
「がん」
夜高ミツル
言いながら、また皮を一枚。
真城朔
「がんばる」
真城朔
「ので」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「教えてくれてる……」
真城朔
「いっぱい……」
真城朔
こちらも皮を取った。
真城朔
目の前に置いて、じっと見つめている。
夜高ミツル
スプーンを取って、
夜高ミツル
「具はさっきのよりもうちょっと多くてもいいな」
真城朔
「もうちょっと多く」
夜高ミツル
具をすくい、「このくらい」と見せる。
真城朔
じー
真城朔
「このくらい……」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
そのまま自分の皮に乗せて、真城にスプーンを渡す。
真城朔
受け取ります。
真城朔
見様見真似でどうにか同じくらいをすくい取る。
夜高ミツル
「やることは単純なんだけどな」
真城朔
「単純……」
真城朔
単純かなあ……? みたいな空気感。
夜高ミツル
「具を乗せて包むだけって、言うのは簡単なんだけど」
真城朔
すくい取った具を、がんばって皮の真ん中に落としています。
夜高ミツル
「具や水の量とか」
真城朔
置くっていうか、かなり手つきが落とす感じになっている。
真城朔
振り落とし振り落とし……
真城朔
あっ
真城朔
落ちた
真城朔
よし……
夜高ミツル
「包む感じとか……」
真城朔
スプーンを戻す。
真城朔
指先を……さっきよりは多少多めに濡らして
夜高ミツル
「そういう、結構慣れに頼る部分が多いというか」
夜高ミツル
見守り……
真城朔
皮の辺を湿らせていき……
真城朔
やっぱり一回じゃ足りないのでもう一度……
真城朔
こんなくらいかな……
真城朔
こんなくらいっぽいので、具を包みます。
夜高ミツル
見ている。
真城朔
餃子の皮と皮をひとまず合わせて半月の形。
夜高ミツル
うんうん。
真城朔
真ん中をくっつけてからまた右に向けてよっていきます。
真城朔
折り……
真城朔
折り折り……折り……
夜高ミツル
折ってるなあ
夜高ミツル
順調そうだ。
真城朔
折り方の角度は不格好ながらも、先程の力の入り方よりはかなりまし。
夜高ミツル
自分の方も指先に水をつけて皮を濡らし、包んでいく。
真城朔
折り目の角度はなんか……カクついてます。
夜高ミツル
カクついて
真城朔
角度が極端だったり 折り目同士が逆ハの字っぽくなったり
真城朔
あと間隔が不揃いだったり……
夜高ミツル
あるある。
真城朔
うーん……
真城朔
うーんな感じになりながらも端っこまで辿り着いて
真城朔
また真ん中から左端に向けて……
真城朔
おりおり……おり……
真城朔
いちいち時間がかかるのでその分力が加わりすぎている。
夜高ミツル
真城が包んでいる間に、一つ包み終わる。
夜高ミツル
等間隔に折り目がついた餃子を、できあがったものゾーンに並べる。
真城朔
力が加わりすぎると、まあ皮がやや伸びる。
真城朔
とはいえなんとかまた閉じて。
真城朔
できたものとす。
夜高ミツル
できてるできてる。
真城朔
できたものとするが、やはり先程よりはましながら、
夜高ミツル
手を拭い、皮を取り。
真城朔
空気が入っている感からは逃れられない感じの出来上がり。
真城朔
うーん……? となりながらも隣に置きました。
真城朔
できたものゾーンにいびつな2号が置かれる。
真城朔
自分が作ったやつめちゃめちゃわかりやすい……
夜高ミツル
あんまり一度に言うのもなあという感じで、その辺はもうちょっと慣れてきた頃に言うか……と思う。
真城朔
これは……
真城朔
自分が作れば作るほど不細工な餃子が増えていくのでは……
夜高ミツル
具材を掬って、皮の上に。
真城朔
無言で葛藤しています。
真城朔
でも……
真城朔
一緒に作るって言ったし……
夜高ミツル
首をかしげて、手を止めた真城の方を見る。
真城朔
うーんうーん……
夜高ミツル
「どうした?」
真城朔
「う」
真城朔
「うー……」
真城朔
並んだ餃子を睨んでいます。自分の作ったやつを。
真城朔
「……変なのが」
真城朔
「できる……」
夜高ミツル
うーになっている……
真城朔
「ミツ、のは」
真城朔
「きれい」
真城朔
「なのに……」
夜高ミツル
「最初はそんなもんだって」
真城朔
「わざわざ俺が変なの作っても……」
真城朔
忌み子を生んでしまう……
夜高ミツル
「作っていくうちにきれいに作れるようになるよ」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルの手つきを見ています。
夜高ミツル
「あと単純に、一緒にした方が俺は楽しい」
真城朔
「う」
夜高ミツル
「真城が包んでくれたやつ食べれるのも楽しみだし」
真城朔
「へ」
真城朔
「へんなの、だから」
真城朔
「俺が……」
真城朔
「自分で」
夜高ミツル
「真城ががんばったやつだろー」
夜高ミツル
「俺は食べたいけどな」
真城朔
「うー」
真城朔
またうーになった。
夜高ミツル
うーになってるなあ
真城朔
うーになりながらおずおずと皮を取った。
真城朔
慣れてもミツルみたいにうまくやれる気がまるでしない……
真城朔
まるでしないけど
真城朔
一緒にしたほうが楽しいのなら、そうした方がいいのだろうとは思う。
夜高ミツル
「うちは結構よく餃子作ってて」
真城朔
思ったので、皮を取りました。
真城朔
「……うん」
真城朔
うち……
夜高ミツル
「包むのは俺とめぐるの担当だったんだけど……」
夜高ミツル
包みつつ、話を続ける。
夜高ミツル
「まあ地味だろ?」
夜高ミツル
「めぐるはいつもすぐ飽きて……」
真城朔
「……うん……」
真城朔
置いた皮を見つめながら話を聞いています。
夜高ミツル
「飽きてどっか行って、それで大体俺がやることになってたから」
夜高ミツル
「俺はこういうの結構好きだからな」
夜高ミツル
「押し付けられんのはムカついたけど」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
おりおり。
真城朔
聞いている。
真城朔
聞きながら黙って
真城朔
しょんぼりと肩を落として、
真城朔
「…………俺」
夜高ミツル
「まあそういうわけで、俺はそれなりに経験値を積んできたので……」
夜高ミツル
「……?」
夜高ミツル
真城を見る。
真城朔
唇を開いたり、引き結んだり、
夜高ミツル
手元にはちょうど包み終わった餃子。
真城朔
視線は目の前の餃子の皮に向けたまま、
真城朔
「俺、が」
真城朔
「…………」
真城朔
「俺……」
夜高ミツル
「……真城のせいじゃないよ」
夜高ミツル
「真城のせいじゃない」
真城朔
目元にわずかに涙を滲ませている。
真城朔
流石に相当泣きたくないらしく堪えている気配がある。
真城朔
ぎこちなく手を伸ばして具をすくうスプーンを取った。
真城朔
具をとって……
真城朔
えい……
真城朔
えいえい……
真城朔
ぐす……
真城朔
うまく落ちない……
夜高ミツル
落ちないな……
真城朔
落ちた。
真城朔
落ちたけどスプーンに張り付いた具がちょっと残ってる。
夜高ミツル
落とす用のスプーンをもう1個持ってきたらいいなと、今更思い至った。
真城朔
落ちた具は量としてはやや少ない……
真城朔
うーん……
夜高ミツル
「……スプーン、もう1個持ってくるな」
真城朔
えいえい……
真城朔
「?」
真城朔
やや潤んだ目でミツルを見ます。
真城朔
「あ」
夜高ミツル
立ち上がり、台所へ。
真城朔
「待たせて」
夜高ミツル
すぐに取って戻ってくる。
真城朔
「俺が……」
夜高ミツル
「ああ、いや」
夜高ミツル
手に新しいスプーンを取って戻ってきて
夜高ミツル
真城に差し出す。
真城朔
「?」
真城朔
なんで渡されるのかわからないので目を丸くしました。
夜高ミツル
「具を置くのにあったら便利だろ」
真城朔
「…………」
真城朔
ぱちぱち……
真城朔
受け取り……
真城朔
あっ
真城朔
使い方に思い至ったのか、渡されたほうのスプーンを使って
夜高ミツル
そうそう。
真城朔
残った具を落とします。
真城朔
総合してそこそこ理想的な量が皮の上に。
夜高ミツル
よかった
真城朔
「え、と」
真城朔
「と…………」
真城朔
スプーンを持ったまま視線を彷徨わせて
真城朔
あっ
真城朔
とりあえず
真城朔
とりあえず置きます。スプーンを。
真城朔
置いて。
真城朔
「……ありがとう」
夜高ミツル
「いや……」
夜高ミツル
「もっとはやく気づけてたら……」
真城朔
首を振る。
真城朔
首を横に振って、
真城朔
「ミツは」
真城朔
「大丈夫、だったし……」
真城朔
使わなくても……
夜高ミツル
「まあ、俺もあった方が便利だし」
真城朔
瞬きの回数が多めになっている。
真城朔
「……うん」
真城朔
そういうことにする。
真城朔
そういうことにして、水を持ってきます。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
水も打ち粉で結構白く濁ってきたな……
真城朔
あんまり気にしないでそのまま指を水にひたして
夜高ミツル
置かれたスプーンを取って、二本使って具を皮の上に置いた。
真城朔
しめらせしめらせ……
真城朔
熱心に水で湿らせている。
夜高ミツル
水に指を浸して、皮を濡らしながら。
真城朔
ちょっと多い気がする。最初よりはマシだが……
夜高ミツル
「……うちの話」
夜高ミツル
「あんまり聞きたくない?」
真城朔
びくっ
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城が嫌ならしない」
真城朔
「い」
真城朔
「いやじゃ」
真城朔
「いやじゃない」
真城朔
首を横に振る。
真城朔
「ミツが、普通に」
真城朔
「したい話」
真城朔
「して、ほしい」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「……真城がつらい思いをするなら、俺はしたくないんだ」
真城朔
水で湿らせた皮を見下ろしている。
真城朔
「……つらくない」
真城朔
「俺は」
真城朔
「別に」
夜高ミツル
「俺は本当に真城のせいじゃないと思ってるし」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「お前の母さんを恨んでもない」
真城朔
目の端にまた涙が滲む。
夜高ミツル
「でも、真城に気にするなってのも難しいと思うから」
夜高ミツル
「だから、もし聞きたくないなら本当にそれでいいんだけど」
真城朔
「……う」
夜高ミツル
真城の様子を伺う。
真城朔
「う」
真城朔
「…………」
真城朔
手が止まっている。
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「ミツ、が」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツの、大切なものの」
真城朔
「話」
真城朔
「腫れ物みたいに」
真城朔
「したく」
真城朔
「ない…………」
真城朔
させているのは自分の態度なのだが……
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
なのを自覚するので、しょんぼりと肩が落ちる。
夜高ミツル
「……ありがとう」
真城朔
「?」
真城朔
涙を滲ませたまま、恐る恐るミツルの顔を見る。
夜高ミツル
「そういう風に言ってもらえるのが、嬉しかったから」
真城朔
「うれし」
真城朔
「い?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
「俺が」
真城朔
「もっと」
真城朔
「もっと、ちゃんと」
真城朔
「普通に……」
真城朔
「できて、れば」
真城朔
「…………」
真城朔
「できなきゃ……」
夜高ミツル
「……でも、やっぱり」
夜高ミツル
「どうしても、それは難しいとも思うから……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺は、俺の家族のこと、できれば真城にも知ってほしいって思う」
真城朔
「……うん」
真城朔
小さく頷く。
夜高ミツル
「……また何かあったら話しても、いいか?」
真城朔
「…………」
真城朔
しばし惑った後、
夜高ミツル
「無理させたくはないから」
夜高ミツル
「本当に、よければでいいんだけど」
真城朔
ミツルの目を見て目を瞬き。
真城朔
その拍子に滲んだ涙が頬を落ちる。
真城朔
「…………うん」
真城朔
涙を落としながらも、それでも頷いた。
夜高ミツル
「……ありがとう」
夜高ミツル
「俺は、うちのことを真城に知ってほしいし」
真城朔
俯く。
夜高ミツル
「真城にも、もっと話してほしいなって思う」
真城朔
俯いたままちらちらと目線をミツルの顔にやっている。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「すぐには無理でも」
夜高ミツル
「だんだん、そういうのがお互い普通に話せたらいいなって」
真城朔
「……俺の」
真城朔
「うちの、こと……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
またぽろりと涙を落とす。
夜高ミツル
「真城の大切な人の話を、俺は知りたい」
真城朔
「…………」
真城朔
すっかり手が止まってしまっている。
夜高ミツル
それはお互い様。
真城朔
視線の向ける先に迷って、ミツルの胸元からついに包む前の餃子に移ってしまったが、
夜高ミツル
手が止まる話を始めたのは俺……
真城朔
手は動かずに。
真城朔
「……うちの」
真城朔
「話」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「いつでも、なんでもいい」
真城朔
惑いに唇をひらいてとじて、
夜高ミツル
「すぐじゃなくてもいいから」
夜高ミツル
「真城が話したいと思ったら、いつでも聞く」
真城朔
打ち粉と水に汚れた指同士を擦り寄せて。
真城朔
「…………」
真城朔
「いつ、か」
真城朔
「できたら……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
か細い声。
夜高ミツル
「待ってるよ」
夜高ミツル
「いつまででも待つ」
真城朔
「…………」
真城朔
控えめに頷いた。
夜高ミツル
頷いたのを見て。
夜高ミツル
「……ていうか、俺の方が今する話じゃなかったな」
夜高ミツル
すっかり放置してしまった餃子に目を向ける。
真城朔
「……俺、が」
真城朔
「変に……」
真城朔
反応するから……
真城朔
俺が悪い……になっています。
真城朔
なりながら、ぼんやりと餃子の皮を持ち上げた。
真城朔
ぎこちなく包み始める……
夜高ミツル
「俺がもっとはやくちゃんと聞いてればよかったことだから」
夜高ミツル
ミツルの方も、餃子に手をつける。
真城朔
「で、も」
真城朔
「あっ」
夜高ミツル
縁を合わせて、おり……
夜高ミツル
あっ?
真城朔
力を込めすぎた。
夜高ミツル
真城の方を見る。
夜高ミツル
ああ……
真城朔
水も思えばちょっと多すぎて……
真城朔
皮がちぎれて穴が。
真城朔
涙で滲んだ目でミツルを見ます。
夜高ミツル
ああ……
夜高ミツル
「……まあ、それくらいなら大丈夫だから」
真城朔
「だい」
真城朔
「だいじょうぶ……?」
真城朔
穴あいちゃった……
夜高ミツル
「大丈夫大丈夫」
真城朔
確かに中身がボロボロ溢れるほどの穴ではないが。
真城朔
引っ張りすぎて破けた感じの……
真城朔
おろ……
夜高ミツル
「中身がこぼれなけりゃ大丈夫」
真城朔
「……う」
真城朔
「うん」
真城朔
とりあえず残りを閉じていく。
真城朔
とじとじ……
真城朔
おりおり……
夜高ミツル
手を止めたまま見守り。
真城朔
穴の部分をいかにせん……
真城朔
ええと……
真城朔
皮を……
真城朔
無事な部分を折って……
真城朔
重ねて……
真城朔
指で押さえて力を込めた。
夜高ミツル
おお……
真城朔
変な形になった。
夜高ミツル
でも穴は閉じてる。
真城朔
くるんだ餃子の皮の一部が曲がっている……
真城朔
めちゃめちゃ不格好。
真城朔
めちゃめちゃ不格好な餃子を、でもとりあえずできたものとして置いた。
真城朔
傾く。
夜高ミツル
できてるできてる!
真城朔
穴が空いたからか逆に空気あんまり入ってない。
真城朔
「…………」
真城朔
これでいいのだろうか……みたいな目で見ている。
夜高ミツル
「ちゃんと閉じれたから大丈夫」
真城朔
ミツルを見ます。
夜高ミツル
大丈夫かな……という目に察して声をかける。
真城朔
「だいじょうぶ?」
真城朔
また訊く。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷いた。
真城朔
頷いて、今更になってまくった袖で
夜高ミツル
真城を見ていて包みかけだったのを再開する。
真城朔
ごしごし目元を拭く。
真城朔
涙を拭って、
真城朔
また皮を手にとった。
夜高ミツル
とはいえ半分ほど閉じてあったので、すぐに終わり、
夜高ミツル
完成品に加える。
真城朔
きれいな新顔だねえ~。
夜高ミツル
経験の差。
真城朔
そんな感じでもくもくと餃子を包んでいき……
夜高ミツル
もくもく……
夜高ミツル
おりおり……
夜高ミツル
さすがに経験の差があるので、最終的にミツルが包んだ数のほうが多くなった。
真城朔
もともとめちゃめちゃ差をつけられているので……
真城朔
出来上がり品のうち1/4くらいが不思議な形。
真城朔
少しずつコツを掴んでいったのか、だんだんマシな形のものは増えている。
真城朔
ミツル製には遠く及ばないが……
真城朔
あのあとも何個か穴を開けたが……
夜高ミツル
最初だからそんなもん、とミツルは笑っていた。
夜高ミツル
だんだんうまくなるからまたやろうなとも。
真城朔
しょぼになりながら頷いてました。
夜高ミツル
包んだ餃子の内、半分はタッパーに詰めてそのまま冷凍庫へ。
真城朔
冷凍されゆく……
夜高ミツル
残りの半分、30個を焼いていく。
夜高ミツル
さすがに全部一度にフライパンには乗らないので、2回に分けて。
真城朔
対面キッチンの向かいから眺めています。
真城朔
じゅー……
夜高ミツル
油を引いて、焼き目をつけて……
真城朔
フライパンの上に餃子をきれいに並べたのも当然ミツル。
真城朔
きれいに並んでいるなあ。
夜高ミツル
底が焼けてきたので、お湯を注いで蓋をする。
夜高ミツル
蒸し焼き。
真城朔
じゅーの意味合いが変わりました。
真城朔
いい匂いがする……
夜高ミツル
水が蒸発して、蓋の内側に水滴がついていくのが見える。
夜高ミツル
蓋を閉じて、少し待って……
夜高ミツル
「……そろそろかな」
夜高ミツル
取っ手を持って、蓋をあける。
真城朔
じっと見ています。
真城朔
蓋が上がって、おおーという顔になりました。
夜高ミツル
一気に湯気が立ち、餃子の香ばしい香りが台所に広がる。
真城朔
さっきまでとは段違いに……
真城朔
「焼けてる」
夜高ミツル
一旦火を止めて
夜高ミツル
「ん」
真城朔
気持ち身を乗り出している。
真城朔
乗り出しすぎると危ないので控えめに……
真城朔
ちょっとだけ……
夜高ミツル
出しておいた皿に、餃子を並べる。
真城朔
焼けている……
真城朔
「餃子」
夜高ミツル
パパっと第二陣の用意をする。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「一緒に作った餃子だなー」
真城朔
第一陣にふんわりラップをかけています。
夜高ミツル
火を点け直して油を敷いて
真城朔
「焼けた……」
夜高ミツル
並べ並べ……
真城朔
あんまり蒸気を閉じ込め過ぎるとフニャになるのでふんわり程度に……
夜高ミツル
パチパチと油の弾ける音が小さく響く。
真城朔
前の餃子の肉汁の残りがいい匂いをたてている……
夜高ミツル
隣のコンロにも火を点けて、朝の味噌汁の残りを温める。
真城朔
ちらちらと餃子の焼けるのを気にしながら食卓の準備をしています。
真城朔
箸と取り皿と
夜高ミツル
餃子の焼ける音が食卓の方にも聞こえるでしょう……
夜高ミツル
じゅう……
真城朔
お茶碗 おしぼり しょうゆ お酢 ラー油
真城朔
片端からあれやこれやと……
真城朔
準備しながらちょこちょこ見に来る。
真城朔
焼けてる……
夜高ミツル
頃合いを見て、再びお湯を差す。
夜高ミツル
じゅわ、と一際大きな音がする。
夜高ミツル
蓋を閉じ……。
真城朔
景気のいい音がすることだなあ。
真城朔
概ね準備が終わったので眺めの専念に戻りました。
真城朔
対面キッチンの特等席。
夜高ミツル
眺められている。
真城朔
「火」
夜高ミツル
見られるの、やや緊張するところもなくはないが、
夜高ミツル
真城が見てくれているのは嬉しい。
真城朔
「使ってると」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「料理って感じ」
真城朔
「する」
真城朔
イメージが……
夜高ミツル
「そうだなー」
真城朔
「低温調理器も」
真城朔
「すごいけど……」
真城朔
あれはすごい
真城朔
あれも本当にすごい。
夜高ミツル
「あれはすごいな……」
夜高ミツル
「放置できるのが偉い」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
火を使う料理は放置できないので、フライパンの蓋を開ける。
真城朔
「いろいろできる……」
真城朔
ぶわっ。
真城朔
湯気に目を細めました。
夜高ミツル
ちょうどよく焼けている。
真城朔
できたて餃子
夜高ミツル
火を止める。鍋の方も。
夜高ミツル
ラップを外して、皿の空いてる部分に残りの餃子を並べる。
真城朔
約30の餃子が並んでいく。
夜高ミツル
並べ終え……
夜高ミツル
持ち上げて、
夜高ミツル
「じゃあこれ、持ってって」
真城朔
受け取ります。
真城朔
「ん」
真城朔
大皿の餃子を食卓に運んでいきます。
夜高ミツル
「よろしくー」
夜高ミツル
真城を見送って、味噌汁を二人分ついで。
真城朔
食卓の真ん中にどーんと置く。
夜高ミツル
真城の方は少なめ。
真城朔
置いたら炊飯器を開けてごはんをよそいます。
真城朔
自分のぶんをたいへん少なめに。
真城朔
ミツルのぶんはひとまず普通に。
夜高ミツル
二人分の味噌汁を食卓に持っていき、並べる。
夜高ミツル
具はキャベツと玉ねぎ。
真城朔
こちらもお茶碗を並べています。
夜高ミツル
真城の方の具はかなり少なめに。
真城朔
玉で買ったキャベツだな~
夜高ミツル
玉で買った。
真城朔
積極的に減らしていこう。
夜高ミツル
一部は味噌汁に、一部は餃子に。
真城朔
いっぱいみじん切りをした
真城朔
食卓につきます。
夜高ミツル
隣に座る。
夜高ミツル
いつもどおり。
真城朔
手を合わせまして。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
唱和。
夜高ミツル
すっかり慣れた風景。
真城朔
慣れた食卓に初の餃子。
真城朔
取皿に醤油と酢をほどほどに混ぜる。
真城朔
やや醤油多め……
真城朔
ラー油はいいかな……
真城朔
真城のタレはラー油ないない。
夜高ミツル
醤油と酢とラー油を良い感じに……。
真城朔
ラー油ないないして、焼き上がった餃子の中の
真城朔
不格好なのときれいなのを見て、
真城朔
伸ばした箸が止まった。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
横から迷わず、真城が作った餃子に箸を伸ばす。
夜高ミツル
す……
真城朔
あっ……
真城朔
ミツルを見ます。
真城朔
きょどになってる。
夜高ミツル
取って、タレにつけて、
夜高ミツル
パクっ。
真城朔
ああっ……
夜高ミツル
あっつ……。
真城朔
箸を止めて見ています。
夜高ミツル
熱そうにしている。
真城朔
おろおろ
真城朔
「へ」
真城朔
「へんじゃ」
真城朔
「へん?」
夜高ミツル
焼きたてなので当然熱い、のを咀嚼し……
夜高ミツル
飲み込んで
真城朔
箸を下ろしてしまった。
夜高ミツル
「いや、旨いよ」
夜高ミツル
「熱くて……」
夜高ミツル
「単純に……」
真城朔
「熱い」
真城朔
じっと餃子の大皿を見る。
真城朔
「……変じゃない?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
ミツルを見ます。
夜高ミツル
「うまいよ」
真城朔
「……う」
夜高ミツル
「真城が頑張って作ってくれたなって思うとなおさら」
真城朔
「うう」
真城朔
ううになった。
真城朔
「そ」
真城朔
「そもそも」
真城朔
「ほとんど」
真城朔
「ミツが、作って」
真城朔
「俺は」
真城朔
「ちょっと」
真城朔
「包んだだけ、で」
真城朔
だからそんな変にもなるはずは
夜高ミツル
「全部自分で作るより」
真城朔
いや……
真城朔
形は変だけど……
夜高ミツル
「真城も一緒に作ってくれたなって思う方がうまいし」
夜高ミツル
「嬉しい」
真城朔
「…………」
真城朔
「ん」
真城朔
「うん」
真城朔
「うん……」
真城朔
「それ、は」
真城朔
「…………」
真城朔
「そうなら」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「よかった」
真城朔
「よかった……」
真城朔
繰り返す。
夜高ミツル
「そうだよ」
真城朔
やや身の置きどころのなさそうに首を竦めているが……
真城朔
よろよろと箸を伸ばして
真城朔
迷って
夜高ミツル
「熱いから気をつけてな」
真城朔
迷っている……
真城朔
「う」
真城朔
「うん」
真城朔
かなり長いこと迷った末に、
真城朔
ミツルの作った方を取りました。
真城朔
きれいなやつ……
真城朔
きちんとした餃子の形をしている。
夜高ミツル
取ってもらえてうれしげ。
真城朔
しているのを取皿に取ってタレに漬け。
夜高ミツル
再び餃子に手を伸ばす。
真城朔
お茶碗の上に一度置いてから、おそるおそる齧る。
夜高ミツル
もちろん真城が包んだ方。
真城朔
端っこをかじり……
真城朔
自分が包んだ方が減っていく……
夜高ミツル
穴を塞いだあとがある。
真城朔
不出来な餃子が取られていくのを見ながら、
真城朔
もぐもぐと咀嚼している。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
タレにつけて、今度は熱いのに気をつけて齧った。
真城朔
じ……
夜高ミツル
もぐ……
真城朔
口を動かしつつミツルを見ている。
真城朔
噛むのと味わうのとミツルの食べているのが気になるのとで
真城朔
板挟みになってややおろついている。
真城朔
黙り込む。
夜高ミツル
ミツルの方が先に口の中のものを飲み込んだ。
真城朔
落ち着かなさそうに視線があちらこちらに動いています。
夜高ミツル
気にされているのに小さく笑って
夜高ミツル
「うまいよ」
夜高ミツル
「ちゃんと旨いから」
夜高ミツル
そんなに気にしなくても……
真城朔
「……ん」
真城朔
こくこく
真城朔
もぐもぐ
真城朔
ごくん。
真城朔
「……ミツ、のも」
真城朔
「おいしい」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
笑う。
夜高ミツル
「よかった」
夜高ミツル
真城朔
「手作りの、餃子」
真城朔
「はじめて」
真城朔
「だし」
真城朔
「肉の」
真城朔
「汁が出る……」
真城朔
食べかけを齧る。
夜高ミツル
「店のほどパリッとうまくは焼けないけど」
夜高ミツル
「まあ、なんかいいよな手作りのって」
真城朔
「……うん」
真城朔
咀嚼しながら頷く。
夜高ミツル
「今回は久しぶりだからシンプルなやつにしたけど」
夜高ミツル
「ネット見たら結構レシピ色々あったし」
夜高ミツル
「チーズ入れたりとか」
夜高ミツル
「今度はそういうのもいいかもな」
真城朔
瞬き。
真城朔
「チーズ……」口元を押さえながら
夜高ミツル
「チーズ」
夜高ミツル
ご飯を口に運ぶ。
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
「チーズ餃子」
真城朔
「…………」
真城朔
首を傾げた。
真城朔
もぐもぐ
真城朔
ごくん……
真城朔
「中、に」
真城朔
「入れる?」
夜高ミツル
頷いて
夜高ミツル
飲み込み。
夜高ミツル
「とろけるチーズを中に入れるみたいな感じだった」
夜高ミツル
「細かいとこは覚えてないけど」
真城朔
「…………」
真城朔
想像しています。
真城朔
「熱そう……」
夜高ミツル
「確かに」
夜高ミツル
笑う。
夜高ミツル
「あとなんだっけ……カレー味とか」
真城朔
「カレー」
真城朔
カレー……?
夜高ミツル
「カレー味にしたらなんでもうまいだろって感じするけど」
真城朔
「カレーの餃子……」
真城朔
結構想像を超えてきています。
夜高ミツル
「なんか本当に色々ある」
真城朔
「すごい……」
夜高ミツル
「後で一緒に見るか」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「真城が気になるやつあったら作るし」
真城朔
頷きます。
真城朔
「ん」
真城朔
「……うん」
真城朔
「でも」
真城朔
最後の切れ端を箸でつまみ上げて、
真城朔
「今は、これ」
真城朔
「作ったやつ」
真城朔
食べる。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
箸が止まっていたので、おっと……になる。
夜高ミツル
齧った残りの半分を口に運ぶ。
真城朔
残り少なかったので比較的すぐに飲み込んでしまって、
夜高ミツル
もくもく。
真城朔
「おいしい」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
嬉しそうに。
真城朔
「餃子」
真城朔
「餃子の味」
夜高ミツル
飲み込んで……
真城朔
「ええと……」
真城朔
どう表現すればいいのかわからなくなっている……
真城朔
「……おいしい」
真城朔
締めくくった。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「よかった」
夜高ミツル
ミツルとしては、それが聞ければ十二分に嬉しい。
真城朔
二個目を取っています。
真城朔
またちょっと迷ったけど結局ミツルの作ったほう。
真城朔
タレをつけて、お茶碗に乗せて
夜高ミツル
ミツルもやっぱり真城の作った方に箸を伸ばす。
真城朔
ちょっとだけ齧ってお米を食べる。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
3個め。
真城朔
自分の不格好な餃子が取られていくのを見ています。
真城朔
さすがにもう心配そうではないけども気にはなる。
真城朔
気になっている。
夜高ミツル
さすがにできたての熱さはなくなっている様子なので、一口で食べてしまう。
夜高ミツル
パクっ
夜高ミツル
味わうのにちょうどよい熱さ。
真城朔
ひと口で食べられてしまった……
夜高ミツル
もくもく……
夜高ミツル
その分時間をかけて味わっている。
真城朔
いっぱい噛んでいる。
真城朔
真城もいっぱい噛んでから飲み下して、残りも口に含んで
真城朔
もくもく もぐもぐ
真城朔
また飲み込み。
真城朔
味噌汁をちょっと飲んでいる。
夜高ミツル
咀嚼して、飲み込む。
真城朔
少ない具を取り上げてまた噛んで……
夜高ミツル
白米を食べて……。
真城朔
息をつく。
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
「…………」
真城朔
「……あん、まり」
夜高ミツル
飲み込み。
夜高ミツル
「ん?」
真城朔
「長い間」
真城朔
「ずっと」
真城朔
「こういう」
真城朔
「家事、とか……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
手を止めて、真城の話を聞いている。
真城朔
ぽつぽつと語りながら、
真城朔
目元を潤ませている。
真城朔
「……して」
真城朔
「して、こなかった、から」
真城朔
「けど」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「…………」
真城朔
「むかし」
真城朔
「もっと、昔は」
真城朔
「て」
真城朔
「てつだっ、て」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
ぐす、と鼻を鳴らして
真城朔
頬に涙を伝わせる。
真城朔
「むかし、は」
真城朔
「……っ」
真城朔
「して」
真城朔
「して、た」
真城朔
「いろいろ」
夜高ミツル
プルサティラが見せた、真城と母親の記憶を思い出した。
真城朔
「ぎょう、ざ」
真城朔
「は」
真城朔
「なかった」
真城朔
「けど」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「でも」
夜高ミツル
相槌を打って、あるいは頷いて、
真城朔
「いろいろ……」
夜高ミツル
真城の話にじっと耳を傾けている。
真城朔
俯く。
真城朔
「お皿」
真城朔
「ならべる、とか」
真城朔
「そういう」
真城朔
「大したこと」
真城朔
「じゃ」
真城朔
「ない」
真城朔
「ない、けど」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ちゃんと手伝いだよ」
真城朔
ぽろぽろと涙を落としている。
夜高ミツル
「……俺は、ちょっと、覗き見ただけだけど」
夜高ミツル
「……」
真城朔
ちらりとミツルの顔を窺う。
夜高ミツル
それで何かを言っていいものかと少し悩んだが、
夜高ミツル
「仲、良さそうだったもんな」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……真城が母さんのこと大事に思ってたのも」
夜高ミツル
「真城の母さんがそうだったのも」
夜高ミツル
「ちょっと見ただけだけど、伝わってきた」
真城朔
俯く。
真城朔
あるいは、頷く。
夜高ミツル
「教えてくれて、ありがとな」
真城朔
「……ぅ」
夜高ミツル
「……真城の家の話、聞けて嬉しい」
真城朔
「う」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷いて、
真城朔
箸を置いてしまって、顔を覆った。
真城朔
背中を丸めて、小さな嗚咽を漏らす。
夜高ミツル
手を伸ばして、頬に触れる。
夜高ミツル
箸は話を聞いてる内に置いてしまっている。
真城朔
触れられた感触に手が顔から離れた。
真城朔
濡れた瞳がミツルを見返す。
夜高ミツル
そのまま手を滑らせて
夜高ミツル
涙を拭う。
真城朔
眉を寄せる。
真城朔
「……ご」
真城朔
「ごめ、ん」
真城朔
「急に……」
夜高ミツル
首を横に振る。
夜高ミツル
「……それだけ大事で、大好きだったんだろ」
夜高ミツル
「真城のそういう、大切な人の話を聞かせてもらえて嬉しいから」
夜高ミツル
「いいんだ」
真城朔
「で、も」
真城朔
「こんな」
真城朔
「こんな時に」
夜高ミツル
「言っただろ」
夜高ミツル
「いつでも聞くって」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「だからいいんだよ」
夜高ミツル
涙を拭った手を、また真城の頬に添えた。
真城朔
瞼を伏せた。
真城朔
その手のひらに頬をすり寄せる。
夜高ミツル
掌に、柔らかな感触が伝わる。
夜高ミツル
「また、言いたくなったら」
夜高ミツル
「いつでも聞かせてほしい」
真城朔
今もなお落ちる涙でミツルの掌を濡らしながら、
真城朔
「……ん」
真城朔
微かな相槌とともに頷いた。