2021/01/30 早朝
夜高ミツル
廊下に血痕の残っていないのを注意深く確認して、扉を閉じる。
真城朔
体格に見合わないトレンチコートを着込んでいる。
真城朔
曙光騎士団の事務所から拝借したトレンチコートはきれいなものだが、問題はその下だった。
真城朔
最低限の武装を玄関に敷いたブルーシートに転がしてから、
真城朔
エアコンの暖気に満ちた室内に反して、浴室は凍える寒さ。
真城朔
首を竦めながら暗い色のネックウォーマーを外して落とすと、
真城朔
重苦しい粘着質な音とともに、風呂場のタイルに血が滲んだ。
夜高ミツル
大きすぎるトレンチコートに手をかける。
真城朔
その下のインナーダウンもネックウォーマーと同じく暗い色をしている。
真城朔
右胸から脇腹までを袈裟斬りに、吸血鬼の爪の痕。
夜高ミツル
トレンチコートの内側にもべっとりと血が滲んでいるのが見える。
真城朔
インナーダウンに染み込んだ血はとうに固まり、生地がごわごわになっている。
夜高ミツル
派手に裂けた服の隙間から、肉の裂けた様子が覗いている。
真城朔
けれど出血がほぼ止まっているというのは嘘ではないらしく、
夜高ミツル
コートを汚しているのはミツルの血ではなく、
夜高ミツル
そして、真城を抱きしめた時についたもの。
夜高ミツル
インナーダウンごとコートを脱ぎ捨てる。
真城朔
脱ぎ捨てられた血まみれの衣服をのろのろと拾い上げてはひとつにまとめている。
夜高ミツル
浴室の外に腕を出して適当なタオルを取りあげる。
夜高ミツル
蛇口を捻って、タオルを湯で濡らし、絞る。
真城朔
床を流れる湯に浸される前に、靴下も脱いでしまった。
真城朔
ついでに蛇口から出したお湯で申し訳程度に手を洗っている。
真城朔
その都度時折ミツルの様子を窺うように視線をうろつかせ。
夜高ミツル
無言のままに準備を終えて、タオルを浴槽の縁にかける。
夜高ミツル
そのまま、ぐいと自分の方に引き寄せる。
夜高ミツル
いつもと違う柔らかさが触れ合った箇所から伝わる。
真城朔
それが、血を飲む事によって治るものではないのだが。
夜高ミツル
真城を守れなかった、助けに行けなかった。
夜高ミツル
その事実が、変化した身体によって尚更に突きつけられる。
真城朔
そこに残った歯型を赤い舌でぺろりと舐めた。
真城朔
冷たい浴室の中、唾液で濡れた歯型に至近距離から拭きかかる吐息の熱。
夜高ミツル
口が離れたことに、ちらりと真城の様子を伺う。
真城朔
熱を伴う痛みとともに半吸血鬼の牙が皮膚を破り、
真城朔
ミツルの肩に添えた手が強く握られて指が食い込み、
真城朔
傷の刻まれた細い身体がミツルの胸に預けられる。
夜高ミツル
わずかにためらいを見せながら、寄せられた身体に腕を回す。
真城朔
縋るような仕草で身体を任せながら、真城はミツルの血を啜る。
夜高ミツル
肉を裂く痛みのあとにやってくるのは、陶酔感。
真城朔
唇と舌が肌を舐めて血を吸い上げる水音が浴室に反響する。
真城朔
溢れた血を拭うように、ミツルの皮膚を這う舌の濡れた熱。
夜高ミツル
だけど、いつものようにその心地よさに身を委ねる気にはなれない。
真城朔
夢中になって血を啜れば啜るほどに、重なる熱の温度が増していく。
真城朔
冷たい空気に満たされた浴室で、熱をもって寄り添う二匹になる。
真城朔
夢中になるあまりに血混じりの唾液が唇の端から溢れかけては、
真城朔
それを掬い上げるように舌が皮膚を撫ぜる、いつもの仕草。
夜高ミツル
ダウン越しにも、触れる身体の柔らかさと熱を感じる。
夜高ミツル
その柔らかさにどうしても脳裏を過るのは、狩りの最中の光景。
真城朔
縋りつく、むしろ押しつけられるような密着感。
真城朔
口に手袋を含まされ、見開いた瞳からは呆然と涙を落としていた。
真城朔
投げ出された白い脚、脱がされて捨てられたズボン、床に転がった防犯ブザーの成れの果て。
夜高ミツル
自分の無力が不甲斐なくてしょうがなかった。
夜高ミツル
「そうさせてしまった」と真城が自分を責めるだろうことに対しても。
真城朔
背中に回った指がミツルのインナーの裾を掴む。
真城朔
ほとんど抱きつくような調子で身を寄せながら、
真城朔
その際に真城のついた大きな息が、ミツルの肌と傷をなまぬるく撫ぜた。
夜高ミツル
その刺激に身じろいで、小さく息をついた。
真城朔
いつもより長い吸血に深い傷ゆえか、滲ませる血の量も常より多く、
夜高ミツル
さすがに虚脱感も強く、真城の体重を受け止めながら壁に身を預けている。
真城朔
再び唇を離して、やや荒い呼吸に肩を上下させている。
真城朔
ミツルに体重を預けたまま浮かない顔をしている。
真城朔
真城の方は笑えないまま、結局視線を落としてしまった。
夜高ミツル
続けて何か言おうとして、結局ミツルも黙り込んでしまう。
真城朔
服越しに触れ合っているのでもお互いの心臓の鼓動が聞こえるような気がした。
夜高ミツル
黙り込んでしまうと、身体がしっかりと反応を示していることから目を背けられなくなる。
夜高ミツル
真城があんな目に遭ったばかりだというのに。
真城朔
沈黙の中、ちらちらとミツルの顔を窺い始める。
夜高ミツル
自分が守れなかったから。すぐに助けに行けなかったから。
夜高ミツル
真城の背中に腕を回したまま、微かに俯いている。
真城朔
縋るように求めるように、回された腕が、指がミツルの背骨を撫でる。
夜高ミツル
不意に背を撫でられて、身体がこわばる。
真城朔
その心臓に真城の身体が、熱が押し付けられている。
真城朔
真城の匂いが、換気扇の回されていない浴室に立ち込めている。
夜高ミツル
力を込めて、距離を取るように真城の身体を押し返す。
夜高ミツル
何度か言葉を探すように口をパクパクと開閉させて。
夜高ミツル
寄り添っていた熱が離れるのが、たまらなく惜しく感じる。
真城朔
引き裂かれた胸から溢れさせた血に濡れた細い身体が、
夜高ミツル
その身体を抱き寄せたくなるのを、無理矢理に抑え込む。
夜高ミツル
使っていいから、と言いながらいつまでも浴室に突っ立っている。
夜高ミツル
そのことにやっと気づいたように、のろのろと動き出す。
夜高ミツル
脱衣所に置いていた黒いゴミ袋を取り出して、隅にまとめておいた血まみれの衣服たちを放り込んでいく。
真城朔
緩慢な動作で作業をするミツルの様子を眺めている。
夜高ミツル
玄関、ブルーシートの上に置きっぱなしの武装たち。
夜高ミツル
その中からナイフを一本取り上げて、浴室に戻る。
真城朔
じゃまにならないように……ならないように……ならないのか? これで……
夜高ミツル
胸元は大きく裂けて、周辺の布地が血で固まっている。
夜高ミツル
その裂け目の端に、慎重にナイフを当てる。
真城朔
血を飲んだのが直接の理由ではないだろうが、出血は止まっているようだった。
夜高ミツル
間違っても肌を傷つけることのないように注意を払い、
真城朔
身体を強張らせているのは緊張というより、気兼ねなくやって大丈夫、というサイン。のつもり。
真城朔
固まった血の破片が繊維とともにぽろぽろと床に落ちていく。
真城朔
固まった血によって肌と衣服が張り付いてしまっている趣が強い。
夜高ミツル
服をナイフで裂くことの絵面の何かしらには気が付かなかったことにする。したい。
真城朔
あまり気にする様子なくミツルに全てを委ねている。
夜高ミツル
ていうかこの期に及んでそういうことを考えてしまうのが嫌だな……。
夜高ミツル
これむしろ襟からナイフを入れたほうがいいのか?
夜高ミツル
俺がもっと手際よくやれたらいいんだけどな……。
夜高ミツル
やや落ち込みつつ、シャツに手をかけてナイフを当てる。
夜高ミツル
襟首から刃を入れて、裂け目に向けて慎重に手を下ろしていく。
夜高ミツル
膨らみを避けながら、ナイフを進めていく。
夜高ミツル
固まった布をナイフが切り裂く音が静かな浴室に微かに響く。
真城朔
ふくらみを、傷を避けようと意識すればするほどに、刻まれた傷の痛々しさが再確認される。
夜高ミツル
出血こそ止まっているものの、その痛々しさは変わりない。
真城朔
トップスをまるごとひとまとめに、前開きの服のように脱いでいく。
夜高ミツル
服の下の見慣れたはずの身体が、いつもと違うシルエットを描いている。
真城朔
膨らんだ乳房のさまだとか、普段よりも細くなったウエストだとか。
真城朔
服を浸して肌全体を汚す血の痕だとか、そういう。
真城朔
ミツルの持ってきたゴミ袋にトップスをまとめて放り込む。
夜高ミツル
それらの全部が自分の無力の証のように思えた。
真城朔
こちらも血で汚れているが、上半身ほどではない。
夜高ミツル
ややぼんやりしていたが、のろのろと服を詰めるのを再開する。
真城朔
逆にこちらは普段よりも丸みを帯びた脚の線に、
夜高ミツル
あの場では暗かったのと、厚着に隠れて見えなかった陵辱の痕。
真城朔
すっかり裸になってしまって、ゴミ袋にゴミを詰め込んでいる。
真城朔
血の赤を拭って伝い落ちた薄汚れた白濁の線。
夜高ミツル
視線が言葉を探すように宙をさまよって。
夜高ミツル
真城にフォローの言葉を言わせてしまうのも分かりながら、
夜高ミツル
どうしても思わずに、言わずにいられなかった。
夜高ミツル
それだけ言い残して、ナイフをとって浴室を出ていく。
真城朔
しばらく扉の向こうで呆然と立ち尽くしていたが、
夜高ミツル
脱衣所の真ん中、力なく座り込んでしまう。
夜高ミツル
よりにもよって服を脱ぎ終わった所で切り出さなくても……。
真城朔
弾ける水音、磨りガラス越しに映るぼやけた裸身。
夜高ミツル
自分のことながら、もうちょっとうまくできなかったか?とうつむく。
真城朔
身体を温めるとかシャワーを楽しむとかよりも手早く身体を清めている。
夜高ミツル
真城が出てくるまでこうしているわけにもいかないので……
夜高ミツル
扉の脇にバスタオルと着替えを用意する。
真城朔
シャワーのお湯を出しっぱなしでやや贅沢にやっている。
真城朔
のが、磨りガラス越しのシルエットでもわかる。
夜高ミツル
……ナイフとゴミ袋を手に脱衣所を出る。
夜高ミツル
ちゃんと片付けるのは一度寝てからでいいだろう。
夜高ミツル
ゴミ袋は口を縛って、更に上からもう一枚黒いゴミ袋をかける。
夜高ミツル
二重にしたゴミ袋の口を閉じた所で、真城が浴室を出たのが分かる。
真城朔
用意されたルームウェアを着込んでバスタオルを被った真城が出てくる。
真城朔
今までよりも薄着なのでやはり体型の変化が改めてわかりやすく。
真城朔
細々とした武装を整理する硬い音が聞こえてくる。
夜高ミツル
真城とは対象的に、ミツルの方は上着が汚れたこと以外は概ね無事なので
夜高ミツル
全部放り込むと洗濯と乾燥をセットして浴室へ。
夜高ミツル
使用済みの浴室にはまだぬくもりと湯気が立ち込めている。
夜高ミツル
一度外に出たせいか、改めてはっきりとそれを感じ取ってしまう。
夜高ミツル
余計な考え毎洗い流してしまおうとばかりに、頭から湯を被る。
夜高ミツル
先程の、水音に混ざって微かに聞こえた吐息だとか、
夜高ミツル
それから、初めて真城を風呂に入れた時のことであるとか……。
夜高ミツル
掻きむしるように、ざばざばと頭を洗う。
夜高ミツル
そんなことを考えている場合じゃないのに……。
夜高ミツル
自身の欲が浮かんでくるのが、たまらなく嫌だった。
夜高ミツル
適当に汚れを落として、シャワーを止める。
夜高ミツル
濡れた身体をバスタオルで拭き、ルームウェアを纏って風呂場を出る。
真城朔
かちゃかちゃと金属音が廊下の方から響いている。
真城朔
真城は廊下のブルーシートの上に座り込み、血に汚れた武装を清めては整理していた。
夜高ミツル
思ったよりがっつり片付けしていた……。
真城朔
日常に隣接したルームウェア姿。バスタオルを被っている。
夜高ミツル
「……ありがとう、あとは明日俺がやるよ」
真城朔
いっぱい血まみれになったのでいっぱい汚れた。
真城朔
銀杭には直接触れられないので、タオル越しになんとかしている。
夜高ミツル
ぱたぱたとスリッパを鳴らして真城の隣へ。
夜高ミツル
言って、真城が持つ銀の杭を取り上げる。
真城朔
しょぼしょぼとナイフに手をつけていきます。
真城朔
でも杭よりナイフの方がよっぽど少ないんだ……
夜高ミツル
お湯につけて、血を濯いで落としていく。
夜高ミツル
「今日、タクシー乗るのに刀置いてきて」
夜高ミツル
「もっとナイフも使えた方がいいと思って」
真城朔
手に持ったミツルのナイフに指を這わせながら。
夜高ミツル
一本目の杭を脇に置いて、二本目をタライに沈めている。
夜高ミツル
真城と同じくらいに、はどうやっても望めないが。
夜高ミツル
同じようにはなれなくても、せめて足を引っ張らずに済むように。
夜高ミツル
きれいになった杭が、玄関の端に立てかけられて並んでいく。
真城朔
手持ち無沙汰になった真城も杭をちょこちょこやり……
真城朔
ブルーシートをお湯で絞ったタオルで拭いて拭いて……
真城朔
片付けを終えて、おろおろとミツルを見ています。
夜高ミツル
ぺたぺたと、冷えていないか確かめるように触れる。
夜高ミツル
「ちゃんと、真城を守れるようになりたい……」
夜高ミツル
背中に回した腕に、ますます力がこもる。
真城朔
膨らんだ胸の柔らかさが分かるくらいに身を重ねて、
夜高ミツル
廊下で作業して幾分冷えた身体に、真城の熱が伝わる。
夜高ミツル
「……俺は、真城が傷つかないのは一番大事だよ」
夜高ミツル
変わらない仕草を受け止めて、背中を撫でる。
真城朔
そっと伸びた手が、ミツルの胸元に添えられる。
夜高ミツル
そんな風に泣かれてしまうとどうにも弱くて……
夜高ミツル
でも、傷を負った真城にこれ以上負担をかけたくないのも本心だった。
夜高ミツル
先程の反応を思うと背中も撫でられず、ただ腕を回して抱きしめている。
真城朔
幼子のように涙を流し、肌ばかりは異様に熱を上げている。
真城朔
それでもその下には確かに傷が刻まれている。
夜高ミツル
「痛くなくても、動いたら痛むかもだし」
真城朔
しゃくりあげては熱の籠もった吐息を漏らして、頬を濡らす涙を拭う。
真城朔
ミツルの声が聞こえているのかいないのか、声を上げて泣いている。
真城朔
瞼を上げてミツルを見返すと、何度かまばたきを繰り返す。
夜高ミツル
ピンと来てなさそうだから違うかな……。
真城朔
しばらくミツルの胸元でもぞもぞと指を動かしていたが。
真城朔
ぐり、と額を擦り寄せるように顔を隠しながら、
夜高ミツル
聞き逃さないように、口を挟まず耳を傾ける。
夜高ミツル
胸元に押し付けられた真城の頭の、つむじの辺りが見えている。
真城朔
きゅ、と握り寄せる指先に不要な力が籠もる。
夜高ミツル
頷く。真城からは見えない角度だろうが。
真城朔
顔を埋めたまま、ぐすぐすと鼻を鳴らし始める。
真城朔
ミツルの胸元が真城の涙やらなにやらでぐしゃぐしゃになっている。
夜高ミツル
ルームウェアが濡れているのが肌に伝わる。
夜高ミツル
「……多分、これは俺のわがままなんだけど」
真城朔
ミツルの胸元で意味もなく首を振ったり額を押し付けたりしている。
夜高ミツル
「俺が行けなくて真城がそうなってるのに」
夜高ミツル
「せっかくだから……みたいにするのは、俺は」
夜高ミツル
それを目で追って、絡められた指に絡めてかえし。
夜高ミツル
「そういう風に言われると、尚更思うし……」
夜高ミツル
「真城は怪我してるのに、そういう風に」
夜高ミツル
「風呂場でも、そんなこと考えるのはよくないって思うのに」
真城朔
涙に濡れたぐしゃぐしゃの顔でミツルの表情を窺う。
真城朔
皮膚と皮膚の擦れ合う感触を確かめるように指を滑らせる。
夜高ミツル
「……正しいとか正しくないとかじゃなくて」
真城朔
物分りのよい風に語る半ばで言葉を詰まらせる。
夜高ミツル
いつもより柔らかい肉の感触が脚に伝わる。
真城朔
アキレス腱でミツルのふくらはぎをなぞるように脚が動く。
真城朔
自らミツルに身体をすり寄せることがもうできない。
夜高ミツル
揃いのルームウェアごしに、肌を重ねる。
真城朔
涙に身を震わせながら嗚咽を押し殺そうとして、
夜高ミツル
それ以上をできない分せめて、と寄り添う。
夜高ミツル
自分がもっとしっかりしていれば、真城はそんな思いをせずに済んでいたかもしれなくて、
夜高ミツル
ミツルの無力の結果として、真城がこうして傷ついて泣いている。
真城朔
顔を覆ったまま、かたかたと小さく震えている。
夜高ミツル
傷に障ると思い直して、自分の方から更に身体を寄せる。
夜高ミツル
「真城の気持ちをちゃんとは理解してやれないけど」
夜高ミツル
「身体が自分の思う通りにならないのは」
夜高ミツル
「真城がこんな風に泣かなくていいように」
夜高ミツル
実際のところ、そうできる根拠はなくて。
夜高ミツル
今回のように物理的に吸血鬼に引き離されてしまえば、どうやっても時間がかかる。
夜高ミツル
それでも、真城と自分にそうすると誓う。
夜高ミツル
「何かできることがもっとないか、とか」
夜高ミツル
そうしてぐるぐると考え込んでいるところに
夜高ミツル
布団の下から聞こえる濡れた音に、思考が止まる。
真城朔
独りでに喉を逸らして、びくりと身体を波打たせる。
夜高ミツル
とりあえず処理できることからと、身体を起こす。
真城朔
シーツに頭を投げ出して、ぐったりと身体を弛緩させている。
夜高ミツル
ベッドを抜け出て、スリッパも履かずぺたぺたと浴室に。
夜高ミツル
適当にバスタオルをひっつかんで戻ってくる。
夜高ミツル
なんだかよく分からなくなってきている。
夜高ミツル
「と、りあえずタオル持ってきたけど……」
真城朔
ミツルが離れた時とそっくりそのまま同じ姿勢でいる。
真城朔
どろりとぬめった粘性の液体がその手をべたべたに汚して、
夜高ミツル
ためらいがちに真城の手を取って、タオルで手を濡らす液体を拭う。
夜高ミツル
こうするために持ってきたんじゃない気がする。よく分からなくなっている(二度目)
夜高ミツル
手元にタオルがあって真城の手が濡れていたので拭いた。
夜高ミツル
ようやく、触るための準備としてタオルが必要とされていたことを理解した。
夜高ミツル
測らずも自分で自分の退路を断ってしまった……。
真城朔
その隣で膝立ちになって、室内着のズボンに手をやる。
夜高ミツル
最初のホテルでの一連の様々な出来事を思い出している。
真城朔
日に焼けていない白い脚と、今は女のかたちをしたそこが露わになる。
真城朔
半透明の液体が筋を作って伝い落ちていく様子もまた。
真城朔
それがシーツを汚す前にバスタオルに腰を下ろした。
真城朔
迷うミツルに、こちらも迷いがちに声をかける。
夜高ミツル
敷かれたバスタオルの上に座り込む真城の肢体。
真城朔
ミツルの手指を導くように撫ぜてから、自分の手を引く。
真城朔
濡れた熱い肉がひくひくと震えて汁を滴らせている。
夜高ミツル
なおも惑うように、濡れた箇所の入り口に触れて、
夜高ミツル
それだけでもくちくちと濡れた音が立って、
真城朔
触れられる都度さらに蜜を滴らせてミツルの手を濡らす。
真城朔
指は落ち着かない様子でバスタオルを握りしめては放している。
夜高ミツル
柔らかな粘膜と液体が、ミツルの指を包む。
真城朔
熱い肉のぬかるみがミツルの指を包み込んで、
真城朔
しとどに滴る粘性の強い液体と、そうでない汁の両方が脚の間から落ちて
夜高ミツル
触れているだけで、身体の芯に火がついていくのがわかる。
夜高ミツル
熱の上がる度に、触れるだけ、ふれるだけ、と呪文のように頭の中で繰り返す。
夜高ミツル
知らないそこを探るように、指を動かす。
夜高ミツル
一際に声の上がった箇所を確かめるように擦る。
真城朔
とろりと濃い愛液がミツルの手をバスタオルを汚す。
夜高ミツル
初めてのホテルで風呂に入れたときにも触れなかった箇所で。
夜高ミツル
真城の身体の、ずっと知らなかった場所。
夜高ミツル
自分にも真城にも言い聞かせるようにそう言って、
真城朔
背を丸めて耐えていたのがそれでは堪えられなくなって、
夜高ミツル
引き抜いた指先が液体を纏って糸を引く。
真城朔
敷いたバスタオルは粗相の後のように色を換えている。
夜高ミツル
「いや、シャワーした方がいいか……?」
夜高ミツル
真城に半端な状態で我慢させることを、もっと考えるべきだった。
夜高ミツル
さわるだけ、これ以上のラインは越えられない。
真城朔
先程までミツルの指を受け入れていた場所が抑えきれずひくついている。
夜高ミツル
膝を抱え込む真城を、包むように抱きしめる。
真城朔
それを受け入れられたものと舌が唇の間に入り込む。
夜高ミツル
熱の上がった身体の、口腔内はなお暖かい。
真城朔
温度の高い濡れた肉の塊が戯れのようにつつき会った末、
真城朔
熱い口内から唾液が溢れてミツルの舌を浸す。
夜高ミツル
舌と舌を擦り合わせ、唾液を交わしあう。
真城朔
身体を重ねる代わりとばかりに熱心に貪って、
真城朔
いつしか真城の腕がミツルの背中に回っていた。
夜高ミツル
互いの身体に腕を回して、身を寄せ合う。
夜高ミツル
暖房が効いているとはいえ暑く感じるほどに、互いに熱を上げて触れ合う。
真城朔
いつもより柔らかく形を変える肉を、ミツルの身体に預けている。
夜高ミツル
もっと、を求める気持ちは当然ミツルの中にもあるけれど。
夜高ミツル
それが十二分に幸せで、確かに満たされるものがあった。