2021/01/31 早朝

真城朔
布団の中。
真城朔
ミツルの腕の中。
真城朔
ゆっくりと身じろぎをして、
真城朔
暖かい胸に頬を擦り寄せてから、
真城朔
ぼんやりと瞼を上げる。
夜高ミツル
擦り寄せる動きにつられて、ミツルも身じろいで
夜高ミツル
瞼を持ち上げて
夜高ミツル
「……おはよ」
夜高ミツル
腕の中の真城を見て微笑む。
真城朔
「…………」
真城朔
「おは」
真城朔
「よ」
真城朔
半ば微睡の中にあるような声。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
昨日の昼頃に眠りについてからずっと眠り続けていた。
夜高ミツル
まだぼんやりしている真城の背中を撫でる。
真城朔
夜頃には身体は元に戻ってはいたようだったが。
真城朔
ミツルに背を撫でられて表情を緩めた。
夜高ミツル
「傷は大丈夫か?」
真城朔
うっとりしたように小さく息を吐く。
真城朔
「傷」
真城朔
ミツルに問われてしぱと瞬き。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「昨日の……」
真城朔
自分の胸元を見下ろす。
真城朔
「……大丈夫」
真城朔
やや覇気のない声で答えてからこくこくと頷いた。
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「痛くない?」
真城朔
「…………」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「寝た」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「ちょっと見せてみ」
真城朔
「あ」
夜高ミツル
言って、ルームウェアに手をかける。
真城朔
思わず身を引いた。
真城朔
引いたので、ルームウェアの胸元が開いて
真城朔
その下の傷があらわになる。
真城朔
傷自体は、今はふさがっているようだった。
真城朔
跡形もなくとはまだ至っていないが。
夜高ミツル
あらわになった胸元をじっと見る。
真城朔
かさぶたに似た引き攣れた皮膚の痕跡。
真城朔
それと何より、
夜高ミツル
ひとまず傷が塞がっている様子なのに安堵する。
真城朔
ルームウェアの側に、
真城朔
滲んだ血の染み込んだ痕がある。
夜高ミツル
が、目ざとくそれに気づいて眉根を寄せ
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……傷開いてたのか」
夜高ミツル
「ごめんな……」
真城朔
「え」
真城朔
「あ」
真城朔
おろ……
真城朔
「み、ミツが」
真城朔
「あやまる」
真城朔
「こと、じゃ」
真城朔
ない、と首を振る。
夜高ミツル
やや気落ちした様子でルームウェアを戻す。
夜高ミツル
「……いや」
真城朔
真城もしょんぼりしている
夜高ミツル
「俺がしたかったからしたことだし」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……俺が触りたかった」
夜高ミツル
「だから俺のせい」
真城朔
「俺が」
真城朔
「無理言って……」
真城朔
「ミツは嫌がったのに……」
夜高ミツル
首を振って、真城の背中に腕を回す。
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
自分から真城の方に身を寄せて
夜高ミツル
ぴったりと寄り添う。
真城朔
ためらいがちに真城からも身を寄せながら、
真城朔
ミツルの表情を窺う。
夜高ミツル
「結局そうしたくて、そうしたのは俺だから……」
夜高ミツル
「……」
真城朔
「う」
真城朔
「うう……」
真城朔
しょんぼり……
夜高ミツル
「今日は、ゆっくりしてよう」
夜高ミツル
「まだ治りきってないし」
真城朔
きょと、とミツルを見上げる。
真城朔
「…………」
真城朔
「ゆっくり」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「……今日は休もう」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷いた。
真城朔
「狩り」
真城朔
「終わったばっかだし」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ゆっくり……」
真城朔
噛みしめるように繰り返して。
夜高ミツル
「飯も作り置きあるしな」
真城朔
「ん」
真城朔
頷く
真城朔
「映画とか……」
真城朔
「見る?」
夜高ミツル
「そうだなー」
夜高ミツル
「あとでなんか探してみるか」
真城朔
「ん」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
身を寄せ合って、ゆっくりと真城の背中を撫でている。
真城朔
ぼんやりと顔を上げて
真城朔
時計を確認して
真城朔
「……朝」
真城朔
いまさら……
夜高ミツル
「朝だな」
夜高ミツル
「飯食う?」
夜高ミツル
「ちょっと早いけど」
真城朔
「おなか」
真城朔
「すいた?」
真城朔
聞き返してきた
夜高ミツル
「そこそこ?」
夜高ミツル
「……真城がよければ」
夜高ミツル
「俺はもうちょっとこうしてたい」
真城朔
「じゃあ」
真城朔
「……こうしてる」
真城朔
こう、と
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
改めて布団に潜り込み、ミツルの身体に頬を寄せる。
真城朔
「……いっぱい」
真城朔
「いっぱい寝てた」
夜高ミツル
「よく寝てたな」
真城朔
「ミツも?」
夜高ミツル
真城の頭に口づけるように顔を寄せる。
夜高ミツル
「俺は夜にちょっと起きた」
真城朔
くすぐったそうに目を細めた。
真城朔
「起きてた」
夜高ミツル
「起きて飯食ったりとかして」
真城朔
「して」
夜高ミツル
「して……」
夜高ミツル
「あ、洗濯物片しといたから今日はしなくて大丈夫」
真城朔
「ん」
真城朔
「……ありがとう」
夜高ミツル
「起きたついでだから」
真城朔
「でも」
真城朔
「してもらった」
真城朔
「…………」
真城朔
「俺」
真城朔
「寝てた、のに」
夜高ミツル
「?」
真城朔
「一人で」
真城朔
「寝こけて……」
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「怪我してただろ」
真城朔
「してた、けど」
真城朔
「動ける……」
夜高ミツル
「……動けるからって、無理させたくないよ」
夜高ミツル
「狩りの間ならともかく」
夜高ミツル
「それでも嫌だけど」
真城朔
「…………」
真城朔
「怪我……」
真城朔
しょんぼりと視線を落とす。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺が怪我してる時は真城が色々してくれるだろ?」
真城朔
「する」
夜高ミツル
「今回は俺が平気だったから」
真城朔
落ちた視線をすっと上げる。
夜高ミツル
「だから俺がした」
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
「それでいいだろ」
夜高ミツル
「気にしなくていいって」
真城朔
「…………ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
頷いていたけれど
真城朔
やはり覇気のない雰囲気で
真城朔
「……怪我」
真城朔
「…………」
真城朔
「ごめん……」
真城朔
ぽつぽつ……
真城朔
ぽつぽつ言います。
夜高ミツル
「……え?」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「嫌がる、のに」
真城朔
「…………」
真城朔
「知ってるのに……」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「嫌、は、嫌だけど……」
夜高ミツル
こちらもぼそぼそと。
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「……でも、庇って、なんだろ」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「……真城が庇って怪我するのは嫌だし」
真城朔
「……うん……」
夜高ミツル
「それでああやって連れ込まれてっていうのも本当に嫌だけど……」
真城朔
「……………」
真城朔
無言で頷き……
夜高ミツル
「……でも」
夜高ミツル
「真城が誰かを助けたいって思って、そうするのは」
真城朔
「でも」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「それ自体は嫌ってわけじゃなくて」
真城朔
「…………」
真城朔
「なくて?」
夜高ミツル
「んん……」
夜高ミツル
考え込んでいる。
真城朔
待っています。
真城朔
じっ……
夜高ミツル
「……真城が誰かを助けたいって思って」
夜高ミツル
「それで実際に自分を盾にして庇って」
真城朔
「うん」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「それって誰にでもできることじゃないから」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺は真城のそういうところすごいと思ってる」
真城朔
「……別に」
真城朔
「すごいんじゃなくて」
真城朔
「俺は、ただ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……ただ?」
真城朔
もぞもぞと
真城朔
ミツルの胸に顔を押しつける。
真城朔
「……だれかが」
真城朔
「死ぬの」
真城朔
「見たくない……」
夜高ミツル
押しつけられた頭を柔らかく撫でる。
真城朔
撫でられている。
夜高ミツル
「……俺はやっぱりすごいと思うよ」
真城朔
「頑丈、なのも」
真城朔
「半吸血鬼で」
真城朔
「……それ、だけじゃ」
真城朔
「ないけど」
真城朔
「…………」
真城朔
「ないから……」
真城朔
「だから」
真城朔
「俺は」
真城朔
「ああしなきゃ」
夜高ミツル
「……でも痛いだろ」
真城朔
「でも」
真城朔
「そうそうは、死なない……」
夜高ミツル
「……真城が痛いのは嫌だよ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……どっちも本当なんだ」
夜高ミツル
「すごいって思うのも」
夜高ミツル
「真城が傷つくのが嫌なのも」
真城朔
「ごめん……」
夜高ミツル
「……謝るなよ」
夜高ミツル
「謝らなくていい」
真城朔
「う」
真城朔
「…………」
真城朔
ぐず、と鼻が鳴る。
夜高ミツル
本当は、そもそも狩りなんて出る必要がなければ
夜高ミツル
真城が危険に身を晒す必要がなくなれば、それが
夜高ミツル
それが一番いいんだけど。
真城朔
それができないのもまた真城のわがままに他ならない。
真城朔
狩りをやめることのできない真城の。
夜高ミツル
でも、真城に生きてもらうこと自体がミツルのわがままだから。
夜高ミツル
狩りも、人を助けることも
夜高ミツル
真城が生きていくために必要なら。
真城朔
ミツルの胸に顔を押し付け、
真城朔
身を寄せた背中が小さく震えている。
夜高ミツル
震える背中に掌を添わせる。
真城朔
かすかに乱れた呼吸。
真城朔
声は圧し殺して。
夜高ミツル
落ち着かせるように背中を撫でる。
真城朔
そうされてもすぐには落ち着くことができないで、
真城朔
涙に喉が不格好に鳴る。
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
ゆっくりと掌を動かして、身体を寄せ合って。
真城朔
ミツルより低い肌の温度。
夜高ミツル
「……怪我」
夜高ミツル
「治りそうで、よかった」
真城朔
「なおる」
真城朔
「なおる……」
真城朔
涙声。
真城朔
「けが、は」
真城朔
「なおるから」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「俺は」
真城朔
「ぜんぜん……」
夜高ミツル
「……でも」
夜高ミツル
「やっぱり心配はするよ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城はそれを申し訳ないって思うかもだけど……」
真城朔
「……う」
真城朔
「うう」
真城朔
困ったときの声。
夜高ミツル
ううになってるなあ……
真城朔
困るとううになる……
夜高ミツル
「……真城に何も痛いことや怖いことがないのが、俺はやっぱり嬉しい」
真城朔
「で」
真城朔
「でも」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……でも?」
真城朔
「…………」
真城朔
「……色んな、ひと」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「いたくて、こわい」
真城朔
「に」
真城朔
「してきた」
真城朔
「から……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「でも、俺は」
夜高ミツル
「真城に罰を受けさせたいわけじゃないから」
真城朔
「罰、じゃ」
真城朔
「なくても……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……なくても、俺は嫌だ」
真城朔
「……帳尻が」
真城朔
「合わない」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「……帳尻って言うなら、真城だってひどいことされてきた」
真城朔
「…………」
真城朔
「そんな」
真城朔
「されてない」
夜高ミツル
「されてるだろ……」
真城朔
「べつに……」
真城朔
首を振る
真城朔
「大したことは」
真城朔
「なにも……」
夜高ミツル
「とにかく俺は罰でも帳尻合わせでも、真城がそういう目に遭うのは嫌だ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……嫌だけど」
夜高ミツル
「真城が、人が死ぬのを見過ごす方が」
夜高ミツル
「自分が怪我するより嫌なら」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「見過ごす方が苦しいなら」
真城朔
「うん……」
夜高ミツル
「俺はそれを無理にやめさせたりはしない……」
夜高ミツル
「……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……真城が」
夜高ミツル
「苦しまないで生きられるなら、それが」
夜高ミツル
「それが一番いいから」
真城朔
「……ごめん……」
夜高ミツル
「……謝らなくて、いい」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
背中に回す腕に力を込めて、抱き寄せる。
真城朔
反射的にそれにも謝りかけた気配がある。
真城朔
抱き寄せられる。
真城朔
俯いて、
真城朔
ミツルの胸に顔というよりかは頭を埋めるようにして、
真城朔
首を左右に……
真城朔
ぐりぐり……
夜高ミツル
ぐりぐりされてる。
真城朔
無言でぐりぐりしてます。
真城朔
しばらくぐりぐりしたところで落ち着いた様子で
真城朔
改めて顔を押しつけ……
真城朔
「……気をつける」
真城朔
「気をつけては、いる、から」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「ちゃんと……」
真城朔
「怪我、なるべく」
真城朔
「しないようには」
夜高ミツル
「俺ももっと気をつける」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「真城が無理しないでいいように」
夜高ミツル
「……頑張るよ、もっと」
真城朔
「……がんばる」
真城朔
「がんばる……」
真城朔
三度がんばる、と繰り返してから
真城朔
ゆっくりと顔を上げて
真城朔
「…………」
真城朔
「……ごはん……」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
涙の滲む目でミツルを見る。
夜高ミツル
目尻の涙を指先で拭って
真城朔
拭われ……
夜高ミツル
顔を寄せる。
夜高ミツル
ほんの一瞬、触れるだけの口づけ。
真城朔
「ん」
夜高ミツル
触れて、すぐに離れて
真城朔
受け入れる。
真城朔
離れる唇をじっと見ている。
真城朔
じ……
夜高ミツル
見られてる……
夜高ミツル
頭を撫で、
夜高ミツル
「……飯、食おう」
真城朔
「……うん」
真城朔
「たべる……」
真城朔
ほんのちょっとしょんぼりの気配を漂わせながら頷きます。
夜高ミツル
早めの朝食をとって、片付けも終えて
真城朔
あまり手伝えなかったので落ち着かなかった……
夜高ミツル
二人でソファの上で寄り添い合う。
真城朔
あまり手伝えなかった……という気持ちで寄り添っています。
夜高ミツル
準備も片付けも今日はとにかく休んでろで押し切った。
真城朔
押し切られました。
真城朔
しょんぼり
夜高ミツル
「……だから、気にしなくていいって」
夜高ミツル
しょんぼりになっているのを察して、頭を撫でる。
真城朔
撫でられます。
真城朔
ゆっくりと体重を隣に座るミツルに預けていき。
真城朔
「……でも」
真城朔
「大した怪我じゃ……」
真城朔
ないし……とか
真城朔
もごもご
夜高ミツル
「大したことある」
夜高ミツル
「いいから今日は俺に任せとけよ」
真城朔
「まかせる……」
夜高ミツル
俺のせいで傷を開かせたしな……という気持ちも結構ある。
真城朔
復唱
夜高ミツル
これを言い始めると俺のせいバトルになるので口には出さない。
真城朔
バトルになるねえ。
真城朔
ミツは嫌がってて……
真城朔
俺が無理矢理……
夜高ミツル
俺がそうしたくて……
夜高ミツル
ループ
真城朔
際限なきバトル
夜高ミツル
なるので……言わない!
真城朔
正しい判断
真城朔
ミツルにびったりくっついている。
真城朔
びったりくっついて 黙り込んで……
真城朔
結構こういうときは珍しくはない。
夜高ミツル
「まあ、任せろつっても飯の準備くらいだけど、今日は」
真城朔
「……ん」
真城朔
「ゆっくりする……」
夜高ミツル
狩りの後であれこれしなくていいように、結構事前にできる家事は済ませてあったりする。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
身を寄せ合って、手はやはりゆるゆると頭を撫でている。
真城朔
入院沙汰になっても帰ったら荒れてるのいやだからね……
真城朔
作り置きも全体的に冷凍で……
真城朔
頭を撫でられると気持ちよさそうに目を細める。
夜高ミツル
すぐにダメになるようなものは置いておかず
真城朔
牛乳も飲み干し……
夜高ミツル
だから今日一日何もしなくたって問題ない。
真城朔
問題のない日。
真城朔
問題のない日にゆったりと寄り添っている。
夜高ミツル
いつもなら午前中は家事や買い物を済ませたりするけど、
夜高ミツル
今はただこうしてくっついている。
夜高ミツル
掌で頭を撫で、指先で髪を梳く。
夜高ミツル
いつもの仕草。
真城朔
ひときわゆっくりの日をやっている。
真城朔
髪を撫でられるのは好き。
真城朔
癖のないストレートヘアを遊ばれている。
真城朔
ミツルに頭を擦り寄せる。
夜高ミツル
癖のない髪は引っかかりもなく指を通す。
真城朔
風呂上がりには毎日のように乾かしてもらっている髪。
真城朔
毎日のようにというか……
真城朔
ほぼ毎日というか……
夜高ミツル
ほぼ毎日ですね……
夜高ミツル
擦り寄せられて、目を細める。
真城朔
特別な理由のない限りやってもらっている……
夜高ミツル
甘えられるのは好きだ。
真城朔
甘えるのが好き。
夜高ミツル
一致してるなあ
真城朔
自制心とか罪悪感でめいっぱいブレーキをかけてはいるが、
真城朔
逆に言えばかけてこれ。
夜高ミツル
まだ遠慮が見えるので、もっと甘えてくれていいのになと思う。
夜高ミツル
思うし、ちょいちょい言ってもいる。
真城朔
十分甘えてて……
真城朔
このように……
真城朔
このように撫でられている。
真城朔
うれしい。
真城朔
ちょっとうとうとしてきた。
夜高ミツル
撫でている。
真城朔
撫でられています。
夜高ミツル
「……眠い?」
夜高ミツル
「ベッド行くか?」
真城朔
「ん」
真城朔
「んー…………」
夜高ミツル
首をかしげて、顔をのぞきこむ。
真城朔
悩んでいる。
真城朔
悩んでいるのを覗き込まれる。
真城朔
目が合って。
真城朔
首を横に振る。
真城朔
「……まだ……」
真城朔
「寝たくない」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「いっぱい、寝ちゃった」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「そっか」
夜高ミツル
頷いて、また頭を撫で
真城朔
撫でられ……
真城朔
「もったいない……」
夜高ミツル
「まだ朝だもんな」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「風呂でも入るか?」
夜高ミツル
「昨日帰った時シャワーしただけだし」
真城朔
「…………」
真城朔
うーん……
真城朔
じ……と自分の胸元を見下ろし……
真城朔
そういえばルームウェアも着替えてそうですね。
夜高ミツル
そうだね。
真城朔
着替えたばかりだが……
真城朔
「…………」
真城朔
「……ひ」
真城朔
ぼそ……
夜高ミツル
「ひ?」
真城朔
「ひとり」
真城朔
「で…………」
真城朔
なんか……
真城朔
自信が……
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「…………」
真城朔
なぜか後ろめたそう。
夜高ミツル
一緒に……と言おうかと思ったが、
夜高ミツル
結構、まあ……
夜高ミツル
どうなってしまうか……
夜高ミツル
想像はつくので……
真城朔
ミツルの顔を見ている。
真城朔
後ろめたそうなのだが……
真城朔
一方でなんというか……
真城朔
どこかしら期待しているような……
真城朔
いや……
真城朔
うしろめたく……
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
沈黙の末に頷きました。
真城朔
「……う」
真城朔
「うん……」
真城朔
なんでかちょっとしょんぼりと……
真城朔
立ち上がります。
夜高ミツル
「風呂、溜めてくる……」
真城朔
「あ」
真城朔
「と」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
立ち上がる。
真城朔
そうだ……
真城朔
あたまがいっぱいになっている。
真城朔
立ち上がるミツルを見……
夜高ミツル
怪我が治るまでしないって言ったのは俺だし……
夜高ミツル
俺だから……
夜高ミツル
一緒に風呂入ったらどうなるか分かるから……
真城朔
自制心 自制心 自制心
夜高ミツル
別に入るのは正しい。
夜高ミツル
とても正しい。
真城朔
おろろ……
真城朔
ついていくかどうか迷って
真城朔
結局ソファに座った。
真城朔
おろ……
夜高ミツル
浴槽の掃除はしてあるので、栓をしてお湯のスイッチを押すだけ。
真城朔
らくらく
夜高ミツル
だけなので、すぐに戻ってくる。
真城朔
やや落胆気味にソファに座っている。
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
再び真城の隣に腰を下ろす。
真城朔
戻ってきた体温
夜高ミツル
ぴと……
真城朔
ぎゅ……
真城朔
「……こう」
夜高ミツル
「え?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「こう、してるだけで」
真城朔
「幸せ……」
夜高ミツル
話しかけられて、ちょっとそわついて。
真城朔
「じゅうぶん」
真城朔
「いっぱい」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「しあわせ」
真城朔
「だから」
夜高ミツル
「俺も」
真城朔
ミツルを見る。
夜高ミツル
「俺も真城が隣にいてくれたら、それで」
夜高ミツル
「それが幸せだ」
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
「こうしてくれてるだけで……」
真城朔
身体を擦り寄せる。
真城朔
もとから密着している体温と体温をそれよりもなお。
夜高ミツル
ミツルも真城に尚更に身体を寄せる。
真城朔
ぴとと……
夜高ミツル
こうしてるだけで十分幸せで、それは本当に本心で……
夜高ミツル
本当なんですが…………
真城朔
本当なのになあ。
夜高ミツル
それはそれとして、の気持ちがあるのは否定できない。
真城朔
欲がある。
真城朔
人間には。
真城朔
どうしても。
夜高ミツル
ある。
夜高ミツル
もっと触れたい。
夜高ミツル
ルームウェア越しではない、直の体温を感じたい。
真城朔
肌を重ねてその柔らかさを感じて、
真城朔
隅々まで触れて触れられて、
真城朔
そして。
夜高ミツル
身体をつなげて。
夜高ミツル
そうしたい。
夜高ミツル
でも、今はまだ……
真城朔
煩悩の最中に、
真城朔
風呂の沸いた通知音が響く。
真城朔
軽快な電子メロディ。
夜高ミツル
もやもやを中断される。
真城朔
顔を上げる。
真城朔
上げたあと、
真城朔
なぜだかミツルに視線を向け。
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「……風呂」
夜高ミツル
「たまったな」
真城朔
「…………ん」
真城朔
頷いた。
真城朔
名残惜しげに立ち上がる。
真城朔
立ち上がり……
夜高ミツル
見上げる。
真城朔
見下ろす。
真城朔
目が合う。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
やっぱ俺も入ろうかな……
夜高ミツル
と言いたくなるのを抑え……
真城朔
「……い」
真城朔
「いってくる……」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
振り切るように声を絞り出して、
真城朔
とぼとぼと風呂場へと向かいます。
夜高ミツル
落ち着かないままその後ろ姿を見送る。
真城朔
脱衣所へと姿が消える。
夜高ミツル
ソファの背もたれにぐんにゃりと背中を預ける。
夜高ミツル
天井を仰ぐ。
夜高ミツル
白い。
真城朔
しばらくしてから浴室の扉が開いて閉まる音が聞こえ……
真城朔
シャワーの音が聞こえ……
夜高ミツル
白いので白いなあと思った。
真城朔
そのうちそれも止まります。
夜高ミツル
一緒に入っても俺が我慢したらよかったんじゃねえの?
夜高ミツル
と思い、すぐに、
夜高ミツル
だから俺一人の我慢の問題じゃないんだって……と指摘が入る。
夜高ミツル
傷が治るまではしたくない以上は、
夜高ミツル
中途半端にするのは真城にもよくなくて……
夜高ミツル
だからこれでいいはず……。
夜高ミツル
天井を仰ぎながらぐにゃぐにゃになっている。
夜高ミツル
風呂に入る時間なんてずっと一緒にいる時間と比べたら一瞬なのに、
夜高ミツル
そんな僅かな時間でも、離れることに寂しさを覚える。
真城朔
またシャワーの音が聞こえてきたりしている。
夜高ミツル
聞こえる……
真城朔
水音が響き……
真城朔
それがまた止まったり……
夜高ミツル
もにゃもにゃ……
夜高ミツル
天井を仰いだり膝を抱えたりしている。
真城朔
ややあって浴室の扉の開く音。
夜高ミツル
膝にうずめていた顔をぱっと上げる。
真城朔
扉が閉まり……
真城朔
しばしして……
真城朔
ほかほかの真城が出てくる。
真城朔
濡れた髪をバスタオルでごしごし拭きながら……
真城朔
ほかほか
夜高ミツル
「おかえり」
真城朔
「ん」
真城朔
「ただいま」
真城朔
ソファの方に歩いてきます。
夜高ミツル
ソファから立ち上がりかけたが、
夜高ミツル
真城がこちらへ来るのでまた腰を下ろした。
真城朔
隣に座ります。
真城朔
ごしごし……
真城朔
わしゃわしゃしながら
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツは?」
夜高ミツル
真城のバスタオルに手を重ねて、
夜高ミツル
わしゃ……
真城朔
わしゃ……
真城朔
されている。
夜高ミツル
「……ん?」
夜高ミツル
「あ」
真城朔
されながらミツルを見る。
夜高ミツル
「あー」
真城朔
「入らない?」
夜高ミツル
「……や、」
夜高ミツル
「入ろっかな」
真城朔
「……ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「いってらっしゃい」
真城朔
髪を拭きながらミツルを見る。
真城朔
じ……
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
名残惜しげにバスタオルから手を離し……
夜高ミツル
立ち上がる。
真城朔
見上げています。
夜高ミツル
……見下ろして、もう一度頭を撫でてから
夜高ミツル
「……いってくる」
真城朔
なでられ
真城朔
見上げ
真城朔
「……いってらっしゃい」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
ぽてぽてと風呂場の方に向かっていく。
真城朔
見送っています。
夜高ミツル
うー
夜高ミツル
うーになってしまった。
真城朔
内心うー
真城朔
声にならぬうー
夜高ミツル
心の中で呻く 声に出ることもある
夜高ミツル
今回は声に出ず、大人しく一人で風呂に。
夜高ミツル
服を脱ぎ洗濯機に放り込み。
夜高ミツル
ほかほかの浴室に入る。
真城朔
さっきまで他人が入っていたほかほかの浴室
夜高ミツル
いつもだったら概ね二人で入る風呂。
夜高ミツル
今は一人。
夜高ミツル
さっとシャワーを浴びて、浴槽に身を沈める。
夜高ミツル
ざぶ……
夜高ミツル
一人で入ると浴槽もなんか広い気がする。
夜高ミツル
広いけど別にそれが嬉しいわけでもなく……。
夜高ミツル
風呂は温かいし気持ちいいけど、今求めている熱はこれではない。
夜高ミツル
そのようにぐにゃぐにゃしたあと、いつもよりだいぶ短めに浴槽から上がる。
夜高ミツル
普段は入って真城とくっついてる内にお湯が冷めてくるので追い焚きしたりする。
夜高ミツル
今は一人なので湯がぬるくなる前に上がってしまう。
夜高ミツル
頭を洗い身体を洗い……
夜高ミツル
浴槽のお湯を抜いて
夜高ミツル
それから脱衣所に出てバスタオルで身体を拭き
夜高ミツル
服を着て
夜高ミツル
ほかほか
夜高ミツル
ドライヤーを手に、先程の真城と同じような格好で脱衣所を出る。
真城朔
ばちっと目が合う。
真城朔
ソファに座っている真城が
真城朔
そこからじっとミツルの方を見ていた。
夜高ミツル
髪をわしゃわしゃしながらソファの方へ向かっていく。
真城朔
正確にはミツルの出てくる場所を。
真城朔
腰を浮かしかけたが、
真城朔
ミツルがこちらに来るので、すぐにソファに座り直し。
真城朔
「…………」
真城朔
改めて自分の髪をわしゃわしゃ……
夜高ミツル
同じことしてる……。
真城朔
半乾き……
夜高ミツル
途中でちょっと迂回して、ドライヤーのコンセントを差す。
真城朔
視線がうろうろおよぎ……
夜高ミツル
それから改めてソファの方に戻って、
真城朔
きょと……
真城朔
ミツルを見た。
夜高ミツル
「……髪」
夜高ミツル
「まだ濡れてるよな」
真城朔
「え」
真城朔
「と」
真城朔
「……ちょっとだけ……」
真城朔
普通に濡れてる。
真城朔
湿っているという表現のほうが近いか。
夜高ミツル
髪に触れる。
夜高ミツル
しっとり……
真城朔
しっとりしているし
真城朔
バスタオルでわしゃわしゃしてきたので相応に乱れている
夜高ミツル
「結構濡れてる」
夜高ミツル
「……ドライヤー」
夜高ミツル
「持ってきたから」
真城朔
「…………」
真城朔
「……ん」
真城朔
小さく頷いた。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
ミツルの方も頷いて
真城朔
ソファから降りてクッションに腰を下ろす。
真城朔
ミツルの目の前に座ります。
真城朔
足の間に背中が……
夜高ミツル
乱れた髪を軽く指で整えてから
夜高ミツル
カチ、とドライヤーのスイッチを入れる。
真城朔
バスタオルを下ろす。
真城朔
湿って乱れた髪。
真城朔
襟足が首に張り付いたりしている。
夜高ミツル
指ですきながら、ドライヤーを向ける。
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
毛束の流れを整えて、
夜高ミツル
持ち上げて
真城朔
温風を受け、心地良さそうに目を伏せた。
真城朔
されるがまま……
真城朔
委ね……
夜高ミツル
風を当て乾かしていく。
夜高ミツル
概ね毎日やっているのですっかり慣れた手付き。
真城朔
乾いた髪がするするとミツルの指を通る。
真城朔
結構すぐ乾く
夜高ミツル
半乾きだったもんな……
真城朔
もとより乾きやすい髪質で……
夜高ミツル
暫くその調子でドライヤーをかけていき
夜高ミツル
乾いたなという所でスイッチをオフ。
真城朔
乾きました。
真城朔
さらさら……
夜高ミツル
改めて指を通して、乾いたのを確かめる。
夜高ミツル
さら……
真城朔
滑らかな髪が指を抜けていき……
真城朔
ゆっくり振り返る。
真城朔
ミツルを見上げて、
真城朔
「……ありがとう」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
腰を上げて、またソファの隣に。
真城朔
手を伸ばしてミツルのバスタオルを掴んで
真城朔
ミツルの頭にかぶせてわしゃわしゃ……
夜高ミツル
ドライヤーはとりあえず隣に置いて
真城朔
ごしごし
夜高ミツル
真城にされるがままに拭かれている。
夜高ミツル
手の動きに合わせて頭が軽く揺れる。
夜高ミツル
わしゃわしゃ……
真城朔
ふわふわの髪をわしゃわしゃに拭いている。
夜高ミツル
同じシャンプーを使ってるのに髪の毛は全然違う。
真城朔
匂いは同じ。
真城朔
はずなのだが。
夜高ミツル
匂いもなんか真城の方がいい匂いがする気がする……。
真城朔
ミツの匂いの方がすき
真城朔
ミツの匂いが好き
真城朔
自分の匂いはあんまりわからないし……
夜高ミツル
俺は真城の方がすき
夜高ミツル
それはそう
真城朔
わしゃわしゃ……としばらくやっていたが
真城朔
不意に手を止めて
真城朔
じ……と顔を見つめ
夜高ミツル
目が合っている……
真城朔
「…………」
真城朔
合った視線が彷徨う
夜高ミツル
「……」
真城朔
「……う」
真城朔
「と」
真城朔
よくわからない声が出てきている。
夜高ミツル
この流れはいつもの……というのが分かり
夜高ミツル
分かるだけに身動きが取れず。
真城朔
「…………」
真城朔
分かっているので葛藤している。
夜高ミツル
視線が落ちたり、また真城を見たり。
真城朔
ミツルの頭には手をかけたまま……
真城朔
「……ちょ」
真城朔
「ちょっと、だけ」
真城朔
「ちょっと……」
真城朔
「…………」
真城朔
視線がミツルにお伺いを立てている……
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
視線が彷徨う。
真城朔
「……だ」
真城朔
「め?」
真城朔
首を傾げた。
夜高ミツル
「……ちょ」
夜高ミツル
「っと、」
夜高ミツル
「だけ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ちょっとだけ、な……」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷く。
真城朔
目を閉じて、
夜高ミツル
自分に言い聞かせるように……
真城朔
そっと顔を寄せる。
真城朔
唇を重ねた。
夜高ミツル
ミツルの方からも顔を寄せて、それを受け入れる。
真城朔
触れるだけのキスを、
真城朔
けれどすぐには離さずに。
真城朔
ミツルよりも少し低い体温。
夜高ミツル
柔らかい。
真城朔
ふにふにと触れて、
真城朔
密着して、
夜高ミツル
低い体温は、だけど暖かくて。
真城朔
少し離れてからまたくっついて、
真城朔
ついばむように唇を寄せては重ね。
夜高ミツル
風呂上がりのしっとりした唇を合わせる。
真城朔
ミツルの頭を触れていたはずの手が、
真城朔
いつしか背中に回っている。
夜高ミツル
ミツルの手も、惑うようにさまよった挙げ句
夜高ミツル
結局、真城の背に。
真城朔
薄い胸が擦り寄せられる。
真城朔
密着する。
真城朔
唇が重なっている。
夜高ミツル
昨日の柔らかさはない。
夜高ミツル
いつもの真城。
夜高ミツル
よく知る身体。
夜高ミツル
それを抱き寄せて、ぴったりと身を寄せ合っている。
真城朔
長く唇を重ね合わせたまま。
真城朔
辛うじての理性で舌を出すことはなく、
真城朔
代わりに身体を押しつけるように寄せて、
夜高ミツル
押し付けられるたびに身じろいで
真城朔
服越しに体温がすり合わされる。
夜高ミツル
背中に回した腕に力がこもる。
真城朔
ミツルの腕の中にいる。
夜高ミツル
いる。
夜高ミツル
熱がある。
真城朔
熱を分け合っている。
夜高ミツル
ぴったりとくっついて。
夜高ミツル
一つの生き物になるかのように、隙間なく身体を重ねる。
真城朔
唇が一瞬離された際、
真城朔
切なげに漏らされた湿った吐息がミツルの鼻先にかかった。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
そんな微かな刺激にも、小さく身震いして。
真城朔
誤魔化すようにすぐにまた、唇を重ね。
真城朔
いい子の触れ合うだけのキスを長く長く。
夜高ミツル
ただただ唇を重ねて、その熱と柔らかさを確かめる。
真城朔
回された腕がミツルの背を触れている。
真城朔
確かめるように指が手のひらが背を撫でる。
夜高ミツル
「っ、」
夜高ミツル
背筋を走る感覚に身じろぐ。
真城朔
ぎゅ、と胸もすり寄せて。
真城朔
唇を押しつける。
夜高ミツル
真城の背に回す腕にますます力が籠もって、
夜高ミツル
両腕の中に真城を閉じ込めている。
真城朔
離れがたい。
真城朔
離れられない。
真城朔
離れたくない。
夜高ミツル
もっと。
夜高ミツル
もっとずっと。
夜高ミツル
こうして、身体を重ねていたい。
夜高ミツル
互いの熱を感じていたい。
真城朔
もっと、
真城朔
熱を合わせたい。
真城朔
できることなら。
夜高ミツル
もっと深い部分で
夜高ミツル
相手を感じたい。
夜高ミツル
それができない分、もどかしげに長く唇を合わせる。
真城朔
唇を合わせ、身体を寄せて、背中に腕を回して。
真城朔
切なくも穏やかに相手の熱に身を委ねている。
夜高ミツル
ちょっとだけの筈が、
夜高ミツル
一度触れてしまえば離れることなどできず。
真城朔
もう二度と離れたくない。
真城朔
そう再確認している。
夜高ミツル
離したくない。
夜高ミツル
他の誰かにあんな風に触れさせたくなんかない。
夜高ミツル
真城が嫌なことをされるのが嫌だ。
夜高ミツル
そう思うのと同じくらいに、
夜高ミツル
ただただ単純に、ミツル自身が他人に真城を触れさせたくない。
夜高ミツル
真城とこうするのは、自分一人がいい。
夜高ミツル
そして今は、その望み通りに真城が腕の中にいる。
夜高ミツル
身を寄せ合って、唇を重ねている。
真城朔
ミツルの腕の中、ミツルに身を預けてしがみつき、唇を重ねている。
夜高ミツル
それが、こうしていられることが、たまらなく嬉しい。
真城朔
それだけで十分に満たされる。
真城朔
満たされているはずだった。
夜高ミツル
満たされているのに。
夜高ミツル
……もっと、
夜高ミツル
もっと、その先をと、
夜高ミツル
それを望む心が確かにある。
真城朔
唇を重ねて、抱きしめ合うだけではなく。
夜高ミツル
もっと深いところで
夜高ミツル
触れ合って
夜高ミツル
真城を感じたい。
真城朔
背中に回った腕に力が籠もり、
真城朔
むしろ幼い性急さで力任せに唇がまた押しつけられ。
夜高ミツル
「ま……」
夜高ミツル
何か言おうとした矢先にまた唇が重なり。
真城朔
身体も密着している。
夜高ミツル
怪我が、
夜高ミツル
治ってからと言ったのは自分で。
夜高ミツル
自分なのだから。
夜高ミツル
でも。
夜高ミツル
もっと触れたい。
夜高ミツル
感じたい。
夜高ミツル
熱がほしい。
真城朔
いつもするように。
真城朔
ずっとしてきたように。
夜高ミツル
思考があちらこちらとぐるぐる行き来する。
夜高ミツル
もっと。
夜高ミツル
ダメだ。
真城朔
触れて確かめて、
真城朔
確かめられて、
真城朔
何もかも許して許されて。
真城朔
二人。
夜高ミツル
ひとつに。
真城朔
このまま、
真城朔
もっと
夜高ミツル
……したい、けど。
夜高ミツル
触れ合わせていた唇を、離す。
夜高ミツル
ちら、と真城の胸元に視線を落とす。
真城朔
真城の瞼が上がる。
夜高ミツル
昨日を思い出す。
真城朔
ごく近くから、
夜高ミツル
ひどい怪我だった。
真城朔
どこか寂しそうにミツルの顔を見ている。
真城朔
腕にぎゅっと力が籠もって。
夜高ミツル
血を飲ませてもすぐには治りきらなくて、
夜高ミツル
今は見えないけど、傷はまだそこに存在しているはずだ。
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツ?」
夜高ミツル
「……ちょっとだけ、だろ」
夜高ミツル
最後に本当に一瞬だけ、掠めるように口づけて。
夜高ミツル
「治ったら、って」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「言った、し」
真城朔
その口づけを受け入れてから、
夜高ミツル
「言ったの、俺だし」
真城朔
ミツルの顔を窺っている。
真城朔
「…………」
真城朔
「……うん……」
真城朔
小さく頷いた。
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
背中に回していた腕を持ち上げて
夜高ミツル
頭を撫でる。
夜高ミツル
「……治ったら」
夜高ミツル
「治ったら、な」
真城朔
撫でられて俯く。
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「たくさん、しよう」
夜高ミツル
「……したい」
真城朔
また頷き。
真城朔
ミツルの言葉に再びこくこくと……
真城朔
背中に回した腕を放し、
真城朔
改めてミツルに体重を預ける。
真城朔
もたれるようにして。
夜高ミツル
ミツルも軽く真城の方に身体を傾かせ。
夜高ミツル
お互いに身を寄せ合う。
真城朔
今はここまで。
真城朔
こうして熱を触れ合って、
真城朔
感じるところまで。
夜高ミツル
それで十分。
夜高ミツル
……それ以上は
夜高ミツル
真城の身体を気遣えないなら、
夜高ミツル
それは、ダメだ。
夜高ミツル
それでは真城に欲をぶつけてきた男たちと同じになる。
真城朔
ぼんやりとミツルに身体を委ねている。
夜高ミツル
「……映画」
夜高ミツル
「でも」
夜高ミツル
「観るか……」
真城朔
顔を上げる。
真城朔
「……うん」
真城朔
「見る……」
夜高ミツル
何かおもしろい映画を見よう。
真城朔
熱中できそうな映画を。
夜高ミツル
気が紛れるくらい、とびきりおもしろい映画を。
真城朔
そう思いながらも、なかなかお互い
真城朔
腰が上がるまでには時間がかかった。