2021/02/14 おやつどき
真城朔
それとホットミルクの入ったマグカップが2つ。
夜高ミツル
いつものように、二人並んでテーブルの前に座る。
夜高ミツル
この間でかけた時に買っておいたものだ。
夜高ミツル
スーパーの一角、バレンタインの催事コーナーを見て
夜高ミツル
「せっかくだし買ってくか」くらいの気持ちで手にとったチョコ。
真城朔
こうして改まって向き合ってみるとなんだか緊張する……
夜高ミツル
チョコに詳しくないミツルでもブランド名くらいは知っている、なんか高くて良さそうなやつ。
夜高ミツル
知ってはいたけど、買うのも食べるのも初めて。
夜高ミツル
「改めて見ると箱からなんか豪華だな……」
夜高ミツル
が、いつまでも箱を眺めててもしょうがないので
夜高ミツル
この……めちゃめちゃ女子向けって感じの物を手にとってることに改めてやや恥ずかしさを感じる。
真城朔
なんかこう昔の女児アニメって感じがすごい……
真城朔
なかなかきらきらした形のチョコが並んでいる。
夜高ミツル
「月と星は分かるけどスキップとかはもう名前じゃわかんねえな……」
真城朔
「フランボワーズガナッシュを鮮やかなピンクのハートで閉じ込めてきゅんとするしゅんかんをひょうげん」
真城朔
だんだんよくわからなくなって棒読みになっている。
夜高ミツル
ハートのは名前もハートじゃないんだ……?
夜高ミツル
「キュンとする瞬間を表現しようと思ってチョコ作ってる人もいるんだな……」
真城朔
なんとなく腰が引けて遠巻きにチョコを眺めている。
真城朔
安いチョコってもしかしてにおいも少ないのか……?
夜高ミツル
ミツルも同じようにちょっと敷居高そうに眺めていたが……
真城朔
それはそれでどっちにしようになっちゃった。
夜高ミツル
「ベルギーの伝統的なスペキュロス……?」
夜高ミツル
「……のサクッとした食感が楽しいなめらかなダークチョコレート」
真城朔
スペキュロスは伝統的しかわからなかった……
真城朔
四角くて薄いチョコに、ゴディバのシンボルマークが刻まれている。
夜高ミツル
他のはいかにも高いチョコという感じのおしゃれさがある……
夜高ミツル
ちょっとの間まじまじと眺めたあと、思い切って口に運ぶ。
真城朔
思い出したようにすでにちょっと冷めつつあるホットミルクを取り
夜高ミツル
なんというか、これが高級なチョコ……という感じで、
夜高ミツル
一口で食べたのかなり勿体なかった気がしてきた……。
夜高ミツル
分からない チョコを食べる作法が……。
夜高ミツル
「さっきのがダークチョコでこっちがミルクチョコ」
真城朔
さっきの方がカカオっぽかった感じがする……
真城朔
ちょっとだけなんか、口の中でざらっとするような感じがある
夜高ミツル
説明がないってことは普段ゴディバを買うような人はスペキュロスとか知ってんだろうな……
夜高ミツル
さっきのがビターな感じだったからか余計にそう
夜高ミツル
「それに、ほら、真城の方が食べれる量少ないから」
夜高ミツル
「好きっていうか……なんか気になるのとか」
夜高ミツル
「確かにもったいないのはそうかも……」
夜高ミツル
真城は、と言いかけたところで先に言われてしまった。
夜高ミツル
よく見たら下の方の説明はあんまり文学じゃない。
真城朔
ホワイトクッキークランブルムースよりは何言ってるかわかる
夜高ミツル
プラリネは分からないけど比較的分かる情報が多い。
夜高ミツル
「あ、でもミルクチョコだからさっきのと似た感じになるか……?」
夜高ミツル
マダガスカル産ブルボンバニラが使われているらしいやつ……
夜高ミツル
ブルボンバニラは普通のバニラと違うのか……?
真城朔
ブルボンってお菓子メーカーじゃなかったっけ……
夜高ミツル
円柱がちょっと欠けたような感じになってる。
真城朔
もうずっとチョコの匂いがしててわかんないな……
夜高ミツル
ちょうど半々になるような位置にナイフを当てて……
夜高ミツル
形を崩さないように注意しつつ、半分に。
真城朔
内側のホワイトチョコがナイフにちょっとくっついている。
夜高ミツル
ナイフをまな板に置いて、チョコの片方を手に取り。
真城朔
まじまじと中のホワイトチョコレートガナッシュを見ている。
真城朔
なんか気持ち複雑な味がしている気がする……
真城朔
なんかチョコっていうかチョコクリームって感じがする
真城朔
もうひとかけらは包装紙の上に一旦置いてある
真城朔
残りの形の崩れてガナッシュが内側からはみ出てしまったひとかけらを見ている。
夜高ミツル
よく考えたらこれ一粒300円とかなんだな……
夜高ミツル
率直に身の丈に合ってない感じがする……
夜高ミツル
「なんかうまいより先にすごいな……ってなる」
夜高ミツル
「多分ずっと向き合ってるんだもんな……」
夜高ミツル
「なんか……食べる側も真面目に食べないといけない気がする……」
夜高ミツル
頑張って作られたものをちゃんと味わって……
真城朔
ちょっと自分のお腹に手を当てて考え込んでいる……
夜高ミツル
「……まぁ、バレンタインにはよかったかもな」
夜高ミツル
「なんか……新しい世界を知れたというか……」
夜高ミツル
「真城もうまかったなら買ってみてよかった」
真城朔
半分なら……って手刀で切る仕草を添えて……
夜高ミツル
「じゃああと1個食べて、残りはまたにするか」
夜高ミツル
箱を見たり箱を見る真城を見たりしている……
真城朔
今度は自分が決める順番なのは理解しているのだが
真城朔
「きゅんとするしゅんかんをひょうげん……」
夜高ミツル
文学なのか、本当に味を表現しているのか不明。
夜高ミツル
ハートの真ん中にナイフ入れるのなんか縁起悪いな……くらいの感性はある。
夜高ミツル
でも正中線で切るのがどう考えてもやりやすいので
夜高ミツル
ハートがブロークンハートになっていく。
真城朔
ブロークンハートからはみ出る赤いガナッシュ。
夜高ミツル
ナイフを置いて、チョコの半分をまた真城に差し出す。
真城朔
差し出されたブロークンハートを受け取り……
真城朔
手のひらの中に包み込むように両手を合わせて
真城朔
そう唱えてから、赤いチョコレートをかじる。
夜高ミツル
真城を見てから、自分も半分のハートを齧る。
夜高ミツル
縁起の悪さの方より、一つのハートを分け合って食べてるんだな……という方向に思考が巡ってきた。
真城朔
外側のチョコも気持ち甘酸っぱさがあるような気がする
真城朔
でもやっぱり中のガナッシュがばっちり甘酸っぱく……
真城朔
飲み干した後に、残った最後のひとかけらを口に放り込んで
真城朔
ほかがなんかすごいチョコレート力高かったので
夜高ミツル
口の中でチョコはすっかり溶け切ってしまったが、舌の上にはまだ後味が残っている。
夜高ミツル
ぴったりと寄せ合った身体があたたかい。
真城朔
温めたはずのホットミルクはチョコに圧倒されているうちに冷めてしまっていたからなおさら。
夜高ミツル
そっと手を動かして、真城の手の上に重ねる。
夜高ミツル
触れ合うだけのキスを数度繰り返した後、舌を差し入れて