2021/02/14 おやつどき

真城朔
テーブルの上には鮮やかな桃色の小箱。
真城朔
それとホットミルクの入ったマグカップが2つ。
夜高ミツル
いつものように、二人並んでテーブルの前に座る。
真城朔
ミツルにぴったりと寄り添って
真城朔
まじまじと小箱を眺めている。
夜高ミツル
この間でかけた時に買っておいたものだ。
夜高ミツル
スーパーの一角、バレンタインの催事コーナーを見て
夜高ミツル
「せっかくだし買ってくか」くらいの気持ちで手にとったチョコ。
真城朔
気軽な気持ちで買ったはいいものの
真城朔
こうして改まって向き合ってみるとなんだか緊張する……
夜高ミツル
チョコに詳しくないミツルでもブランド名くらいは知っている、なんか高くて良さそうなやつ。
真城朔
真城も知ってる。
真城朔
箱にはきれいな図柄が描かれている。
夜高ミツル
知ってはいたけど、買うのも食べるのも初めて。
真城朔
ハートだけちょっと浮き上がってるな……
夜高ミツル
「改めて見ると箱からなんか豪華だな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「きれい」
夜高ミツル
「だなー」
真城朔
「べるぎー」
真城朔
「せんきゅうひゃくにじゅうろく」
真城朔
なんか読み上げ始めた。
夜高ミツル
箱を手にとる。
真城朔
じ……
真城朔
箱を手に取るミツルを見ている。
夜高ミツル
なんとなく裏側とか見てしまう。
夜高ミツル
が、いつまでも箱を眺めててもしょうがないので
夜高ミツル
隅にかかったリボンを外す。
真城朔
リボンを外すとあとは両側に封がある。
真城朔
楕円の透明なシールが1枚ずつ。
夜高ミツル
この……めちゃめちゃ女子向けって感じの物を手にとってることに改めてやや恥ずかしさを感じる。
真城朔
切り取り線みたいな黒い線が引かれている。
真城朔
色がすでにめっちゃ女子向け。
夜高ミツル
ピンク ハート キラキラ リボン……
真城朔
なんかこう昔の女児アニメって感じがすごい……
夜高ミツル
両側の封に爪を入れて、箱を開ける。
真城朔
ぱか……
真城朔
説明書きと茶色い内紙
真城朔
すでにちょっとチョコの匂いがする。
真城朔
ような気がする……
真城朔
説明書きを取ります。
真城朔
ひらく。
夜高ミツル
箱を一旦テーブルに戻す。
夜高ミツル
蓋とリボンは脇によけて……。
真城朔
「きらめく想い」
夜高ミツル
「何書いてある?」
夜高ミツル
覗き込む。
真城朔
「Sparkling Wishes」
真城朔
読んでる。
真城朔
見せます。
真城朔
開いて……
真城朔
「色々書いてある……」
夜高ミツル
「すぱーくりんぐ……」
真城朔
「大切な人へ」
真城朔
「きらめく未来を願って」
真城朔
「…………」
真城朔
おずおず手を伸ばし
真城朔
そっと内紙を外します。
真城朔
けっこうしっかりしてる……
夜高ミツル
説明書きからチョコの方に視線を移す。
真城朔
月だのハート型だの星型だの
真城朔
なかなかきらきらした形のチョコが並んでいる。
真城朔
いかにも高そう……
夜高ミツル
「すげ~……」
真城朔
「豪華」
夜高ミツル
形とか色々あってすごいなと思った。
真城朔
説明書きをまた見て、
夜高ミツル
「あとめっちゃ甘い匂いする」
真城朔
「する」
真城朔
頷き頷き……
真城朔
「えーと……」
真城朔
「ドリーミームーン」
真城朔
「スパークリングスター」
真城朔
「スキップアビート」
真城朔
「…………」
真城朔
「すごい名前ついてる……」
真城朔
途中でまた見せます。
夜高ミツル
「月と星は分かるけどスキップとかはもう名前じゃわかんねえな……」
夜高ミツル
説明書きとチョコを見比べている。
真城朔
「フランボワーズガナッシュを鮮やかなピンクのハートで閉じ込めてきゅんとするしゅんかんをひょうげん」
真城朔
だんだんよくわからなくなって棒読みになっている。
夜高ミツル
ハートのは名前もハートじゃないんだ……?
夜高ミツル
「キュンとする瞬間を…………」
真城朔
「表現……」
夜高ミツル
「……???」
真城朔
首を傾げている。
夜高ミツル
同じく……。
夜高ミツル
分からない。
真城朔
「不思議」
真城朔
高いチョコは不思議。
真城朔
不思議な世界に直面している。今。
夜高ミツル
「なんか……文学……?」
真城朔
「かも……」
真城朔
「…………」
真城朔
「こういうの」
真城朔
「考えたりとか書いたりとか」
真城朔
「そういう、仕事も」
真城朔
「してる人が……」
真城朔
いるんだ……みたいになってる。
夜高ミツル
「いるんだろうなあ……」
夜高ミツル
「すごいな……」
真城朔
「大変そう」
真城朔
「いっぱいチョコ食べて……」
真城朔
「文学を……?」
夜高ミツル
「キュンとする瞬間を……」
夜高ミツル
「キュンとする瞬間を表現しようと思ってチョコ作ってる人もいるんだな……」
真城朔
「すごい」
真城朔
シンプルな感想が出た。
夜高ミツル
「すごいなあ……」
夜高ミツル
2回目。
真城朔
「ベルギー1926年」
真城朔
「老舗だけある……」
夜高ミツル
「もうすぐ100年……」
真城朔
「あと5年で……」
夜高ミツル
「俺でも知ってるくらいだもんな」
真城朔
「よく聞く」
夜高ミツル
「高いチョコといえばって感じだよな」
真城朔
「いろんなとこにお店あるし……」
真城朔
じー……
真城朔
なんとなく腰が引けて遠巻きにチョコを眺めている。
真城朔
遠巻きでもチョコのいいにおいする……
夜高ミツル
するなあ。
真城朔
ちょっとなんか高価っぽい雰囲気の……
真城朔
安いチョコってもしかしてにおいも少ないのか……?
夜高ミツル
ミツルも同じようにちょっと敷居高そうに眺めていたが……
夜高ミツル
「……じゃあ、まあ」
夜高ミツル
「食べるか……」
真城朔
こくこく……
真城朔
頷いたけど。
真城朔
「…………」
真城朔
「どれを……?」
夜高ミツル
「えっ」
真城朔
じー
真城朔
ミツルを見ています。
夜高ミツル
「……真城どれ食べたい?」
真城朔
「え」
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツは……?」
夜高ミツル
「え」
夜高ミツル
「俺はどれでも……」
夜高ミツル
「真城から……」
真城朔
「……え、と」
真城朔
おずおず手を伸ばして
真城朔
左側の包装されたチョコを示す。
真城朔
二個ずつ二種類ある。
真城朔
「……これ」
真城朔
「一緒に……」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「一個ずつ……」
真城朔
青とピンクとある……
真城朔
それはそれでどっちにしようになっちゃった。
真城朔
えーとえーと……
夜高ミツル
「ピンクの方が……」
夜高ミツル
「ベルギーの伝統的なスペキュロス……?」
真城朔
「すぺきゅろす」
夜高ミツル
「が入ったミルクチョコレート……」
夜高ミツル
「スペキュロス…………」
夜高ミツル
「なんだ……?」
真城朔
「……???」
夜高ミツル
首を捻って
夜高ミツル
「青い方が……」
夜高ミツル
「ふ」
夜高ミツル
「ふいゆてぃーぬ……???」
真城朔
「ふいゆてぃーぬ」
夜高ミツル
「……のサクッとした食感が楽しいなめらかなダークチョコレート」
夜高ミツル
「らしい」
真城朔
「さくっとしてるらしい」
真城朔
スペキュロスは伝統的しかわからなかった……
真城朔
「…………」
真城朔
おずおず手前の青いのを取り……
真城朔
ミツルに差し出します。
夜高ミツル
「説明読んでも全然分かんねえな……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「ありがと」
夜高ミツル
受け取る。
真城朔
「ん」
真城朔
頷いてから、自分のぶんをとる。
真城朔
包装を開けるとチョコの匂いが強くなる。
夜高ミツル
「チョコだ」
真城朔
四角くて薄いチョコに、ゴディバのシンボルマークが刻まれている。
夜高ミツル
当たり前の感想が出た。
真城朔
馬に乗った裸の貴婦人。
真城朔
「チョコ……」
真城朔
頷いて
真城朔
まじまじ眺め……
夜高ミツル
じ……
真城朔
「……なんか」
真城朔
「安心する」
真城朔
他のチョコよりも形がチョコっぽいので……
夜高ミツル
「なんか分かりやすいよな……」
夜高ミツル
「説明はあれだったけど」
夜高ミツル
他のはいかにも高いチョコという感じのおしゃれさがある……
真城朔
とっつきやすさがある。
真城朔
頷いてます。
夜高ミツル
ちょっとの間まじまじと眺めたあと、思い切って口に運ぶ。
真城朔
じっ
夜高ミツル
ぱく……
真城朔
ミツルが食べるのを見ています。
真城朔
見ていたけど、我に返ったように
真城朔
自分も慌ててチョコを口にする。
真城朔
さくっとした感触がある。
真城朔
あるけど、思ったよりさくさくよりも
夜高ミツル
これがふぃ……なんとかか……?
真城朔
周囲のチョコの高級感の方が印象強い……
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
もぐもぐしながら……
真城朔
「薄いのに」
真城朔
「チョコの味が」
真城朔
「…………」
真城朔
「濃厚……?」
夜高ミツル
「すごいチョコの味するな……」
真城朔
「する……」
真城朔
「さくさくする」
真城朔
「けど」
真城朔
「すごいチョコ」
夜高ミツル
頷いている。
真城朔
なんかこう、サクサクというと
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
キットカット的なものを想像するのだが……
真城朔
全然周囲のチョコの方が強く……
夜高ミツル
控えめにサクサクしている……
夜高ミツル
控えめに……繊細…………?
真城朔
チョコ……
真城朔
チョコだ……
真城朔
こんなに薄いのに……
真城朔
無言でもぐもぐ食べていましたが
真城朔
思い出したようにすでにちょっと冷めつつあるホットミルクを取り
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
なんというか、これが高級なチョコ……という感じで、
夜高ミツル
一口で食べたのかなり勿体なかった気がしてきた……。
真城朔
ふう……
夜高ミツル
分からない チョコを食べる作法が……。
真城朔
わからない……
真城朔
「……えっと」
真城朔
「これ」
真城朔
ピンクの方を示し……
真城朔
「……食べる?」
真城朔
みるくすぺきゅろす。
夜高ミツル
「真城がまだ食べれるなら」
夜高ミツル
ミツルの方もホットミルクを飲みつつ。
真城朔
「いける」
真城朔
頷く。
真城朔
「まだ全然」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「薄めのやつだし……」
夜高ミツル
ピンクの方を手にとって、真城に渡す。
真城朔
「ん」
真城朔
受け取り……
真城朔
「ありがとう」
真城朔
開けます。
真城朔
同じ図柄、
真城朔
さっきよりも色が薄い。
夜高ミツル
「さっきのがダークチョコでこっちがミルクチョコ」
真城朔
ミルクチョコレートなので。
夜高ミツル
「こっちのが甘いのかな……?」
夜高ミツル
よく分かってない。
真城朔
「とりあえず……」
真城朔
食べてみる。
真城朔
かじ……
真城朔
もくもく……
真城朔
甘い。
真城朔
さっきの方がカカオっぽかった感じがする……
真城朔
甘くてもったり感がある
真城朔
あとさくさくがないな……
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
ちょっとだけなんか、口の中でざらっとするような感じがある
真城朔
これがスペキュロス……?
夜高ミツル
伝統的なスペキュロスが……
真城朔
伝統的なスペキュロスを食べている。
真城朔
もくもくと口を動かし……
夜高ミツル
説明がないってことは普段ゴディバを買うような人はスペキュロスとか知ってんだろうな……
夜高ミツル
すごいな……
真城朔
異世界……
真城朔
「甘い……」
真城朔
ぽつりと。
夜高ミツル
「甘いな~……」
夜高ミツル
さっきのがビターな感じだったからか余計にそう
真城朔
「さっきよりは」
真城朔
「ちょっと、こう」
真城朔
「馴染みがある……」
真城朔
「感じの……?」
真城朔
ミルクチョコだし……
夜高ミツル
「そんな感じがする」
真城朔
「スペキュロスの方が」
真城朔
「ふ……」
真城朔
ええと……
真城朔
説明書きを見ます。
真城朔
「フィユティーユより……」
真城朔
「あ」
真城朔
「フィユティーヌ」
真城朔
訂正……
夜高ミツル
ホットミルクを一口飲み……
夜高ミツル
「難しいよな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
真城もミルクを飲みます。
真城朔
圧倒されながらチョコを食べている。
夜高ミツル
初めて見る単語。
夜高ミツル
齧った残りの半分を口に運ぶ。
真城朔
真城も残りをもぐもぐと……
真城朔
そうしていると
真城朔
二人で分けられるチョコが片付き、
真城朔
あとは一粒ずつのチョコが六種類。
夜高ミツル
残りは一つずつのだけに……。
真城朔
「…………」
真城朔
改めてどうしようになった。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
気まずい空気……。
夜高ミツル
「……真城はどれがいい?」
真城朔
「え」
真城朔
「と」
真城朔
「…………」
真城朔
「ちゃ」
真城朔
「ちゃんと味わえる」
真城朔
「ミツの方が……」
夜高ミツル
「真城だって味わえてるだろ」
夜高ミツル
「それに、ほら、真城の方が食べれる量少ないから」
夜高ミツル
「好きなやつを……」
真城朔
「好きな……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「好きっていうか……なんか気になるのとか」
真城朔
「きになる……」
真城朔
ぐるぐる……
真城朔
説明書きを見ます。
真城朔
見ますが。
真城朔
文学なんだよな……
夜高ミツル
文学……
真城朔
「あ」
真城朔
「と」
真城朔
思い出したように口を開き……
夜高ミツル
「?」
真城朔
「……けっこう」
真城朔
「強いっていうか」
真城朔
「高級だから」
真城朔
「なのか、わかんない」
真城朔
「けど」
真城朔
「…………」
真城朔
「いっ」
真城朔
「一気、には」
真城朔
「もったいない、し」
真城朔
えーと……
真城朔
おろ……
夜高ミツル
「確かにもったいないのはそうかも……」
真城朔
「…………」
真城朔
「……分ける……?」
夜高ミツル
「分ける」
夜高ミツル
「……そうだな」
夜高ミツル
「そうするか」
真城朔
「……切る?」
夜高ミツル
俺でも2枚で結構食べた感あるしな……
夜高ミツル
「そうしよう」
夜高ミツル
「包丁取ってくる」
真城朔
「まな板も……」
真城朔
ついていき……
夜高ミツル
とてとて……
真城朔
とことこ
夜高ミツル
キッチン。
夜高ミツル
小さめの包丁を取り出す。
真城朔
まな板を取り……
真城朔
チョコを持ってくればよかったのでは?
真城朔
…………
真城朔
まあいいか……
夜高ミツル
そういうこともある
夜高ミツル
二人でテーブルに戻り……
真城朔
来ちゃったのでまあいいやという感じ。
真城朔
まな板を置きます。
真城朔
「…………」
真城朔
それはそれとして
真城朔
どれにしようという話なのだった。
真城朔
「ミツは」
真城朔
「どれ気になる?」
夜高ミツル
真城は、と言いかけたところで先に言われてしまった。
夜高ミツル
「ん~……」
真城朔
先手必勝
夜高ミツル
また説明書きを見て……
真城朔
じ……
夜高ミツル
よく見たら下の方の説明はあんまり文学じゃない。
真城朔
確かに……
真城朔
マダガスカルブルボンバニラとか
真城朔
ホワイトクッキークランブルムースよりは何言ってるかわかる
真城朔
ヘーゼルナッツプラリネは……
真城朔
プラリネってなんだろ……
夜高ミツル
プラリネ……?
夜高ミツル
プラリネは分からないけど比較的分かる情報が多い。
真城朔
理解可能領域
夜高ミツル
「……これ? とか?」
真城朔
「?」
夜高ミツル
比較的分かったそれを指差す。
真城朔
どれどれ……
夜高ミツル
渦を巻いたような形のチョコレート。
真城朔
とるびよんぷらりね。
真城朔
ミルクチョコレートがまろやからしい。
真城朔
「これ」
真城朔
「食べる?」
夜高ミツル
「あ、でもミルクチョコだからさっきのと似た感じになるか……?」
真城朔
「んー」
真城朔
それもそうかも……
真城朔
視線をずらし
真城朔
「じゃあ」
真城朔
「こっち……?」
真城朔
マダガスカルブルボンバニラの方……
夜高ミツル
マダガスカル産ブルボンバニラが使われているらしいやつ……
夜高ミツル
ブルボンバニラは普通のバニラと違うのか……?
夜高ミツル
それはともかく。
真城朔
ブルボンってお菓子メーカーじゃなかったっけ……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「それにしてみるか」
真城朔
頷き……
真城朔
そっと取り出して
真城朔
まな板に置きました。
真城朔
貴婦人の刻まれた丸いチョコレートを……
夜高ミツル
円柱がちょっと欠けたような感じになってる。
真城朔
欠けたところにGってある
真城朔
ゴディバのGだなあ。
夜高ミツル
アピールが強い。
真城朔
マダガスカルブルボンバニラが香るらしい。
真城朔
もうずっとチョコの匂いがしててわかんないな……
夜高ミツル
ちょうど半々になるような位置にナイフを当てて……
夜高ミツル
えいや
真城朔
ああっ
真城朔
貴婦人が両断されるのを見ています。
夜高ミツル
形を崩さないように注意しつつ、半分に。
真城朔
内側のホワイトチョコがナイフにちょっとくっついている。
真城朔
外側は固く、内側はやわらかく……
真城朔
そういえばガナッシュだっけ……
夜高ミツル
なるほどな……
夜高ミツル
ナイフをまな板に置いて、チョコの片方を手に取り。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
真城の方に差し出す。
真城朔
渡されました。
真城朔
受け取る。
真城朔
まじまじと中のホワイトチョコレートガナッシュを見ている。
真城朔
においを嗅いで……
真城朔
手のひらの上に乗せたチョコを見下ろして
真城朔
首をひねっています。
夜高ミツル
自分のも手に取ってまじまじと。
真城朔
「マダガスカルブルボンバニラ」
真城朔
「……香ってる……?」
夜高ミツル
「……よく分からん」
夜高ミツル
「チョコのにおいがする」
真城朔
「うん」
真城朔
「チョコの匂い……」
夜高ミツル
「チョコだよなあ」
真城朔
「ずっとチョコのにおいしてる」
真城朔
「強い」
真城朔
「…………」
真城朔
じっと見つめ……
真城朔
思い切って齧ってみる。
真城朔
外側のチョコは固いけど内側は柔らかいので
真城朔
形が崩れてちょっとあわになった。
夜高ミツル
ミツルの方もパクっと一口。
真城朔
ダークチョコの高級感と……
真城朔
ホワイトチョコレートガナッシュ
真城朔
ホワイトチョコレートガナッシュ……?
真城朔
なんか気持ち複雑な味がしている気がする……
真城朔
ダークチョコはさっき予習した……
夜高ミツル
やわらかい……
夜高ミツル
食感が新鮮な感じ。
真城朔
なんかチョコっていうかチョコクリームって感じがする
真城朔
チョコクリームが入ってるタイプのチョコ
真城朔
のめちゃめちゃ高級版というか……
夜高ミツル
高い味がする……
真城朔
を途中で牛乳を飲み……
夜高ミツル
高い味はずっとしているが……
真城朔
もうひとかけらは包装紙の上に一旦置いてある
真城朔
「……高いチョコって感じがする……」
真城朔
ずっと圧倒されている。
夜高ミツル
「だなあ……」
真城朔
残りの形の崩れてガナッシュが内側からはみ出てしまったひとかけらを見ている。
真城朔
「こういうの」
夜高ミツル
よく考えたらこれ一粒300円とかなんだな……
真城朔
「よく食べる人も」
真城朔
「いる……?」
夜高ミツル
「いるんだろうな……」
真城朔
「…………」
真城朔
想像がつかない世界……
真城朔
ふわふわになりながら残りを食べました。
夜高ミツル
もくもく……
夜高ミツル
「たまにでいいな、俺は……」
真城朔
頷きます。
真城朔
「なんていうか……」
真城朔
「大変」
夜高ミツル
率直に身の丈に合ってない感じがする……
夜高ミツル
頷く。
夜高ミツル
「うまいけど……」
真城朔
「うん……」
真城朔
「おいしい」
夜高ミツル
「なんかうまいより先にすごいな……ってなる」
真城朔
「けど」
真城朔
「…………」
真城朔
こくこく……
真城朔
「なんか」
真城朔
「作ってる人のこと考えちゃう」
夜高ミツル
「新しいの毎年考えてるんだよな……」
夜高ミツル
「見た目とか味とか……」
真城朔
「嫌いになったりとか」
真城朔
「しそう」
真城朔
「チョコ」
真城朔
「大変で……」
夜高ミツル
「多分ずっと向き合ってるんだもんな……」
夜高ミツル
「すごいな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
無駄に思いを馳せてしまう……
夜高ミツル
「なんか……食べる側も真面目に食べないといけない気がする……」
夜高ミツル
多分そんなことはないんだが……
真城朔
「うん……」
真城朔
「なんていうか」
真城朔
「こう」
真城朔
「失礼のないように……」
夜高ミツル
「うん……」
夜高ミツル
頑張って作られたものをちゃんと味わって……
真城朔
「…………」
真城朔
ちょっと自分のお腹に手を当てて考え込んでいる……
夜高ミツル
「……まぁ、バレンタインにはよかったかもな」
真城朔
顔を上げて
夜高ミツル
「なんか……新しい世界を知れたというか……」
真城朔
ぱちぱちと目を瞬き……
夜高ミツル
「イベントごとだし」
真城朔
ミツルを見て頷きます。
夜高ミツル
「たまには」
真城朔
「うん」
真城朔
「……こういうの」
真城朔
「普段、食べないし……」
真城朔
「…………」
真城朔
「よかった」
夜高ミツル
「バレンタインでもないとな……」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「真城もうまかったなら買ってみてよかった」
真城朔
「おいしい」
真城朔
「……いろいろ」
真城朔
「びっくりも、するけど……」
真城朔
異世界だし……
夜高ミツル
知らない世界……
真城朔
いろんな異世界がある……
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「ん?」
真城朔
「えっ、と」
真城朔
ちらとチョコの箱に目をやり……
真城朔
「今日は……」
夜高ミツル
「……あー」
夜高ミツル
「どうしようか」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城はまだ食える?」
真城朔
「……たぶん」
真城朔
「あと」
真城朔
「一個を……」
真城朔
半分なら……って手刀で切る仕草を添えて……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「じゃああと1個食べて、残りはまたにするか」
夜高ミツル
「……どれがいい?」
真城朔
頷いたが、ミツルに問われて
真城朔
しぱしぱと目を瞬き……
真城朔
「どれ」
真城朔
「…………」
真城朔
小箱に視線を戻し……
夜高ミツル
箱を見たり箱を見る真城を見たりしている……
真城朔
さっきミツルに決めさせたので
真城朔
今度は自分が決める順番なのは理解しているのだが
真城朔
けっこう悩んでいる。
真城朔
「……うーんと……」
夜高ミツル
特に急かすでもなく待っている。
真城朔
「…………」
真城朔
そろそろと手を挙げ……
真城朔
「……これ……?」
真城朔
赤いハートを指さした。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
文学への挑戦。
夜高ミツル
スキップ ア ビート
夜高ミツル
と説明には書いてある。
夜高ミツル
「キュンとする瞬間のやつ……」
真城朔
「きゅんとするしゅんかんをひょうげん……」
真城朔
「……どんな味……?」
夜高ミツル
キュンとする瞬間のやつを手にとる。
真城朔
裏面まで赤い。
夜高ミツル
「甘酸っぱい感じ……?」
真城朔
「すっぱい?」
夜高ミツル
文学なのか、本当に味を表現しているのか不明。
夜高ミツル
まな板の上に置いて……
真城朔
ハート型が。
真城朔
まな板の上のハート型。
夜高ミツル
ハート……
真城朔
ハートを切る。
夜高ミツル
ハートの真ん中にナイフ入れるのなんか縁起悪いな……くらいの感性はある。
真城朔
じっと見ています。
夜高ミツル
ナイフを持ってやや躊躇っていたが……
夜高ミツル
でも正中線で切るのがどう考えてもやりやすいので
夜高ミツル
結局そこにナイフを当てる。
真城朔
ハートが切られていく。
真城朔
さっきと同じで外が固くて中が柔らかいので
夜高ミツル
ハートがブロークンハートになっていく。
真城朔
ガナッシュがナイフにくっつき……
夜高ミツル
切りづらい……
真城朔
ブロークンハートからはみ出る赤いガナッシュ。
真城朔
キュンとする瞬間のやつが半分に切れた。
夜高ミツル
半分になったキュンとする瞬間。
真城朔
中も赤い……
夜高ミツル
ナイフを置いて、チョコの半分をまた真城に差し出す。
真城朔
「ありがとう」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
差し出されたブロークンハートを受け取り……
真城朔
「ハート」
真城朔
「はんぶんこ」
夜高ミツル
ミツルも残りの半分を取って。
夜高ミツル
「半分だな……」
真城朔
「いただきます」
真城朔
手のひらの中に包み込むように両手を合わせて
真城朔
そう唱えてから、赤いチョコレートをかじる。
夜高ミツル
「……」
真城朔
なるほど確かに甘酸っぱく……
夜高ミツル
真城を見てから、自分も半分のハートを齧る。
真城朔
ベリー系……?
真城朔
ガナッシュの味の存在感が強い。
夜高ミツル
縁起の悪さの方より、一つのハートを分け合って食べてるんだな……という方向に思考が巡ってきた。
真城朔
分け合ったハートを味わっています。
真城朔
口の中で舌を動かし……
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
外側のチョコも気持ち甘酸っぱさがあるような気がする
真城朔
混ざってるからかもしれないけど……
夜高ミツル
甘酸っぱい……
真城朔
ミルクチョコともダークチョコとも違う味。
真城朔
でもやっぱり中のガナッシュがばっちり甘酸っぱく……
真城朔
甘酸っぱさを主張し……
真城朔
もくもく……
真城朔
「……キュンとする瞬間?」
真城朔
首を傾げました。
夜高ミツル
「うーん…………」
夜高ミツル
キュンなのか……?
夜高ミツル
やや照れてはいる。
真城朔
牛乳を飲み……
真城朔
飲み干した。
真城朔
飲み干した後に、残った最後のひとかけらを口に放り込んで
真城朔
もむもむ……
真城朔
舌で改めて確かめています。
夜高ミツル
ミツルの方も残りの欠片を口に運ぶ。
真城朔
もむもむと舌を動かしながら……
夜高ミツル
キュンとする瞬間……
夜高ミツル
うーん……
真城朔
ミツルを見る。
夜高ミツル
「?」
夜高ミツル
もぐもぐしながら真城を見返す。
真城朔
目が合った。
真城朔
じ……
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「……うまいか?」
真城朔
頷く。
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「よかった」
真城朔
「なんか」
真城朔
「チョコっぽくないんだけど」
真城朔
「おいしい」
真城朔
チョコの味ではあるけど……
真城朔
ほかがなんかすごいチョコレート力高かったので
真城朔
変化球って感じを覚えている。
夜高ミツル
「ベリーっぽい感じが結構な」
真城朔
「うん」
真城朔
頷く。
真城朔
「……甘酸っぱい」
夜高ミツル
「だな……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
口の中でチョコはすっかり溶け切ってしまったが、舌の上にはまだ後味が残っている。
真城朔
もとより近い距離をさらに詰めて
真城朔
ミツルの肩に頬を預ける。
真城朔
ぴと……
真城朔
体重をもたせ……
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
預けられた体重を受け止める。
真城朔
体温を感じる。
真城朔
体温を感じている。
夜高ミツル
ぴったりと寄せ合った身体があたたかい。
真城朔
温めたはずのホットミルクはチョコに圧倒されているうちに冷めてしまっていたからなおさら。
夜高ミツル
そっと手を動かして、真城の手の上に重ねる。
真城朔
肌と肌が触れる。
真城朔
手のひらが上を向いて、
真城朔
指がミツルの指に絡んだ。
夜高ミツル
掌を合わせ、指を絡めあう。
真城朔
「……チョコよりも」
真城朔
「こっちの方が」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「…………」
真城朔
ミツルの肩に頬をすり寄せた。
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
顔を傾ける。
真城朔
「ん」
真城朔
顔を上げる。
夜高ミツル
視線が合う。
真城朔
すぐ近くで。
夜高ミツル
既に至近距離にある顔を、なお寄せて
真城朔
瞼を伏せ、
真城朔
唇を小さく開いて、それを受け入れる。
夜高ミツル
唇を触れ合わせる。
真城朔
甘い味がする。
真城朔
絡めた指をぎゅっと握って、
真城朔
より体重を預けて身体を密着させる。
夜高ミツル
触れ合うだけのキスを数度繰り返した後、舌を差し入れて
夜高ミツル
甘さを味わうように深く口づける。
真城朔
迎え入れる。
真城朔
甘い口の中、甘い舌の味、
真城朔
漏らされる吐息の甘い気配。
真城朔
声も。
夜高ミツル
何もかもが甘い。
真城朔
チョコよりも、こっちの方が。