2021/02/20 昼過ぎ
真城朔
ひととおり家事を済ませてお昼ごはんも食べて、
夜高ミツル
いつもと違うところがあるとしたら、ミツルが妙にソワソワした様子を見せていることくらい。
夜高ミツル
家事をしているときも、どことなく心ここにあらずと言った感じで……。
真城朔
一応テレビはついているがあんまり二人とも見ておらず……
夜高ミツル
チラチラと真城の方を見ては、何かを言おうとしたりやっぱりやめたり。
真城朔
テレビはなんかお昼のニュースとかやってる。ローカルなやつを……
夜高ミツル
その間も言おうか言うまいか何度も逡巡し……
真城朔
なんか結構長続きしてるバラエティが始まり……
真城朔
静かになったリビングに漂うなんともいえぬ空気感……
夜高ミツル
向かい合った姿勢でまた口を開いたり閉じたりしていたが、
夜高ミツル
「そうだったら申し訳ないんだけど……」
夜高ミツル
「男でも女でも、真城だったら好きだし」
夜高ミツル
「好きだから、その、そういうこともしたいって」
夜高ミツル
「こないだ、真城が女でしたいって言ってくれて、」
夜高ミツル
「でも、あの時は真城怪我してたから……」
真城朔
思い出したのかちょっとしょんぼりになった。
夜高ミツル
「えーと、だから、今はもう治ったから」
真城朔
まごまごしながら視線を低めにうろつかせている。
夜高ミツル
こっちも言ったら言ったで落ち着かない様子で真城を見ている。
真城朔
目の前の真城といえば、まあいつもどおりの。
真城朔
いつものルームウェア姿で怪我も治って健やかに、
真城朔
同時にもう片方の手を自分の脚の付け根に這わせ……
真城朔
柔らかい生地越しに浮いた骨の感触が伝わる。
真城朔
なんの説明をしているのかわからなくなってきている。
夜高ミツル
「したいって強く思ったりしたらいいのか……?」
夜高ミツル
「真城もよく分かんないって言ってたもんな……」
夜高ミツル
「真城の身体が真城の思う通りだったらいいって意味で」
夜高ミツル
「そういう意味では、俺もそうだったらよかったと思う」
真城朔
「なるにしても、ちゃんと自分でどうにかできて」
夜高ミツル
「……無茶なこと言ってるのは俺の方だ」
夜高ミツル
背中を撫でていた手を頭の方に持ち上げる。
真城朔
手応えは芳しくない様子でしょんぼりしている。
夜高ミツル
「……多分俺の方の問題なんだよな……?」
夜高ミツル
「なんか……俺の側の何かが足りてないんじゃ……」
夜高ミツル
目を閉じて、女の真城の身体を思い起こしたりする。
夜高ミツル
真城の身体の中の知らない場所に触れたかった。
真城朔
それは、あの時求めたものとは少し違うけれど。
夜高ミツル
違うけど、いつもの大好きな真城の体温。
夜高ミツル
あの時の様子を思い出すミツルの動悸も同じく。
夜高ミツル
触れてないところが少しもないくらいに、
真城朔
しがみつく強さで服越しに肌を合わせていた。
真城朔
あの時のような肉の柔らかさではなく、骨の浮く身体の細さの方が感触として伝わる。
真城朔
重ねた唇が息をついで、鼻先に生ぬるく吹きかけられ。
真城朔
何度も愛されてきた肉の薄い身体が、ミツルの腕の中にある。
夜高ミツル
腰に触れる固さも熱もいつも通りのそれで。
真城朔
やはりいつもと変わらない真城の、潤んだ瞳がそこにある。
真城朔
ミツルにしがみついたまま、自分の身体を見下ろした。
夜高ミツル
重なった身体の薄さは見なくても伝わる。
夜高ミツル
「……これは、俺の勝手な気持ちなんだけど」
夜高ミツル
「真城に好き勝手してきたやつと俺は違うんだっていうのは」
夜高ミツル
「……ちょっと、嬉しい気持ちも、ある」
夜高ミツル
崩れ落ちた真城の身体を受け止めている。
夜高ミツル
真城をソファに座らせ、自分は後ろに立っている。
真城朔
髪はしな……になっていたのが、今まさに乾かされている。
夜高ミツル
会話は続けつつ髪に触れて、温風に当て……
夜高ミツル
「……真城が嫌だったらやだなーとは思ってたけど……」
真城朔
どうでもいい相手からの身勝手な背徳的欲望でもなければその望みに応えられないのか……みたいなかなしみが空気感に漂っている。
夜高ミツル
しょぼしょぼになってる頭を撫でるようにしながら乾かしていく。
夜高ミツル
暫くそうした後、やがて手を止めてドライヤーのスイッチを切り、
真城朔
スイッチが切られたので、堂々とミツルを振り返ります。
夜高ミツル
ドライヤーはソファに転がしてしまって、そのまま真城の身体に腕を回す。
夜高ミツル
内心の機微までは分からないけど、落ち込んでた様子だったので……。
夜高ミツル
掌は今しがた乾かしたばかりの髪を撫でつけている。
夜高ミツル
「……だから、もし変わらなかったの気にしてるなら」
夜高ミツル
それから腕を離して、ソファの正面側に回る。
夜高ミツル
男でも女でも、真城を好きだと思うのには変わりない。