2021/02/20 昼過ぎ

真城朔
そこそこの時間に起きて朝ごはんを食べて、
真城朔
ひととおり家事を済ませてお昼ごはんも食べて、
真城朔
今はのんびりソファで二人。
夜高ミツル
いつものように並んで寄り添って。
夜高ミツル
いつもと違うところがあるとしたら、ミツルが妙にソワソワした様子を見せていることくらい。
真城朔
「…………」
真城朔
そのミツルの横顔をまじまじと眺めている。
真城朔
眺めては、小首をかしげている。
夜高ミツル
家事をしているときも、どことなく心ここにあらずと言った感じで……。
真城朔
一応テレビはついているがあんまり二人とも見ておらず……
夜高ミツル
チラチラと真城の方を見ては、何かを言おうとしたりやっぱりやめたり。
夜高ミツル
「……」
真城朔
「?」
真城朔
逆方向に首を傾げた。
夜高ミツル
首を傾げられている……。
真城朔
テレビはなんかお昼のニュースとかやってる。ローカルなやつを……
真城朔
じー……
夜高ミツル
不審がられているなあ……
真城朔
ローカルなニュースが終わった。
夜高ミツル
その間も言おうか言うまいか何度も逡巡し……
真城朔
なんか結構長続きしてるバラエティが始まり……
真城朔
けっこううるさい感じ。
真城朔
なのでリモコンを取った。
真城朔
止めた。
真城朔
テレビ消えた。
夜高ミツル
静か……
真城朔
リモコンをテーブルに戻して……
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「え」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「うん」
真城朔
「……?」
真城朔
何に対する……? みたいな顔。
夜高ミツル
ミツルもよく分かってない。
夜高ミツル
おたおたしている。
真城朔
静かになったリビングに漂うなんともいえぬ空気感……
夜高ミツル
「な、何……?」
真城朔
「なんか」
真城朔
「気になること」
真城朔
「……ある……?」
夜高ミツル
「う、」
真城朔
「う」
夜高ミツル
「……」
真城朔
「…………?」
夜高ミツル
チラ、と真城を横目に見て
真城朔
見られる。
夜高ミツル
それから真城の方に身体を向ける。
真城朔
向けられました。
真城朔
こちらもミツルに膝を向けます。
真城朔
じ。
夜高ミツル
向かい合った姿勢でまた口を開いたり閉じたりしていたが、
夜高ミツル
やがて腹を括ったように
真城朔
ミツルの挙動不審を見守っている。
夜高ミツル
「……あ、のさあ」
真城朔
「?」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「あの、な」
夜高ミツル
「こういうこと言って」
夜高ミツル
「もし真城が嫌だったら」
夜高ミツル
「そうだったら申し訳ないんだけど……」
真城朔
「?」
真城朔
「どういう……?」
夜高ミツル
ごにょごにょとそんな前置きをして、
真城朔
疑問符が浮かんでいる。
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「……俺、が」
夜高ミツル
「女の真城とも、したいって、」
夜高ミツル
「そう、思ったら……」
夜高ミツル
「……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城は、そう、なるのか?」
真城朔
目を瞬いた。
真城朔
「え」
真城朔
「あ」
真城朔
「…………」
真城朔
視線が落ちる。
真城朔
膝の上に指が乗って
夜高ミツル
「え、と」
夜高ミツル
「あのな」
夜高ミツル
「俺は、真城が真城だから好きで」
真城朔
落ち着かなさそうにもぞもぞと動いた。
真城朔
「う」
真城朔
「……ん」
真城朔
こくん……
夜高ミツル
「男でも女でも、真城だったら好きだし」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「好きだから、その、そういうこともしたいって」
夜高ミツル
「思う」
夜高ミツル
「思ってて……」
真城朔
「……ん」
真城朔
都度頷きます。
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
さすがに赤くなっている。
夜高ミツル
「それで、その……」
真城朔
赤くなるほどではないが落ち着かなさそう。
真城朔
「それ、で」
夜高ミツル
「こないだ、真城が女でしたいって言ってくれて、」
真城朔
「う」
真城朔
「……うん」
真城朔
言いました……
真城朔
いっぱいだだこねた。
夜高ミツル
「でも、あの時は真城怪我してたから……」
真城朔
してた……
真城朔
思い出したのかちょっとしょんぼりになった。
真城朔
肩が落ち……
夜高ミツル
「えーと、だから、今はもう治ったから」
真城朔
「なおっ」
真城朔
「た」
夜高ミツル
「もし真城がよかったら……」
真城朔
なおりました。頷きます。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「女の真城とも……」
夜高ミツル
「したいなって……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「思い……」
真城朔
「女の……」
真城朔
ぽつ……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
「うん……」
真城朔
なんか頷き返しちゃった。
真城朔
まごまごしながら視線を低めにうろつかせている。
夜高ミツル
こっちも言ったら言ったで落ち着かない様子で真城を見ている。
真城朔
目の前の真城といえば、まあいつもどおりの。
真城朔
いつものルームウェア姿で怪我も治って健やかに、
真城朔
身体は相変わらず薄っぺたく……
真城朔
「…………」
真城朔
不意に腕を持ち上げ、
夜高ミツル
「?」
真城朔
インナーの胸元に指を引っ掛けて
真城朔
ぐいっとその中を覗き込んだ。
真城朔
まじまじと見下ろしている。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
見てる……。
真城朔
同時にもう片方の手を自分の脚の付け根に這わせ……
真城朔
這わせて……
真城朔
「…………」
真城朔
「……た」
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「たぶん」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「たぶん」
真城朔
「……なって、ない……」
真城朔
しょぼ……
真城朔
ぽつぽつ……
真城朔
手を離して膝の上で揃えた。
真城朔
しょんぼりと背中が丸くなる。
真城朔
猫背……
夜高ミツル
「そ、っか」
真城朔
「だ」
真城朔
「だいたいの人、っていうか」
真城朔
「ふつうは」
夜高ミツル
「う、ん」
真城朔
「なんていうか」
夜高ミツル
丸くなった背中に掌を添える。
真城朔
「俺のこと、こう」
真城朔
柔らかい生地越しに浮いた骨の感触が伝わる。
夜高ミツル
いつもと同じ感触。
真城朔
「男だと思ってても」
真城朔
「確信、なかったり」
真城朔
「なんか」
真城朔
「だから、こう」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「俺が男だとわかってて」
真城朔
「その上で女にしたい、みたいな」
真城朔
「そういうのは」
真城朔
「なくて」
夜高ミツル
「あー……」
真城朔
「だから」
真城朔
「だいたい、いつも」
真城朔
「ほんとは女だったんだ、って」
真城朔
「そういうふうに……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「そういうので……」
真城朔
「そういう……」
真城朔
なんの説明をしているのかわからなくなってきている。
真城朔
ぐるぐる……
夜高ミツル
「そう、か……」
真城朔
「わ、かんない」
真城朔
「けど……」
夜高ミツル
背中を撫でて、身体を寄せる。
真城朔
寄せられる。
真城朔
ミツルの肩に頬が乗る。
真城朔
「…………き」
夜高ミツル
「き?」
真城朔
ごにょごにょ……
真城朔
「気運が高まったら」
真城朔
「いつの間にか」
真城朔
「なる、かも」
夜高ミツル
「気運」
真城朔
「気運……」
真城朔
気運?
真城朔
ミツルの肩に頬を預けている。
真城朔
ぴと……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
預けられている。
夜高ミツル
「したいって強く思ったりしたらいいのか……?」
真城朔
「……かも……?」
真城朔
あいまい……
夜高ミツル
「真城もよく分かんないって言ってたもんな……」
真城朔
「…………」
真城朔
しょぼしょぼに頷きます。
夜高ミツル
しょぼしょぼの背中を撫でている。
真城朔
「……もっと」
夜高ミツル
預けられる身体の薄さはいつもと同じ。
真城朔
「自由に」
真城朔
「いろいろ、変われたら」
真城朔
「よかったのに……」
真城朔
薄い身体と、ミツルより少し低い体温。
夜高ミツル
「……俺も、そう」
夜高ミツル
「えーと」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「真城の身体が真城の思う通りだったらいいって意味で」
夜高ミツル
「そういう意味では、俺もそうだったらよかったと思う」
真城朔
少し顔を上げてミツルの顔を見る。
真城朔
「…………」
真城朔
「うん……」
真城朔
うなずき……
真城朔
「こんな」
真城朔
「変な風にならないで」
真城朔
「なるにしても、ちゃんと自分でどうにかできて」
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツに……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「ミツに、望まれたのに……」
真城朔
ぽつりと零すとともに、
真城朔
涙が落ちた。
夜高ミツル
「……無茶なこと言ってるのは俺の方だ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
背中を撫でていた手を頭の方に持ち上げる。
夜高ミツル
ゆるゆると頭を撫でる。
真城朔
撫でられて静かに目を細めた。
真城朔
「でも」
真城朔
「ほかの」
真城朔
「ほかのひとの思う通りには」
真城朔
「なった、のに」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「ミツの役に立たないんじゃ……」
夜高ミツル
「……いや」
夜高ミツル
「役にとかそういうのじゃなく……」
真城朔
「…………?」
夜高ミツル
「俺が無茶振りしてるだけだし……」
真城朔
「……でも」
真城朔
指先でミツルのルームウェアの裾を掴む。
真城朔
「ミツの、望むとおりに」
真城朔
「なりたい……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「そういう風に、思ってくれるのは」
夜高ミツル
「嬉しい……」
真城朔
「…………」
真城朔
また自分の胸元に触れている。
真城朔
ぺたぺた……
夜高ミツル
確かめてる……
真城朔
手応えは芳しくない様子でしょんぼりしている。
真城朔
「……喜ばせるなら」
真城朔
「ミツがいいのに」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「なんで……」
夜高ミツル
「……多分俺の方の問題なんだよな……?」
真城朔
「?」
真城朔
首を傾げた。
真城朔
「ミツは悪くない」
夜高ミツル
「なんか……俺の側の何かが足りてないんじゃ……」
真城朔
「なにか……」
真城朔
「なにか……?」
夜高ミツル
「わかんないけど……」
真城朔
「…………」
真城朔
考え込んでいます。
夜高ミツル
分からない……何も……
夜高ミツル
目を閉じて、女の真城の身体を思い起こしたりする。
夜高ミツル
その柔らかさを。
真城朔
ミツルに身体を添わせている。
夜高ミツル
触れた時の、男の身体とは違う感触。
夜高ミツル
胸の膨らみ。
真城朔
触れてほしいと求められた場所。
夜高ミツル
濡れた肉の手触り。
夜高ミツル
あの時、確かに触れたいと思った。
夜高ミツル
ほしいと思った。
夜高ミツル
真城の身体の中の知らない場所に触れたかった。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
その気持ちは今もある。
真城朔
無言でミツルに寄り添っている。
真城朔
いつもの真城の体温が隣にある。
真城朔
それは、あの時求めたものとは少し違うけれど。
夜高ミツル
違うけど、いつもの大好きな真城の体温。
真城朔
薄い胸の拍動がわずかに早く。
夜高ミツル
あの時の様子を思い出すミツルの動悸も同じく。
真城朔
熱と欲が、
真城朔
からだの奥から。
夜高ミツル
真城がほしい。
夜高ミツル
真城の全部がほしい。
夜高ミツル
触れてないところが少しもないくらいに、
夜高ミツル
隅から隅まで自分の手で確かめたい。
真城朔
いつしかミツルに寄り添うというより、
真城朔
しがみつく強さで服越しに肌を合わせていた。
夜高ミツル
「……真、城」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルの顔を見る。
夜高ミツル
目と目が合う。
真城朔
身を乗り出して。
真城朔
唇を重ねる。
夜高ミツル
受け入れる。
真城朔
ミツルの背中に手が回る。
夜高ミツル
唇を合わせながら、身体も寄せ合う。
真城朔
薄い身体。
夜高ミツル
鼓動が重なる。
真城朔
あの時のような肉の柔らかさではなく、骨の浮く身体の細さの方が感触として伝わる。
夜高ミツル
いつもの真城の身体。
真城朔
重ねた唇が息をついで、鼻先に生ぬるく吹きかけられ。
真城朔
ちろりと舌先が唇を舐める。
夜高ミツル
迎え入れるように唇を開く。
夜高ミツル
舌を差し出して、真城のそれに触れる。
真城朔
招かれるままに舌が重なる。
真城朔
静かなリビングに濡れた音。
真城朔
衣擦れ。
真城朔
深まる口吻に身をさらに寄せながら、
真城朔
けれど肉の柔らかさは未だ。
夜高ミツル
いつもと変わらない。
夜高ミツル
自分よりも薄く華奢な真城の身体。
夜高ミツル
それを両腕で抱きしめている。
真城朔
何度も愛されてきた肉の薄い身体が、ミツルの腕の中にある。
真城朔
絡めた舌が互いの唾液を混ぜ合わせて、
夜高ミツル
腰に触れる固さも熱もいつも通りのそれで。
真城朔
名残惜しげに唇が離された末に、
真城朔
やはりいつもと変わらない真城の、潤んだ瞳がそこにある。
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルにしがみついたまま、自分の身体を見下ろした。
夜高ミツル
重なった身体の薄さは見なくても伝わる。
真城朔
しょんぼりと眉を下げた。
真城朔
落胆に身体が脱力する。
真城朔
ミツルの腕に体重がもたれ……
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
べちゃ……
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
体重を受け止めて、背中を撫でている。
真城朔
「ならない……」
真城朔
しゅん……
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「いいんだ」
真城朔
「でも」
真城朔
「ミツが……」
真城朔
「せっかく……」
夜高ミツル
「……真城が男でも女でも」
夜高ミツル
「真城なら好きだけど」
夜高ミツル
「でもやっぱり、俺は」
夜高ミツル
「いつもの真城が好きみたいだ」
真城朔
「……う」
真城朔
うになった。
夜高ミツル
「……だから、気にしないでくれ」
真城朔
「でも……」
真城朔
でもでもだって……
真城朔
「なんで……」
真城朔
「なんで」
真城朔
「どうでもいい人の」
真城朔
「ばっかり」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「ミツが……」
真城朔
「ミツの望むのが」
真城朔
「欲しい、のが」
真城朔
「俺は」
真城朔
「いちばん……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
いちばん……とか細い声で繰り返している。
夜高ミツル
「……いいんだ」
夜高ミツル
「……いつもの真城が、好きだよ」
夜高ミツル
「変なこと言ってごめんな……」
真城朔
「……変、なのは」
真城朔
「俺の方だから」
真城朔
「…………」
真城朔
「俺が……」
真城朔
「ミツは悪くない……」
真城朔
「そもそも」
真城朔
「最初、望んだのだって」
真城朔
「俺の方で……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「叶えてくれようとした」
真城朔
「だけ、で」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「真城が望んでくれたから」
夜高ミツル
「叶えたかったし」
夜高ミツル
「俺自身も、そうしたかった」
真城朔
「……でも」
真城朔
「俺のほうが……」
真城朔
だめで……とかごにょごにょと言っている。
夜高ミツル
「……でも」
夜高ミツル
「……これは、俺の勝手な気持ちなんだけど」
夜高ミツル
「他の、」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「真城に好き勝手してきたやつと俺は違うんだっていうのは」
夜高ミツル
「だから変わらなかったんなら」
夜高ミツル
「……ちょっと、嬉しい気持ちも、ある」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルの肩に頬を寄せて、
夜高ミツル
「……分かんないけどな」
真城朔
そのままずるずると姿勢が崩れ、
夜高ミツル
「そうだったらいいなって」
真城朔
ミツルの胸に顔が埋まる形になる。
真城朔
「…………」
真城朔
「……この」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「今の、俺」
真城朔
「とも」
夜高ミツル
崩れ落ちた真城の身体を受け止めている。
真城朔
「ミツは」
真城朔
「…………」
真城朔
「……した」
真城朔
「い?」
夜高ミツル
「……したいよ」
夜高ミツル
「変わっても、変わらなくても」
夜高ミツル
「真城が真城だから好きだ」
真城朔
しがみついた姿勢で顔を上げ、
真城朔
唇を震わせている。
夜高ミツル
重なった身体はまだ熱が上がったまま。
真城朔
熱に潤んだ瞳がミツルを見上げている。
夜高ミツル
「今の、」
夜高ミツル
「ここにいるいつもの真城が好きだ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……好きだよ」
夜高ミツル
囁いて、顔を寄せる。
真城朔
瞼を伏せて、それを受け入れた。
夜高ミツル
真城をソファに座らせ、自分は後ろに立っている。
夜高ミツル
手にはドライヤー。
真城朔
風呂上がりのぽかぽかです。
夜高ミツル
慣れた手付きで髪を乾かしていく。
真城朔
髪はしな……になっていたのが、今まさに乾かされている。
真城朔
最中に、ぽつりと口を開いた。
真城朔
「……思った」
真城朔
「ん」
真城朔
「だけど」
夜高ミツル
「……ん?」
真城朔
「…………」
真城朔
「なんていうか……」
夜高ミツル
手は動かしながら聞く姿勢。
真城朔
ぼそぼそ……
真城朔
「ミツの、は」
真城朔
「あんまり」
真城朔
「こう」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
乾かされながらぼつぼついう。
夜高ミツル
「あんまり?」
真城朔
「……背徳っぽく、ない」
真城朔
「のが……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
会話は続けつつ髪に触れて、温風に当て……
真城朔
「……かも…………?」
夜高ミツル
していたのが、一瞬止まり
夜高ミツル
「背徳」
真城朔
限りなく自信がなさそうに……
真城朔
「背徳……」
夜高ミツル
「っぽくない……」
真城朔
ちらりとミツルを振り返り……
夜高ミツル
首を捻っている。
真城朔
「あんまり」
真城朔
「こう」
真城朔
2回目。
夜高ミツル
捻っていたが、また手を動かし始める。
真城朔
「ほんとはダメ感」
真城朔
「みたいなのが……」
夜高ミツル
「……なるほど?」
真城朔
「俺も」
真城朔
「全然よかった、し……」
真城朔
「だから……」
真城朔
「…………」
真城朔
しょんぼりになってきた。
夜高ミツル
「……確かに、なんか」
夜高ミツル
「あんまり、そういう感じでは」
夜高ミツル
「なかったかも……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「……真城が嫌だったらやだなーとは思ってたけど……」
真城朔
「やじゃない……」
真城朔
しょぼしょぼ……
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
どうでもいい相手からの身勝手な背徳的欲望でもなければその望みに応えられないのか……みたいなかなしみが空気感に漂っている。
夜高ミツル
しょぼしょぼになってる頭を撫でるようにしながら乾かしていく。
真城朔
乾かされています。
夜高ミツル
暫くそうした後、やがて手を止めてドライヤーのスイッチを切り、
真城朔
スイッチが切られたので、堂々とミツルを振り返ります。
夜高ミツル
ドライヤーはソファに転がしてしまって、そのまま真城の身体に腕を回す。
真城朔
回されました。
真城朔
「……ミツ?」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「うん」
真城朔
「?」
夜高ミツル
内心の機微までは分からないけど、落ち込んでた様子だったので……。
真城朔
なんかしょぼついてた。
夜高ミツル
掌は今しがた乾かしたばかりの髪を撫でつけている。
真城朔
撫でられています。
真城朔
ちょっとうとうととしてきた。
夜高ミツル
「……真城が好きだよ」
夜高ミツル
「変わっても、変わらなくても」
夜高ミツル
「真城が好きだ」
真城朔
「う」
真城朔
「…………」
真城朔
俯く。
真城朔
やや身の置き所のなさを感じている……。
夜高ミツル
「……だから、もし変わらなかったの気にしてるなら」
夜高ミツル
「気にしないで、ほしい」
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「気に、ならない?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
「じゃあ」
真城朔
「気に、しない……」
真城朔
「ことに」
真城朔
「する」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
うなずきうなずき……
夜高ミツル
わしわしと頭を撫でる。
夜高ミツル
それから腕を離して、ソファの正面側に回る。
真城朔
正面からミツルを見ます。
夜高ミツル
ぽす、と真城の隣に腰を下ろし。
真城朔
じ……
真城朔
隣に来られた。
夜高ミツル
隣に座りました。
真城朔
身体を傾ける。
夜高ミツル
改めて、その身体に腕を回す。
真城朔
肉の薄い身体。
夜高ミツル
いつもどおりの真城の身体。
夜高ミツル
男でも女でも、真城を好きだと思うのには変わりない。
夜高ミツル
それは本心からのことで、
夜高ミツル
女の真城としたいと思ったこともそう。
夜高ミツル
だけど、
夜高ミツル
やっぱりミツルにとっては真城は男で、
夜高ミツル
見慣れたこの姿が、一番好きだ。