2021/02/28 早朝
真城朔
降り積もる雪に厳しい冷えが全身を苛むようだった。
真城朔
真城はまたも曙光騎士団から拝借したコートを着込んでいる。
夜高ミツル
並んで白い息を吐きながら、二人の部屋へと帰る。
真城朔
吐く息の白く立ち昇るその先に、ミツルの顔色を窺っている。
真城朔
二人の部屋は予めセットしていた暖房が効き始めた頃だった。
真城朔
想定より相当に早く狩りを終わらせることができていた。
夜高ミツル
ミツルは狩りを終えてからもずっと浮かない表情をしている。
真城朔
玄関に敷き詰めておいたブルーシートの上で、トレンチコートを脱ぐ。
真城朔
下に着込んだコートの前面が返り血で汚れている。
夜高ミツル
コートは裂かれ、返り血ではない真城の血に染まっている。
真城朔
ミツルの服の袖を掴んで、風呂場へと向かう。
夜高ミツル
袖を引かれていると、嫌でもそれがよく目に入る。
真城朔
先月のものと違って、出血は既に止まっているようだが。
真城朔
だから借りたトレンチコートの内側もそれほど汚れてはいなかった。
真城朔
部屋に戻るまでの間に血痕を残す心配もほとんどなかった。
夜高ミツル
ミツルを庇って吸血鬼の攻撃を受けた真城の姿。
真城朔
飛び出して、ミツルを抱き込むような形で一撃を受けて、
夜高ミツル
あれから一年近くが経って、もう真城に余計な傷を負わせることもなくなったつもりだったのに。
真城朔
氷点下に凍える手足に血を巡らせながら、なおも吸血鬼に相対する。
真城朔
浴室に入るより前に足を止めて、ミツルを見る。
夜高ミツル
早足で玄関に戻り、放っておいた武装からナイフを一本抜いて
夜高ミツル
真城が動いている間は一旦刃を引いて……
夜高ミツル
その血で固まった服を、慎重に裂いていく。
真城朔
表面を軽くかすめた程度で、真城が普通の人間だったとしても致命傷には程遠い。
夜高ミツル
先月よりも、連想した5月の狩りよりも、よほど軽い傷ではある。
夜高ミツル
だけど、軽くても真城が自分を庇って受けた傷だ。
真城朔
ぱらぱらと血で固まった服の繊維が落ちている。
夜高ミツル
傷を見て沈み込みながらも、手は動いていく。
夜高ミツル
預けられた背中にこれ以上傷を増やさないよう慎重に。
夜高ミツル
程なくして、血で固まったインナーが縦に裂かれる。
真城朔
端っこに用意していたゴミ袋を引き寄せて……
真城朔
上半身裸のままどうしようの視線をミツルに向けました。
夜高ミツル
狩りに着ていく時点で捨てるの前提みたいなとこあるし……。
真城朔
背中の傷が白い肌にどうしても目立っていた。
夜高ミツル
玄関に戻って、真城が借りた……実質もらってきたトレンチコートなんかをゴミ袋に放り込む。
夜高ミツル
自分のコートも返り血で汚れたり裂けていたり……
夜高ミツル
真城のベルトを手に取って、杭をそこから外していく。
夜高ミツル
汚れているものといないもので分け……。
真城朔
磨かないとやばそうなやつと軽く拭けばよさそうなやつ
夜高ミツル
ミツルの方はナイフは主武装ではないので、使ったのは数本だけ。
夜高ミツル
洗面器にお湯を汲んで、タオルを取って戻ってくる。
真城朔
手早くとはいえシャワーを浴びたのでほかほか。
夜高ミツル
とはいえ怪我人を強引に立たせることもできず……
夜高ミツル
さっさと服を脱いで、血に汚れたものはゴミ袋へ。
夜高ミツル
真城が使ったばかりの浴室はまだあたたかい。
夜高ミツル
汚れをお湯で洗い流しながら、あらためて自分の身体の傷を確認する。
夜高ミツル
真城が庇ってくれたから、こうして大きな怪我もなく自分の足で立っている。
夜高ミツル
気がつけば、シャワーに打たれながらぼんやりと立ち尽くしてしまっていた。
夜高ミツル
頭、身体と手早く洗っていき、シャワーで流す。
夜高ミツル
揃いのルームウェアを着込んで、真城のところへ。
夜高ミツル
お湯とタオルで、杭にまとわりついた血を落としていく。
真城朔
目の前の作業をこなしていくのが得意な二人。
夜高ミツル
この話する時いつも気が進まなそうだな……
夜高ミツル
「いや、まあしてるっちゃしてるけど……」
真城朔
ベッドサイドにはいつも吸血後の止血セットがある。
真城朔
ベッドサイドというか ベッド近くの戸棚というか……
真城朔
ベッドに座り込んだまましょぼしょぼとミツルの様子を見ている。
夜高ミツル
準備を整えて、ベッドに上がって真城の隣へ。
真城朔
ミツルの肩に手をもたせた姿勢のまま視線を彷徨わせ。
夜高ミツル
「……真城が俺を庇ってくれた分怪我した」
夜高ミツル
「俺だって、真城の怪我が治るならこれくらいいいんだ」
夜高ミツル
慣れてきたとはいえ、それが皮膚を突き破る直前はいつもなんともいえない緊張感がある。
夜高ミツル
吸血の邪魔にならないように、意識して身体の力を抜く。
夜高ミツル
与えられる痛みを、それを塗りつぶす心地よさを、受け止める。
夜高ミツル
玄関先での作業で少し冷えた身体が、寄り添って熱を上げていく。
真城朔
その中で今一番に熱い粘膜が、ミツルの傷に触れている。
夜高ミツル
血を吸われて、熱を失っていってるはずなのに。
夜高ミツル
重なって、寄り添いあう箇所はなおさらに。
夜高ミツル
傷に響かないように、いつもよりは控えめに。
真城朔
ほとんどしがみつくような形でミツルに縋り、
夜高ミツル
上がった息の整わないまま、真城を見る。
夜高ミツル
深い呼吸で、少しずつ息を落ち着かせていく。
真城朔
うずく傷に、アルコールの揮発するひんやりとした感覚。
夜高ミツル
けど狩りで負う傷に比べれば大したことはない。
夜高ミツル
火照った身体にその冷たさはむしろ心地よいくらいで。
真城朔
消毒が終わったら止血バンドの裏側を剥がして……
夜高ミツル
狩りのあとはとりあえず寝ようで乾かさないがち。
真城朔
手持ち無沙汰に武器の手入れをしてしまっているが……
夜高ミツル
「ちゃんと、お礼してなかったから……」
夜高ミツル
「お互いに怪我しなくていいように……」
夜高ミツル
「……邪魔って言われても行かないにはならないからな」
夜高ミツル
「邪魔なら、そうならないよう頑張るだけだし……」
夜高ミツル
ちょっと姿勢を正して、真城の言葉に耳を傾ける。
夜高ミツル
「狩人として、俺は邪魔になってないか?」
夜高ミツル
「真城にとって俺がどの程度気を回さないといけないのか」
夜高ミツル
「ちゃんと分かってないと、って思ったんだ」
夜高ミツル
ミツルだって、自分より遥かに強い真城を気にしてしまう。
夜高ミツル
すぐに治る怪我だって、負わなければいいと思う。
夜高ミツル
「俺だって、真城がどんだけ強くても関係ないんだもんな……」
夜高ミツル
「……俺が狩りに行くのは、俺の意思だ」
夜高ミツル
「真城にどれだけ嫌がられても、譲れなくて」
夜高ミツル
「そんなことしか言えないんだけど……」
真城朔
※曙光騎士団所属の狩人。車で送ってくれたりしたぞ。
夜高ミツル
真城がかなり規格外なので、ずっと一緒にいると強い弱いが分からなくなっていくのだ。
夜高ミツル
「そういうとこは確かに俺はまだ全然だな……」
夜高ミツル
味気ない話にはなってしまったが、おかげで熱の方は先程よりは落ち着いている。
真城朔
真城もミツルに身体を預けて気持ちうとうとしてきている。
夜高ミツル
早鐘を打っていた心臓のリズムも、今はゆっくりといつものテンポで。
真城朔
眠気にとろりとした瞳のままぼんやり考え込み……
夜高ミツル
うつ伏せになるように、真城の身体を横たえる。
夜高ミツル
布団を引き寄せてかけ、ミツルも潜り込む。
真城朔
うつ伏せに潰れたまま、ミツルの方へ身を寄せる。
夜高ミツル
いつものように抱きしめられないので、代わりに頭を撫でる。