2021/03/03 夕方

真城朔
炊飯器のアラームの音。
真城朔
ソファに座っていた真城はぼんやりと顔を上げ、キッチンの方を向いた。
夜高ミツル
「ん、米炊けたな」
真城朔
「炊けた……」
夜高ミツル
「じゃあ準備するかー」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
立ち上がる。
真城朔
真城も頷いて立ち上がった。
真城朔
3月3日、桃の節句。
夜高ミツル
男二人暮らしには縁の薄いものではあるが。
夜高ミツル
まあこれくらいはあやかってもいいだろうと、今日はちらし寿司を作ることにした。
真城朔
広告にあったのがおいしそうで……
夜高ミツル
スーパーに行っても特設コーナーができてるしで、じゃあ作るかーとなった。
夜高ミツル
二人でキッチンに立ち、揃いのエプロンをつける。
真城朔
並んでエプロンを。
真城朔
昨日は天気がひどく荒れていたが、
真城朔
今日は落ち着いていたので買い物に行けた。
真城朔
雪は残っていたが……
夜高ミツル
太陽が出ていたので気持ち暖かかった。
真城朔
のんびり外出。
真城朔
狩り以来初の。
夜高ミツル
散歩も兼ねてのんびりと……
真城朔
のんびりぼんやり……
真城朔
のんびりぼんやり買ってきたちらし寿司の素がキッチンにあります。
真城朔
長方形の包装のそれを取り上げてまじまじと眺めている。
夜高ミツル
「真城は作ったことある?」
夜高ミツル
「ちらし寿司」
真城朔
首を振った。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「食べたことなら……」
真城朔
「昔……」
夜高ミツル
「まあ俺も酢飯扇ぐのと具を乗っけるくらいしかしたことないけど」
真城朔
「酢飯」
真城朔
包装をひっくり返して裏側を見ている。
真城朔
「は、作らなくても」
真城朔
「大丈夫なやつ……」
夜高ミツル
「そうそう」
夜高ミツル
「ご飯にそれを混ぜたら具材入りのやつができる」
夜高ミツル
便利。
真城朔
「便利……」
真城朔
真城もそう言っています。
夜高ミツル
頷く。
夜高ミツル
「具は俺が作るから、真城にはそっちをやってもらおうかなって」
夜高ミツル
パッケージを指す。
真城朔
指し示されたパッケージを見ます。
真城朔
「混ぜる方?」
夜高ミツル
「混ぜるのと冷ますの」
真城朔
「さます」
真城朔
さます……
夜高ミツル
「そうそう、ぱたぱた~って扇いで……」
夜高ミツル
「扇いで……」
夜高ミツル
「……そういえば団扇とかねえな」
真城朔
ぱちぱち
真城朔
まばたき……
真城朔
「うちわ」
真城朔
「…………」
真城朔
手で扇ぐ仕草をしてみるが……
真城朔
当然大した風は立たない 当然だね
夜高ミツル
「手だとちょっと大変すぎると思う……」
夜高ミツル
「んー……」
夜高ミツル
「チラシとか……何枚か重ねて折って……」
真城朔
「ちらし」
真城朔
「わかった」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「頼む」
真城朔
「がんばる」
真城朔
任された者として……
真城朔
※ごはんにちらし寿司の素を混ぜるだけです
夜高ミツル
頼むという感じで頷いている。
真城朔
改めてまじまじとちらし寿司の作り方を見ていますが
真城朔
ふとそのパッケージに目を留めて……
真城朔
首を傾げ……
夜高ミツル
シンク下からボウルとしゃもじを取り出す。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「?」
真城朔
「これ」
真城朔
掲げます。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「けっこう、固い」
真城朔
「から」
真城朔
「うちわになったり……」
夜高ミツル
「……あ」
夜高ミツル
「なるほど」
夜高ミツル
なるほどになった。
真城朔
頷いています。
真城朔
「きれいに切って」
真城朔
「これ」
真城朔
「使う」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ん」
真城朔
戸棚へ……
真城朔
キッチンばさみを取り出して
真城朔
まっすぐ丁寧に切っています。
真城朔
強度を落とさないように……
夜高ミツル
丁寧に切っているな~
夜高ミツル
それを横目に自分の方も具材を作る準備をしていく。
真城朔
共同作業というより分業の趣
夜高ミツル
今回はそんな感じになっている。
真城朔
まあその方が効率がよい。
真城朔
ちらし寿司の素を包装の中から取り出して……
夜高ミツル
鍋を取り出して、水を入れて火にかける。
夜高ミツル
まずは火を使うものから……ということで
夜高ミツル
冷蔵庫から絹さやと卵を2つ取り出す。
真城朔
ミツルの方をちらちらと見ながらボウルにごはんをよそってます。
真城朔
デジタルスケールを使っている。
夜高ミツル
ボウルは真城が使っているので、深めの皿に卵を割る。
真城朔
使わせてもらっている……
夜高ミツル
卵混ぜるだけならなんでもいいから……
夜高ミツル
割った卵を、白身を細かくするように箸でといていく。
夜高ミツル
ぐるぐるぐる……
真城朔
じー……
真城朔
見ている。
真城朔
手が止まりかけているのに自分で気付いた。
真城朔
はた……
夜高ミツル
箸でつまんで白身を切って……
真城朔
ちらし寿司の素を開けます。
真城朔
ボウルによそったお米にかけます。
真城朔
シンプルな作業。
夜高ミツル
シンプルだなあ
真城朔
しゃもじを手に取り……
真城朔
ごはんを混ぜています。
夜高ミツル
既においしそうなにおいがする……
真城朔
酢飯のにおいが……
真城朔
ほかほかのごはんで揮発した酢飯のにおいが漂ってくる。
真城朔
片手でボウルを押さえ、しゃもじで混ぜ……
真城朔
「確か……」
真城朔
「切るように……」
真城朔
とかだった気がする……
真城朔
とかだったはず……
夜高ミツル
「そうそう」
夜高ミツル
「合ってる合ってる」
真城朔
「ん」
真城朔
頷いた。
真城朔
切るようにやっています。
真城朔
ほかほかごはんの真ん中を切り……
夜高ミツル
卵を一通り溶き終わったところで
夜高ミツル
「……あ」
真城朔
十字に切り……
真城朔
「?」
夜高ミツル
呟いて、絹さやのパックに手を伸ばす。
真城朔
ミツルを見ます。
夜高ミツル
「いや……」
夜高ミツル
「ヘタと筋取らないといけないのを忘れてたなって……」
夜高ミツル
「茹でる前に……」
真城朔
なるほど……という顔になる。
真城朔
「やる?」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
頷いた。
真城朔
しゃもじとボウルから手を離してミツルの方に行きます。
夜高ミツル
事前にレシピ確認したからいいだろってふわっとやっていくとこうなる。
夜高ミツル
逐一確認したほうがよい。
真城朔
でも料理をしながら逐一確認するのは面倒……
真城朔
手を伸ばして絹さやを取ります。
夜高ミツル
いつもは真城に確認してもらったりするけど、今日は真城も手が塞がってるから……
真城朔
分業のツケ
夜高ミツル
絹さやを取って……
夜高ミツル
「ここの……ヘタのとこをポキって折って……」
真城朔
じ……
真城朔
ミツルの手元を見ています。
夜高ミツル
「そのまま、筋をこう引っ張って……」
夜高ミツル
「取る」
真城朔
「取る」
真城朔
「…………」
真城朔
自分の手元の絹さやへと視線を戻し……
真城朔
「へたのとこを……」
真城朔
折って……
夜高ミツル
「うん」
真城朔
ぱき……
真城朔
「折って」
真城朔
「引っ張る」
夜高ミツル
うんうん……
真城朔
こわごわ引っ張り……
真城朔
筋がとれていき……
夜高ミツル
ぴ……
真城朔
とれました。
真城朔
とれた筋がくるんって丸くなる。
夜高ミツル
「うまいうまい」
夜高ミツル
「そんな感じでばっちりだ」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
筋取れた組へと入れます。
真城朔
筋取れてない組からまた取って、同じようにやっていく。
真城朔
ぱき……
夜高ミツル
どんどんやっていこう
真城朔
人手が二倍で作業も倍速
真城朔
真城がいちいち慎重なので1.5くらいかもしらん。
夜高ミツル
折っては筋を引っ張り、また折っては引っ張り……
真城朔
そんな量があるわけでもないのですぐ終わりました。
夜高ミツル
「ありがと、真城」
真城朔
「うん」
真城朔
嬉しそうに頷いた。
夜高ミツル
調理中じゃなかったら頭を撫でている。
真城朔
手は清潔に。
夜高ミツル
大事!
真城朔
さすがにわざわざ手を洗ってまではね……
真城朔
気持ちはずんだ足取りでボウルへと戻ります。
真城朔
キッチンで足を弾ませるな。
真城朔
気持ち気持ち……
夜高ミツル
ごきげん
夜高ミツル
下ごしらえの間に鍋のお湯も沸いた。
真城朔
できたのでうれしい。
真城朔
正直ごはんもかなり混ざっている感じで……
真城朔
混ざって……
夜高ミツル
途中で明らかに沸騰しすぎてたのでちょっと火を弱めた。
真城朔
混ぜるだけで終わりじゃなかった。
真城朔
冷ます冷ます……
夜高ミツル
次の工程があるね~
真城朔
混ぜる工程と冷ます工程が……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
鍋に塩を入れて、今しがた筋取りしたばかりの絹さやも入れる。
真城朔
まだほかほかの酢飯を見下ろして怪訝そうな顔になった。
夜高ミツル
ざーっ
真城朔
「これ」
夜高ミツル
「……ん?」
真城朔
「ちらし寿司」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「なんで冷ますの?」
真城朔
根本的疑問が湧いた。
夜高ミツル
お湯の中の絹さやをぐるぐると混ぜ……
真城朔
任された工程なのでやろうとはしています。
夜高ミツル
混ぜながら……
夜高ミツル
「……」
真城朔
うちわ代わりの包装を片手に取り……
真城朔
仰いでいる。
真城朔
ぱたぱた……
夜高ミツル
「なんか……そういえばなんでだろうな……?」
真城朔
「これでも」
真城朔
「おいしそう」
夜高ミツル
「寿司のご飯って冷たいよな……」
夜高ミツル
「別に温かくても良さそうだけどな」
夜高ミツル
ぐるぐる……
真城朔
「不思議……」
夜高ミツル
「なんでだろうなあ……」
真城朔
パッケージうちわで扇いでいましたが、それだと表面しか冷めないことに気づきました。
真城朔
しゃもじを取って混ぜ返す。
真城朔
「お寿司が冷たいから冷ます……?」
夜高ミツル
「扇がないで冷めるのを待つでもよさそうなのにな」
真城朔
頷いています。
真城朔
頷きながら混ぜて……
真城朔
しゃもじを置いて……
夜高ミツル
なんでだろうなあになりつつ鍋の火を止めて、流しにザルを置く。
真城朔
しゃもじを置く必要はないのでは?
真城朔
気付いたので、左手でパッケージうちわを持ちます。
真城朔
混ぜながら扇ごう……
夜高ミツル
鍋をコンロから下ろして、ザルに流す。
夜高ミツル
ざぱー
真城朔
もくもく……
真城朔
暖房を強めに効かせているとはいえ冬の北海道で寒いので
真城朔
熱を使って料理してるとなんとなく暖を取れる感じがある。
夜高ミツル
熱がもわっと
真城朔
暑い夏なんかは逆
夜高ミツル
蛇口を捻って、絹さやも水で冷ましていく。
真城朔
もくもくが冷えていく……
夜高ミツル
ひえひえ……
真城朔
お米を冷まし冷まししながらそちらを見ています。
夜高ミツル
余熱が取れてきた所で、水を止める。
夜高ミツル
ザルを軽く揺すって水気を切る。
真城朔
手慣れている……
夜高ミツル
絹さやはこれでよし……
夜高ミツル
台の隅の方にザルを置いて、次に取りかかる。
真城朔
置かれたザルを見ている。
真城朔
ぱたぱたしつつ……
真城朔
「…………」
真城朔
「絹さや」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「切る?」
夜高ミツル
「あとでまとめて切ってこうかなって思ってた」
真城朔
「やる……」
真城朔
「たぶん」
真城朔
「ちょっと手、離しても」
真城朔
ちらりと酢飯を見て……
夜高ミツル
「お」
真城朔
「ちょっとくらいなら……」
夜高ミツル
「じゃあ、頼む」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
さすがにいくらなんでも自分の任せられた工程が簡単すぎることに気付いているぞ。
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
「やる」
真城朔
くるりと大きめに酢飯を混ぜ返してから、
真城朔
まな板の方に行きます。
真城朔
まな板を出して 絹さやのザルを持ってきて
夜高ミツル
そちらは任せて、フライパンを取り出す。
真城朔
えーと……
真城朔
「…………」
真城朔
「どんな」
真城朔
「どんな感じに」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「切る……?」
夜高ミツル
「あー」
真城朔
任されといて訊いてしまった……
夜高ミツル
「そうだなー、俺だったら普通に半分に切るかな」
真城朔
「はんぶん……」
真城朔
「わかった」
真城朔
頷き……
夜高ミツル
「もっと小さい方がよかったらそれでもいい」
真城朔
「小さい方が……」
真城朔
「…………」
真城朔
悩んでいる……
真城朔
悩みながら包丁を取った。
真城朔
ぎゅっと握り……
真城朔
えーと……
真城朔
猫の手
夜高ミツル
「真城がこれくらいだったら食べやすいって大きさになってたら」
夜高ミツル
「それで大丈夫」
真城朔
「これくらいだったら……」
真城朔
まな板の上の絹さやを見ます。
真城朔
「…………」
真城朔
猫の手……
真城朔
猫の手を添え……
夜高ミツル
うんうん……
真城朔
とすん……
真城朔
だいたい1/4くらいに切りました。
夜高ミツル
コンロの火をつけるのをちょっと待って見守っている。
真城朔
斜めにするみたいな色気もなく真横に……
真城朔
真横のぶつ切り4つ切り
夜高ミツル
食べやすい大きさになってたら正解!
真城朔
正解だと思ってがんばるぞ~。
夜高ミツル
大丈夫そうなので、フライパンを火にかける。
真城朔
切れたのを脇に避けて続きをやっていっています。
真城朔
手際は良くないが切るだけなので流石にちゃくちゃく進んでいく。
真城朔
固くもないし……
夜高ミツル
卵を軽く混ぜなおし……
夜高ミツル
「慣れてきた?」
夜高ミツル
「包丁」
真城朔
「あ」
真城朔
手が止まった。
真城朔
「えっと」
真城朔
「ミツみたいには」
真城朔
「まだ……」
夜高ミツル
止めさせてしまった……
真城朔
しょぼ……になった。
真城朔
なったことで手が止まったことに逆に気付いた。
真城朔
再開……
夜高ミツル
「まあ俺は3年くらいやってるからなー」
真城朔
「経験……」
夜高ミツル
「でも真城も俺くらいだったらすぐなれると思うけどな」
真城朔
とすん……とすん……
真城朔
淡々と絹さやを切っていますが
真城朔
「すぐは……」
真城朔
むずかしそうなかおをしている。
夜高ミツル
「すぐって言ってもまあ、」
夜高ミツル
「1年くらい?」
真城朔
「一年」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「あー、でも春になったらしばらくできなくなるしな……」
真城朔
思いを馳せている。
真城朔
「あ」
夜高ミツル
「難しいな……」
真城朔
そうだった……という顔。
真城朔
「…………」
真城朔
「気長に……」
夜高ミツル
フライパンに油を引く。
真城朔
これでもましになってきた慣れない手つきで
真城朔
絹さやを1つ1つ切っています。
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
「ミツが」
夜高ミツル
そこに溶き卵を流し込む。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「教えてくれる」
真城朔
「から」
真城朔
「やれてる」
夜高ミツル
フライパンを傾けて、厚みが均一になるように……
夜高ミツル
「もっと色々教えてやれたらいいんだけどなー」
真城朔
「?」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「教わってる……」
夜高ミツル
「そう思ってくれるならよかったけど……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「思ってる……」
真城朔
思ってるという主張
夜高ミツル
卵が焦げ付かないよう、弱火で……
真城朔
とんとんとん……
夜高ミツル
「……まあでも」
真城朔
これ手で押さえる必要もしかしてないんじゃない? というものぐさな気付きによりペースがちょっと上がっている。
夜高ミツル
「真城とこうやって並んで飯作れるのが、単純に」
夜高ミツル
「結構嬉しいし楽しいな」
真城朔
上がっているのがちょっと止まった。
夜高ミツル
ある程度卵が固まってきた所で、火を止めて蓋をする。
真城朔
「たの」
真城朔
「しい?」
夜高ミツル
ネットで薄焼き卵の作り方を確認したらそうするといいって書いてあった。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
「すぐ」
真城朔
「わかんなく、なって」
真城朔
「訊いてる」
真城朔
「……ちゃう」
真城朔
「け、ど……」
夜高ミツル
「そんなの全然いいって」
夜高ミツル
「俺もよく真城にレシピ確認してもらってるし」
真城朔
「それは……」
真城朔
「手伝い」
真城朔
「だし」
真城朔
「できる、こと」
真城朔
「少ない」
真城朔
「から」
夜高ミツル
「確認するのは大事ってこと」
真城朔
「…………」
真城朔
すとん……
真城朔
絹さやが切り終わった。
夜高ミツル
「最初は分かんないのが当たり前だしな」
真城朔
切れた絹さやをまとめてザルに戻している。
真城朔
できることをやっている……
夜高ミツル
「俺は真城と一緒のことができて楽しいよ」
真城朔
「……ミツが」
真城朔
「嬉しい」
真城朔
「なら」
夜高ミツル
「真城が待っててくれるなって思いながら作るのも好きだけど」
真城朔
「…………」
真城朔
ざるを見下ろしている。
夜高ミツル
「一緒にやると、もっとだな」
真城朔
「…………ん」
真城朔
「うん」
真城朔
「……えっと」
真城朔
ざるを見せて……
真城朔
「……切り方」
真城朔
「変じゃない?」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
ぶつ切りの絹さやたち。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「ばっちり」
真城朔
「ばっちり……」
真城朔
じー……
夜高ミツル
ミツルの方もそんなに見栄えにこだわる方ではないので……。
夜高ミツル
食べやすい大きさにちゃんと切れてるからばっちり!
真城朔
ばっちりらしい。
真城朔
「なら」
真城朔
「よかっ」
真城朔
「た」
真城朔
ざるを元の場所に戻し……
真城朔
包丁とまな板を洗い始めます。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
じゃぶじゃぶ
夜高ミツル
放置していたフライパンの蓋を取る。
真城朔
元の場所にまな板と包丁を戻し……
真城朔
フライパンの方に視線が行く。
夜高ミツル
余熱でちゃんと卵が固まっている。
真城朔
かたまってる……
真城朔
すごい……
夜高ミツル
端の方に箸を入れてちょっと持ち上げてみて……
夜高ミツル
焦げてない……
夜高ミツル
よしよし。
真城朔
手を拭いて……
真城朔
手を拭いたので、酢飯に戻ります。
真城朔
かなり冷めている感じがする……
真城朔
ボウルの側面を触ったりしている。
真城朔
うーん……
夜高ミツル
真城が洗ってくれたまな板の上に、薄焼き卵を乗せる。
夜高ミツル
焦げてないし破けもしなかった。
夜高ミツル
よかった~
真城朔
きれいな薄焼き卵……
夜高ミツル
「……そっちもう大丈夫そうな感じか?」
真城朔
「え」
真城朔
「と」
真城朔
水を向けられてちょっと狼狽えた。
真城朔
思わずボウルを抱え……
真城朔
「…………」
真城朔
「どう……?」
真城朔
ミツルへと差し出した。
夜高ミツル
差し出された。
夜高ミツル
ボウルの底に触れる。
夜高ミツル
ぺた……
真城朔
あまり熱を感じない仕上がり。
真城朔
真城本人は不安そうにミツルを見ている。
夜高ミツル
「底の方まで冷めてるっぽいから」
夜高ミツル
「これで大丈夫」
夜高ミツル
手を離す。
真城朔
ほ…………
真城朔
安堵の息をついてから、
真城朔
表情が緩む。
夜高ミツル
「あとはこっち切っちゃわないとな」
真城朔
つやつやの酢飯です。
真城朔
かんぴょうとかにんじんとかしいたけとかれんこんとかが混ぜ込まれた……
夜高ミツル
いい匂いがする。
真城朔
「お皿」
真城朔
「出す?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ん」
真城朔
真城は食器棚へ……
夜高ミツル
ミツルはまな板の前へ。
夜高ミツル
薄焼き卵の端のパリパリの部分をスッと切り落としていく。
真城朔
見栄えのしない部分
夜高ミツル
ちらし寿司なら細かく刻んでかけるといいと書いてあったのであとでそうすることにする。
夜高ミツル
とりあえずはメインの部分から……
真城朔
平たい皿を大小持ってきています。
夜高ミツル
薄焼き卵を4等分の幅に切って重ねて……
夜高ミツル
とん、とん、とんと端から細切りにしていく。
真城朔
切っている……
真城朔
お皿を持ってきて しゃもじを添えたボウルを抱えて
真城朔
盛り付けるかと思いきや隣からミツルの包丁使いを見ています。
夜高ミツル
さすがに少しゆっくりめに包丁を動かしている。
夜高ミツル
幅にばらつきが出ないように……。
夜高ミツル
とんとんとん……
真城朔
真城にしてみれば十分にリズミカル
夜高ミツル
糸というほど細くもないけど、程々の細さでそれなりにサイズの整った錦糸卵が生産されていく。
真城朔
「細い……」
真城朔
素朴な感想
夜高ミツル
「んー」
夜高ミツル
手元に集中しているので生返事が出た。
真城朔
「こまかい」
夜高ミツル
「こういうの結構好き」
真城朔
「高度な趣味……」
夜高ミツル
「なんか……綺麗にできると達成感があるというか……」
真城朔
「きれいに……」
真城朔
錦糸卵を見る。
真城朔
「できてる……」
夜高ミツル
「錦糸卵初めてだからちょっと緊張したけど」
夜高ミツル
「できてよかった……」
夜高ミツル
すと、と端まで切り終わる。
真城朔
「できてる」
真城朔
二回目。
真城朔
「すごい」
夜高ミツル
「できたー」
真城朔
「できた」
真城朔
手が埋まってなかったら小さく拍手したかも知れない。
夜高ミツル
「よかったよかった……」
夜高ミツル
焦がさないか、破かないか、切るのに失敗しないかで3つハードルがあった……
夜高ミツル
無事乗り越えられました。
真城朔
すごい……という目をしています。
真城朔
盛り付けに来たはずのボウルをすっかり抱え込んでいる。
夜高ミツル
錦糸卵はちょっと脇によけて、切り落とした端っこを刻んでいく。
真城朔
はっ……
夜高ミツル
こっちは形を気にする必要がないので手早く。
夜高ミツル
すととと……
真城朔
思い出しました。
真城朔
目的を。
真城朔
ボウルを置いて……
真城朔
しゃもじで混ぜ酢飯をちまっと掬う。
夜高ミツル
刻み終え、包丁を置く。
真城朔
普通のご飯茶碗よりまあ少ないくらいの量を……
真城朔
それを小さい方の皿に乗せた。
夜高ミツル
ちまっ
真城朔
これでもまあ増えた。
真城朔
「ミツは」
真城朔
「どれくらい……?」
夜高ミツル
食べれる量が増えてるのが分かる度に嬉しい。
夜高ミツル
「んー」
夜高ミツル
「ちょい多めくらい」
真城朔
「ちょいおおめくらい」
真城朔
反復。
夜高ミツル
二人で暮らして数ヶ月、いつもくらいとかいつもより多めとか、そういう指示で伝わるようになった。
真城朔
頷いて……
真城朔
とりあえず普段と同じくらいを盛りつけてから……
真城朔
ちょい多めくらいを足した。
真城朔
しゃもじで形をととのえととのえ……
夜高ミツル
そういうことに、時折ふと二人で過ごす日々が当たり前になったことを感じる。
夜高ミツル
冷蔵庫からメインの具を取り出して、台に並べる。
夜高ミツル
エビ、いくら、パックの刺し身。
夜高ミツル
パックの中身はマグロとサーモンの盛り合わせ。
夜高ミツル
せっかく作るんだから豪勢にやろうとなった。
真城朔
ととのえ終わってその残りを見下ろしている。
夜高ミツル
した。
真城朔
いい感じの切り落としがあってよかった~。
真城朔
「これ」
真城朔
「残り」
真城朔
「冷蔵庫に……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「頼む」
真城朔
ボウルの中身を見せます。
真城朔
頷いた。
真城朔
ラップを張って……
真城朔
タッパーに詰めるのは食後でいいでしょう。
真城朔
おかわりの可能性がなくもない。
夜高ミツル
皿に盛られた米の上に刻み卵をちらし……
夜高ミツル
もう一皿にもちらしちらし
真城朔
冷蔵庫に入れて戻ってきました。
真城朔
散らされている。
真城朔
「ちらし寿司」
夜高ミツル
その上に更に錦糸卵を乗せ
夜高ミツル
「卵乗るだけでも結構それっぽいよな」
夜高ミツル
乗せて乗せて
夜高ミツル
まな板が空いた。
真城朔
こくこく……
真城朔
「まな板」
真城朔
「洗う……」
夜高ミツル
「まあメインはここからなわけだが」
夜高ミツル
「ん、よろしく」
真城朔
頷いた。
夜高ミツル
まな板を渡す。
真城朔
受け取って流しへ。
真城朔
じゃー……
真城朔
「お刺身」
真城朔
「豪華」
夜高ミツル
「なー」
夜高ミツル
「贅沢感あるよな」
夜高ミツル
実際に贅沢をしているわけだが……
真城朔
スポンジをあわあわしながら……
真城朔
「今日」
真城朔
「買いに行けて」
真城朔
「よかった」
真城朔
昨日は雪がすごかったので……
夜高ミツル
「今日も出られないんじゃないかと思ってた」
真城朔
「3月なのに」
真城朔
「ぜんぜん冬……」
夜高ミツル
「全然冬だよなあ」
真城朔
「北海道」
夜高ミツル
パックを出したまま手が止まっていたのに気づいて、
夜高ミツル
刺し身のパックに手を伸ばして、開ける。
夜高ミツル
「……金曜はちょっと暖かいらしいけど」
夜高ミツル
「マジか~? って感じ」
真城朔
「3月になる前は」
真城朔
「今頃もっとあったかいって……」
真城朔
言ってた気がするのに……
夜高ミツル
いい感じの小さな切り落としがたくさん入っている。
夜高ミツル
「全然冬だな……」
夜高ミツル
「もうちょっと暖かくなったら北海道も観光行きたいな」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
いい感じの切り落としを、いい感じにちらしていく。
真城朔
いい感じにいい感じに。
真城朔
ずっと引きこもってるからな……
夜高ミツル
刺し身があるとかなり豪勢な見た目。
真城朔
「バイクは無理でも」
真城朔
「でん……」
真城朔
「…………」
真城朔
ざぱー……
夜高ミツル
「とりあえずタクシーで近場回ってみようぜ」
真城朔
包丁を戻しています。
夜高ミツル
「札幌だけでも色々見れるだろうし」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷く。
真城朔
まな板を立てながら……
真城朔
「……電車、も」
真城朔
「別に……」
真城朔
だいじょうぶ……
真城朔
もそもそ言ってます。
夜高ミツル
「電車はまあ……人の少なそうな時間ならだな」
夜高ミツル
切り落としを散らした。
夜高ミツル
真城の方が具の割合が多め。
真城朔
お米が少ないからね……
夜高ミツル
結構いつもこうなる。
真城朔
ちょっと申し訳ないような気がする。
夜高ミツル
いいっていいって。
真城朔
手を拭いて戻ってきた。
真城朔
「あとは……」
真城朔
「あ」
真城朔
「絹さや?」
夜高ミツル
「うん、それも」
夜高ミツル
エビのパックを開けつつ。
夜高ミツル
あっまな板洗ってもらう前にこれも切ればよかったな……。
夜高ミツル
キッチンバサミでいいか……。
真城朔
けっこう切れる。
夜高ミツル
手を伸ばしてハサミを取る。
真城朔
なかなか大きなえび
夜高ミツル
ボイル済のそのまま食べれるやつ。
夜高ミツル
を、ハサミで切り落としていく。
夜高ミツル
ばつばつ
真城朔
ぶつ切りになっていくえびたち……
真城朔
絹さやのざるを持ってスタンバイしています。
夜高ミツル
一尾また一尾と……
真城朔
するほどのことか?
夜高ミツル
無事えびたちもちらされました。
真城朔
散らされたえび。
真城朔
絹さやをミツルに差し出します。
夜高ミツル
「ん、ありがと」
夜高ミツル
受け取りました。
真城朔
「ん」
真城朔
渡しました。
真城朔
キッチンばさみを取って流しに行く。
真城朔
洗うぞ~
夜高ミツル
受け取ったボウルから絹さやをぱらぱらと……
夜高ミツル
緑が入るとかなり彩り豊かな感じになる。
真城朔
黄色と赤と緑と……
夜高ミツル
見た目にかなりワクワク感がある。
夜高ミツル
18歳になってもかなりワクワクする。
真城朔
自分で作ったから更にワクワクが。
夜高ミツル
真城と一緒に作った。
夜高ミツル
最後にいくらを手に取る。
真城朔
きらきらのぷちぷち
夜高ミツル
さすが北海道……。
夜高ミツル
いくらの輝きが違う気がする。
夜高ミツル
千葉でいくら買ったことないけど。
真城朔
買わないな~
夜高ミツル
きらきらのぷちぷちたちを丁寧に乗せていく。
真城朔
なんとなく海鮮が全体的に輝いて見える。
真城朔
キッチンばさみを洗い終えて戻ってきた真城もそう思いました。
真城朔
「いくら」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「家で食うのにいくら買うの初めてだ」
夜高ミツル
乗せ乗せ……
真城朔
「ぴかぴかしてる……」
真城朔
「新鮮感」
夜高ミツル
「な~」
夜高ミツル
「なんかいいんだろうな、質が」
夜高ミツル
「北海道だし」
夜高ミツル
北海道の海鮮への全幅の信頼。
真城朔
「北海道」
真城朔
北海道はすごいな~
夜高ミツル
すごいな~
夜高ミツル
北海道だなあと思いながら、いくらの盛り付けも終わりました。
真城朔
終わった。
真城朔
「完成?」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「……できた!」
真城朔
「できた」
真城朔
小さくぱちぱち……
夜高ミツル
「できた~」
真城朔
やった~
真城朔
「お茶」
真城朔
「淹れる……」
真城朔
急須急須……
夜高ミツル
「ん、頼む」
夜高ミツル
お茶は任せて、ちらし寿司の皿を食卓へ。
夜高ミツル
大小二つのちらし寿司が食卓に並ぶ。
真城朔
ちらしたな~
夜高ミツル
ちらしたものたちがつやつやしてる。
夜高ミツル
かなり見た目の満足度が高い。
真城朔
刺身といくらはやっぱり強い
真城朔
湯呑みを二つ持って真城も食卓に来ます。
夜高ミツル
エビもなんかぷりぷりしてるし。
夜高ミツル
北海道~
真城朔
湯呑みを並べて……
真城朔
北海道で作ったちらし寿司を見ます。
真城朔
「ちらし寿司」
真城朔
「できた……」
真城朔
さっきも言った。
夜高ミツル
「できたなー」
夜高ミツル
「……っと、箸忘れてた」
真城朔
「あ」
夜高ミツル
見て満足している場合ではなかった。
夜高ミツル
台所に行き、箸を二膳取って戻ってくる。
真城朔
「ありがとう」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
並べます。
真城朔
ついでにおしぼりも……
夜高ミツル
いつもの食卓の準備。
真城朔
できたできた~
夜高ミツル
メインの方はかなりいつもより豪華。
真城朔
なんせ寿司。
夜高ミツル
具がたくさん。
夜高ミツル
「よし、食うか」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
寿司を前に、やや浮かれている。
真城朔
浮かれポンチになっちゃった。
夜高ミツル
そこまでじゃねえよ
夜高ミツル
手を合わせる。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
同じく手と声とをあわせる。
真城朔
箸を取り……
真城朔
うーんと……
真城朔
酢飯と刺身をいい感じにつまんで……
夜高ミツル
どこから行くか迷うけど具がたくさんあるからどこから箸をつけても何かしらある。
夜高ミツル
豪勢~。
夜高ミツル
箸でエビと酢飯を取る。
真城朔
食べました。
真城朔
むぐむぐ……
夜高ミツル
ミツルの方も口へ運び……
夜高ミツル
ぱくっ
夜高ミツル
もぐもぐ
真城朔
ごく……
真城朔
「…………」
真城朔
「お寿司……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「うまい」
真城朔
頷いた。
真城朔
「ちらし寿司」
真城朔
「おいしい」
夜高ミツル
「なー」
真城朔
「たまご」
真城朔
「ふわふわ」
夜高ミツル
「うまくできて良かった……」
夜高ミツル
また一口、今度は刺し身を。
夜高ミツル
むぐむぐ……
真城朔
こっちは絹さやといくらで……
真城朔
さっきよりも米少なめ。
真城朔
もぐもぐしてます。
真城朔
長めに。
夜高ミツル
「真城が作ってくれた酢飯もちゃんとできてる」
夜高ミツル
「ムラができたりしてないし」
夜高ミツル
「おいしい」
真城朔
「ん」
真城朔
「…………」
真城朔
むぐむぐになっている……
真城朔
なっているので喋れないが
夜高ミツル
なってるなー
真城朔
こくこく頷いた。
真城朔
やっと飲み込む。
真城朔
「よかった……」
真城朔
「いくら」
真城朔
「すごい」
真城朔
「いくら……」
真城朔
いくらが……
夜高ミツル
「すごいか」
夜高ミツル
「俺も食お」
夜高ミツル
「すごそうだもんな」
夜高ミツル
見た目がつやつやで……
真城朔
「ぷちぷち……」
真城朔
「つよい」
夜高ミツル
いくらの辺りに箸を伸ばし、口へ運ぶ。
夜高ミツル
むぐむぐ……
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
じ……
真城朔
ミツルを見ています。
真城朔
食べるペース遅いのでそういう時間が多いのはいつものこと……
夜高ミツル
お互いに相手が食べるのを眺めて手が止まりがち。
真城朔
食べろ~
夜高ミツル
今は食べている。
夜高ミツル
ごくん。
真城朔
「どう?」
夜高ミツル
「なんか……味が濃い気がする」
夜高ミツル
「いくら自体いつぶり? って感じなんだけど」
真城朔
「うん」
真城朔
頷いている。
夜高ミツル
「でも千葉のいくら絶対こんなんじゃなかったと思う」
真城朔
「鮮度……?」
夜高ミツル
「なのかなーやっぱり」
夜高ミツル
「千葉のはもっとふにゃふにゃしてた気がする……」
真城朔
「鮮度と……」
真城朔
「産地……?」
夜高ミツル
「北海道すげえな……」
真城朔
「すごい」
真城朔
思い出したように箸を動かす。
真城朔
えびと酢飯を合わせて……
真城朔
ぱく……
夜高ミツル
湯呑に手を伸ばして、お茶を一口。
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
おいしいという顔をしています。
夜高ミツル
湯呑を手に持ったままなんとなく真城を眺めている。
夜高ミツル
おいしそうにしてて良かった……
真城朔
むぐむぐもぐもぐ……
真城朔
ごくん……
真城朔
「買ったのは」
真城朔
「普通のスーパーだけど……」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
なんか特別なお魚屋さんとかではなく……
夜高ミツル
湯呑を置く。
真城朔
「やっぱり」
真城朔
「違う感じが」
真城朔
「する?」
真城朔
訊いちゃった……
夜高ミツル
「向こうのスーパーでいくらも刺し身も買ったことないけど……」
夜高ミツル
「でも子供の頃家で買ってたのと比べても違う気がするな」
真城朔
「あんまり」
真城朔
「覚えてないけど……」
真城朔
「…………」
真城朔
ちらし寿司を見下ろす。
夜高ミツル
「俺もあやふやだなー」
真城朔
食べかけでもつやつやきらきら……
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「……あれだな」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「真城と一緒に作ったから余計うまいのかも」
夜高ミツル
「という可能性も……」
真城朔
ぱちっと瞬き。
真城朔
ミツルの顔を見て……
夜高ミツル
目が合った。
真城朔
合いました。
真城朔
「…………」
真城朔
「……ん」
真城朔
ふにゃ……
夜高ミツル
笑ってる。
夜高ミツル
うれしい……
夜高ミツル
真城につられるように笑みが深まる。
真城朔
「ミツが」
真城朔
「作ってくれると」
真城朔
「おいしい」
真城朔
「から」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「よかった」
真城朔
「俺は」
真城朔
「ぜんぜん、うまくない」
真城朔
「けど……」
夜高ミツル
「ちゃんとできてるよ」
夜高ミツル
「これから上手くなってけばいいって」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷いて……
真城朔
また刺身と酢飯を……
真城朔
はむ……
夜高ミツル
それを見てやっと思い出したように箸を取る。
夜高ミツル
二人で作ったちらし寿司。
夜高ミツル
具沢山の豪勢なそれを、じっくりと味わう。
真城朔
おいしさを確認し合いながら……
真城朔
逐一感動しながら
夜高ミツル
さすが北海道……
夜高ミツル
そんな感じでパクパクもぐもぐと。
真城朔
飽きもせず北海道に驚きながら
真城朔
完食。
夜高ミツル
お腹いっぱい。
夜高ミツル
「ごちそうさまでした」
真城朔
「ごちそうさまでした」
真城朔
手のひらを合わせました。
真城朔
「おいしかった……」
夜高ミツル
「な」
夜高ミツル
「北海道いる内にまた作ってもいいかもな」
真城朔
「ん」
真城朔
頷く。
真城朔
「なんか」
真城朔
「あらかじめレシピ調べたりとか……」
真城朔
今回のも全然おいしかったけど……
夜高ミツル
「うん」
真城朔
全然っていうかめちゃめちゃおいしかったけど……
真城朔
試したさ
夜高ミツル
「これ酢飯一から作ると多分全然大変さ違うからなー」
夜高ミツル
「それも試してみたいな」
夜高ミツル
なんせ時間がめちゃめちゃある。
真城朔
「ん」
真城朔
「ちゃんと準備して……」
真城朔
かなり突発的ちらし寿司だったから今回は……
夜高ミツル
そんな話をしながら食器を流しへ持っていき……
真城朔
突発でもめちゃめちゃおいしかった
真城朔
タッパーを出します。
真城朔
冷蔵庫に入れた酢飯の残りをタッパーに詰める。
夜高ミツル
混ぜるだけのやつ、偉大。
真城朔
そんなに多くはないが……
真城朔
「これも」
夜高ミツル
ミツルは皿を洗っていく。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「なんか」
真城朔
「食べ方……」
真城朔
ミツルにタッパーを示す。
真城朔
「試したりとか……」
真城朔
できそう……?
夜高ミツル
「あー」
夜高ミツル
「それだけ食べてもうまいけど」
夜高ミツル
「なんかアレンジも色々あったな」
夜高ミツル
「ネットに……」
夜高ミツル
「あとで見てみるか」
真城朔
「ん」
真城朔
改めて冷蔵庫にしまいました。
夜高ミツル
皿を洗っている。
夜高ミツル
ざぶざぶ……
真城朔
いつものようにふきんを持って……
夜高ミツル
あわあわ
夜高ミツル
流し流し……
夜高ミツル
流した端から真城に手渡し
真城朔
流し終わった皿をもらって拭いて
夜高ミツル
いつものように。
真城朔
食器棚に戻して……
真城朔
いつものように、完。
夜高ミツル
ぴかー
夜高ミツル
いつもどおりに片付けが終わると、これもいつもどおりに並んでソファに腰掛ける。
真城朔
「もう3月」
真城朔
「だけど」
真城朔
「ぜんぜん、やってない」
真城朔
「できてないこと」
真城朔
「いっぱい……」
夜高ミツル
「冬の間全然出れなかったからな……」
真城朔
ここに入居したのは11月なので、もう4ヶ月も住んでいるのだが。
真城朔
「……もっと」
真城朔
「いろいろ」
真城朔
「できたら」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……雪が溶けたら、でかけよう」
夜高ミツル
「北海道周るのは流石に厳しいだろうけど」
夜高ミツル
「それでも住んでるんだから色々は行けるだろうし」
真城朔
「……うん」
真城朔
「でかける……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「真城どこか行きたいとことかある?」
夜高ミツル
「したいこととか」
真城朔
「…………」
真城朔
考え込む。
真城朔
考え込み……
真城朔
首をひねり……
真城朔
「…………」
真城朔
「……広いところ……?」
真城朔
漠然。
夜高ミツル
「広い…………」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「牧場とか……?」
真城朔
「牧場……」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷く。
真城朔
「ゆったり、できて」
真城朔
「ミツと一緒で……」
真城朔
「…………」
真城朔
「ひとが」
真城朔
「あんまり、近くにいなくて」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「そういう……」
夜高ミツル
「平日ならあんまり人多くないだろうし」
夜高ミツル
「じゃあ春が来るまでにそういうとこ探してみるか」
夜高ミツル
「一緒に」
真城朔
こくこく……
真城朔
「探す」
真城朔
「いっしょに……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
手を伸ばす。
夜高ミツル
頭に置いて、撫でる。
真城朔
目を閉じた。
真城朔
頭をミツルの手のひらにそわせるようにしながら、
真城朔
身体を傾けて肩に体重を預ける。
夜高ミツル
頭の丸さを確かめるように触れながら
夜高ミツル
預けられた体重を受け止める。
夜高ミツル
寄り添う熱を感じる。
真城朔
少し差のある体温を溶け合わせるようにしながら、
真城朔
そうして二人、寄り添っていた。