2021/03/04 朝

真城朔
食卓でもぐもぐと口を動かしている。
真城朔
今日の朝食は昨日のちらし寿司の残り。
夜高ミツル
その上に目玉焼きとソーセージを乗っけたもの。
真城朔
真城の方は目玉焼きもソーセージも半個ずつ。
夜高ミツル
ミツルも同じく半分の目玉焼きに、ソーセージは数本。
夜高ミツル
いつもどおりご飯もミツルの方が多め。
真城朔
公式サイトを見たら載ってたレシピだった。
真城朔
正直見た目にはびっくりしたけども……
真城朔
「意外と」
真城朔
「おいしい……」
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
「だなぁ」
夜高ミツル
ぱり、とソーセージをかじる。
真城朔
「ちらし寿司って感じは」
真城朔
「あんまり」
真城朔
「しないけど……」
夜高ミツル
「炊き込みご飯的な感じになるな」
真城朔
目玉焼きを更に割って米に乗せて……
真城朔
もぐもぐ……
真城朔
頷いた。
真城朔
「もしかしたら」
真城朔
「ローストビーフ」
真城朔
「載せるのも……?」
夜高ミツル
「あー」
真城朔
焼肉とかもあったし……
夜高ミツル
「いけそう」
真城朔
「なんでもあり……」
夜高ミツル
「次作る時の残りでやってみるか」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
頷いては食べています。
真城朔
昨日のは北海道すご~いって感じだったけど
夜高ミツル
ミツルの方ももぐもぐと食べ進め……
真城朔
今日は庶民的なおいしさ……
夜高ミツル
カジュアルダウン。
真城朔
これはこれでという感じ。
真城朔
朝だし……
夜高ミツル
食べやすい。
真城朔
薄めに作ったお味噌汁を啜っている。
夜高ミツル
「そういえば」
夜高ミツル
不意に話を切り出す。
夜高ミツル
「真城なんかほしいものとかある?」
真城朔
「?」
真城朔
きょと……
真城朔
味噌汁を啜る体勢で止まった。
真城朔
当惑した様子でミツルを見返す。
夜高ミツル
「ほら」
夜高ミツル
「今月真城の誕生日だろ」
真城朔
目を瞬く。
夜高ミツル
「15日」
真城朔
お椀を置いて……
夜高ミツル
「……合ってるよな?」
真城朔
「…………」
真城朔
「合ってる……」
真城朔
控えめに頷いた。
真城朔
「合ってる」
真城朔
「けど」
夜高ミツル
「だよな」
夜高ミツル
ほっと息をつき、
夜高ミツル
「?」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「けど?」
真城朔
視線を落としている。
真城朔
「けど……」
真城朔
けどで止まる。
夜高ミツル
「……真城が俺の誕生日祝ってくれたから」
夜高ミツル
「俺もお祝いしたいなあって思うんだけど」
真城朔
「う」
真城朔
「…………」
真城朔
「ほしい」
真城朔
「もの…………」
夜高ミツル
「あ、別にすぐじゃなくてもいいぞ」
夜高ミツル
「ゆっくり考えてくれて大丈夫」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「急に言われても難しいと思うし……」
真城朔
浮かない表情をしている。
夜高ミツル
自分もそうだから……
夜高ミツル
「ものじゃなくても」
夜高ミツル
「俺にしてほしいこととか」
夜高ミツル
「行きたい場所とか食べたいものとか」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「なんでもいいから」
真城朔
「……いっぱい」
真城朔
「もらってる……」
夜高ミツル
「いや、でも誕生日は別だろ」
真城朔
「べつ……」
夜高ミツル
「せっかくだからなんかしたいよ」
真城朔
だいぶぐるぐるしている。
真城朔
「なんか……」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルの顔を見たり まだ少し残ってるちらし寿司を見たり
真城朔
宙を見たり
真城朔
四方に彷徨った視線が落ちる。
夜高ミツル
真城の視線が行ったり来たりするのを眺めて、
夜高ミツル
しばらく言葉を待っていたが……
夜高ミツル
「……まあ、本当にすぐじゃなくていいから」
夜高ミツル
「まだ全然時間あるし」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「悩むのはとりあえず食ってからでも」
夜高ミツル
「いやまあ、食ってる最中に聞いたのは俺だけど……」
真城朔
「…………ん」
真城朔
「たべる……」
夜高ミツル
つい思い出して……
夜高ミツル
「ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
食べるになりました。
夜高ミツル
食べよう
真城朔
食べた。
真城朔
食べていつもどおりに後片付けもして……
夜高ミツル
それから午前中に細々とした家事をやっつける。
夜高ミツル
洗濯とか掃除とか。
真城朔
家事をしていると生活という感じがする。
夜高ミツル
洗濯物を畳んでるときとかかなりそういう感じ。
真城朔
二人で並んで……
夜高ミツル
所帯感がある。
真城朔
ほぼ毎日ちゃんと畳んでいるとだんだん洗濯物をたたむのにも慣れてきた。
真城朔
最初はぶきっちょだったが……
夜高ミツル
二人分の洗濯物がそこそこきれいに畳まれている。
夜高ミツル
ミツルがあまり細かいところを気にしないのもあって、そこそこ止まり。
真城朔
まあまあ見れる程度に。
夜高ミツル
シワになって困る服もなし……
真城朔
なんか生活としてやっているという感じ。
真城朔
生活ごっこ……
夜高ミツル
時間もあるし。
真城朔
それっぽいことをしたい。
真城朔
そんな感じで洗濯物を畳んで、お昼も食べて
真城朔
二人ソファに並んで座る。
夜高ミツル
特にすることがなくなると、大体いつもこう。
真城朔
ぼんやりと身を寄せ合って……
夜高ミツル
二人寄り添って映画やドラマを見たり、
夜高ミツル
そうしながら手を繋いでいたり、頭を撫でたり……
真城朔
いつもそんな。
真城朔
そしていつものように真城がミツルの肩に頭を預ける。
夜高ミツル
預けられる。
夜高ミツル
肩に腕に、真城のぬくもりと体重を感じる。
真城朔
「…………」
真城朔
「……こう」
真城朔
ぽつ……
夜高ミツル
「んー?」
真城朔
「こうしてる」
夜高ミツル
首を横に向ける。
真城朔
「のが」
夜高ミツル
真城の頭が見える。
真城朔
視線は下を向いている。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「させて、もらえるのが」
真城朔
「……うれしい」
真城朔
「から……」
真城朔
ぼそぼそと言い募る。
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
ぼんやりとミツルの熱を感じている。
夜高ミツル
「……でも」
夜高ミツル
「俺は、もっと」
夜高ミツル
「今以上を真城にあげたいし」
夜高ミツル
「真城にも、欲しいと思ってほしいって……」
夜高ミツル
「そう思うよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「むずかしい……」
夜高ミツル
「難しいかあ……」
真城朔
俯いている。
夜高ミツル
こうなるんじゃないかな……とは思ってはいた。
真城朔
浮かない表情でミツルに体重を預けている。
夜高ミツル
真城はほしいものとかは思いつかないんじゃないだろうかって。
夜高ミツル
もちろん、望んでもらえるならそれが一番で
夜高ミツル
だからああして聞いてもみたのだが。
夜高ミツル
「……まあ、俺も」
夜高ミツル
「結構似たようなこと言ったしな」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城がいてくれたらそれで嬉しいみたいな」
真城朔
小さく頷いている……
夜高ミツル
「だから、まあ」
夜高ミツル
「難しいのはわかるよ」
真城朔
頷いています。
真城朔
肩が落ちる。
真城朔
しょんぼり……
真城朔
割りとあからさまに気落ちしている。
夜高ミツル
真城の身体に腕を回して、掌を頭に乗せる。
真城朔
密着。
夜高ミツル
丸い頭を撫でる。
真城朔
撫でられて窺うようにミツルを見る。
真城朔
「これ」
真城朔
「だって」
真城朔
「…………」
真城朔
「誕生日に」
真城朔
「もらう、ので」
夜高ミツル
見られて、視線が合う。
真城朔
「いいくらい……」
真城朔
ぼそぼそと……
真城朔
「それくらい」
真城朔
「俺は」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……そんなに喜んでもらえてるなら嬉しいけど」
真城朔
「うれしい……」
真城朔
頷いている。
真城朔
「なに」
真城朔
「されるのも」
真城朔
「してもらえる」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「のも」
真城朔
「俺は、ぜんぶ」
真城朔
「…………」
真城朔
「ぜんぶ……」
真城朔
言い募りながらどんどん俯いている。
夜高ミツル
「全部かぁ……」
夜高ミツル
俯いた頭をやっぱり撫でている。
夜高ミツル
これくらいだったらいくらでもするし……
真城朔
こくこく……
真城朔
頷きながら
夜高ミツル
自分の誕生日に言われた、「これだと特別感がない」を反芻している……。
真城朔
「だから」
夜高ミツル
喜んでくれるのは嬉しいけど……
真城朔
「ほんとうは」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……本当は?」
真城朔
「ほんとうは……」
真城朔
頬に涙を落として、
真城朔
唇を震わせる。
真城朔
「……よく」
真城朔
「ない」
真城朔
「…………」
真城朔
「だめなのに……」
夜高ミツル
「……真城が喜んでくれると」
夜高ミツル
「俺は嬉しいよ」
真城朔
「だめ、なのに」
真城朔
繰り返す。
夜高ミツル
頭に乗せているのとは反対の手を伸ばす。
夜高ミツル
目尻から溢れる涙をそっと拭う。
夜高ミツル
「真城が幸せだったり」
夜高ミツル
「嬉しかったり、楽しかったり」
真城朔
拭われても涙はやまない。
夜高ミツル
「そういう風でいてほしい」
夜高ミツル
「そうしたい」
真城朔
「ミツが」
真城朔
「そう、思って、くれてるのに」
真城朔
「…………」
真城朔
「俺が」
真城朔
「こうだから……」
夜高ミツル
「……大丈夫」
夜高ミツル
「俺は俺がしたいことを勝手にしてるだけだから」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
ぽろぽろと溢れる涙が、ミツルの指先を濡らしていく。
夜高ミツル
「望んでくれるならそれが一番嬉しいけど」
夜高ミツル
「でも、そうできないからって申し訳ないとか」
夜高ミツル
「そういうのは思わないでいいから」
真城朔
「でも……」
夜高ミツル
「いいんだって」
真城朔
「…………」
真城朔
「もっと」
真城朔
「ちゃんと、普通に……」
真城朔
「……ふつう……」
夜高ミツル
「普通……」
夜高ミツル
オウム返し。
真城朔
「…………」
真城朔
「面倒ばっかり」
真城朔
「だし」
真城朔
「そういうの、なくて」
真城朔
「ミツを困らせなくて……」
夜高ミツル
「……普通っていうか、まあ」
夜高ミツル
「真城が楽になったらいいなってのは」
夜高ミツル
「気に病んだり、つらい思いをしたりとかなくて……」
真城朔
「…………」
真城朔
ミツルにくっついて黙り込んでいる……
夜高ミツル
「そうだったら、そうなれたらいいとは思ってる」
夜高ミツル
「し、そうなれるように、俺も」
夜高ミツル
「できることをしたいって」
夜高ミツル
「思う」
真城朔
「……面倒ばっかり……」
真城朔
繰り返した。
夜高ミツル
「真城に頼ってもらえるのは嬉しいよ」
夜高ミツル
「俺にできることってそんなになくて……」
夜高ミツル
「何かを解決してやったりとか、そういうのはできなくて……」
真城朔
ミツルを見る。
夜高ミツル
「だから、力不足は悔しいなって思うけど」
真城朔
「……いっぱい」
真城朔
「もらってる……」
夜高ミツル
「……もっと」
夜高ミツル
「もっと、してやりたい」
真城朔
「もっと……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
考え込んでいる。
真城朔
時折涙が頬を伝い落ち……
夜高ミツル
黙り込んだ真城の様子を窺う。
夜高ミツル
涙がこぼれ落ちるその度に、指先がそれを拭った。
真城朔
触れられるたび目を細める。
真城朔
それでも涙は止められないまま、
真城朔
「……明日も」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「いっしょが」
真城朔
「いい……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
頬に触れていた手を肩に回して、
夜高ミツル
両腕で真城を抱き寄せる。
夜高ミツル
「俺もだ」
真城朔
抱き寄せられて、
真城朔
おそるおそるその背に腕を回す。
夜高ミツル
明日も一緒がいい。
夜高ミツル
ミツとはいられない、一緒にいるのはよくないと、
夜高ミツル
そう繰り返してきた真城の口から、
夜高ミツル
その言葉が出てきたことを噛みしめる。
夜高ミツル
「……俺も」
真城朔
ミツルの胸に顔を埋めた。
夜高ミツル
「明日も、その先も」
夜高ミツル
「ずっと、一緒がいい」
真城朔
「……ずっと……」
夜高ミツル
腕の中に真城の熱があって、
夜高ミツル
それだけでなく、胸の内があたたかい。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「ずっと……」
夜高ミツル
腕に力がこもる。
真城朔
指先がミツルの服の背中に皺を作る。
真城朔
縋るように握り締めている。
夜高ミツル
強く、真城を抱き寄せている。
真城朔
あいも変わらず涙はやまず、
真城朔
ミツルの胸元をみるみる濡らしていく。
夜高ミツル
それにはお構いなしで、ぴったりと身体を寄せ合う。
夜高ミツル
「……ずっと」
夜高ミツル
「この先も、ずっと」
夜高ミツル
「真城と、一緒がいい」
真城朔
背中を震わせながら小さく頷く。
真城朔
涙に乱れた呼吸が喉を鳴らして、
真城朔
答えを言葉に紡ぐことはできないまま。
夜高ミツル
言葉なんてなくてもいい。
夜高ミツル
こうして、真城が腕の中にいてくれて
夜高ミツル
自分の身体にも腕を回して、縋りついて、
夜高ミツル
それだけで十分に。
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「真城……」
夜高ミツル
名前を呼ぶ。
真城朔
「…………」
真城朔
ゆっくりと顔を上げて、
真城朔
涙に濡れた瞳がミツルを向いた。
夜高ミツル
視線が合う。
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
「好きだ」
真城朔
「へ」
真城朔
「……あ」
真城朔
俯いた。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……好きだよ」
真城朔
身を縮めている。
夜高ミツル
「真城……」
真城朔
「……ミツ」
真城朔
ためらいがちに名前を呼んで、
真城朔
けれど何も続けられないでいる。
夜高ミツル
好きだというその言葉にも、別に答えを求めているわけじゃない。
真城朔
ぽろぽろと涙を落としている。
夜高ミツル
泣いているのを、また抱き寄せる。
夜高ミツル
「……真城が好きだ」
夜高ミツル
ささやくように、また好きだと繰り返す。
夜高ミツル
「好きで」
夜高ミツル
「ずっと一緒にいたくて」
夜高ミツル
「いてほしくて……」
真城朔
「…………」
真城朔
抱き寄せられて身体を硬くしていたが、
夜高ミツル
少しの隙間も作らないとばかりに身を寄せ合う。
真城朔
その身体からやがてゆっくりと力が抜けていく。
真城朔
背中に回した腕に指先に力が籠もって、
真城朔
ミツルの顔を見上げて、
夜高ミツル
力が抜けると、よりぴったりと密着する。
夜高ミツル
「……」
真城朔
首を伸ばせば、唇が重なる。
夜高ミツル
互いに顔を寄せて、触れ合う。
夜高ミツル
唇を重ねて、ついばむような触れ合い。
夜高ミツル
それを何度も繰り返す。
真城朔
触れ合いそのものを噛みしめるようなくちづけを繰り返し、
真城朔
しかしやがて、真城の舌先がミツルの唇を舐めた。
夜高ミツル
すぐに唇が開いて、
夜高ミツル
ミツルの方からも、舌を伸ばす。
真城朔
濡れた熱が触れて、絡み合う。
夜高ミツル
濡れた音が二人の部屋に静かに響く。
真城朔
背を握りしめる手が一度離れてから、
真城朔
改めて強く、指先が服を掴んで手繰った。
夜高ミツル
その形を、感触を、確かめるように何度も舌を絡め、
夜高ミツル
その度に水音が立つ。
真城朔
唇の隙間からは吐息が漏れる。
夜高ミツル
漏れる吐息に徐々に熱が籠もって、
夜高ミツル
真城を抱く腕に、なおさらに力が入る。
真城朔
その抱擁の力強さに、
真城朔
内側に灯された熱の昂りが頭を支配して、
真城朔
求めてしまうのも止められなくなって、
真城朔
なにせ、だって、あの日以来。
夜高ミツル
互いの熱が、互いをどんどんと高めていって、
夜高ミツル
こうなってしまうと、もう、
夜高ミツル
欲しくてしかたがない。
真城朔
だから唇が離れるまでもひどく時間がかかった。
真城朔
ゆっくりと唇が離されて、間を繋いだ濡れた糸が途切れて、
真城朔
ゆっくりと開いた瞳の熱ももう隠しきれるものでなく。
夜高ミツル
「……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「…………真、城」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「真城……」
真城朔
「……ミツ、もう」
真城朔
背に回った腕に力が籠もる。
真城朔
「もう、いい?」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「……背中」
真城朔
切迫した瞳が至近距離からミツルを見つめている。
夜高ミツル
「……」
真城朔
「…………」
真城朔
大丈夫、とは真城は何度も繰り返してきていたことだが。
夜高ミツル
聞きかけてから、散々に力任せに抱き寄せて今更だな、と気づいた。
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城と」
夜高ミツル
「した、い」
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「真城……」
夜高ミツル
「……好きだよ」
夜高ミツル
「好きだ」
真城朔
姿勢を崩してミツルの胸に顔を寄せる。
夜高ミツル
繰り返して、
夜高ミツル
また抱き寄せる。
真城朔
抱き寄せられたぶん顔が胸に埋まって、
真城朔
「……ミツに」
夜高ミツル
こうすることだって、怪我して以来控えていた。
真城朔
「される、の」
真城朔
「ぜんぶ」
真城朔
「うれしい」
真城朔
「から……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
くぐもった声でぼそぼそと。
真城朔
訴えてから顔を上げて、ミツルを見つめた。
夜高ミツル
目が合う。
夜高ミツル
「……真城が喜んでくれること」
夜高ミツル
「俺はなんでもしたい」
夜高ミツル
「これからも、ずっと……」
真城朔
「…………」
真城朔
「して」
真城朔
「くれる……?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「するよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「真城……」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
今度はミツルの方から首を伸ばして、
夜高ミツル
口づける。
真城朔
顔を上げてそれを受け入れると同時、
真城朔
またひときわ強く、握りしめる手に力が籠もっていた。