2021/03/13 昼過ぎ

夜高ミツル
二人並んで台所に立つのも、すっかりいつもの風景になった。
真城朔
二人で揃いのエプロンを着込んで、諸々の用意の済んだ台所に。
夜高ミツル
二人はいつもどおりで、しかし台所に並んでいるものはいつもと様子が違う。
夜高ミツル
袋に入ったチョコとか粉とか、室温に戻したバターとか。
真城朔
臙脂色を貴重としたパッケージの空箱を取り上げて、
夜高ミツル
後ろでは余熱中のオーブンレンジが低い音を響かせている。
真城朔
まじまじとその裏を眺めている。
真城朔
近くの店で見つけたガトーショコラの手作りキット。
夜高ミツル
「……よし」
夜高ミツル
「やるか……!」
真城朔
「や」
真城朔
「やる……」
夜高ミツル
料理は一人暮らしの頃からそこそこやってきていたが、お菓子作りは今日が初めて。
真城朔
ミツルが初めてなのでもちろん初めて。
夜高ミツル
ミックスでホットケーキは作ったことがある程度。
真城朔
混ぜて焼くだけのレシピで、二人で動画も見たし、そんなには難しくないのかもしれないとは思うものの。
夜高ミツル
これもホットケーキを作るのと似た要領でいける……はず!
真城朔
いけると信じたいが。
真城朔
「えっ」
真城朔
「と」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
箱の裏面を眺めて
真城朔
「始める前に」
真城朔
「オーブンを180度に温めておきます……」
真城朔
レンジを振り返り、
真城朔
再確認。
夜高ミツル
180℃余熱の表示がされている。
夜高ミツル
ミツルも再確認。
夜高ミツル
「余熱は今してるから大丈夫で……」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「材料も……計るのはバターと牛乳くらいで」
夜高ミツル
調理台に視線を戻す。
夜高ミツル
そちらも準備済み。
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
バターは早めに計って室温に戻してある。
真城朔
30g。
夜高ミツル
結構使うな~という感じ。
真城朔
牛乳も小皿に大さじ2。
真城朔
これはまあ別にって感じ。
夜高ミツル
あとは卵一個と、キットに入っているものですべて。
真城朔
OK。
真城朔
「えっと」
真城朔
次を確認。
真城朔
「バターとチョコレートをボウルに入れ」
真城朔
「湯煎」
夜高ミツル
「湯煎……」
真城朔
「……約50度」
真城朔
「に、かけて溶かします……」
真城朔
ゆっくりと視線を移していく。
夜高ミツル
それも低温調理器を鍋にセットして準備済み。
真城朔
低温調理器がこんなところで役に立つとは思わなかった。
夜高ミツル
温度表示はぴったり50度。
夜高ミツル
温度計を買うところで、「これ低温調理器でいけるんじゃね?」となり
夜高ミツル
調べたらいけたので、そうなった。
真城朔
「えっと……」
夜高ミツル
「ボウルにチョコとバターを……」
真城朔
ミツルに視線を向ける。
真城朔
はっ
真城朔
こくこく
夜高ミツル
ボウルを取る。
真城朔
シリコンベラを取ります。
夜高ミツル
キットのチョコを取って、袋を開ける。
夜高ミツル
中身をボウルへ。
夜高ミツル
ざーっ
真城朔
ざざー
夜高ミツル
続いてバターを同じボウルへ。
真城朔
投入!
真城朔
シリコンベラをミツルに渡します。
夜高ミツル
ぼとっ
真城朔
バターの小皿を受け取る。
夜高ミツル
渡して、入れ替わりにヘラを受け取る。
真城朔
脇によけて……
真城朔
湯煎のボウルを押さえました。
真城朔
がしっ
夜高ミツル
ボウルは真城に持ってもらい……
真城朔
お湯であったまったボウルの縁でチョコがちょっとずつ溶けている……
夜高ミツル
溶けてきているのをヘラで混ぜていく。
真城朔
「確か」
夜高ミツル
「もう溶けてきてる……」
真城朔
「動画だと」
真城朔
「これで5分くらい……」
夜高ミツル
体温でも溶けるんだからそりゃそうだという感じだが。
夜高ミツル
「5分くらい」
真城朔
こくこく……
真城朔
「バターもチョコも」
真城朔
「ちゃんとまざるのに……」
夜高ミツル
「まあとりあえず全部溶けたらいいんだよな」
夜高ミツル
ぐるぐる。
夜高ミツル
話しているうちにもチョコが溶けて、バターと混ざっていく。
真城朔
「とけてる……」
真城朔
湯煎であったまったチョコの匂いがする。
真城朔
濃厚な感じがする……。
夜高ミツル
においが甘い……。
夜高ミツル
バターの匂いも混ざって……。
真城朔
「お菓子」
真城朔
「つくってる」
夜高ミツル
「作ってる感じあるな……」
真城朔
こくこく
夜高ミツル
「これレンジで溶かすのじゃダメなのかな」
夜高ミツル
「ダメなんだろうけど……」
真城朔
「焦げたり」
真城朔
「水が飛んだりとか」
真城朔
「そういう……?」
夜高ミツル
「かなあ……」
真城朔
「あと」
真城朔
ちらりとレンジを見て
真城朔
「予熱」
真城朔
「しちゃってるし……」
夜高ミツル
だんだんチョコが溶けてなめらかな感じになってきた。
夜高ミツル
「あー」
夜高ミツル
「できても使えないな……」
真城朔
まざりまざり……
真城朔
こくこく
夜高ミツル
まだ溶けてないチョコを潰すように更に混ぜていく。
夜高ミツル
ぐるぐる……
夜高ミツル
まぜ……
真城朔
かなりもうまぜまぜの段階。
真城朔
「お菓子」
真城朔
「つくってる……」
真城朔
2回目
夜高ミツル
「匂いがめちゃくちゃ甘いしなもう……」
真城朔
「これ舐めてもおいしそう」
真城朔
さすがにどうなんだ?
夜高ミツル
「多分うまい」
真城朔
こくこく
真城朔
そんなこんなで5分ほどが経ち……
夜高ミツル
お湯も冷めないし量も少ないしでサクッと湯煎完了。
真城朔
まろやかに混ざりました。
夜高ミツル
キットなのでチョコも溶けやすい。
真城朔
「えっと」
真城朔
箱を取ります。
真城朔
「次」
真城朔
「別のボウルに卵を割りほぐし、牛乳を入れて混ぜ」
真城朔
「ミックス粉を加えて……」
真城朔
「生地がやや白っぽくなめらかになるまで」
真城朔
「泡立て器でよく混ぜます」
夜高ミツル
ふんふんと頷いて
真城朔
「2分程度」
夜高ミツル
「そこは殆どホットケーキだな」
真城朔
「ん」
真城朔
「これ混ぜたら」
真城朔
湯煎のところに置いたままのチョコバターを見ます。
真城朔
「それを入れてまた混ぜるっぽい」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
2つ目のボウルとミックスの袋を手に取る。
真城朔
茶色っぽい粉が入っている。
夜高ミツル
ちなみに追加のボウルやら泡立て器やらは今日のためにキットと一緒に買ってきた。
夜高ミツル
あとゴムベラも。
真城朔
製菓用品はさすがになかった。
夜高ミツル
作ってこなかったからなー
真城朔
ボウルもまああと何個か欲しいなって気持ちもあったし……
真城朔
卵を泡立て器で混ぜたい瞬間とかもまああったし……
真城朔
丁度いいかなという感じで……
真城朔
卵を持ってきます。
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
牛乳も。
真城朔
「ん」
真城朔
卵を渡し……
夜高ミツル
受け取った卵をボウルに割り入れる。
真城朔
卵を入れていた皿で殻を受け取る。
真城朔
泡立て器も渡します。
夜高ミツル
受け取って、卵を混ぜる。
夜高ミツル
しゃかしゃか……
真城朔
混ぜているところに牛乳を……
真城朔
「入れ」
真城朔
「る?」
夜高ミツル
「ん、頼む」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
手を止めて、ボウルを真城の方に寄せ
真城朔
小さな器に入った牛乳をイン。
真城朔
30ml。
夜高ミツル
また混ぜていく。
真城朔
「粉は?」
夜高ミツル
当たり前だけど菜箸より混ざるのが早い。
夜高ミツル
「ん、」
真城朔
ミックス粉を構える。
夜高ミツル
しゃかしゃか……と卵と牛乳を混ぜきって、
夜高ミツル
「頼む」
真城朔
「うん」
真城朔
手で開け……
真城朔
ようとして、思い直してキッチンばさみを取る。
真城朔
ちょきちょき……
夜高ミツル
粉が飛ぶからね
真城朔
大変なことになっちゃう
夜高ミツル
ぶわっ……
真城朔
あわわ
真城朔
ちゃんとはさみで切りました。
真城朔
ざざー……
夜高ミツル
えらい
真城朔
入れていきます。
夜高ミツル
入れられていく。
真城朔
入れましたが。
夜高ミツル
ざざざ……
真城朔
「…………」
真城朔
「やや」
真城朔
「白っぽくなるまで……?」
真城朔
既に粉が白っぽくない? みたいな顔になった。
夜高ミツル
「白っぽく……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
白っぽく……?になりながら
真城朔
「動画」
夜高ミツル
とりあえず混ぜていく。
真城朔
「また見る……」
真城朔
手を洗いに行きます。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
混ぜ……
夜高ミツル
白っぽく……?
真城朔
手を洗い終わってスマホを触っている。
真城朔
動画を再確認……
夜高ミツル
混ぜている。
夜高ミツル
ぐるぐる……
真城朔
「やや白っぽく……」
夜高ミツル
ダマが残らないように……
真城朔
「…………」
真城朔
動画を止めて、スマホの画面をミツルに見せます。
真城朔
「…………?」
真城朔
白っぽい……?
夜高ミツル
見せられる。
夜高ミツル
「……とりあえず動画くらいの感じになればいいんだよな」
真城朔
「た」
真城朔
「たぶん……」
真城朔
ちょっと送り……
夜高ミツル
白っぽいかは分からないけど、とりあえずまだなめらかさが足りない気がする。
夜高ミツル
ぐるぐる……
真城朔
チョコを混ぜ合わせている画面を出します。
夜高ミツル
ダマを潰し……
真城朔
「これくらいの色なら」
真城朔
「いいはず……?」
真城朔
白っぽく……?
真城朔
どう考えても粉のほうが白かった……
真城朔
疑問符が出ている。
夜高ミツル
粉のほうが白かったなあ……
夜高ミツル
ひとしきり混ぜて、
夜高ミツル
「……このくらい…………?」
夜高ミツル
手を止めて、動画と見比べる。
真城朔
「…………」
真城朔
「たぶん……?」
真城朔
「なめらか……」
夜高ミツル
少なくともちゃんと混ざってはいる。
真城朔
「には……」
真城朔
なってる……
真城朔
のを確認すべくまじまじ見ている。
夜高ミツル
2分程度って書いてあって、そのくらいは混ぜた。
真城朔
たぶんまざってるはず……
夜高ミツル
再確認するように軽く泡立て器を動かす。
真城朔
「チョコ」
真城朔
「入れる?」
夜高ミツル
「入れるか……」
真城朔
「ん」
真城朔
スマホを脇に置いた。
夜高ミツル
「ていうかチョコ入れる前から茶色いんだな」
真城朔
お絞りで手を拭いて……
真城朔
「茶色い……」
真城朔
湯煎にかけっぱなしだったチョコのボウルを取ります。
夜高ミツル
これだけ焼いても何らかのお菓子になりそう。
真城朔
ボウルのお湯をふいてふいて
真城朔
ミツルのボウルの上空へと……
真城朔
「入れ……」
真城朔
「…………」
真城朔
「入れ」
真城朔
「入れる……?」
真城朔
ゴムベラを持った状態で固まった。
夜高ミツル
「入れる」
真城朔
「入れる……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
泡立て器は生地を落としてよける。
真城朔
えいやっ
真城朔
ボウルを傾け
真城朔
ゴムベラでチョコとバターの混ざったものを投入していく。
真城朔
とろ~
真城朔
「…………」
真城朔
なんかこのチョコと見比べたら白っぽいような気はしてきた。
夜高ミツル
薄茶色の上に濃い茶色が。
真城朔
入れて入れて……
真城朔
入りました。
真城朔
濃淡の茶色が。
夜高ミツル
「あとはこれを混ぜて……」
真城朔
「焼く」
夜高ミツル
真城からゴムベラを受け取る。
真城朔
泡立て器とチョコの入っていたボウルを流し台に持っていきます。
真城朔
あっ
夜高ミツル
その間に混ぜていく。
真城朔
低温調理器もスイッチ切って
真城朔
よけて……
夜高ミツル
「あ、ありがと」
夜高ミツル
忘れてた……
真城朔
「ん」
真城朔
このお湯
真城朔
うーんと……になっている。
真城朔
お湯を流し台に持っていって
真城朔
チョコのついているボウルへと
真城朔
ざーっ……
夜高ミツル
生地とチョコを混ぜて混ぜて……
真城朔
あとで楽。
夜高ミツル
溶かすとかがないのですぐに混ざる。
真城朔
手を洗い……
真城朔
ふいてふいて
真城朔
焼き型を持ってくる。
真城朔
キットに入っていた紙製の焼き型。
夜高ミツル
濃淡の茶色のマーブルから中間色一色に。
真城朔
スマホを取って動画を再確認しています。
夜高ミツル
「あとは流して焼くだけ……」
夜高ミツル
だよな?と真城を見る。
真城朔
「ん」
真城朔
見せます。
真城朔
「焼く前」
真城朔
「こんな感じ……」
真城朔
なめらかな感じになっている画面を見せる。
夜高ミツル
動画と手元の生地を見比べる。
夜高ミツル
ゴムベラで軽く混ぜる。
夜高ミツル
大体同じような感じに……なっているはず。
真城朔
「たぶん」
真城朔
「大丈夫?」
夜高ミツル
「……大丈夫だとおもう」
真城朔
そっと焼き型を近づけ……
真城朔
動画をまた確認
真城朔
「普通に」
真城朔
「入れていいっぽい?」
真城朔
「えっと……」
真城朔
紙箱の方も確認……
真城朔
「焼き型に流し入れ、180度のオーブンで約15~18分焼きます」
夜高ミツル
「特にこう入れろとかはないんだな……」
真城朔
「ない……」
真城朔
「動画も」
夜高ミツル
「なかったよな」
真城朔
「混ぜてるかと思ったら」
真城朔
「気付いたら全部入ってる……」
真城朔
入れてる瞬間の映像すら無い……
夜高ミツル
スキップされた。
真城朔
わりと丁寧な動画なのでちょっと意外ですらあった。
夜高ミツル
「じゃあまあ普通に……」
真城朔
まあ短くまとまってもいるが……
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく
真城朔
箱をまた見て……
真城朔
首を傾げている。
夜高ミツル
ボウルを持ち上げて焼き型の上に。
真城朔
箱だと最後まで泡立て器で混ぜろってある……
真城朔
動画だとベラでやってたような……
真城朔
…………
真城朔
まあいいか……
夜高ミツル
不思議だなあ
真城朔
焼き型の方を見ます。
夜高ミツル
ヘラを使ったので、そのままヘラで型に流し込んでいく。
真城朔
手が微妙な感じに彷徨っている。
真城朔
焼き型を……
真城朔
押さえたほうが……
真城朔
いや……
真城朔
今から手を出しても……
真城朔
だいじょうぶそうだし……
真城朔
葛藤
夜高ミツル
真城の葛藤も知らず、生地を流し入れ……
真城朔
花形の焼型に流し込まれていく生地
真城朔
チョコのにおいがする……
夜高ミツル
ボウルに生地が残らないようヘラでちゃんと……
夜高ミツル
入れきりました。
真城朔
はいった。
真城朔
ボウルを受け取るべく手を差し出します。
真城朔
ぴしっ。
夜高ミツル
ボウルとヘラを真城にバトンタッチ。
真城朔
受け取りました。
真城朔
よし。
真城朔
流し台へ~
夜高ミツル
という辺りでちょうど余熱も完了し……
真城朔
軽くお湯を浸して戻ってきました。
真城朔
「焼く?」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
とんとんと型を叩いて生地を平らにならし……
夜高ミツル
「余熱も出来たし……」
真城朔
「焼く……」
真城朔
どきどきしてきた。
真城朔
焼くとお菓子作りっぽい。
夜高ミツル
オーブンレンジの扉を開けて、型をターンプレートに置く。
夜高ミツル
扉を閉めて……
夜高ミツル
時間を……
夜高ミツル
「15分くらいだっけ?」
夜高ミツル
真城を振り返る。
真城朔
「えと」
真城朔
かくにん……
真城朔
「180度のオーブンで約15~18分焼きます」
真城朔
「…………」
真城朔
「オーブンの機種により焼き時間は多少異なります……」
夜高ミツル
「機種により……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……とりあえず短めにしとくか」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
ピッピッ……
夜高ミツル
180℃15分でセット。
真城朔
電子レンジオーブンは便利
夜高ミツル
「あとは待つだけ……」
真城朔
「洗い物」
真城朔
「する……」
真城朔
ぱたぱた……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
レンジの中で生地がゆっくり回っているのを見て……
夜高ミツル
それから低温調理器の方に向かう。
真城朔
じゃぶじゃぶあらってます。
真城朔
お湯を漬けてたので早い。
真城朔
ごしごし……
真城朔
ざぶざぶ
真城朔
ざぱー
真城朔
片端からつみあげつみあげ……
夜高ミツル
パーツを分解して拭いて……
真城朔
調理器具を洗う方のお手伝いは最初からよくやってきた。
真城朔
量もそんなないし5分とかからず……
真城朔
「…………」
真城朔
「チョコが」
夜高ミツル
拭いたパーツをまた組み直していく。
夜高ミツル
「焼けてる匂いがするな……」
真城朔
こくこく……
真城朔
「焼けてる……」
真城朔
レンジに寄っていき……
夜高ミツル
混ぜているときからかなりチョコの香りはあったのだが……
夜高ミツル
焼いていると尚更に……。
真城朔
焼けてるチョコの匂い。
真城朔
「あ」
真城朔
「膨らんでる……」
夜高ミツル
「お、マジ?」
真城朔
「ん」
真城朔
こくこく……
真城朔
覗き込んでいる。
夜高ミツル
組み直した低温調理器を持ったまま、レンジの方に。
夜高ミツル
真城の後ろから覗き込む。
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「あ~」
夜高ミツル
「膨らんでる……」
真城朔
レンジの中央でくるくる回っているチョコ生地が膨らみつつある……
真城朔
「焼けてる」
夜高ミツル
「ケーキだ……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
近くにいるとチョコの匂いも一層濃い感じがする。
真城朔
「すごい」
真城朔
じー……
真城朔
熱中
真城朔
レンジにじわじわ顔が近づいていき……
夜高ミツル
「だな~……」
夜高ミツル
混ぜただけなのに……
夜高ミツル
「……あんま寄ると熱いぞ」
真城朔
「え」
夜高ミツル
さすがに外から触って火傷することはないが……
真城朔
おずおず……
真城朔
ちょっと離れました。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
そうしている間にも焼けていき……
夜高ミツル
表面がちょっと割れてる。
真城朔
はっ
真城朔
えーとえーと……
真城朔
箱を確認に行く。
真城朔
見ている……
真城朔
「竹串を刺してぬれた生地がついてこなければ、焼き上がりです」
夜高ミツル
「生地がついてこなければ……」
夜高ミツル
「えーと竹串……」
真城朔
動画を確認……
真城朔
同じこと言ってる……
真城朔
違うこと言われても困るんだよな。
夜高ミツル
持ちっぱなしだった低温調理器を置いて、引き出しから竹串を取り出して……
夜高ミツル
さっきは違うことを言われていた。
真城朔
ゴムベラと泡立て器どっちが正しかったんだろう……
真城朔
ちょっと思いを馳せている。
真城朔
とほひめ
夜高ミツル
レンジの方を振り向けば15分まで秒読みの段階に。
真城朔
3…2…1…
夜高ミツル
チーン
真城朔
振り返りました。
真城朔
「焼けた?」
夜高ミツル
「……焼けた」
夜高ミツル
「はず……」
真城朔
「焼けた……」
真城朔
わくわく……
真城朔
うず……
夜高ミツル
竹串を手に、レンジの方へ。
夜高ミツル
扉を開ける。
真城朔
チョコの匂い。
真城朔
「焼けてる」
夜高ミツル
「焼けてるな……」
真城朔
焼けてるチョコの匂いがより強く……
真城朔
「…………」
真城朔
「換気扇……」
夜高ミツル
「あ」
真城朔
やっと思い出したように……
夜高ミツル
「そうだな……」
真城朔
スイッチをつけに行きました。
真城朔
ぶおー……
真城朔
いいにおいだけど……
夜高ミツル
ちょっと濃すぎる……
真城朔
生活がチョコに支配されてしまう。
真城朔
戻ってきた。
夜高ミツル
ちょっと色が濃いような……? 影になってるからか……?
夜高ミツル
眺めながらそんなことを思いつつ、竹串を刺す。
真城朔
どきどき……
真城朔
緊張の一瞬。
夜高ミツル
ぷす
真城朔
ああっ……
夜高ミツル
すー……
真城朔
あ~
夜高ミツル
引いて……
真城朔
固唾を飲んで見守っています。
夜高ミツル
「生地……ついてない……」
真城朔
「やけ」
夜高ミツル
「よな……?」
真城朔
「た?」
真城朔
顔を見合わせる。
夜高ミツル
竹串は多少チョコ色に染まったものの、生っぽいものはついてない。
夜高ミツル
ので……
夜高ミツル
「焼けた」
真城朔
「やけた」
夜高ミツル
「……焼けてるはず」
真城朔
「やけた!」
真城朔
ちょっと踵が浮いた。
夜高ミツル
頷いている。
真城朔
「あっ」
真城朔
「えっと」
真城朔
箱を……
夜高ミツル
とりあえず竹串を捨て……
真城朔
「網にのせてよく冷まし」
真城朔
「網」
真城朔
「網?」
真城朔
あみ?
夜高ミツル
「網……」
夜高ミツル
網無え~
夜高ミツル
「グリルのでいいか……」
真城朔
「網なら……」
真城朔
たぶん……
夜高ミツル
「だよな……」
真城朔
「ええと」
真城朔
「網にのせてよく冷まし」
真城朔
「型からケーキを丁寧に取り出します」
夜高ミツル
グリルを開けて、網を取り出して調理台に置く。
真城朔
「…………」
真城朔
「よく冷まし……?」
真城朔
どれくらいだろう……
真城朔
わかんないので動画を確認する。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「そこも時間書いてほしいな……」
真城朔
動画もスキップされた……
夜高ミツル
混ぜる時間は書いてあるのに……
真城朔
そっちのほうが大事では?
真城朔
「しらべる……」
夜高ミツル
「よろしくー」
真城朔
スマホを触っています……
夜高ミツル
レンジの方に戻って、焼き上がったガトーショコラを取り出す。
真城朔
ガトーショコラ 冷ます 時間
夜高ミツル
紙型の端を持って……
真城朔
トップの検索結果を……
夜高ミツル
レンジの中に手をぶつけないように……
真城朔
「…………」
真城朔
「室温によっても違いますが」
夜高ミツル
持ち上げ……運び……
夜高ミツル
網の上にオン。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「最低でも」
夜高ミツル
真城の方を見る。
真城朔
「4時間は……」
真城朔
「…………」
真城朔
4時間……?
夜高ミツル
「4時間」
真城朔
ガトーショコラを見ます。
夜高ミツル
あります。
夜高ミツル
あるのに食べられない……
真城朔
そんな……
真城朔
なんか間違いがないか再確認し……
真城朔
ページを送り……
真城朔
「…………」
真城朔
「ケーキが焼けて」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「粗熱が取れるまで4時間」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「冷蔵庫に入れて冷やす時間が」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「冷やす」
真城朔
「4~5時間……」
夜高ミツル
「……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「4時間に4時間……」
夜高ミツル
4+4=8
真城朔
今が……
真城朔
16時過ぎで……
夜高ミツル
ここから8時間
真城朔
深夜
夜高ミツル
0時を回る計算に……
夜高ミツル
「……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……今日作っておいてよかったな……」
真城朔
大きく頷きました。
夜高ミツル
シンプルにそう思った。
夜高ミツル
味見くらいは今日できたらいいと思ってたけど……
夜高ミツル
「……じゃあとりあえず……」
夜高ミツル
「4時間……?」
真城朔
「うん」
真城朔
「うん……」
真城朔
えーと……
夜高ミツル
ほかほかのガトーショコラを見る。
真城朔
網に乗ったほかほかのガトーショコラ。
夜高ミツル
……なんかちょっと色が濃いような……?
夜高ミツル
動画のやつより……
真城朔
それから箱を見ます。
真城朔
どこにも……
夜高ミツル
首を傾げている。
真城朔
合計8時間冷ませとか……
真城朔
書いてない……
夜高ミツル
結構大事な情報じゃないか?
真城朔
「あ」
真城朔
スマホの方を確認していて声が出た。
夜高ミツル
「ん?」
真城朔
「ラップ」
真城朔
「軽くかけた方が……?」
真城朔
「ほこりとか」
真城朔
「乾燥とか……」
真城朔
あるらしい……
夜高ミツル
「あ、そうだな」
夜高ミツル
ラップラップ……
夜高ミツル
取って……
夜高ミツル
ぴっ
夜高ミツル
ふわっと上にかける。
真城朔
ちょっと蒸気で曇る。
夜高ミツル
軽くなので、乗せる程度に……
真城朔
ふわっとね……
真城朔
それはそれとして、これで16時が回ったくらいで……
真城朔
「…………」
真城朔
「どうする……?」
夜高ミツル
思ったよりはやく出来たし、あとは4時間放置……。
夜高ミツル
「……」
真城朔
じ……
夜高ミツル
「……飯作る?」
夜高ミツル
「ちょっと早いけど……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
早いが……
夜高ミツル
ガトーショコラに目をやる。
真城朔
網に乗ったガトーショコラへと……
夜高ミツル
焼けたお菓子の匂いがしていて……
真城朔
真城も目を向け……
夜高ミツル
チョコの……
夜高ミツル
いい匂いが……
真城朔
正直
真城朔
焼けたら食べる気満々だったんですが……
夜高ミツル
おいしそうな匂いがしてるのに8時間後まで食えないやつ
真城朔
よく冷ましとは書いてあったけど……
真城朔
そこまで冷ませとは聞いてない……
夜高ミツル
精々1時間くらいで食える気でいた。
真城朔
「…………」
真城朔
「つくる……」
真城朔
頷きました。
夜高ミツル
「ん」