翌日 2021/03/14 朝

夜高ミツル
冷蔵庫からガトーショコラを取り出す。
真城朔
後ろから覗き込んでいる。
真城朔
どきどき……
夜高ミツル
昨日作って、ちゃんとできているのか確かめられないまま朝になった。
真城朔
いいにおいはするのに~
真城朔
換気扇を長く回したけどまだチョコの匂いが残ってる気がする。
真城朔
気のせいかもしれない。
夜高ミツル
するような……しないような……
真城朔
その考え人格がチョコに支配されている
夜高ミツル
おあずけを食らってるからね~
夜高ミツル
まな板の上にガトーショコラを置く。
真城朔
どきどき……
夜高ミツル
紙型に手をかけ……
夜高ミツル
びりっ
夜高ミツル
外し外し……
真城朔
ああ……っ
真城朔
はずれていく……
真城朔
きちんと冷やしたからかかなり形がしっかりしている。
夜高ミツル
ぐるぐる……
夜高ミツル
一周。
真城朔
外側が剥がれた。
夜高ミツル
取れました。
真城朔
とれた。
夜高ミツル
「……なんか型が外れるとケーキっぽい」
夜高ミツル
元からケーキだが……
真城朔
こくこく……
真城朔
「チョコの」
真城朔
「ケーキ……」
夜高ミツル
型があるとまだ途中感が……
真城朔
「これを」
真城朔
「ええと」
夜高ミツル
「6等分だっけ……?」
真城朔
頷く。
真城朔
頷いたが……
真城朔
「…………」
真城朔
「いけるかな……」
真城朔
どきどき……
夜高ミツル
「この波になってるところをいい感じに……」
夜高ミツル
いい感じに切れば……
真城朔
「あ」
真城朔
「えっと」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
視線がさまよい……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「?」
夜高ミツル
「あ」
夜高ミツル
「大きいか……?」
真城朔
首を竦めた。
真城朔
「んー……」
真城朔
「…………」
真城朔
ガトーショコラをあちこちから見て回る。
真城朔
見て回り……
真城朔
「…………」
真城朔
「わかんない……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「じゃあとりあえず切ってみて」
夜高ミツル
「大きそうだったら小さくするか」
真城朔
「うん……」
真城朔
小さく頷いた。
真城朔
しゅん……
夜高ミツル
「冷凍で保存できるし」
真城朔
「いいかんじに……」
夜高ミツル
「無理はしなくていいからな」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
包丁を手に取る。
真城朔
「……うん」
真城朔
じっと見ている。
夜高ミツル
包丁を浮かせたまま、ここからこう切って……とシミュレーションして
真城朔
目線をガトーショコラの高さに合わせて……
夜高ミツル
……よし。
夜高ミツル
包丁を下ろして、入刀。
夜高ミツル
す……
真城朔
さく……
夜高ミツル
まずは半分に……
真城朔
冷めてるからしっかり切れる。
夜高ミツル
切れた。
真城朔
冷蔵庫で4時間どころか12時間くらい冷やした。
真城朔
半分になった。
夜高ミツル
めちゃくちゃしっかり冷やました。
夜高ミツル
ちょっと回して、また包丁を入れる。
真城朔
パッケージを見せて……
真城朔
「こう……」
真城朔
こんな感じの形に……
夜高ミツル
「ハート形に……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
型でできた波にそって切るとハート6個になるようにできている。
真城朔
よく考えられているな……
夜高ミツル
2回めのカットが終わって、またケーキを回し、
夜高ミツル
3回目。
夜高ミツル
すっ
真城朔
切れ……
夜高ミツル
ハートが6個。
真城朔
た。
真城朔
じ……
夜高ミツル
「……いけそうか?」
真城朔
「うー」
真城朔
「うーん……」
真城朔
じー…………
真城朔
にらめっこしている。
真城朔
おあずけだったし食べたい気持ちは強く……
夜高ミツル
「とりあえず食ってみて」
夜高ミツル
「無理そうだったら俺がもらうでも」
真城朔
でも前に買ったガトーショコラはあれだけしか……
真城朔
「……ん」
真城朔
頷いた。
真城朔
ミツルを見上げる。
真城朔
「それで」
真城朔
「いい?」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ん……」
真城朔
「じゃあ」
真城朔
「それで……」
真城朔
頷いた。
真城朔
立ち上がり……
夜高ミツル
「そうしよそうしよ」
真城朔
茶こしと粉糖を取ってきます。
夜高ミツル
「これかけたらやっと完成か……」
真城朔
「長かった……」
夜高ミツル
「な~……」
真城朔
作るのは意外と簡単だったような気がするが……
夜高ミツル
待つのが……
真城朔
待ち時間が……
真城朔
粉糖は食べる直前にかけるのがいいらしいので
真城朔
切り分けたガトーショコラを2つよけて……
真城朔
その上に茶こしをセット。
夜高ミツル
ハサミで粉糖の袋を切って……
真城朔
いつもお茶を入れるのに使っている取っ手がないただの茶こしです。
真城朔
両手で保持。
夜高ミツル
茶こしの上から粉糖をかけていく。
夜高ミツル
ちょっとずつちょっとずつ……
真城朔
とんとん……
真城朔
茶こしをちょっと縦に揺らしたりなどして……
真城朔
ガトーショコラに白雪のように……
夜高ミツル
白く……
真城朔
黒っぽいケーキに白が。
真城朔
「……これで」
夜高ミツル
「……このくらいか?」
真城朔
「たぶん……」
真城朔
「…………」
真城朔
「完成?」
真城朔
茶こしを持ったままミツルを見る。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「完成!」
真城朔
「ん」
真城朔
「完成……」
夜高ミツル
粉糖の袋の端を留め……
真城朔
茶こしをどけて……
真城朔
他のガトーショコラどうしよう……
真城朔
とりあえずタッパーに入れるのか?
夜高ミツル
とりあえずタッパーに入れよう。
真城朔
タッパーに入れて冷蔵庫へ。
真城朔
牛乳も出して入れます。
真城朔
注ぎ注ぎ……
夜高ミツル
ガトーショコラは皿に分けて食卓に。
夜高ミツル
フォークを出し……
真城朔
食卓を整え……
真城朔
座ります。
夜高ミツル
隣に座りました。
真城朔
どきどき……
真城朔
ガトーショコラを前に改めてどきどきしている。
夜高ミツル
初めて作ったケーキ。
夜高ミツル
ちゃんとできてるのか……?
夜高ミツル
「……いただきます」
真城朔
「いた」
真城朔
「いただきます……」
真城朔
手を合わせ、いつもの唱和。
夜高ミツル
フォークを取ります。
真城朔
じ……
夜高ミツル
とりあえず端っこにフォークを……
夜高ミツル
フォークを……
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
なんか……
真城朔
どきどき……
夜高ミツル
硬いような……?
夜高ミツル
こんなもんだっけ……?
真城朔
「……?」
夜高ミツル
ちょっと力を入れて、さくっとフォークを入れる。
真城朔
さくっと……
真城朔
すっかりミツルを見守っている。
夜高ミツル
断面はちゃんとガトーショコラっぽく見える……
夜高ミツル
見守られながら一口。
夜高ミツル
ぱくっ
真城朔
どきどき……
真城朔
「ど」
真城朔
「どう……?」
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
ごくり……
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
首をひねる。
真城朔
「?」
夜高ミツル
ごくん。
真城朔
合わせて首を傾げます。
夜高ミツル
「……なんか……」
真城朔
「なんか」
夜高ミツル
「なんか表面が硬い……?」
真城朔
「硬い」
真城朔
「…………」
真城朔
じ……と自分のぶんのガトーショコラを見て……
真城朔
フォークを取り
夜高ミツル
「中はちゃんとガトーショコラなんだけど……」
真城朔
先端を……
真城朔
…………
夜高ミツル
今度はミツルが真城を見守る。
真城朔
しっとりとした弾力を感じるより前に
真城朔
表面にさくっとフォークが刺さった。
真城朔
さくっと。
夜高ミツル
さくっ……
真城朔
「………?」
真城朔
そのまま端っこを割っていき……
真城朔
ぱく……
夜高ミツル
表面に妙に手応えがあって……
真城朔
もむもむ……
夜高ミツル
そわそわ……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……ど、う?」
真城朔
また首を傾げました。
真城朔
「なんか……」
真城朔
「外が」
真城朔
「焼き菓子」
夜高ミツル
「……だ、よな」
夜高ミツル
「なんか……」
夜高ミツル
「違うよな…………」
真城朔
「……香ばしさが……?」
夜高ミツル
ガトーショコラってもっと表面もしっとりしてて……
真城朔
シックな感じで……
夜高ミツル
これはなんか……
真城朔
少なくともさくっと感のイメージはない。
夜高ミツル
外はカリッと中はしっとりみたいな……
真城朔
不思議な感じに……
真城朔
「…………」
真城朔
口を動かしていたが……
真城朔
牛乳を一口飲みました。
真城朔
「あ」
真城朔
「でも」
夜高ミツル
「……?」
真城朔
「牛乳と合う」
夜高ミツル
「牛乳……」
真城朔
「チョコだし……」
夜高ミツル
「ん……」
真城朔
ミツルを見ています。
夜高ミツル
フォークを持ち上げて、もう一口分。
夜高ミツル
やっぱりなんか表面がこう…………
真城朔
どきどき……
夜高ミツル
口に運び……
真城朔
どきどきがぶりかえしている。
夜高ミツル
もぐもぐ……
夜高ミツル
コップに手を伸ばし……
夜高ミツル
牛乳を飲んで……
真城朔
ごくり
夜高ミツル
飲み下し。
夜高ミツル
「……確かに」
夜高ミツル
「牛乳には合ってる」
真城朔
「ん」
真城朔
「おいしい」
真城朔
「よ」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「……でも」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「誕生日のケーキだから……」
夜高ミツル
「もっとちゃんとこう……」
夜高ミツル
「ちゃんとしたかったな……」
真城朔
ミツルを見る。
夜高ミツル
肩を落とす。
真城朔
「…………」
真城朔
ガトーショコラを見て……
真城朔
真城にしては多めにフォークで割りました。
真城朔
フォークを刺して……
真城朔
「ん」
真城朔
ミツルへと向けた。
夜高ミツル
真城を見る。
真城朔
ミツルの口元にガトーショコラ。
夜高ミツル
それから向けられたフォークに視線を移し……
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
おずおずと口を開く。
真城朔
開かれた口の中へとガトーショコラが入ります。
夜高ミツル
ぱく……
真城朔
フォークが引かれ……
真城朔
少し笑う。
夜高ミツル
もぐ……
真城朔
じっ……
夜高ミツル
やっぱり表面はさくさくで……
夜高ミツル
でもまあ中はしっとりできてるし……
夜高ミツル
失敗というほど失敗ではないんだけど……
真城朔
「おいし」
真城朔
「い?」
夜高ミツル
飲み込んで……
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「ん」
真城朔
自分の分をフォークで割って、ぱくりと食べる。
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
じ……とそれを見つめる。
真城朔
長く口を動かして味わっている。
夜高ミツル
完璧……ではないんだけど……
夜高ミツル
真城は喜んでくれている。
真城朔
味わっている……
真城朔
うちに
真城朔
涙が落ちた。
夜高ミツル
「真城……?」
真城朔
口を動かしている。
真城朔
動かして……
真城朔
牛乳をまた一口。
真城朔
飲み込む。
夜高ミツル
涙を拭おうと浮かした手が彷徨っている。
真城朔
「……おいしいよ」
夜高ミツル
「……う、ん」
真城朔
言う間も涙が落ちている。
真城朔
「ミツが」
真城朔
「つくって、くれて」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「いっしょにつくって」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
涙を浮かべた目元に手を伸ばす。
夜高ミツル
雫を指先で拭う。
真城朔
拭われても止まらない。
真城朔
「おいしい」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「うれしい」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「真城が」
夜高ミツル
「喜んでくれたなら」
夜高ミツル
「よかった……」
真城朔
頷く。
真城朔
泣きながらミツルを見ている。
夜高ミツル
「喜んでくれて、俺も嬉しい」
夜高ミツル
見つめ合っている。
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
「一緒に作るの楽しかったし……」
夜高ミツル
「ちょっと……失敗はしたけど……」
真城朔
「おいしいよ」
夜高ミツル
「うん……」
夜高ミツル
「ちゃんとうまくはできた」
真城朔
「できた」
真城朔
「できた……」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
身体を傾けて、
夜高ミツル
焼けすぎな感じがなければ……とはやっぱり思うけど
真城朔
ミツルの肩に顔を埋める。
夜高ミツル
「できてよかった……」
真城朔
「うん……」
夜高ミツル
受け止める。
夜高ミツル
手のひらを頭に回して、撫でる。
真城朔
丸まった背中が震えている。
真城朔
不規則な呼吸の音が聞こえる。
夜高ミツル
反対の手を背中に回して、あやすようにとんとんと叩く。
真城朔
ミツルの服を掴み寄せ、指先で握りしめ、
真城朔
あやされるままに泣いている。
夜高ミツル
たたいて、撫でて。
夜高ミツル
食べかけのケーキはそのままに、
夜高ミツル
真城を抱きしめている。
真城朔
ミツルの肩に顔を埋めたまま、
真城朔
しばらくそのまま泣き続け。
真城朔
「……ごめ」
真城朔
「ん」
真城朔
やっとのことで、絞り出すような泣き声。
夜高ミツル
「……いいよ」
夜高ミツル
「全然謝ることない」
真城朔
「…………」
真城朔
「せっかく」
真城朔
「せっかく……」
夜高ミツル
「……喜んでくれただろ」
夜高ミツル
「だから、それでいい」
真城朔
「…………」
真城朔
「……うん」
真城朔
「うれ」
真城朔
「っ」
真城朔
「うれし」
真城朔
「い」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「真城がおいしいって言ってくれて」
真城朔
しゃくりあげる。
夜高ミツル
「喜んでくれたから」
夜高ミツル
「俺も嬉しい」
真城朔
また背中を震わす。
夜高ミツル
震える背中を優しく撫でる。
真城朔
「おいし」
真城朔
「おいしい」
真城朔
「よ」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「うれしい」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「俺も」
真城朔
嗚咽が漏れる。
夜高ミツル
「一緒に作って」
夜高ミツル
「食べて」
夜高ミツル
「おいしいし、うれしい」
真城朔
「う」
真城朔
「ぅー……」
夜高ミツル
よしよしと背中をさすっている。
真城朔
さすられさすられ……
真城朔
徐々に姿勢が崩れてミツルの胸に埋まりつつある。
夜高ミツル
頭が下がっていく……
真城朔
涙を染み込ませた痕がミツルの服に残っている……
夜高ミツル
よくあること……
真城朔
胸元にもどんどん涙が侵食する。
夜高ミツル
ルームウェア越しに濡れた感触。
真城朔
それと熱。
真城朔
鼓動、
真城朔
濡れた呼吸。
夜高ミツル
それを受け止めて、感じている。
真城朔
涙混じりの嗚咽を吐息に紛れさせ、
真城朔
ミツルの胸で震えている。
夜高ミツル
腕の中で震える真城をあやし続けている。
夜高ミツル
「……おめでとうにはまだ早いけど」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「今日と明日は真城のための日だから」
夜高ミツル
「何も気にしないでいいし」
夜高ミツル
「喜んでくれたなら俺は嬉しい」
真城朔
「……ぅう」
真城朔
呻いた。
夜高ミツル
呻いてる。
真城朔
先程より少し穏やかに
真城朔
泣いている。
夜高ミツル
あやす手つきもだんだん緩やかに。
真城朔
長い時間をかけて……
夜高ミツル
よしよし……
真城朔
やがてゆっくりと
真城朔
真城はミツルの胸から顔を離す。
真城朔
ぐしゃぐしゃ……
真城朔
朝イチのぐしゃぐしゃ。
夜高ミツル
ぐしゃぐしゃの顔に手を伸ばして……
夜高ミツル
涙を拭って……
夜高ミツル
前髪をなおし……
真城朔
ととのえられている……
夜高ミツル
整えました。
真城朔
ちょっとましなぐしゃぐしゃになりました。
夜高ミツル
なった。
夜高ミツル
最後に頭を撫でて、手を離す。
真城朔
手を離され……
真城朔
そのままミツルの胸に顔を埋めるのではなく、頬を預ける。
真城朔
胸に耳を当てている。
夜高ミツル
「?」
夜高ミツル
真城の頭を見下ろす。
真城朔
「……ほんとは」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「ミツが」
真城朔
「生きてて、くれたら」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「…………」
真城朔
「それが」
真城朔
「いちばん、ほしい……」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「生きてるよ」
夜高ミツル
「俺も、真城も」
真城朔
「……うん……」
夜高ミツル
「真城がずっと助けてくれたから」
夜高ミツル
「俺は生きてる」
真城朔
「…………」
真城朔
結局また涙をこぼす。
夜高ミツル
「……生きてる」
真城朔
「……うん」
夜高ミツル
噛みしめるように繰り返す。
真城朔
「いきてる……」
真城朔
泣きながら反芻する。
夜高ミツル
「うん……」
夜高ミツル
「……真城が」
夜高ミツル
「生きててくれて、嬉しい……」
夜高ミツル
あの夜、
夜高ミツル
フォゲットミーノットとの決戦の夜に、
夜高ミツル
あと少しでも何かを間違えていれば、
夜高ミツル
きっとこんな風に二人では過ごせていなかった。
真城朔
ゆっくりと瞼を上げて、
真城朔
真城の瞳がミツルを見る。
真城朔
今も涙を滲ませながら、ミツルの顔を映す。
夜高ミツル
瞳が互いを映している。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
頭を撫で、黙り込んで。
真城朔
ぼんやりとミツルの胸に体重を預けている。
夜高ミツル
「……ケーキ」
夜高ミツル
「食えそう……?」
真城朔
はた……
真城朔
目を瞬き……
真城朔
ゆっくりと身体を起こして
真城朔
ミツルから離れていく。
夜高ミツル
離れていくのを見送り……
真城朔
食べかけのガトーショコラに視線をやり……
真城朔
小さく頷いた。
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「あ」
真城朔
「の」
夜高ミツル
ケーキに向き直り……
真城朔
ミツルを見る。
夜高ミツル
かけたところで
真城朔
「えっと」
夜高ミツル
「?」
夜高ミツル
真城を見る。
真城朔
「ぜんぶ」
真城朔
「食べられる、か」
真城朔
「不安」
真城朔
「…………」
真城朔
「だった」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「けど」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……いけそう?」
真城朔
「……いまの」
真城朔
「で」
真城朔
「ちょっと」
真城朔
「おなか」
真城朔
「すいた……」
夜高ミツル
「……そっか」
夜高ミツル
小さく笑う。
真城朔
合わせて頷く。
真城朔
頷いて、
真城朔
今度こそケーキに向き直った。