2021/03/15 朝

真城朔
ミツルの腕の中、小さく身動ぎする気配。
夜高ミツル
それにつられたように目を開ける。
真城朔
目が合った。
真城朔
シーツに頬を預け、
真城朔
どこか緊張を孕んだ瞳でミツルを見ている。
夜高ミツル
「……おはよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「……おはよう……」
真城朔
か細い声。
夜高ミツル
それから腕に力を込めて、真城を抱き寄せ
夜高ミツル
「……誕生日」
夜高ミツル
「おめでとう、真城」
真城朔
抱き寄せられてミツルの胸に埋まる。
真城朔
表情は冴えないまま、
真城朔
「……ん」
真城朔
「うん」
真城朔
小さく頷いた。
真城朔
「ありがとう……」
真城朔
視線を落とす。
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
首を竦めている。
真城朔
身を縮めるようにしてミツルの腕に収まっている。
夜高ミツル
背中を撫でる手つきがややぎこちない。
夜高ミツル
真城と同じように、どことなく緊張感がある。
真城朔
ミツルの胸に顔を埋めてじっと固まっている。
夜高ミツル
「……とり、あえず」
夜高ミツル
「飯、食う……?」
真城朔
「…………」
真城朔
「…………」
真城朔
黙り込んだまま、おずおずと頷いた。
noname
 
真城朔
準備の整った食卓に座っている。
真城朔
メニューはビーフストロガノフとローストビーフ。
夜高ミツル
昨日作った残り。
真城朔
おいしいから飽きないし朝からでも食べられる……
真城朔
真城の量は流石にかなり少なめだが。
夜高ミツル
牛と牛で牛がダブってしまっている。
夜高ミツル
若いから気にしない。
真城朔
肉はおいしいし……
夜高ミツル
「……いただきます」
真城朔
「いただきます……」
真城朔
どこか浮かない声のまま。
真城朔
手を合わせて唱和しました。
真城朔
もぐ……
夜高ミツル
緊張感の漂う朝食……
真城朔
ここ最近じわじわと漂ってはきた緊張だが……
夜高ミツル
じわじわと今日のために準備をしてきた。
夜高ミツル
丁寧に掃除をしたり……
夜高ミツル
ご飯を作り溜めておいたり……
真城朔
シーツや布団カバー一式お洗濯したり……
夜高ミツル
消耗品の確認とか…………
夜高ミツル
昨日は寝る時間も普段より早めに。
真城朔
早めにゆっくりお風呂に入ってゆっくり寝ました。
真城朔
ガトーショコラもまだ残ってる。
真城朔
冷蔵中の2切れと冷凍してしまった2切れ。
夜高ミツル
そんな感じで真城の誕生日当日を迎え……
真城朔
朝ごはんを食べています。
真城朔
もぐ……
夜高ミツル
もくもくと……
真城朔
なんとなくテレビもつけづらい。
真城朔
むしろつけたほうがいいのか?
夜高ミツル
部屋が静かだとより緊張感が増す感じはある……
真城朔
でもリモコンに手を伸ばしてテレビをつける勇気が出ない……
夜高ミツル
出ないね……
夜高ミツル
出ないので、もくもくと食事が進んでいく。
真城朔
均衡を破る難しさ。
夜高ミツル
味の感想とか……昨日ひとしきり話してるし……
真城朔
おいしかった……
真城朔
今日もおいしい……
夜高ミツル
喜んでくれてうれしい……
真城朔
ローストビーフを長く咀嚼しています。
真城朔
食べるペースがいつもより遅い。
真城朔
いつも遅いが……
夜高ミツル
もくもくもく……
夜高ミツル
ちらちらと真城を横目に見ながら、ビーフストロガノフを食べている。
真城朔
視線は食卓に落ちている。
真城朔
気持ち猫背気味……
夜高ミツル
まるい……
真城朔
頭も背中も……
真城朔
とぼとぼもそもそ食べています。
夜高ミツル
「……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
重い沈黙……
真城朔
ずっしり
夜高ミツル
を破って口を開く。
夜高ミツル
「……食べ、終わったら」
夜高ミツル
「歯磨きして」
夜高ミツル
「風呂……」
真城朔
ミツルを見る。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「入って……」
真城朔
こく……
真城朔
頷いて……
真城朔
固まった。
夜高ミツル
固まった……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「う」
夜高ミツル
「俺嫌じゃないからな」
真城朔
びく……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「やなこと無理にさせられてるとか」
真城朔
一瞬だけちらりとミツルを見てから
夜高ミツル
「全然そういうのはないから」
真城朔
視線が彷徨う。
真城朔
「…………」
真城朔
「でも……」
真城朔
俯いた。
夜高ミツル
「……大丈夫」
真城朔
「…………」
真城朔
泣き始めた。
真城朔
お箸を手に……
夜高ミツル
「……真城?」
夜高ミツル
食器を置く。
真城朔
ぽろぽろ……
真城朔
「……でも」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「だって……」
真城朔
「おかしい……」
夜高ミツル
「……俺は」
夜高ミツル
「真城が」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺を、ほしいって」
夜高ミツル
「思ってくれるなら、嬉しい」
真城朔
「…………」
真城朔
「こんな」
真城朔
「こんな、なのに」
夜高ミツル
「……嬉しいよ」
真城朔
「変」
真城朔
「だし……」
夜高ミツル
手を伸ばして、頬に触れる。
真城朔
触れられる。
夜高ミツル
溢れた涙を拭う。
真城朔
その指になお涙が落ちる。
夜高ミツル
「……真城が望んでくれるなら俺は」
夜高ミツル
「それでいいんだ」
夜高ミツル
「普通とか、そうじゃないとかなくて……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城が欲しいものをあげたいし」
夜高ミツル
「望んでくれたことを叶えたい」
真城朔
視線を落としている。
真城朔
「……なんにも」
真城朔
「して」
真城朔
「あげられてない、のに」
夜高ミツル
「もらってるよ」
真城朔
「もらってばっか……」
夜高ミツル
「こうして一緒にいられるのが嬉しい」
真城朔
「面倒」
真城朔
「かけて、る」
夜高ミツル
「気にしてない」
真城朔
「何回も」
夜高ミツル
「できることがあるならなんでもしたいし……」
真城朔
「同じこと……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「いいよ」
夜高ミツル
「俺が真城にすることはしたくてすることだし」
夜高ミツル
「話も、真城が納得できるまで何回でもするし」
真城朔
俯いている。
夜高ミツル
「一緒にいるために」
夜高ミツル
「できることはなんでもしたいんだ」
真城朔
「で、も」
真城朔
「だからって」
真城朔
「…………」
真城朔
「きょうは」
真城朔
「俺が」
真城朔
「…………」
真城朔
「無理に……」
真城朔
俯いた頬に涙が落ちる。
夜高ミツル
「……たまになら大丈夫って言ったのは俺の方だ」
真城朔
「無理言った……」
夜高ミツル
「あんまりするのが心配なのはそりゃそうだけど……」
真城朔
「…………」
真城朔
ちら……
夜高ミツル
「でも真城が望んでくれたことを」
夜高ミツル
「今日は優先したいから」
真城朔
「……俺が」
真城朔
「望んだ、せいで」
真城朔
「ミツが……」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
頬に触れていた手を肩に回して
夜高ミツル
真城を抱き寄せる。
真城朔
抱き寄せられて、戸惑ったように視線をミツルに向ける。
夜高ミツル
「……俺だって」
夜高ミツル
「真城ともっとしたいって」
夜高ミツル
「思わないわけじゃ、ないんだからな……」
真城朔
「…………」
真城朔
「…………」
真城朔
「そ」
真城朔
「れは」
真城朔
「……俺の……」
真城朔
せいで……
真城朔
もしょもしょ……
真城朔
抱き込まれたままもしょもしょ言ってます。
夜高ミツル
「……俺の気持ちだよ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……で、それで真城に負担をかけるのはいやだなあと」
夜高ミツル
「普段は思っていて……」
真城朔
ミツルを窺う。
夜高ミツル
「でも、真城が望んでくれるなら」
夜高ミツル
「もっとって思うなら……」
真城朔
「……で」
真城朔
「も」
真城朔
「いやだ、って」
真城朔
「思うことを……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「いいんだよ」
夜高ミツル
「嬉しいのも本当だから」
真城朔
「…………」
真城朔
「……う」
真城朔
「うう」
夜高ミツル
抱き寄せたまま、背中を撫でる。
夜高ミツル
「……今日は」
夜高ミツル
「真城がしてほしいこと」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「してほしいだけ」
夜高ミツル
「なんでもする」
真城朔
ミツルの胸に顔を埋めて泣いている。
夜高ミツル
「……するからな」
真城朔
ぐい、と胸にさらに顔を押し付けて
真城朔
「うぅー……」
真城朔
意味の取りづらい呻き声をまた繰り返した。
夜高ミツル
うーになってる……
夜高ミツル
結局みゅってなんだったんだ?
夜高ミツル
脱線
真城朔
泣いています。
夜高ミツル
「……食べて」
夜高ミツル
「歯磨いて」
夜高ミツル
「風呂入って」
夜高ミツル
「……しよう」
真城朔
「…………」
真城朔
「する」
夜高ミツル
背中を撫でている。
真城朔
「の……?」
夜高ミツル
「……したい」
夜高ミツル
「……真城は?」
真城朔
「…………」
真城朔
小さく震えている。
夜高ミツル
「……真城がしたいことをしたい」
夜高ミツル
「もし他のことがいいならそれでいいし」
真城朔
「……ほかの」
真城朔
「こと」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……そうじゃないなら」
夜高ミツル
「俺を望んでくれるなら」
夜高ミツル
「ちゃんと、俺は」
真城朔
「ぅ」
夜高ミツル
「叶える、よ」
真城朔
「う」
真城朔
「…………」
真城朔
「……で」
真城朔
「でも」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……でも?」
真城朔
「………………」
真城朔
黙り込んでしまった。
夜高ミツル
「……真城?」
真城朔
「でも……」
真城朔
涙混じり。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「……お」
真城朔
「おかしい」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「真城が望んでくれることがいい」
真城朔
「い」
真城朔
「ぅ」
夜高ミツル
「……真城がほしいって思って」
夜高ミツル
「俺が叶えたいんだから」
夜高ミツル
「それでいいだろ」
真城朔
「……ほ」
真城朔
声が引きつった。
真城朔
「しく」
真城朔
「な」
真城朔
「い」
真城朔
「……って」
真城朔
「いった」
真城朔
「ら」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「……もっとって言った」
夜高ミツル
「いっぱいがいいって」
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「が」
真城朔
「っ」
真城朔
「俺と」
真城朔
「も、う」
真城朔
背中がひときわ大きく震えた。
真城朔
「か」
真城朔
「かん、けい」
真城朔
「なく……」
夜高ミツル
「…………」
真城朔
声を殺して泣いている。
真城朔
乱れた呼吸に肩が震えている。
夜高ミツル
「……関係なく?」
真城朔
表情を隠して、ミツルの胸に顔を埋めている。
真城朔
「……か」
真城朔
「うぅ」
真城朔
「あ」
真城朔
「…………っ」
真城朔
「俺」
真城朔
「俺、と」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「ちがう……」
真城朔
「ふつう」
真城朔
「ふつう、の」
真城朔
「生き方」
真城朔
「ちがう」
真城朔
「ちがうから」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「だから……」
真城朔
「ちゃんと」
夜高ミツル
腕に力を入れて、なおさらに強く抱き寄せる。
真城朔
「あ」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「……っ」
真城朔
身体が強張る。
夜高ミツル
「……そんなの」
夜高ミツル
「そんなのもう、できるわけないだろ」
夜高ミツル
「……できない」
真城朔
「うぅ」
夜高ミツル
「無理だよ」
真城朔
「ぅー……」
真城朔
「だ」
真城朔
「だめ」
真城朔
「だめ、なの」
夜高ミツル
「……俺は真城といたくて」
真城朔
「に」
夜高ミツル
「そうするって決めて」
夜高ミツル
「こうして一緒に暮らせて……」
真城朔
「っ」
夜高ミツル
「それが俺にとっては一番幸せなんだって分かったから」
夜高ミツル
「知ったから」
夜高ミツル
「だから、もう無理だよ」
真城朔
「で」
真城朔
「でも」
真城朔
「のぞ、……っ」
真城朔
「のぞん」
真城朔
「で」
真城朔
「……の」
真城朔
「あ」
真城朔
「ぅー……」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「のぞ」
真城朔
「のぞ、む」
真城朔
「から」
夜高ミツル
「……何を?」
真城朔
「だ」
真城朔
「から」
真城朔
「さっき」
真城朔
「さっき、の」
真城朔
「そ」
真城朔
「そう」
真城朔
「それ、が」
真城朔
「それで、っ」
真城朔
「そうなっ」
真城朔
「て」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「……」
真城朔
「ミツ、が」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「こん、な」
真城朔
「俺と」
真城朔
「俺と、もう」
真城朔
「もう……」
夜高ミツル
「……それは」
夜高ミツル
「それは、無理なんだって」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「離れるとか、そういうのは」
夜高ミツル
「今日でも、今日じゃなくても」
夜高ミツル
「俺はできることはなんでもするけど」
夜高ミツル
「それはできないことだから」
真城朔
「のぞむ」
真城朔
「から……」
真城朔
掠れた声。
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「でも、無理だ」
真城朔
嗚咽が返る。
夜高ミツル
震える背中をさする。
夜高ミツル
「……俺は真城が好きで」
夜高ミツル
「一緒にいたくて」
夜高ミツル
「そのためならなんでもできる」
夜高ミツル
「したい」
真城朔
「う」
真城朔
「うあ、……っ」
夜高ミツル
「……だから」
夜高ミツル
「離れるとかは、なんでもの対象外」
真城朔
「で、も」
真城朔
「…………っ」
真城朔
ろくな言葉が続かない。
夜高ミツル
「……そもそも」
夜高ミツル
「俺は真城が喜んでくれることがしたいんだって」
真城朔
「よろ」
真城朔
「っ」
真城朔
「よろこ、ぶ」
真城朔
「し……」
夜高ミツル
「……全然説得力ないからな」
真城朔
「うそ」
真城朔
「うそ、じゃ」
真城朔
「ない」
真城朔
「うそじゃない……」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
そう言われながらも、身体は寄り添ったままで……
真城朔
ミツルの胸に顔を埋めている。
夜高ミツル
回した腕が振り払われるでもなく。
真城朔
しゃくりあげては背が跳ねて、
夜高ミツル
「……俺は嫌だよ」
夜高ミツル
「真城と離れるの」
真城朔
嗚咽を押し殺して息が乱れる。
真城朔
「……っ」
夜高ミツル
「一緒にいたい」
夜高ミツル
「一緒にいる今が幸せで」
夜高ミツル
「この先も、ずっと続けていきたい」
真城朔
「……こん、な」
真城朔
「こんな生活」
真城朔
「いつまでも、は」
夜高ミツル
「続けたい」
夜高ミツル
「真城と一緒の暮らしを続けるためなら」
夜高ミツル
「俺はなんだってする」
真城朔
「狩り」
真城朔
「なんてして、た」
真城朔
「ら」
真城朔
「いつ、また」
真城朔
「怪我……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「心配かけるのは、悪いと思ってる」
真城朔
「やだぁ……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「わるい……」
夜高ミツル
死ぬつもりがなくても、どんなに気をつけても、
夜高ミツル
それでも命を落とすことがあるのが狩りで。
真城朔
そのことを思い知って、
真城朔
だから怯えるように身を縮めて、
真城朔
ミツルの胸に縋っている。
夜高ミツル
一緒に来てほしいと望まれたことなんか一度もない。
夜高ミツル
「……ごめんな」
夜高ミツル
「でも、それは」
夜高ミツル
「一緒にいるために必要だって」
夜高ミツル
「そうしたいって思ってるから」
夜高ミツル
「……だから、続けるよ」
真城朔
「ひつよう」
真城朔
「必要、ない……」
真城朔
「ミツが」
真城朔
「そんな、こと」
真城朔
「しなくても」
夜高ミツル
「……必要だよ」
夜高ミツル
「真城が一人で狩りに行くのを見送って」
夜高ミツル
「それで、夜の間待ってるだけ」
夜高ミツル
「そんなのは俺は嫌だ」
真城朔
「べ、つに」
真城朔
「だいじょうぶ」
真城朔
「だし」
真城朔
「ずっと」
夜高ミツル
「大丈夫じゃない」
真城朔
「ひと、りでも」
夜高ミツル
「俺が嫌だ」
真城朔
「……俺」
真城朔
「俺、も」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「ミツが、危ないの」
真城朔
「やだ」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「でも、もし行かなくたって危ないもんは危ないだろ」
真城朔
「行く、ほうが」
真城朔
「あぶない……」
真城朔
「ずっと……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「でも、どうせ危ないならちゃんと戦いたいし」
夜高ミツル
「真城を一人で行かせたくない」
真城朔
「…………」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「うん……」
真城朔
「やだ」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
抱き寄せている。
夜高ミツル
腕が背中に回って、手のひらが触れている。
真城朔
ミツルの胸元はすっかり涙でぐしゃぐしゃに濡れている。
真城朔
丸まった背中はしょっちゅう跳ねては震えて、
真城朔
不規則な呼吸のさまと嗚咽が耳につく。
夜高ミツル
「……俺に狩りに出てほしくないって」
夜高ミツル
「真城が本当に思ってるのは」
夜高ミツル
「分かってるんだ……」
真城朔
「俺、が」
真城朔
「俺のせいで……」
真城朔
「ミツが……」
真城朔
「よく」
真城朔
「よくない」
真城朔
「のに」
真城朔
「俺、なんかと」
夜高ミツル
「……真城を守りたいんだ」
夜高ミツル
「一緒にいたい」
真城朔
「俺なんかを……」
夜高ミツル
「一緒に戦いたい」
夜高ミツル
「一人にしたくない」
真城朔
「そんな」
真城朔
「価値」
夜高ミツル
「ある」
真城朔
「ない……」
夜高ミツル
「……あるよ」
夜高ミツル
「俺にとっては」
真城朔
「ないよ……」
夜高ミツル
「真城が一番大事なんだ」
真城朔
「ない……」
夜高ミツル
「真城がなんて思っても」
夜高ミツル
「俺にとってはそうなんだよ」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「こんな風に一緒にいたいのも」
夜高ミツル
「大事にしたいのも」
夜高ミツル
「好きだって思うのも」
夜高ミツル
「真城だけだ」
真城朔
「……だ」
真城朔
「だま、っ」
真城朔
「だまされ」
真城朔
「て」
真城朔
「る……」
夜高ミツル
「……何が」
真城朔
「…………」
真城朔
「かんちがい……」
夜高ミツル
「……勘違いで半年も一緒にいられるかよ」
真城朔
「……俺が」
真城朔
「こう」
真城朔
「だから……?」
夜高ミツル
「……それも」
夜高ミツル
「今更だろ」
真城朔
「…………」
真城朔
「頭」
真城朔
「冷ました、ら」
真城朔
「もどる」
真城朔
「かも……」
夜高ミツル
「冷ました」
夜高ミツル
「冷ましました!」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「一日じっくりちゃんと考えました」
真城朔
「おりにふれて……」
夜高ミツル
「家にも連絡したし、これまでも先のことも考えて……」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「……そもそも」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺が真城を好きだって思う気持ちには影響ないって」
夜高ミツル
「皆川さんも言ってた」
真城朔
「わ」
真城朔
「わかんない」
真城朔
「し」
夜高ミツル
「……それに」
夜高ミツル
「真城がD7に連れてかれてから取り返すまでだって」
夜高ミツル
「一ヶ月離れてた」
真城朔
「あ」
真城朔
「の」
真城朔
「頃、は」
真城朔
「まだ」
真城朔
「…………」
真城朔
「まだ……」
夜高ミツル
「あの頃と今とはまあ違うけどさ」
夜高ミツル
「それでも俺はそんなに変わったつもりはなくて」
夜高ミツル
「一緒にいたくて」
夜高ミツル
「そのためならなんでもする」
夜高ミツル
「それは変わってないだろ」
真城朔
「…………」
真城朔
「なんでも」
真城朔
「しすぎ……」
夜高ミツル
「口だけよりいいだろ」
真城朔
「う」
真城朔
「うぅ」
夜高ミツル
「とにかく俺は何を何回言われても真城と離れる気は絶対にないから!」
夜高ミツル
早口
真城朔
ミツルの胸でめそめそ泣いている。
真城朔
めそめそしくしく……
夜高ミツル
泣いてるな……
夜高ミツル
あやしています。
真城朔
あやされている。
夜高ミツル
背中を撫でたりたたいたり……
夜高ミツル
とんとん……
真城朔
ぐすびす……
夜高ミツル
さすさす……
真城朔
嗚咽をこらえて しゃくりあげて
真城朔
脱力したり背中を丸めたり
真城朔
最終的にミツルの胸にべったりもたれている。
真城朔
べた……
夜高ミツル
もたれかかられている。
夜高ミツル
真城の身体を支えながら、反対の腕ではずっと背中を撫でています。
真城朔
撫でられて呼吸が少しずつ落ち着いていく。
夜高ミツル
落ち着いてきたな……と眼下の真城の様子を窺う。
真城朔
ぐしゃぐしゃの顔でぼんやりとどこをともなく見つめている。
夜高ミツル
ぐしゃぐしゃの顔を拭って……
夜高ミツル
前髪をなおしなおし……
真城朔
なおされ……
真城朔
ミツルの胸に頬を預ける。
真城朔
涙で濡れているが気にせずに……
夜高ミツル
濡れているなあ
真城朔
濡らした。
夜高ミツル
「……飯」
夜高ミツル
「食えそう?」
真城朔
「…………」
真城朔
「ごめん……」
真城朔
また俯いた。
夜高ミツル
「いいよ」
真城朔
「昨日も」
真城朔
「こんな」
真城朔
「で」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「いいって」
真城朔
「めんどう……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「何回でも」
夜高ミツル
「真城が納得するまで話すよ」
真城朔
「……きっと」
真城朔
「飽きる……」
夜高ミツル
「飽きない」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ない」
夜高ミツル
繰り返した。
真城朔
「…………」
真城朔
しょぼしょぼ……
真城朔
しゅんとしてます。
夜高ミツル
しゅんとしてる頭を撫でている。
夜高ミツル
「なんでもするよ」
夜高ミツル
「真城と一緒にいるために必要なこと」
夜高ミツル
「真城がしてほしいこと」
夜高ミツル
「望むこと」
真城朔
「…………」
真城朔
聞いている。
真城朔
「……なんでも」
真城朔
「は」
真城朔
「させたくない……」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「させたく」
真城朔
「ない……」
夜高ミツル
「……でも、するよ」
夜高ミツル
「そうするのが俺には幸せなんだ」
真城朔
「…………」
真城朔
俯いた。
夜高ミツル
「なんでもしたくて……」
夜高ミツル
「誕生日も」
真城朔
ミツルを窺う。
夜高ミツル
「祝いたいし」
夜高ミツル
「真城がほしいものをあげたい」
夜高ミツル
「したい」
真城朔
「…………」
真城朔
視線があちらこちらを彷徨った。
真城朔
「……ほしいもの」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「もらってる……」
夜高ミツル
「もっとあげたい」
真城朔
「も」
真城朔
「もらい」
真城朔
「すぎて、る」
真城朔
「くらい……」
夜高ミツル
「……俺としてはまだ全然」
夜高ミツル
「もっとできることがあればって思うくらいで」
夜高ミツル
「……ていうか誕生日なんだから」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「いいんだよもらいすぎでも」
真城朔
「よくない……」
夜高ミツル
「いい」
真城朔
「よく……」
夜高ミツル
「いいんだよ」
夜高ミツル
「……俺はあげたいよ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ほしがってほしい」
真城朔
困ったように視線がうろついている。
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「う」
夜高ミツル
「誕生日」
夜高ミツル
「誕生日、おめでとう」
真城朔
「…………」
真城朔
身を竦めている。
真城朔
「あ」
真城朔
「りが、と」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
返答もひどく居心地が悪そうに。
夜高ミツル
「……誕生日だから」
夜高ミツル
「プレゼント、したいんだけど」
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「ほしいもの」
夜高ミツル
「変わって、ないか?」
真城朔
「…………」
真城朔
俯く。
真城朔
指先が意味もなく動いて、
真城朔
ミツルの服の裾を握りしめる。
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
頭を撫で、
夜高ミツル
裾を握りしめる指先に視線をやり、
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「……う」
真城朔
曖昧な声が返った。
夜高ミツル
「……真城が望んでくれたら」
夜高ミツル
「望んでくれるのが」
夜高ミツル
「俺は嬉しいよ」
真城朔
視線が泳ぐ。
真城朔
「……さ」
真城朔
「さっき……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「のぞん」
真城朔
「で……」
真城朔
尻すぼみに声が小さくなっていく。
真城朔
同時に指先に力が籠もって、
真城朔
ミツルの服に皺を作った。
夜高ミツル
「……それは」
夜高ミツル
「できないって」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「無理」
夜高ミツル
「何回言われてもダメなもんはダメ!」
真城朔
しょぼぼ……
夜高ミツル
ダメ……
真城朔
すっかりしょぼになってミツルの胸に頬を預けている。
夜高ミツル
「……できる範囲でなんでもする」
夜高ミツル
「離れるとか狩りをやめるとかはできないこと」
夜高ミツル
念押しをしています。
真城朔
念押しをされてどんどんしょぼが深くなっています。
夜高ミツル
「……だからそれ以外で」
夜高ミツル
「俺にしてほしいこと」
夜高ミツル
「ほしいもの」
夜高ミツル
「真城が嬉しいこと」
真城朔
「…………」
真城朔
「……ミツ」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「おなか……」
真城朔
「ごはん」
真城朔
ちらりと食卓に目を向ける。
真城朔
冷めきった食卓に……
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
これ以上無いほど冷え切っている。
真城朔
一時間くらい経ってる……
真城朔
ビーフストロガノフがひえひえに。
夜高ミツル
「……真城の返事聞いたら」
夜高ミツル
「食べる」
真城朔
「へ」
真城朔
「へんじ」
夜高ミツル
「誕生日」
夜高ミツル
「ほしいもの」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「前と変わってないか?」
真城朔
俯いた。
夜高ミツル
「……別に違うなら違うでもいいんだけど」
真城朔
首を竦めている。
真城朔
背中が丸く……
真城朔
身を縮め……
夜高ミツル
丸くなっている背中に腕を回す。
真城朔
びくっ……
夜高ミツル
「……違うなら違うで」
夜高ミツル
「それでもいい」
真城朔
「う」
夜高ミツル
「いいん、だけど」
真城朔
「う、ぅ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「変わってないなら」
夜高ミツル
「俺がほしいって思ってくれるなら」
夜高ミツル
「俺は嬉しいし」
真城朔
唇を噛む。
夜高ミツル
「応えたいし」
夜高ミツル
「そのつもりで準備してきたし……」
真城朔
「……だ」
真城朔
「だめ」
真城朔
「な、のに」
夜高ミツル
「なんで」
夜高ミツル
「ダメじゃないだろ」
真城朔
「…………」
真城朔
「だめ……」
真城朔
「よく」
夜高ミツル
「俺はいいって言ってる」
真城朔
「よくない……」
真城朔
「だって」
真城朔
「俺は」
真城朔
「…………」
真城朔
「ずっと……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「ひどいこと……」
夜高ミツル
「…………うん」
夜高ミツル
「それでも」
夜高ミツル
「それでもだ」
真城朔
「よくない……」
夜高ミツル
「それでも俺は」
夜高ミツル
「真城になんでも」
夜高ミツル
「真城がしてほしいことをしたいよ」
真城朔
「なん」
真城朔
「なんでも、は」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……なんでもしたいよ」
真城朔
首を振る。
夜高ミツル
「させてほしい」
真城朔
「なんでも、じゃ」
真城朔
「ない」
真城朔
「…………」
真城朔
「って」
真城朔
「ミツが……」
夜高ミツル
「……一緒にいられなくなるようなことは」
夜高ミツル
「できないけど……」
真城朔
「俺」
真城朔
「俺、は」
真城朔
「それしか……」
夜高ミツル
「それ以外」
夜高ミツル
「それ以外で」
真城朔
「…………」
真城朔
「む」
夜高ミツル
「……俺は」
夜高ミツル
「真城と、したいよ」
真城朔
「う」
真城朔
「ぅ」
真城朔
「……っ」
夜高ミツル
「……したい」
夜高ミツル
抱き寄せる。
真城朔
抱き寄せられて密着して、
真城朔
けれど往生際悪く首を振る。
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
唇を噛んでいる。
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「俺はしたい」
夜高ミツル
「したいし」
夜高ミツル
「真城が求めてくれるなら、嬉しい」
真城朔
「で」
真城朔
「も」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「でも?」
真城朔
「……っ」
真城朔
背中が震えた。
真城朔
「ご」
真城朔
「ごめん」
真城朔
「ごめん……」
真城朔
ぼろぼろと涙を落とす。
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
「謝らなくていい」
真城朔
「俺が」
真城朔
「こんな……っ」
真城朔
「もっと」
真城朔
「もっと」
夜高ミツル
「いいから」
真城朔
「ミツが」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「面倒、かけなくて」
夜高ミツル
「……俺が」
夜高ミツル
「俺が好きなのは真城だ」
真城朔
「すぐ」
真城朔
「すぐ、こんな」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「でも、俺は」
夜高ミツル
「ここにいるお前が好きなんだよ」
真城朔
「…………っ」
真城朔
「や、だ」
真城朔
「こんな」
真城朔
「こんな、ばっか」
真城朔
「すぐ」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「ずっと……」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
背中を撫でる。
夜高ミツル
「それでも」
夜高ミツル
「それでもだ」
真城朔
「ごめ、っ」
真城朔
「ごめん」
真城朔
「ごめん、ミツ」
真城朔
「ごめん……」
夜高ミツル
「……謝るなよ」
夜高ミツル
「謝られることされてない」
真城朔
「あ」
真城朔
「……っ」
夜高ミツル
「なんにもされてないよ」
真城朔
「ごめ」
真城朔
「ごめんなさ、い」
真城朔
「なんにも」
真城朔
「なんにも、うけとれない」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「ミツは、悪くない、のに」
真城朔
「俺のせい」
真城朔
「俺のせいで」
真城朔
「俺が……」
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
「真城と一緒にいたいって」
夜高ミツル
「俺は自分で決めたんだ」
真城朔
「でも」
真城朔
「俺が……」
真城朔
「ミツに」
真城朔
「ミツに、何してもらっても」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「こんなの」
真城朔
「こんなの、で」
夜高ミツル
「……いいんだ」
真城朔
「ひどい」
真城朔
「やだ」
夜高ミツル
「……いいよ」
真城朔
「いやだ……」
真城朔
「俺、っ」
真城朔
「俺が」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「いや、で」
真城朔
「あ、……っ」
真城朔
「ぅう」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「う」
夜高ミツル
「でも」
夜高ミツル
「真城が受け取れなくて」
夜高ミツル
「そうでも、俺は」
夜高ミツル
「したいことを、喜んでくれそうなことを」
夜高ミツル
「するって決めたから」
真城朔
「…………っ」
夜高ミツル
「だから、これは」
夜高ミツル
「俺が勝手にしてることなんだ」
夜高ミツル
「真城が謝ることじゃない」
真城朔
「よく」
真城朔
「よくない……」
真城朔
「もったいない……」
夜高ミツル
「なくない」
真城朔
「なに」
真城朔
「なに、しても」
真城朔
「俺」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「よろこばない、のに」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「喜んでくれてる」
真城朔
「す」
真城朔
「すぐ、こう」
真城朔
「こうなる……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「ほしいもの、も」
真城朔
「なんにも」
真城朔
「いえない」
真城朔
「してもらっても」
夜高ミツル
「……それは俺も」
真城朔
「しかたなくて……」
夜高ミツル
「そんなに得意じゃないし」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「仕方なくない」
夜高ミツル
「そもそも俺は」
夜高ミツル
「真城に何かしてやれることが」
夜高ミツル
「それだけで嬉しいんだ」
真城朔
「なに、されても」
真城朔
「よろこばな、い」
真城朔
「のに?」
夜高ミツル
「喜んでくれてる……」
真城朔
首を振る。
夜高ミツル
「飯作ったらおいしいって言ってくれるし」
夜高ミツル
「笑ってくれるし」
真城朔
「う」
真城朔
「っで」
真城朔
「でも」
真城朔
「よくない」
真城朔
「よくない、し」
夜高ミツル
「何が」
真城朔
「…………」
真城朔
「俺、が」
真城朔
「うれしい」
真城朔
「のが……」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「……そう」
真城朔
泣いている。
夜高ミツル
「なってほしいよ」
真城朔
首を振る。
真城朔
「だめ」
夜高ミツル
「喜んで」
夜高ミツル
「嬉しくて」
真城朔
「だめ、だから」
夜高ミツル
「しあわせで」
夜高ミツル
「いてほしい」
真城朔
「…………っ」
夜高ミツル
「そうしたい」
真城朔
「ぜんぶ」
真城朔
「だめだ……」
夜高ミツル
「ダメじゃない」
真城朔
「できない……」
夜高ミツル
「何にもダメじゃない……」
夜高ミツル
「する」
真城朔
「やだ」
夜高ミツル
両腕で抱きしめる。
夜高ミツル
「幸せにするから」
真城朔
思い出したように腕をもがいて、
夜高ミツル
「もっと、ずっと」
真城朔
けれどその抱擁からは抜け出せずにいる。
真城朔
「なれない」
真城朔
「できない……」
夜高ミツル
容易に抜け出せるだろうに、それでも
夜高ミツル
ミツルの腕の中にいる。
真城朔
「やだ」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「やだ、やだ」
夜高ミツル
「じゃあなれるように頑張る」
真城朔
「やだあ……」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「嫌でも」
夜高ミツル
「嫌でも、ずっとそうするよ」
真城朔
「……やだ」
真城朔
「やだ……」
夜高ミツル
「……そうするのが」
夜高ミツル
「俺の幸せだから」
真城朔
声を殺して泣いている。
夜高ミツル
またあやすように、背中を撫でる。
真城朔
背中を撫でられてなんとか呼吸を整えようと深く息を吸っては、
真城朔
呼気を吐くのに苦労をしている。
夜高ミツル
それを助けるように、優しく背をたたく。
真城朔
そうして少しずつ呼吸が落ち着いて、
真城朔
ぐったりとミツルの胸で泣いている。
夜高ミツル
再び落ち着いた様子の真城の背を、ゆるゆると撫でている。
真城朔
ミツルに体重を預けてほろほろと涙を落としている。
夜高ミツル
その都度にルームウェアの胸元に染みをつくる。
夜高ミツル
それにはお構いなしで、ぴったりと身を寄せている。
真城朔
そのうちなんとなく真城がうとうとしてきた気配があり……
夜高ミツル
「……真城?」
夜高ミツル
その気配に声をかける。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城~……?」
真城朔
ぐて……
真城朔
むずがるように首を振り……
真城朔
結局ミツルの胸で落ち着いてしまった。
夜高ミツル
落ち着かれている……。
夜高ミツル
寄っかかられるのはそれはそれで嬉しいんだけど……
真城朔
呼吸はおだやか。
夜高ミツル
それはそれとして……
夜高ミツル
「あの……真城……?」
夜高ミツル
肩をつつく。
真城朔
「……ん」
真城朔
「ん」
真城朔
つつかれてむにゃむにゃと声を漏らし……
夜高ミツル
「飯……」
真城朔
ぼんやりと重たげに瞼を上げた。
真城朔
瞳の焦点が合っていない。
夜高ミツル
起きた
夜高ミツル
起きた???
真城朔
ぼや……
真城朔
うつら……
夜高ミツル
「……寝るなら寝るでも」
夜高ミツル
「ベッド行く?」
真城朔
「ねる」
真城朔
「…………」
真城朔
「ねる……?」
真城朔
首を傾げた。
夜高ミツル
「え」
夜高ミツル
「いや」
夜高ミツル
「眠そう」
夜高ミツル
「だったから……」
真城朔
「…………」
真城朔
「ベッド」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「も?」
夜高ミツル
「……真城が寝るなら、まあ」
夜高ミツル
「俺も、かな……?」
夜高ミツル
やることないし……
真城朔
「…………」
真城朔
かすかに頷いた。