2021/03/15 午前
夜高ミツル
食べかけの朝食はささっと冷蔵庫に押しやってしまい、
真城朔
温もりを求めるように真城が身体をすり寄せて、
真城朔
ゆっくりと瞼を上げて、真城がミツルの顔を見やる。
夜高ミツル
丸くなった背を撫でて、また抱き寄せる。
夜高ミツル
「ほしいって思ってくれる方が嬉しいのはそうなんだけど……」
真城朔
一瞬だけ向けられた瞳にかすかな非難のような色が、
夜高ミツル
離れられて、戸惑うように指先が揺れる。
夜高ミツル
耳を塞ぐ腕を掴んで、それを引き剥がそうと。
夜高ミツル
引き剥がせずに結局腕を背中に回して、耳元に口を寄せる。
真城朔
耳を塞いだまま、その抱擁は振りほどけない。
夜高ミツル
塞いでいても聞こえるように、声を張る。
夜高ミツル
……誕生日なのに泣かせてばっかりだな。
夜高ミツル
言えばきっと真城はますます泣いてしまうだろうから。
夜高ミツル
「もしかしたら、またこうして真城を困らせるかもしれないけど……」
夜高ミツル
「それでも、真城がずっとこのままでも」
夜高ミツル
「俺が真城の気持ちをちゃんと考えられてなかった」
夜高ミツル
「こうしてちゃんと言ってもらえるほうが」
夜高ミツル
「真城にしてやりたいことがたくさんあって」
夜高ミツル
「準備してたのが今日できなくなっても」
夜高ミツル
「誕生日って感じではなくなるかもだけど……」
夜高ミツル
「今日がダメなら明日でも、その先でも」
夜高ミツル
それが自分なもんだから恥ずかしくなってきている。
夜高ミツル
「間違ってないか、傷つけるようなことしてないか」
夜高ミツル
「それで嫌な思いさせてたら本末転倒なんだけど……」
夜高ミツル
「真城のこともっと分かってやれたら……」
夜高ミツル
「そういうのができるだけ少なくなるように……」
真城朔
全身をどうにも強張らせて、息を止めている。
真城朔
その背が最後にひときわ大きく息を吸い込んで、
夜高ミツル
「……真城が嫌なことはできるだけしたくない」
夜高ミツル
「一緒に生きてほしいとか、どこにも行かないでほしいとか」
夜高ミツル
「だから、望めなくてもそれでいいけど」
夜高ミツル
「だからって俺が勝手にしたいようにってのは」
真城朔
撫でられはするが先程とは違い脱力していく気配がない。
真城朔
なるべく小さくなりたい気持ちが表れた姿勢。
真城朔
声を殺そうとする時の、いつもの下手な呼吸。
夜高ミツル
抑えようにも抑えきれない嗚咽が漏れている。
真城朔
頭を抱えたまま、どうにか身を捩って離れようとする。
夜高ミツル
「それは本当……のつもりだったんだけど」
真城朔
真城の振る舞うさまにもどこかぎこちなさが残る。
夜高ミツル
……していることは、いつもと同じのはずなのに。
真城朔
受け入れられていることに、違いはないはずなのに。
夜高ミツル
唇を重ねたまま、指先を服の下に潜り込ませる。
夜高ミツル
吐息を漏らして開いた唇を舌先で舐めて、
真城朔
始めたばかりにしては温度の高い粘膜がミツルの舌を迎える。
真城朔
やはりぎこちなく真城の口の中で縮こまって、けれど逃れはしない。
真城朔
触れられた場所がその都度大げさに跳ねてから、
真城朔
時刻はまだ昼前で天気も良好、カーテンを閉めていても十分に明るい。
真城朔
抱き慣れた身体の横たわるさまもよく見える。
真城朔
同じく宣言した通りに、真城はその全てを受け入れる。