2021/03/16 早朝

夜高ミツル
ぼんやりと瞼を持ちあげる。
夜高ミツル
カーテンの閉め切られた部屋の中はまだ薄暗い。
真城朔
ミツルの目覚めた隣、ミツルが最後に見た姿勢のまま、
真城朔
くったりと力なく横たわっている。
真城朔
目元にばかりは真新しい涙を滲ませながら。
真城朔
熱が伝わる。
真城朔
呼吸をしている。
真城朔
静かで穏やかな、呼吸をしている。
夜高ミツル
どこか気怠さを感じながら、ぎゅ、と真城を抱き寄せる。
真城朔
抱き寄せられた熱がそのまま身を捩らせ、
真城朔
寄り添うように胸に頬を預けてくる。
夜高ミツル
肌と肌が密着して、直にぬくもりを感じて、
夜高ミツル
それからようやっと、昨日のことを思い出す。
真城朔
真城は小さな寝息を立てている。
真城朔
涙の跡を残しながら。
夜高ミツル
真城の誕生日。
夜高ミツル
何日も前から昨日のために準備を進めてきて、
夜高ミツル
だけど口論のようになってしまって、
夜高ミツル
結局黙らせるように真城を抱いた。
真城朔
最初は戸惑うように身体を強張らせていたけれど、
真城朔
途中からはいつものように蕩けて熱に溺れていた。
真城朔
もっと、
真城朔
もっとと繰り返し、何度でも。
夜高ミツル
求められるだけ、肌を重ねた。
夜高ミツル
最終的に真城が意識を手放すまで。
夜高ミツル
自分の気持ちがちゃんと乗らないまま、行為を繰り返した。
真城朔
その末に意識を手放した真城が、今もこうしてミツルの胸で眠っている。
夜高ミツル
してほしいことも、何が嬉しいかも、
夜高ミツル
何も真城に訊かず、確かめず、
夜高ミツル
それは、そうすると言ったとおりのことではあったけど。
夜高ミツル
でも、そうしたくはなかったし、
夜高ミツル
そんなもやもやした気持ちのまま、真城を抱いてしまったのが嫌だった。
真城朔
それでも真城は喜んでいたように思う。
夜高ミツル
真城の誕生日だったのに。
真城朔
ミツルを拒むことだって、少しもなかった。
夜高ミツル
散々泣かせて、
夜高ミツル
きっと言いたくなかったようなことも言わせて、
夜高ミツル
祝うはずの行為を、そういう気持ちでできなくて……。
夜高ミツル
真城を抱く腕に力が籠もる。
真城朔
ミツルの胸の中、真城が小さく身じろぐ。
真城朔
強く抱かれた腕の中、その胸に頬をすり寄せて、
真城朔
息をつく。
夜高ミツル
こうして甘えてくる仕草が、たまらなく嬉しく感じる。
夜高ミツル
昨日もこんな気持ちでしたかった。
夜高ミツル
できていたらよかったのに。
真城朔
「……ん」
真城朔
「んー…………」
夜高ミツル
「……」
真城朔
もぞ、とまた頬を寄せて気の抜けた声を漏らして、
真城朔
ぼんやりと瞼を上げて、何度か目を瞬く。
夜高ミツル
じ、とその様子を見ていた。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
気まずい沈黙を挟んで、
夜高ミツル
「……おはよう」
真城朔
ゆっくりと顔を上げると、ミツルと目が合う。
夜高ミツル
目を合わせて、声をかける。
真城朔
微笑んだ。
真城朔
「ん」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「おはよ」
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「…………」
真城朔
少しの沈黙ののち、
夜高ミツル
待っている……
真城朔
ぱちっ、と大きな瞬きを一度。
真城朔
それからびくりと肩を震わせてから身を縮めて、
真城朔
ミツルの胸から頬を離す。
真城朔
「…………ぁ」
真城朔
「う」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「う…………」
夜高ミツル
身体を竦める真城をまた抱き寄せる。
真城朔
涙の跡を残した頬に、また新しい涙を落とす。
真城朔
「っ」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「ま」
真城朔
「まっ、て」
真城朔
「あ」
真城朔
「ちが」
真城朔
「そう、じゃ」
真城朔
「……っ」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「だ」
真城朔
「だめ」
真城朔
「だめ、で」
真城朔
「俺」
真城朔
「俺……」
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「……落ち着いて」
夜高ミツル
「ちゃんと聞くから」
真城朔
「…………っ」
真城朔
背中を丸めて、
真城朔
涙を押し殺すときの掠れた呼吸の音が響く。
真城朔
「だ、め」
真城朔
「だめ……」
真城朔
「よ」
真城朔
「よく、っ」
真城朔
「よくな」
真城朔
「い」
夜高ミツル
「何が」
真城朔
「う」
真城朔
「ああ、っ」
真城朔
「ぁ」
真城朔
嗚咽を漏らしながら身を捩り、
真城朔
ミツルの腕から逃れようともがく。
夜高ミツル
当然、逃がすはずがない。
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
「昨日は、悪かった」
夜高ミツル
「ごめん」
真城朔
「ぅ」
真城朔
「ぅ、え」
真城朔
「……え?」
真城朔
瞬きに目元の涙が弾ける。
夜高ミツル
「真城の気持ちをちゃんと分かってやれなくて」
夜高ミツル
「傷つけるようなこと言ったし」
真城朔
「え」
真城朔
「なん、で」
真城朔
「ミツが」
夜高ミツル
「結局黙らせるみたいに、ああいうことしたし」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「誕生日なのに、ふてくされるみたいな態度取った」
夜高ミツル
「ごめん」
真城朔
呆然とミツルの顔を見上げていたが、
真城朔
すぐにその表情が歪んで、また涙を溢れさせる。
真城朔
「ち、……っ」
真城朔
「ちがう」
夜高ミツル
「違わない」
真城朔
「ちが、くて」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「ミツ、なんにも」
真城朔
「べつに」
真城朔
「わるいこ、と」
真城朔
「俺」
真城朔
「俺、が」
夜高ミツル
「俺は」
真城朔
「俺が、ひどいこと……」
夜高ミツル
「真城の思うことや望むことをちゃんと分かりたくて」
夜高ミツル
「でもできなかったから」
真城朔
「それ」
真城朔
「それだ、って」
真城朔
「俺が」
真城朔
「俺がめちゃくちゃ」
真城朔
「言って」
真城朔
「あんな、の」
真城朔
「言われたって」
真城朔
「困る、ことばっか、で」
夜高ミツル
「……まあ、そりゃ」
夜高ミツル
「困ったか困らなかったかで言ったら、まあ」
夜高ミツル
「びっくりしたし」
真城朔
「……っ」
夜高ミツル
「どうしたらいいのか分かんなくて、」
夜高ミツル
「でも」
真城朔
「ほら」
真城朔
「ほらぁ……」
真城朔
「俺が、こんな」
夜高ミツル
「俺はずっと真城を分かりたいって思ってるし」
真城朔
「だか、ら」
夜高ミツル
「困ったからって」
真城朔
「ミツに」
真城朔
「無理、ばっか」
真城朔
「ひどい、っ」
夜高ミツル
「それは嫌いになるとかは違うから」
真城朔
「ひどいこと、だって」
真城朔
「なる……」
夜高ミツル
「ならない」
真城朔
「な、るよう、な」
真城朔
「こと」
真城朔
「いっぱい……」
夜高ミツル
「別に怒ってないからな」
夜高ミツル
「嫌いにもなってないし」
真城朔
「ひ、っ」
真城朔
「ひど、いこと」
真城朔
「だって……」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「……嘘つきだったのは、」
夜高ミツル
「本当に、そう、だったし……」
真城朔
「あ、……っ」
真城朔
「あ、んなの」
真城朔
「なんくせ……」
真城朔
「俺」
真城朔
「俺、が」
真城朔
「は」
真城朔
「なんに、も」
真城朔
「言わないのに」
夜高ミツル
「でも」
夜高ミツル
「俺は分かってやらないといけなかったんだよ」
真城朔
「そ」
真城朔
「んな、の」
真城朔
「むちゃで……」
真城朔
身を縮めたまま背を丸めて、
夜高ミツル
「ずっとこうして傍にいて」
真城朔
自分の手で顔を覆う。
夜高ミツル
「話をしてきて」
夜高ミツル
「真城の事情も知ってて」
夜高ミツル
「だから」
夜高ミツル
「普通に考えたら無理なことでも」
夜高ミツル
「俺は」
夜高ミツル
「俺だけは、真城をちゃんと分かってないと……」
真城朔
「で」
真城朔
「できっこ、ない」
真城朔
「むちゃくちゃで……」
夜高ミツル
「そうしたかったし」
夜高ミツル
「そうしたいよ」
真城朔
「めんど、う、ばっか」
真城朔
「きのうだって」
真城朔
「これから、も」
真城朔
「俺」
真城朔
「俺とい、る限り」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ずっと……」
夜高ミツル
「いいよ」
真城朔
「めんどうばっかり……」
真城朔
「や、だ」
夜高ミツル
「いい」
真城朔
「よくない……」
真城朔
「よくな、い」
真城朔
「やだぁ……」
夜高ミツル
「いいんだよ……」
夜高ミツル
「俺がそうしたいんだから」
真城朔
「つ」
真城朔
「続きっこ、ない」
真城朔
「ない」
真城朔
「い、つか」
真城朔
「嫌に」
夜高ミツル
「ならない」
真城朔
「きのう」
真城朔
「昨日、だって」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「嫌、だったん、じゃ」
真城朔
「したく」
夜高ミツル
「……あれ」
真城朔
「したくなさそう、で」
真城朔
「俺」
夜高ミツル
「あれは」
真城朔
「むりやり……」
夜高ミツル
「……真城を黙らせるみたいにやったのが、嫌だった」
夜高ミツル
「無理矢理始めたのは俺だろ」
真城朔
「……俺、が」
真城朔
「させたような……」
真城朔
「ほとんど……」
夜高ミツル
「真城がされて嬉しいこととか、嫌なこととか」
夜高ミツル
「いつもみたいにちゃんと確かめながらできないのも嫌だったけど……」
夜高ミツル
「……」
夜高ミツル
「別にさせられたわけじゃないよ」
真城朔
「させた……」
夜高ミツル
「……俺が、もっと早く」
夜高ミツル
「ちゃんとしてたら良かったんだ」
真城朔
「う」
夜高ミツル
「真城ができないって言ってるのに」
真城朔
「……ちがう」
真城朔
「ちがう……」
夜高ミツル
「無理に言わせようとしたりしないで」
夜高ミツル
「一回望んでくれて」
夜高ミツル
「それで分かってたんだから」
真城朔
「お、れ」
真城朔
「だって」
真城朔
「のぞめない、って……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「……真城はずっと言ってたのに、しつこく訊いてごめんな」
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「わるく、ない」
真城朔
「のに……」
夜高ミツル
「悪くないってことはないだろ」
真城朔
「わるくない……」
真城朔
「俺、が」
真城朔
「俺、ぜんぶ、わるくて」
真城朔
「だって」
真城朔
「ぜんぶ……」
真城朔
「こわした、の」
真城朔
「俺の方、で」
夜高ミツル
「……俺も、だよ」
真城朔
「俺」
真城朔
「俺のせい……」
真城朔
肩を震わせて首を振って、
真城朔
「ミツ、は」
真城朔
「なんにも」
真城朔
「なんにも……」
夜高ミツル
「……真城を傷つけた」
真城朔
「か」
夜高ミツル
「後で気にするだろうって知ってたはずなのに、ああいう態度でした」
真城朔
「勝手に」
真城朔
「あんなの、俺」
夜高ミツル
「何にも悪くないなんてことはない」
真城朔
「勝手に……」
真城朔
「わるくない」
真城朔
「わるくない……」
夜高ミツル
「悪い」
夜高ミツル
「悪かったと思ったから、謝った」
真城朔
「わ、るく」
真城朔
「ない……」
真城朔
泣きながら何度も首を振る。
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
「悪くない、じゃなくて」
夜高ミツル
「いいよ、許すって」
夜高ミツル
「そう言ってくれないか?」
真城朔
「ぅ」
真城朔
「う?」
真城朔
惑ったように顔を上げてミツルを見る。
夜高ミツル
「俺は真城を傷つけたし」
夜高ミツル
「真城は俺にひどいこと言ったって思ってるんだよな」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「だったら、お互いに謝って」
真城朔
「ミツは」
夜高ミツル
「いいよって言って」
真城朔
「わるく」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「それで仲直りにしないか?」
真城朔
「な」
真城朔
「なかなお」
真城朔
「り」
夜高ミツル
「真城が、俺を嫌いになってないなら」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺は、怒ってもないし」
夜高ミツル
「嫌いにもなってない」
夜高ミツル
「さっきも言ったけど……」
真城朔
ぱちぱちと何度も瞬きを繰り返している。
夜高ミツル
「真城のこと、好きなのは変わってないから」
真城朔
「…………う」
真城朔
「ぅ」
夜高ミツル
「だから、真城が俺にひどいこと言ったってずっと気にして泣くのは嫌だし……」
真城朔
「…………っ」
夜高ミツル
「俺も悪いところがあったから、ちゃんと許してほしい」
真城朔
「な」
真城朔
「ならな、い」
真城朔
「ならない……」
真城朔
肩を震わせて泣いている。
夜高ミツル
震える身体を抱きしめる。
真城朔
「きら、っ」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「きらい、に」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ミツを嫌いに、なんて」
真城朔
「ならない」
真城朔
「俺」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「ありがとう」
真城朔
「ぜったい……」
真城朔
「なに、されて」
夜高ミツル
「俺も」
真城朔
「なにされて、も、よくて」
夜高ミツル
「俺も、だから」
真城朔
「いいか、ら」
夜高ミツル
「真城のこと、嫌いにならない」
真城朔
「されたく、っ」
夜高ミツル
「ずっと好きだから」
真城朔
「…………う」
真城朔
「ううぅ」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「ぅー…………」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「ありがとう」
真城朔
「あ、あぁ」
真城朔
「ぁ」
真城朔
「ごめんなさい」
真城朔
「ごめん、ごめんなさい」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「ごめんなさい……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「いいよ」
夜高ミツル
背中を擦る。
真城朔
全身を大きく震わせながら大粒の涙を落とし、
真城朔
背中を触れる手を、もう拒むことはできない。
夜高ミツル
拒まれないので、そのままあやすように背中を撫でている。
夜高ミツル
今は一糸まとわぬ背中に、掌が触れている。
真城朔
言葉にならない嗚咽を漏らして泣いている。
真城朔
ミツルの胸に顔を埋めて、
真城朔
その温もりにすがりながら。
夜高ミツル
涙がミツルの肌を濡らす。
真城朔
ミツルの肌を濡らし、皺の作られたシーツに染み込んで、
夜高ミツル
縋りつかれる胸で、真城を抱きとめる腕で、ぬくもりを感じる。
真城朔
それでもなおとめどなく涙を落としている。
真城朔
ミツルを拒まず拒まれず、その胸にただ浸っていた。
真城朔
髪が濡れていると頭の形と小ささがよく分かる。
夜高ミツル
濡れた髪の張り付いた丸い頭が目の前にある。
夜高ミツル
当たり前のように、というより本当に二人にとっては当たり前なのだが、
夜高ミツル
二人で一緒に湯船に浸かっている。
真城朔
ミツルに抱え込まれるような形で……
真城朔
これも当たり前でいつも。
真城朔
心地の良い湯船の熱にどこかうとうとしている。
夜高ミツル
手でお湯を掬って真城にかけてやり、
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「身体、大丈夫か?」
真城朔
「ん」
真城朔
「……?」
夜高ミツル
「だるかったり」
真城朔
ぼんやりとミツルを振り返る。
夜高ミツル
「痛かったりとか」
夜高ミツル
「そういうの……」
真城朔
「…………」
真城朔
当惑気味に瞬きをしてから、ゆっくりと首を振る。
真城朔
「ちょっと」
真城朔
「ねむい……」
夜高ミツル
「……そっか」
真城朔
くったりとミツルの胸に背を預ける。
夜高ミツル
「なら、よかった」
夜高ミツル
「昨日、ほら」
夜高ミツル
「大丈夫かとか痛くないかとか……」
夜高ミツル
「全然訊いてないから……」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「痛くしない……」
夜高ミツル
「そりゃするつもりはないけど」
夜高ミツル
「しなくても痛いことあるかもだろ……」
真城朔
「ない……」
夜高ミツル
ぎゅ、と真城を抱える。
真城朔
抱えられてますます密着する。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ひどいこと、ないし」
真城朔
「しないし」
夜高ミツル
「……当たり前だろ」
真城朔
「だから」
真城朔
「痛いのもないし」
真城朔
「やなことも」
真城朔
「なんにも……」
真城朔
「ミツに」
真城朔
「されるなら」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「なんだって……」
真城朔
うとうと気味に言い募る。
夜高ミツル
「してないなら、」
夜高ミツル
「よかった……」
真城朔
「……ん」
真城朔
小さく頷いて、瞼を伏せる。
真城朔
くにゃ……
夜高ミツル
「……あがるか?」
夜高ミツル
「眠いんだろ」
真城朔
「ん」
真城朔
「うーん……」
真城朔
ぼやぼや……
真城朔
頭が回っていない雰囲気。
夜高ミツル
「俺ももうちょっと寝たいし」
真城朔
「また」
真城朔
「ねる……?」
夜高ミツル
「そうしようかなって」
真城朔
「でも」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ごはんは……」
真城朔
こっちが食べなくていいのに付き合って食べてないこと多い……
夜高ミツル
「まあ、それは起きてからでも……」
真城朔
「からだに……」
真城朔
「たべない」
真城朔
「すぎる、と」
真城朔
なんかうにゃうにゃしたろれつで訴えてきます。
夜高ミツル
めちゃめちゃ眠そう……
夜高ミツル
「分かった」
夜高ミツル
「とりあえず」
夜高ミツル
「とりあえずあがろう」
真城朔
「んー……」
夜高ミツル
「真城ー……」
夜高ミツル
「立てるか……?」
真城朔
「ん」
真城朔
「んー」
真城朔
頷いてます。
真城朔
ふにゃふにゃ
夜高ミツル
ふにゃふにゃになってるな……
夜高ミツル
なんとか真城を立たせて風呂を出て、
夜高ミツル
身体を拭いたり服を着せたり……
真城朔
頷くし生返事はするけど自発的には動かず……
真城朔
されるがまま。
夜高ミツル
脱衣所の椅子に座らせて……
夜高ミツル
ふきふき……
夜高ミツル
着せ着せ……
真城朔
うつらうつら
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
立てるか? 歩けるか?
真城朔
引っ張られたらなんとか立って……
真城朔
でもかなり体重はミツルに預けて
真城朔
足元ふらふら……
夜高ミツル
支えつつ……
真城朔
よたよた
夜高ミツル
「……ベッドでいいか?」
夜高ミツル
「飯食う?」
夜高ミツル
無理そうだなーと思いつつ……
夜高ミツル
一応……
真城朔
「みつ」
真城朔
「ごはん……」
真城朔
むにゃ……
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「ちゃんと食べるから」
夜高ミツル
「真城はどうする?」
真城朔
「みつといる……」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
頷いて、寝室ではなくリビングに。
真城朔
運ばれていきます。
夜高ミツル
ソファに真城を横たえる。
真城朔
べちゃ……
夜高ミツル
クッションを頭の下に来るように……
真城朔
ふかふか
真城朔
横たえられたままに四肢を投げ出しています。
真城朔
もはやほとんど寝息を立て始めている。
夜高ミツル
濡れた頭を撫でる。
真城朔
「ん」
真城朔
「んー……」
夜高ミツル
「……」
真城朔
「みつ……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ん」
真城朔
「みつ」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
口元がふにゃふにゃ緩んでいる。
夜高ミツル
顔を寄せる。
夜高ミツル
触れるようにそっと唇を重ねて、
夜高ミツル
すぐに離れる。
真城朔
「…………」
真城朔
重たげに瞼が上がった。
真城朔
眠たげな瞳でミツルの顔を見る。
夜高ミツル
「……あ」
夜高ミツル
「いや、寝るのを」
夜高ミツル
「邪魔するつもりは……」
真城朔
「ミツ……」
真城朔
ふにゃふにゃに笑み崩れた。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「……好きだよ」
真城朔
「ん」
真城朔
「うん」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「すき……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「俺も」
夜高ミツル
「俺もだ……」
真城朔
頷いて……
夜高ミツル
昨日も何度も交わしたやり取り。
夜高ミツル
だけど今の方が、ずっと嬉しい。
夜高ミツル
素直に幸せを感じる。
夜高ミツル
受け止められている。
真城朔
頷いていたが、結局すぐにまた重たげに瞼が下りていく。
真城朔
すや……
真城朔
「みつ」
夜高ミツル
また頭を撫でる。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「すき」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「すき……」
夜高ミツル
「好きだよ」
夜高ミツル
「俺も、真城が好きだ」
真城朔
「ん」
真城朔
「……みつ」
真城朔
「すき……」
真城朔
そのまま寝息を立て始めた。
夜高ミツル
暫くはそのまま頭を撫でていたが、
夜高ミツル
やがて寝息を立て始めると、手を離す。
真城朔
すよすよ……
夜高ミツル
そのままそっと立ち上がり、キッチンに向かう。
夜高ミツル
冷蔵庫から昨日の残り物を取り出して温める。
夜高ミツル
それを持ってリビングへと戻り、ささっと朝食を済ませる。
真城朔
すやすやとソファで寝息を立てている。
夜高ミツル
一人だと食べる以外にやることがないから速い。
夜高ミツル
さすがに。
夜高ミツル
普段が遅すぎるだけという説もある。
夜高ミツル
時折真城の様子を伺いはするが、それでもいつもよりはかなり早く食べ終わって、
夜高ミツル
食器を流しに持っていき、洗って片付けて。
夜高ミツル
それから洗面所に向かい、洗濯機に汚れ物を突っ込んでセット。
夜高ミツル
とりあえず今はこんなもんでいいか……。
真城朔
ずっとソファで眠っていました。
夜高ミツル
真城が寝てるのにあんまり周りでバタバタしたくないし。
夜高ミツル
リビングに戻る。
真城朔
すよ……
夜高ミツル
ソファで眠る真城の身体の下に腕を差し込んで、
夜高ミツル
よいしょ、と抱えあげる。
真城朔
「んむ……」
真城朔
抱え上げられ……
夜高ミツル
真城はミツルよりずっと細いが、それでも同じ程度の身長の男だ。
夜高ミツル
当然、それなりに重い。
真城朔
重いし大きい。
夜高ミツル
落とさないようにしっかりと抱えて、やや頼りない足取りでベッドに向かう。
真城朔
「ん」
真城朔
「んー……」
真城朔
その最中、
真城朔
不意に真城の腕がミツルの背中にしがみつく。
真城朔
ぎゅ……
夜高ミツル
「……!」
夜高ミツル
一瞬固まって、それからまた歩きだす。
真城朔
むにゃむにゃ……
真城朔
それ以上は特に何かするでもなく……
夜高ミツル
抱える腕に、尚更に力が籠もる。
真城朔
ぎゅ……
夜高ミツル
しがみつかれたまま、ベッドに辿り着く。
真城朔
すよすよ
夜高ミツル
膝立ちでベッドの真ん中に移動して……
夜高ミツル
真城を横たえて、一緒に自分も横になる。
真城朔
ぼふ……
夜高ミツル
布団を引っ張り上げて、二人でくるまる。
真城朔
ミツルへと身体を擦り寄せる。
真城朔
胸に顔を埋める、いつもの仕草。
夜高ミツル
嬉しい。
夜高ミツル
幸せだ。
夜高ミツル
今はちゃんと、そう思える。
夜高ミツル
昨日のようなどこか空虚な気持ちではなくて。
夜高ミツル
心の底から、そう感じられる。
真城朔
真城もどこか嬉しそうな緩んだ顔で寝息を立てている。
夜高ミツル
そう思う程に、昨日の行為への後悔が胸を刺す。
夜高ミツル
もっと、ちゃんと、
夜高ミツル
真城の誕生日に、一年に一度しかない日に、
夜高ミツル
真城が望んでくれたことに、
夜高ミツル
気持ちを込めて、ちゃんとやりたかった。
真城朔
真城はミツルの気も知らず安らかに眠っている。
夜高ミツル
やってしまったことには取り返しがつかない。
夜高ミツル
誕生日は過ぎ去ってしまった。
夜高ミツル
お互いにごめんなさいと謝って、それで水に流した。
夜高ミツル
でも。
夜高ミツル
やり直したい。
夜高ミツル
真城が望んでくれたことを、
夜高ミツル
あんな風に、ミツに無理矢理やらせたと泣かせることもなく、
夜高ミツル
自分も今のような嬉しくて幸せな気持ちで、
夜高ミツル
もっと、ちゃんと。
夜高ミツル
そうしたい。
夜高ミツル
寝息を立てる真城の頭を撫でる。
真城朔
「ん」
真城朔
「んー」
真城朔
自分を撫でる手へと頭がかすかにすり寄せられる。
夜高ミツル
口づけるように、頭に顔を寄せる。
夜高ミツル
……あたたかい。
夜高ミツル
嬉しい。
夜高ミツル
幸せだ。
夜高ミツル
それを噛み締めながら、目を閉じた。

2021/03/16 夜

真城朔
ミツルの腕の中で眠っていた真城が、
真城朔
それまでも時折むにゃむにゃと身動いだり頬を寄せたりなどしていたが……
夜高ミツル
真城より早く目が覚めたが、先にベッドから出ることはなく、
夜高ミツル
その様子を眺めては、またうとうとと目を閉じたり、
夜高ミツル
そんなことを繰り返していた。
真城朔
そして不意にもぞもぞと身体を動かして、
真城朔
ぼんやりと瞼を上げて、数度瞬き。
夜高ミツル
今は目を開けて真城の背中を撫でている。
真城朔
撫でられている……
真城朔
視線をが彷徨い、やがてミツルと目が合う。
夜高ミツル
目が合って、小さく微笑む。
夜高ミツル
「おはよ」
真城朔
「……ん」
真城朔
「おはよう……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
手が撫でるのをやめて、かわりにぎゅ、と抱き寄せる。
真城朔
抱き寄せられる。
夜高ミツル
いつもの揃いのルームウェア越しに、熱を分け合う。
真城朔
ミツルの胸に顔を埋めて、安堵の息を吐く。
真城朔
おずおずとその背中に腕を回した。
真城朔
ぎゅ、と指先がルームウェアの背中を掴む。
夜高ミツル
互いに抱きしめあう。
真城朔
その熱を感じている。
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「お腹、すいてない?」
真城朔
「なにか食べたり……」
真城朔
もう夜……
夜高ミツル
「んー」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「結構腹減ってるかも」
夜高ミツル
「真城は食えそう?」
真城朔
「んー……」
真城朔
考え込み……
真城朔
「たぶん」
真城朔
「そこそこ……?」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
食べなくても大丈夫とはいえ丸一日以上食べてない……
夜高ミツル
昨日は結局朝ごはんを中断してそのまま……
真城朔
ガトーショコラも残ってる……
夜高ミツル
昨日食べようと思ってた作り置きなんかも結構残ってる。
真城朔
いろんなじゅんびが……
夜高ミツル
「じゃあ、とりあえず飯食うか」
真城朔
「ん」
真城朔
頷く。
真城朔
「たべる……」
真城朔
というわけで、リビングに移動。
真城朔
冷蔵庫から作り置きを持ってきて……
真城朔
温め直したりとかしたものも……
夜高ミツル
結構色々ある。
夜高ミツル
色々あるのを食卓に並べていく。
真城朔
ローストビーフの残り 炊き込みチキンパエリア コンソメスープ サラダ
夜高ミツル
ミツルの分は結構多めにパエリアを盛ってある。
真城朔
他にも作り置きはそこそこあるけどとりあえずそんな感じで……
夜高ミツル
結構、わりと、かなり空腹。
真城朔
真城はまあまあいつも通りです。
真城朔
そういう作り置いてた諸々を二人で食べて……
真城朔
食べました。
真城朔
ローストビーフおいしかった。
夜高ミツル
食べた。
夜高ミツル
チキンパエリアも良かった。
真城朔
鶏もも入れてよかった……
夜高ミツル
また作ろうとか話しつつ、片付けをしていく。
真城朔
いつもどおり二人で……
真城朔
二人のいつもどおりをやっています。
夜高ミツル
昨日の様子を思えば嘘みたいに、すっかりいつもどおり。
真城朔
あやまれてよかった……
夜高ミツル
よかった
夜高ミツル
いつもどおり……なのだが、
夜高ミツル
時折物言いたげに真城を見る様子がある。
夜高ミツル
ちら……
真城朔
ちらちらされている……
真城朔
ちらちらされているような気がする……
真城朔
と、真城もミツルをちらちら見てしまうので……
真城朔
ばちっ
真城朔
目が合ったりする。
夜高ミツル
あっ
真城朔
あ……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
なんとなく気まずい雰囲気を漂わせつつ、とりあえずリビングに移動した。
夜高ミツル
並んでソファに腰掛ける。
真城朔
「…………?」
真城朔
座りました。
真城朔
きょと……
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「う」
夜高ミツル
真城の顔を見て口を開く。
真城朔
「う?」
真城朔
「なに」
真城朔
「なにか」
真城朔
「あった……?」
夜高ミツル
「……そんな構えなくても大丈夫」
真城朔
「???」
夜高ミツル
いや、俺がソワソワしてるからなんだけど……
夜高ミツル
「あの」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「前提として、」
夜高ミツル
「昨日のこと、どっちが悪いとかの話は終わってて」
真城朔
「う」
真城朔
「……うん」
真城朔
おずおずに頷きます。
夜高ミツル
「そういう意図はない」
夜高ミツル
「なくて」
真城朔
「…………?」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「あの、な」
真城朔
「うん」
夜高ミツル
「やり直したいなって」
夜高ミツル
「思って」
真城朔
「やり」
真城朔
「なおしたい」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「真城の誕生日で」
夜高ミツル
「望んでくれたことで」
夜高ミツル
「なのに、喧嘩みたいになっちゃっただろ」
真城朔
「…………」
真城朔
「あれは」
真城朔
「俺が……」
真城朔
その話は終わってると言われているのだが……?
夜高ミツル
「どっちが悪いとかじゃなくて……」
夜高ミツル
「とにかく、そうなっちゃって」
夜高ミツル
「そうなったままって嫌だなって」
夜高ミツル
「そう思って」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「だから、もう一度」
夜高ミツル
「したい」
夜高ミツル
「させてほしい」
真城朔
「い」
真城朔
「え」
真城朔
「いま」
真城朔
「今から?」
夜高ミツル
「……今日は、さすがに」
夜高ミツル
「昨日したばっかで」
夜高ミツル
「真城に無理させたくないし」
真城朔
「べつに」
真城朔
「無理じゃ……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……じゃあ、俺も疲れてるから」
夜高ミツル
「今じゃなくて、また今度」
真城朔
「ご」
夜高ミツル
「準備して」
真城朔
「ごめん……」
夜高ミツル
「あ、いや、」
夜高ミツル
「大丈夫」
真城朔
しゅん……
真城朔
「こんど」
真城朔
「今度って」
真城朔
「じゃあ、いつ……?」
夜高ミツル
「んー…………」
夜高ミツル
少し考え込んで、
夜高ミツル
「……次の週末とか?」
真城朔
「週末」
真城朔
「えっと」
真城朔
「今日が……」
真城朔
「…………」
真城朔
「16日」
夜高ミツル
「火曜」
真城朔
「週末は……」
真城朔
何日だっけ……?
夜高ミツル
えーと……
夜高ミツル
「20日、とか、」
夜高ミツル
「かな?」
真城朔
「はつか」
真城朔
「20日に、する?」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「そう、しよう」
真城朔
「…………」
真城朔
「うん」
真城朔
「うん……」
真城朔
頷いて、もう一度頷いて、
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
戸惑ったように視線が彷徨っている。
夜高ミツル
ミツルも頷いて、
夜高ミツル
真城の背中に腕を回して、抱き寄せる。
真城朔
「わ」
真城朔
「……ぅ」
真城朔
抱き寄せられて、俯く。
夜高ミツル
「……ちゃんと、したい」
夜高ミツル
「するから」
真城朔
「…………」
真城朔
身を強張らせている。
夜高ミツル
「させられてるわけじゃ、絶対ないからな」
真城朔
「う……」
真城朔
逃れるでもなく身を寄せるでもなく……
真城朔
固まっている。
夜高ミツル
固まってしまった背中を撫でる。
真城朔
撫でられています。
夜高ミツル
「……俺は真城が好きで」
夜高ミツル
「喜んでくれると嬉しくて」
夜高ミツル
「そうしたくて」
真城朔
「ぅう」
夜高ミツル
「無理矢理させられてることなんて、なんにも」
夜高ミツル
「一つもないから」
真城朔
「で」
真城朔
「でも……」
夜高ミツル
「……でも?」
真城朔
「ううぅ」
真城朔
項垂れてしまった。
夜高ミツル
「……?」
夜高ミツル
「真城?」
真城朔
「俺が」
真城朔
「無茶、言った」
真城朔
「から……」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「いいんだよ」
真城朔
「無理……」
夜高ミツル
「それはもう、謝ってくれただろ」
真城朔
「無理させたり」
真城朔
「こ」
真城朔
「これから」
真城朔
「これから、そういう」
真城朔
「俺のせいで……」
真城朔
「ミツに我慢、とか」
真城朔
「させたり」
真城朔
「させて……」
夜高ミツル
「……大丈夫」
真城朔
「俺が……」
真城朔
「すぐ、っ」
真城朔
「すぐ泣く、から」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「いいよ、泣いて」
真城朔
「………………」
夜高ミツル
「真城こそ、我慢しなくっていいんだ」
真城朔
「俺」
夜高ミツル
「我慢も、遠慮も」
真城朔
「俺だけ」
真城朔
「甘やかされてる……」
夜高ミツル
「……俺が、そうしたいから」
真城朔
「ほんと、は」
真城朔
「そんな権利」
真城朔
「う」
真城朔
「でも」
真城朔
「でも……」
夜高ミツル
「いいんだよ」
夜高ミツル
「……じゃあ」
夜高ミツル
「いつか、俺が」
夜高ミツル
「なんかあって泣きたくなった時」
夜高ミツル
「その時は、真城が慰めてくれたら」
夜高ミツル
「それでいいから」
真城朔
「…………」
真城朔
「で」
真城朔
「できっ」
真城朔
「できる、か」
真城朔
「わかんない……」
真城朔
「俺」
夜高ミツル
「傍にいてくれたら、それでいいよ」
夜高ミツル
「俺も、そのくらいしかできないし」
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツ、は」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「してくれて、る……」
真城朔
「俺と……」
真城朔
「俺とは、違って……」
夜高ミツル
「……俺にとっては」
夜高ミツル
「真城もそうなんだよ」
夜高ミツル
「真城はそういう風に言うけど」
真城朔
「…………?」
夜高ミツル
「俺は、あんまり真城にしてやれることがないと思ってるけど」
夜高ミツル
「真城がそう言ってくれるみたいに」
夜高ミツル
「真城は、自分が何もできてないって言うけど」
夜高ミツル
「俺にとっては真城はこうやって」
夜高ミツル
「傍にいてくれたら、それで嬉しいし」
夜高ミツル
「一緒に何かをするのが、なんでも幸せで」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「だから、泣きたい時があっても真城がいてくれたら大丈夫だと思うから」
夜高ミツル
「今は、真城が泣きたい時は」
夜高ミツル
「我慢しないでいいから」
真城朔
「つ」
真城朔
「釣り合いが……」
夜高ミツル
「釣り合いとか気にすることない」
真城朔
「ミツに」
真城朔
「ミツにばっか」
真城朔
「めんどう……」
真城朔
「いつも」
真城朔
「なんでも、そうで」
真城朔
「ずっと……」
夜高ミツル
「なんでもってことはないだろ」
夜高ミツル
「一緒にやれてることだってたくさんある」
真城朔
「ミツが」
真城朔
「付き合ってくれてる……」
夜高ミツル
「……なんでそうなるんだよ」
夜高ミツル
「そもそも一緒にいてほしいって言ったのは俺なんだからな」
真城朔
「で」
真城朔
「でも、だって」
真城朔
「俺がこんなじゃなければ」
真城朔
「高校だって」
真城朔
「街、出る必要、だって」
真城朔
「なかったのに……」
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「でも」
夜高ミツル
「別に俺は全然後悔してない」
真城朔
「う…………」
真城朔
「い」
真城朔
「いつか」
真城朔
「するか、も」
真城朔
「で」
夜高ミツル
「俺が好きになったのはここにいる真城で」
夜高ミツル
「真城と一緒にいるのに、それが必要だった」
夜高ミツル
「……しないよ」
夜高ミツル
「しない」
真城朔
「するかも……」
夜高ミツル
「しないったらしない」
真城朔
「うぅ」
真城朔
「うー…………」
真城朔
ぐすぐすと涙を落としている。
夜高ミツル
「真城がいてくれるから」
夜高ミツル
「それが幸せだから」
夜高ミツル
「だから、後悔してないし、しない」
真城朔
「わかんない、し」
真城朔
「わかんない……」
真城朔
「どうなるか、なんて」
真城朔
「将来……」
夜高ミツル
「分かんないけど」
夜高ミツル
「でも、しない」
夜高ミツル
「高校、結構辞めてもどうにかできるっぽいし」
真城朔
「どうにかはできても」
真城朔
「大変かも、だし」
真城朔
「そのまま卒業してれば……」
真城朔
「しなくていい苦労で」
真城朔
「本当なら……」
夜高ミツル
「……俺は」
夜高ミツル
「真城と一緒に卒業したかった」
真城朔
「う」
夜高ミツル
「でもできなくなったから」
夜高ミツル
「だから、一緒にしない」
真城朔
「ぅ……」
真城朔
「俺、の」
真城朔
「俺のせい」
真城朔
「で」
真城朔
「俺」
真城朔
「俺が」
真城朔
「できたら」
真城朔
「ちゃんと……」
夜高ミツル
「いいんだよ」
夜高ミツル
「俺は、学校が大事なんじゃなくて」
夜高ミツル
「結局、ただ真城といたいだけだったんだ」
真城朔
「なんで……」
夜高ミツル
「真城がいると嬉しかった」
夜高ミツル
「毎日会うクラスメイトより」
夜高ミツル
「たまにしか来ない真城と話す方が楽しみだった」
真城朔
「べ、っ」
真城朔
「べつに」
真城朔
「なにか、特別なこと」
真城朔
「とか」
真城朔
「そんな、の」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「全然……」
夜高ミツル
「でも、そんなもんだろ」
夜高ミツル
「誰かといて嬉しいのとか、好きになるのとかって」
夜高ミツル
「分かんないけど……」
真城朔
「う」
真城朔
「うー……」
夜高ミツル
「わかんないけど、他の人じゃなくてその人じゃないとだめ、みたいな」
夜高ミツル
「俺にとっては真城がそうだったんだ」
真城朔
「なんで……」
夜高ミツル
「何かをしてくれたとか」
夜高ミツル
「そういうのじゃなくて」
夜高ミツル
「真城が真城だから」
真城朔
「俺、っ」
真城朔
「ろくでもない……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「悪いこと、たくさんしてきた」
真城朔
「してきた……」
夜高ミツル
「それでも、それを知ってても」
夜高ミツル
「やっぱり俺は、真城が好きだよ……」
夜高ミツル
背中を擦る。
真城朔
「べ、っ」
真城朔
「紅谷だって」
真城朔
「ミツに」
真城朔
「俺より、もっと……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「あいつ」
夜高ミツル
「あいつも、俺に声かけてくれたり」
真城朔
「なんに、も」
夜高ミツル
「色々してくれて」
真城朔
「なんにも、わるくなかっ、た」
真城朔
「のに」
夜高ミツル
「……いいやつ、だったな」
真城朔
「…………っ」
真城朔
「俺が」
真城朔
「俺のせいで」
真城朔
「俺が、ただ」
真城朔
「利用」
真城朔
「利用するため、に」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「さいあ、く」
真城朔
「最悪なんだ……」
夜高ミツル
「……最悪でも」
夜高ミツル
「俺は真城が好きで」
夜高ミツル
「生きててほしい」
夜高ミツル
「一緒にいたい」
真城朔
「っ」
真城朔
俯いたまま、
真城朔
やはりミツルに寄りかかるでもなく、離れようとするでもなく。
真城朔
ただ涙を落としている。
夜高ミツル
抱き寄せて、背中を撫で続けている。
夜高ミツル
「……学校で一人の俺を気にしてくれたやつ」
真城朔
しゃくりあげては嗚咽とともに息を吐き、
夜高ミツル
「紅谷もそうだけど、まあ何人かいて」
真城朔
背中が跳ねて、肩が震える。
夜高ミツル
「でも、それでも」
夜高ミツル
「真城といるのが、俺は」
夜高ミツル
「一番楽しくて嬉しかったよ」
真城朔
身体を縮めて泣いている。
夜高ミツル
「他に友達作ろうなんて思わないくらいに」
真城朔
耳を塞ぐこともそれを否定することももうできずにいる。
夜高ミツル
「だからさ」
夜高ミツル
「今とはちょっと違うけど」
夜高ミツル
「真城が好きなのも、一緒にいたいのも」
夜高ミツル
「真城といるのが一番幸せなのも」
夜高ミツル
「ずっと、ずっと前からそうだったよ」
真城朔
涙が落ちる。
真城朔
頬を落ちてルームウェアを、カーペットを濡らして、
夜高ミツル
涙を流す真城に、言葉をかけ続ける。
真城朔
その言葉に何一つ返せもしないで。
夜高ミツル
「あの頃は、こうなるなんて全然思ってなくて」
夜高ミツル
「関係も結構変わったけど」
夜高ミツル
「真城が好きなのは」
夜高ミツル
「ずっと一緒なんだ」
夜高ミツル
「……だから」
夜高ミツル
「これから先のこと」
夜高ミツル
「何があるか、そりゃ分かんないけど」
真城朔
「…………っ」
夜高ミツル
「何かが変わるかもしれないけど」
夜高ミツル
「でも、ずっと真城のこと好きだよ」
真城朔
「あ」
真城朔
「あぁ、っ」
真城朔
「ぅうー……」
真城朔
結局ミツルの肩に顔を寄せて、
真城朔
すがるようにそのまま埋めてしまう。
夜高ミツル
寄せられた頭を撫でる。
真城朔
涙がしみ込む。
真城朔
背中がひっきりなしに震えている。
夜高ミツル
震える身体を抱きしめて、受け止めて、
夜高ミツル
寄り添っている。
夜高ミツル
結局のところ、言ったとおりにそれしかできない。
夜高ミツル
真城がやったことはなくならない。
夜高ミツル
死んでしまった人たちも帰らない。
夜高ミツル
それでも傍にいる。
夜高ミツル
そんな真城の傍に、ずっとい続ける。
夜高ミツル
少しでも楽に、幸せになれるように行動し続ける。
夜高ミツル
それくらいしか、ミツルにはできない。
真城朔
その手を振り解くことも真城にはできずに、
真城朔
だから、こうして今も傍にいる。
真城朔
寄り添っている。
真城朔
互いの熱を感じている。
真城朔
つまるところそれが二人の選んだ結果で、
真城朔
これからも、そうしていくつもりでいるのだ。