2021/03/20 朝
夜高ミツル
閉め切ったカーテンを通して入り込んだ日の光が、部屋をやわらかく照らしている。
夜高ミツル
真城の背中に回した腕に、ゆるく力を込める。
夜高ミツル
真城は朝に弱いので、大体ミツルのほうが目覚めが早い。
夜高ミツル
そして時間の決まった予定がない限り、ミツルが真城を起こすことはあまりない。
真城朔
そのミツルの胸に甘えるように頬をすり寄せている。
夜高ミツル
真城が目を覚ますまで、ぼんやりとその顔を眺めていたり、
夜高ミツル
真城が目を覚ました時、目の前にいてやりたいから。
真城朔
頬をすり寄せては小さく息を漏らし、軽く身動いで、でも目は覚まさない。
真城朔
というような寝仕草をしばらく繰り返してやっと、
真城朔
自分の髪にミツルの指の触れる感触に浸っている。
夜高ミツル
頭を撫でていた手が、真城の頬に触れる。
夜高ミツル
もぞもぞと位置をずらして、真城と目線が合うように位置取る。
真城朔
その手からは逃れられず、大人しく撫でられながら泣いている。
夜高ミツル
「こないだみたいに中途半端なこと言ったりしない」
夜高ミツル
「でもやっぱり、不安にさせたと思うから……」
夜高ミツル
「嬉しいとか、幸せとか、そういうのが」
夜高ミツル
「……真城が幸せに思ってくれることを、するよ」
夜高ミツル
「幸せだって、嬉しいって思ってくれてるなら」
夜高ミツル
「真城が俺を好きだって思ってくれてるのも知ってるから」
真城朔
昨日張り直したばかりのシーツに涙を落としている。
真城朔
指先が縋る先はシーツで、真新しいそれに皺を作っているけれど。
夜高ミツル
本当は不安で、していいのか訊いてしまいたくなる。
夜高ミツル
真城を信じていないことになるような気がする。
夜高ミツル
好きだって言ってくれること、求めてくれること、
夜高ミツル
なんでもしてほしい、されるのが嬉しいと言われたこと。
真城朔
もう反論の言葉もないくせ、頷くことひとつができない。
夜高ミツル
真城が、自分が望むことを受け入れられた時。
夜高ミツル
そのときに頷いてくれたら、それでいい。
夜高ミツル
真城が少し落ち着くのを待って、とりあえず朝食をとることにした。
真城朔
涙は止まないものの、とぼとぼとベッドからは出てきている。
夜高ミツル
まだ浮かない様子の真城を座らせて、ミツルが朝食の用意をする。
夜高ミツル
ご飯と味噌汁は前日から用意しておいたので温めて、
夜高ミツル
卵とソーセージを出して目玉焼きを作る。
夜高ミツル
配膳を終えるとエプロンを外して、真城の隣に座る。
夜高ミツル
「じゃあ、今度真城が朝飯用意してくれ」
夜高ミツル
「真城が作ってくれたらそれで嬉しいし」
夜高ミツル
「もしうまくできなくても、またやってみたらいい」
夜高ミツル
「こういうのって失敗してうまくなっていくもんだしな」
夜高ミツル
「まあ……そういう気持ちは俺も分かるけど」
夜高ミツル
「俺も食べてもらうならうまくできた方がいいし」
夜高ミツル
「……とりあえず、それはまた今度相談しよう」
真城朔
あまり箸の進まない様子ですがなんとか食べています。
夜高ミツル
とりあえず涙は止まったみたいでよかった……
夜高ミツル
嬉しい気持ちの反動で苦しくなって泣いてしまうのは分かるんだけど
真城朔
ミツルが自分が泣いて喜ぶはずがないのは分かっているので申し訳ない。
夜高ミツル
なんとなく気まずい感じで食べ終わりました。
夜高ミツル
真城を後ろから抱きかかえる、いつもの体勢。
真城朔
いつもは無口なように見えてわりとぽつぽつ話すのだが……
夜高ミツル
湯槽の中で、濡れた肌がぴっとりと合わさっている。
真城朔
ただミツルに抱きしめられたまま肌を合わせている。
夜高ミツル
腹は据わっているものの、だからといって緊張しないわけではない。
真城朔
お互い無言の中に水音が妙に響いて聞こえる。
夜高ミツル
身体を洗う時、触れる仕草はいつもよりも尚更に丁寧だった。
真城朔
触れられるたび、真城の身体が緊張に強張るのも伝わってきた。
夜高ミツル
言いそうになって、その都度それを飲み込んだ。
真城朔
ミツルの気も知らず、真城は物憂げな顔で俯いている。
夜高ミツル
それでも、泣いているのだろうなと分かった。
真城朔
頬を一筋また滴が落ちて、湯船の水面に波紋を作る。
真城朔
通販で買った まあビジホとかであるやつ……
夜高ミツル
ホテルのあれ便利だったなと思って買った。
夜高ミツル
着終えると、真城の手を引いてリビングへ。
真城朔
揃えた膝の上で手持ち無沙汰にバスローブの裾を握り締めている。
真城朔
肩にかけていたバスタオルをミツルの頭に被せて、
真城朔
姿勢を低くしてもらってちょっと楽な感じになった。
真城朔
ミツルの方は風呂上がりにタオルで拭いてもとからまあまあ乾いてはいるのだが。
夜高ミツル
自分の頭は遠慮なく拭けるから結構それだけで乾く。
夜高ミツル
真城の手を握るミツルの掌に、薄く汗が滲んでいる。
真城朔
拍子抜けなほどあっさりと容易く立ち上がって、
夜高ミツル
誘導するミツルの動きからはためらいは見て取れず、
真城朔
風呂上がりのバスローブ姿の目元には涙を滲ませて、
真城朔
風呂とドライヤーの余波で温められた熱がまだ残っている。
夜高ミツル
空いている方の手で、バスローブを握る手を包む。
夜高ミツル
少しでも緊張を解こうと、背中を撫でる。
夜高ミツル
撫でながら、啄むような口づけを繰り返し、
真城朔
背中から力を抜こうとしてそれは叶わぬまま、
真城朔
いつしか指がミツルのバスローブの胸元を掴んでいた。
真城朔
代わりに迎えた舌が絡め取られることに喜んで、
夜高ミツル
だから、あの時のような自暴自棄な気持ちではなく、
夜高ミツル
もっと素直に、言葉はいらないと思えた。
真城朔
合わされて求め合う唇の奥で、何度も喉を鳴らす。
真城朔
意味をなさない甘い声がかすかに漏らされる。
夜高ミツル
消え入るようなかすかな声も、この距離だとよく聞こえた。
夜高ミツル
目の前の真城のことしか考えられなくなる。
夜高ミツル
線の細さを確かめるように、掌が真城の身体の上を滑る。
真城朔
その接触を受け入れて、また喉奥で声が鳴る。
真城朔
受け入れたミツルの舌先を、どこか焦れたように吸い上げた。
夜高ミツル
それだけの仕草にも、痺れるような心地よさを感じる。
夜高ミツル
真城のバスローブのベルトを解いて、前をくつろげる。
夜高ミツル
熱を持った掌で、その下の素肌に直に触れる。
夜高ミツル
大切な、大切なものに触れる、慈しむ手つき。
夜高ミツル
相手の熱に応じて、互いに熱を上げていく。
夜高ミツル
こうして真城の身体のあちこちに触れるのが、ミツルは好きだ。
夜高ミツル
そんなところまで、とか、きたない、とか
夜高ミツル
そういう風に真城を困惑させてしまうこともあるけれど。
真城朔
熱に蕩かされた中でも、けれどまだ抜け切れない、
夜高ミツル
言葉を返せずにいる唇に、また唇を重ねる。
夜高ミツル
応えるように、真城の背に回した腕に力を込めた。
夜高ミツル
重ねる身体も、絡め合う粘膜も、その合間に漏れる吐息も、
真城朔
唇を濡らしたまま、ぼんやりとミツルを見上げている。
真城朔
熱に蕩けた舌は麻痺させられたようにうまく回らなくて、
真城朔
呼び慣れた名前を紡ぐのにも、どこかたどたどしい。
夜高ミツル
ミツルが真城を呼ぶ声も、熱の上がった今はどこかふわふわと頼りない。
真城朔
いつもと同じ仕草で、甘えるように顔を埋めて、押し付ける。
夜高ミツル
力を込められて、身体がますます密着する。
夜高ミツル
汗の滲む胸元に、直接真城の頭が触れている。
真城朔
負けず劣らずに熱を募らせた瞳がミツルを見返す。
夜高ミツル
熱と硬さを持った箇所が、真城に触れる。
夜高ミツル
真城を呼ぶミツルの声にも、切実さがある。
夜高ミツル
もう何度目か分からない口づけを落とす。
夜高ミツル
唇を重ねながら、ゆっくりと腰を進める。
真城朔
一番に昂ぶったところで、熱と熱が触れている。
真城朔
歓びとともに受け入れた身体がそれを食いしめて味わうように、
夜高ミツル
触れている箇所が、そのまま溶けてしまうように錯覚する。
夜高ミツル
何度も何度も、飽きることなく交わし合う。
真城朔
やがて果てては、飽きもせずに貪欲に次を求める。
夜高ミツル
その度に頷いて、口づけて、また繋がる。
夜高ミツル
求める熱の籠もった瞳が、真城の姿を映している。
真城朔
与えられるたび喜んで、本当に嬉しそうに笑う。
真城朔
ばかみたいにあっさりと、素直にすべてを受け入れる。
真城朔
際限なく欲しがっては、充足を得て恍惚に息を漏らす。
夜高ミツル
喜ぶ様を見ては、心底嬉しそうに微笑んだ。
夜高ミツル
真城が意識を失ったのを見て、身体を離す。
真城朔
くったりと投げ出した四肢をシーツに沈めている。
夜高ミツル
上がった息の整わぬまま、その隣に身を投げ出す。
夜高ミツル
シーツの上に投げ出された身体に腕を回して、抱き寄せる。
夜高ミツル
擦り寄せられた頭のてっぺんに顔を埋める。
夜高ミツル
後始末のことがちらりと頭の隅を過ぎったが、
夜高ミツル
それも眠気と、腕の中のぬくもりに溶かされていく。