2021/03/20 朝

夜高ミツル
ぱち、と目が覚める。
夜高ミツル
閉め切ったカーテンを通して入り込んだ日の光が、部屋をやわらかく照らしている。
真城朔
その中で光から逃れるように、
真城朔
真城はミツルの胸に顔を寄せてしがみつく。
夜高ミツル
真城の背中に回した腕に、ゆるく力を込める。
夜高ミツル
真城は朝に弱いので、大体ミツルのほうが目覚めが早い。
真城朔
「ん……」
真城朔
嬉しげな吐息が漏れる。
夜高ミツル
そして時間の決まった予定がない限り、ミツルが真城を起こすことはあまりない。
夜高ミツル
先にベッドを出ることもない。
真城朔
そのミツルの胸に甘えるように頬をすり寄せている。
夜高ミツル
真城が目を覚ますまで、ぼんやりとその顔を眺めていたり、
夜高ミツル
あるいは二度寝したり。
夜高ミツル
真城が目を覚ました時、目の前にいてやりたいから。
真城朔
今日もそんな感じで、
真城朔
真城が目覚めるまでに一時間弱かかった。
真城朔
頬をすり寄せては小さく息を漏らし、軽く身動いで、でも目は覚まさない。
真城朔
というような寝仕草をしばらく繰り返してやっと、
真城朔
真城がぼんやりと瞼を上げる。
夜高ミツル
ミツルの手が頭を撫でている。
真城朔
その感触にまた目を細めた。
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「おはよ」
真城朔
「おはよう」
真城朔
ミツルの手に頭を寄せる。
夜高ミツル
癖のない髪の感触が肌をくすぐる。
真城朔
自分の髪にミツルの指の触れる感触に浸っている。
真城朔
うにゃうにゃ……
夜高ミツル
掌がゆっくりと真城の頭を滑る。
真城朔
撫でられている……
真城朔
うれしい……
真城朔
あったかい
夜高ミツル
しばらくそうして真城に触れてから
夜高ミツル
「飯食う?」
真城朔
「ん」
真城朔
「うん……」
真城朔
「たべ」
真城朔
「…………」
真城朔
途中、ぱちっと目を開けた。
真城朔
はた……
夜高ミツル
「……?」
真城朔
「…………」
真城朔
「あ」
真城朔
「た、たべ」
真城朔
「たべる……」
真城朔
肩を縮こめて何度も頷く。
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「…………」
真城朔
やや浮かない表情……
夜高ミツル
頭を撫でていた手が、真城の頬に触れる。
真城朔
「ん」
真城朔
「ミツ……」
真城朔
瞳が惑っている。
夜高ミツル
「……ちゃんと、飯食ってから」
夜高ミツル
「な」
真城朔
「ぅ」
真城朔
「う……」
真城朔
固まっている。
夜高ミツル
「……」
真城朔
「あぅ」
真城朔
俯いた。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
もぞもぞと位置をずらして、真城と目線が合うように位置取る。
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「う」
真城朔
逃げはしないが……
真城朔
縮まっている。
夜高ミツル
「……俺が、」
夜高ミツル
「しようって」
夜高ミツル
「したいって、言ったんだ」
真城朔
「み」
真城朔
「ミツのせい、に」
真城朔
「そんな」
真城朔
「ミツのせいみたいに……」
夜高ミツル
「本当に、俺がしたいんだよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「でも」
真城朔
「俺も……」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
真城朔
それ以上は続かない。
真城朔
続けられずに口を閉ざす。
夜高ミツル
「……いいよ」
夜高ミツル
「言わなくてもいい」
真城朔
「うう……」
夜高ミツル
「知ってるから、大丈夫」
真城朔
「だ」
真城朔
「…………っ」
真城朔
「だめ、なのに」
真城朔
「…………」
真城朔
「また」
真城朔
「また……」
夜高ミツル
「……」
真城朔
「また、っ」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「こわし、ちゃ」
真城朔
「う」
真城朔
「俺」
真城朔
「俺のせいで」
真城朔
「こんな……」
真城朔
背を丸めて顔を覆う。
真城朔
身体を震わせている。
夜高ミツル
震える背中を撫でる。
真城朔
その手からは逃れられず、大人しく撫でられながら泣いている。
夜高ミツル
「……俺がしたいことだよ」
夜高ミツル
年を押すように繰り返す。
真城朔
「そ」
真城朔
「そう、言わせて……」
夜高ミツル
「言わされてるんじゃない」
夜高ミツル
「無理もしてない」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺は真城が好きで」
夜高ミツル
「好きだから、したい」
真城朔
「でも」
真城朔
「俺も、…………」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
「……何回も」
真城朔
「こんなこと、ばっか……」
真城朔
「ミツに……」
夜高ミツル
「いいよ」
夜高ミツル
「何回でも」
真城朔
「何回」
真城朔
「でも」
夜高ミツル
「真城になんでもしたいから」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……大丈夫だから」
夜高ミツル
「今日は俺が言い出したことで」
夜高ミツル
「こないだみたいに中途半端なこと言ったりしない」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……ちゃんとする、から」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「わるくなかった……」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「……ありがとう」
夜高ミツル
「でもやっぱり、不安にさせたと思うから……」
真城朔
「……俺が、変なこと」
真城朔
「言った」
真城朔
「から……」
夜高ミツル
「……いいんだよ」
夜高ミツル
「それはもういいだろ」
夜高ミツル
「ちゃんと謝ってくれた」
真城朔
「いま」
真城朔
「今だって、また」
真城朔
「…………」
真城朔
「また……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「……いいんだ」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「いいって、言って」
真城朔
「言ってくれる」
真城朔
「のに……」
真城朔
「俺が……」
真城朔
「俺がこう、だから」
真城朔
「こんなで」
真城朔
「いつも」
真城朔
「いつも……」
夜高ミツル
「真城が……」
夜高ミツル
「真城にとっては」
夜高ミツル
「嬉しいとか、幸せとか、そういうのが」
夜高ミツル
「不安で、よくないって思うのは」
夜高ミツル
「知って、て」
真城朔
「よくない」
真城朔
「よくない……」
真城朔
頷いている。
夜高ミツル
「……真城がそう思っても」
夜高ミツル
「俺は真城をそうする」
真城朔
「……っ」
夜高ミツル
「……真城が幸せに思ってくれることを、するよ」
夜高ミツル
「したい」
真城朔
「だめ」
真城朔
「だめ、で」
真城朔
「……だめなんだ……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「ダメって言っても」
真城朔
「だめ……」
真城朔
「い、っ」
真城朔
「…………」
真城朔
「……い」
真城朔
「や」
真城朔
「で、…………」
真城朔
「………………」
夜高ミツル
「……するからな」
真城朔
「ぅ」
真城朔
肩が強張る。
夜高ミツル
「……泣きたくて、怖くなるくらい」
夜高ミツル
「幸せだって、嬉しいって思ってくれてるなら」
夜高ミツル
「俺は真城にそうしたい」
真城朔
「…………」
真城朔
「……ぉ」
真城朔
「おもっ、て」
真城朔
「おもって」
真城朔
「……な」
真城朔
「い」
真城朔
「……って」
真城朔
「いった、ら」
夜高ミツル
「……今更」
真城朔
「う」
真城朔
「うそ、じゃ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……信じない」
真城朔
「うそじゃない……」
真城朔
身を縮めている。
真城朔
指先がシーツを握りしめる。
夜高ミツル
「……嘘だよ」
真城朔
「ううぅ」
真城朔
「ぅー…………」
夜高ミツル
「俺は真城が好きだし」
夜高ミツル
「真城が俺を好きだって思ってくれてるのも知ってるから」
真城朔
「…………」
真城朔
昨日張り直したばかりのシーツに涙を落としている。
夜高ミツル
「大切に思ってくれるのも」
夜高ミツル
「いつも気にかけてくれてるのも」
夜高ミツル
「楽しみにしててくれたことも」
夜高ミツル
「知ってる」
真城朔
「し」
真城朔
「したい、したくない」
真城朔
「は」
真城朔
「べつ」
真城朔
「かも、で」
真城朔
「…………」
真城朔
「かもで……」
真城朔
弱々しい声。
夜高ミツル
「そうだな」
夜高ミツル
「でもそれも」
夜高ミツル
「……知ってる、から」
真城朔
「……ぅう…………」
真城朔
何も言えなくなってただ泣いている。
夜高ミツル
「知ってるから、訊かないから」
夜高ミツル
「……訊かないからな!」
真城朔
泣いている。
夜高ミツル
抱きしめて、背中を撫でる。
真城朔
その腕からは逃れられないでいる。
真城朔
指先が縋る先はシーツで、真新しいそれに皺を作っているけれど。
夜高ミツル
本当は不安で、していいのか訊いてしまいたくなる。
夜高ミツル
だけど今更それを確かめるのは、多分、
夜高ミツル
真城を信じていないことになるような気がする。
真城朔
小さく身体を震わせている。
夜高ミツル
好きだって言ってくれること、求めてくれること、
夜高ミツル
なんでもしてほしい、されるのが嬉しいと言われたこと。
夜高ミツル
そう言ってもらえたことを。
夜高ミツル
だから訊かない。
夜高ミツル
震える身体を抱きしめている。
真城朔
ミツルに抱かれて涙を流して、
真城朔
その腕を振りほどけないで、
真城朔
もう反論の言葉もないくせ、頷くことひとつができない。
真城朔
できないでいる。
夜高ミツル
今はそれでもいい。
夜高ミツル
いつか、いつになるか分からないけど、
夜高ミツル
真城が、自分が望むことを受け入れられた時。
夜高ミツル
真城自身にそれを許せた時。
夜高ミツル
そのときに頷いてくれたら、それでいい。
夜高ミツル
真城が少し落ち着くのを待って、とりあえず朝食をとることにした。
真城朔
涙は止まないものの、とぼとぼとベッドからは出てきている。
真城朔
食卓に座らされてぐすぐすと……
夜高ミツル
まだ浮かない様子の真城を座らせて、ミツルが朝食の用意をする。
真城朔
ぐす ひっく
真城朔
背中を丸めて 袖で涙を拭って
夜高ミツル
ご飯と味噌汁は前日から用意しておいたので温めて、
真城朔
でも止まらなくて……
夜高ミツル
卵とソーセージを出して目玉焼きを作る。
夜高ミツル
ジュワワ……
夜高ミツル
手早く用意して、食卓に並べる。
真城朔
泣きながらそれを見ている。
夜高ミツル
いつもどおり、真城は少なめに。
真城朔
ずっと縮こまっている……
真城朔
「ご」
真城朔
「ごめん……」
夜高ミツル
「いいって」
真城朔
「で、も」
真城朔
「なんにも……」
夜高ミツル
配膳を終えるとエプロンを外して、真城の隣に座る。
真城朔
据わりが悪そう……
夜高ミツル
「普段してくれてるし」
夜高ミツル
「大丈夫」
真城朔
「ミツだって」
真城朔
「いつもしてる……」
夜高ミツル
「じゃあ、今度真城が朝飯用意してくれ」
夜高ミツル
頭を撫でる。
真城朔
撫でられました。
真城朔
視線が下がる。
真城朔
「…………」
真城朔
「する……」
真城朔
ぽそりと答えました。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「楽しみにしてる」
夜高ミツル
手を離す。
真城朔
「うまく」
真城朔
「うまく、できるか」
真城朔
「わかんないけど……」
夜高ミツル
「真城が作ってくれたらそれで嬉しいし」
夜高ミツル
「もしうまくできなくても、またやってみたらいい」
夜高ミツル
「こういうのって失敗してうまくなっていくもんだしな」
真城朔
「……失敗したの」
真城朔
「食べさせたく、ない……」
夜高ミツル
「まあ……そういう気持ちは俺も分かるけど」
夜高ミツル
「俺も食べてもらうならうまくできた方がいいし」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「分かるけど」
夜高ミツル
「でも嬉しいよ」
真城朔
「…………」
真城朔
浮かない顔をしている。
夜高ミツル
「……大丈夫」
夜高ミツル
「不安だったら俺も見とくし」
真城朔
「それ」
真城朔
「俺ひとりで用意するってことに」
真城朔
「なる……?」
夜高ミツル
「…………手は出さないから」
夜高ミツル
「多分」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……なる、なるなる」
夜高ミツル
「大丈夫」
真城朔
「面倒……」
真城朔
なる……?
真城朔
疑問符を浮かべている。
夜高ミツル
授業参観のような絵面になりそう。
真城朔
保護者
夜高ミツル
「……とりあえず、それはまた今度相談しよう」
夜高ミツル
今は目の前の飯の方を……
真城朔
「ぁ」
真城朔
「……うん」
真城朔
「ごめん…………」
真城朔
しょぼ……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「いいって」
夜高ミツル
手を合わせる。
真城朔
合わせます。
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます……」
真城朔
もそもそ……
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
あまり箸の進まない様子ですがなんとか食べています。
真城朔
ミツがつくってくれたから……
真城朔
もきゅもきゅ
夜高ミツル
時折真城の様子を窺いつつ食べ進める。
真城朔
流石に食べながらは泣いていない。
真城朔
涙の跡は目立つが……
夜高ミツル
とりあえず涙は止まったみたいでよかった……
夜高ミツル
嬉しい気持ちの反動で苦しくなって泣いてしまうのは分かるんだけど
夜高ミツル
理屈は分かるんだけど、
夜高ミツル
とはいえ泣かせたいわけじゃないので。
真城朔
ミツルが自分が泣いて喜ぶはずがないのは分かっているので申し訳ない。
真城朔
いつもこんなばっかで……
真城朔
嫌な想いさせて
真城朔
…………
真城朔
じわ……
夜高ミツル
「……真城?」
真城朔
「う」
真城朔
「なん」
真城朔
「なんでも……」
真城朔
慌てて箸を動かす。
真城朔
ソーセージかじる……
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
食べているのでそれ以上追求はせず、
夜高ミツル
自分の方も箸を動かす。
真城朔
もぐ……
夜高ミツル
もぐもぐ……
真城朔
微妙な空気感……
夜高ミツル
なんとなく気まずい感じで食べ終わりました。
真城朔
普段より早い……
真城朔
「ごちそう、さま」
真城朔
「でした」
夜高ミツル
「ごちそうさま」
真城朔
手を合わせて……
真城朔
「…………」
真城朔
「おいしかっ」
真城朔
「た」
真城朔
「ありがとう……」
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
「よかった」
真城朔
頷く。
真城朔
頷いて……
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……どうかしたか?」
真城朔
「か」
真城朔
「かたづけ」
真城朔
「たら」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「………………」
夜高ミツル
待っている。
真城朔
「……べ」
真城朔
「べつ、に」
真城朔
「しなくても」
真城朔
「…………」
真城朔
「………………」
真城朔
結局泣き始めた。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
肩に手を回して、抱き寄せる。
真城朔
「う」
真城朔
抱き寄せられる。
夜高ミツル
「……するよ」
夜高ミツル
「する」
真城朔
「…………」
真城朔
何も言わずに涙を流している。
夜高ミツル
背中を撫でる。
真城朔
なでられ……
夜高ミツル
「片付けたら、する」
夜高ミツル
「するからな」
真城朔
「うう……」
真城朔
ううになっている……
夜高ミツル
ううになられてしまった……
夜高ミツル
少しの間そうして背中を撫でて、
夜高ミツル
「……とりあえず」
夜高ミツル
「片付けするか」
真城朔
「…………」
真城朔
ぱち、と目を瞬いて
真城朔
「ん」
真城朔
「うん」
真城朔
「する……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
身体を離して、
夜高ミツル
指先で真城の涙を拭う。
真城朔
拭われます。
真城朔
拭われてからすぐ滲む……
夜高ミツル
泣き止まない……
真城朔
ミツルをじっと見ている。
真城朔
「かた」
真城朔
「かたづけ……」
夜高ミツル
「ん、うん」
夜高ミツル
「する」
真城朔
「する……」
夜高ミツル
食器を重ねて流しに持って行き、
夜高ミツル
片付けはいつもどおりに二人で。
真城朔
手伝いました。
真城朔
うつむきがちに……
夜高ミツル
洗って渡して真城が拭いて……
夜高ミツル
そんな感じで後片付けも終わり。
真城朔
終わりました。
夜高ミツル
ぴかぴか……
夜高ミツル
片付け終えると、二人で風呂に入る。
夜高ミツル
真城を後ろから抱きかかえる、いつもの体勢。
真城朔
身体を洗って……
真城朔
二人で浸かって……
真城朔
やはりあまり元気のない様子で俯いている。
真城朔
俯くうなじに髪が張り付いている。
夜高ミツル
俯く真城を後ろから抱きしめている。
真城朔
抱きしめられています。
真城朔
口数がいつにも増して少ない。
真城朔
いつもは無口なように見えてわりとぽつぽつ話すのだが……
夜高ミツル
湯槽の中で、濡れた肌がぴっとりと合わさっている。
真城朔
よくわからないことを……
真城朔
今日はそれがなく……
真城朔
ただミツルに抱きしめられたまま肌を合わせている。
夜高ミツル
ミツルも口数は少ない。
夜高ミツル
腹は据わっているものの、だからといって緊張しないわけではない。
真城朔
ちゃぷちゃぷ……
真城朔
お互い無言の中に水音が妙に響いて聞こえる。
夜高ミツル
その代わりにというべきか、
夜高ミツル
身体を洗う時、触れる仕草はいつもよりも尚更に丁寧だった。
真城朔
触れられるたび、真城の身体が緊張に強張るのも伝わってきた。
真城朔
嫌がるような仕草は見せなかったが。
真城朔
戸惑うように、視線は彷徨った。
夜高ミツル
……嫌なら、やめようか。
夜高ミツル
つい、そう言いそうになる。
夜高ミツル
言いそうになって、その都度それを飲み込んだ。
真城朔
ミツルの気も知らず、真城は物憂げな顔で俯いている。
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「…………」
真城朔
濡れているから、涙がそれと分かりづらい。
夜高ミツル
それでも、泣いているのだろうなと分かった。
夜高ミツル
顔を寄せて、肩口にそっと唇で触れる。
真城朔
「ひゃ」
真城朔
肩が跳ねて、
真城朔
驚いたようにミツルを振り返る。
夜高ミツル
それ以上何をするでもなく、
夜高ミツル
ただ触れて、
真城朔
「…………」
真城朔
固まっている。
夜高ミツル
顔を上げる。
真城朔
濡れた瞳と目が合う。
夜高ミツル
「…………上がるか」
真城朔
「ぅ」
真城朔
「…………」
真城朔
躊躇いがちに、小さく頷く。
真城朔
頷いたまま視線が落ちた。
夜高ミツル
「……ん」
夜高ミツル
濡れた髪を撫でる。
真城朔
撫でられて目を細めた。
真城朔
頬を一筋また滴が落ちて、湯船の水面に波紋を作る。
夜高ミツル
俯いた頭に口づけて、湯槽を出た。
真城朔
ミツルに従って風呂をあがる。
夜高ミツル
身体を拭いて、バスローブに袖を通す。
真城朔
もぞもぞと着込んでいます……
真城朔
通販で買った まあビジホとかであるやつ……
夜高ミツル
ホテルのあれ便利だったなと思って買った。
真城朔
有効活用している。
真城朔
してしまっている。
夜高ミツル
それなりの頻度で出番がある。
真城朔
腰のベルトをぎゅっとして……
夜高ミツル
着終えると、真城の手を引いてリビングへ。
夜高ミツル
ソファに座らせて……
真城朔
視線を落としたままされるがまま……
夜高ミツル
濡れた髪にドライヤーをかけていく。
真城朔
大人しくドライヤーをかけられています。
真城朔
こー………………
夜高ミツル
静音のいいドライヤー。
真城朔
髪もよく乾く。
真城朔
揃えた膝の上で手持ち無沙汰にバスローブの裾を握り締めている。
夜高ミツル
手で髪を梳いて、温風を当てて
夜高ミツル
それを繰り返す。
夜高ミツル
すっかり慣れた手つき。
真城朔
されるがままに……
真城朔
真城もされるのに慣れてはいるものの、
夜高ミツル
していきました。
真城朔
どうしても今日は緊張の気配が拭えず……
真城朔
とはいえ大人しく乾かされます。
夜高ミツル
つつがなく乾かしました。
夜高ミツル
スイッチを切る。
真城朔
音が消え……
夜高ミツル
乾いたのを確かめるように頭を撫で、
真城朔
おずおずとミツルを振り仰ぐ。
夜高ミツル
指先で髪の流れを整える。
夜高ミツル
目が合う。
真城朔
「…………」
真城朔
肩にかけていたバスタオルをミツルの頭に被せて、
真城朔
ごしごし……
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
姿勢を低くする。
真城朔
手を伸ばしてわしゃわしゃやっていきます。
夜高ミツル
拭かれている……
真城朔
姿勢を低くしてもらってちょっと楽な感じになった。
真城朔
ふきふき……
真城朔
ミツルの方は風呂上がりにタオルで拭いてもとからまあまあ乾いてはいるのだが。
夜高ミツル
自分の頭は遠慮なく拭けるから結構それだけで乾く。
真城朔
ほどほどに拭いて……
真城朔
ほどほどのあたりで腕を下ろす。
真城朔
じ……
夜高ミツル
「……ありがと」
真城朔
「俺、こそ」
真城朔
「ありがとう……」
真城朔
バスタオルを手に俯いた。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
また頭を撫でる。
真城朔
撫でられました。
真城朔
俯いている……
夜高ミツル
ドライヤーを定位置に片付ける。
真城朔
ソファに座って待っている。
真城朔
何を? 何かを……
夜高ミツル
濡れたバスタオルは洗濯機へ放り込み。
真城朔
もっていかれた……
夜高ミツル
持っていきました。
真城朔
手持ち無沙汰
夜高ミツル
ソファに座る真城のもとに戻ってくる。
夜高ミツル
「……お待たせ」
真城朔
「う」
真城朔
「…………」
真城朔
小さく頷くが、自分からは立ち上がらない。
夜高ミツル
促すように、真城の手を取る。
真城朔
びくりと緊張に肩を引きつらせる。
夜高ミツル
真城の手を握るミツルの掌に、薄く汗が滲んでいる。
夜高ミツル
「…………ベッド」
夜高ミツル
「行く、か」
真城朔
「う」
真城朔
「うー……」
真城朔
呻いた。
真城朔
頷くでも拒むでもなく……
真城朔
あまり意味を見出し難い感じの呻き声。
夜高ミツル
軽く手を引いて立ち上がらせる。
真城朔
そうされれば結局腰が上がる。
真城朔
拍子抜けなほどあっさりと容易く立ち上がって、
真城朔
けれど視線はやはり彷徨う。
真城朔
きゅ、と
真城朔
指先がやっとミツルの手を縋った。
夜高ミツル
握り返す。
真城朔
それもひどくかすかなものではあるけれど。
真城朔
「っ」
真城朔
握り帰されて息を詰める。
夜高ミツル
そのまま手を引いて、ベッドに向かう。
真城朔
導かれるままベッドに。
真城朔
ためらいがちに足が動く。
夜高ミツル
誘導するミツルの動きからはためらいは見て取れず、
夜高ミツル
寝室に入り、二人でベッドに上がる。
真城朔
ベッドに膝が沈み、
真城朔
腰を下ろす。
真城朔
風呂上がりのバスローブ姿の目元には涙を滲ませて、
真城朔
当惑にミツルを見つめている。
夜高ミツル
ベッドの真ん中で向かい合う。
真城朔
もはや何も言えずにいる。
真城朔
視線を逸らすこともできずにいる。
夜高ミツル
涙に濡れる頬に手を伸ばす。
真城朔
ただ、肩が震えていた。
真城朔
触れられる。
真城朔
風呂とドライヤーの余波で温められた熱がまだ残っている。
夜高ミツル
そっと、目元に湛えた涙を拭う。
真城朔
拭われて、
真城朔
すぐまた次が滲む。
真城朔
窺うように瞳がミツルを見返した。
夜高ミツル
溢れる涙が指先を濡らしていく。
真城朔
「……み」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
頬に触れていた手が滑る。
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
どこかたどたどしく名前を呼んで、
真城朔
何度も繰り返し呼んだはずの名前を。
夜高ミツル
首筋を通り、肩に触れ、
夜高ミツル
背中に回る。
真城朔
「……う」
真城朔
「…………」
真城朔
緊張にますます背中が強張った。
真城朔
膝がすり合わされる。
真城朔
指先は自分のバスローブを掴んだ。
夜高ミツル
空いている方の手で、バスローブを握る手を包む。
真城朔
ぴくりと指が跳ねる。
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
抱き寄せる。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
顔が近づく。
真城朔
「あ、っ」
真城朔
目を逸らせない。
夜高ミツル
そのまま、口づける。
真城朔
口づけを拒まず、
真城朔
けれど肩は強張らせたまま、目を伏せた。
夜高ミツル
少しでも緊張を解こうと、背中を撫でる。
真城朔
「ん」
真城朔
「ふ、……っ」
真城朔
重ねられた唇の合間から熱の籠もった吐息、
夜高ミツル
撫でながら、啄むような口づけを繰り返し、
夜高ミツル
やがて舌先が真城の唇を舐める。
真城朔
背中から力を抜こうとしてそれは叶わぬまま、
真城朔
促されて反射のように唇を薄く開く。
夜高ミツル
開いた唇の隙間から、舌が入り込む。
真城朔
濡れた熱が濡れた熱を迎える。
真城朔
触れて、合わさる。
夜高ミツル
重ねて、絡める。
夜高ミツル
二人だけの部屋に、濡れた音が響く。
真城朔
いつしか指がミツルのバスローブの胸元を掴んでいた。
真城朔
掴むだけ、服を握り締めるだけ、
真城朔
それを引くことはまだできない。
真城朔
代わりに迎えた舌が絡め取られることに喜んで、
真城朔
従順に差し出されて熱とぬめりを分ける。
夜高ミツル
求められている。
夜高ミツル
望んでもらえている。
夜高ミツル
それが十分に分かるから。
夜高ミツル
だから、あの時のような自暴自棄な気持ちではなく、
夜高ミツル
もっと素直に、言葉はいらないと思えた。
真城朔
合わされて求め合う唇の奥で、何度も喉を鳴らす。
真城朔
意味をなさない甘い声がかすかに漏らされる。
夜高ミツル
消え入るようなかすかな声も、この距離だとよく聞こえた。
真城朔
熱が触れて、重なって、上がっていく。
真城朔
頭じゅうに響く水音に煽られていく。
夜高ミツル
あたたかい。
真城朔
熱い。
夜高ミツル
理性が蕩けていく。
夜高ミツル
目の前の真城のことしか考えられなくなる。
真城朔
吸い上げられて絡む舌先すら、
真城朔
今は本当に蕩かされたように思う。
夜高ミツル
もっと真城に触れたい。
夜高ミツル
真城を感じたい。
夜高ミツル
真城に自分を感じてほしい。
夜高ミツル
線の細さを確かめるように、掌が真城の身体の上を滑る。
夜高ミツル
骨の形の分かる、肉付きの薄い身体。
真城朔
びくりと背が引きつるのは先と同じ、
真城朔
けれどそれが今はすぐに弛緩した。
真城朔
その接触を受け入れて、また喉奥で声が鳴る。
真城朔
受け入れたミツルの舌先を、どこか焦れたように吸い上げた。
夜高ミツル
「……っ」
夜高ミツル
それだけの仕草にも、痺れるような心地よさを感じる。
夜高ミツル
真城のバスローブのベルトを解いて、前をくつろげる。
真城朔
「ん」
真城朔
「ぅ、ん……っ」
夜高ミツル
熱を持った掌で、その下の素肌に直に触れる。
真城朔
身を捩る仕草は逃れるためのものではない。
夜高ミツル
大切な、大切なものに触れる、慈しむ手つき。
真城朔
それに否応なく肌が喜ぶ。
真城朔
また熱が上がる。
真城朔
中からも外からも熱くなって、
夜高ミツル
相手の熱に応じて、互いに熱を上げていく。
真城朔
それが止まらなくなる。
夜高ミツル
手で、唇で、舌で、
夜高ミツル
真城の身体に触れ、口づけを落とす。
真城朔
「あ」
真城朔
「――っ」
真城朔
「み」
真城朔
「ミツ、……」
真城朔
呼ぶ声は上擦って、
真城朔
咎めるものではないにせよ、
真城朔
熱に浮かされた中にそれでもどうしても、
真城朔
拭いきれない戸惑いの気配。
夜高ミツル
こうして真城の身体のあちこちに触れるのが、ミツルは好きだ。
夜高ミツル
そんなところまで、とか、きたない、とか
夜高ミツル
そういう風に真城を困惑させてしまうこともあるけれど。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
「好きだよ」
夜高ミツル
好きだから。
真城朔
「う」
夜高ミツル
頭のてっぺんからつま先まで
夜高ミツル
真城の全てが、ミツルは好きで。
真城朔
「…………っ」
夜高ミツル
だから、その全部に触れたい。
真城朔
唇を噛み締める。
真城朔
開いた瞳から涙を落として、
真城朔
熱に蕩かされた中でも、けれどまだ抜け切れない、
真城朔
恐怖が。
真城朔
半開きに唇を震わせて、
夜高ミツル
言葉を返せずにいる唇に、また唇を重ねる。
真城朔
「あ」
真城朔
「…………っ」
真城朔
躊躇いに伸ばされた手が、
真城朔
ミツルの背中に回った。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
応えるように、真城の背に回した腕に力を込めた。
真城朔
指先がバスローブの背を掴む。
真城朔
握り締めて、手繰り寄せる。
真城朔
舌が唇を割ってミツルの腔内に入り込み、
真城朔
愛玩を求めて突き出された。
夜高ミツル
差し出された舌を絡め取る。
夜高ミツル
粘膜を擦り合わせ、唾液を交換し、
夜高ミツル
その仕草一つ一つが濡れた音を立てる。
真城朔
熱が音が没頭を深めていく。
真城朔
思考が冒されていく。
真城朔
溺れるようだった。
夜高ミツル
重ねる身体も、絡め合う粘膜も、その合間に漏れる吐息も、
夜高ミツル
全てが、熱い。
真城朔
なのにまだ欲しくなる。
真城朔
奥底から炙り立てる熱があるというのに、
夜高ミツル
熱に浮かされて、思考はシンプルだ。
真城朔
それよりもっと欲しくなる。
夜高ミツル
真城が好き。
夜高ミツル
真城がほしい。
真城朔
ほしい。
夜高ミツル
もっと。
真城朔
与えられることを、
真城朔
求めてしまう。
夜高ミツル
求められただけ、与えたい。
真城朔
たっぷり愛された舌先からまた熱が巡って、
真城朔
息継ぎにどちらともなく唇が離されても、
真城朔
与えられて灯った熱が残っている。
真城朔
唇と唇を繋ぐ銀の糸が、
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
切れて、落ちて、
真城朔
弾けた。
夜高ミツル
口元を濡らした。
真城朔
「…………」
真城朔
唇を濡らしたまま、ぼんやりとミツルを見上げている。
夜高ミツル
「…………真城」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ミツ……」
真城朔
舌足らずに名前を呼ぶ。
真城朔
熱に蕩けた舌は麻痺させられたようにうまく回らなくて、
真城朔
呼び慣れた名前を紡ぐのにも、どこかたどたどしい。
夜高ミツル
「真城……」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
ミツルが真城を呼ぶ声も、熱の上がった今はどこかふわふわと頼りない。
真城朔
その胸元に唇を寄せる。
夜高ミツル
「……っ、」
真城朔
いつもと同じ仕草で、甘えるように顔を埋めて、押し付ける。
真城朔
背中に回った腕にも、力が籠もった。
夜高ミツル
力を込められて、身体がますます密着する。
真城朔
胸に耳が当たる。
夜高ミツル
常より速い心臓の音。
真城朔
その拍動を直に感じている。
夜高ミツル
バスローブは乱れてはだけ、
夜高ミツル
汗の滲む胸元に、直接真城の頭が触れている。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ミツ、ミツ」
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ミツが、いる」
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「いるよ」
真城朔
「いきてる」
真城朔
「ミツが……」
夜高ミツル
「……うん」
夜高ミツル
「生きてる」
夜高ミツル
「ここにいる」
真城朔
「ん」
真城朔
「うれしい」
真城朔
「うれしい……」
夜高ミツル
「……うん」
真城朔
繰り返してまた耳をすり寄せては、
夜高ミツル
「俺も」
真城朔
伏せた瞼から涙を落とす。
夜高ミツル
「真城がいるの」
夜高ミツル
「生きてくれてるの」
夜高ミツル
「嬉しい」
夜高ミツル
「嬉しいよ」
夜高ミツル
擦り寄せられる頭を撫でる。
真城朔
ゆっくりとその瞼が持ち上がって、
真城朔
視線が合う。
真城朔
頭を撫でられてますます瞳が潤んだ。
夜高ミツル
熱の籠もった瞳が、真城を捉えている。
真城朔
負けず劣らずに熱を募らせた瞳がミツルを見返す。
真城朔
その奥に、
真城朔
切望の色が、色濃かった。
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
身体を寄せる。
夜高ミツル
熱と硬さを持った箇所が、真城に触れる。
真城朔
「ぁ」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
熱に潤んだ瞳が空を彷徨う。
真城朔
一方で身体は無意識に、
真城朔
横たえられたままに脚を開いて、
夜高ミツル
真城を呼ぶミツルの声にも、切実さがある。
真城朔
常の通りにミツルを出迎える。
真城朔
「み、」
真城朔
「つ」
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「……挿れる、ぞ」
真城朔
「…………」
真城朔
言葉を返すことのできないまま。
真城朔
けれど首が、確かに頷いた。
夜高ミツル
「……ん」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
それを見て小さく微笑んで、
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
結局名前を呼んでしまう。
真城朔
求めている。
真城朔
求めてしまう。
夜高ミツル
もう何度目か分からない口づけを落とす。
真城朔
「ん、……」
真城朔
それも受け入れて、身体をすり寄せる。
真城朔
薄い身体がミツルに密着する。
夜高ミツル
唇を重ねながら、ゆっくりと腰を進める。
真城朔
「ん」
夜高ミツル
身体を繋げる。
真城朔
「んん、ぅ」
真城朔
ひくりと全身が震えて、
真城朔
喉の奥から甘く蕩けた声があがる。
夜高ミツル
唇を重ね、腕を背中に回し、
真城朔
爪先が丸まってシーツを掻いて、
夜高ミツル
全身で真城を求める。
真城朔
求めを受け入れて、身体が歓喜する。
夜高ミツル
真城に触れて、感じて、繋がる。
真城朔
一番に昂ぶったところで、熱と熱が触れている。
真城朔
歓びとともに受け入れた身体がそれを食いしめて味わうように、
真城朔
確かめるように。
夜高ミツル
触れている箇所が、そのまま溶けてしまうように錯覚する。
夜高ミツル
それほどに、熱い。
真城朔
「――は」
真城朔
「ぁっ、あ、――ん」
真城朔
「ん、っく」
真城朔
「ぅ」
真城朔
「あ」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ミツ、……っ」
夜高ミツル
「……真城」
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「真城……」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「すき」
夜高ミツル
「好きだよ」
真城朔
「すき、……っ」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「知ってる」
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
「嬉しい」
真城朔
「ぅ」
夜高ミツル
「俺も」
真城朔
「あっ、あ」
夜高ミツル
「真城が好きだ」
真城朔
「ぁ」
真城朔
涙が落ちる。
夜高ミツル
「好きだよ」
真城朔
奥から奥から涙を溢れさせて、
真城朔
身体を震わせて、泣いている。
夜高ミツル
震える身体を抱きしめる。
真城朔
「すき」
真城朔
「ミツ、すき」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ずっと」
真城朔
「ずっと……」
夜高ミツル
「一緒だ」
夜高ミツル
「一緒にいる」
真城朔
「ぅ」
夜高ミツル
「絶対離さない」
真城朔
「ああ、っ」
真城朔
「いっしょ」
真城朔
「いっしょ、が」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ミツ……っ」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「真城と」
夜高ミツル
「一緒」
夜高ミツル
「一緒に、いる」
真城朔
「いっしょに、いて」
真城朔
「ずっと」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「いるよ」
真城朔
「ミツ、と」
夜高ミツル
「ここにいる」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ミツ、ここに」
真城朔
「いる」
真城朔
「い、て」
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「真城の隣にいる」
真城朔
背に回った腕が熱を確かめるように動いて、
真城朔
薄い胸が重なって、
真城朔
繋がりがまた深くなる。
真城朔
「っあ」
真城朔
「――――っ」
夜高ミツル
「っ、」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「み」
夜高ミツル
「真、城」
真城朔
「みつ……っ」
真城朔
「もっ」
真城朔
「もっと」
夜高ミツル
「う、ん」
真城朔
「もっと」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「ずっと」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「もっと……」
真城朔
「ミツ、ミツ」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「み、……っ」
夜高ミツル
互いの名前と好きの言葉を、
夜高ミツル
何度も何度も、飽きることなく交わし合う。
真城朔
繰り返し繰り返し、
真城朔
繰り返せば繰り返すほどに熱が募って、
夜高ミツル
求められる都度に求めて、
夜高ミツル
求める程に求められて。
真城朔
やがて果てては、飽きもせずに貪欲に次を求める。
夜高ミツル
その度に頷いて、口づけて、また繋がる。
真城朔
蕩かされた身体に力が入らなくなって、
真城朔
背中に回る腕もどこか弱々しくなっても、
真城朔
「ミツ」
真城朔
呆れるほどに真城はミツルを求め続けた。
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「あ」
真城朔
「……っ」
真城朔
「はあ、――は、ぅ」
真城朔
「ぅう、……っ」
真城朔
「ぁ」
真城朔
「ぁ、あ――み」
夜高ミツル
求められる度に、幸せそうに微笑んだ。
真城朔
「みつ」
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「すき」
真城朔
「ミツ、っ」
真城朔
「ぅ」
夜高ミツル
「すきだ」
真城朔
「ぅあ……っ」
真城朔
「あ」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「すき」
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「すき――」
夜高ミツル
「俺も」
夜高ミツル
「すき」
真城朔
「もっと」
夜高ミツル
「真城が」
真城朔
「もっ、と」
夜高ミツル
「すきだ」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「すき」
真城朔
「すき、って」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「もっと……」
夜高ミツル
「すきだよ」
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「真城が、すきだ」
真城朔
「…………っ」
真城朔
涙はいつまでも止まず、
夜高ミツル
「すき、だよ」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
蕩けた瞳は焦点も合わなくて、
真城朔
けれどどうにか、ミツルを向いている。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「もっ、と」
夜高ミツル
「真城」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
求める熱の籠もった瞳が、真城の姿を映している。
夜高ミツル
「すき」
夜高ミツル
「すきだ、真城」
真城朔
それを認めて、
真城朔
聞かされて、
真城朔
涙を溢れさせたまま、笑った。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「すき」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「俺も」
真城朔
「すき」
夜高ミツル
「すきだ」
真城朔
「だいす、き――」
夜高ミツル
「大好き」
夜高ミツル
「真城が」
夜高ミツル
「大好き、だよ」
真城朔
泣きながら笑っている。
真城朔
熱を求めて、まだ腕が伸びる。
夜高ミツル
肌が重なる。
夜高ミツル
繋がりが深くなる。
真城朔
もっと、
真城朔
もっと、もっと。
真城朔
ミツ。
真城朔
好き。
真城朔
それしか知らないみたいに繰り返して、
真城朔
耽溺していく。
夜高ミツル
望まれるだけ、
夜高ミツル
求められるだけ、繰り返す。
夜高ミツル
与える。
夜高ミツル
それがミツルの幸せだから。
真城朔
与えられるたび喜んで、本当に嬉しそうに笑う。
真城朔
ばかみたいにあっさりと、素直にすべてを受け入れる。
真城朔
際限なく欲しがっては、充足を得て恍惚に息を漏らす。
真城朔
好きだと繰り返す。
夜高ミツル
喜ぶ様を見ては、心底嬉しそうに微笑んだ。
夜高ミツル
名前を呼んだ。
夜高ミツル
愛の言葉を交わし合った。
真城朔
擦り切れる程に。
夜高ミツル
繰り返す。
夜高ミツル
何度も、何度も。
真城朔
飽きることを知らぬその果てに、
真城朔
やがて意識を失うまで。
夜高ミツル
真城が意識を失ったのを見て、身体を離す。
真城朔
くったりと投げ出した四肢をシーツに沈めている。
夜高ミツル
上がった息の整わぬまま、その隣に身を投げ出す。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
真城の方に身体を向ける。
真城朔
力の入らなくなった身体が横たわっている。
夜高ミツル
シーツの上に投げ出された身体に腕を回して、抱き寄せる。
真城朔
もちろん抵抗はない。
真城朔
されるがままにミツルの腕に抱かれている。
真城朔
それが、
真城朔
熱を求めて、胸に頬をすり寄せた。
夜高ミツル
擦り寄せられた頭のてっぺんに顔を埋める。
夜高ミツル
そのまま目を閉じる。
真城朔
ミツルの胸で小さな寝息を立てている。
夜高ミツル
後始末のことがちらりと頭の隅を過ぎったが、
夜高ミツル
それも眠気と、腕の中のぬくもりに溶かされていく。
夜高ミツル
──おやすみ。
夜高ミツル
真城。
夜高ミツル
好き。
夜高ミツル
大好きだよ。