2021/04/27 深夜
真城朔
暖かくなってきた北の大地の、しかし春の夜風はまだ冷たい。
真城朔
狩りの準備を済ませた昼には少しばかりそれを眺めに散歩など出て、
真城朔
見窄らしい風体の男に組み伏せられて、闇色の空を仰いでいる。
真城朔
頬を撫ぜるのは春の風ではなく生臭い男の吐息。
真城朔
この大した力も与えられていないフォロワーに、
真城朔
いともたやすくねじ伏せられて地に縫い留められ、動かない。
真城朔
自分の獣欲を満たせる相手を前に舌なめずりをするような、
真城朔
こんな危険なことはすぐに終わらせてしまって、
真城朔
少し眩しい青空の下、二人手を繋いで歩きたかった。
真城朔
本来許されるべきではないものだということも、
真城朔
指が服の下に潜り込み、伸びてささくれた爪が肌を掻いて、
真城朔
指先が無遠慮に肌を探っている。服をたくし上げて裸身を暴いて。傷一つない滑らかな皮膚を撫で回して、濡れた唇が舌が触れる。奥の火が温度を上げる。反射で腰が浮いて、それを抑え込むように体重をかけて抑え込まれる。
真城朔
ばたついた脚の奥で、まだ聞こえるはずのない水音を幻聴する。
真城朔
吸血鬼を追うていた俊敏な動きは精彩を欠き、
真城朔
ベルトの金具に指をかけられて、身が強張った。
真城朔
抵抗を、していない。そう思われている。事実としてそのとおりになっている。
真城朔
脚をばたつかせる。力の動かない緩慢な動き。
夜高ミツル?
求めた男の姿が、ビル影から歩み出る。
夜高ミツル?
地に組み伏せられた真城を見下ろして、悠々と近づく。
真城朔
自分を組み伏せる男の存在すらひととき忘れて、
夜高ミツル?
近づいて、だけど真城を押さえつける男を引き剥がすでもなく。
真城朔
許していない相手に生肌を探られる不快感からではない。
夜高ミツル?
ミツルにはありえない表情を浮かべて、真城を見ている。
真城朔
ベルトを外されて緩められたズボンが脱がされていく。
真城朔
下着ごとに引き下げられて、邪魔になる靴も靴下とまとめて投げ捨てられ、
真城朔
知らない相手には何を言っても信じられない。
夜高ミツル?
「いくらお前が抵抗できないっつってもさ」
夜高ミツル?
「本当に俺のこと好きだっていうなら」
真城朔
ぐちりと濡れた音が、今度こそはっきりと響いた。
夜高ミツル?
「もうちょっと、どうにかできるもんじゃねえの?」
真城朔
男がなにか言っている。何か調子に乗ったことを言っている。
夜高ミツル?
「お前、気持ちいいこと大好きだもんな?」
夜高ミツル?
「相手が俺じゃなくてもいいんだよな」
真城朔
吸血鬼すら殴り飛ばす膂力は今は見る影もない。
夜高ミツル?
その様を、ただ笑って見下ろしていた。
夜高ミツル?
「口先ばっかでいやいや言っててもしょうがねえだろ」
夜高ミツル?
「今お前とヤッてんの、俺じゃねえけど」
夜高ミツル?
「ミツがいい、ミツじゃないと嫌だって」
夜高ミツル?
「でも今俺以外の奴にヤられてるよな」
真城朔
男の体が密着している。組み伏せた身体に腰を押し付けて、
真城朔
さらに奥をこじ開けるように腰を引き寄せて叩きつけて、
真城朔
頬を額を涙とも汗ともつかない液体が流れて、
真城朔
口を塞ぐこともできず、指先は男の肩を掴んでいる。
真城朔
濡れた肉のぶつかる音が路地裏に騒々しく響く。
真城朔
「ひはっ、ひ、ふ、……ぅう――んんッ、ん」
夜高ミツル?
「少しはさ、俺に申し訳ないとか思ったりしねえの?」
真城朔
指は男の肩に縋り、俯けた額もそこに埋まる。
真城朔
ひくひくと痙攣する身体が、ゆっくりと弛緩していく。
真城朔
首を竦めて耐えようとするのが、ひどく白々しい。
真城朔
背中を押さえつけられて、意味もなく手が伸びる。
真城朔
背中をぞくぞくと痺れが駆け抜けて頭まで伝って、
真城朔
それを抑えることもできずに地に這いつくばっている。
夜高ミツル?
「それとも、やっぱ止められたくない?」
真城朔
背中を丸め、喉の奥にどうにか声を押し込める。
真城朔
汗と涙と涎が頬を伝い落ちて、アスファルトを濡らしている。
夜高ミツル?
「お前は簡単に他の奴にイかされるんだな」
真城朔
違う男のものを咥え込んでまた身体を震わせて、
夜高ミツル?
「今日はじめて説得力あること言ってんな」
真城朔
捨てるなんて表現だって本当はふさわしくないくらいで、
真城朔
そんなふうに責められる筋合いはミツルにはどこにもなくて、
真城朔
だから、いつだって、ミツルに見放されても仕方ないんだから、
真城朔
仮初の安寧に忘れてしまっていた事実がある。
夜高ミツル?
「抱いてくれれば、気持ちよくしてくれれば」
夜高ミツル?
「俺じゃなくてもいいんだよ、お前は」
夜高ミツル?
「いっつも俺に追っかけさせてばっかりで」
夜高ミツル?
「お前はこんな簡単なこともしてくれないんだな」
真城朔
なにひとつ、ミツルに応えられるものがない。
夜高ミツル?
「結局お前が口だけなのはよく分かったからさ」
真城朔
その言葉すら喉の半ばを塞がれて吐き出せない。
真城朔
真城の喉を埋めていたのは淫蕩な音ばかりで、
真城朔
意味のある言葉を紡ぐことすらできなかっただけ。
真城朔
だから、ミツルの言っていたことはすべて正しい。
真城朔
誰でもいい。口だけ。いつも追いかけさせてばかり。
真城朔
だから、伝えられなかった言葉を、次こそ伝えなければならない。
真城朔
吸血鬼に従っていたフォロワーの中でも一番に貧相な男が、突っ伏した真城に跨って腰を振っている。
真城朔
蹴飛ばされた男は肩を怒らせてミツルを見返したが、
真城朔
その手の得物に竦み上がり、そそくさと路地裏に消えていく。
真城朔
真城は勢い仰向けで転がされ、荒い呼吸を繰り返している。
夜高ミツル
消えていった男には注意を払わず、真城の身体を抱きあげる。
真城朔
その内腿を、注ぎ込まれた獣欲が伝い落ちていた。
夜高ミツル
その姿に、もっと早く助けに来れていればと後悔が膨らむ。
夜高ミツル
陵辱のみならず、さらに真城の心を傷つけるようことを。
真城朔
真城は力なくミツルの腕に身体をもたせている。
夜高ミツル
暫し、そのままつよくつよく真城の身体を抱きしめていた。
夜高ミツル
横たえた真城の身体を、タオルで拭き清めていく。
夜高ミツル
それら一つ一つに、胸が締め付けられる。
夜高ミツル
詮のないことだけど、どうしても思わずにはいられない。
夜高ミツル
「そんなんで行かせられるわけないだろ」
真城朔
拭き清められた身体もそこそこに、近くに置いてあった下着とズボンを引き寄せる。