2021/04/27 深夜

真城朔
路地裏。
真城朔
暖かくなってきた北の大地の、しかし春の夜風はまだ冷たい。
真城朔
札幌の桜は本日満開になったという。
真城朔
狩りの準備を済ませた昼には少しばかりそれを眺めに散歩など出て、
真城朔
そして、それが、今。
真城朔
見窄らしい風体の男に組み伏せられて、闇色の空を仰いでいる。
真城朔
昼には繋いでいた手を手首を掴まれて、
真城朔
頬を撫ぜるのは春の風ではなく生臭い男の吐息。
真城朔
振り払おうと込めたはずの力は、
真城朔
この大した力も与えられていないフォロワーに、
真城朔
いともたやすくねじ伏せられて地に縫い留められ、動かない。
真城朔
動けない。
真城朔
下卑た声が耳に響く。
真城朔
煽るような声。
真城朔
獲物を前に、
真城朔
自分の獣欲を満たせる相手を前に舌なめずりをするような、
真城朔
下の下の男の濁声が。
真城朔
――深追いしすぎた、とは、思っている。
真城朔
すこしでもはやく。一刻でも早く。
真城朔
血みどろの狩りを終わらせたかった。
真城朔
あの日常に戻りたかった。
真城朔
こんな危険なことはすぐに終わらせてしまって、
真城朔
少し眩しい青空の下、二人手を繋いで歩きたかった。
真城朔
その日常が、
真城朔
本来許されるべきではないものだということも、
真城朔
いつしか忘れ始めていた。
真城朔
「…………っ」
真城朔
パーカーの裾を捲られる。
真城朔
かさついた皮膚の肌の這い回る感触がある。
真城朔
指が服の下に潜り込み、伸びてささくれた爪が肌を掻いて、
真城朔
ぞくりと肌が粟立った。
真城朔
不快感。
真城朔
が、
真城朔
確かに、
真城朔
ある。
真城朔
あっている。
真城朔
嫌悪がある。
真城朔
嫌だと思う心がある。
真城朔
拒まなければならないという責任感より、
真城朔
拒みたいと願う心がある。
真城朔
それは身体を動かさない。
真城朔
力の入らない身体が、
真城朔
なのに、熱をあげていく。
真城朔
奥底で、
真城朔
たやすく火がともった。
真城朔
吐息があがる。
真城朔
声がうわずって、甘く裏返る。
真城朔
指先が無遠慮に肌を探っている。服をたくし上げて裸身を暴いて。傷一つない滑らかな皮膚を撫で回して、濡れた唇が舌が触れる。奥の火が温度を上げる。反射で腰が浮いて、それを抑え込むように体重をかけて抑え込まれる。
真城朔
ばたついた脚の奥で、まだ聞こえるはずのない水音を幻聴する。
真城朔
いやだ、と、
真城朔
口で言ったのを、笑われる。
真城朔
吸血鬼を追うていた俊敏な動きは精彩を欠き、
真城朔
すっかり大人しくなった身体を指摘される。
真城朔
否定すら当然に鼻で笑い飛ばされ、
真城朔
ベルトの金具に指をかけられて、身が強張った。
真城朔
熱は高い。
真城朔
頭の裏側が冷えていくような心地がある。
真城朔
なのに身体の中心は炙られたように、
真城朔
ちがう、
真城朔
もっとを求めている。
真城朔
ベルトが外されていく。
真城朔
抵抗を、していない。そう思われている。事実としてそのとおりになっている。
真城朔
調子に乗ったような笑い声。
真城朔
知らない人の声。
真城朔
知らない人の腕、手、指、身体、
真城朔
ぜんぶ、
真城朔
ぜんぶが、違う。
真城朔
ちがうのに。
真城朔
求めているのはそれじゃなくて、
真城朔
許すのだってそうじゃない。
真城朔
ちがう。
真城朔
ちがうのだから、
真城朔
だから、
真城朔
これはいやだ。
真城朔
嫌で嫌でたまらない。
真城朔
嫌で、
真城朔
こわくて、たまらない。
真城朔
ただ一人だけ。
真城朔
たった一人、
真城朔
ひとりいがい、
真城朔
「……だ」
真城朔
「や、だ」
真城朔
脚をばたつかせる。力の動かない緩慢な動き。
真城朔
それを抑え込まれながら身を捩って、
真城朔
肺腑を絞って、
真城朔
「ミツ」
真城朔
名前を呼ぶ。
真城朔
「ミツ、じゃ」
真城朔
「ミツじゃないと」
真城朔
「やだ」
真城朔
「やだあ……っ」
夜高ミツル?
その声に応じるように
夜高ミツル?
求めた男の姿が、ビル影から歩み出る。
夜高ミツル?
地に組み伏せられた真城を見下ろして、悠々と近づく。
真城朔
「――――あ」
真城朔
「み」
真城朔
「ミツ……っ」
真城朔
その姿に、
真城朔
自分を組み伏せる男の存在すらひととき忘れて、
真城朔
表情に喜色を忍ばせる。
夜高ミツル?
近づいて、だけど真城を押さえつける男を引き剥がすでもなく。
真城朔
「…………」
真城朔
その振る舞いのさまに、
真城朔
違和感。
真城朔
まさぐる手に露出した内腿を撫ぜられ、
真城朔
「っあ」
真城朔
身が跳ねて、蕩けた声が漏れた。
夜高ミツル?
ビルの壁に背中を預けて、腕を組む。
真城朔
「っ」
真城朔
「ミツ……?」
夜高ミツル?
見下ろして、
夜高ミツル?
薄く、笑った。
真城朔
びくりと身が竦む。
真城朔
許していない相手に生肌を探られる不快感からではない。
真城朔
その視線と笑みの、
夜高ミツル?
ミツルの姿で、
夜高ミツル?
ミツルにはありえない表情を浮かべて、真城を見ている。
真城朔
自分のよく知る姿をした相手の浮かべる、
真城朔
ありうべからざるさまに、全身が強張る。
夜高ミツル?
「どうした?」
夜高ミツル?
「気にしないで、続けろよ」
真城朔
「え」
真城朔
間抜けた声が漏れる。
真城朔
矢先、
真城朔
「っひゃ」
真城朔
「ぁ、あっ」
夜高ミツル?
「はは」
真城朔
ベルトを外されて緩められたズボンが脱がされていく。
真城朔
下着ごとに引き下げられて、邪魔になる靴も靴下とまとめて投げ捨てられ、
夜高ミツル?
「止めたくないんだろ」
夜高ミツル?
「抵抗してないんだから」
真城朔
手をかけられて、脚を持ち上げられる。
真城朔
汗の滲んだ脚を男の指が我が物と這う。
真城朔
「ち」
真城朔
「ちが、……う」
夜高ミツル?
「何が?」
夜高ミツル?
「違わねえじゃん」
真城朔
反射的に口を衝いて出た抗弁の言葉の、
真城朔
意味のないことを知っている。
真城朔
涙が頬を落ちていた。
真城朔
意味がない。
真城朔
こんなことを言っても、何も。
真城朔
知らない相手には何を言っても信じられない。
真城朔
馬鹿げたことをと笑い飛ばされるだけ。
真城朔
知っている相手には、
真城朔
そうだ、
真城朔
ミツは、
真城朔
ミツは、知っている。
真城朔
知っているけど、
真城朔
知っていたところで、
夜高ミツル?
「いくらお前が抵抗できないっつってもさ」
夜高ミツル?
「本当に俺のこと好きだっていうなら」
真城朔
「……っひ」
夜高ミツル?
「なぁ?」
真城朔
脚が開かされる。
真城朔
付け根を手のひらが這って、
真城朔
その奥を辿られれば、
真城朔
ぐちりと濡れた音が、今度こそはっきりと響いた。
夜高ミツル?
「もうちょっと、どうにかできるもんじゃねえの?」
真城朔
「う、ぅ」
真城朔
「う」
真城朔
ミツルの声が聞こえる。
真城朔
真城を苛む、
真城朔
知らないミツルの声が聞こえる。
真城朔
男がなにか言っている。何か調子に乗ったことを言っている。
真城朔
汚い濁声が耳を通り抜けて、
真城朔
でもそんなのは今はどうでもいい。
真城朔
もっと、
真城朔
もっと、
夜高ミツル?
「いいよ、別に」
夜高ミツル?
「見ててやるからさ」
真城朔
聞かなければならない声がある。
真城朔
ミツの声。
真城朔
ミツルの言うこと。
真城朔
ミツルが、
真城朔
ミツがそう思って、
真城朔
そうなら、
真城朔
ぜんぶ、
夜高ミツル?
「知らないやつに」
真城朔
その全部は、
夜高ミツル?
「俺じゃないやつに」
夜高ミツル?
「いっぱい、してもらえば?」
真城朔
真城が聞き届ける必要のあることだ。
真城朔
それを
真城朔
それを、ミツルが
真城朔
「……ミ」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「あ」
真城朔
「んん、っ」
夜高ミツル?
見下ろしている。
真城朔
「――は」
真城朔
「はあ、はあ、……っは」
真城朔
「あ、ぁっ」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル?
笑う。
真城朔
「ミツ、は、……ミツ」
真城朔
「俺」
夜高ミツル?
「うん」
真城朔
「その」
真城朔
「そのほう、が」
真城朔
「そうされたほうが」
真城朔
「いい……っ」
真城朔
「ぁ」
真城朔
「んっ、く」
真城朔
「ぅう――」
真城朔
問いかける間に開かされた脚が、
真城朔
男の肩に担がれて、
真城朔
そのつま先が力なく揺れる。
夜高ミツル?
「はは」
夜高ミツル?
笑う。
夜高ミツル?
「俺と話すよりそっちの方が大事?」
真城朔
「ぁ」
真城朔
「ちが、……っ」
夜高ミツル?
「だから違わねえだろ」
真城朔
「ひぁ」
夜高ミツル?
「気持ち良さそうにしてるじゃん」
真城朔
「あっ、あ、――ぅ」
真城朔
「み」
真城朔
「みつ、ぅ」
真城朔
「みつ、み、――」
夜高ミツル?
「お前、気持ちいいこと大好きだもんな?」
夜高ミツル?
「いいんじゃねえの、別に」
真城朔
反射的に首を振りかけて、止まる。
真城朔
否定できない。
真城朔
好きだった。
真城朔
自分からはねだれないくせにねだって、
真城朔
ミツルに譲歩をさせて欲を満たした。
真城朔
ミツ。
真城朔
ミツにされて、
真城朔
きもちよくなること、ぜんぶ。
真城朔
それが好きで、
真城朔
好きなのに、
真城朔
「ひ、ぃ」
夜高ミツル?
「はは、さすがに自覚あった?」
真城朔
「ぅ――」
真城朔
堅い指で中を探られている。
夜高ミツル?
「きもちいの好きだもんな」
夜高ミツル?
「相手が俺じゃなくてもいいんだよな」
真城朔
「っ」
真城朔
「や」
真城朔
「やだ」
真城朔
「やだ……っ」
真城朔
「ぁ、あ」
真城朔
「や、ぁんっ、――あ」
夜高ミツル?
「やだって感じには見えねえけど」
真城朔
「やだあ、っ」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ミツ、が」
真城朔
「み」
真城朔
「…………っ!?」
真城朔
繰り返し名を呼んでいた声が、途切れる。
真城朔
男が組み伏せた真城に身を寄せる。
真城朔
肩へと引き上げられた脚が揺れて、
夜高ミツル?
「本当に嫌ならさ」
夜高ミツル?
「そいつ、どかしてみろよ」
真城朔
先端の熱があてがわれる。
真城朔
「……あ」
真城朔
「や、っ」
夜高ミツル?
「証明してみろよ」
真城朔
力なく投げ出された拳を握って、
真城朔
覆い被さった男の肩を叩く。
真城朔
吸血鬼すら殴り飛ばす膂力は今は見る影もない。
夜高ミツル?
「ははは」
真城朔
それでも何度も叩きつけて、
真城朔
「やだ」
真城朔
「い、や」
真城朔
「いや」
夜高ミツル?
「あのさぁ」
真城朔
「いやで、す」
真城朔
「やめ」
夜高ミツル?
「やる気あんの?」
真城朔
「やめて」
真城朔
「やだ、やだっ」
真城朔
「ゆる」
真城朔
「ゆるして」
真城朔
「おねがい」
真城朔
「やだ」
真城朔
「ほんとに、いや、で」
真城朔
「ご」
真城朔
「ごめんなさい」
真城朔
「ごめんなさい……っ」
夜高ミツル?
「それでさぁ」
夜高ミツル?
「止められると思う?」
真城朔
「――っ」
真城朔
「あ」
真城朔
ぞく、と
真城朔
押さえつけられた腰が震えた。
真城朔
瞳が見開かれる。
真城朔
男の気持ちよさそうな呻き声が漏れる。
真城朔
重なった身体がさらに密着して、
真城朔
ずぶりと中を抉られて、
真城朔
宙に触れたつま先に力が籠もり、丸まった。
真城朔
「――ぁ」
夜高ミツル?
その様を、ただ笑って見下ろしていた。
真城朔
「ああ、ぁ…………っ」
真城朔
全身を汗に塗れて震えている。
真城朔
上気した頬に涙が流れる。
真城朔
赤い唇は吐息とともに、
真城朔
甘く蕩けた嬌声を溢れさせる。
夜高ミツル?
「あ~あ」
真城朔
男の肩を叩くべく丸めた拳は、
真城朔
いつしかその肩に縋っていた。
夜高ミツル?
「逃げないからヤられちゃったな」
真城朔
「あ」
真城朔
「や、……あっ、んん」
夜高ミツル?
「口先ばっかでいやいや言っててもしょうがねえだろ」
真城朔
「ぅ――み」
真城朔
「みつ」
真城朔
「み、……っひ、あ」
夜高ミツル?
「何?」
真城朔
「あっ、ぁん、あっ」
夜高ミツル?
「今お前とヤッてんの、俺じゃねえけど」
真城朔
「……っ」
真城朔
「み、つ」
真城朔
「み、――っあ!?」
真城朔
「ひ――ぅあ、やっ、やら、や」
夜高ミツル?
「うんうん」
真城朔
「やあ――――」
夜高ミツル?
「知らない奴にヤられて気持ちいな」
夜高ミツル?
「よかったな」
夜高ミツル?
「ほんとに誰でもいいんだなぁ」
真城朔
肉と肉のぶつかる音。
真城朔
絶え間ない水音、吐息、
真城朔
蕩けた嬌声。
真城朔
名を呼ぶ声が途切れて、
真城朔
熱に浮かされた肉が震えている。
真城朔
「い、……っひぃ」
真城朔
「ひ、や」
真城朔
「いや」
真城朔
「いや、あっ、ぁん」
真城朔
「み」
夜高ミツル?
「ミツだけって言ってたのにな」
真城朔
「――ああ、ッ」
真城朔
投げ出された足ががくがくと震えて、
真城朔
それは全身も似たようなもので、
夜高ミツル?
「ミツがいい、ミツじゃないと嫌だって」
夜高ミツル?
「それがなぁ」
真城朔
でもとうとう首を竦めて頭を振る。
真城朔
「やだ」
真城朔
「やっ、やだ、やだやだやあっ」
真城朔
「あ――いや」
夜高ミツル?
「説得力ねえんだって」
真城朔
「いや、いやっあ、ぁ、ああ!」
真城朔
「みつ」
真城朔
「みつ、じゃ」
真城朔
「ない」
真城朔
「ない、やだ、や――」
真城朔
「ぁ、あっ」
夜高ミツル?
「うん」
夜高ミツル?
「でも今俺以外の奴にヤられてるよな」
真城朔
「――っい」
夜高ミツル?
「気持ちよくなってるよな」
真城朔
「いや」
真城朔
「ぃや、いや、あっあ」
真城朔
「あ――――」
真城朔
ひときわ大きく身体が跳ねる。
真城朔
男の体が密着している。組み伏せた身体に腰を押し付けて、
夜高ミツル?
「何回イくか数えててやろうか」
夜高ミツル?
「俺の前で、俺以外のやつを相手に」
真城朔
さらに奥をこじ開けるように腰を引き寄せて叩きつけて、
真城朔
「い」
真城朔
「ぃく…………っ」
真城朔
ぞくりと、
真城朔
喉が逸らされた。
真城朔
顎が上がる。
夜高ミツル?
「1回」
真城朔
頬を額を涙とも汗ともつかない液体が流れて、
真城朔
口の端からは涎が伝う。
真城朔
「――は」
真城朔
「はっ、はっ、はっ、は」
真城朔
「……あッ!?」
真城朔
また引き寄せられる。
真城朔
内側を穿たれて跳ね上がった声に、
夜高ミツル?
「まだ続けてもらえるって」
夜高ミツル?
「よかったなー」
真城朔
口を塞ぐこともできず、指先は男の肩を掴んでいる。
真城朔
「ぁ、あっあ、んっ、く――ぅあ、あっ」
真城朔
抽挿が再開される。
真城朔
濡れた肉のぶつかる音が路地裏に騒々しく響く。
真城朔
「ひはっ、ひ、ふ、……ぅう――んんッ、ん」
夜高ミツル?
「少しはさ、俺に申し訳ないとか思ったりしねえの?」
真城朔
「ぁ」
夜高ミツル?
「俺が見てる前で」
真城朔
「ああ、っあ!」
夜高ミツル?
「他の男に抱かれて」
真城朔
また身が跳ねる。
夜高ミツル?
「あんあん鳴いて」
真城朔
「ぃく、い――っ」
夜高ミツル?
「簡単にイかされて」
真城朔
「っ!!!」
真城朔
指は男の肩に縋り、俯けた額もそこに埋まる。
夜高ミツル?
「……2回目」
真城朔
「は」
真城朔
「あ、は、……ひ、ぅう」
夜高ミツル?
「なあ、聞いてるのか?」
夜高ミツル?
「気持ちいいのは分かるけどさー」
夜高ミツル?
「返事くらいしろよな」
真城朔
「ぁ」
真城朔
「あ、ぅ」
真城朔
「ご」
真城朔
「ごめ、……っ」
真城朔
「あ、ッ」
真城朔
「ああ、ぁ」
夜高ミツル?
「はは」
夜高ミツル?
「やっぱそっちの方が大事?」
真城朔
「ひ、はっ、は、あ」
真城朔
「ひが」
真城朔
「ひが、ぅ」
夜高ミツル?
「違わねえだろ」
真城朔
「や」
真城朔
「みつ」
真城朔
「み、つ」
真城朔
「みつ、が――っ」
真城朔
「あ」
夜高ミツル?
「うん」
夜高ミツル?
「何?」
真城朔
「あああ、っ」
真城朔
「みつ」
真城朔
「み、つっ」
真城朔
「やら」
真城朔
「みつじゃ」
真城朔
「みつじゃないひと、あ」
真城朔
「あ、ぁあ」
夜高ミツル?
「口先ばっかり」
真城朔
「ない、……ぃ、ひ、ぅう」
真城朔
「や、あ――やだ、やらやらっ」
真城朔
「い」
真城朔
「いか、せ」
真城朔
「いかせない、で」
真城朔
「やだ」
真城朔
「みつ」
真城朔
「みつじゃ、な」
真城朔
「ないの、に、……っ」
真城朔
「ぁ」
夜高ミツル?
「お、我慢してみる?」
真城朔
「ああ」
夜高ミツル?
「無駄だと思うけど」
真城朔
「――――っ」
真城朔
くちびるを、
真城朔
辛うじて、噛みしめる。
真城朔
代わりに全身がひどく波打つ。
真城朔
瞼を伏せて息を詰めて、
夜高ミツル?
「はは」
夜高ミツル?
「3回目」
真城朔
ひくひくと痙攣する身体が、ゆっくりと弛緩していく。
真城朔
「――ぁ」
真城朔
「あ」
真城朔
「や、だ」
真城朔
「もう」
真城朔
「もう、や」
真城朔
「あっ」
真城朔
「あ、ぅ」
夜高ミツル?
「そんなに嫌か?」
真城朔
「いく、の」
真城朔
「や、やだ」
真城朔
「やだ、あっ――ぁ」
夜高ミツル?
「本当に?」
真城朔
「あ」
真城朔
「い」
真城朔
「っく」
真城朔
頭を振るのも途中で止めて、
真城朔
首を竦めて耐えようとするのが、ひどく白々しい。
真城朔
いやだ。
真城朔
いやだ、いやだ、
真城朔
いやで、
真城朔
いやなのに。
真城朔
ほんとうなのに。
真城朔
ちがうのに。
真城朔
ミツじゃないのに、
真城朔
ミツが、ミツだけ、
真城朔
ミツだけにぜんぶ、あげたいのに。
真城朔
ゆるしたいのに、
真城朔
「っは」
真城朔
「ひゃう、……んんっ」
真城朔
くるりと身を返されて、
真城朔
後ろから再びに突き込まれる。
真城朔
「あ、……ッ!!」
夜高ミツル?
「じゃあ、さ」
真城朔
背中を押さえつけられて、意味もなく手が伸びる。
真城朔
伸びた先に。
夜高ミツル?
「ここまで来いよ」
真城朔
ミツルの姿が見える。
夜高ミツル?
「そしたら助けてやる」
真城朔
「……っ」
夜高ミツル?
「嫌なんだろ?」
夜高ミツル?
「それくらいできるよな」
真城朔
アスファルトの地面に手のひらをつく。
夜高ミツル?
その姿を、冷ややかに眺めている。
真城朔
ミツルの姿に手を伸ばしても、
真城朔
それが、遠い。
真城朔
腕に力を込める。
夜高ミツル?
伸ばされた手に、応えることはない。
真城朔
込めて、這いずって、
真城朔
どうにか進もうとして、
真城朔
「――っひ」
真城朔
「いっ!?」
夜高ミツル?
「どうした?」
夜高ミツル?
「もう少し頑張れよ」
真城朔
引き寄せられて、抱き込まれる。
真城朔
腹に腕が回っている。
真城朔
背中にのしかかる体重がある。
真城朔
身体を繋ぎ止める、
真城朔
熱い熱い楔がある。
真城朔
それが全身から力を奪っていく。
真城朔
背中をぞくぞくと痺れが駆け抜けて頭まで伝って、
真城朔
思考に靄がかけられる。
夜高ミツル?
「ここまで来るだけだぞ」
真城朔
声が漏れている。あられもない声が。
夜高ミツル?
「簡単だろ?」
真城朔
それを抑えることもできずに地に這いつくばっている。
真城朔
遠い。
真城朔
ミツが。
夜高ミツル?
「それとも、やっぱ止められたくない?」
真城朔
「ひ、あ」
真城朔
「ひあ、ぅ」
真城朔
「っう!? ぅ――」
真城朔
「ぁ」
真城朔
いっく、と、
真城朔
背中を丸め、喉の奥にどうにか声を押し込める。
真城朔
汗と涙と涎が頬を伝い落ちて、アスファルトを濡らしている。
真城朔
その水滴の痕は前に進むどころか、
真城朔
引き寄せられて後退している。
夜高ミツル?
「……もう数えんのもバカらしいな」
真城朔
「は」
真城朔
「ぁ、っあ」
真城朔
「あ」
夜高ミツル?
「あーあ」
真城朔
「み」
真城朔
「みつ」
夜高ミツル?
「俺はお前だけなのになぁ」
真城朔
「みつ……」
夜高ミツル?
「お前は簡単に他の奴にイかされるんだな」
真城朔
「……っ」
真城朔
「ら」
真城朔
「ら、……っいじょう、ぶ」
真城朔
「だか、ら」
真城朔
「みつ」
真城朔
「お」
夜高ミツル?
「何が」
真城朔
「俺、いがい」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「もっと」
真城朔
「い」
真城朔
「いいひ、……っ」
真城朔
「ぅ」
真城朔
「ぅあ、あッ」
真城朔
「あ――」
真城朔
抱きかかえられている。
真城朔
ミツルじゃない男の腕の中に。
真城朔
違う男のものを咥え込んでまた身体を震わせて、
夜高ミツル?
「はは」
真城朔
唇を噛み締めて俯いて、
真城朔
涙を落とす。
真城朔
「ひ」
夜高ミツル?
「今日はじめて説得力あること言ってんな」
真城朔
「ぅう」
真城朔
「う」
真城朔
「あっ」
真城朔
「ぁ」
真城朔
「ご」
真城朔
「ごめ」
真城朔
「ごめんなさ、い」
真城朔
「や」
真城朔
「す、」
真城朔
捨てていい。
真城朔
いつでも、いつだって、
真城朔
ミツルは自分のことを捨てていい。
夜高ミツル?
「す?」
真城朔
捨てるなんて表現だって本当はふさわしくないくらいで、
真城朔
そんなふうに責められる筋合いはミツルにはどこにもなくて、
真城朔
だから、いつだって、ミツルに見放されても仕方ないんだから、
真城朔
ミツルがそうしたいのなら、
真城朔
背中を押さなければならないのに。
真城朔
声が、
真城朔
出てこない。
夜高ミツル?
「言えよ」
真城朔
「……っひゃ」
真城朔
「ぁう、う――ッ」
真城朔
代わりに奥を潰されて嬌声が漏れる。
真城朔
それに耽溺して、続きを見失う。
夜高ミツル?
大げさにため息をつく。
真城朔
見失ったふりをしている。
真城朔
いく、と
真城朔
繰り返しの言葉が唇を滑り落ちた。
夜高ミツル?
その言葉をまたあざ笑う。
真城朔
告げなければならない言葉がある。
真城朔
仮初の安寧に忘れてしまっていた事実がある。
真城朔
そのことを思い知らせるように、
真城朔
真城の身体は、
真城朔
他の男の腕の中、
真城朔
よく啼いた。
夜高ミツル?
「結局さ」
夜高ミツル?
「やっぱ、誰でもいいんだろ」
真城朔
否定の言葉が喘鳴に紛れる。
夜高ミツル?
「抱いてくれれば、気持ちよくしてくれれば」
夜高ミツル?
「俺じゃなくてもいいんだよ、お前は」
真城朔
ミツじゃないと嫌だなんて、
真城朔
こんなの、誰が聞いても納得しない。
夜高ミツル?
「一応俺、待ってたんだぜ」
夜高ミツル?
「お前がここまで来るの」
真城朔
ごめんなさい、
真城朔
ごめんなさいと繰り返した文句さえ、
真城朔
今はとぎれとぎれに呂律が回らず、
真城朔
伝わっているかもわからない。
夜高ミツル?
「いっつも俺に追っかけさせてばっかりで」
夜高ミツル?
「お前はこんな簡単なこともしてくれないんだな」
真城朔
なにも。
真城朔
なにひとつ、ミツルに応えられるものがない。
真城朔
自分ではなにひとつミツルに与えられない。
夜高ミツル?
「まあ、もういいよ」
真城朔
力の入らない頭を持ち上げて、
真城朔
ミツルの姿を見上げる。
夜高ミツル?
「結局お前が口だけなのはよく分かったからさ」
真城朔
「…………っ」
夜高ミツル?
「誰でもいいんだから」
夜高ミツル?
「俺じゃない相手と楽しんでたら?」
真城朔
ミツ、
真城朔
ミツ、
真城朔
いやだ、
真城朔
置いていかないで。
真城朔
その言葉すら喉の半ばを塞がれて吐き出せない。
真城朔
言ってはならないとわかっていたから、
真城朔
言う権利がないと理解していたから、
真城朔
では、
真城朔
ない。
真城朔
真城の喉を埋めていたのは淫蕩な音ばかりで、
真城朔
意味のある言葉を紡ぐことすらできなかっただけ。
真城朔
ただ、それだけのことなのだ。
真城朔
だから、ミツルの言っていたことはすべて正しい。
真城朔
誰でもいい。口だけ。いつも追いかけさせてばかり。
真城朔
だから、
真城朔
だから、伝えられなかった言葉を、次こそ伝えなければならない。
夜高ミツル
「──真城!!」
夜高ミツル
位置情報を頼りに駆けつけた路地裏。
真城朔
吸血鬼に従っていたフォロワーの中でも一番に貧相な男が、突っ伏した真城に跨って腰を振っている。
夜高ミツル
「こ、の……!」
夜高ミツル
思い切り、その男を蹴飛ばす。
夜高ミツル
「……真城!」
真城朔
蹴飛ばされた男は肩を怒らせてミツルを見返したが、
夜高ミツル
刀を向けて、男を牽制する。
真城朔
その手の得物に竦み上がり、そそくさと路地裏に消えていく。
真城朔
「……っは」
真城朔
「はあ、は」
真城朔
「ぁ」
真城朔
真城は勢い仰向けで転がされ、荒い呼吸を繰り返している。
夜高ミツル
消えていった男には注意を払わず、真城の身体を抱きあげる。
真城朔
涙を湛えたうつろな瞳が虚空を彷徨う。
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
抱き上げられた身体の、
夜高ミツル
抱きしめる。
真城朔
その内腿を、注ぎ込まれた獣欲が伝い落ちていた。
夜高ミツル
「……ごめん」
夜高ミツル
「遅くなった」
真城朔
「ぁ」
真城朔
「あ、み」
真城朔
「みつ」
夜高ミツル
強く、その身体を抱き寄せる。
真城朔
抱き寄せられながら、力なく身を捩る。
真城朔
ミツルにすり寄るのではなく、
真城朔
ミツルの身体から離れるように。
真城朔
「みつ」
夜高ミツル
「…………真城?」
真城朔
「みつ、だ」
真城朔
「だいじょうぶ」
真城朔
「だ、から」
夜高ミツル
「大丈夫じゃねえだろ……」
真城朔
未だ甘やかさの残る声音で言い募る。
真城朔
「ちがう」
真城朔
「そうじゃ、なくて」
夜高ミツル
「……?」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「俺の、こと」
真城朔
「いつ、捨てても」
真城朔
「いいから――……」
真城朔
言い残して、
真城朔
瞼を閉じる。
夜高ミツル
「………………は?」
真城朔
ぐったりと腕の中の身体が弛緩していく。
夜高ミツル
唖然とした表情で、真城を見る。
真城朔
陵辱し尽くされた身体。
真城朔
今も脚の奥から白濁が溢れ続けている。
夜高ミツル
その姿に、もっと早く助けに来れていればと後悔が膨らむ。
夜高ミツル
それから、真城の告げた言葉。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
奥歯を噛む。
夜高ミツル
吸血鬼に、何かされたのだ。
夜高ミツル
陵辱のみならず、さらに真城の心を傷つけるようことを。
夜高ミツル
「…………ごめん」
夜高ミツル
「ごめんな……」
真城朔
返答はない。
真城朔
真城は力なくミツルの腕に身体をもたせている。
夜高ミツル
暫し、そのままつよくつよく真城の身体を抱きしめていた。

 
夜高ミツル
横たえた真城の身体を、タオルで拭き清めていく。
夜高ミツル
細い両脚の付け根から溢れる白濁。
夜高ミツル
腰や手首に残る指の跡。
夜高ミツル
掌や膝には擦り剝いてできた傷。
真城朔
真城にとってはどれも大した傷ではない。
真城朔
ただ色濃く残された陵辱の徴となるだけ。
夜高ミツル
それら一つ一つに、胸が締め付けられる。
夜高ミツル
もっと早く、助けに来れていれば。
夜高ミツル
詮のないことだけど、どうしても思わずにはいられない。
真城朔
「…………ん」
真城朔
「ん……」
真城朔
不意に小さく身じろぎをする。
夜高ミツル
「真城?」
真城朔
ぼんやりと瞼をあげて、
真城朔
真城の瞳が、ミツルの姿を認めた。
真城朔
「…………あ」
夜高ミツル
「真城…………」
真城朔
「ミツ……」
真城朔
「…………」
真城朔
目をそらす。
夜高ミツル
「…………大丈夫、じゃないよな」
真城朔
「あ」
真城朔
「ぅ」
真城朔
「…………」
真城朔
「大丈夫……」
真城朔
掠れた声。
夜高ミツル
首を振る。
夜高ミツル
「帰ろう」
真城朔
「…………」
真城朔
小さく首を振った。
真城朔
「俺」
真城朔
「一人で、行けるから」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「帰って……」
夜高ミツル
「なんでだよ……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「残るにしても、逆だろ」
真城朔
「危ない」
真城朔
「し」
真城朔
「付き合わせてるの」
真城朔
「俺の方……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「そんなんで行かせられるわけないだろ」
真城朔
ゆっくりと身体を起こす。
真城朔
拭き清められた身体もそこそこに、近くに置いてあった下着とズボンを引き寄せる。
夜高ミツル
「真城……」
真城朔
陵辱の痕の残る白い脚をズボンに隠して、
真城朔
そしたら、いつもどおりのふりをする。
真城朔
「……狩り」
真城朔
「戻らないと……」
夜高ミツル
「…………」
真城朔
服を探り、スマホを確認している。
真城朔
「連絡取って」
夜高ミツル
腕を伸ばして、抱き寄せる。
真城朔
「樋口さんと、合流」
真城朔
「し」
真城朔
「…………っ」
夜高ミツル
「…………行かせたくない」
夜高ミツル
「真城」
真城朔
抱き寄せられて、身を引き攣らせる。
真城朔
「…………い」
真城朔
いく、と
真城朔
こたえかけて、
真城朔
喉が凍った。
真城朔
身体が震える。
夜高ミツル
震える身体を、なおも抱き寄せて。
夜高ミツル
「大丈夫じゃないだろ……」
真城朔
「だ、っ」
真城朔
「だい」
夜高ミツル
「こんなんで、行かせられるかよ……」
真城朔
「だいじょうぶ」
真城朔
「狩りは」
真城朔
「できる」
真城朔
「俺」
真城朔
「俺、は」
真城朔
「できるから」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「嫌だ……」
真城朔
「付き合わなくていいし」
真城朔
「…………」
真城朔
「俺なんかに」
真城朔
「ついてこなくて、大丈夫」
真城朔
「大丈夫だから……」
真城朔
ミツルの腕に手をかける。
真城朔
それを引き剥がして、
真城朔
背中を向ける。
夜高ミツル
「っ、真城!」
夜高ミツル
腕を掴む。
真城朔
掴まれる。
真城朔
気にせずに前を向いて、
真城朔
脚を進めていく。
夜高ミツル
「……どうしても、戻るのか」
真城朔
「……やらなきゃ」
真城朔
「やらないと」
真城朔
「俺」
真城朔
「そうじゃ、ないと……」
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツは」
真城朔
「大丈夫だから……」
真城朔
「来なくても……」
夜高ミツル
「……行くよ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「真城が行くなら、俺も行く」
真城朔
「……ミツ、が」
真城朔
「そう」
真城朔
「したい」
真城朔
「なら」
夜高ミツル
「そうしたいよ」
真城朔
また黙る。
真城朔
黙って、路地裏を出るべく道をゆく。
夜高ミツル
「真城を置いていったりしない」
夜高ミツル
「絶対」
真城朔
「…………」
真城朔
答えはなかった。