2021/05/03 夜

noname
ちょっと奮発した出前をとって、二人で夕飯を済ませた後。
真城朔
洗うものとかも少なく……
真城朔
ゴミはゴミ袋へ。
真城朔
結局夕方まですやすや眠り、荷物の整理も洗濯も掃除もできずにいる……
夜高ミツル
明日でいいよと笑っていた。
真城朔
よいのだろうか……
夜高ミツル
大丈夫大丈夫……
真城朔
夕食の片付けを済ませて 食卓を拭いて……
真城朔
拭いて……
真城朔
拭いています。
夜高ミツル
拭いてもらってる……
真城朔
いやに熱心に拭いている。
夜高ミツル
「……真城?」
夜高ミツル
「そろそろ大丈夫じゃないか」
真城朔
「?」
真城朔
振り返り……
真城朔
「あ」
真城朔
「うん……」
真城朔
「…………」
真城朔
台ふきんを取った。
真城朔
洗いに行く……
真城朔
キッチンでじゃぶじゃぶ……
夜高ミツル
待っています。
真城朔
洗い終えました。
真城朔
戻ってきて……
真城朔
突っ立っている。
夜高ミツル
「片付けありがと」
真城朔
「ん……」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「風呂入るか?」
夜高ミツル
片付けだのは本当に明日に回すつもりらしい。
真城朔
「ふ」
真城朔
「ろ」
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「入る?」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「じゃ」
真城朔
「じゃあ、準備」
真城朔
「する……」
真城朔
寝間着を……
真城朔
寝間着を出す……
真城朔
衣装ケースへ……
夜高ミツル
「ありがと、頼む」
真城朔
ミツルのぶんの寝間着を出した。
真城朔
下着も出した。
真城朔
バスタオルとかはあっちにあって……
夜高ミツル
それを眺めて……
真城朔
だからそれでよくて……
夜高ミツル
「…………」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……真城のは?」
真城朔
「……う」
夜高ミツル
「……真城も」
夜高ミツル
「一緒に入ろ」
真城朔
「……で」
真城朔
「でも……」
夜高ミツル
首を傾げる。
夜高ミツル
「でも?」
真城朔
「…………」
真城朔
「な」
真城朔
「なんか」
真城朔
「おかしい」
真城朔
「と」
真城朔
「おもう」
真城朔
「し……」
夜高ミツル
「おかしい…………」
夜高ミツル
分かんない顔になった。
真城朔
「…………」
真城朔
真城もうまく言語化できていない……
夜高ミツル
「……俺は真城と一緒がいいんだけど」
真城朔
「う」
真城朔
「うー……」
真城朔
落ち着かなさそうに困ったように視線を彷徨わせている……
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
ねだるように、真城を見ている。
真城朔
しばらく往生際悪く視線を彷徨わせていたが……
真城朔
のろのろと手を伸ばして
夜高ミツル
その間もじっと見つめていた。
真城朔
衣装ケースを引き……
真城朔
自分のぶんの着替えを……
真城朔
のろ……
真城朔
のろ……
真城朔
取り出しました……
夜高ミツル
それを見て、ぱっと表情を明るくする。
真城朔
うう……
真城朔
下着も抱えてとぼとぼ歩いてくる。
夜高ミツル
嬉しそうに待っている。
真城朔
ミツルの隣へ。
真城朔
背中を丸めて肩を落としている。
夜高ミツル
真城を支えに立ち上がる……前に
夜高ミツル
ぎゅう、と抱きしめた。
真城朔
「う」
真城朔
全身がぴくりと強張る。
夜高ミツル
頭を撫でている。
真城朔
なでられ……
真城朔
うつむき……
真城朔
無言……
夜高ミツル
気が済んだところで、本当はいつまでもできるから気が済むとかないが……
夜高ミツル
とにかく身体を離して、今度こそ立ち上がった。
真城朔
ミツルの支えになるように寄り添う。
真城朔
とぼとぼと歩いて風呂場へと……
夜高ミツル
支えられて歩く。
真城朔
脱衣所につきました。
真城朔
歯磨きもする。
夜高ミツル
しゃこしゃこ……
真城朔
ぶくぶく……
真城朔
ばしゃー
夜高ミツル
きれい
真城朔
きれいになったなあ。
真城朔
身体もきれいに……
真城朔
お風呂に……
真城朔
お風呂……
真城朔
着替えをかごに入れたものの……
夜高ミツル
部屋着の裾に手をかける。
真城朔
見ています。
夜高ミツル
そのままシャツを脱いで洗濯機へ。
真城朔
じ…………
真城朔
のろのろと自分もパーカーを脱ぎ始めていますが……
真城朔
のろのろ
真城朔
気が進まない動作の遅さ。
夜高ミツル
どんどん脱いでは洗濯機に放り込んでいく。
真城朔
脱いで……
真城朔
放り込み……
真城朔
…………
夜高ミツル
途中で動きを止め、気の進まなげな真城をじっと見つめる。
真城朔
真城朔
見られている……
真城朔
パーカーは脱いだものの
真城朔
インナーを脱ぐ前の段階で止まっている……
夜高ミツル
脱ぐの手伝うのも違うしな……
真城朔
インナーの裾を掴んでいる。
夜高ミツル
でももうそうした方がいいか……?
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
「……ぅ」
夜高ミツル
「脱がせても、いいか?」
真城朔
「…………」
真城朔
「み」
真城朔
「ミツ、……」
真城朔
名前だけ呼んで、続きが出てこない。
真城朔
俯いた。
夜高ミツル
「真城……」
夜高ミツル
「もし、俺が嫌ったり、変に思ったり、」
夜高ミツル
「そういうのを心配してるなら」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「それは、絶対にない」
真城朔
「……で」
真城朔
「でも」
真城朔
「し」
真城朔
「しちゃう」
真城朔
「か」
真城朔
「も」
真城朔
「で……」
夜高ミツル
「いいよ」
真城朔
「よ」
真城朔
「く、ない」
真城朔
「から……」
夜高ミツル
「真城が、大丈夫なら」
夜高ミツル
「俺はしたい」
真城朔
「…………」
真城朔
「大丈夫、じゃ」
真城朔
「なかった」
真城朔
「ら?」
夜高ミツル
「待つよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「……よく」
真城朔
「よく、ない……」
夜高ミツル
涙を湛えた目元に触れる。
真城朔
涙を流しながら顔を俯ける。
真城朔
「さ」
真城朔
「される、と」
真城朔
「よくない」
真城朔
「よ……」
夜高ミツル
「……嬉しくなるから?」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「……大丈夫じゃない理由がそれなら」
夜高ミツル
「したいよ」
真城朔
「……だ」
真城朔
「だめ」
真城朔
「だと……」
真城朔
声は弱々しく、
真城朔
触れる手を振り払うこともしないで、ただ言い募る。
夜高ミツル
振り払われなかった手で、涙を拭う。
夜高ミツル
「真城を喜ばせられるなら」
真城朔
その奥からまた涙が溢れる。
夜高ミツル
「いやって言われても俺はするよ」
真城朔
「よ」
真城朔
「よろこばない……」
真城朔
「から」
真城朔
「だいじょう、ぶ」
真城朔
「で」
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
腕を伸ばして、抱きしめる。
真城朔
「う」
真城朔
ミツルの腕の中に収まる。
夜高ミツル
服を脱いだ分、体温がじかに伝わる。
真城朔
「そ」
真城朔
「そう、だ」
真城朔
「からだ」
真城朔
「ひえ」
真城朔
「る」
真城朔
「から」
夜高ミツル
「んー」
真城朔
「はやく……」
夜高ミツル
「一緒に入ってくれるか?」
真城朔
「ぅ」
真城朔
「うー……」
夜高ミツル
「入ってくれるなら離れる」
真城朔
「な」
真城朔
「ないなら?」
夜高ミツル
「入るって言うまでこうしてるかなー」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺はそれでもいいよ」
真城朔
「うぅ……」
真城朔
ミツルの腕の中でぐずぐずと泣いている。
真城朔
泣いていたが、しばらくして
真城朔
力なく一度だけ頷いた。
夜高ミツル
「…………ん」
夜高ミツル
身体を離す。
真城朔
解放される。
真城朔
ぬくもりを惜しむようにミツルの腕を目線で追ったが、
真城朔
その裸身に思い至って慌てて脱ぎ始めた。
真城朔
ぽいぽい……
真城朔
さっさと全裸になってしまって……
真城朔
「…………」
真城朔
脱ぎました。
真城朔
ミツルを見る。
夜高ミツル
残っていた下着も脱ぎ去って、
夜高ミツル
真城の手を取って、浴室のドアを開ける。
真城朔
引かれていく。
夜高ミツル
いつものように、真城をバスチェアに座らせる。
真城朔
座らせられている……
真城朔
なんか……
真城朔
ちがうきがする……
真城朔
するけど……
夜高ミツル
お湯を出して温度を確かめて……
真城朔
背を丸めて涙を落としている。
夜高ミツル
途中でん?って思ったけどまあいいかになった。
真城朔
よくないきがするけどいいだせない……
夜高ミツル
「お湯かけるぞー」
真城朔
「う」
夜高ミツル
強行している。
真城朔
「えっと」
真城朔
もごもご……
真城朔
強行に対抗できずにいる。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「終わったら、交代するか?」
真城朔
「…………」
真城朔
「あ」
真城朔
「う」
真城朔
「うん」
真城朔
何度も頷いた。
真城朔
「す」
真城朔
「する」
夜高ミツル
言ってから一瞬首を傾げたが、
真城朔
「こうたい……」
真城朔
交代……?
夜高ミツル
真城が頷いたのを見て頷く。
夜高ミツル
「ん」
真城朔
疑問符を浮かべながら座り込んでいます。
夜高ミツル
自分でもおかしなことを言った気がするが、突っ込まれなかったのでいいことにした。
真城朔
突っ込めずにミツルを待っている。
夜高ミツル
真城にシャワーをかける。
真城朔
「ん」
真城朔
白い肌を温水が濡らしていく。
夜高ミツル
肌を髪を濡らして、お湯を止める。
真城朔
濡らされている……
真城朔
しとしと……
夜高ミツル
はじめて真城を風呂に入れる時に洗うのを手伝って以来、それが習慣になっている。
真城朔
なんだかそもそもこれもおかしいような気がしているのだけれど……
夜高ミツル
頭を洗い、身体をタオルで擦り、
夜高ミツル
ミツルもなんかおかしい気がしたことはあったんだけど……
真城朔
「ぁ」
真城朔
「ん、……っ」
夜高ミツル
特に止められたことがないので……
真城朔
タオル越しに肌を触れられて、
真城朔
ぞくりと腰を揺らめかせて内股をすり合わせる。
夜高ミツル
「…………」
真城朔
背中が丸くなる。
真城朔
こらえるように、
真城朔
息を吐く。
夜高ミツル
触れる度に返される反応に、熱が上がる感覚。
真城朔
肩をこわばらせている。
夜高ミツル
よくない、と真城は度々言うが
夜高ミツル
こういう時、ミツルもよくないな……と思ったりする。
真城朔
肌が震える。
真城朔
頬が上気して、吐息の熱もあがる。
夜高ミツル
努めて淡々と、身体を洗っていく。
真城朔
「は」
真城朔
「ぁ、……ん」
真城朔
泡に塗れた身体に汗が滲んだところで判別はつかず、
真城朔
ただとろりと肌を滑る水滴にすら息を乱して、俯く。
夜高ミツル
いつも通りつま先まで丁寧に洗いあげて、手を離す。
真城朔
肩で息をしている。
夜高ミツル
シャワーを取るために立ち上がれば、興奮を隠すことも難しく。
真城朔
ゆっくりと瞼をあげて、
真城朔
自然突きつけられる形になったそこが、蕩けた瞳に映る。
真城朔
いつもより、
真城朔
なおひどい。
夜高ミツル
「………………」
真城朔
こうして素肌を触れ合わせること自体久しいのだから、
真城朔
仕方ないと言えば仕方ないのだが……
夜高ミツル
シャワーを手にして湯を出す。
真城朔
視線が彷徨う……
真城朔
よくない、と
夜高ミツル
真城の後ろに回った。
真城朔
唇だけ動かして、声が出ない。
夜高ミツル
「……流すぞ」
真城朔
「ぅ」
真城朔
泡に濡れた背中が強張った。
夜高ミツル
声をかけて、温水を当てる。
真城朔
「ひゃ」
真城朔
ぎくりと腰が浮いて、バスチェアと床のこすれる音がする。
夜高ミツル
流された泡の下から、白い肌が浮かび上がる。
真城朔
すぐに腰を落として身体を折る。
真城朔
「く」
夜高ミツル
狩りで負ったはずの傷痕も今はない。
真城朔
「ふぅ、……っ」
真城朔
は、は、と
真城朔
小刻みな吐息に背中が揺れる。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
無言で、きれいに泡を洗い流す。
夜高ミツル
シャワーを止めた。
真城朔
どうにか呼吸を整えようと息を吸い込んでいる。
真城朔
身を折る姿勢はそのままに。
夜高ミツル
シャワーをフックに戻して、しゃがみ込む。
夜高ミツル
真城を窺う。
真城朔
「…………ぁ」
真城朔
瞼を上げる。
真城朔
至近距離で目が合う。
真城朔
涙と欲に濡れた瞳が震えている。
夜高ミツル
よくないな、と
夜高ミツル
こういうとき、
夜高ミツル
おもっ、て
真城朔
ごく近く。
真城朔
真城の漏らす吐息の湿った熱がかかる。
夜高ミツル
「………………」
夜高ミツル
その距離が、さらに近づいて
夜高ミツル
なくなる。
真城朔
拒まなかった。
真城朔
受け入れて、瞼を伏せる。
夜高ミツル
濡れた唇に、唇を重ねる。
真城朔
震える手が宙を彷徨う。
夜高ミツル
膝をついて、身体を寄せる。
真城朔
ためらいに空をかいた末、
真城朔
寄せられた身体の、背中に腕が回ってしまう。
夜高ミツル
ミツルの方も背中に腕を回して
夜高ミツル
濡れた肌を寄せ合う。
真城朔
「ん」
真城朔
「んぅ……っ」
夜高ミツル
舌先を差し入れる。
真城朔
浴室に濡れた音。
真城朔
不必要に粘着質なそれが響く。
真城朔
熱を上げた口内が侵入者を歓迎して、
夜高ミツル
同じ歯磨き粉のミント味。
真城朔
それを味わうように舌を絡ませる。
真城朔
爽やかな風味を押し流すような情欲の熱。
夜高ミツル
浴室の湯気が、相手の熱が、さらに熱を煽っていく。
真城朔
その熱に溺れていく。
真城朔
身体も心も、
真城朔
結局、とうに屈している。
夜高ミツル
求めている。
真城朔
触れ合う粘膜の心地に思考を灼き尽くされてしまえばこんなもの。
夜高ミツル
愛撫をするでもなく、ただ強く抱きしめて
夜高ミツル
貪るように長く口づけを交わす。
真城朔
それだけで全身が歓んでたまらない。
真城朔
つま先までもが痺れたように、
真城朔
与えられるものを快感として享受する。
夜高ミツル
呼吸も忘れるほどに熱心に相手を求めて
真城朔
過去と罪とを熱に熔かして、耽溺する。
真城朔
ただそれだけの話。
夜高ミツル
いつの間にか浴槽の湯がすっかり冷めてしまったことにも、互いの熱に溺れて気づかなかった。
真城朔
繋がることで精一杯だった。
真城朔
繋ぎ止めることで。
真城朔
リビングのソファでくったりと潰れている。
真城朔
ぐてぐてのほかほか……
夜高ミツル
ぐてぐての真城の髪をタオルでせっせと拭いている。
真城朔
拭かれている……
真城朔
かなり意識がまだうとうと……
夜高ミツル
寝そうだな、と思っているので静かにしている。
真城朔
久しぶりで……
真城朔
いっぱいして お風呂で そのつもりなかったから
夜高ミツル
概ね一週間ぶり。
真城朔
だから後処理するのもたいへんで……
真城朔
するのにもつかれちゃって……
真城朔
ぐで……
夜高ミツル
反省してます。
真城朔
反省できるほど意識が浮いてない。
真城朔
うとうとくてくて……
夜高ミツル
バスタオルをのけて、手で直接真城の髪に触れる。
真城朔
「ん」
真城朔
「んー……」
真城朔
頭がその手にすり寄る。
夜高ミツル
ドライヤーをかけた方がいいとは思うけど……疲れてる感じだし……
夜高ミツル
このくらい乾いてたらまあ大丈夫かなって加減。
真城朔
ほどほどのタオルドライ。
夜高ミツル
擦り寄られて、そのまま撫でる。
真城朔
「ん……」
真城朔
撫でられている。
真城朔
ソファの肘掛けに頬を預けている……
夜高ミツル
身体を真城の方に向けて、ソファの前に腰を下ろしている。
真城朔
すき、
真城朔
ミツ、すき、と、
真城朔
風呂場の熱の中で何度も繰り返していた。
真城朔
結局、いつものように。
夜高ミツル
その度に好きだと応えて
真城朔
或いは。
真城朔
いつもよりも激しく。
夜高ミツル
真城、真城と何度も飽きることなく名前を呼んで。
真城朔
全部が嘘くさい。
真城朔
それが嫌だと考える頭が、
真城朔
思考が今は蕩けている。
真城朔
そうしてミツルの手のひらに頭を寄せている。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
どこかぼんやりしている真城の顔を見つめて、
夜高ミツル
また熱心に頭を撫でる。
真城朔
撫でられ……
真城朔
身体がますます脱力していく。
真城朔
投げ出されたつま先が今も朱いいろをして、
真城朔
真城の中の熱は未だ冷めない。
夜高ミツル
今みたいな状態を、きっと真城はよくないと言うのだろうな、と思う。
真城朔
罪を忘れ、熱に溺れて微睡む今。
夜高ミツル
最近は、ずっと明るい様子だった。
夜高ミツル
二人で料理をして、弁当を準備して、
夜高ミツル
桜を見て、花のほころぶように笑っていたのを覚えている。
夜高ミツル
……ずっとこうさせていたいと、願うことは
夜高ミツル
それも、きっとよくないことなのだろう。
真城朔
よくない。
真城朔
そう事あるごとに繰り返す唇も、今はゆるく呼吸を繰り返すのみ。
夜高ミツル
自身の罪を悔いて、よくないと嘆くのも真城の一部だ。
夜高ミツル
それを取り上げるなら、きっと吸血鬼にして心を奪うのと変わらない。
夜高ミツル
……それでも、こうして
夜高ミツル
安心して微睡むような時間をできるだけ多く、長く。
夜高ミツル
そうやって過ごさせたいと、思っている。
夜高ミツル
未だ熱の残る頬に触れる。
真城朔
ぴくりと僅かに頬が動く。
夜高ミツル
すり、と掌が肌を滑る。
真城朔
「ん、っ」
真城朔
「んぅ……」
夜高ミツル
「…………」
真城朔
ぞくりと肩が震えた。
夜高ミツル
手を止める。
夜高ミツル
寝るのを邪魔するつもりはなくて…………
真城朔
その手に頬を委ねるようにして吐息を漏らしている。
真城朔
今はまた静か。
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
すやすやと寝息を立てている。
夜高ミツル
腰を浮かす。
夜高ミツル
頬から手を離して、真城の身体の下に両腕を差し入れる。
真城朔
「ん」
真城朔
「んー……」
真城朔
色めいたものではない、むずがるような声。
夜高ミツル
真城の身体は軽い、が
夜高ミツル
あくまで身長に比べての話。
真城朔
細い肉体相応の重みはある。
夜高ミツル
それでも抱き上げられないほどではないのは経験済みだ。
夜高ミツル
よいしょ……と気合いを入れて、脱力した身体を持ち上げる。
真城朔
ずるずる……
真城朔
引きずりあげられます。
夜高ミツル
横抱き。
夜高ミツル
世間ではお姫様抱っことも呼ばれている。
真城朔
ミツルの腕に体重を預けている。
真城朔
深く眠っている。
夜高ミツル
のろのろとベッドに向かう。
夜高ミツル
リビングからベッドまで十数歩。
夜高ミツル
腕や脚を怪我していなくてよかった……と思った。
真城朔
腕や脚だったらもっと真城が介護に気を張っていただろう。
真城朔
十分気を張りすぎているが……
夜高ミツル
そこまでしなくてもいいくらい気を使ってもらってる。
真城朔
けれど今はミツルの腕の中。
真城朔
運ばれる側で脱力して、
真城朔
「み」
真城朔
「つ……」
夜高ミツル
辿り着いたベッドの真ん中に、真城を横たえる。
真城朔
唇をかすかに動かして、名前を呼ぶ。
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
一度だけ。
真城朔
それですぐに、穏やかな呼吸に戻る。
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
サイドテーブルのリモコンを取って、部屋の電気を落とす。
真城朔
力なく投げ出された四肢はあの夜と同じ。
真城朔
違うのは、
真城朔
それを許した相手にたっぷりと愛された後だということ。
夜高ミツル
横たえられた身体に布団をかけて、隣に潜り込む。
真城朔
ぬくもりが隣にある。
夜高ミツル
まだ熱の残る身体を抱き寄せる。
真城朔
骨の浮く、けれど柔らかな肌が服越しに触れる。
夜高ミツル
先程散々に重ねた身体。
真城朔
熱に溺れて、ミツルを求めた身体。
夜高ミツル
……あの夜、
夜高ミツル
組み敷かれ、傷つけられた身体。
真城朔
知らぬ男に貪られた身体。
夜高ミツル
二度とないようにと心に決めたはずなのに。
夜高ミツル
また、守ることができなかった。
夜高ミツル
「…………」
真城朔
真城は穏やかに寝息を立てている。
夜高ミツル
身体を寄せる。腕に力がこもる。
真城朔
逆らわず細い身体がミツルの腕に収まる。
夜高ミツル
自分の無力さを呪う。
夜高ミツル
傷つけさせたくなんてないのに。
夜高ミツル
願いの強さは、けれど良い結果をもたらしてくれたりはしない。
真城朔
どれほど悔いても過去は巻き戻らない。
真城朔
起きたことはなくならない。
夜高ミツル
どれほど強く願っても誓っても、モンスターの前では無力。
真城朔
求める結果を得るためにも、
真城朔
過去を乗り越えるためにも、
真城朔
必要なものは、結局、確かな強さに他ならない。
真城朔
それがあって。
真城朔
それがあって、初めて土俵に立つことができる。
真城朔
運という土俵に。
夜高ミツル
もっと、強くなりたい。
夜高ミツル
どれほど傷つけられても、真城はきっと狩りをやめることはない。
夜高ミツル
ならばミツルにできることは、今より少しでも
夜高ミツル
少しでも強く。
夜高ミツル
少しでも多く守って。
夜高ミツル
少しでも速く駆けつけて。
夜高ミツル
今より少しでも、少しずつ、もっと。
夜高ミツル
諦めないこと。
夜高ミツル
真城のように特別な力もないミツルにできることは、きっとそれくらいしかない。