2021/05/05 昼過ぎ
うららかな陽気。
ゴールデンウィークの真っ昼間。
桜はまだ咲いていた。
北海道は桜が長いのか、さまざまな品種のあるからなのか。
どちらにせよ満開の桜がそこかしこで綻ぶように咲いている。
その下。
真城朔
爽やかな青空とあたたかな風、咲き誇る桜に反して、
真城朔
近く人が通り過ぎるとびくりと身を竦めて顔を上げる。
真城朔
どうしてもミツルから一歩引いて、とぼとぼと歩いている。
夜高ミツル
その度に隣に並びなおすのだが、気がつくとまた少し後ろを歩いている。
夜高ミツル
連休の最終日とあって、人通りはそれなり。
真城朔
人とすれ違うたびに怯えたように身体を竦ませる。
夜高ミツル
代わりにミツルの方から身を寄せて、繋いだ手を握る。
夜高ミツル
脚を止めたままの真城を促して、二人で脇道に入る。
夜高ミツル
「散る前に、もう一回桜が見れて嬉しいよ」
夜高ミツル
「……真城が、俺の一番大事な人が傷つけられたんだ」
夜高ミツル
「大騒ぎするようなことじゃないなんて」
夜高ミツル
「……真城がそれで嬉しいなら、楽しいなら、俺はいいけど」
夜高ミツル
「……真城に、嫌なことをさせたくない」
夜高ミツル
「……俺が、間に合わなかったのが悪いんだ」
夜高ミツル
「真城に嬉しくて楽しくて幸せでいてほしい」
夜高ミツル
腕の中に閉じ込めるように、さらに抱き寄せる。
夜高ミツル
「どんなにひどい、悪いことをしてきてても」
夜高ミツル
「真城を死なせないって言ったあの時から」
夜高ミツル
「俺はもう、そうするって決めてるんだ」
夜高ミツル
「……真城と離れるより後悔することなんてない」
夜高ミツル
「真城が、俺といて嬉しいと思ってくれてるの、知ってるよ」
夜高ミツル
「だから俺は真城と一緒にいるし、これからもそうしたい」
夜高ミツル
「……他の誰かといて、俺といる時みたいな気持ちになれるか?」
夜高ミツル
「それで傷つくのは真城だから、やめてほしい」
夜高ミツル
「真城といるほど嬉しくも、楽しくも、幸せにも、なれないよ」
夜高ミツル
「……大事な人が傷ついてたら、悲しいよ」
夜高ミツル
「真城も、俺が痛い時は悲しんでくれるだろ?」
夜高ミツル
「真城のためにできることがあるなら、俺は嬉しいよ」
夜高ミツル
「もっと色々してやれたらいいのにって思うし……」
夜高ミツル
「真城が楽になったり、喜んだりしてくれるなら」
夜高ミツル
「何か一つ間違えてたら、きっとこうして一緒にいれてない」
夜高ミツル
「真城と一緒にいられるのが、俺の幸せだ」
夜高ミツル
「……真城と話すより大事なことなんかないよ」
夜高ミツル
「真城に笑っててほしいけど、無理に元気を出してほしいわけじゃない」
夜高ミツル
「大丈夫じゃないことを、無理に大丈夫って思ってほしくない」
夜高ミツル
「それを知ってて、俺は真城と一緒にいたいんだ」
夜高ミツル
「そうして一緒にいてくれるのが、俺は嬉しいんだから」
夜高ミツル
「家事をするのも、映画を見るのも、風呂に入るのも」
夜高ミツル
拒まれても構わずに抱き寄せて、好きを囁く。
真城朔
それを思い知っているから、今も頬を涙に濡らしている。
夜高ミツル
ならばミツルも共犯だ、と仮に言っても真城は納得しないだろう。
夜高ミツル
真城が落ち着くまで暫くの間、ただ黙って熱を分け合って。
夜高ミツル
その肩の震えるのがおさまった頃、涙に濡れた頬を拭った。
真城朔
けれど相変わらずの浮かない顔で、恐る恐るにミツルを見返した。
夜高ミツル
「話しかけても、無理に返事しなくていい」
夜高ミツル
「……真城と一緒にいられたら、それで俺は嬉しいから」
夜高ミツル
自分の方こそ、何があげられているというのかと思う。
夜高ミツル
ミツルが真城にしてやれることはあまりにもささやかで。