2021/05/09 朝
真城朔
ミツルの頬に胸をすり寄せて、すやすや眠っている。
夜高ミツル
擦り寄せられた頭に手を回して、そっと撫でる。
夜高ミツル
大抵ミツルの方が先に目覚めて、こうして真城が起きるのを待つ。
真城朔
どうにも朝に弱い真城は、ミツルが起きてもしばらくは目覚めない。
夜高ミツル
ミツルの方も無理に起こすことはしない。
夜高ミツル
触れるにも、眠りの邪魔をしない程度に。
真城朔
そうしていると、時折わずかに表情を緩めたりなどする。
夜高ミツル
その動作の一つ一つに、愛しげに目を細める。
夜高ミツル
そうしているうちに、ふと自分の指先に目線がいく。
夜高ミツル
一般的にはまだ短いといえる範囲だろうが。
夜高ミツル
真城とこうする関係になってからは、爪は短く整えるようになった。
真城朔
すり、とまたミツルの胸に頬をすりよせる仕草。
夜高ミツル
真城に触れる時、万が一にも傷や痛みを与えないように。
真城朔
言葉としてのかたちを持たない、ただ心地よさそうな声を漏らす。
真城朔
動物的な仕草でまた頬を寄せ、ミツルの胸に顔を押しつけた。
夜高ミツル
規則的な呼吸に合わせて、ゆっくりと掌が髪の上を滑る。
夜高ミツル
抱き寄せながら、あとで切るか……とぼんやり考える。
真城朔
丸みを帯びた爪の淡桃から、白くはみ出て主張するところ。
真城朔
それからもしばし真城はミツルの胸で惰眠を貪っていたが……
夜高ミツル
ミツルも一瞬うとうとしたりまた覚醒したり……
真城朔
むずむずと頭を、額をミツルの胸に押しつけていたが、
真城朔
焦点の合わぬ瞳で、目の前のミツルの胸を見つめている。
真城朔
すぐにそれが堪えきれなくなって頬を濡らす。
夜高ミツル
落ち着かせるように、背中に触れて、撫でる。
夜高ミツル
守るように、隠すように、腕の中に閉じ込めている。
真城朔
それでも、ミツル一人の腕で隠すには大きすぎる。
夜高ミツル
だけど現に今、傷つけられてこうして泣いている。
真城朔
それでもミツルの腕から逃れられずにこうしている。
夜高ミツル
その気になればいくらでも逃げ出せるはずなのに、そうしないでいてくれている。
夜高ミツル
一緒にいてほしい。頼ってほしい。離れないでほしい。
真城朔
ミツルの願いを肯んずること叶わず、今も涙に暮れている。
真城朔
そうしてたっぷり時間の経ち、もはや昼時に差し掛かるころ。
真城朔
涙で顔を濡らしたまま、気遣わしげに唇を震わせた。
真城朔
朝ごはんの支度をしながらも泣いたり泣き止んだり……
夜高ミツル
拭きあげられた食卓に、食事を乗せた盆を運んでいく。
夜高ミツル
朝食としては重めではあるけど、起きてからそれなりに時間も経っているし、若いし。
真城朔
真城はいつでも小食で量が少なめなので逆に関係なく……
真城朔
ローストビーフ丼とちっちゃいローストビーフ丼
真城朔
ミツルの顔を窺いながらローストビーフをつまむ。
夜高ミツル
真城が作ってくれた味噌汁に口をつける。
夜高ミツル
一口飲んで、それから箸で具を口に入れて、
真城朔
ローストビーフもお米の上に戻してしまった……
真城朔
何度も頷いて、改めてローストビーフを取る。
夜高ミツル
今度はミツルの方の手がすっかり止まっている。
夜高ミツル
「真城がおいしいって言ってくれると嬉しい」
夜高ミツル
「うまいし、どんどんうまくなっていってるよ」
夜高ミツル
「練習していけばできるようになるって」
夜高ミツル
「俺ももっとうまく教えられたらいいんだけどなー」
夜高ミツル
「もっとうまく……手際よく……こう……」
真城朔
さらにあわあわになってるからあまり気づかない……
夜高ミツル
思い出したように箸を動かして、ローストビーフと米を口に運ぶ。
真城朔
食べてるのを見て食事中なのを思い出しました。
夜高ミツル
ローストビーフ丼、なんとなく手軽に作れるメニューという感じになっている。
真城朔
ローストビーフはなんか定期的に作ってるから……
夜高ミツル
一人暮らしのころと違って、ちゃんとバランスよい食事になるよう気をつけている。
真城朔
ミツの作ってくれたローストビーフ あさごはん
真城朔
いいお肉をローストビーフにして丼にしている……
夜高ミツル
その様子をちらちらと窺いながら箸を進める。
夜高ミツル
一方、残しておくとめぐるに取られることがあったので、すぐに食べる癖がついている。
真城朔
ちまちま食べていたのが、やっと最後の一切れを頬張っている。
夜高ミツル
それを見てミツルも頷いて、椀に口をつけて飲み干す。
真城朔
自分は食べない葉っぱをミツルに食べさせている……
夜高ミツル
前はコスパが悪いから食べてなかっただけで、別に野菜嫌いではない。
真城朔
自分はあんまり好きじゃないから食べないくせにみたいな気持ち、ゼロではない。
夜高ミツル
真城が食べられる量はミツルよりずっと少ないので、おいしく食べられるものだけを食べさせてやりたい。
夜高ミツル
「……真城が元気でいてくれたらそりゃ嬉しいけど」
夜高ミツル
「……真城が、悲しかったりつらかったり、そういうの」
夜高ミツル
「無理に隠さないでいてくれるのが、嬉しいよ」
夜高ミツル
「つらいことも、悲しいことも、嫌なことも」
夜高ミツル
「そう思う自分のことを、否定しないでほしいっていうか……」
夜高ミツル
「……そういう時間も必要だ、と、思う」
夜高ミツル
「……そうじゃなくできたらいい、とは勿論思ってる」
夜高ミツル
GWの最終日なので、外に出るのもあんまりなあという感じで……
夜高ミツル
洗濯は昨日したばっかりだし、掃除も毎日やるほどのことはないし。
夜高ミツル
朝も遅かったことだし、今日はのんびり過ごそう。
夜高ミツル
なにか見るか、とリモコンに手を伸ばしかけて
真城朔
座ったまま、でも少し落ち着かない様子でミツルを見ている。
夜高ミツル
小物入れからヤスリを取って戻ってくる。
夜高ミツル
ティッシュも一枚引き抜いて、再び真城の隣に腰を下ろす。
夜高ミツル
膝に広げたティッシュの上で、その爪の先にヤスリを当てる。
真城朔
真城の低めの体温に、ミツルの体温が触れ合っている。
夜高ミツル
普通の爪切りもあるけど、手入れの間隔が短いので大体ヤスリだけ使うことになる。
真城朔
そんなにこまめにしなくてもいいのでは……とは
夜高ミツル
左手で真城の白い手を取って、右手で握ったヤスリを動かす。
夜高ミツル
慣れた手付きで爪を削り、形を整えていく。
夜高ミツル
削り取られたものが、はらはらとティッシュの上に落ちていく。
真城朔
ミツルの手によって整えられていく自分の爪を見ている。
夜高ミツル
ミツルの目線は真城の指先と自分の手元に。
夜高ミツル
時折手を止めては、短くしすぎていないか確かめる。
真城朔
手の大きさだってそう変わらない……はずなのだけれど……
夜高ミツル
指の太さの分、ミツルの方がやや大きく見える。
真城朔
これでミツルよりも頑丈で力も強いのだが……
夜高ミツル
重い刀を握るようになったミツルの手のひらの皮膚は厚く、堅く。
夜高ミツル
それが、真城の細くやわらかな手を包んでいる。
夜高ミツル
ヤスリを離して、指の腹で爪の先端に触れる。
真城朔
そのうち、どこか落ち着かない様子で視線を彷徨わせ始める。
夜高ミツル
手に取る指を変えて、またヤスリを当てる。
夜高ミツル
静かな部屋の中で、その様さえも耳に届いてしまう。
夜高ミツル
左手と同様に、一本一本その爪の先を整えていく。
夜高ミツル
丁寧に、だけどなるべく余計な刺激を与えないように気をつけつつ……
夜高ミツル
そのまま、今度は自分の左手にヤスリを当てる。
夜高ミツル
元々深爪気味なので、伸びたと言っても大した長さではない。
夜高ミツル
寄せられて一瞬動きを止めて、再開する。
真城朔
自分に触れる指が、整えられていくのを見ている。
夜高ミツル
大切な真城に触れる指だから、丁寧に手入れをする。
真城朔
穏やかで規則的な、でも寝息とは違う呼吸の調子。
夜高ミツル
利き手ではない方で扱うのには最初は手間取ったが、今では慣れたもので。
夜高ミツル
テレビもついていないに静かな部屋に、それだけが響く。
夜高ミツル
確かめて、もう少し削って、また触れて。
夜高ミツル
それを小指まで繰り返して、手を下ろした。
夜高ミツル
ちら、と真城の顔からつま先に視線を移す。
真城朔
裸足のつま先がカーペットに投げ出されている。
真城朔
手に比べて短くて平たい形の爪から、少しはみ出た白い色。
夜高ミツル
粉の舞わないようにティッシュを包んで、ゴミ箱に放る。
夜高ミツル
新しいティッシュを引き出して、真城の前に腰を下ろした。
真城朔
ミツルの整えてくれた指先を触れ合わせながら、それを見下ろしている。
真城朔
脱力して、ソファの背もたれに身体を預けた。
真城朔
もう一方は折り曲げられ、その足裏がソファの側面を擦る。
夜高ミツル
その様子を視界に入れつつも、なるべく気にしないように……
真城朔
かと思えばふう、と一度大きく息を吐いてから、
夜高ミツル
親指から小指まで、やはり丁寧に整えて、形を確かめ。
真城朔
緩めのルームウェアを指先がたぐって皺を作る。
真城朔
ミツルが自分の足の爪を整えている様子が見える。
夜高ミツル
最初の頃は、ひどく慎重に削るものだからやたらと時間がかかっていた。
夜高ミツル
丁寧に慎重にやっていることには変わりないが。
真城朔
どちらにせよ、真城が落ち着かない様子を見せるのは変わらない。
真城朔
ミツルにすべてを預けることに躊躇いはない。
夜高ミツル
その様を気にしないというのもやはり難しく。
夜高ミツル
急きそうになる自分を落ち着かせながら、
真城朔
ミツルに爪を整えられた指でその涙を拭っている。
夜高ミツル
ティッシュを捨てて、テーブルにヤスリを置く。
夜高ミツル
今しがた整えたばかりの指先で、濡れた頬に触れる。
真城朔
けれど逃れることもできないで、ただ身を強張らせた。
夜高ミツル
強張った肩に手を置いて、そっと唇を触れ合わせる。
真城朔
顎を伝い落ちて、整えられた指先を濡らした。