夜高ミツル
ほかほかの真城にドライヤーでさらに温風を当てている。
真城朔
風呂上がりはふにゃふにゃになりがちなので、今日もふにゃふにゃに乾かされている。
夜高ミツル
ふにゃふにゃの真城の髪をサラサラにしていってる。
夜高ミツル
昼に手入れした指先で、真城の頭に触れている。
真城朔
すっかり日が長くなってきたので、外はまずまずに明るい。
真城朔
明るいなりに、まあでもそろそろ、という頃合い。
夜高ミツル
確かめるように頭を撫でるのもいつもの仕草。
夜高ミツル
真城がはじめてミツルの部屋を訪れた時に作ったもの。
真城朔
簡単だしおいしいし、カレーはそこそこ定番メニューで、
真城朔
北海道に来てからも色々アレンジなどもしつつ作ってきたが……
夜高ミツル
あの時作ったのが、なんとなく二人の中でスタンダードになっている。
真城朔
料理に慣れてきた今でも、真城はいつもこんな感じで、
夜高ミツル
「じゃあ、俺がじゃが芋と人参の皮剥いてくから」
夜高ミツル
真城が剥き終わったら場所を交代しようと待機してる。
真城朔
そのぶん硫化アリルも元気な気がするのだが……
真城朔
真城には効かないので、さくさくとんとん切ってる。
真城朔
くし切りと薄切りの真ん中くらいの切り方ならそこそこ手際よくできる。
真城朔
小さめのざるに切ったたまねぎを入れていく……
真城朔
そこまで……確認しまくったり……しないぞ!
夜高ミツル
ちょうど皮剥きが終わったので、譲られたまな板の前へ。
夜高ミツル
大丈夫そうなので手元のじゃが芋に向き直る。
真城朔
点火して切ったたまねぎを入れて、炒めています。
真城朔
たまねぎは丁寧に炒めるとよいことを教わっている。
真城朔
教わっているので早めに入れてじっくり炒めています。
真城朔
地味な作業が得意なのでこつこつじっくり炒めてます。
夜高ミツル
まな板を持ち上げて空いたスペースに立ち、
夜高ミツル
頷いて、元の位置に戻したまな板の上に人参を置く。
真城朔
野菜の炒められる音と包丁の音が台所に響いている。
夜高ミツル
人参はじゃが芋より数が少ないので切り終わるのも早い。
真城朔
ミツルが来る気配を察してまた場所を開けます。
真城朔
人参が入るとなかなか色とりどりな感じになってくる。
夜高ミツル
炒めている後ろで、冷蔵庫から豚肉のパックを取り出す。
真城朔
気持ちなんか肉が炒まりそうな感じに野菜を避けて
真城朔
じゃがとにんじんはなんかいまいちわからない感じの……
夜高ミツル
ルウのパックに書いてある量の水を測って、鍋に入れていく。
夜高ミツル
一回じゃ足りないので何回かに分けて……
真城朔
ひたひたになった具材がじわじわと煮えてきて……
真城朔
どこからアクなのかわからなないし やりすぎそうだし
夜高ミツル
概ねアクの出なくなってきたところで鍋に蓋をして、火を弱める。
真城朔
できたので、一旦置いて、台ふきんを濡らしています。
真城朔
ミツルに火を見てもらっている間に食卓の準備をしていくぞ。
真城朔
ちょっといい感じの木のスプーンなども出して
夜高ミツル
してくれてる間に、鍋の様子もいい感じに。
真城朔
おしぼりを巻いたところでミツルが火を止めたので
夜高ミツル
置きにいったのを目で追って、また鍋に視線を戻す。
夜高ミツル
火を止めて、ちょこっと盛られた米の上にカレーをかける。
真城朔
ちょこっとに比べれば相当の量 まあ 一般的 一般的よりは食べる そんくらいの
真城朔
カレーを盛ってもらった自分のぶんと交換……
真城朔
自分のぶんを食卓に置いて、ミツルの方へと戻ってこようとしてたところを
真城朔
お水とスプーンとお箸とおしぼりと ミツルのサラダとドレッシング
夜高ミツル
セットしてもらったところに、自分のカレーを置く。
真城朔
真城のぶんのちまっとしたカレーもあります。
真城朔
スプーンを取り お米とルウをいい感じに掬い
夜高ミツル
カレーの味がする、というのも真城にとっては当たり前じゃなかった。
夜高ミツル
思い返してみれば、はじめて出会った頃からどんどんと真城の食は細くなっていて。
夜高ミツル
相当に無理をして、一緒に食べてくれていたのだと思う。
真城朔
何事もない振りをしていつもどおりに食材を持ち込んでは、他愛ない話をして笑っていた。
真城朔
その頃の真城とは、今はもうかけ離れている。
真城朔
あまり喋らない。声をあげて笑うこともほとんどなくなった。
夜高ミツル
だけどこうして並んで一緒に食事をして、おいしいと言って微笑んでくれる。
夜高ミツル
この幸せが当たり前のものではなく、自分ひとりの力で掴み取ったものでもないことを、改めて噛みしめる。
真城朔
当たり前の日常のようにその一時を謳歌している。
真城朔
噛みしめるように味わってもカレーはやがてなくなるし、
夜高ミツル
涙を拭っていた手を背中に回して、抱き寄せる。
真城朔
ただ透明な涙を流してはミツルの胸を濡らしていく。
真城朔
鍋にはまだ残りがあって、明日も食べられるのだろう。
夜高ミツル
共に明日を迎えられることを、ミツルは何より嬉しく思っている。
夜高ミツル
なにか一つ間違えていれば隣にいられなかったかもしれないし、
夜高ミツル
迎えた明日が容易に壊されることもあり得る世界に、二人は身を置いている。
真城朔
許されていることを知ってその胸に甘えている。
真城朔
堂々巡りの思考のループにミツルを付き合わせている。
真城朔
甘えるのも頼るのも駄目なのに、そうしてしまっている。
夜高ミツル
結局、傍にいることくらいしか自分にはできないのだけど。
真城朔
何も考えられないくらい、馬鹿になれてしまえばいいのに。
真城朔
それでも誰にも害を与えないくらいに、無力になれてしまえばいいのに。
真城朔
真城が落ち着いたら夕食の片付けを済ませて、
真城朔
大したこともしていないけれど、今日は早めに寝ることになった。
真城朔
テレビを見たり映画を見たりする気分でもなく……
夜高ミツル
部屋の明かりを落とすと、自分も隣に寝転ぶ。
真城朔
ぼんやりと横たわって、ミツルの顔を見つめている。
真城朔
小さな頭をミツルの胸に埋めて、押し付ける。
夜高ミツル
呼吸に合わせるように、手のひらが背中の上を滑っている。
夜高ミツル
「……全部が全部、真城のせいじゃないだろ」
夜高ミツル
「巻き込んでもらえてよかったって思ってるし」
夜高ミツル
「何も知らないまま、真城が死ぬなんてことがなくてよかった」
真城朔
ミツルに抱きしめられて、その腕の中にいる。
夜高ミツル
顔を離して、ぴったりと身体を寄せて目を閉じる。
夜高ミツル
何に苛まれることもなく、安らかであってほしい。