真城朔
ほかほか……
真城朔
風呂上がりです。
真城朔
ソファに座っています。
夜高ミツル
ほかほかの真城にドライヤーでさらに温風を当てている。
真城朔
ほかほかにあったかが……
真城朔
髪を乾かされています。
夜高ミツル
風呂上がりの毎度の光景。
真城朔
風呂上がりはふにゃふにゃになりがちなので、今日もふにゃふにゃに乾かされている。
夜高ミツル
ふにゃふにゃの真城の髪をサラサラにしていってる。
真城朔
時刻はもう夕飯時。
夜高ミツル
昼に手入れした指先で、真城の頭に触れている。
真城朔
その前には全身に触れられたが……
夜高ミツル
触りました。
真城朔
触られました……。
真城朔
すっかり日が長くなってきたので、外はまずまずに明るい。
真城朔
明るいなりに、まあでもそろそろ、という頃合い。
夜高ミツル
ドライヤーのスイッチを切る。
夜高ミツル
確かめるように頭を撫でるのもいつもの仕草。
真城朔
なでられ……
真城朔
ミツルを見上げる。
真城朔
すっかり乾いた髪にドライヤーの名残の熱。
夜高ミツル
目が合う。
真城朔
「……ありがと」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「…………」
真城朔
つい視線を落としてしまう……
夜高ミツル
風に乱れた髪を指で整える。
真城朔
癖のない髪なのですぐととのう。
夜高ミツル
「飯、作るか」
夜高ミツル
「……もうちょっと休む?」
真城朔
「あ」
真城朔
「んーん」
真城朔
首を振った。
真城朔
「する」
真城朔
「つくる……」
真城朔
腰を上げる。
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
手を離した。
真城朔
その手を視線で追う。
真城朔
今晩のメニューは既に決まっている。
夜高ミツル
豚肉のカレー。
夜高ミツル
真城がはじめてミツルの部屋を訪れた時に作ったもの。
真城朔
簡単だしおいしいし、カレーはそこそこ定番メニューで、
真城朔
北海道に来てからも色々アレンジなどもしつつ作ってきたが……
夜高ミツル
あの時作ったのが、なんとなく二人の中でスタンダードになっている。
夜高ミツル
豚はブロックじゃなくて細切れで。
真城朔
使いやすい豚の薄切り肉。
真城朔
ふたりキッチンに並び……
夜高ミツル
野菜は定番のじゃが芋と玉ねぎと人参。
真城朔
並べていきます。
真城朔
エプロンを着込むぞ。
夜高ミツル
いつものお揃いのやつ。
真城朔
いつも使ってるカレールウも出して……
真城朔
手を洗い……
真城朔
えーと……という顔になった。
真城朔
ミツルを見る。
真城朔
ごしごしと頬を擦って
真城朔
あっ
真城朔
手を洗ったばっかり……
真城朔
洗い直している。
夜高ミツル
ああっ……
真城朔
なんにせよ、
真城朔
料理に慣れてきた今でも、真城はいつもこんな感じで、
真城朔
まずはミツルの指示を仰ごうとする。
夜高ミツル
「じゃあ、俺がじゃが芋と人参の皮剥いてくから」
夜高ミツル
「その間に玉ねぎ切ってくれるか?」
真城朔
「うん」
真城朔
「うん」
真城朔
二度頷いた。
真城朔
「する」
夜高ミツル
「ん、頼む」
真城朔
ころころのたまねぎを取りました。
真城朔
新玉ねぎの季節だ。
真城朔
皮が剥きやすい……
真城朔
剥きやすい皮を剥いています。
夜高ミツル
真城が剥き終わったら場所を交代しようと待機してる。
真城朔
そのぶん硫化アリルも元気な気がするのだが……
真城朔
切っています。
真城朔
真城には効かないので、さくさくとんとん切ってる。
真城朔
切るのは結構手際がいい感じになってきた。
夜高ミツル
じゃが芋を洗って、皮を剥いていく。
真城朔
くし切りと薄切りの真ん中くらいの切り方ならそこそこ手際よくできる。
夜高ミツル
するする……
真城朔
とんとん……
真城朔
小さめのざるに切ったたまねぎを入れていく……
夜高ミツル
もくもくと皮を剥いている。
真城朔
流石にカレーは慣れてるので……
真城朔
そこまで……確認しまくったり……しないぞ!
真城朔
最初の最初にしたのでは?
夜高ミツル
分担の確認は大事。
真城朔
大事大事……
真城朔
2個目も切り終えて、ミツルを見ます。
真城朔
「でき」
真城朔
「できた……」
真城朔
あっ
真城朔
たまねぎのざるをよけ……
真城朔
まな板を軽く洗い……
夜高ミツル
「ん」
真城朔
ミツルに場所を譲った。
真城朔
「たまねぎ」
真城朔
「炒める……」
夜高ミツル
ちょうど皮剥きが終わったので、譲られたまな板の前へ。
夜高ミツル
「ありがと、頼む」
真城朔
こくこく
真城朔
戸棚から厚手の鍋を出してきます。
真城朔
コンロにかけてサラダ油を……
真城朔
心配なので毎回分量を確認してしまう。
夜高ミツル
一応その様子を気にし……
真城朔
大さじを使って油を入れている。
真城朔
ぴったり指定の量!
夜高ミツル
大丈夫そうなので手元のじゃが芋に向き直る。
真城朔
入れました。流し台に大さじを置く。
夜高ミツル
とんとんと切っていく。
真城朔
点火して切ったたまねぎを入れて、炒めています。
真城朔
弱めの火で……
真城朔
たまねぎは丁寧に炒めるとよいことを教わっている。
真城朔
教わっているので早めに入れてじっくり炒めています。
夜高ミツル
弱火でじっくりと……
夜高ミツル
じゃが芋は少し小さめに切っていく。
夜高ミツル
真城が食べやすいように……
真城朔
基本的に具は小さめ。
真城朔
地味な作業が得意なのでこつこつじっくり炒めてます。
夜高ミツル
「真城」
真城朔
「ん」
夜高ミツル
「じゃが芋切れたから入れていい?」
真城朔
「あ」
真城朔
「うん」
真城朔
ちょっと身体を引いて……
真城朔
ミツルの入れやすいように……
夜高ミツル
まな板を持ち上げて空いたスペースに立ち、
真城朔
たまねぎはそこそこ炒まりつつある。
真城朔
そこそこに ほどほどに
夜高ミツル
鍋にじゃが芋を投入していく。
真城朔
どさどさー
夜高ミツル
身体を引く。
真城朔
元の立ち位置に戻る。
真城朔
よいしょよいしょと混ぜてます。
真城朔
ちょっと火を強めた。
夜高ミツル
「玉ねぎいい感じになってるな」
真城朔
「……ん」
真城朔
「よかった」
真城朔
改めて覗き込んでいる。
夜高ミツル
「その調子で任せた」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷いた。
夜高ミツル
頷いて、元の位置に戻したまな板の上に人参を置く。
真城朔
鍋に視線を戻すぞ。
真城朔
真剣……
夜高ミツル
これもやっぱり小さめに。
夜高ミツル
すとと……
真城朔
野菜の炒められる音と包丁の音が台所に響いている。
真城朔
生活という感じ。
夜高ミツル
二人で料理をしている……
真城朔
分担作業。
真城朔
の、共同作業。
夜高ミツル
同じエプロンを着けて並んで立って……
真城朔
二人で協力して……
夜高ミツル
人参はじゃが芋より数が少ないので切り終わるのも早い。
真城朔
シンプルに切りやすいのもあり……
真城朔
ミツルが来る気配を察してまた場所を開けます。
夜高ミツル
「ありがと」
夜高ミツル
さっきと同様に人参を鍋に移す。
夜高ミツル
ころころ……
真城朔
人参が入るとなかなか色とりどりな感じになってくる。
真城朔
それもまた炒め……
真城朔
炒めてます。
真城朔
ぐるぐる
夜高ミツル
炒めている後ろで、冷蔵庫から豚肉のパックを取り出す。
夜高ミツル
開け開け……
真城朔
炒め炒め
夜高ミツル
コマだから切らないで良さそうだな……
夜高ミツル
良さそうなので、そのまま持っていき
真城朔
「ん」
真城朔
場所を譲り……
夜高ミツル
パックから直で肉を鍋に。
真城朔
どさー
真城朔
薄切り肉だしどうせ煮込むし
真城朔
最後でいいでしょ……みたいな雑塩梅
夜高ミツル
多めの肉が野菜の上に。
夜高ミツル
肉はいつも多め。
真城朔
気持ちなんか肉が炒まりそうな感じに野菜を避けて
真城朔
鍋肌に当ててはいる。
真城朔
じゅうじゅう……
真城朔
多めのお肉を加熱……
真城朔
しているが……
真城朔
「もう」
真城朔
「煮込んじゃう?」
夜高ミツル
鍋の中身を覗き込んで……
真城朔
肉はほとんど加熱されてないが……
真城朔
たまねぎはしすぎるほどしんなりしている。
夜高ミツル
「……ん、そうだな」
真城朔
じゃがとにんじんはなんかいまいちわからない感じの……
真城朔
「うん」
真城朔
「水……」
夜高ミツル
「水やるやる」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
棚から計量カップを取り出す。
真城朔
へらをぐるぐる回しながら待ってます。
夜高ミツル
ルウのパックに書いてある量の水を測って、鍋に入れていく。
真城朔
だばー
真城朔
注がれていく……
夜高ミツル
一回じゃ足りないので何回かに分けて……
夜高ミツル
じゃばじゃば……
真城朔
具材がひたひたになっていく
真城朔
ひたひたになった具材がじわじわと煮えてきて……
真城朔
真城がミツルを見る。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「鍋……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
場所を交代する。
真城朔
アク取りは不安……
真城朔
どこからアクなのかわからなないし やりすぎそうだし
真城朔
交代して、流し台の方に行きます。
真城朔
ざるとかまな板とか洗い始める。
夜高ミツル
鍋の前に立って、アクをすくっている。
夜高ミツル
ぐつぐつ……
真城朔
特にじゃがいもからなかなかのアクが出る。
真城朔
洗い物もそれほど多くなく……
真城朔
なにせ切ったら直だし……
真城朔
「さ」
真城朔
「サラダ」
真城朔
「つくる……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「頼む」
真城朔
こくこく
真城朔
冷蔵庫からレタスを出してきて……
真城朔
ちぎってます。
真城朔
ちぎり 洗い
真城朔
キッチンペーパーで水気を拭き取り……
夜高ミツル
ちらちらと横目に見ている……
真城朔
ガラスの器を出してきて入れて……
真城朔
あとは えーと……
真城朔
冷蔵庫から茹でたブロッコリーと……
真城朔
ミニトマト……
夜高ミツル
真城を見つつ……
夜高ミツル
鍋に視線を戻してアクを取り……
真城朔
盛り付けています。
真城朔
盛り付いた。
真城朔
よし。
夜高ミツル
サラダができてる。
真城朔
できました。
真城朔
盛っただけだけど……
夜高ミツル
概ねアクの出なくなってきたところで鍋に蓋をして、火を弱める。
真城朔
一人分のサラダ。
夜高ミツル
ミツル用。
真城朔
が、できました。
真城朔
できたので、一旦置いて、台ふきんを濡らしています。
真城朔
ミツルに火を見てもらっている間に食卓の準備をしていくぞ。
夜高ミツル
見ています。
夜高ミツル
火から目を離すのはよくない。
真城朔
炎上は強いから……
真城朔
食卓を拭いていき……
真城朔
カレー用の平皿を出して
真城朔
ちょっといい感じの木のスプーンなども出して
夜高ミツル
真城に任せて鍋を見ている。
夜高ミツル
ぐつぐつぐらぐら……
真城朔
任されています。
真城朔
これくらいは……できる!
真城朔
箸も出す。サラダ用。
真城朔
サラダも持っていってしまって……
真城朔
あっ
真城朔
あとドレッシング……
真城朔
行ったり来たりをしている。
夜高ミツル
行ったり来たりしてくれているな……
真城朔
こまねずみのように……
夜高ミツル
たまに蓋を開けてかき混ぜたりしてる。
夜高ミツル
ぐるぐる……
真城朔
大方の準備が済んだので戻ってきた。
真城朔
あっ
真城朔
おしぼり……
真城朔
絞ってます。
夜高ミツル
戻ってきたのを見て、
夜高ミツル
準備してくれてるな……
真城朔
してます。
真城朔
熱めのお湯でおしぼりを絞っている。
真城朔
広げて……
真城朔
折って畳んで
真城朔
くるくる……
夜高ミツル
してくれてる間に、鍋の様子もいい感じに。
夜高ミツル
火を止める。
真城朔
おしぼりを巻いたところでミツルが火を止めたので
真城朔
置きに行くよりも寄ってきた。
真城朔
「入れる?」
夜高ミツル
ルウを開ける。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「準備ありがとうな」
真城朔
「……ん」
真城朔
頷いた。
夜高ミツル
開けて、ぺきぺき折って鍋に。
夜高ミツル
ぽちゃぽちゃ
真城朔
茶色い塊が投下されゆく……
夜高ミツル
かき混ぜる。
真城朔
ここまで来たらかなり最終段階なので……
真城朔
おしぼりを置いてくるぞ。
真城朔
置きに行きます。
夜高ミツル
置きにいったのを目で追って、また鍋に視線を戻す。
夜高ミツル
ぐるぐる……
真城朔
戻ってきました。
夜高ミツル
火を点け直している。
真城朔
「あと」
真城朔
「ちょっと?」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「あとちょっと」
真城朔
頷きを返した。
真城朔
もうすることもないので……
真城朔
たぶん……
真城朔
ないので、見ている。
夜高ミツル
鍋をかき混ぜています。
真城朔
ミツが料理をしている……
夜高ミツル
ぐるぐる……
真城朔
して……
夜高ミツル
「あ」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「米よそってくれるか?」
真城朔
「あ」
真城朔
「する」
真城朔
こくこく……
夜高ミツル
「頼む」
真城朔
頷いて、平皿を取った。
夜高ミツル
「俺はいつもくらいで」
真城朔
「うん」
真城朔
「いつもくらい」
真城朔
炊飯器を開けて……
真城朔
お米そろそろまた炊こうかな……
真城朔
自分のぶんから盛り付けています。
真城朔
ちょこっと……
真城朔
ちょこっと米
夜高ミツル
ちま……
真城朔
ちょこっと盛ったのをミツルに渡します。
真城朔
「お願い」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
受け取る。
真城朔
渡したので、ミツルのぶんも盛る。
真城朔
どかっと……
真城朔
どかっとというほどではないが……
夜高ミツル
火を止めて、ちょこっと盛られた米の上にカレーをかける。
真城朔
ちょこっとに比べれば相当の量 まあ 一般的 一般的よりは食べる そんくらいの
夜高ミツル
気持ち肉多めに……
真城朔
年頃の男並みに食う量。
夜高ミツル
若い男なのでまあ食べる。
真城朔
を盛って、ミツルの方へと。
真城朔
カレーを盛ってもらった自分のぶんと交換……
夜高ミツル
渡して受け取り……
真城朔
交換しました。
真城朔
食卓に持っていく。
夜高ミツル
交換した皿にもカレーを盛り……
夜高ミツル
鍋に蓋をする。
夜高ミツル
自分の皿は自分で食卓へ。
真城朔
自分のぶんを食卓に置いて、ミツルの方へと戻ってこようとしてたところを
真城朔
鉢合わせた。
夜高ミツル
あっ
真城朔
あ……
真城朔
一緒に食卓へ……
夜高ミツル
行きます。
真城朔
セットが済んでいる。
真城朔
お水とスプーンとお箸とおしぼりと ミツルのサラダとドレッシング
真城朔
お箸もミツルだけだな……
夜高ミツル
セットしてもらったところに、自分のカレーを置く。
真城朔
並びました。
真城朔
真城のぶんのちまっとしたカレーもあります。
真城朔
並んで食卓に座る。
夜高ミツル
座り……
真城朔
手を合わせ……
夜高ミツル
「いただきます」
真城朔
「いただきます」
真城朔
カレーを食べるぞ。
夜高ミツル
食べるぞ~
真城朔
スプーンを取り お米とルウをいい感じに掬い
真城朔
もぐもぐ……
夜高ミツル
サラダにドレッシングをかけ……
真城朔
もぐもぐしながらミツルを見ている。
夜高ミツル
目が合った。
真城朔
もぐ……
真城朔
じ……
夜高ミツル
ドレッシングを置く。
夜高ミツル
「うまいか?」
真城朔
頷いた。
真城朔
飲み込み……
真城朔
「……カレーの」
真城朔
「味」
真城朔
「する……」
夜高ミツル
「カレーだもんなー」
夜高ミツル
ミツルもスプーンを取って、すくう。
真城朔
頷いている……
夜高ミツル
ぱくっ
真城朔
じー
夜高ミツル
もくもく……
真城朔
見ています。
夜高ミツル
カレーの味がする。
真城朔
する……
真城朔
「おいしい?」
夜高ミツル
飲み込む。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「うまい」
真城朔
「……うん」
真城朔
頷き返し……
真城朔
「おいしい」
真城朔
次をすくって食べている。
真城朔
もぐむぐ
夜高ミツル
カレーの味がする、というのも真城にとっては当たり前じゃなかった。
夜高ミツル
思い返してみれば、はじめて出会った頃からどんどんと真城の食は細くなっていて。
夜高ミツル
相当に無理をして、一緒に食べてくれていたのだと思う。
真城朔
何事もない振りをしていつもどおりに食材を持ち込んでは、他愛ない話をして笑っていた。
真城朔
その頃の真城とは、今はもうかけ離れている。
真城朔
あまり喋らない。声をあげて笑うこともほとんどなくなった。
夜高ミツル
だけどこうして並んで一緒に食事をして、おいしいと言って微笑んでくれる。
真城朔
控えめな量ながら、カレーを食べている。
真城朔
一口一口、わずかな量を味わっている。
夜高ミツル
この幸せが当たり前のものではなく、自分ひとりの力で掴み取ったものでもないことを、改めて噛みしめる。
真城朔
隣に座っている。
夜高ミツル
一緒にいる。
真城朔
並んで、二人で作ったカレーを食べている。
夜高ミツル
おいしい、と言って微笑み合う。
真城朔
当たり前の日常のようにその一時を謳歌している。
真城朔
噛みしめるように味わってもカレーはやがてなくなるし、
真城朔
そうなったら夕飯の時間はこれでおしまい。
夜高ミツル
手を合わせる。
夜高ミツル
「ごちそうさま」
真城朔
「ごちそうさまでした」
真城朔
「…………」
真城朔
「おいしかった」
真城朔
繰り返す。
夜高ミツル
「うまかったな」
真城朔
頷いている。
真城朔
「おいしかった……」
真城朔
「…………」
真城朔
頷きながら、涙を零す。
夜高ミツル
頷きを返して、
夜高ミツル
「…………真城?」
真城朔
「だ」
夜高ミツル
手を伸ばす。
真城朔
「だいじょ」
夜高ミツル
溢れる涙を拭う。
真城朔
触れられる。
真城朔
拭われた涙がそのそばから溢れて、
真城朔
結局俯いてしまう。
夜高ミツル
涙を拭っていた手を背中に回して、抱き寄せる。
真城朔
ミツルの胸に頬を預ける。
夜高ミツル
背中をさする。
真城朔
言葉もなく声もなく、
真城朔
ただ透明な涙を流してはミツルの胸を濡らしていく。
夜高ミツル
ミツルの方も黙って寄り添っている。
真城朔
カレーの匂いが漂っている。
真城朔
おいしかったカレーの匂いが。
真城朔
鍋にはまだ残りがあって、明日も食べられるのだろう。
真城朔
自分には明日がある。
真城朔
ミツルと共に迎える明日が。
真城朔
それが嬉しくて、楽しみで、
真城朔
だから許されなくて、
真城朔
おそろしい。
夜高ミツル
共に明日を迎えられることを、ミツルは何より嬉しく思っている。
夜高ミツル
それだって、当たり前なんかじゃない。
夜高ミツル
なにか一つ間違えていれば隣にいられなかったかもしれないし、
夜高ミツル
迎えた明日が容易に壊されることもあり得る世界に、二人は身を置いている。
真城朔
それも自分のせいだと真城は考えている。
真城朔
自分がミツルを巻き込んだせい。
真城朔
ミツルの人生を壊したせい。
真城朔
そのくせ、
真城朔
今も手放せずにいるせいで。
夜高ミツル
そのおかげでこうして一緒にいられる。
真城朔
一緒にいられてしまっている。
夜高ミツル
そうできて嬉しい。
真城朔
嬉しいから許されない。
夜高ミツル
俺が全部許すよ。
夜高ミツル
誰が許さなくても、俺は許してる。
真城朔
許されていることを知ってその胸に甘えている。
真城朔
堂々巡りの思考のループにミツルを付き合わせている。
真城朔
茶番めいたこの時間が嫌いで、
夜高ミツル
いくらでも甘えてほしい。
真城朔
それでもやはり手放せずにいる。
夜高ミツル
頼ってほしい。
真城朔
甘えるのも頼るのも駄目なのに、そうしてしまっている。
真城朔
そんな自分が一番に嫌いだった。
夜高ミツル
ダメなことなんて何もない。
夜高ミツル
真城にならなんでもしてやりたい。
夜高ミツル
結局、傍にいることくらいしか自分にはできないのだけど。
真城朔
それを、させている自覚がある。
真城朔
甘んじている。
真城朔
受け入れている。
真城朔
誰に対しても、言い訳なんてできやしない。
真城朔
ミツルの胸に顔を埋める。
夜高ミツル
身体を寄せ合う。
真城朔
何も考えられないくらい、馬鹿になれてしまえばいいのに。
真城朔
それでも誰にも害を与えないくらいに、無力になれてしまえばいいのに。
真城朔
暖かい胸の中、
真城朔
下らない逃避ばかりを考えていた。
真城朔
真城が落ち着いたら夕食の片付けを済ませて、
真城朔
大したこともしていないけれど、今日は早めに寝ることになった。
真城朔
テレビを見たり映画を見たりする気分でもなく……
真城朔
寝る前に一応スマホで連絡など確認して、
真城朔
真城は静かに項垂れている。
夜高ミツル
寝間着に着替えて歯を磨き……
夜高ミツル
項垂れる真城の頭を撫でる。
真城朔
撫でられている。
真城朔
今も目の端から涙を落としている。
夜高ミツル
それを拭って
夜高ミツル
手を引いてベッドに向かう。
真城朔
拭われ……
真城朔
手を引かれるままにベッドへと。
夜高ミツル
真城をベッドに寝かせ、
夜高ミツル
部屋の明かりを落とすと、自分も隣に寝転ぶ。
夜高ミツル
布団を引っ張り上げる。
真城朔
ぼんやりと横たわっている。
真城朔
ぼんやりと横たわって、ミツルの顔を見つめている。
真城朔
夜目がきくので暗い中でもよく見える。
夜高ミツル
横たわる真城を抱き寄せる。
真城朔
大人しく抱き寄せられ……
真城朔
「…………」
真城朔
「ミツ……」
夜高ミツル
「ん」
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「ミツ」
夜高ミツル
「……真城」
真城朔
ミツルの胸に顔を寄せる。
真城朔
背中を丸めて小さくなって、
真城朔
その腕の中に収まっている。
夜高ミツル
丸くなった背中を撫でる。
真城朔
小さな呼吸に上下する背。
真城朔
小さな頭をミツルの胸に埋めて、押し付ける。
夜高ミツル
呼吸に合わせるように、手のひらが背中の上を滑っている。
真城朔
それを受け入れながら。
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ごめんね……」
夜高ミツル
「……謝ることない」
夜高ミツル
「されてないよ……」
真城朔
「……ごめん」
真城朔
「ごめん……」
真城朔
消え入るような声で繰り返す。
夜高ミツル
「……大丈夫」
夜高ミツル
「謝らなくていい」
真城朔
背中が震えている。
真城朔
「俺」
真城朔
「俺が、全部」
真城朔
「悪いから……」
夜高ミツル
「……真城のことが、好きだよ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「一緒にいられて嬉しい」
夜高ミツル
「だから謝ることない」
真城朔
「……俺のせい」
真城朔
「だから」
真城朔
「ぜんぶ……」
夜高ミツル
「……全部が全部、真城のせいじゃないだろ」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「俺はしたいからこうしてるよ」
夜高ミツル
「一緒にいたいからいる」
夜高ミツル
「狩りのこともそうだ」
夜高ミツル
「巻き込んでもらえてよかったって思ってるし」
夜高ミツル
「何も知らないまま、真城が死ぬなんてことがなくてよかった」
真城朔
「……その」
真城朔
「そのほう、が」
真城朔
「ミツ」
真城朔
「ちゃんと……」
夜高ミツル
「嫌だよ……」
夜高ミツル
「嫌だ」
真城朔
「……ちゃんと……」
真城朔
「怪我、とか」
真城朔
「入院」
真城朔
「なんて」
真城朔
「しない、で」
夜高ミツル
「真城がいる方が、いい」
夜高ミツル
抱きしめる。
夜高ミツル
「こうなって、よかったよ……」
真城朔
ミツルに抱きしめられて、その腕の中にいる。
真城朔
「……よかった」
真城朔
「なんて」
真城朔
「おもっちゃ」
真城朔
「だめ」
真城朔
「なんだ……」
夜高ミツル
「……よかったよ」
夜高ミツル
「俺は、そう思ってる」
真城朔
「…………」
真城朔
「……だめ」
真城朔
「だよ」
真城朔
「だめ……」
夜高ミツル
「……ダメじゃない」
夜高ミツル
「真城といられて嬉しいよ」
真城朔
「…………」
真城朔
「俺、も」
真城朔
「うれし」
真城朔
「い」
真城朔
「から」
真城朔
「だか、ら」
真城朔
「だから……」
夜高ミツル
「…………うん」
真城朔
だめなんだ、
真城朔
そう繰り返して、
真城朔
腕の中の身体が脱力する。
夜高ミツル
「……嬉しいよ」
真城朔
小さな寝息を立てている。
夜高ミツル
頭を撫でて、髪をすく。
真城朔
身を縮めるようにして眠っている。
夜高ミツル
額に小さく口づける。
夜高ミツル
「……おやすみ、真城」
夜高ミツル
顔を離して、ぴったりと身体を寄せて目を閉じる。
夜高ミツル
眠っている間はせめて、どうか、
夜高ミツル
何に苛まれることもなく、安らかであってほしい。