2021/05/中旬 深夜3時過ぎ
真城朔
こうして二人ベッドの中、寄り添って眠っている。
夜高ミツル
部屋はまだ暗く、窓の外の白む気配もない。
真城朔
それが触れた手のひらにわずかにすり寄せられる。
夜高ミツル
そこに涙の気配のないことに、小さく安堵の息を吐く。
真城朔
既に密着しきっている中を、さらにミツルへと身を寄せようとする。
真城朔
脱力した薄い身体と、体重と、その温もりを感じる。
夜高ミツル
寄せられた身体を受け止めて、その背に腕を回す。
真城朔
ますます密着しようとして、シーツの上で身をよじらす。
真城朔
ミツルの脚に絡みかけて、ためらったように結局引かれる。
夜高ミツル
衣擦れがやめば、ただ呼吸の音が聞こえるばかり。
真城朔
声を漏らし、かすかな身動ぎを見せたのも束の間、再び静かな寝息に戻る。
夜高ミツル
再び撫でることをためらい、さりとて腕を離すこともできず、
夜高ミツル
暗闇に慣れてきた視界に、その様を捉える。
夜高ミツル
少しだけ躊躇に手がさまよって、結局それを拭うために手を伸ばす。
真城朔
真城の低めの体温でも、口腔内は充分に温かい。
真城朔
咥えた口の中で、伸びた舌がミツルの指先に触れて、
真城朔
意識のないままゆるゆると舌がミツルの指先を擽っている。
夜高ミツル
ようやっと、手を引くという発想に辿り着く。
夜高ミツル
濡れた指先から唾液が垂れて、シーツに小さくシミを作った。
真城朔
いつしか真城の唇の端からも頬を伝い落ちて、唾液がシーツを濡らしている。
夜高ミツル
手を伸ばしてティッシュを一枚引き出して、それを拭った。
夜高ミツル
すげ~~~悪いことした気分になってきた…………
夜高ミツル
そんなつもりじゃなかったとは言え…………
夜高ミツル
それから……下半身に主張するもののあることを。
夜高ミツル
少しの間それをぼんやりと眺めていたが、やがて目を閉じる。
夜高ミツル
コレはまあほっとけばどうせ治まるし…………
真城朔
いつもずっと一緒にある、真城のにおいがする。
夜高ミツル
一緒に生活をして、同じシャンプーを使っているのに、なぜか真城のにおいは自分のそれとは違う。
夜高ミツル
気のせいのような、やっぱり気のせいじゃないような。
真城朔
傍にあることを、いつもより強く意識してしまう。
夜高ミツル
布の下の素肌のきめ細かさも、浮き出た骨の感触も、鮮明に思い描ける。
夜高ミツル
この半年の間、ほとんど毎日、数え切れないほど触れてきた。
夜高ミツル
一度脳裏に浮かんだものは、より鮮明に。
真城朔
触れる身体が、その輪郭をさらに確かなものにしていく。
真城朔
今日は昼の間にしてしまってくたびれたからと、
夜高ミツル
今も、手のひらは真城の背に触れている。
夜高ミツル
うっすらと汗の滲む手のひらに、それを感じる。
真城朔
決して高くはないその熱が、けれどミツルの熱をじりじりと高めていく。
夜高ミツル
一度意識してしまえば、どんなに振り払おうとしても逃れられない。
夜高ミツル
時間を置けばいずれという期待も虚しく、熱を持った箇所は一向に治まる気配がなく、
夜高ミツル
おさまるどころか尚更に主張してくる気配すらある。
真城朔
ミツルになら何をされてもいいと言っていた、真城がいる。
夜高ミツル
何をされてもいいと、なんだってされたいと、
夜高ミツル
熱に浮かされたように、思考はどこかぼんやりとしている。
夜高ミツル
だけど、それでも確かに分かることがある。
夜高ミツル
何をされてもいいと言われたからって、本当になんでもしていいわけじゃない。
夜高ミツル
自分の欲に任せるようなことは、したくない。
夜高ミツル
もぞもぞと布団から這い出て、ベッドの端に腰掛ける。
夜高ミツル
視線を下げれば、今もなお熱を持って主張するもの。
夜高ミツル
…………これを、どうにかしないことには
夜高ミツル
ベッドの真ん中に、今も穏やかに寝息を立てる真城の姿。
真城朔
どこか淋しげに見えるのは、ミツルの欲目か否か。
夜高ミツル
こんなことのために、真城を置いていきたくはないのだが。
夜高ミツル
眠っている真城に何かをするなんていうのは論外。
真城朔
いつしか真城の指先がシーツを握りしめている。
夜高ミツル
三度、深く重く息をついて、腰を上げた。
夜高ミツル
さっさと終わらせて、すぐに戻ってこよう……。
夜高ミツル
そう決めて、重い足取りでトイレへと向かった。
夜高ミツル
思いの外……時間がかかってしまった…………
夜高ミツル
罪悪感と気まずい思いを抱えながら、寝室の方へ戻っていく。
夜高ミツル
やっぱり一人にするんじゃなかった、と後悔が押し寄せる。
夜高ミツル
ベッドに上がって、まるい塊に手を伸ばす。
真城朔
触れられて、中身の身体がびくりと竦んだ気配があった。
真城朔
訴える言葉をなくしてすぐに聞こえなくなる。
夜高ミツル
「起きて、真城が隣にいなかったら怖いよ」
夜高ミツル
ここにいると伝えるように、手のひらが背中に触れている。
真城朔
こんな、と何度繰り返したかわからない言葉に喉を震わせて、
夜高ミツル
「真城にできることを、なんでもしたい」
夜高ミツル
「二人で飯作ったり、映画見たり、散歩したり」
夜高ミツル
「きっとつらい思いをさせるって分かってて、真城を生かしたのは俺だ」
夜高ミツル
「……ミツがいいって、言ってくれたよ」
夜高ミツル
「……俺がいいって言ってくれたのを、信じてるよ」
真城朔
薄い背中に浮いた背骨の感触とともに、震えがミツルの手のひらに伝わる。
夜高ミツル
「もし本当に違ったって、俺の気持ちは変わらない」
夜高ミツル
手のひらは変わらず背中に触れて、撫でている。
真城朔
薄暗い部屋の中で、ミツルの胸に顔を埋めて泣いている。
夜高ミツル
震える身体を、腕の中に閉じ込めている。
真城朔
不意に面を起こして、涙に濡れた目でミツルの顔を窺う。
夜高ミツル
そもそも真城と話し始める前から、眠気はすっかり飛んでいる。
夜高ミツル
けど、真城が気遣ってくれる時は素直にそれを受け止めたく……
夜高ミツル
真城が寄せられなかった分、ミツルからさらに手のひらを寄せた。
夜高ミツル
いつもより強めに頭を撫でてから手を離して、真城を抱き込んだままゆっくりベッドに倒れ込んだ。
真城朔
ミツルの腕に抱かれるままにベッドに身を横たえる。
夜高ミツル
撫でて乱れた黒髪を指ですいて整えると、
夜高ミツル
明るくなりつつある部屋の中で、目を閉じる。