2021/05/27 早朝
真城朔
その身体を支えるようにミツルに寄り添いながら、
夜高ミツル
寄り添われながら、自分の怪我よりも真城の方を気にしている。
真城朔
多少服が裂かれたり汚れたりといった程度で、
真城朔
家についた途端、その瞳からは涙がぼろぼろと溢れ落ちる。
夜高ミツル
ミツルの方は無傷とはいかず、顔に傷を負ってしまった。
夜高ミツル
それでも、狩りをしてこの程度の怪我で帰ってこられたなら十分幸運と言って良い程度。
夜高ミツル
涙をこぼす真城の背中に腕を回して、抱き寄せる。
夜高ミツル
帰ってくるまでにも何度か伝えたことを繰り返す。
真城朔
これまた同じように、益体もないでも、の繰り返し。
夜高ミツル
「真城がいたから、この程度の怪我で済んだんだよ」
真城朔
自分のも外してビニールシートにとりあえず置いて……
夜高ミツル
「俺も、真城がシャワーするのくらいは待てる」
夜高ミツル
真城の足音が遠くなるのを聞きながら服を脱ぐ。
夜高ミツル
破けてしまったシャツはゴミ袋へ、無事なものは洗濯機へ……
真城朔
ちょうどそのあたりで真城が色々置きに来ているのが見える……
真城朔
もたもたと準備をしてからまたいなくなります。
夜高ミツル
この程度で済むならば、本当に運がいい方ではあるのだが。
夜高ミツル
自分の足で動けて、入院の必要もなく、こうして一人でシャワーも浴びられている。
夜高ミツル
とはいえ、怪我をしないに越したことはないのもまた確かで。
夜高ミツル
軽くと宣言した通り、さっさと浴びてしまって浴室を出る。
真城朔
いつもの寝間着と下着とバスタオルとが出ている。
夜高ミツル
真城が用意してくれたバスタオルを取る。
夜高ミツル
傷の位置に気をつけながら髪を拭き、身体を拭く。
夜高ミツル
昨夜の吸血鬼はやけにしぶとくて、狩りもいつもより長引いた。
夜高ミツル
いつもどおりなら、この時間にはとっくに眠れていてもよかったのだが。
夜高ミツル
着替えを終えて、のそのそとリビングに向かう。
真城朔
汚れた武装は玄関のブルーシートの上に並べられたままだが、医療キットや狩りグッズの入った鞄などは片付けられている。
真城朔
武装をやり始めると長くなるので諦めたらしい。
真城朔
真城はベッドに腰掛けてぼんやりと俯いている。
真城朔
腰を上げた。ベッドサイドに置いてあった自分の寝間着を抱える。
夜高ミツル
すれ違いざまに頭に触れて、そう声をかける。
真城朔
ちょっとしてすぐに風呂場の扉が閉まる音とシャワーの音。
夜高ミツル
真城がしていたようにベッドに腰掛ける。
夜高ミツル
こういう時真城は早いから、多分そんなに待つこともないだろう。
真城朔
果たしてミツルの予期したとおりシャワーが止まり、すぐに風呂場の扉の開く音が響く。
真城朔
それから程なくして、バスタオルを被った寝間着姿の真城が風呂場から出てきた。
真城朔
烏の行水で済ませたからか、あんまりほかほかしていない。
夜高ミツル
腰掛けた真城の頭に手を伸ばして、バスタオルで髪を拭く。
夜高ミツル
わしゃわしゃというよりは、きゅっと水気を絞るような感じで……
夜高ミツル
狩りの後はドライヤーまではしないことが多い。
夜高ミツル
さっさと寝よう……という空気になりがち。
真城朔
既に寝よう……というオーラが出ている節もある。
真城朔
間抜けに口を開いてから、ぶんぶんと首を横に振る。
真城朔
湿った髪が耳から落ちて頬に張りついている。
夜高ミツル
ごめん、と言いかけて、それを飲み込む。
夜高ミツル
謝る代わりに枕に伏せられた頭を撫でる。
夜高ミツル
「真城のおかげでこれだけで済んでるんだ」
夜高ミツル
「……それだって、真城のせいじゃない」
夜高ミツル
「俺は今まで狩りをやめる機会はあったし」
夜高ミツル
「そもそもあの最初の夜だって、誰かに戦えって言われたわけでもない」
夜高ミツル
「俺は自分の意思で、そうしたくて狩りをしてるんだ」
夜高ミツル
「真城がそういうのも分かってて、そうしてる」
夜高ミツル
「だからやっぱり、俺の責任なんだ……」
夜高ミツル
「もっと強くなって、それでできるだけ怪我しないで済むようにしたい」
夜高ミツル
前に同じことを頼んだらそれはそれで泣かれたこともあったが……
夜高ミツル
「なんにも分かんなかった俺がここまで生き残れてるんだから、十分効果出てるだろ」
夜高ミツル
思うけど、言ったらまたミツは悪くないになるので……
夜高ミツル
伏せられたままの頭に顔を寄せて、目を閉じる。
真城朔
顔を伏せて涙を隠しながら、ミツルの隣に横たわっている。
夜高ミツル
それでも、こうして二人で家に帰ってきて、隣り合って眠れている。
夜高ミツル
それだけで十分に幸運で、幸福なことなんだ。