2021/05/27 夕暮れ

真城朔
胸の中にはいつもの熱。
真城朔
なるべく小さく丸くなって、ミツルの胸に顔を埋めて、小さな寝息を立てている。
夜高ミツル
身じろぎして、腕の中の熱をさらに抱き寄せて、
夜高ミツル
ゆっくりと目を開ける。
真城朔
カーテンの閉められた部屋は薄闇に包まれている。
真城朔
傾いた陽射しに室内が淡く照らされて、
真城朔
真城はミツルの腕の中で眠っている。
夜高ミツル
ぼんやりと、目の前の真城を見つめる。
夜高ミツル
夕方。
真城朔
すやぴ……
夜高ミツル
狩りの後とはいえ、随分寝たな……。
真城朔
小さく身動ぎ。
真城朔
また頬をミツルの胸に擦り寄せる。
夜高ミツル
その様子に微笑んで、背中を撫でる。
真城朔
なでられ……
真城朔
「ん」
真城朔
「んー……」
真城朔
むにゃ もぞ……
真城朔
もにゃもにゃと暫く身動ぎしていましたが、
真城朔
そのうちぼやぼやと瞼を上げた。
真城朔
ぼー……
夜高ミツル
「おはよ」
真城朔
「あ」
夜高ミツル
背中を撫でながら声をかける。
真城朔
撫でられている……
真城朔
ぼんやりとミツルの顔を見上げて、
真城朔
ゆっくりと手を伸ばす。
真城朔
けれどミツルの頬に触れる寸前で、
真城朔
その手を止めた。
真城朔
「…………」
夜高ミツル
その手に、自ら頬をすり寄せた。
真城朔
「あ」
真城朔
手のひらに頬が触れる。
真城朔
こわごわと指を添えて、
真城朔
「……いた」
真城朔
「いたく」
真城朔
「ない……?」
夜高ミツル
その上から自分の手のひらを重ねる。
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「痛くないよ」
真城朔
「怪我……」
真城朔
「いっぱい」
真城朔
「血……」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
「大丈夫」
真城朔
涙を滲ませる。
夜高ミツル
「手当もしてもらったし……」
真城朔
「ちゃんと」
真城朔
「病院……」
真城朔
闇病院になるかもしれないが……
真城朔
「行った」
真城朔
「り」
真城朔
「とか」
夜高ミツル
「んー……」
夜高ミツル
「一応頭は打ってないから大丈夫、とは」
夜高ミツル
「思う、けど……」
真城朔
じ……
夜高ミツル
思うんだけど……
夜高ミツル
大丈夫って言って大丈夫じゃなかったら洒落にならないな……
真城朔
心配そうにミツルを見ている。
夜高ミツル
……それに、ちゃんと病院に行った方が真城を安心させられるのだろう。
夜高ミツル
「……でも、そうだな」
夜高ミツル
「自分じゃ本当に大丈夫か分かんないし」
真城朔
「……うん」
真城朔
「うん……」
真城朔
こくこく……
真城朔
しきりに頷いている。
夜高ミツル
「検査行くよ」
真城朔
「いく」
真城朔
「いこ、う」
夜高ミツル
「うん」
真城朔
「つ」
真城朔
「ついてく」
真城朔
「し……」
夜高ミツル
「ん」
夜高ミツル
「ありがと」
真城朔
今度は首を横に振った。
真城朔
もぞもぞとミツルの胸から這い出し……
真城朔
「れ」
真城朔
「連絡」
真城朔
「入れる」
真城朔
「とりあえず……」
真城朔
予約とかあんまりルーズではあるが……
夜高ミツル
真城に続いて上半身を起こす。
夜高ミツル
「ん、頼む」
真城朔
こくこく……
真城朔
ベッドの近くに並んでいるスマホの自分の方を取って
真城朔
もにもにとなにやら打っている。
夜高ミツル
用件が分かっててもなんとなく覗ける位置にはいづらいな……
真城朔
プライバシー。
真城朔
ふと廊下の方を見ると、
真城朔
玄関近くに敷いていたブルーシートがすっかり片付けられている。
夜高ミツル
少しの間ぼんやりと眺め……
夜高ミツル
遅れて、片付けてもらったのだなと気づく。
真城朔
もにもに……
真城朔
を終わらせてスマホを置いた。
真城朔
ひといき……
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「ごはん」
真城朔
「とか……」
夜高ミツル
「え」
夜高ミツル
「あ」
真城朔
心配げに言ってくる。
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「飯は食う、食うけど」
真城朔
「?」
夜高ミツル
「片付け、してくれたんだな」
真城朔
きょと……
真城朔
になってから、こくこく頷いた。
真城朔
「俺」
真城朔
「怪我」
真城朔
「ないし……」
夜高ミツル
「起こしてくれてよかったのに……」
夜高ミツル
「腕は普通に動くし……」
真城朔
「で」
真城朔
「でも」
真城朔
「血」
真城朔
「出てた、し」
真城朔
「いっぱい動いた……」
真城朔
「疲れ」
真城朔
「て」
夜高ミツル
とは言っても、真城が出ていったのに気づかなかったのは俺の方なんだよな……
夜高ミツル
寝ていた…………
真城朔
寝てるところを抜け出しました。
真城朔
するり……
夜高ミツル
抜け出された。
夜高ミツル
「あ~…………」
真城朔
「…………?」
夜高ミツル
「いや」
夜高ミツル
「……ありがとう」
真城朔
なにかわるいことをしただろうか……
真城朔
になっていたのだが、
真城朔
ミツルの言葉に少し表情を緩めた。
真城朔
「ん……」
真城朔
一度だけ頷く。
夜高ミツル
今度はミツルが真城の頬に触れる。
夜高ミツル
涙を拭う。
真城朔
目を伏せて、触れられる。
真城朔
触れさせるがままに涙を拭われて、
真城朔
また瞼を上げて、ミツルを見返した。
真城朔
「……なにか」
真城朔
「なにか、いや」
真城朔
「とか……」
夜高ミツル
「いやっていうか、なんだろう……」
真城朔
じ……
夜高ミツル
「不甲斐ないな~とか……」
夜高ミツル
ごにょごにょ……
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「怪我、してたし」
夜高ミツル
涙を拭った手で、今度は頭を撫でている。
真城朔
「狩りのあと、だし……」
真城朔
撫でられている……
真城朔
「疲れてる」
真城朔
「た」
真城朔
「から……」
夜高ミツル
「狩りの後なのは真城もだし……」
真城朔
「俺」
真城朔
「ミツ、よりは」
真城朔
「疲れない」
真城朔
「大丈夫……」
夜高ミツル
「それはそうだけど…………」
真城朔
「けど」
夜高ミツル
身体を寄せる。
真城朔
「?」
真城朔
寄せられた。
真城朔
身体が重なる。
夜高ミツル
「それはそれだから……」
真城朔
「それはそれ」
真城朔
復唱。
夜高ミツル
「真城に任せきりにしなくていいように頑張らないとなあと」
真城朔
「…………」
夜高ミツル
体力作りとか……怪我しないようにとか……
真城朔
「俺」
真城朔
「も、ミツに」
真城朔
「してもらってばっかり」
真城朔
「だ、から」
真城朔
「いつも……」
真城朔
ミツルの方へと軽く体重を預ける。
夜高ミツル
受け止める。
真城朔
「いつも」
真城朔
「全部」
真城朔
「そう、だし」
真城朔
「だから……」
夜高ミツル
自分だと、こうして
夜高ミツル
まだ、もっと、できることがあるような気がしてしまう。
真城朔
真城はしてもらってばかりだと主張するが……
夜高ミツル
もっとできることが……
夜高ミツル
「…………」
真城朔
ミツルを見ている。
夜高ミツル
「片付け、ありがとうな」
夜高ミツル
再び礼を言う。
真城朔
「……うん」
真城朔
頷いた。
真城朔
「いつでも」
真城朔
「俺、する」
真城朔
「よ」
真城朔
「できる……」
夜高ミツル
「ありがとう」
夜高ミツル
「でも、次は二人でやりたいな」
真城朔
「…………」
真城朔
「……怪我」
真城朔
「なかったら……」
夜高ミツル
「……気をつける」
真城朔
頷いています。
真城朔
「……ミツ」
真城朔
「おなか……」
夜高ミツル
「うん」
夜高ミツル
「飯食うか」
真城朔
「ん」
真城朔
「たのむ?」
夜高ミツル
「そうするかー」
夜高ミツル
「真城なんか食いたいのある?」
真城朔
「なんか……」
真城朔
「…………」
真城朔
首を傾げてしまった……
夜高ミツル
つられて首を傾げている。
真城朔
「ミツは……?」
真城朔
聞き返してしまった。
夜高ミツル
「ん~……」
夜高ミツル
首を反対側にかしげる。
真城朔
見ている……
夜高ミツル
「…………」
夜高ミツル
「なんか……探してみて決めるか……」
真城朔
「……ん」
夜高ミツル
出前館とか……
真城朔
ミツルに頷き……
真城朔
スマホに手を伸ばした。